聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい!   作:みおん/あるあじふ

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43話「通り魔捕獲作戦」

私は、“私”である。それ以上でも、それ以下でもない。

 

 

故に憧れていた。自分自身が描いた理想を。常に求め続けていた、私自身を。

 

 

だから私は、夢に見ていた“私”になる事ができた。これは私にとって何よりの喜びである。私が私を超えた確かな証。

 

 

それなのに、満たされない。満たされている筈なのに、いつも心の中に(うつろ)が巣食っていた。

 

 

まるで深い孔ができたような黒い蟠り。満たしても満たしても埋まらない、永遠の渇望。

 

 

全て手に入れた筈なのに、何かが足りない。何度求め続けても、手を延ばしてもそれは遠ざかっていく。

 

 

私はいつ満たされるのだろう。私はいつ癒されるのだろう。問いかけても答えは出ない。

 

 

今も渇きを訴えている。成さねばならない。この消える事のない欲望を満たす為に。

 

 

 

 

作戦決行日、夜の商店街。

 

 

大和とキャップ、百代は商店街近辺のビルの屋上でPCを広げ、2人1組で編成したペアの位置情報を確認していた。

 

 

ペアにはそれぞれ通信機(インカム)を支給し、それによって位置情報を把握できるようになっている。ちなみに通信機とPCのシステムを貸与したのはユーリだ。

 

 

“まさかサーシャ君の女装姿をまた見る事ができるとは思いませんでした。お礼と言っては何ですが、今回の一件に限り大和さん達を全力でバックアップさせて頂きます”

 

 

と、蔓延の笑みで貸し出しをOKしてくれた。今回のみ、本来任務とは関連性がない大和達の依頼に手を貸してくれるのだという。よほどサーシャの女装姿が見たかったらしい。

 

 

そのおかげで、大和達は万全な状態にある。これなら犯人を捕まえられるのもそう難しくはないだろう。

 

 

「―――こちら参謀。Aチーム、聞こえるか?」

 

 

大和はインカムを使い、早速通信を行う。

 

 

まずはAチーム。チームメンバーはクリス・由紀江。

 

 

『こちらAチーム。聞こえるぞ、大和』

 

 

『こちらも問題ありません』

 

 

クリス、由紀江は共に通信良好。現在周囲を警戒中。

 

 

「了解。Bチームは?」

 

 

続いてBチームに連絡を取る。Bチームは一子と忠勝。

 

 

『あ、えっと……あわわわ、これどうやって使えば……』

 

 

『貸してみろ。耳にこうつけるんだよ……こっちは二人とも問題ないぞ』

 

 

一子が何やら手間取っているようだが、忠勝がいるので問題はないだろう。通信はとりあえず繋がっているようだ。

 

 

「OK。次はCチーム、Dチーム」

 

 

今度はC、Dチームに連絡を入れ、通信状況を確認する。

 

 

Cチームは京と華。Dチームはまふゆと岳人。

 

 

『うん。私と華は大丈夫』

 

 

『問題ないぜ』

 

 

Cチーム京と華、共に問題なし。

 

 

『こっちは大丈夫だよ』

 

 

『ちゃんと聞こえるぜ大和……にしても、何か俺様達、デートしてるみたいじゃね?いっそこのま―――』

 

 

『ふざけないの!』

 

 

インカムの奥から岳人の痛々しい叫びが聞こえてくる。抑止力として、まふゆを選んで正解だったと大和は思った。色々と問題はあるようだがDチームも心配はないだろう。

 

 

百代はいざとなった時の切札として導入する為、大和達の行動を共にし待機している。退屈だぞーと駄々を捏ねているが、ここは我慢してもらうしかない。

 

 

これで捜索チームの連絡確認は完了した。残りは後一組。そう、囮チームだ。

 

 

「―――続いて、囮チーム。サーシャ、モロ。状況は?」

 

 

 

 

商店街中心部。

 

 

サーシャと卓也、囮チーム。

 

 

「うん。今の所、怪しい人は見かけないよ」

 

 

