聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい!   作:みおん/あるあじふ

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35話「変わる心、過去との決別 3」

「うぅ……ぐっ……んっ……」

 

 

誰もいない廃ビルの屋上。京は一人、金網のフェンスを握り締めながら泣き崩れていた。

 

 

大和と華から逃げるように走り去り、学園を抜け、ただがむしゃらに走り続け、もうどこをどう走ったのかさえ、覚えていない。気か付けば、どこか分からない廃ビルの屋上にいた。日は沈みかかり、オレンジ色の空が切なげに夕暮れを知らせている。

 

 

全て、失った。自分の知っている大和はもういない。最後の救いだった大和さえも、何もかもが変わってしまった。

 

 

泣いた。泣き続けた。涙が枯れるまで。変わるという恐怖と大切なものを失った悲しみに。

 

 

「うっ……大和……大和……」

 

 

何度も大和の名前を呼び続ける。しかし、もう京の声は大和に届く事はない。イジメから手を差し伸べてくれた大和は、もういない。

 

 

「…………」

 

 

泣き疲れた京はフェンスに寄り掛かり、何をする事もなく放心していた。

 

 

(私、とうとう一人になっちゃった……)

 

 

自分しかいない。仲間も、大和もいない。京の心が、深い闇へと沈んでいく。

 

 

消えてしまいたい。もう生きていても意味がない。いっそここから飛び降りてしまおうか……しかし、何もする気が起きない京には、自殺をする気力すらなかった。

 

 

時間だけが過ぎていく。今頃大和達は、自分を探し回っているだろう。

 

 

否、探していないかもしれない。京の我儘に振り回され、愛想を尽かしているに違いない。今の京には、そんなネガティブな想像しかできなくなっていた。

 

 

(………あ)

 

 

今更になって気付く。結局は自分も、周りを巻き込んでいた事を。自分の都合で、自分の居場所を守る為に。自分の事で頭がいっぱいで、周囲に気を配れなかった。

 

 

“自分の都合で他人を巻き込んだ”……華に言い放った言葉が蘇る。自分も華と同じ事をしていた。何故それに気付かなかったのだろう。

 

 

京はイジメを受けていた。それをずっと引き摺り続けていた自分がいる。それに甘え続け、過去と向き合う事をしなかった。ある意味、イジメをしていた人間よりもたちが悪い。

 

 

華はそんな自分に謝ろうとしてくれた。それなのに、京は拒絶してしまった。だが今更後悔しても遅い。

 

 

まさに、自業自得。これが自分自身が招いた結末なのだから。

 

 

しばらくして、廃ビルの屋上の扉が開いた。やってきたのは、まふゆとクリスだった。

 

 

「京ちゃん!」

 

 

「京!」

 

 

息を切らしながら、泣き疲れた京に駆け寄るまふゆとクリス。

 

 

「……どうして、ここが?」

 

 

何故この場所が分かったのだろう。自分でさえも、ここがどこの場所なのか分からなかったというのに。

 

 

「大和が京を見かけたら連絡をくれと、友人に頼み回ってくれたんだ」

 

 

それでも探すのに苦労したぞ、とクリス。大和の人脈ネットワークで、京の目撃情報をかき集めて探し回っていた。

 

 

大和だけではない。キャップや卓也、岳人に忠勝。サーシャとまふゆ、華。由紀江、クリス、百代。それに一子も。京を心配してくれていた。

 

 

「……みんな心配してるよ?早く帰ろう、京ちゃん」

 

 

まふゆは京に手を差し伸べる。理由も聞かずに、優しい笑顔で。

 

 

だが、京にはまふゆのその笑顔が眩し過ぎた。京は目を逸らし、その手を拒む。

 

 

「……もういい」

 

 

「え?」

 

 

「帰るなら、二人で帰って。私の事はもういいから」

 

 

きっと、京の居場所はもうない。それに、あれだけ自分の我儘で仲間を振り回し、華までも傷付けてしまったのだから。もう、皆に合わせる顔がない。

 

 

「馬鹿を言うな。みんなお前の事を探して―――――」

 

 

「みんなって……誰?」

 

 

