聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい! 作:みおん/あるあじふ
アットノベルスの掲載されたものと戦闘描写を変更しました。
ストーリー自体に変更はないですっ
一子を全力で追い詰める……ビッグ・マムの提案に、大和達は耳を疑った。
今の一子の身体は不完全な状態である。いつ何が起きるか分からない。それ対し、カーチャは全力である。結果は見えている所か、一子の身に危険が及ぶだろう。
大和達は抗議しようとした。しかし一子はそれを止めた。一子自身も全力で挑むつもりでいる。
するとビッグ・マムの要望を聞いたカーチャはくすりと笑い、
「そう。それなら全力でやらせてもらうわ―――――華!」
華を連れ出し、戦闘の準備―――
(私の奴隷に手を出した罪――――ここで償ってもらうわ)
奴隷に手を出した罪、それは万死に値する。カーチャは全力で一子を叩き潰すつもりでいた。
「―――――始めましょう。川神一子」
聖乳の補充を終えたカーチャがアナスタシアと共に一子の前へと立ち塞がる。一子も薙刀を構え、かつてない強敵と対峙する。
立会いの下、ビッグ・マムは両者を交互に見てうむと頷き、
「それじゃあ―――――はじめっ!」
模擬戦開始の合図を、高らかに告げた。
瞬間、アナスタシアの身体から無数の銅線が一子目掛けて伸び始めた。
「―――――くっ!?」
無数に降り注ぐ銅線の雨。それを一子は薙刀で払いのけながら回避する。だが、同時に自分の中にある“力”が一子の体力と精神力を容赦無く奪っていた。
元素回路によって引き出されてしまった、膨大な力。このまま戦っていれば先に力尽きるのは間違いなく一子だろう。
カーチャの容赦ない攻撃の最中ようやく一子は隙を見つけ出し、反撃を開始する。
「川神流奥義―――――大車輪!!!」
今の一子が持つ、川神流の最大の技である『大車輪』。
薙刀を高速旋回させ、その運動を利用して降り注ぐアナスタシアの銅線を薙ぎ払っていく。長期戦は自殺行為。それなら全力で渾身の一撃を与え、勝負を決めるしか手立てはない。
「ふふ……そんなに全力を出していいのかしら?」
小馬鹿にしたようなカーチャの挑発……しかし耳を傾けない。一子はアナスタシアの攻撃の嵐を潜り抜け、
「とどめぇ―――――!!」
ありったけのパワーで薙刀を振り下ろした。その衝撃でアナスタシアがガラクタのように、バラバラになって吹き飛んでいく。
「はぁ……はぁ……」
大車輪を使い、一気に体力を消耗した一子。威力は絶大だが、その反動は凄まじかった。
だがこれでカーチャの攻撃手段はない。今の所、この戦局は一子が有利である。
「これで攻撃できない……アタシの勝ちだわ!」
アナスタシアという攻撃手段がいなければ、もはやカーチャに戦う術はない。降参するなら今の内よとカーチャに告げる一子。
しかし、相手はクェイサー。それ如きで倒せる相手ではない。
「――――
カーチャが静かに呟いた瞬間、バラバラになったアナスタシアがカーチャの下へと集まっていき、本来あるべき元の姿へと再生する。
「そ、そんな……」
破壊した筈のアナスタシアが目の前に現れる。倒した筈なのに……一子は愕然とした。
「ママは私がいる限り何度でも復活するわ。だから言ったでしょう――――全力を出していいの?って」
カーチャの嘲笑と共に、アナスタシアの無数の銅線が鞭のように、無防備になった一子の身体を打ちのめした。一子は勢いよく吹き飛ばされ、砂浜を転がっていく。
「うっ……くっ…………どうしたら……」
立ち上がりながら対策を考える。相手は何度破壊しても蘇る不死身の銅人形。弱点は、本体を操るカーチャのみ。
カーチャに攻撃ができれば勝機は見えるが、アナスタシアがいる以上、近付く事はできない。
「余裕してていいの?何か対策を考えているようだけど、そんな暇を与えてあげる程、私は優しくないわよ―――――!!」
カーチャの追い討ちが一子を襲う。今は避けるのが精一杯で、反撃できるかすらも怪しい。
(……これ以上は、もう)
戦えない。一子は心の中で弱音を吐く。奥義を使い、体力も続かない今、カーチャに勝てる術など見つかる筈もない。
それでも負けたくないという気持ちもある。だがどうにもならない。そう思っていた時、
「川神一子。これが模擬戦でなかったら、エカテリーナは本気でアンタを殺しにかかるよ?学園でやってる決闘とはわけが違う。生きるか、死ぬかの戦いだ。それを意識するんだよ」
ビッグ・マムの言葉が一子の耳に届いた。そう、百代との手合わせや学園の決闘……今まで戦ってきたものとはまるで違うのだ。
相手はクェイサーであり、命をかけた戦いを潜り抜けてきた戦場のプロである。一子は今、そういう相手と戦っているのだと改めて再認識する。
もしもこれが模擬戦でなく、あの時アナスタシアの攻撃を浴びていたら、
(――――――!!)