卓也は周囲を見回しながら、現在の状況を伝える。今の所、異常と言える程の異常は見受けられない。

 

 

「ところでさ……大和」

 

 

唯一の異常があるとするならば、卓也の今の女装姿である。何故なら街中で、女装をしているのだから。

 

 

川神学園の女子制服を見に纏い、髪の毛を可愛らしく結んでいる卓也。スカートを手で押さえながら周囲の視線を気にしていた。

 

 

「下の辺りがスースーするんだけど……なんか、変な感じだよ」

 

 

『……モロ、目覚めても俺らは何も言わない。自分の思った道を進んでくれ』

 

 

「目覚めないから!」

 

 

からかう大和の声がインカム越しに聞こえてくる。複雑な心境の卓也だったが、悲しいかな存外様になっているのかもしれないと、心のどこかで思う自分がいるのだった。

 

 

『まあこの作戦が終わるまでの辛抱だ……そうだろ?サーシャ』

 

 

大和がサーシャのインカムに向けて通信を入れる。サーシャはインカムのマイクを口元に近づけながら、

 

 

「大和……いつかお前を殺す」

 

 

この屈辱と恨みは決して忘れないという感情を込めて言い放った。サーシャの表情には影が差し、俯き加減のまま地面に視線を向けている。

 

 

それもそのはず。何故なら今のサーシャはサーシャではない。“銀色の百合姫”、アレクサンドラ=ヘルなのだから。

 

 

夏の夜風に靡く銀色の髪。一点の曇りもない、宝石のように輝く翠色の瞳。白一色に染まった川神学園の制服。白と青のプリーツスカートが愛らしい。

 

 

誰がどう見ても、女性としか見間違いようのない可憐な容姿であった。ファミリーのメンバーがあまりにも綺麗過ぎて言葉を失ったくらいである。

 

 

メンバーの殆どが驚愕し、一部メンバーからは食べていいか?と暴走を始め(百代)、今すぐ抱かせてくれと血迷い出し(岳人)、サーシャは最悪極まりないシチュエーションを味わっていた。

 

 

『そう言うな、サーシャ。これも任務だ。後、俺も惚れかけた。いいや惚れた!』

 

 

豪語する大和。ガッツポーズを取りながら言う姿が目に浮かぶ。

 

 

『おい大和。退屈だ、何とかしろー』

 

 

インカムから百代のじゃれ合う声と大和の呻き声が聞こえてきた。どうやらヘッドロックをかまされているらしい。サーシャは小さくため息を付く。

 

 

『……ゲホッ、ゲホッ。そろそろ作戦の時間だ。みんな、準備はいいか?』

 

 

通信を切り替え、チームに作戦開始の合図を送った。全員、問題なしと回答が来る。

 

 

『よし。それじゃあ―――作戦開始だ!』

 

 

大和の合図と同時に作戦が開始された。サーシャは一旦通信を切り、卓也へと視線を送る。

 

 

「さあ、行きましょう。ボヤボヤしてると、置いていくわよ」

 

 

そう言って足早にスタスタと前へと進み出す。卓也はその後ろ姿を眺めながら後を追う。

 

 

歩き方と、そして姿勢。どこから見ても女性にしか見えない。女装を極めるわけではないが、思わず尊敬してしまう。

 

 

それともう一つ。

 

 

(何だかんだ言って、結構ノリノリだよね……)

 

 

喋り方も女性である。卓也は心の中で呟いた。口にしたら多分、逆鱗に触れ、生きて帰ってこれないような、そんな気がして。

 

 

 

 

作戦開始から数十分。

 

 

Bチーム、捜索を続けるも今の所怪しい人物はなし。

 

 

CチームとDチームも同様、異常はなく、特に問題なし。

 

 

そしてAチーム。

 

 

クリスと由紀江は、いかにも怪しそうな裏路地を探索していた。しかし、一向に怪しい人物は現れず、動きも気配も感じ取れない。

 

 

「………?」

 

 

しばらく周囲を警戒していると、クリスは路地裏に人影があるのを確認した。見覚えがある……クリスと由紀江が人影にゆっくりと近付いていく。

 

