聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい!   作:みおん/あるあじふ

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53話「新しい自分へ……」

クローン黛が息を引き取ったという連絡を受け、ユーリはアトスの人間を派遣し、その遺体を一時的に川神院へと保管。後日司法解剖が行われる。

 

 

大和達もその事実を知り、悲しみにくれた。由紀江本人はショックのあまり、未だ気持ちの整理がついていない。その為学園も休み、現在は部屋から出ない状況であった。

 

 

大和達とも、今は話したくないと拒んでいる。クローン黛の死は、彼女にとってあまりにも大きな心の傷となってしまった。

 

 

今は、由紀江が立ち直るのを待つしかない……これは由紀江自身の問題なのだ。この悲しみを、乗り越える事ができるまでは。

 

 

 

そして、クローン黛の遺体が運ばれ時間が経ったその日の夜。それは起こった。

 

 

「う……ぐす……」

 

 

クローン黛の死を思い出してしまい、泣き続ける由紀江。本人は眠ってはいるが……夢でその出来事が繰り返されているのだろう、まるで魘されているように悲しみに暮れていた。

 

 

泣き続ければ泣き続ける程、由紀江の悲しみが膨れ上がる。傷は一生癒える事はない。悲しさで胸が締め付けられていく。

 

 

「ん……ん…ぐすっ……ん……」

 

 

悲しさが心が埋め尽す。そして同時に、身体の中の何かが、吸い出されるような感覚に襲われる。全身が痺れ、悶え、びくびくと身体を震わせる。

 

 

「ん……あっ……うぁ………!」

 

 

心を支配していた悲しさが、表現のしようがない何かに塗り潰されていく。身体……特に胸の当たりが過敏に反応し、思わず声を出さずにはいられない。

 

 

「うぁ……あ、あっ………あぁ!?」

 

 

夢でも見ているのだろうか。あまりの悲しさに、とうとう慰めに耽るまでに自分は堕ちてしまったのか。この何とも言えない感覚に耐えるように、布団のシーツを握りしめる。

 

 

それでも、この感覚は―――快楽は終わらない。

 

 

「あ……あぁ!うっ……ん!?」

 

 

快楽に責められ続け、身体が敏感に反応を示し始める。大量の汗をかき、必死に耐えようと我慢するが……もう耐えられない。彼女は絶頂を迎えようとしていた。

 

 

そして、

 

 

「あ……んんううううううううううううううううううぅ!?」

 

 

絶頂し、身体をびくんと震わせた。この甘い快楽という夢から覚めた由紀江は布団から飛び起き、今が現実である事を再確認する。

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ……!」

 

 

息を荒げながら、飛び跳ねるように鼓動を打つ心臓を押さえ、息を整える。酷い―――というより妙な夢だった。汗で衣服が肌に張り付いている。

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 

ようやく呼吸の乱れがなくなり、落ち着きを取り戻す。着ていた衣服は前のボタンが全て外れ、下着も取れ、素肌が露わになっていた。

 

 

「………え?」

 

 

そこで由紀江は気づく。何故、素肌が見えているのだろう。ボタンを外した覚えも、下着を取った覚えもない。

 

 

夢で魘されている内に自分で取り去ったのだろうか。あり得ない……事もないかもしれない。あんな夢を見ていたのだから。

 

 

「――――!?」

 

 

一瞬、由紀江の布団がもぞりと動いた気がした。身構える由紀江。誰か侵入したのか……それならば寮へ入った時点で気を感じる筈である。悲しみにくれていたとはいえ、気を感じる程度の事はできる。

 

 

「ひっ………!?」

 

 

布団は、やはり動いていた。何かいる。しかし気配は感じない。

 

 

では―――この布団でモゾモゾと蠢いている物体は一体なんなのだろうか。しかし、襲ってくる様子はない。由紀江は正体を確かめようと、警戒しながら部屋の電気をそっと……つけた。

 

 

そこには―――――。

 

 

「―――――うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」

 

 

島津寮に、この世の物とは思えない程の由紀江の絶叫が響いたのだった。

 

 

 

 

「どうしたまゆっち!」

 

 

「まゆまゆ!」

 

 

