聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい!   作:みおん/あるあじふ

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41話「疑念と異変」

由紀江が決闘と聞き、ファミリーのメンバーは驚愕した。グラウンドに集まり、武蔵と由紀江の対戦を待ち続けている。

 

グラウンドの中央には対面する武蔵と由紀江がいた。武蔵は由紀江を見下し、堂々と構えている。一方の由紀江は見下しもしなければ構えもせず、ただ静かに武蔵を見据えていた。

 

「ふん。この私に挑もうなんて、命知らずもいいところね!」

 

武蔵は勝利を確信していた。相手はいつも挙動不審で、携帯ストラップと会話をするような生徒である。おまけに強そうに見えない。退屈な試合になりそうだと武蔵は思った。

 

この生徒を倒した所で、自分の格が上がるわけではないのだが……とにかく敵は捻り潰すのみ。

 

しばらくして、鉄心がやってきて決闘の儀を行う。由紀江と武蔵は向かい合い、

 

「――――1-S、武蔵小杉!」

 

「――――1-C、黛由紀江!」

 

互いに名乗りを上げて決闘の合図を待った。鉄心は双方を見て、決闘開始の火蓋を落とす。

 

「いざ尋常に――――はじめぃ!」

 

鉄心の合図と同時に、武蔵が先に動き出した。由紀江は動かずにいる。

 

こっちの反応についていけないのだろうか……ならばさっさと終わらせてしまおう。武蔵は由紀江に接近し、拳を伸ばして渾身の一撃を与える。

 

「―――――え」

 

そして、勝負は一瞬にしてついた。

 

武蔵の一撃は、由紀江の懐にめり込んでいた。これで幕引き。勝負は武蔵の勝利に終わった。

 

―――――その、はずだったのに。

 

武蔵の拳は、由紀江の寸前で止まっていた。あと一歩で届かなかった。

 

その代わりに、由紀江の手刀が武蔵の首筋に入っている。まるで刀のような鋭い一撃。この一撃を受けたと認識するまで、少しだけ時間がかかった。

 

何故なら……武蔵自身が負けたという事実を、認めたくなかったから。

 

どうしてこうなってしまったのか。何が起きたのか分からないまま、武蔵の意識は深い闇へと落ちていった。

 

「―――――勝者、黛由紀江!!」

 

勝者の名前が上がる。しかし、周囲からは歓声がない。あまりにも呆気なさすぎて、そしてあまりにも一瞬過ぎて。声も出せずただ呆然と勝負の末を見届けていた。

 

「……う。うそ、私が、負けるなんて……」

 

意識を取り戻した武蔵が立ち上がろうと膝をつく。すると由紀江が面前に立ちはだかった。そして武蔵にそっと手を差し伸べる。

 

余裕のつもりか……気に食わない。武蔵は唇を噛みながら手を振り払う。それでも由紀江は何も言わず、そのまま顔を武蔵の耳元へと近付けて、

 

「――――――」

 

そっと小さく、耳打ちをしたのだった。当然武蔵は聞き入れないつもりだが、敗者にそんな権利はない。黙って従うしかなかった。

 

こうして二人の戦いは終わりを迎える。そして武蔵の1年制圧もここで幕を閉じた。

 

 

 

数日後、秘密基地。

 

カーチャは基地へと訪れていた。我が物顔でソファに座り込み、足を組みながら紅茶を啜る。

 

「クッキー、紅茶のおかわり」

 

紅茶がなくなり、側にいたクッキーに空になったティーカップを差し出した。クッキーは紅茶を淹れるが、何だかティーポッド扱いされているようで苛立ちを覚える。

 

『……カーチャ。言っておくけど、僕はティーポッドでもなければ瞬間湯沸かし器でもないからね!』

 

「あんたの機能に興味はないわ。っていうか、どっちも同じじゃない」

 

完全にクッキーをただの機械としか見ていない。お代わりの紅茶に口を付け、優雅に過ごすカーチャ。そんな態度が気に入らず、クッキーは第二形態に変形する。

 

『あまり図に乗るなよ。次に淹れる紅茶に鉄の味が混じる事になるぞ』

 

ビームサーベルを片手に、脅し文句をかけるクッキー。しかしカーチャは驚く様子もなく、

 

「機械の分際で私に盾突くつもり?生意気よ、クッキー」

 

クッキーを横目で睨み付け、殺意と侮蔑を込めた視線を送っていた。クッキーも無言のままカーチャと睨み合い、基地内の空気が凍りついていく。

 

一触即発。この戦い、誰にも止められない。

 

「いや、ここでされても困るから」

 

基地へやってきた京が、この空気を拭い去りつつ誰というわけでもなくツッコミを入れていた。クッキーは第一形態に戻ると、京に泣きつくように縋りついた。

 

『ちょっと聞いてよ京!カーチャが僕の事をティーポッド扱いするんだよ!?おまけに瞬間湯沸かし器とか――――』

 

京はうんうんと頷きながらクッキーの愚痴を聞いている。そもそもロボットが愚痴を言うというのも、不思議な話だと今更ながら思う京である。

 

しばらくしてクッキーは長い愚痴を終えると、機嫌が治ったのか外の警備に出掛けるのだった。

 

「いちいち面倒な機械ね」

 

はあ、と溜息をつくカーチャ。そこがクッキーのいい所だからと京はフォローを入れる。

 

