聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい!   作:みおん/あるあじふ

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50話「願いを剣に変えて」

由紀江に思いを託されたサーシャと、存在を示そうと妄執に駆られたクローン黛。二人の刃が激突し、激しく火花を散らす。

 

 

「私は……私は黛由紀江だ!本物は――――私だ!!」

 

 

私が本物になると、自分の存在意義の為に剣を取るクローン黛。その目にはもう何も映らない。彼女は“黛由紀江”としての生を欲している。

 

 

だが由紀江が―――サーシャが望むのは、“クローン黛自身”としての新しい生である。その為には、クローン黛を縛るしがらみを断ち切らなければならない。

 

 

それはサーシャにしか出来ない。だからサーシャは戦う。願いを、剣に変えて。

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

 

クローン黛の斬撃を払い除け、サーシャが反撃に映る。サーシャが繰り出す剣技は、クローン黛と引けを取らない程に互角の戦いを繰り広げていた。

 

 

「「――――っ!?」」

 

 

サーシャとクローン黛の最後の斬撃が衝突し、反発して互いに吹き飛ばされていく。

 

 

地面には、凄まじい剣圧で抉られた痕跡が残されていた。その衝撃が、威力の大きさを物語っている。

 

 

「“致命者サーシャ”………知っているぞ、鉄の元素使い!」

 

 

クローン黛の敵意が一層強さを増す。アデプトによって生み出されたクェイサーだ……知っていても不思議はない。

 

 

クローン黛は左手に持つロッドを振りかざし、周囲に水銀を発生させた。術者の殺意が込められた、液体金属という名の悪魔がサーシャに襲いかかる。

 

 

だが、エヴァと戦闘しているサーシャは水銀の特性は知り尽くしている。対処はできるが、相手はそれに加えて由紀江そのものなのだ……油断はできない。

 

 

何故なら、エヴァと由紀江を同時に相手にしているようなものなのだから。

 

 

「――――貫け!!我が血の楔よ!」

 

 

サーシャの血液で錬成された楔が、迫り来る水銀を迎え撃つ。楔は水銀に突き刺さり、水銀は固体となって砕け散る。

 

 

「見切ったぞ!」

 

 

その瞬間、次なる一手が待っていた。まるでサーシャの錬成から生まれる隙を狙っていたように、クローン黛の姿がサーシャの眼前に現れる。

 

 

その疾風の如き斬撃が、サーシャの頭を両断しようと振り下ろされるが……サーシャは寸前で受け止めた。斬撃の衝撃と重みで身体が軋みを上げる。

 

 

それでもクローン黛の攻撃は終わらない。一撃、また一撃と剣戟を叩きつけ続ける。反撃の隙すら与えない彼女の技は、クローンといえども―――否、クローンであるが故に黛流そのものを体現していた。

 

 

(くそ……隙がない!)

 

 

防戦一方のサーシャ。クローン黛の剣の重みで、錬成した日本刀の耐久度が失われていく。それ程の威力なのだ、鋼の如き鉄にも限界がある。

 

 

「砕けろおおぉぉ!!」

 

 

ついに、クローン黛の最後の一撃がサーシャの日本刀を粉砕した。日本刀は真っ二つに折れ、無残にも砕け散っていく。サーシャは次なる武器を錬成するが……この間合いでは間に合わない。連続する剣戟がサーシャの身体を切り刻み、衝撃で地面を転がっていく。

 

 

身体中には、無数の切り傷。サーシャは吐血しながら地面に伏していた。

 

 

黛流……想像していた以上に強いものだった。その姿を見下ろすように、クローン黛が狂ったように笑い出す。

 

 

「く……く、くくははははははははははははははは!これが、これが本物の力だ!私こそが本物だ!黛由紀江だ!!!!」

 

 

サーシャに一矢報いた事により、強さを示したクローン黛。それはクローン黛にとって、同時に自分が黛由紀江である事の証明だった。強さこそが、その証であると。

 

 

「……違う」

 

 

サーシャが小さく呟きながら、口についた血を拭いゆっくりと立ち上がる。それは、間違いである……彼女の全てを正さなければならない。

 

 

「強さだけが――――あいつの……由紀江の全てじゃない!!」

 

 

サーシャは再び日本刀を錬成し、もう一度クローン黛に向き直る。身体中は傷だらけだが、戦う事はできる。まだ立ち上がるか……とクローン黛の表情が歪んだ。地面に倒れ伏せていればいいものをと、目障りに思うように。

 

 

「俺は……お前を救ってみせる」

 

 

サーシャは負けられない。由紀江と交わした、彼女を救うという約束を。そのサーシャの言葉にクローン黛は歯を食いしばり、怒りを露わにする。

 

 

「私は誰の救いもいらない。そんなものは――――必要ない!!」

 

 

誰の助けもいらないと激情するクローン黛。だがサーシャは感じ取っていた。その感情の奥に潜む、クローン黛の悲鳴が。

 

 

彼女は今、それを閉ざしている。こじ開けて壊さない限り、彼女は救えない。

 

 

「俺には聞こえるぞ………お前の心の叫びが。お前の悲鳴が」

 