一子はアナスタシアの銅線によってバラバラに引き裂かれた自分の身体を想像し、全身に悪寒を走らせた。今頃は死んでいる……そう思うと身の毛がよだつ。
一子は戦いというものに対し、これまでにない恐怖を覚えた。
「生きるか……死ぬか……」
諦める、という選択だけでは済まされない。諦める事はすなわち死を意味する。生半可な気持ちで戦いに望んでいては勝てない。
これはビッグ・マムに与えられた最初の試練。もう既に修行は始まっていた。
一子は今、試されている。
(……生きなきゃ……絶対に!)
絶体絶命の最中、一子の中で何かが芽生え始めた。体力は後僅か。力の制御もまともにできない。さらには、生きるか死ぬかの危機的状況にある。
攻撃を避けながら一子はさらに思考する。勝つ為の方法ではなく、生き延びる為の手段。
戦力で劣っているのなら、戦術で補えばいい。こんな状況なのにも関わらず、意外にも冷静な自分自身に驚いていた。
結論……今のままでは勝てない。今の戦術では勝てない。
つまり、
それなら、制御できていない力を制御してしまえば済む話。ただがむしゃらに戦うのではなく、“自分を制する”事、それが一子が導き出した最善の策であった。
一方、一子とカーチャの模擬戦を観戦していた百代達は。
「……!ワン子のヤツ……」
百代は一子の変化に気付いた。一見変わらないようにも見えるが、一子から伝わる気の流れが、さっきまでとは明らかに違う。
「ワン子の気の流れが……」
京も変化に気づく。由紀江、クリス、サーシャ達も僅かな変化を感じ取っていた。
「あいつ、自分で気をコントロールしている……!」
百代の言う通り、一子は自分の気をコントロールし始めていた。
それは一子の生きるという、人間が本来持ち合わせている本能。その本能が、一子を僅かな時間で成長させたのである。
(なんとなくだけど、気の流れは掴めたわ。後は―――――)
制御はできた。これである程度体力の消耗は抑えられる。だが、状況が逆転したわけではない。むしろ押されている一方だ。
アナスタシアに近付く度に、止む事のない攻撃が一子を襲う。これでは拉致が明かない。このまま体力に限界がやってきて、力尽きるのを待つばかりだ。
カーチャに勝つには遠距離かつ、アナスタシアが二度と再生できないくらいの……もっと強力な攻撃が必要になる。
――――――そう。例えば、
(例えば………ものすごい雷撃、とか……)
何故かは分からない。ただ、一子は急にありもしないような事を思い浮かべていた。百代や鉄心のように、そんな次元を超えた技など出せるわけがない。
あまりに非現実的。それなのに、どうしてそんなイメージが湧いてくるのだろう。
だが次の瞬間、一子の“非現実”は“現実”へと成り代わる。
(え………?)