 

そこにいたのは、エヴァのクローンの一人である(ファオ)の姿だった。

 

 

Vは煙草をふかしながら夜空を見上げていたが、クリスたちの視線に気がつくと、一瞬驚いたような素振りを見せたが、すぐに興味を示さなくなった。

 

 

「……んだよ、誰かと思ったらおめぇかよ」

 

 

うぜーと呟きながら再び煙草をふかすV。クリスはレイピアを構えて警戒する。

 

 

「貴様、こんなところで何をしている!?それと未成年の喫煙は禁止だぞ!」

 

 

「真面目かよ、うぜーな。あたしが何しようと関係ねーだろ………それより、今日は連れはいねーのかよ?あの眼帯女」

 

 

きっとマルギッテの事だろう。Vからは、期待とそして復讐に満ちた表情が伺える。戦闘で敗れた事が気にかかっているようだ。

 

 

Vはまあいいかと話を終わらせると、煙草を加えたままクリスたちに顔を向ける。

 

 

「おめぇらこそ、ここで何してんだよ?売春?」

 

 

「なっ……断じて違う!ここで通り魔事件が頻発しているから、自分達はその犯人を追っているだけだ。まさか、これもアデプト……お前たちの仕業か!?」

 

 

身構えるクリスと由紀江。Vがここにいると言う事は、アデプトも通り魔事件に関わっている可能性がある。

 

 

「通り魔?………ああ、そういう事かよ」

 

 

クリス達を見てひひ、と意味深に笑うV。何か知っているらしい。するとVは吸っていた煙草を投げ捨て、足で火を消すとクリス達に背を向けた。

 

 

「ま、せいぜい頑張んな。それと通り魔はあたしじゃねーよ」

 

 

指の先から水銀を出現させ、まるでロープのように壁を伝って逃げ去っていく。

 

 

「待て!ポイ捨ては禁止だ!」

 

 

後を追おうと走り出すクリス。しかし相手は壁を伝って逃げている。到底追いつけない。

 

 

「クリスさん、私が追います!」

 

 

刀を手に、由紀江が疾走する。壁を蹴り上げながら、壁と壁を伝いながらVの後を追っていく。まさに超人的な技である。

 

 

「あ、待てまゆまゆ……く、仕方ない。とりあえず大和に連絡だ」

 

 

追跡は由紀江に任せよう。クリスはインカムのスイッチを押し、大和に連絡を入れた。

 

 

 

 

一方、司令塔チーム。

 

 

クリスからVがいたとの情報を得た大和。今回の通り魔事件、アデプトが絡んでいる可能性が浮上した。

 

 

しかしVは通り魔の犯人ではないという。だがVの反応からして、何か情報を知っている事は確かである。

 

 

と言う事は、犯人はエヴァ本人か。それにしては、川神学園の女性ばかり狙う理由が分からない。それに前回の戦いで、クローン体に化けている事から少なくとも本人が前線には出てくる事はないだろう。

 

 

(俺の考え過ぎか……?)

 

 

エヴァとの一件以来、敏感になり過ぎている事もある。もしかすると、思い過ごしなのかもしれない。Vがいたからと言って直接的に関わっているとは限らないのだから。

 

 

「こちら参謀。モロ、サーシャ聞こえるか?Aチームがエヴァのクローン体に遭遇」

 

 

『……Aチームの状況は?』

 

 

「今まゆっちが追ってる。けど、クローン体が今回の通り魔に関わってるかどうかは正直今は判断できない。とりあえず、引き続き囮操作を進めてくれ」

 

 

Vの追跡も気になるが、囮調査を中断するわけにはいかない。犯人は複数いる可能性もある。大和はサーシャに通達した。

 

 

『ええ……でも、もうその必要はないみたい』

 

 

静かに返ってきたサーシャの返答。それはつまり、通り魔事件の犯人が今、サーシャたちの目の前にいる事を意味していた。

 

 

 

 

人気のない商店街の路地裏で、サーシャと卓也の前に突然現れた怪しげな4人の男達。男達はギラついた目でサーシャ達を眺めながらニヤニヤと笑っている。

 

