聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい!   作:みおん/あるあじふ

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33話「変わる心、過去との決別 1」

緊急集会から数日後。

 

 

授業が終わってからの休み時間、京は普段と変わらず読書に耽っていた。

 

 

やはり、この時の京には誰も近付かない。そもそも、好き好んで京に近付く人間はファミリーを除いて誰もいない。

 

 

だから京は関わらない。誰も関わろうとしない。

 

 

そんな中、話しかけてくる勇気ある生徒が一人いた。

 

 

「よ……よう、京」

 

 

ぎこちなく京に挨拶をするのは華である。京は華に視線を向けると、直ぐに読んでいる小説へと目を戻した。話す気はないらしい。

 

 

「この前の事なんだけどさ……」

 

 

屋上での出来事。京にどうしても伝えなければならない。ただ一言、謝罪がしたい。華は話を切り出した。

 

 

「アタシも言い過ぎたっていうか、京の気持ちも知らないで――――」

 

 

「二度と話しかけないでって言ったよね?」

 

 

京は視線を本に向けたまま、声のトーンを落として答える。明らかに拒絶されている……しかし、ここで怯んではいられない。

 

 

「アタシは……ただ、一言謝りに――――」

 

 

すると、華の話を遮るように京は席から立ち上がり、華をまるで空気か何かのように扱い、無視をして通り過ぎていく。

 

 

「あ、おい。待てって……」

 

 

立ち去ろうとする京の肩を、呼び止めるように華は触れる。だが次の瞬間、京の肩に触れた華の手を叩き払った。そして一言、

 

 

「触らないで」

 

 

「………!」

 

 

それだけ言って京は教室を後にする。華は話しかけるどころか、触れる事すら許されなかった。華は叩かれた手を擦る。

 

 

もう、分かり合う事はできないのだろうか。華の表情に影が指す。華はただ京が去っていく姿を、見送ることしかできなかった。

 

 

 

 

昼食時。

 

 

京は珍しく学園の食堂を利用していた。いつもは激辛カスタマイズ弁当なのだが、今日は気分的に食堂……というより大和達がいるのだ。なら行かない理由はない。

 

 

席には大和、クリス、一子、サーシャ、まふゆ。そして、京がいる。

 

 

今日もいつもの雑談……京はそんな他愛のない日常が好きだ。そんな変わらない毎日が、本当に好きだった。

 

 

しかし、大和達が話している事はいつもとは違う。内容は緊急集会がらみの事だった。表情もいつになく真剣である。

 

 

「アデプトのクェイサー……どう戦えばいいんだろうな」

 

 

大和はエヴァやフールに遭遇した時の対策を考えていた。ありとあらゆる戦略の過程を立てながら、最善策を導き出そうと思案する。

 

 

「やはり、真っ向から挑むべきだろう」

 

 

「そうよ。アタシの建御雷神(たけみかづち)なら一撃で仕留められるわ!」

 

 

クリス、一子の意見は正面切っての勝負だった。さすがは武士娘と言った所だが、これでは戦略もへったくれもない。

 

 

「姉さん一人ならともかく、リスクが高すぎる。クリスの攻撃は確かに強いが、攻撃が読まれやすい。それに、」

 

 

「今の一子は一発の攻撃力は絶大だが、外したらそれまでだ。後がなくなる」

 

 

正面攻撃の案を大和とサーシャが却下する。反論したいが事実は事実。二人ともう……と黙ってしまった。まふゆもその光景を見て思わず苦笑いする。

 

 

そんな彼らの会話を、京は黙って聞いていた。

 

 

京の過ごしていた日常が変わっていく。京はただ、大和達と学生生活を楽しく過ごしたいだけなのに、それが叶わない。

 

 

京の日常が……ようやく手に入れた日常が黒く塗りつぶされていく。

 

 

京は焦りを感じた。取り戻さなきゃ――――焦りを振り払うように、大和に話題を振る。

 

 

「ねえ大和。私のウルトラデストロイドソースかける?」

 

 

「ん?」

 

 

かけると言いつつ、大和のお昼のうどんに赤い液体が降り注いでいた。そしてうどんは血のように染まり、もはや食べ物とは呼べない代物になる。

 

 

「あーーー!俺の昼飯がーー!」

 

 

昼ご飯を台無しにされ、絶叫する大和。これだ……京は安心感を覚える。これが本来のあるべき姿なのだと。しかし、

 

 

「――――ちょっと京。いくらなんでもふざけすぎじゃない?」

 

 

先に口火を切ったのは一子だった。思わぬ反応に、京は驚きを隠せない。

 

 

「そうだぞ京。今はそんな事をしている場合じゃない」

 

 

一子だけではなく、クリスもである。しかし京は狼狽える様子もなく眈々と答える。

 

 

「別にふざけてないよ。これは、私と大和のコミュニケーションだから」

 

 

「勘弁しろ!」

 

 

京はふふふと笑い大和の腕に絡みつく。その横で大和は呆れたように溜息をついていた。

 

 

これで会議は中断、かに見えた。すると黙っていたサーシャが京に視線を向ける。

 

 

「お前の悪ふざけに付き合ってる暇はない。するなら別の場所でやれ、京」

 

 