京のその質問に、クリスは難しい表情を浮かべる。というより、理解に苦しんでいる。答えるまでもない、大和達の事だ。何故そんな質問を投げかけてくるのだろう。

 

 

「大和達に決まってるだろう。他に誰がいるというんだ?」

 

 

当たり前の事を聞くな、とクリスは言う。だが次の瞬間、京は感情に任せて叫んだ。

 

 

「嘘!!私の知ってる大和達は、もういない!!」

 

 

まふゆ、クリス。そしてここにはいない、大和達に向けるように言い放つ。

 

 

「みんな変わった!キャップもモロも!クリスやワン子達も。大和も。みんな私の知らない誰かになっていく!私は……私はただ、変わらないみんなとの時間が欲しかっただけなのに!」

 

 

変わる事への怖さ。また小学校時代の時のように、一人になってしまうのではないかという怖さ。京は自分の身体を抱くように、声を震わせながら怯えていた。

 

 

今の自分には、“心の支え”がない。そう思い込んでしまっている。

 

 

「…………」

 

 

まふゆはそれを、まるで自分の事のように受け止めていた。京の心の叫びを。

 

 

「……そうだよね、怖いよね。周りがどんどん違う誰かに変わっていく。その気持ち、あたしにも分かるよ」

 

 

まふゆの過去が、鮮明になって蘇っていく。燈の父親が失踪してからイジメが始まり、それまで仲良くしていたクラスの人間が、変わっていく姿を。

 

 

京は、自分と似ている。まふゆは京と自分を重ね合わせていた。

 

 

だから、今の彼女に手を差し伸べたい。

 

 

「でもね京ちゃん。大和君達が変わっても、仲間である事は変わらないよ。だから――――」

 

 

「――――じ、られない」

 

 

震えて掠れるような京の声が、まふゆの話を遮った。そして京の枯れ果てた目から、また涙が零れ落ちる。

 

 

「信じられないよ……誰を信じたらいいか、私分からない。まふゆに分かる?イジメを受けてきた私には、もう疑う事しかできない。辛いよ……もう、嫌だよ」

 

 

京には、他人だけでなく、仲間でさえも信じられなくなっていた。それが苦しくて、どんなに辛く、悲しい事か。

 

 

「私はずっと一人だった。あの頃から、私だけが変わらなかった……結局これからも、死ぬまで一人なん―――――」

 

 

「――――――!!」

 

 

京の頬に、確かな衝撃が走った。痛い……痛くてジンジンする。京は、自分が頬を叩かれた事にようやく気付いた。

 

 

叩いたのはクリス、ではなくまふゆだった。まふゆは真剣な眼差しで、涙を浮かべながら京の肩をぐっと掴む。

 

 

「違う!それだけは、絶対に違う!」

 

 

深く闇に沈んだ京の心を呼び戻すように、まふゆは必死に彼女に呼びかける。京は叩かれた頬を押さえ、目を見開きながらまふゆを凝視していた。まふゆは続ける。

 

 

「京ちゃんは一人じゃない!大和君達がいる!あたし達がいる!だから、自分を見失っちゃダメ!!」

 

 

そう京に言い聞かせる。それは、京の力になりたいという気持ちが強かったから。

 

 

「京ちゃん、あたしに京ちゃんの気持ちが分かる?って言ってたよね……分かるよ。あたしだって――――イジメを受けていたから」

 

 

まふゆは告白する。自分が聖ミハイロフで受けていたイジメの事を。

 

 

イジメが始まり、クラスの友達がまふゆの元から離れていく……そして、イジメを見て見ぬふりをする生徒達。つまりは傍観者。それはイジメよりも怖くて、辛かった。

 

 

(まふゆが……?じゃあ、もしかして……)

 

 

ふと、京の脳裏に華の姿が浮かび上がる。華がイジメの対象にしていたのは恐らく、まふゆの事だとすぐに分かった。

 

 

「あたしだって最初はくじけそうだった。でも、サーシャが来てからは変わった。あたしも、サーシャも。クラスのみんなも。京ちゃんだって、大和君達がいてくれたから今の自分があるんでしょ?」

 

 

掛け替えのない存在。仲間がいたから、変わる事ができた。まふゆは京に諭す。

 

 