 

「よう、こんな夜中に二人で散歩かい?なんなら俺達と一緒に楽しい散歩しようぜ」

 

 

下品に笑う男A。

 

 

「銀髪のねーちゃん。俺達といいことしね?」

 

 

酒で酔っているのか、気色悪い笑みを浮かべて男Bがサーシャに視線を送る。

 

 

「おぉ……そこの小柄な嬢ちゃんガチで俺の好みだぜ。ああ孕ませてぇ」

 

 

男Cが息を荒げながら卓也をロックオンする。どうやらロリコンのようだった。何やら色々と危険である。

 

 

「くっくっく……そこの女子学生二人。大人しくしていたほうが身のためだ。抵抗しなければ、悪いようにはしないぞ」

 

 

恐らく男達のグループのリーダーであろう、男Dがサングラス越しに威嚇の視線を送る。スキンヘッドにサングラスの男。いかにもという人相であった。

 

 

(あれ?この人達どこかで会ったような……)

 

 

そういえば、以前にこのような風貌の男達と出会わなかっただろうか。見覚えがあるような、ないような……記憶が曖昧だと言う事は、さほど印象になかったのだろうと卓也は思考を打ち切った。

 

 

男達の恐喝。悪党の決まり文句にサーシャはもう聞き飽きたと言わんばかりに、大きく溜息を付いた。

 

 

そのサーシャの仕草に、癇に障ったのか男達の表情が険しくなる。

 

 

「貴様、何だその態度は!俺達をバカにしてるのか!?」

 

 

男Dがスキンヘッドに血管を浮かせながら怒りを露わにする。サーシャは冷めた表情でさらりと答えた。

 

 

「いいえ、別にバカにはしてないわ。そもそも、貴方達にそんな価値があるなんて到底思えないのだけれど」

 

 

「てめぇ……!」

 

 

激情した男達がそれぞれ武器を構えてサーシャ達に立ちはだかる。メリケンサック、ダガー、鉈……構えかたからして素人には見えない。戦い慣れしているようだが、サーシャにはそんなものは関係ない。目の前の敵は倒すのみ。

 

 

サーシャは地面に転がっていた鉄パイプを手に取り、くるくると手で弄ぶように回しながら持ち構えて、男達に先端を突きつけた。

 

 

「貴方達は――――震えた事があるかしら?」

 

 

その透き通るような、凛々しくも麗しい翠色の瞳で。

 

 

男達とサーシャが同時に駆け出し、両者激しく激突した―――――。

 

 

 

 

数分後。

 

 

商店街中にパトカーのサイレンが鳴り響いていた。商店街の中心部には何事かと多くの人集りが出来ている。

 

 

そこには風間ファミリー達の姿があった。サーシャ達もいる。

 

 

サーシャ達を襲おうとした通り魔事件の犯人達は、サーシャにあっさりとボロ負けして終わった。サーシャいわく、あの男達はクェイサーであったらしい。

 

 

男達は通り魔事件の主犯として逮捕され、手錠をかけられ警察官達に連行されている。

 

 

「ってか、こいつらまだいたのか」

 

 

百代は哀れみの視線を逮捕された男達に向けている。百代達は彼らの事を知っていた。以前、登校中に橋で出会い、百代が一瞬で葬り去ったクェイサー集団、ウンウン☆マイスリーとヘリウム三兄弟五男である。

 

 

彼らは百代にぶち殺され、さらには一子に吹き飛ばされてしばらく経った後、聖乳(ソーマ)補給の為に商店街で川神学園の女子生徒を立て続けに襲っていたらしい。

 

 

「一応聞くが、こいつらはアデプトとは関係……なさそうだな」

 

 

クリスがサーシャ達に尋ねようとして、途中でやめた。アデプトはサーシャ達が苦戦するような難敵だ。こんなにあっさりとやられる筈がない。

 

 

「この兄弟、一体何人いるのよ……」

 

 

ヘリウム三兄弟四男、五男……何度も会っているのか、まふゆにとっては馴染みの雑魚キャラである。この分だと六男、七男、まだいそうな気がする。

 