 

「何……?」

 

 

サーシャの言葉が、クローン黛の表情を一変させた。まるで、心の内を見透かされたような感覚。何も思っていない……その筈なのに感じてしまう不快感。この不快感が、クローン黛をさらに苛立たせた。その苛立ちを、無理やり憎悪で塗り潰す。

 

 

「黙れ……それ以上喋るな!」

 

 

クローン黛の刀を持つ手は、怒りで震えていた。それは怒りだけではない、自分では気付かない恐怖から来るものであるとサーシャは勘付いていた。

 

 

自らが、黛由紀江という存在でなくなるという恐怖。彼女は、その目的意識を必死に守り抜こうとしている。

 

 

それがなくなれば、彼女は崩壊してしまうだろう。

 

 

だからこそ、終わらせなければならない。クローン黛をその呪縛から解放する為に。

 

 

「俺は、あいつの願いを……この剣にかけて戦うと決めた」

 

 

サーシャの左頬の聖痕が紅く発光する。今、サーシャの心は震えていた。由紀江に託された聖乳と思いが力となり、武器が、血が、そして心が研ぎ澄まされていく。

 

 

サーシャはもう一度日本刀を構え、再びクローン黛と対峙した。

 

 

「さらけ出せ……お前の心の震えを!」

 

 

彼女の閉ざされた心を開く……この一撃で、この刃で。全てを終わらせるべく、サーシャは走り出した。

 

 

「黙れええええええええええええええええぇぇぇええ!!」

 

 

感情を爆発させながら、クローン黛も疾走する。互いに渾身の一撃をぶつけ、この戦いに終止符を打つ。徐々に距離が縮まり、二人の刃が交差する。

 

 

「―――――おおおおおおっ!」

 

 

「―――――はあああああっ!」

 

 

 

――――――その最中。

 

 

 

クローン黛の視界に、思わぬものが写り込んだ。

 

 

「あ―――――」

 

 

ほんの一瞬だけ、サーシャの姿に、由紀江の姿が重なっているように見えた。幻覚か……ありえない。由紀江の聖乳を吸い、共に戦っているとでもいうのだろうか。

 

 

ただ一つ……クローン黛はそれを目にして、始めて“怖い”という感情が生まれた。何故なら、自分のなろうとしていた黛由紀江があまりにも遠過ぎて、手の届かないものだと感じてしまった自分がいたから。

 

 

その時にはもう、動揺して剣が鈍り始めていた。

 

 

 

―――由紀江の持つ、優しさ。

 

 

 

―――由紀江の持つ、思いやり。

 

 

 

―――由紀江の持つ、誰であろうと受け入れようとする心。

 

 

 

自分にはそれがあるだろうか……いや、ない。ただ一方的に本物を消し去り、黛由紀江であろうとしていた自分。

 

 

果たして、黛由紀江の本来の姿なのか……そうではない。それは決して、黛由紀江という存在ではない。クローン黛は、改めて自覚した。

 

 

――――自分は、黛由紀江にはなれない。

 

 

「―――――っ!?」

 

 

二人の刃が重なり合う。だがこの時点で、彼女は受け入れていた。この戦いは、初めからクローン黛の敗北であると確信する。

 

 

そしてサーシャの刃が迫る間際、クローン黛の脳裏にある言葉が浮かんできた。

 

 

“―――――変わらなきゃって、そう思ったんです”

 

 

ある日、黛由紀江になりすまし風間ファミリーに言った言葉。その言葉は、自分自身に向けてのものだったのかもしれない。

 

 

今ならば理解できる。本当の意味で変わりたい……生まれ変わりたいという、自分自身の心の叫びが。

 

 

(そう、か……)

 

 

自分は、“誰かになろうという事”以外を知らなかったのだ。他の誰でもない、新しい自分になればいい。それを教えてくれたのは由紀江。その敵であるクローン黛にも手を差し伸べようとする優しさが、サーシャを通してクローン黛の心を“震わせた”のだった。

 

 

 

 

「――――――」

 

 

「――――――」

 

 

サーシャとクローン黛の刃が交差し、背を向けるような形になる。互いに静止したまま動かない。廃墟ビル内に、冷たい風が吹き抜けていく。

 

 

しばらくこの間が続いたが、先に動きを見せたのはクローン黛だった。クローン黛は剣を落とし、力なく地面に倒れ伏せる。サーシャは彼女に背を向けたまま、

 

 

「――――――罪人に贖いを」

 

 

静かに、そう口にした。サーシャと、そして戦いを見届けていたまふゆは祈りを捧げる。彼女に巣食っていた呪縛が、解き放たれる事を願って。

 

 

この戦いはサーシャと――――由紀江の勝利に終わった。

 

 

 

 

 

一方、激戦を繰り広げていたカーチャと釈迦堂。この戦いにも終わりが見え始めていた。

 

 

カーチャが瓦礫に埋まった銅を操り作り上げた瓦礫の銅巨人(スクラップ・ゴーレム)と、それを呆然と見上げる釈迦堂。カーチャは巨人を従え、釈迦堂という敵を討ち滅ぼさんと、女帝(エンプレス)の裁きを下そうとしている。