“変わる事は、何も悪い事ばかりじゃない”。

 

 

「変わる事を怖がらないで。確かに、世の中いい人ばかりじゃないし、イジメをする人間だっていっぱいいる。でも、人を疑って生きるのは、すごく悲しい。だから―――――」

 

 

まふゆは悲しみにくれる京の身体を、

 

 

「―――――まずは“信じる事”から、始めてみよう?」

 

 

そっと、優しく抱きしめた。暖かい、まふゆの温もりが京の身体に伝わってくる。同時に、目に熱いものが一気に込み上げてきた。

 

 

「でも……でも、私は、やっぱり怖い」

 

 

震える声で、まふゆに訴えかける京。まふゆはそれを、優しく受け止める。

 

 

「大丈夫、みんながいるよ。少しずつでいい、一歩一歩踏み出していこ……京ちゃん」

 

 

まふゆの言葉に、何度も頷く京。まふゆの優しさに触れ、京の心が少しずつ動き出し始めていた。側にいたクリスも、自分の出番はなさそうだなと微笑ましく見守るのだった。

 

 

ほんの一握りの勇気。それは“信じる”という事。裏切られるかもしれない。傷付くかもしれない。それでも、疑うだけの人生よりはずっと生き生きとして、輝いている事だから。

 

 

しばらくして、後から大和と華が合流する。二人とも汗だくで、息を切らしていた。きっと、京の事を駆け回って探し続けていたのだろう。

 

 

「はあ……はあ、京!」

 

 

疲れ切っていたが、京を見つけられたという安堵の表情で大和は笑った。

 

 

「大和……」

 

 

「……ったく。随分探したんだぜ?心配かけさせやがって」

 

 

ほら、と手を差し伸べる大和。心配してくれた……大和も、みんなも。変わっていない仲間との絆。ああ、やっぱり何も変わってなかったんだなと京は実感する。

 

 

嬉しかった。心が張り裂けそうなくらいに。京の心の闇が、晴れ渡っていく。暖かい光が、京を包んでいた。

 

 

でも、もう甘えたりしない。今ある幸せをもっといいものにする為に。京は、

 

 

「――――いい。自分で立てる」

 

 

自分で立ち上がり、涙を腕で拭い去ると、京の表情は何かを決意したような凛々しい顔つきになっていた。

 

 

そして、

 

 

「みんな、心配かけてごめん。早く帰ろう。私お腹すいた」

 

 

吹っ切れた表情で、京は笑った。

 

 

夕日が沈みかけたこの日。京は確かな一歩を踏み出したのだった。

 

 

 

 

 

それから数日後。

 

 

休み時間になり、京はいつものように自分の席に座り読書―――をしなかった。立ち上がり、華のいる席へと向かう。

 

 

ちょうどその時、華も京の所へ行くつもりだったのか、席から立ち上がり、ばったりと京と遭遇する。

 

 

「あ、京……」

 

 

気持ちの準備が整わず、どきまぎする華。早く話を切り出さなければ……そんな事を考えていると、京から思いがけない言葉が聞こえた。

 

 

「この前は、ごめん」

 

 

「……え?」

 

 

華は思わず言葉をつまらせる。京から、謝ってきたのだ。本当なら自分が先に謝るはずなのに。華も慌てて言葉をようやく絞り出す。

 

 

「あ、あたしの方こそ、ごめん。お前の気持ちも知らないで……」

 

 

申し訳なさそうに、京に謝罪を述べる華。しかし、京は首を横に振るのだった。

 

 

「もういいの。私も自分の事ばかりで勝手な事言って、華を傷付けてたから」

 

 

「京……」

 

 

京も華と同じく、自分の過去と向き合い、変わった。長かったが、ようやくお互いに分かり合えた気がした。

 

 

「華の気持ち、伝わったよ。ありがとう」

 

 

華を仲間として、友達として。京は改めてもう一度受け入れた。今度は本当の形で。

 

 

「―――ついでに華が素直になれないカーチャの変態雌奴隷だってこともね」

 

 

「――――は?」

 

 

クククと笑いながら、とって付け足すように言って京は教室を後にした。あの時の大和との会話を、ちゃっかり記憶に残していたらしい。どうやら京の本質的な部分は変わっていないようだった。

