聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい!   作:みおん/あるあじふ

53 / 135
30話「京の過去」

小学校の頃から、“椎名菌”と言われ凄惨なイジメを受け続けていた。

 

 

その理由は、母親が男遊びに明け暮れ、淫売の娘として忌み嫌われていたからである。

 

 

誰も触れようとしない。誰も話しかけようともしない。イジメは日を追う毎にエスカレートしていくばかりの日々。

 

 

誰も手を差し伸べようとはせず、哀れもうと思う人すらもいない。

 

 

だからいつも一人だった。毎日が孤独だった。

 

 

そんなある日、一筋の光が差し込んだ――――それは決して忘れる事のできない、希望の光。そして初めて仲間と呼び合える友達。

 

 

そう、風間ファミリー。キャップや卓也、岳人、一子。そして大和。

 

 

彼らが全ての始まり。彼らがいたからこそ今の自分がある。

 

 

だから決心した。仲間を……彼らとの絆を守ろう。絶対に離れる事のないように、ずっと守り続けよう。

 

 

それ以外には、何もいらない。何も望まない。何にも干渉しない。ただ今ある仲間が……大和がいてくれればそれでいい。

 

 

そう彼女――――京は誓ったのだから。

 

 

 

 

―――――――。

 

 

 

 

 

「……………」

 

 

名残惜しくも夏休みが終わり、学園生活が再スタートした。その中で京は休み時間を使い、一人机に座りながら読書に耽っている。

 

 

京が読書をしている時は、Fクラスの生徒達は誰も話しかけたりはしない。そもそも、京が拒絶的なオーラを出している為、大和達以外近付こうとすらしない。

 

 

京もそれが分かっているのか、読書に集中できる時間ができて好都合だと思うのだった。

 

 

「おい、京」

 

 

そんな中、京オーラをもろともせず話しかけてくるのは華である。折角集中していたのに……京は渋々本を閉じると、華に顔を向けた。

 

 

「何か用?」

 

 

「今日放課後、千花たちとカラオケ行くんだけどよ、京も行かねぇか?」

 

 

華からのカラオケの誘い。千花達と行くらしいが……京には全然興味がなかった。

 

 

カラオケなんてあまり歌わない。それに仲間以外と関わるのも面倒だ。

 

 

だから、京は関わらない。

 

 

「私はパス。行かない」

 

 

それだけ言って、京はまた読書に戻り始めた。付き合い悪いなぁと華は苦笑いする。

 

 

すると千花が華の元へとやってきた。また人が増えた……面倒だと京は思った。

 

 

「誘ってもダメだと思うよ華。その子いっつもそうだから」

 

 

千花も京の性格を知っているのか、誘おうとはしない。京は親しい人間以外とは全く関わりを持たないと言う。

 

 

「ん~……ま、いいんだけどよ。んじゃ、気が向いたら電話くれよな」

 

 

それだけ言い残して、華と千花は京の前から去っていく。

 

 

これで落ち着いて本が読める……と京は再び読書に集中するのだった。

 

 

 

 

風間ファミリー、秘密基地。

 

 

ある日の放課後、華は基地にある漫画を読みあさりながらソファに座って寛いでいた。

 

 

風間ファミリーの一員となってからは、秘密基地の出入りを許されている。それも今日は特別集会をするらしく、キャップから招集がかけられていた。

 

 

華はクッキーが出してくれたポップコーンとコーラを口に入れ、我が物顔で居座るその姿は、カーチャの奴隷だとは到底思えない。

 

 

『ちょっと華、ポップコーンこぼしすぎだよ!後で掃除するの大変なんだからね!』

 

 

と、寛いでいる側で訴えているのはクッキーだ。クッキーは華のこぼしたポップコーンを掃除しながら怒りを露わにしている。

 

 

「悪りぃ悪りぃ。そんな怒んなって。ってかロボットの癖にやけに感情的だよなぁお前」

 

 

クッキーの感情機能に感心しながら、ポップコーンを頬張りゲラゲラと笑う華。

 

 

すると華の態度が気に入らなかったのか、クッキーは変形機構を使用してクッキー2(戦闘形態)へと姿を遂げた。

 

 