突然、薙刀を握り締める一子の右手が、電気を帯びた気がした。気のせいか……もう一度だけ気を込めてみる。
すると右手から蒼色の電気が、音を立てて帯び始めた。気のせいではない……一子の中で眠る力が、今形となって現れていた。
(これなら―――!)
まだ、手はある。一子は決心すると、アナスタシアから後退して大きく距離を取った。
「あら、もう諦めたの?」
カーチャは余裕を崩さない。アナスタシアも健在している。距離を取ったところで、一体何になるというのだろうか……しかしその余裕こそが、一子にとって最大の勝機となる。
「――――――」
大きく息を吸い、目を閉じ集中を始める一子。瞬間、一子の周囲に風が巻き起こり始める。
それは、一子の本来目覚める事のなかった力。
薙刀が、一子の身体を通して蒼色の電気を帯びていく。一子は残った気力全てを薙刀に注ぎ込んだ。薙刀は電撃を纏い始め、青白く発光する。
それは、まさしく“雷”。天を焦がす蒼の鉄槌。一子によって生み出された武の体現である。
一子は目を開けると青白く雷を纏った薙刀を構え、カーチャに向かって突進した。
「受けてみなさい、カーチャ。これがアタシの全力よ!!」
地面を蹴り、疾走する一子の姿はまさに一つの閃光。しかし、真っ向から攻撃を通す程カーチャは甘くはない。
「はっ、何をするかと思えば……ただの悪足掻きじゃない。全力が聞いて呆れるわ!」
戦略もなければ芸もない。ただの正面からの攻撃……まるで猪である。どう見ても自暴自棄にしか見えない。電気を帯びた所で、今更何が出来るというのか。
もう相手にする価値もない。そう判断したカーチャ―――アナスタシアは、一子に向けて銅線を放つ。これで終わり……そう思った時、
「――――せぇえええい!!」
一子と銅線が接触する瞬間、一子は足に力を入れて踏み止まり、薙刀を振り上げ銅線を打ち払ったのである。電撃を纏った薙刀は衝撃で爆発を起こし、周囲に砂嵐を巻き起こす。
砂埃で一子の姿は見えない。目くらましのつもりだろうが……所詮は数秒の時間稼ぎ。往生際の悪さに、カーチャは苛立ちを覚える。
「ちっ………いちいち面倒ね―――――!?」
砂埃が消えていく。しかし、そこに一子の姿はなかった。周囲を探すがどこにもいない。
まさか……とカーチャが空を見上げた時には、全てが遅かった。
一子は、カーチャを見下ろすように空中へ飛んでいた。アナスタシアの攻撃を打ち払った直後に空へ飛び上がり、カーチャを欺いたのである。
戦術と呼べるかどうかは疑わしい。だが、今は一瞬の隙さえ作れればいい。カーチャに一矢報いる渾身の一撃を。
そして一子は見上げるカーチャに向け、薙刀を槍のように投擲した。
これこそ、一子が編み出した全身全霊の一撃。
「――――武の起源ノ一・
放たれた薙刀が、青の閃光となって疾走する。予想だにしなかった攻撃にカーチャは反応できず、ただ立ち尽くすのみ。
「な―――――」
飛来した薙刀が、カーチャの立つ地面へと突き刺さる。雷を帯びた薙刀が強く発光し、召喚された電撃が周囲に爆発を巻き起こす。
閃光がカーチャとアナスタシアを包み込んでいく。姿は見えない……だが、一子は確信する。この一撃で決定的なダメージを与えられる事ができた筈だ。
さすがのカーチャも、アナスタシアを再生させる程の気力は残っていないだろう。
これで、形成は逆転した。
「あ……は、くっ……」
気力を使い果たし、一子は地面へと崩れ落ちる。視界が霞み、意識が薄れ始めていた。限界まで気力と体力を使い切り、さらには大技で莫大な精神力を消費してしまっている。
