聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい!   作:みおん/あるあじふ

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34話「変わる心、過去との決別 2」

放課後。

 

 

(大和……大和はどこ!?)

 

 

京は校内中、大和の姿を探し続けていた。京の大和に対する依存はますます強くなっていき、それは狂信的にも見える。仲間が変わっていく今、京には大和しかいなかった。

 

 

だが大和は見つからない。いくら探してもいない。学園はさほど広くはないと言うのに、焦りがそうさせているのか、大和を見つけられない。

 

 

救いを求めるように、大和を探し続けた。大和がいなければ、自分が自分でいられない。自分を保てない。京の心は、そこまで追い詰められていた。

 

 

見つけなくては……自分の心の拠り所であり、希望の光である直江大和を。

 

 

 

一方、放課後の屋上。

 

 

屋上で一人、華は空を見上げながらひたすら時間を潰していた。

 

 

「―――――」

 

 

壁に寄り掛かりながら座り込み、華は流れゆく雲を目で追い続けている。

 

 

京の事を、ずっと引き摺っていた。

 

 

過去と向き合い、京に謝ろうした華。だが京は拒絶した。これ以上話す気はない……気持ちが晴れないまま、華は無力感に苛まれていた。

 

 

(何やってんだかなぁ……アタシは)

 

 

自分は何をやっているのだろう。ただ屋上へ逃げているだけだ。何の解決もしないまま、自分はここにいる。こうして時間が過ぎ去るのを待っている。

 

 

全ては時間が解決してくれると言うが……後悔だけは永遠と残り続ける。華は本当はこの苦しみを、ただ逃れたいが為に京に謝ろうとしているのではないだろうか。だとするならば、カーチャの言う通り偽善者なのかもしれない。

 

 

そんな事を考えながらしばらく時間を過ごしていると、

 

 

「ほらよ」

 

 

「―――――うわ!?」

 

 

突然、華の頬に冷たい何かが触れる。見ると、缶コーヒーが差し出されていた。差し出してやってきたのは大和である。

 

 

「や、大和……」

 

 

「おう」

 

 

大和は華に缶コーヒーを手渡し、華の隣に座り込むと、缶コーヒーを開けてぐいっと煽り、空を眺め始めた。そして、

 

 

「……京が言ってた事、本当なのか」

 

 

早速華に疑問をぶつける。あの時屋上で聞いてしまった、華のイジメの過去。華の様子からして、恐らく事実なのだろうが、大和は敢えて聞いた。

 

 

すると華は地面に視線を落とし、思い返すようにしながら語り出した。

 

 

「……ああ、そうだぜ。京の言う通り、アタシはミハイロフでイジメをやってた」

 

 

観念するように、華は全てを語る。今更隠しても意味はなかった。

 

 

「クラスの連中を巻き込んで、イジメやって……アタシは楽しんでた。誰もアタシに逆らわなかった。アタシは浮かれてたんだ。まるで、女王か何かになったみたいに」

 

 

逆らえばお前もイジメの対象にすると、クラスの生徒を脅し、イジメを繰り返していた華。楽しんでいた自分がいた。だが、今となっては後悔だけが残留し続けている。

 

 

「京に言われて始めて気付いた。アタシには、虐められていた人間の苦しみなんて分からないって。そりゃそうだよな、アタシなんかに分かるワケねぇよ。そんなアタシが京に説法解くなんて、超ウケるぜ」

 

 

大和に貰った缶コーヒーを開け、気を紛らわすようにぐいっと飲み干す華。遠い目をしながら、大和に胸の内を話し続ける。

 

 

「アタシは、あいつに一言謝りたい。けど、それだけで今までやってきた事がチャラになるわけじゃねぇし……結局アタシは、ただ楽になりたいだけなのかもしれねぇな」

 

 

京に謝れば、自分は楽になれる。肩の荷が下りる気がするという自己満足。自分自身と言う人間が、つくづく嫌になる。華は大和に顔を向け、力なく笑うのだった。

 

 

「……これで分かっただろ?イジメをして平気な顔してるような最低な人間、それがアタシなんだ」

 

 

溜まっていたものが、抑えきれなかった思いが一気に吐き出されていく。自分はこういう人間であり、薄汚い存在だと。しばらく大和は、黙ったまま空を見上げていた。そして、

 

 

「ああ、よく分かった」

 

 

ようやく華に視線を向ける。一体どんな言葉をかけられるのだろう……華は息を呑んだ。

 

 

「華がロリコンで、ドMで、カーチャの変態雌奴隷だって事が」

 

 

「―――は!?」

 

 

大和が返した思いがけない言葉に、思わず素っ頓狂な声を上げる華。大和はその反応を見て笑っていた。からかわれたと思い、華は立ち上がる。

 

 

「お、お前なぁ!こっちは真面目な話してんのに……」

 

 

「悪い悪い。でも、これで少しは落ち着いたろ?」

 

 

「……あ」

 

 

華はようやく気付く。さっきまで虚ろな気持ちだったのに、今は少し和らいでいる気がした。大和はそんな華の気持ちを察して、わざとからかったのだろう。

 

