聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい! 作:みおん/あるあじふ
「……松永燕、と言ったな。お前の目的は何だ?」
燕の目的。サーシャ達を狙撃し、出会って早々いきなり手合わせを申し込んできた。何か他に目的があるようだが……すると燕はふふ、と笑いながらその理由を答える。
「戦いながら、熱く語り合いたいなって思ってさ」
「ふざけるな」
茶化そうとする燕を一言で一蹴するサーシャ。燕はう~んと腕を組みながら唸っている。緊張感がまるで感じられない。
「あ!じゃあ君と私は戦う運命にあった……ってのはどう?」
「意味がわからん」
即答で一蹴。相手にするだけ時間の無駄である。ノリが悪いなぁと燕は苦笑いしていた。
張り詰めていた空気が、燕によって一気にぶち壊されていく。その上、気勢を削ぐ燕の言動。油断すればペースに飲まれてしまう。
故に、隙がない。詮索すればする程深みに嵌っていく。彼女の動向からは本性がまるで見えなかった。サーシャの額に僅かに汗が浮ぶ。その表情を、さも楽しそうに燕は眺めている。
松永燕――――全てが未知数。クェイサーである事だけははっきりしているが、それが果たして本当なのかすらも疑わしい。
「ま、冗談はさておいて」
サーシャの張り詰めたような表情に満足したのか、燕はようやく話題を切り替えた。
「乙女座……じゃないけど、うお座の私にも運命じみたものを感じるよ。この気持ち、まさしく愛だよね」
この出会いは偶然か必然か。否、違う……これは仕組まれた運命。燕は何者のかがサーシャに仕向けた刺客であると考えた方が妥当である。
それはアデプトか、それとも……どちらにせよ、立ちはだかる敵は倒すのみ。サーシャは
「なら、貴様の運命とやらもここで終わりだ。松永燕―――――貴様は俺が狩る!」
見るもの全てを凍てつかせるような、サーシャの鋭い視線が燕に突き刺さる。そして、サーシャの宣戦布告……燕は震えるどころか、武者震いさえ感じていた。
「いいねぇ、その目。ますます興味が湧いてきたよ………サーシャ君!!」
瞬間、サーシャと燕は両者ともに地面を蹴り上げ動き出した。サーシャの大鎌と燕の手甲が衝突し、激しい鍔迫り合いが始まる。
(くそ……なんて力だ!)
押し負ける……と、舌打ちをするサーシャ。燕の手甲が徐々にサーシャを押しのけていた。
それは燕だけの力ではない。燕の腰に装着された小型ブースターの運動エネルギーも加わり、さらに威力が増している。しかも地面は砂である分、足場が悪い。いくら足で踏ん張りを入れたとしても、後数分が限界である。
今は燕の力が圧倒的に有利。このままでは……と対策を考えていた矢先、燕がサーシャの思考を読み取ったかのようにニヤッと笑みを浮かべた。
「ブースター、出力最大!」
『
燕の掛け声と共にデバイスが反応し、ブースターが咆哮のように唸りを上げる。ブースターは出力を増大させながら前進。サーシャをさらに押し出していく。
そして、
「
『Phoenix Duster』
燕の手甲から炎が噴出し、手甲を覆った。その灼熱の炎は、サーシャの大鎌を溶かしていく。
炎による強化攻撃。かつて鳳慎一郎が行使した元素―――ナトリウムを思わせた。
(複数の元素を操るクェイサーだと!?)
あり得ない、とサーシャは驚愕した。クェイサーが操れる元素は例外を覗き一つのみである。
鉛による射撃。ナトリウムによる接近戦……次は何を繰り出してくるか分からない。かと言って黙って倒されるサーシャではない。
これまで数多のクェイサー達を相手にし、倒し、そして成長してきたのだから。
「―――――震えよ!」
サーシャは燕の攻撃を受け止めつつ、大鎌の一部を鎖状の武器に再構築し、燕のブースターに向けて投げ付けた。鎖はブースターに複雑に絡み巻き付いていく。
(ブースターさえ剥がしてしまえば………!)