もう、一子はこれ以上戦えない。意識を保ち続けるのがやっとである。視界が霞みゆく中、目の前のカーチャの様子を確認する。
一子の一撃で砂埃が舞い、次第にそれが消えて行き、徐々に視界がクリアになっていく。
(これで、アタシの―――――)
一子の意識が消えてかけていく中で、カーチャとアナスタシアの姿を見る事なく地面へと倒れ伏せるその直前、
「うっ……ぐ……!?」
一子の首を、締め上げるかのように何かが掴みかかった。それは確認するまでもない、アナスタシアの右腕である。
「……やってくれたわね、川神一子」
意識がなくなりつつある中で聞こえる、カーチャの声。声色は低く憎悪さえ感じた。その目は、純粋な怒りの色に染まっている。
カーチャとアナスタシアは、未だ健在であった。一子の一撃も虚しく彼女らには届かなかったのである。しかしカーチャの額からは、一筋の血が流れていた。
これは傷付けられた事への怒りなのか………しかしそれでも、カーチャは笑っていた。
「私に血を流させた事だけは褒めてあげるわ。これは私からのご褒美よ……受け取りなさい」
アナスタシアは一子の首を掴みながら、さらに背中から銅線を伸ばす。銅線の先端は鋭く尖り、それは一子の身体に向けられた。
鉄をも貫く程の鋭利な銅の槍。このままでは一子の身体は串刺しになる。
カーチャは手加減する気はない。危険だ……見物していた大和達に悪寒が走った。カーチャを止めようと一斉に立ち上がる。
だが次の瞬間、カーチャはもう遅いわよと言わんばかりにニヤリと笑い、指を警戒に鳴らすと、アナスタシアに処刑開始の合図を送るのだった。
間に合わない。一子の身体はあらゆる箇所を串刺しにされ、アナスタシアの餌食となるだろう。大和達は思わず目を瞑った。
―――――――――――。
再び目を開く大和達。アナスタシアの銅線は……ピタリと止まっていた。銅線の先端は、一子の身体のギリギリの位置で停止している。
一方一子は、眠ったように意識を失っていた。力を使い果たし、身体に限界が訪れたのだろう。一子が無事だと分かると、大和達は脱力しその場に崩れ落ちる。
その様子を見てカーチャは呆れたわね、と溜息をついた。
「殺す訳ないじゃない。これは模擬戦よ?まあこれが模擬戦じゃなかったら……話は別だけど」
ふふ、と笑みをこぼすカーチャ。考えてみれば、本気で殺そうとするならビッグ・マムやサーシャ達が止めに入っていただろう。
もしこれが本当の戦いなら……大和達はこれ以上の思考を打ち切った。想像もしたくない。
「…………」
そして程なく、アナスタシアが一子の首から手を放す。すると立会いをしていたビッグ・マムが力尽き地面に倒れ伏した一子を担ぎ上げ、観戦していた大和達に歩み寄る。
「ビッグ・マム講師、ワン子は大丈夫なのか!?」
大和が一子の安否を確認する。ビッグ・マムは頷き、心配いらないよと大和達に言った。
「それにしてもワン子のヤツ、すげぇ………まるでモモ先輩みてぇだ」
一子の使用した技に見惚れ、岳人は感心する。
「あれがこの子の眠っていた力だよ。まあ、少々扱いには困るだろうがね」
と、ビッグ・マム。すると戦いを終えたカーチャもビッグ・マムの下へやってくる。
「そうね。おまけに燃費もかなり悪いみたいだし………今の段階じゃ、せいぜい戦っても5分が限界ってところかしら」
戦えたとしても5分。それが、今の一子の戦闘時間の限界点。カーチャに放った大技を使えば、さらに時間は減るだろう。
これから先武人を目指すのなら、効率的な力の使い方をしていかなければならない。一子にとって辛い道程になるだろうが、一子ならきっと乗り越えられるだろう。
きっとここにいる誰もが、そう思っているだろうから。