聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい!   作:みおん/あるあじふ

50 / 135
バトルエピソード2「エレメンタル・ギア」

「……松永燕、と言ったな。お前の目的は何だ?」

 

 

燕の目的。サーシャ達を狙撃し、出会って早々いきなり手合わせを申し込んできた。何か他に目的があるようだが……すると燕はふふ、と笑いながらその理由を答える。

 

 

「戦いながら、熱く語り合いたいなって思ってさ」

 

 

「ふざけるな」

 

 

茶化そうとする燕を一言で一蹴するサーシャ。燕はう~んと腕を組みながら唸っている。緊張感がまるで感じられない。

 

 

「あ!じゃあ君と私は戦う運命にあった……ってのはどう?」

 

 

「意味がわからん」

 

 

即答で一蹴。相手にするだけ時間の無駄である。ノリが悪いなぁと燕は苦笑いしていた。

 

 

張り詰めていた空気が、燕によって一気にぶち壊されていく。その上、気勢を削ぐ燕の言動。油断すればペースに飲まれてしまう。

 

 

故に、隙がない。詮索すればする程深みに嵌っていく。彼女の動向からは本性がまるで見えなかった。サーシャの額に僅かに汗が浮ぶ。その表情を、さも楽しそうに燕は眺めている。

 

 

松永燕――――全てが未知数。クェイサーである事だけははっきりしているが、それが果たして本当なのかすらも疑わしい。

 

 

「ま、冗談はさておいて」

 

 

サーシャの張り詰めたような表情に満足したのか、燕はようやく話題を切り替えた。

 

 

「乙女座……じゃないけど、うお座の私にも運命じみたものを感じるよ。この気持ち、まさしく愛だよね」

 

 

この出会いは偶然か必然か。否、違う……これは仕組まれた運命。燕は何者のかがサーシャに仕向けた刺客であると考えた方が妥当である。

 

 

それはアデプトか、それとも……どちらにせよ、立ちはだかる敵は倒すのみ。サーシャは大鎌(サイス)の切っ先を燕に差し向けた。

 

 

「なら、貴様の運命とやらもここで終わりだ。松永燕―――――貴様は俺が狩る!」

 

 

見るもの全てを凍てつかせるような、サーシャの鋭い視線が燕に突き刺さる。そして、サーシャの宣戦布告……燕は震えるどころか、武者震いさえ感じていた。

 

 

「いいねぇ、その目。ますます興味が湧いてきたよ………サーシャ君!!」

 

 

瞬間、サーシャと燕は両者ともに地面を蹴り上げ動き出した。サーシャの大鎌と燕の手甲が衝突し、激しい鍔迫り合いが始まる。

 

 

(くそ……なんて力だ!)

 

 

押し負ける……と、舌打ちをするサーシャ。燕の手甲が徐々にサーシャを押しのけていた。

 

 

それは燕だけの力ではない。燕の腰に装着された小型ブースターの運動エネルギーも加わり、さらに威力が増している。しかも地面は砂である分、足場が悪い。いくら足で踏ん張りを入れたとしても、後数分が限界である。

 

 

今は燕の力が圧倒的に有利。このままでは……と対策を考えていた矢先、燕がサーシャの思考を読み取ったかのようにニヤッと笑みを浮かべた。

 

 

「ブースター、出力最大!」

 

 

All right.(了解しました)

 

 

燕の掛け声と共にデバイスが反応し、ブースターが咆哮のように唸りを上げる。ブースターは出力を増大させながら前進。サーシャをさらに押し出していく。

 

 

そして、

 

 

Na(ナトリウム)シフト・フルドライブ!」

 

 

『Phoenix Duster』

 

 

燕の手甲から炎が噴出し、手甲を覆った。その灼熱の炎は、サーシャの大鎌を溶かしていく。

 

 

炎による強化攻撃。かつて鳳慎一郎が行使した元素―――ナトリウムを思わせた。

 

 

(複数の元素を操るクェイサーだと!?)

 

 

あり得ない、とサーシャは驚愕した。クェイサーが操れる元素は例外を覗き一つのみである。

 

 

鉛による射撃。ナトリウムによる接近戦……次は何を繰り出してくるか分からない。かと言って黙って倒されるサーシャではない。

 

 

これまで数多のクェイサー達を相手にし、倒し、そして成長してきたのだから。

 

 

「―――――震えよ!」

 

 

サーシャは燕の攻撃を受け止めつつ、大鎌の一部を鎖状の武器に再構築し、燕のブースターに向けて投げ付けた。鎖はブースターに複雑に絡み巻き付いていく。

 

 

(ブースターさえ剥がしてしまえば………!)