 

 

弱みを握られた華は思わず、うわーー!と叫びたくなったが、それよりも京と仲直りできた事が嬉しくて、その後ろ姿を見送りながら微笑んでいた。

 

 

 

 

そして昼休みを終えて。

 

 

京は昼食を済ませた後、教室を出ようと席から立ち上がる。

 

 

「おい、京。どこへ行くんだ?」

 

 

気になった大和が声をかける。普段なら昼食を終えた後は、読書か大和に絡むかのどちらかなのだが、今日は違った。

 

 

「うん。ちょっと部室にね」

 

 

京は弓道部の部員である。が、部活には殆ど出ておらず、出たとしても気分で月に一、二回程度。ようするに幽霊部員だった。

 

 

そんな京が部活に顔を出そうとは、どんな心境の変化だろう。しかし、大和達にはもう分かっていた。京が、少しずつ変わろうとしている姿に。大和は何の理由も聞かず、

 

 

「おう、行ってこい!」

 

 

京の背中を押すように、笑顔で見送るのだった。京も笑顔でうんと頷き返し、教室を後にしようとする。その時、まふゆとすれ違った。

 

 

「あれ、京ちゃんどこ行くの?」

 

 

「うん、これから部活」

 

 

京の表情は、いつになく凛々しく逞しかった。ただ少しだけ、不安の色がある事にまふゆは気付く。きっと、ずっと部活に行っていなかったから、今更受け入れてもらえるのかどうか心配なのだろう。

 

 

しかし、これは京の戦いだ。自分自身を変える為の。

 

 

「……そっか。いってらっしゃい!」

 

 

笑顔で見送るまふゆ。まふゆに出来る事は、彼女の背中をそっと押してあげる事だけ。

 

 

「――――うん。行ってくる。ありがとう、まふゆ」

 

 

少しずつ変えていこう。今はまだ小さな一歩だけれども、いつか必ず変わる日が来る。傷付く日もあるだろう。苦しい日もあるだろう。変わる事は痛みを伴うのだから。

 

 

けれども、京はまふゆや仲間の本当の優しさに触れ、その暖かさを知る事ができた。

 

 

“信じる事から、始めてみよう”

 

 

まふゆのかけてくれた優しい言葉。その言葉を胸に、京は歩き出した――――。

 

 

 

 

“――――私は、もう一人なんかじゃない。さよなら、昔の私。”

 

 

 

 

弓道部部室。京は部室を訪れていた。

 

 

理由は一つ。川神学園の弓道部部員として、本当の意味で復帰するためである。

 

 

「お願いします。もう一度、部活に参加させてください!」

 

 

部員達のいる前で、頭を下げる京。しかし、これまで部活をサボり続け、幽霊部員扱いだった京を易々と信用するはずもない。

 

 

京は腕は立つが、人間性としてはどうか……部員たちには懸念の声が広がっていた。

 

 

「今更部活に参加させてと言われてもねぇ。プレミアムに信用できませんよ、椎名先輩」

 

 

部員の中の一人、一年の武蔵小杉が京の前へ出てくる。今まで何も教えてもらえず、いてもいなくても変わらないような京を、今更部員として受け入れられるはずもなかった。

 

 

しかし京も、ただ復帰できるとは思っていない。そんな甘い考えは全部捨てている。京は食い下がった。

 

 

“全部、一から始めるんだ”

 

 

「掃除でも雑用でも、何でもする!だから、私にもう一度部員としていさせてほしい」

 

 

部員として復帰できるなら、何でもする覚悟でいる京。すると、部員達の中から一人、ロングヘアに眼鏡をかけた女性部員―――弓道部の主将である矢場弓子が京の前へとやってきた。

 

 

「私は賛成よ。椎名さん」

 

 

弓子の判断に、他の部員達からは良い声が上がらない。しかし、弓子には分かっていた。京が変わろうとしている姿を。その気持ちを。

 

 

「主将……」

 

 

「けど、椎名さんの言う通り、まずは掃除から雑用まで何でもやってもらうわ。特別扱いはしないつもりよ。それでもいいのね?」

 

 