サーシャは燕の手甲を弾き、鎖を引きながら脇へと逃げ込み攻撃範囲から逃れた。
(―――――!?しまっ―――――)
しまった、と燕が思った時には既に遅かった。ブースターは最大出力。急な方向転換はできない上、ブレーキもかけられない。鎖が絡みついている。加速力があるが故に、利用されたのだ。
燕のブースターの運動エネルギーが、サーシャの鎖によって燕の腰から強引に引き剥がされる。鎖が絡んだブースターは、バチバチと音を立てながら爆散した。
片方のブースターを失った燕はバランスを崩し、砂浜にぶつかりながらも体制を立て直す。燕は服についた砂を払い、片方のブースターを取り外した。
もうこのブースターは使えない……後は陸上戦になるだろう。
「………流石だねぇ。ま、ぶっつけ本番だし、今のは無理ないかぁ」
まいったまいったと、燕は呑気に笑っている。ブースターを破壊されてもこの余裕ぶり……それに
(今ので聖乳が尽きたか……)
ビッグ・マムの訓練と、さらに燕の襲撃で体内の聖乳を使い果たしてしまったサーシャ。これ以上戦うには、かなり無理がある。
まふゆを呼ぶにも時間がない。燕から聖乳を吸うわけにもいかない。だとするならば、残るは……とサーシャはある人物に視線を向ける。
「へ?」
そう、一子である。燕との戦いを見ていた一子はサーシャの視線を感じ取り、間の抜けたような声を上げていた。サーシャは一子に駆け寄り、
「一子、時間がない。お前の聖乳をもらうぞ」
いきなり一子の身体を抱き寄せ、一子の服をたくし上げようと手をかけた。
「ぎゃーーーー!?何するのよーーーー!!」
エロいのはダメ、と叫び声をあげる一子。抵抗を試みるも、カーチャとの戦いで体力を使い果たした一子には、そんな気力さえも残っていない。
一子はサーシャのされるがままに服と下着をたくし上げられ、サーシャは露わになった一子の胸に、そっと口付けをした。
「あっ……んんっ!?」
小さくも柔らかい一子の胸。豊満ではないが、まだまだ発展途上であるその乳房にサーシャの唇が触れる。そして自分の中にある何かが、サーシャによって吸われていくのを感じた。
(あれ……エッチな事、されてるのに……どうして、こんな……)
こんなにも優しく、暖かいのだろう。これがクェイサー……サーシャの優しさなのだろうか。一子は聖乳が吸われていく中でそんな事を感じながら、地面に崩れ落ちて方針状態になる。
(これが、お前の聖乳か……)
一子の聖乳が、サーシャの身体の中に流れていく。暖かく、活力を与えてくれる“勇ましき”力。その力が、サーシャの力となり糧となる。
「震えよ――――畏れと共に跪け!」
サーシャは武器を―――一子の武器である薙刀を錬成し、その手に掴み取った。手にした薙刀を回転させながら構え直し、その矛先を燕に向ける。
「さて、第二ラウンド……いや、これで終わらせてもらうよ」
燕からの最終宣告。燕は背中に背負っていた機械を手に取り、サーシャの前に突き出した。
――――燕の持つそれは、柄しかない剣のような機械だった。武器には見えない。しかし、燕の宣告通りならば、この武器は燕の最強の切り札である事は間違いない。
「いざ―――――!」
瞬間、その機械の先端から蒼白い透明な刃が生成される。
「
『Lightning Slash』
燕は粒子剣を構え、居合の形を取った。粒子剣にプラズマが収束し、より一層光を帯び始める。
魂を宿し、生きているかのような光が増幅したそれは、夜空に瞬く星の如く。
「来い―――――!」
燕の全力全開の一撃を受け止めんとするサーシャ。こちらも全力を出さなければ勝ち目はない。一子の力を形にした薙刀を握り締めながら、サーシャは燕を見据える。