『貴様、どうやら斬り刻まれたいらしいな』

 

 

クッキー2の持つビームサーベルがキラリと光る。華はさすがに身の危険を感じ、小さく悲鳴を上げてクッキー2から後退りした。

 

 

「わ、悪かったって!冗談だよ、真剣(マジ)になるなよ!」

 

 

ビームサーベルで斬り刻まれては堪らない。このままでは本気で殺されかねないので、華はとりあえずクッキー2のボディ磨きをして機嫌を直してもらう事に。

 

 

『しっかりと磨けよ』

 

 

「はいはい……」

 

 

何やってんだアタシは、と心の中で思いながらクッキー2のボディを拭く華なのだった。

 

 

ボディ磨きをしてからしばらくして、部屋に卓也が入ってくる。

 

 

「あれ桂木さ……って、何やってるのさ」

 

 

入って早々、卓也がクッキー2を磨く華を目の当たりにし(ビームサーベルを突き付けられている)、コメントに困っていた。

 

 

「見ての通り、クッキーのボディ磨きだよ……」

 

 

泣きながら磨く華の姿は、とても痛々しかった。仕方ないので卓也はクッキー2を説得して華をボディ磨きから解放する。

 

 

「いやぁ、死ぬかと思ったぜ」

 

 

ずっと身体を強張らせていたのか、急に力が抜けた華はソファに凭れこんだ。ちなみにクッキーには基地周辺の掃除に出てもらっている。

 

 

「あんまりクッキーを怒らせない方がいいよ。キャップも酷い目にあってるからね」

 

 

卓也曰く、キャップも部屋を食べ散らかしてクッキー2に殺されかけたらしい。これに懲りて華は二度とここでポップコーンをこぼさないと胸に誓った。

 

 

「ところで、今日はお前一人かよ?」

 

 

「後からみんな来るって。それに、今日はまゆっちから大事な話があるみたいだし。あ、桂木さんは―――」

 

 

「華でいいぜ」

 

 

名字で呼ばれると違和感を感じると、華。卓也も同じ仲間とは言え、照れ臭いと感じていたらしい。卓也は改めて華の名前を呼ぶ。

 

 

「華こそ、今日は一人?」

 

 

「ああ。織部とサーシャは後から来るってさ。カーチャ様は……」

 

 

と、そこでガックリと肩を落とす華。様子から察するに、相変わらずの放置プレイを受けているらしかった。思わず卓也も苦笑いする。

 

 

「あ……そういや、モロ」

 

 

ふと思い出したかのように、俯いていた顔を上げる華。

 

 

「何?」

 

 

「京の事なんだけどよ……」

 

 

華は数日前の京の様子を語る。カラオケに誘った事。断られた事。何度か誘ったものの、乗った試しが一度もない。

 

 

――――椎名京。風間ファミリーの中でも一風変わった存在。仲間以外の人間は殆どつるまない。華にとっては、どこかミステリアスだった。

 

 

「アイツって、いつもああなのかよ?」

 

 

京の事が気になり、何気なく卓也に訪ねてみる華。卓也はう~んと唸り、何やら言い難そうな表情を浮かべた。

 

 

「まあ、色々あってね」

 

 

結局語らずお茶を濁す。華はふ~ん、とだけ返事をしてそれ以上の追求はしなかった。

 

 

「実は昔、イジメを受けてたりしてな」

 

 

腕を頭の後ろに組み、適当に推測した事を口にする華。京はどちらかというと根暗っぽいイメージがある。ただ、それだけの理由だった。

 

 

すると、部屋の空気が途端に重くなった気がした。卓也も黙りこくって何も言葉を発しない。マズイ事を言ってしまったか……と失言を気にする華。図星だったらしい。

 

 

「わ、悪りぃ。まさか、本当だったとは思わなくてさ……」

 

 

「あ……いや、いいよ別に。それにしても華って割と鋭いんだね」

 

 

人は見かけによらないねと卓也。遠回しに言えば鈍感でガサツと言っているような物だ。

 

 

悪かったな、と悪態をつくつもりの華だったが、空気を和ませてくれようとしたのだろう、華は何も言い返さなかった。

 

 

「……もう、話してもいいかな」

 