「は……はい!ありがとうございます!」

 

 

弓子は笑って、京を迎え入れてくれた。京はもう一度、弓子や部員達に深く頭を下げる。

 

 

信用を取り戻すのはそう容易くはない。それでも、変わろうとしている自分を受け入れてくれた人がいる。だからこそ頑張れる。

 

 

これが京が変わるための、新たな一歩なのだから。

 

 

 

 

「――――その前に、私の授業に付き合ってもらいたいんだけど、いいかしら?」

 

 

突然京の背後から女性の声が聞こえる。何故だろう、本能的に京には悪寒が走っていた。

 

 

京が振り返ると、そこには―――――。

 

 

 

 

一方、Fクラスでは。

 

 

「なあ、織部」

 

 

「ん?」

 

 

華はまふゆが座る席の前で、真剣な面持ちで立ち尽くしていた。そして、

 

 

「―――――ごめん!」

 

 

突然深々と、頭を下げたのであった。まふゆは何が何だか分からず、困惑している。

 

 

「アタシ……織部と山辺の事、ずっといじめてただろ。お前らの気持ちも知らずに、酷い事したって思ってる」

 

 

「華……」

 

 

ふと、華と美由梨にイジメをされていた時の事を思い出してしまった。それが今、華から謝ってくれるとは思わなかったから。

 

 

けど―――――まふゆはすごく嬉しかった。

 

 

「今更許して貰おうだなんて思ってない。でもアタシも心入れ替えるから、だから――――」

 

 

「いいよ。あたしは、別に怒ってないから」

 

 

もう過ぎた事だから、とまふゆは華に向かって微笑んだ。

 

 

それが、華にとってどんなに嬉しかった事か。

 

 

「なんか華らしくないな。でも、ありがとう。華の気持ち、ちゃんと伝わってきたよ」

 

 

言って、まふゆはもう一度華に向かって微笑む。華も涙を堪えながら、照れ臭そうに笑顔を返すのだった。

 

 

するとサーシャが華の側を横切り、

 

 

「今日は雨でも降りそうだな」

 

 

と、嫌味を残して教室を後にする。サーシャの後ろから、華の“どういう意味だー!”と怒鳴り声が聞こえていた。

 

 

何気なく教室を出るサーシャ。しかし出た瞬間、サーシャの左耳のイヤリングが真紅のように、赤く発光し始めた。

 

 

(反応している……?一体どこから――――)

 

 

嫌な予感がする。サーシャが教室へ戻ろうとした時、それは起こった。

 

 

「な―――――」

 

 

教室という教室の扉が、勢いよく一斉に閉まったのである。サーシャはFクラスの扉に手をかけるが、まるで石のようにビクともしない。

 

 

「おい、何が起きた!?」

 

 

ドン、ドンと扉を叩き、中にいる生徒達に呼びかける。

 

 

「分からない!急に扉が閉まって、ビクともしないのよ!」

 

 

まふゆの声が聞こえる。扉に手をかけても、まったく開かないのだという。

 

 

一体何が起こっているというのだろう……思考を巡らせていると、廊下中に異様な気配を感じ取った。

 

 

否、気配だけではない。廊下の隙間という隙間から、銀色の液体が湧き出てくる。そして、銀色の液体は幾つもの個体となって集まっていき、人型の物体を作りあげた。

 

 

水銀。サーシャは一目で理解した。サーシャは大鎌(サイス)を錬成し、戦闘体勢に入る。

 

 

やがて人型の形状をした水銀は、より一層形を成していた。

 

 

剣を持った騎士。斧を持った戦士。犬、獣。様々な水銀人形(シルバードール)が、サーシャに敵意を放っている。

 

 

「――――きゃああああああ!?」

 

 

教室から悲鳴が聞こえる。恐らく、教室内部でも同じ現象が起きているのだろう。

 

 

一刻も早く助けに向かいたいが、扉は水銀のコーティングによって妨害され、さらには複数の水銀人形に囲まれている。これでは身動きが取れない。

 

 

「……くそっ!」

 

 

今はこの状況から脱出し、次なる打開策を見出す事が先決だ。サーシャは大鎌を振りかざし、水銀人形の群へと疾走するのだった。

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