二人の戦いが今、終わりを迎えようとしていた。
そして、
「うおおおおおおおおおおおお―――――!!」
「せええぇぇぇい――――――!!!」
サーシャと燕は掛け声と同時に地面を蹴り、武器を構えて走り出した。
――――――――。
刃と刃を交え、背中が向かい合わせになる二人。互いの沈黙がこの戦いの決着を物語っていた。
「うっ……」
燕がよろめきながら地面に膝をつく。粒子剣はバチバチと音を立てながら、やがてその元素の刃は形状を失い、静かに消滅していく。
一方のサーシャは……倒れる事なく立ち尽くしていた。燕の一撃は受けたものの、サーシャを倒す決定打にはならなかったのである。
戦いは、サーシャの勝利で幕を閉じた。
そして、同時にサーシャは確信する。燕はクェイサーではないと言う事を。戦いの中で薄々とは気付いていた。鉛の生成や、ナトリウムによる攻撃……手甲と腰のベルトによって人工的に能力を生み出したものだろう。
恐らくは元素回路を組み込まれた機械か……だが、今の燕を見るからに、もうあの機械を使って戦う事はできない筈だ。
しばらくして、燕がゆっくりと立ち上がり、壊れてしまった粒子剣の機械を見ながらうわ~と、頭を抱えている。
「あちゃ~……壊れちゃったぁ」
はぁ、と溜息をつく燕。その表情からは、サーシャに負けた悔しさも危機感も伺わせない。むしろ機械が壊れてしまった事がよほど残念なようである。
しかし、サーシャにはそんな燕の事情など知った事ではない。彼女がクェイサーではないと知った今、問い質さなければならない。一体彼女が何者で、何の目的でサーシャ達を襲ったのかを。
「単刀直入に聞かせてもらうぞ。お前はアデプトの人間か?それとも……」
燕を刺客として差し向けたのはアデプトなのか、または別の組織か。サーシャが燕に歩み寄ろうとしたその時、
「――――う~ん。お急ぎの所悪いんだけど、そろそろ時間みたい」
「何?」
プロペラの轟音が空に響いた。その音は徐々に海岸へと近づいている。
サーシャが空を見上げた先……空にはヘリコプターが燕に向かって降下を始めていた。
ヘリコプターは降下の途中で留まり、ドアから簡易梯子が投げ出される。燕はその梯子に捕まると、ヘリコプターはすぐに上昇を始めた。逃げるつもりだろう。
「待て、話はまだ―――――!」
「今日は楽しかったよ。また会おうね、サーシャ君!」
燕を引き上げながら、ヘリコプターは上昇していく。追いかけようにも、空に逃げられてはどうしようもない。サーシャは遠くなっていく燕の姿を、ただ眺めていた。
「何だったんだ、あいつは……」
突然現れた少女、燕。そして複数の元素を操る機械。謎は多いままであるが、サーシャを知っている事から、何となくだが誰かの差し金のような気がしていた。
しばらくして、
「さ……サーシャ……」
顔を真っ赤にした一子が、サーシャに吸われた胸を覆い隠すようにしながら声をかける。おまけに声は震え、涙まで貯めている始末。
「どうした?」
「すった……アタシの胸……吸った……」
胸を吸われた、と何度もそれを繰り返す一子。聖乳が吸われた事がショックだったのだろうか……表情には戸惑いが見える。嫌ではなかったらしい。好きと言うわけでもなさそうだが。
サーシャは動揺する様子もなく、さらりと答える。
「お前の聖乳には底知れぬ活力を感じた。お前がいなければ、あいつには勝てなかった」
「えっ?」
「……さっさと戻るぞ」
そう言ってサーシャは歩き出し、旅館へと向かっていく。一子は待ってよ~、とサーシャを追いかけていくのだった。
松永燕――――またどこかで出会うような気がする。