 

 

巨人はまるで呻き声を上げるように、瓦礫でできた身体の節々をギリギリと、不快な音を鳴らしていた。

 

 

「……く、くくく」

 

 

戦局が絶望的にある釈迦堂。それにも関わらず、釈迦堂は笑っていた。それも心底楽しそうに。絶望さえも、快楽として楽しむように。

 

 

そして狂ったように、この状況に歓喜しながら。

 

 

「久々に身体中が震えたぜ……俺はこんなにも強えのに、周りはどいつもこいつも弱え奴ばっかりだったからなぁ」

 

 

瓦礫の巨人、そしてカーチャという強敵が釈迦堂を倒そうとしている。そう考えただけで、愉快で堪らない。相手が強ければ強い程、捻り潰したくなるその感情は、戦闘狂だからこそ持つ愉悦である。

 

 

そんな釈迦堂を、カーチャは笑わせないでと嘲笑う。

 

 

「自分が強い?ふん、どこまでおめでたいのかしら……身の程を知りなさい」

 

 

カーチャの声に反応した巨人が動き出す。巨人は口を開け、奥から四つの柱が突出した。

 

 

それは――――電磁放射砲(レールガン)の役割を果たす瓦礫仕掛けの兵器だった。主砲が徐々に放電し始め、電力のチャージを開始する。

 

 

それが意味するものは、まさに死へのカウントダウン。

 

 

「受けなさい――――女帝の鉄槌を!」

 

 

充填完了(フルチャージ)。莫大な電力エネルギーが収束し、圧縮されていく。もはや兵器の域を超えた裁きの光。全てを撃ち抜くイワンの雷撃。釈迦堂の命は、カーチャによって握られていた。

 

 

Вход(撃て)――――――――!!!」

 

 

カーチャの掛け声と共に、女帝の一撃が釈迦堂に向けて解き放たれる。

 

 

だがその直前、

 

 

「……と、いいたいとこだが」

 

 

釈迦堂が口元を吊り上げながら呟いた瞬間、カーチャのいる上空から、大きな気配が近づいてくる。カーチャが気付いた時にはもう、その気配の正体は巨人の首に致命的な一撃を与えていた。衝撃で電磁放射砲の砲撃が停止する。

 

 

「―――――オラオラオラァ!ぶっちぎれろぉおおお!!!!!!」

 

 

その一撃はまるでチェーンソーの如く、禍々しい気を纏った細長い金属棒が、回転しながら巨人の首を切断していた。

 

 

やがて巨人の首を繋いでいた瓦礫が粉々に破壊され、同時にごとりと巨人の頭が落下していき、最後には跡形もなく崩れ去った。

 

 

そして巨人を狩り取った一人の影が、釈迦堂とカーチャの前に降り立ち、姿を見せる。

 

 

現れたのはツインテールで、身長はカーチャより一回り上の小柄な少女だった。その手には首を切断したであろう、ゴルフクラブが握られている。恐らく釈迦堂の仲間か……余計な邪魔が入ったとカーチャは舌打ちをする。

 

 

「まあこういうわけだ。そろそろ潮時なんでな。ここいらで幕を引かせてもらうぜ」

 

 

残念だったなと、釈迦堂は笑う。このまま逃げるつもりか……それはカーチャが許す筈がない。するとツインテールの少女がカーチャの前に立ちはだかり、ゴルフクラブを回転させ始めた。

 

 

「なあ師匠。コイツぶったぎっていい?ウチの肩慣らしにはちょうどよさそうだし」

 

 

少女―――板垣天使(えんじぇる)の露出した左肩には紋章が刻まれていた。禍々しいオーラを纏った黒き紋章。世間を騒がせている謎の元素回路である。しかも今までとは違う……一子がつけていたものとは、力の濃度が明らかに増していた。

 

 

「余計なことすんじゃねぇ、さっさと引くぞ。そのうち思う存分暴れさせてやるからよ」

 

 

今日は楽しませてもらったぜ、とそう言って、釈迦堂はポケットから煙幕を取り出し、カーチャに向かって投げつけた。周囲に煙が広がり、一時的に視界が奪われる。煙が収まった頃にはもう、釈迦堂と天使の姿はなかった。

 

 

逃げられた……しかし、今更追った所で追いつけまいとカーチャは諦めた。またいずれ会う事になるだろうと、そう思いながら。

 

 

「………(ジェレーザ)のやつも終わったみたいね」

 

 

カーチャはサーシャ達のいる、廃墟ビルの方角へと視線を向ける。クローン黛との戦いも終わりを迎えたようである。カーチャは隠れていた華を連れ、廃墟地を後にするのだった。

 

 

 

 

突然、カーチャ達の前に現れた釈迦堂の存在。謎の元素回路を装着した天使。隠されていた謎が、徐々に明らかになる。

 

 

そして、由紀江とサーシャ達を巻き込んだクローン黛の事件。いずれは、大和達にも知らされる事になるだろう。

 

 

事態は静かに収束していく。束の間の安息へと。

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