 

 

サーシャは燕の手甲を弾き、鎖を引きながら脇へと逃げ込み攻撃範囲から逃れた。

 

 

(―――――!?しまっ―――――)

 

 

しまった、と燕が思った時には既に遅かった。ブースターは最大出力。急な方向転換はできない上、ブレーキもかけられない。鎖が絡みついている。加速力があるが故に、利用されたのだ。

 

 

燕のブースターの運動エネルギーが、サーシャの鎖によって燕の腰から強引に引き剥がされる。鎖が絡んだブースターは、バチバチと音を立てながら爆散した。

 

 

片方のブースターを失った燕はバランスを崩し、砂浜にぶつかりながらも体制を立て直す。燕は服についた砂を払い、片方のブースターを取り外した。

 

 

もうこのブースターは使えない……後は陸上戦になるだろう。

 

 

「………流石だねぇ。ま、ぶっつけ本番だし、今のは無理ないかぁ」

 

 

まいったまいったと、燕は呑気に笑っている。ブースターを破壊されてもこの余裕ぶり……それに聖乳(ソーマ)が尽きかけている様子もない。燕には、限界というものがないのかとさえ思う程に。

 

 

(今ので聖乳が尽きたか……)

 

 

ビッグ・マムの訓練と、さらに燕の襲撃で体内の聖乳を使い果たしてしまったサーシャ。これ以上戦うには、かなり無理がある。

 

 

まふゆを呼ぶにも時間がない。燕から聖乳を吸うわけにもいかない。だとするならば、残るは……とサーシャはある人物に視線を向ける。

 

 

「へ?」

 

 

そう、一子である。燕との戦いを見ていた一子はサーシャの視線を感じ取り、間の抜けたような声を上げていた。サーシャは一子に駆け寄り、

 

 

「一子、時間がない。お前の聖乳をもらうぞ」

 

 

いきなり一子の身体を抱き寄せ、一子の服をたくし上げようと手をかけた。

 

 

「ぎゃーーーー!?何するのよーーーー!!」

 

 

エロいのはダメ、と叫び声をあげる一子。抵抗を試みるも、カーチャとの戦いで体力を使い果たした一子には、そんな気力さえも残っていない。

 

 

一子はサーシャのされるがままに服と下着をたくし上げられ、サーシャは露わになった一子の胸に、そっと口付けをした。

 

 

「あっ……んんっ!?」

 

 

小さくも柔らかい一子の胸。豊満ではないが、まだまだ発展途上であるその乳房にサーシャの唇が触れる。そして自分の中にある何かが、サーシャによって吸われていくのを感じた。

 

 

(あれ……エッチな事、されてるのに……どうして、こんな……)

 

 

こんなにも優しく、暖かいのだろう。これがクェイサー……サーシャの優しさなのだろうか。一子は聖乳が吸われていく中でそんな事を感じながら、地面に崩れ落ちて方針状態になる。

 

 

(これが、お前の聖乳か……)

 

 

一子の聖乳が、サーシャの身体の中に流れていく。暖かく、活力を与えてくれる“勇ましき”力。その力が、サーシャの力となり糧となる。

 

 

「震えよ――――畏れと共に跪け!」

 

 

サーシャは武器を―――一子の武器である薙刀を錬成し、その手に掴み取った。手にした薙刀を回転させながら構え直し、その矛先を燕に向ける。

 

 

「さて、第二ラウンド……いや、これで終わらせてもらうよ」

 

 

燕からの最終宣告。燕は背中に背負っていた機械を手に取り、サーシャの前に突き出した。

 

 

――――燕の持つそれは、柄しかない剣のような機械だった。武器には見えない。しかし、燕の宣告通りならば、この武器は燕の最強の切り札である事は間違いない。

 

 

「いざ―――――!」

 

 

瞬間、その機械の先端から蒼白い透明な刃が生成される。

 

 

ICP(誘導結合プラズマ)ソード。アルゴンの元素を用いたアルゴンガスによるプラズマで構成された粒子の剣。その刃はいかなる物をも両断する元素の刃である。

 

 

Ar(アルゴン)シフト・フルドライブ!」

 

 

『Lightning Slash』

 

 

燕は粒子剣を構え、居合の形を取った。粒子剣にプラズマが収束し、より一層光を帯び始める。

 

 

魂を宿し、生きているかのような光が増幅したそれは、夜空に瞬く星の如く。

 

