聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい!   作:みおん/あるあじふ

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48話「プロジェクト“Q”」

サーシャとまふゆ、カーチャと華はユーリと共に九鬼家を訪れていた。揚羽に事の真相を聞くためである。

 

彼らは九鬼家の客間で、揚羽がやってくるのを待ち続けていた。

 

「武士道プラン……由紀江ちゃんのクローン……もう、何が何だかわかんないよ。一体どういう事なの?」

 

まふゆにも現状を把握し切れていない。まふゆだけではない。サーシャも、華もだ。知っているのはユーリとカーチャだけである。

 

「事態は深刻です。由紀江さんのクローンが現れたという事は、アデプトも本格的に動いているという事でしょう」

 

テーブルに肘をつき、手を組むユーリの表情は険しかった。最強のクローンを作り出すという尼崎の目的はユーリ達にも情報が届いている。そして、その裏でアデプトが潜んでいるという事も。

 

「けどよ、何でまゆっちのクローンが……」

 

華の素朴な疑問だった。確かに由紀江も四天王の一人で、かなりの強さを誇るが、もし選ぶとするならば百代の筈である。

 

「恐らく尼崎は、研究の第一段階として手始めにあいつのクローンを作り出したんだ……俺達と戦わせ、クローン自身の戦闘データを取るためにな」

 

つまりは、実験体だとサーシャは推測する。由紀江の前にエヴァが現れたのも、全ては由紀江の血液と細胞の一部を採取する為だと考れば、話しは全て繋がる。

 

最強のクローンを完成させるための布石。それだけの為の存在として生を与えられた。酷い……とまふゆは唇を噛む。

 

現在の所、クローン黛の行方は不明。由紀江、麗との戦闘以降姿を見せていない。アデプトと尼崎の情報も絶たれたままである。事態を知った九鬼財閥が、全総力で尼崎の操作を行っているが……その結果は、これから揚羽が全てを話してくれるだろう。

 

しばらくして、揚羽がようやく姿を表した。揚羽の表情は一段と険しい。揚羽は待たせてすまないと一言詫びを入れ、

 

「調査した結果、詳細が判明した。まずはこれを見てくれ」

 

これまで不明だった尼崎の情報が判明したと言う。すると部屋の証明が突然薄暗くなり、サーシャ達の前に巨大なスクリーンが天井から降りてくる。そこに映し出されたものは、尼崎の真の目的と、計画の詳細が記されていた。サーシャ達は一斉にスクリーンへと視線を向け、驚愕する。

 

「これが尼崎のクローン計画……プロジェクト(クェイサー)だ」

 

揚羽から出たワードこそが、尼崎の真の目的であった。

 

“プロジェクトQ”。武士道プランを応用したクローン計画。現存している武士娘の血液と細胞を培養し、さらにクェイサーの遺伝子を組み合わせクローンを誕生させる。これにより、正規のプランよりも人材不足の解消が促進するという計画内容である。

 

「表向きは……ね。けど実際はそうじゃない」

 

カーチャの言葉に、揚羽はうむ頷いた。スクリーンが切り替わり、別の情報が映し出される。映し出されたのは尼崎が残した研究記録だった。

 

「我々九鬼財閥を潰す事が、奴の本当の目的だった……誕生させた、クローンのクェイサーを使ってな」

 

この情報から読み取れるのは、尼崎の個人的な復讐。考えを認めてくれなかった上層の人間に対する報復である。

 

「成る程。彼らとどんな利害が一致したのかは分かりませんが、九鬼からの資金源を失った尼崎にとって、アデプトの財力は必要不可欠だったのでしょう」

 

それでアデプトと手を組んだ、とユーリが推測した。本来クローン自体は誕生させるのに数十年もの時間を有するが、アデプトの技術を持ってすれば造作もない。九鬼を潰す事も早い段階で行なう事も可能である。

 

「尼崎の計画は分かった。だが当の本人は今どこにいる?」

 

サーシャ達が知らなければならないのは尼崎の研究施設、そして潜伏先である。だが肝心な尼崎の居場所は未だ掴めていない。アトスと九鬼財閥の情報網をもってしても分からないのだ……恐らくアデプトが手を回して目暗ましをしているに違いない。

 

一刻も早く計画を止めなければ、取り替えしのつかない事になる。いくら九鬼の最強の従者部隊でも完成したクローンのクェイサーの大群と、アデプトのクェイサーを相手にすればただでは済まされない。どんな結果にせよ、九鬼財閥への大打撃は免れないだろう。

 

サーシャ達の取る行動は、ただ一つしかない。

 

「クローン黛を探して、情報を吐き出させるしかなさそうだな」

 

まずは、クローン黛と接触しなければならない。捕縛して尼崎の居場所を聞き出すしか手立てはなさそうだ。

 

これで用は済んだ……とサーシャ達が部屋を出ようとしたその時、あずみが駆け足で部屋に入り、揚羽の側までやってくる。

 

「揚羽様、ご報告です!尼崎十四郎を発見致しました」

 

思わぬ朗報だった。だが表情は暗い。あまり良い情報ではないようだが……揚羽やサーシャ達に緊張が走る。

 

「尼崎の身柄は?」

 

「それが……既に事切れていました」

 

言って、あずみは状況の説明を始めた。九鬼従者部隊が捜索した所、親不孝通りの裏路地のゴミ捨て場で尼崎を発見したのだという。ただし遺体という形で。

 