 

「ま、これで犯人は捕まったし、作戦成功だな!」

 

 

キャップがその場を締めくくり、作戦は無事に終了した。これで全員、食券300枚という報酬を勝ち取ったのだった。

 

 

しかしその中で一人、由紀江だけが浮かない顔をしている。それも当然、途中で遭遇したVを追跡し、結果として取り逃がしてしまった。そんな由紀江を大和が諭す。

 

 

「気にすんな、まゆっち。とりあえず犯人は捕まったんだ」

 

 

大和の気遣いが嬉しい……由紀江の重い気持ちが、少し和らいだ気がした。

 

 

「はい……そうですね。ありがとうございます。大和さん」

 

 

表情はまだ少し暗いままだが、由紀江は何とか笑顔を作る。何せアデプトの動きが掴めたかも知れないと言うのに、それを逃してしまったのだから。

 

 

 

これで通り魔事件の犯人は捕まり、事件は解決した。これで商店街に平和が戻る。作戦を終えた大和達は満足げに基地へと戻っていった。

 

 

 

 

「はぁ……はぁ、げほっ、げほっ!」

 

 

商店街の外れ。川神学園の女子生徒が激しく息を切らし、民家の塀の壁に背中を預けもたれかかっている。

 

 

額には玉汗をかき、激しく高鳴る心臓を手で押さえるように、鼓動に静寂が訪れるのをずっと待ち続けていた。

 

 

まゆっちの親友、伊予である。伊予もファミリー達同様、商店街を訪れていた。

 

 

深夜の商店街には近付くな……無論、裏路地や人気のない道を通る気はない。ただ単純に買い物にやってきただけだった。

 

 

その帰り道、伊予は商店街の細道でよく見知った人影が見え、何事だろうと後を付けていた。何故こんな時間にいるのだろう……危ないから近付くなと言われている筈なのに。その影を、さらに追い続ける。

 

 

そして、後を付けたその先に、伊予は見てしまった。

 

 

「………!」

 

 

思わず、悲鳴のような声を上げそうになり口元を抑える伊予。伊予はにわかには信じられないような光景を目の当たりにした。

 

 

「ん……は、あぁ……う……」

 

 

壁に押し付けられ、制服を無造作に剥かれ、乳房を露わにした川神学園の女子生徒が一人。そしてその生徒を飢えた獣のように、身体中を舐め回す、見覚えのある女子生徒。

 

 

女子生徒は、今にも意識が飛んでしまいそうなくらい、苦悶と快楽の表情を浮かべていた。それに対し、もう一人はお構いなしに何度も舐め続けている。

 

 

まるで男女の淫行を見ているようだった。ただそれが女同士だけの事。しかし伊予には刺激が強過ぎた。

 

 

否、そんな事はどうでもいい。何故、どうして“彼女”がここにいるのか理解できない。ましてや女子生徒を襲うなど考えられない。

 

 

まさか、一連の通り魔事件の犯人は彼女なのだろうか……考えたくもないような憶測が伊予の頭を苛ませる。

 

 

違う。何かの間違いだ……足が震えが止まらない。その時、

 

 

「……誰かいるの!?」

 

 

女子生徒の身体を舐めていた彼女が伊予の存在に気付く。視線が合い、伊予ははっと我に返り、反射的に踵を返しその場から走り去っていった。

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 

心臓の鼓動が落ち着きを取り戻す。伊予はその場に座り込み、大きく息を吸い、酸素をいっぱいに取り込んだ。

 

 

(違う、よね……私の見間違いだよね……)

 

 

きっとそうに違いないと、何度も自分に言い聞かせる。彼女があんな事をする筈がない、それは自分が一番よく知っていると。

 

 

(そうだ……明日、本人に聞いて確かめれば……)

 

 

それが最も適切な手段であり、確実な方法。伊予は明日、彼女を尋ねる事にした。

 

 

疑っている訳ではない。彼女を信じたい。いや、信じているからこそどうしても聞かなければならなかった。

 

 

自分の親友である――――黛由紀江に。

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