 

卓也が独り言のように呟く。恐らく京の事だろう。いつかは聞かれるだろうと思ってはいたが、話すか話さないか迷っていた。

 

 

だが、華ももう仲間である。きっと京を心配してくれているのかもしれない。それなら……と、卓也は話す事にした。

 

 

「華の言う通り……京は昔、イジメにあってたんだ」

 

 

 

 

京の過去――――それは小学校時代のイジメから全ては始まった。

 

 

京の母親が転々とするように男に手を出し、淫乱な女性として知れ渡り、京もその淫乱な親の娘としてイジメを受けていたのである。

 

 

当時の京は何を言われても言い返さず、ただ物静かにポツンと席に座っているだけ。

 

 

何も言わない。喋らない。気持ち悪い。そうやってクラスの人間はつけあがり、イジメは徐々にエスカレートしていった。

 

 

そんな中で、京を救う為に立ち上がったのが大和達である。最初は見て見ぬ振りをしていたが、大和は自分自身の過ちを断ち切り、京に救いの手を差し伸べた。

 

 

結果京のイジメは無くなり、京はファミリーの一員となった。そして大和の心のケアもあり、今の京がある。そのおかげで大和一筋になっちゃったけどねと卓也は付け足した。

 

 

これが大和達と京の出会いの始まりであると、卓也は包み隠さず話してくれた。華はそれを黙って聞いている。

 

 

そして、思い返していた。思い出してしまった。忘れていた自分自身の過去を。

 

 

「…………」

 

 

聖ミハイロフ学園で、美由梨と吊るんでまふゆと燈にイジメをしていた事。

 

 

今は仲良くやっているが、サーシャ達がやってこなければ今頃どうなっていただろう。きっと自分はイジメを続けていたはずだ。そんな自分に、華は負い目を感じるのだった。

 

 

「華、どうかしたの?」

 

 

心配した卓也が声をかける。華は我に返り、

 

 

「あ、いやぁ……何でもねぇよ」

 

 

そう言って苦笑いしながら答えるのだった。きっと卓也は華を信用してくれたから話してくれたのだろう。今更自分もイジメていた側の人間だったなんて、言えるわけがない。

 

 

しばらくして、部屋に京とクリスが到着する。噂をすれば……だ。

 

 

「む……何やら私の話をしていたようなこの空気」

 

 

何かを察知したのか、寛いでいる卓也と華に視線を向ける京。空気だけで感づく京も鋭いと、卓也と華は思った。

 

 

「あ……いや、その。ほら!京達が来るの遅いなぁって、二人で話して――――」

 

 

華が慌てて説明をしながらジェスチャーをしてしまい、その表紙にポップコーンの入れ物が肘に当たって中身を床にぶちまけてしまう。

 

 

そしてタイミングの悪い事に、掃除を終えたクッキーが戻ってきてしまった。

 

 

この惨状を見たクッキーは、

 

 

『やはり斬り刻むしかないようだな』

 

 

クッキー2に変形し、ビームサーベルを片手に華へと視線を向ける。

 

 

「ま、待てよクッキー!これは不可抗力で――――」

 

 

『貴様の言い訳はもう聞き飽きた―――――全力で粛正する!』

 

 

「ひいぃ!?」

 

 

クッキー2は全力で華を襲撃し、華は全力でクッキーから逃亡を図った。部屋から華とクッキー2がいなくなり、静かになる。

 

 

『綺麗事では世界は変えられない!!』

 

 

「わけわかんねーよ!あっ!?いた、いたい!で、でもそれがいいぃぃぃ!!」

 

 

部屋の外で聞こえてくるクッキーの怒号と、華の断末魔というか絶頂。卓也もこれは流石に、ご愁傷様と言わざるを得ない。

 

 

「華の性格は、相変わらずよく分からないな」

 

 

難しい表情を浮かべ、華の性癖が理解できないのでう~んと唸るクリス。

 

 

「ホントだよね。一般人の私には理解できないよ」

 

 

「それ京が言える台詞じゃないから!」

 

 

京のコメントに対し、すかさずツッコミを入れる卓也なのだった。

 

 

 

 

緊急集会が、もうすぐ始まる。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。