 

「……別に俺は、華の事を最低だなんて思わない。俺も同じだったからな」

 

 

思い返すように、大和は遠い日の記憶を辿る。昔は自分も華と同じ……華は疑問を抱く。

 

 

「同じ……?だってお前、京を助けたんじゃないのかよ?」

 

 

「結果的にはな。けど、それまでに随分と時間がかかった。最初はずっと見て見ぬ振りをしてたからな」

 

 

大和は小学校時代の自分を語る。京のイジメは知ってはいたものの、初めから助けようとはしなかった。イジメには参加しなかったが、傍観者としてただ眺めていただけ。

 

 

それは結局イジメをしているのと変わらないと言うのに、気付かなかった自分がいた。

 

 

「それに、助けられたのは俺だけの力じゃない。キャップ達がいてくれたから、京を救えたんだ。もしキャップ達がいなかったら、ずっと傍観者のままだったかもしれない」

 

 

京を助けられたのは、大和の周りにいる仲間―――キャップ達がいたからこそ出来た事。それでも、大和の一歩踏み出す勇気がなければ、できなかった事でもあった。

 

 

自分自身の罪を認める。それは、嫌な自分と向き合うという事。大和は諭す。今の華には、それが出来ているという事を。

 

 

「お前は自分の行いを認めた。それを踏まえて京に謝ろうとしてるんだ。だから……そこまで自分を思い詰めるなよ。お前らしくないぜ」

 

 

華の肩を叩き、優しく言葉をかける大和。華も少し気が楽になったのか、肩の力が抜けた気がした。大和の仲間を思う優しさに触れ、暖かい気持ちになる。

 

 

「あ、ありがとうな大和……」

 

 

涙腺が緩み、華はうっすらと涙を浮かべていた。涙を腕で擦るように拭く華の表情を見て、大和は慌てふためく。

 

 

「お、おいおい。泣くなって!」

 

 

「う、うるせーな!別に泣いてなんかねーよ」

 

 

自分の弱い一面を隠すように、強がる姿勢を見せる華。華もこんな表情を見せる事もあるのか……そんな華が、少し可愛らしく感じる大和なのだった。

 

 

しばらくして時間が経ち、

 

 

「じゃあ、アタシはそろそろいくわ」

 

 

「おう、俺も行くよ」

 

 

と、屋上を後にしようとした時だった。振り返った瞬間、屋上と学園内を繋ぐ扉が開く。

 

 

そこへ現れたのは、京だった。

 

 

「み、京……」

 

 

突然現れた京。華は表情を曇らせた。一方の京は華には目もくれない……が、今回は違った。大和と華を見て表情を強張らせている。

 

 

「何……してるの?」

 

 

恐る恐る口を開き、大和と華に問い掛ける京。誰もいない屋上で、大和と華二人きり。何やら妙な誤解を招いたかもしれない。誤解を解くため、華が弁明を始める。

 

 

「み、京!アタシたちは別に……その……な、なあ大和?」

 

 

うまく説明ができず、華は結局大和に話を丸投げしてしまった。突然話を振られるも、大和は冷静に京に説明をする。

 

 

「ああ、別に何もないぜ。ただ華がロリコンでドMでかつ素直になれないカーチャの変態雌奴隷になった理由を、聞いてただけだ」

 

 

真剣かつ、真面目に応える大和。

 

 

「ちょっと待てよ!?そんな話してねーだろ!いや、したかもしれないけどよ、ってか素直じゃないは余計だっつーの!」

 

 

隣で聞いていた華が激しいツッコミを入れる。

 

 

「華、隠さなくていいんだ。誰だって色々な性癖を持ってる人間がいる。だから、何も恥ずかしがる事はない!!」

 

 

と、ガッツポーズを取りながら大和は豪語するのだった。華はアホか!と隣で叫んでいる。

 

 

きっと、場を和ませる為の大和なりの配慮なのだろう(方向性は間違っているが)。これで京も絡んでくれる……が、今の京は違った。

 

 

(大和……華とあんなに仲良く……)

 

 

ふざけあっている大和と華の姿。京は嫉妬よりも、先に悲しみが思考を支配していた。

 

 

それは“大和という存在を奪われる事”ではなく、“自分の拠り所だった大和が変わっていく”、“自分の知らない大和に変わっていく”という恐怖だった。大和や仲間が、どんどん遠い存在になっていく。

 

 

もう、京には何もできない。周囲の変化についていけず、まるで自分だけが取り残されてしまったような感覚。行き場のない感情が、京の中でとうとう爆発した。

 

 

「――――――!!」

 

 

京は踵を返し、抑えきれない涙を何度も拭い去りながら屋上から消えていった。

 

 

「お、おい京!」

 

 

呼び止めようとする大和の声は、もう彼女には届かない。

 

 

話の輪に入ろうともしなければ、大和を強引に奪おうともしなかった京。こんな事は今までになかった。

 

 

嫌な予感がする……大和と華は走り去っていく京の後を追うのだった。

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