聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい!   作:みおん/あるあじふ

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32話「孤独な蝶」

京の反論。それはここにいる誰もが驚愕した。反対するとは思わなかったからである。

 

 

いつもは冷静で感情的にならない京だが、いつになく激情に近しい程の感情を露わにするのは珍しかった。

 

 

「京、どうしたんだ?」

 

 

余程の理由があるのだろう。今の京は感情的で唇も震えていた。大和は京をこれ以上刺激しないように声をかける。

 

 

「どうしたって……集会がなくなるなんて、そんなの嫌だよ!」

 

 

京は大和の肩を掴みながら、必死に訴えかけていた。金曜集会……京にとって、それがなくなるのは耐えられない。

 

 

「落ち着け京。別に金曜集会自体がなくなる訳じゃない。ただ、一時的に作戦会議に変わるだけだ」

 

 

京は金曜集会がなくなる事に不安を感じているのだろう。それは誤解だと宥める大和。

 

 

大抵は大和が言えば大人しくなるのだが、京は引き下がらなかった。

 

 

「そんなの他の日だってできるよ!何も金曜集会をなくさなくったっていいでしょ!?」

 

 

内容が変わる。京はそれだけでも耐えられなかった。

 

 

いつもみんなが集まる京の“居場所”が消えてしまう……そんな気がして。

 

 

「わがまま言うなよ京。ワン子とまゆっちが……仲間が被害に合ってるんだ。それに、これから先どうなるか分からねぇしよ。これでも大和と頭捻って考えたんだぜ?」

 

 

珍しく、キャップの表情は真剣だった。いつもフリーダムな雰囲気は感じられない。仲間を思う、リーダーとしての顔である。

 

 

一子、由紀江という身近な人間が狙われた今、次に狙われるのはクリスや卓也、岳人達かもしれない。金曜集会は解散時間が遅く夜になる事が多い。帰り道が危険だ。

 

 

それにこの場所にサーシャ達がいる事が知れれば、敵は真っ先に基地を叩く事だろう。

 

 

それでも金曜集会はファミリーにとって大切な行事であり、全員の為にもなくす事はしなかった。だからこそ、大和とキャップはこうして集会という形を残したのである。

 

 

「京、分かってくれ。俺は誰にも傷ついて欲しくないんだ」

 

 

ちょっと臭い台詞だが、仲間を危険な目に合わせたくないというキャップの気持ちが伝わってくる。キャップが言う以上、結論は曲げられないだろう。京がどうこうした所で、何も変わらない。やるせない思いが、京を苛ませていた。

 

 

「………!」

 

 

気持ちが有耶無耶なまま、京は逃げるように部屋から出て行き、屋上へと駆け出す。引き止めようとする大和達の声は、今の彼女には届かなかった。

 

 

 

 

風間ファミリー秘密基地、屋上。

 

 

京は屋上の外を眺めながら、一人思いに耽っていた。

 

 

「…………」

 

 

気持ちの整理が、未だつかない。頭の中はごちゃごちゃで、居場所が消えてしまうのではないかという、環境の変化に対する不安と焦り。そして今のままがいいという防衛本能。

 

 

京にはイジメの経験がある。だから変わるという事がどれだけ不安で、どれだけ恐い事か。彼女には、それが大きな心の傷となっていた。

 

 

しかし、今は仲間がいる。大和がいる。だから何も怖くない。いつもの仲間と遊び、笑い合い、集会をして過ごす平和な日々。

 

 

これがいつまでも続けばいいと、そう思っていた。でもそれは叶わない。いつかはそれも消えてしまう。その現実から逃げているのかもしれない……そんな甘えた自分がいる。

 

 

そして、こうしていれば大和が来てくれるという期待の気持ちも甘えなのだろうが、京はそれに縋るしかないのだった。

 

 

「京!」

 

 

後ろから京を呼ぶ声。振り返るとやはり、大和が駆けつけてくれた。京は縋り付くように、大和に抱きついた。

 

 

「大和……集会はなくさないでほしい」

 

 

変わってしまう事が怖い、京はその事を大和に訴えかける。大和は京の肩を抱いた。

 

 

「京……」

 

 