 

「来い―――――!」

 

 

燕の全力全開の一撃を受け止めんとするサーシャ。こちらも全力を出さなければ勝ち目はない。一子の力を形にした薙刀を握り締めながら、サーシャは燕を見据える。

 

 

二人の戦いが今、終わりを迎えようとしていた。

 

 

そして、

 

 

「うおおおおおおおおおおおお―――――!!」

 

 

「せええぇぇぇい――――――!!!」

 

 

サーシャと燕は掛け声と同時に地面を蹴り、武器を構えて走り出した。

 

 

 

――――――――。

 

 

 

刃と刃を交え、背中が向かい合わせになる二人。互いの沈黙がこの戦いの決着を物語っていた。

 

 

「うっ……」

 

 

燕がよろめきながら地面に膝をつく。粒子剣はバチバチと音を立てながら、やがてその元素の刃は形状を失い、静かに消滅していく。

 

 

一方のサーシャは……倒れる事なく立ち尽くしていた。燕の一撃は受けたものの、サーシャを倒す決定打にはならなかったのである。

 

 

戦いは、サーシャの勝利で幕を閉じた。

 

 

そして、同時にサーシャは確信する。燕はクェイサーではないと言う事を。戦いの中で薄々とは気付いていた。鉛の生成や、ナトリウムによる攻撃……手甲と腰のベルトによって人工的に能力を生み出したものだろう。

 

 

恐らくは元素回路を組み込まれた機械か……だが、今の燕を見るからに、もうあの機械を使って戦う事はできない筈だ。

 

 

しばらくして、燕がゆっくりと立ち上がり、壊れてしまった粒子剣の機械を見ながらうわ~と、頭を抱えている。

 

 

「あちゃ~……壊れちゃったぁ」

 

 

はぁ、と溜息をつく燕。その表情からは、サーシャに負けた悔しさも危機感も伺わせない。むしろ機械が壊れてしまった事がよほど残念なようである。

 

 

しかし、サーシャにはそんな燕の事情など知った事ではない。彼女がクェイサーではないと知った今、問い質さなければならない。一体彼女が何者で、何の目的でサーシャ達を襲ったのかを。

 

 

「単刀直入に聞かせてもらうぞ。お前はアデプトの人間か?それとも……」

 

 

燕を刺客として差し向けたのはアデプトなのか、または別の組織か。サーシャが燕に歩み寄ろうとしたその時、

 

 

「――――う~ん。お急ぎの所悪いんだけど、そろそろ時間みたい」

 

 

「何?」

 

 

プロペラの轟音が空に響いた。その音は徐々に海岸へと近づいている。

 

 

サーシャが空を見上げた先……空にはヘリコプターが燕に向かって降下を始めていた。

 

 

ヘリコプターは降下の途中で留まり、ドアから簡易梯子が投げ出される。燕はその梯子に捕まると、ヘリコプターはすぐに上昇を始めた。逃げるつもりだろう。

 

 

「待て、話はまだ―――――!」

 

 

「今日は楽しかったよ。また会おうね、サーシャ君!」

 

 

燕を引き上げながら、ヘリコプターは上昇していく。追いかけようにも、空に逃げられてはどうしようもない。サーシャは遠くなっていく燕の姿を、ただ眺めていた。

 

 

「何だったんだ、あいつは……」

 

 

突然現れた少女、燕。そして複数の元素を操る機械。謎は多いままであるが、サーシャを知っている事から、何となくだが誰かの差し金のような気がしていた。

 

 

しばらくして、

 

 

「さ……サーシャ……」

 

 

顔を真っ赤にした一子が、サーシャに吸われた胸を覆い隠すようにしながら声をかける。おまけに声は震え、涙まで貯めている始末。

 

 

「どうした?」

 

 

「すった……アタシの胸……吸った……」

 

 

胸を吸われた、と何度もそれを繰り返す一子。聖乳が吸われた事がショックだったのだろうか……表情には戸惑いが見える。嫌ではなかったらしい。好きと言うわけでもなさそうだが。

 

 

サーシャは動揺する様子もなく、さらりと答える。

 

 

「お前の聖乳には底知れぬ活力を感じた。お前がいなければ、あいつには勝てなかった」

 

 

「えっ?」

 

 

「……さっさと戻るぞ」

 

 

そう言ってサーシャは歩き出し、旅館へと向かっていく。一子は待ってよ~、とサーシャを追いかけていくのだった。

 

 

松永燕――――またどこかで出会うような気がする。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。