尼崎は身体中を切り刻まれ、水銀が至る所に付着していた。死因は出血多量によるショック死。死後数時間が経過していたらしい。

 

「どういう事だ……?首謀者の尼崎がなぜ……」

 

事態が急変し、混乱する揚羽。尼崎が死んだ……これは一体、何を示しているのだろうか。

 

だがサーシャ達には理解できる。付着した水銀……考えられる可能性は、一つしかあり得ない。

 

「……裏切られたわね、アデプトに」

 

カーチャが目を細める。アデプトが最初から欲しかったのは武士道プランのデータ……尼崎は利用されていたのだ。用済み扱いされ、エヴァによって始末されたのだろう。狂気の研究の果てに辿り着いた、哀れな結末である。

 

これで全てが振り出しに戻ってしまった。尼崎が死んだ以上、後はアデプトの人間を追う他ない。それにアデプトの目的も、まだ判明していないのだから。

 

静まり返った空気の中、ユーリの携帯が鳴り始める。ユーリは失礼と言って携帯を耳に当てた。電話の相手は麗である。

 

『逃亡したクローン黛の手掛かりを突き止めたわ』

 

連絡の内容は、クローン黛の居場所である。不良達の溜まり場で賭博決闘があるらしく、そこにいる出場者にクローン黛の姿を見たものがいたようだ。決闘中に浮浪者の如く突然現れ、刃向う挑戦者全てを斬り倒しているらしい。

 

ユーリは電話を切り、サーシャ達に全てを託す。

 

「皆さん、後は頼みます」

 

場所は工業地区周辺に位置する廃墟ビル跡。決闘は深夜に行われている。

 

その場所にクローン黛がいる……サーシャ達は早急に動き出した。

 

 

 

 

川神市工業地区、廃墟ビル内。

 

鉄骨を剥き出しにしたコンクリートの壁が立ち並ぶ、殺風景な工業地区。その薄暗いビルの下で、何人もの不良達の喧騒が響いていた。

 

そこに不良達が囲っている大きな広間に、一人の不良とクローン黛の姿があった。不良達の間で行われている決闘である。

 

クローン黛は刀の切っ先を、怯え切って尻餅をついている不良の喉元に突き付けていた。

 

「ひっ……ま、待ってくれ、殺さないでくれ!」

 

不良はクローン黛との決闘に敗れてしまい、必死に命乞いをしていた。だがクローン黛は微動だにせず、刀を突きつけたまま不良を見下ろしている。

 

その瞳に、もはや感情はない。虚ろで色の宿らない濁った瞳。ただ挑戦者を倒し続けるだけの、機械的な日々。

 

しばらくして興ざめしたのか、クローン黛が刀を退き、つまらないものでも見るように、

 

「……行け」

 

ただそれだけを不良に言い残し、背を向けてビルの奥へと消えていった。不良はすぐ立ち上がると、一目散に逃げていく。

 

決闘が終わった後も、不良達の喧騒は耐える事なく続いていた。

 

 

 

 

廃墟ビルにある個室で、一人の男が手に持った札束を数えてはニヤニヤと笑っていた。

 

無精髭を生やした人相の悪い男……彼の名は釈迦堂刑部。かつて川神院の門下生であったが、とある理由で追放された人物である。

 

「今日もたんまりと儲けさせてもらったぜ。こりゃ剣士様様だわな……」

 

ひひ、と不気味に笑う釈迦堂。釈迦堂は突然ふらりと現れたクローン黛を決闘に招き入れた。不良達が集まって行われる“賭博決闘”。彼女をチャンピオンに仕立て上げ、彼女に挑む挑戦者を倒させては不良達から金を巻き上げていた。

 

「おかげでこっちは懐があったまってしょうがねぇわ………なぁ、黛由紀江ちゃんよ」

 

釈迦堂は個室の壁に静かに背を預けている、クローン黛に話しかけた。釈迦堂自身、クローン黛を本物の黛由紀江であると思い込んでいる。無理もない、姿形も瓜二つなのだから。

 

「……興味ない」

 

素っ気なく力のない言葉を返すクローン黛。彼女の返答はいつもこうだ。つれねぇなあオイと苦笑いする釈迦堂。

 

クローン黛は小さくため息をつくと、個室から出ようと踵を返す。

 

「おい、どこ行くんだ?今日はもう決闘はお開きだぜ?」

 

釈迦堂の言葉に、ピタリと足を止めるクローン黛。そして、

 

「……どこでもいい」

 

まるで他人事のように呟き、ふらりと個室から出て行った。まあいいかと釈迦堂は特に気にする様子はなく、彼女の背中を見送っていた。

 

(……にしても、まさか黛十一段の娘が転がり込んでくるとは思わなかったぜ。理由はわからねぇが相当ヤんでやがる)

 

釈迦堂は再びほくそ笑んだ。今の彼女は自暴自棄になり、何もかも無関心である。精神的に大きな打撃でもあったのだろうか……だが、釈迦堂にとっては好都合だった。この嬢ちゃんはいい金づるになると。

 

最も、釈迦堂には心当たりが無くもなかった。何故なら黛十一段を襲ったのは、他でもない彼だからである。

 

(ま……しばらくは一儲けさせてもらうぜ)

 

釈迦堂は嗤う。今夜はいい酒が飲めそうだと、ギラついた目で巻き上げた金を眺めていた。

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