真面目な話に水を刺すなと、サーシャが忠告をする。京は何よと目を細めた。

 

 

「だからふざけてないってば。私はただ大和と――――」

 

 

「分かった。それなら少し大人しくしていろ」

 

 

拉致が明かないと分かったサーシャはそこで話を打ち切った。自分だけ仲間外れにされたようで、少し苛立ち――――いや、それよりも恐怖が勝った。京はサーシャの態度が気に入らず、喰ってかかる。

 

 

「ファミリーに入って間もないのに、随分偉そうだね。サーシャ」

 

 

「立場を弁えろとでも言いたいのか?」

 

 

「別に……」

 

 

つーんとそっぽを向く京。険悪なムードになり、まふゆと大和が仲裁に入ろうとする。が、今度は一子が会話に割り込んできた。

 

 

「別に、じゃないでしょ!?京、緊急集会の日からずっと変よ!アタシたちの命に関わる事なのよ、大和やサーシャ達だって真剣なの。だから京も――――」

 

 

「ワン子も変わったよね」

 

 

「え?」

 

 

周囲の変化。京の周りで、どんどん変わっていく。京の知らない、誰かに変わっていく。耐えられない。京の中に不満という気持ちが爆発する。

 

 

「今までは武術の才能なんてなかったもんね。あの事件で才能が開花してからは、今は戦いたくてしょうがないんじゃないの?」

 

 

「―――――!!」

 

 

その刹那、京は殺気を感じ取った……一子からだ。一子は怒りが入り混じった闘気を纏い、京を睨み付けている。

 

 

「一子ちゃん!」

 

 

「落ち着け一子!」

 

 

まふゆとクリスが立ち上がり、一子を抑制する。一子は落ち着きを取り戻したのか、床に視線を落とすのだった。そして、

 

 

「……きで、……ったわけじゃない」

 

 

震えるような一子の声。身体を震わせ、涙を流しながら一子は胸の内を語る。

 

 

「好きで……こんな、身体になったわけじゃない……」

 

 

一子の手に入れた力。確かに強い力だが、一子自身が望んで手に入れたものではない。一子は顔をあげ、涙を拭って京と向き合う。

 

 

「でも……それでもアタシは受け入れたわ。もう、身体は元には戻らない。みんな知らないだろうけど……アタシは、ずっとずっと、身体が慣れるまで鍛錬を続けてるのよ」

 

 

元素回路によって変化した一子の身体は、長時間戦う事が出来ない。本当なら日課のトレーニングでさえ危ういと言うのに、それでも仲間の足を引っ張りたくないと言う思いで、無理をしてでもトレーニングは欠かさなかった。

 

 

「気を失いかけた事だってあったわ……でも、それでも。アタシはみんなの足を引っ張るのだけは絶対に嫌!」

 

 

自分の手の平を、一子はじっと見つめる。その手は、震えていた。変わってしまったという恐怖に、震えていた。

 

 

けど、それでも。

 

 

「師範代の夢だって諦めたくない。みんなの力になりたい。だからアタシは……アタシは……」

 

 

込み上げる涙を抑え切れず、一子はまた泣き崩れてしまった。さすがに周囲も何事かと思い、ざわめきが起こる。一子はまふゆとクリスに付き添われて、食堂を後にした。

 

 

「ワン子のヤツ……そんな事も知らずに、俺は――――」

 

 

大和は悔やんだ。一子の新しい道が開けた一方で、そういう事態になっていた事を知らずにいた自分自身を。

 

 

そんな様子が気になった京が、大和に話しかける。

 

 

「大和……?どうし―――」

 

 

「悪い京。ワン子に付き添ってくる」

 

 

言って、大和は表情に影を落としたまま食堂から去っていく。京は後を追おうとするが、できなかった。大和の背中から、“ついてくるな”と無言で訴えていたから。

 

 

「―――――変わる事がそんなにも恐ろしいか?」

 

 

呆然と立ち尽くしながら大和を見送る京に、サーシャは問いかける。しかし、京の答えは変わる事はない。

 

 

「私は……ただ今の日常を守りたいだけ。変わらない日常、私はそれを望む」

 

 

京には失いたくない、今がある。守りたい、今がある。だからこそ譲れなかった。そんな京の返答に、サーシャはこう告げた。

 

 

「人はいつか変わる。俺も京も。大和達も。お前はいつまで過去に縛られているつもりだ?いつまで甘え続けているつもりだ?今のお前は、過去に囚われ続けている、救いようのない臆病者だ」

 

 

それだけ言い残し、サーシャも食堂から立ち去って行った。最後に一人取り残される京。彼女は一体、何を思うのか。

 

 

(……みんな変わっていく。もう私にはどうにもならない。私の知ってるみんなが、どんどんいなくなっていく)

 

 

京の周りで、変わっていく仲間。そこから生まれる不安が京の心を押し潰していく。

 

 

辛い。苦しい。悲しい。虐めを受けてきた記憶が蘇る。またあの頃に戻るのだろうか。もう、彼女に残された選択肢は一つ。彼女を救った、彼の存在。

 

 

(やっぱり、私には……大和しかいない)

 

 

彼女の“依存”は、ますます酷くなっていく一方だった。

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