京の肩は、震えている。イジメを受けた時の記憶がそうさせているのだろう。長年付き合ってきた大和になら分かる。このまま金曜集会をなくせば、京の不安はさらに大きくなる。大和も、京を昔のような思いにさせるのは嫌だった。

 

 

やはり、金曜集会は続けるべきだろうか。考えてみれば、緊急集会ならやろうと思えばいつでもできる。わざわざ金曜集会をなくす必要はないのかもしれない。

 

 

キャップともう一度話し合って決めよう……そう思ったその時だった。

 

 

「―――――おい!」

 

 

突然、屋上の扉が勢いよく開く。やってきたのは華だった。華は京を睨みつけながら近づき、大和から引き剥がして京の胸ぐらを掴む。

 

 

「お前、そうやってずっと甘えてりゃいいと思ってんじゃねぇだろうな!?」

 

 

京の気持ちも確かに分かる。だが折角大和やキャップが考えてくれた事を、自分の都合だけでどうにかしようとする京の根性に華は苛立ち、気に入らなかった。

 

 

「いきなり何なの?私は甘えてなんか――――」

 

 

「甘えてんだろ!お前だけの都合で仲間を巻き込むんじゃねぇよ!ワン子とまゆっちが狙われたんだぞ!?少しは考えろよバカ!」

 

 

京の反論を遮り、一方的に怒鳴り散らす華。すると今度は京が華の腕を払い、迫るようにして華に喰ってかかる。

 

 

「そんな事分かってる!でも、集会は……私にとって大切なものなの!華には分からないだろうけどね!」

 

 

「てめぇ、いい加減に――――!」

 

 

聞き分けの悪い京に対し、我慢できなくなった華が手を上げようとするが、大和が二人の間に割って入り止めた。

 

 

「二人ともやめろ!」

 

 

二人を引き離し、冷静になれと諭す大和。京と華も落ち着いたのか冷静さを取り戻した。

 

 

しばらく二人の沈黙が続く。そしてその沈黙を先に破ったのは京だった。

 

 

「華に……私の何が分かるの?」

 

 

京は静かなる怒りを胸に秘め、華を睨みつけた。先ほどの感情的な怒りよりも深い、憎悪にも似た怒りが。

 

 

「分からないよね。分かる訳ないよね。私の気持ちなんて……イジメを受けていた側の人間の気持ちなんて」

 

 

「―――――!」

 

 

瞬間、華の心を抉られるような感覚が襲った。京に全てを見透かされたかのように、華は激しく動揺する。

 

 

そんな華に対し、追い詰めるように京は話を続けた。

 

 

「私知ってるよ。華……あっちの学校でイジメやってたんだってね」

 

 

一体どこから知り得たのだろう。京は華がイジメをしていた事を知っていた。

 

 

「そ、それは……」

 

 

京から目をそらす華。大和も知らなかったのか、華を見て驚いている。

 

 

「楽しかった?弱い人間をいじめて楽しかった?私には全然理解できない。そんなの理解したくもない」

 

 

冷え切った声で京は華を責め立てる。華は何も言い返せず動揺するばかり。

 

 

「私には偉そうな事言って、自分はどうなの?楽しいからいじめてきたんでしょ。結局は自分の都合なんじゃないの?“自分の都合で、クラスのみんなを巻き込んでイジメに参加させた”くせに」

 

 

「………」

 

 

全部、知っている。知られている。何もかも。胸が痛い。華はすぐにここから逃げ出してしまいたかった。京はまるで汚いものでも見るかのように華を一瞥し、

 

 

「―――――二度と話かけないで」

 

 

そう耳元で囁き屋上を後にするのだった。華はそのまま膝を尽き、地面にうな垂れる。

 

 

「アタシは……アタシは……」

 

 

自分の罪。いつかは向き合わなければならなかった罪。それが今、華に重くのしかかっていた。

 

 

 

 

京は屋上を去り、階段を降りながら思う。そして決意する。

 

 

(もういい。私の居場所は――――私が守る)

 

 

京の居場所。それを守る為なら、どんな事をしても構わない。変わる事が怖いなら、自分が守り続けるしかない。

 

 

たとえそれが、どんな結果になろうとも。

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