「ところで、私に話があるんでしょ?まあ、話したい事は大体想像つくけど」

 

カーチャが話を本題に戻す。カーチャは京に呼び出されていた。恐らく、由紀江の事で何か聞きたいのだろう。

 

「うん。察しの通り、まゆっちの事だよ」

 

由紀江とカーチャは同じクラスだから、由紀江の様子を教えて欲しいと京は言う。京も彼女の異変が気掛かりであった。

 

「確かに、変わったと言えば変わったわ。気味の悪いくらいにね」

 

カーチャは教室での由紀江の様子を事細かに話した。

 

人見知りが消え、誰とでも仲良くなり、突然明るくなった由紀江。彼女の性格からして、切り替わりがあまりにも早過ぎる。人の元の性格は、そう簡単には変わらない。

 

しかし、カーチャにとってはどうでもいい事である。それだけの為に呼ばれたのなら、迷惑な事この上ない話だった。しかし、京の話はまだ続く。

 

「この前のまゆっちの相手は、私の部活の後輩なんだけど……まゆっちと決闘して負けてからずっと、学園に来てないの」

 

由紀江と対戦した相手、武蔵は弓道部の部員だった。由紀江と対戦した後、部活にも学園にも顔を見せていないのだと言う。

 

「今まで負けた事がないから、塞ぎ込んでるだけでしょ?いい気味ね。この際だから、身の程を知るといいわ」

 

ああいう高飛車で負けず嫌いは、一度挫折を味わった方がいいとカーチャは笑う。しかし京は笑わなかった。さらに話を進める。

 

「決闘が終わってすぐ、ムサコッスに耳打ちをしてたのを見たの。後から後輩に聞いた話だけど、放課後まゆっちに呼び出されたみたい」

 

戦いが終わった後、京は二人の様子を見ていたのだ。弓道を志すだけあって京の観察眼は鋭く、僅かな動きさえも見逃さない。当然見ていたのも京だけである。

 

そしてカーチャは気付く……京は、由紀江に疑念を抱いていると。

 

「つまり、疑ってるのね。黛由紀江を」

 

「私はまゆっちを信じたい。ただそれだけ。同じクラスのカーチャなら何か知ってると思って」

 

京は否定もせず、肯定もしない。ただ由紀江を、仲間を信じたかった。そんな京をつくづくおめでたいわねとカーチャは鼻で笑う。

 

「知ってるも何も、さっき言った通りよ」

 

カーチャが知っているのは、由紀江の性格が変化した事だけである。これ以上詮索しても意味がない事を京に告げた。京はそれだけ聞いて満足したのか、それならいいんだと言って頷いた。カーチャも用件が済むと、残った紅茶のを飲み干し、ソファから立ち上がり踵を返す。

 

すると、京が最後にカーチャを呼び止める。

 

「来てくれてありがとう。それと私、カーチャの事もちゃんと信じてるから」

 

「………」

 

仲間だから、と京は言った。立ち止まり、京の言葉を黙って聞き届けるカーチャ。仲間、信頼……どこまでも青臭い。本当におめでたい連中だと、笑いを通り越して呆れてしまうくらいに。

 

そして、最後にカーチャは去り際にこんな言葉を残した。

 

「一昨日の決闘―――――先に勝負をふっかけたのは、黛由紀江よ」

 

「え?」

 

「私のコアに反応はなかったわ。少なくとも、例のサーキットを装着していない事は確かね。今の所はだけど」

 

それだけ言って、基地から消えていくカーチャ。別に助言をしたというわけではない。ただの女王(エンプレス)の気まぐれである。

 

そっけなく、まるで興味なさそうな態度を取るカーチャだが、何だかんだ言って、協力してくれているんだなと嬉しく思う京なのだった。

 

 

 

一方、カラオケ店前。

 

華と千花達は放課後にカラオケ店で散々歌い倒し、ちょうど解散してそれぞれの帰路へと向かい歩いていた。周囲はすっかり暗くなっている。

 

「あ~、歌い疲れたぁ。たまにはカラオケも悪くねぇな」

 

大きく背伸びをしながら呟く華。楽しい時間ほど、過ぎていくのは早いものである。華は心地よい疲れと同時に切なさを感じていた。こうでもしなければ、息が詰まるというもの。

 

任務を忘れ、学生らしい事をするのも悪くないと染み染み思う。っていうか、そもそもアタシ学生だったっけな、と華は心の中で苦笑いするのだった。

 

しばらく通りを歩き続ける。今日は人気が多い。ガヤガヤした喧騒も、華にとっては聞き慣れたものであり、これが何よりも好きだった。

 

「……ん?」

 

ふと、奥が暗く細い脇道に目がいく。一瞬、何かが見えた気がしたが……気になった華は人気の外れた脇道へと入り、奥へ奥へと進んでいく。

 

次第に視界が暗闇に慣れ、うっすらと周囲のものが見え始める。

 

「………!?」

 

華の表情が凍りつく。華の目の前には、見慣れた服装――――川神学園の制服を来た女子生徒が倒れていた。華は女子生徒に駆け寄り、身体を起こして意識を確認する。

 

「おい、しっかりしろ!何があった!?」

 

身体を揺さぶるが、全く反応がない。しかし息はしている……死んではいない。意識を失っているだけだった。ともかく、助けを呼ばなければ。

 

華は女子生徒を背負い、助けを求める為に繁華街の通りへと戻っていった。

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