由紀江の絶叫を聞きつけた大和とクリス、キャップと忠勝が由紀江の部屋へと駆け込んだ。ここは男性侵入禁止だが、そんな事は言っていられない。

 

 

由紀江の身に何か起きている……大和はノックもせずに、由紀江の部屋の襖を開けた。

 

 

「まゆっち!大丈夫………か」

 

 

部屋の惨状に言葉を失う大和。そこには泡を吹きながら気絶して伸びている由紀江の姿があった。由紀江は素肌を露わにしながら目を回して倒れている。忠勝は目を隠し、キャップは後ろを向き、大和は由紀江に釘付け。咄嗟に京が見ちゃダメと大和に目隠しをする。

 

 

何故由紀江が気絶しているのだろうか。そして、由紀江の布団の中で蠢く何か。その蠢く何かが由紀江を気絶させた元凶である事は、間違いない。

 

 

敵か……京は弓を、クリスはレイピアを構える。刺客か、アデプトか、それとも……部屋中に緊迫した空気が流れる。

 

 

やがて、布団を被っていた何かに動きが見えた。動いた表紙に布団がずれゆっくりと落ち、布団を被っていた何かの姿が現れる。大和達は息を飲んだ。

 

 

その正体は。

 

 

「「「「な―――――」」」」

 

 

思わず絶句する大和達。何故ならそこにいた人物は………。

 

 

「…………」

 

 

死んだ筈の、全裸状態のクローン黛だった。

 

 

 

 

「これがまゆっちの―――!」

 

 

「大和は見ちゃダメーーーーーーーーーー!!」

 

 

 

 

 

数時間後、当事者と現場にいた大和達は川神院へと招集された。

 

 

川神院の客間には現場に居合わせた大和達と、由紀江。そして鉄心とユーリ。サーシャ達一行が集まっている。

 

 

そして、鉄心の前で正座させられているクローン黛(全裸だったので服を借りた)。

 

 

これは一体どういう状況なのか。何故死んだ筈のクローン黛が、由紀江の部屋に侵入したのか。ともかく、本人から聞き出さなければならなかった。

 

 

「ふむ……では、話を聞かせてもらおう。クローン黛」

 

 

咳払いして、早速クローン黛に問い質す鉄心。無論、クローン黛が妙な真似はしないよう、修行僧やサーシャ達は万全な状態である。もし危害を加えれば容赦はしないと、鉄心も目で訴えかけている。

 

 

しかし、クローン黛は特に敵意を向けているわけでもなく、怯えている様子も見られない。まるで人が変わったように、落ち着いている。

 

 

おまけに、何故自分がこんな状況にあっているのかさえ、分かっていないようだ。話が進みそうにないので、クローン黛は経緯の説明を始めた。

 

 

「……目が覚めたらここにいて。とりあえず“ゆっきー”の気を辿って寮に忍び込んだ」

 

 

……………。

 

 

全員、沈黙。ツッコミどころがあり過ぎて、どこを突ついたらいいか迷っていた。

 

 

「その……“ゆっきー”とやらは、一体誰の事じゃ?」

 

 

調子が狂う。鉄心は思いついた疑問をぶつけてみる。すると、クローン黛は隣にいた由紀江を指差した。どうやら由紀江の事らしい。

 

 

「気配を消して忍び込んだか。おい、狙いは何だ?まゆまゆの命か!?」

 

 

話を聞き、痺れを切らしたクリスがクローン黛を睨みつけながら声を荒げる。しかし、クローン黛から返ってきた言葉は、意外なものだった。

 

 

「……いや、ゆっきーの聖乳(ソーマ)だ」

 

 

「……は?」

 

 

平然と言ってのけるクローン黛の返答に、言葉を失うクリス、そして大和達。隣にいた由紀江は顔を真っ赤にして、恥ずかしさのあまり床に倒れている。

 

 

話を纏めると、クローン黛は突然息を吹き返し、聖乳補給の為に川神院を脱走。由紀江の気を辿り、島津寮に忍び込んだ。その後、夜這いでもするかのように由紀江の布団に潜り込み聖乳を吸った所を大和達に発見された……という事だった。

 

 

「妙だ……オレが戦った時のクローン黛と性格が違い過ぎる」

 

 

まるで別人だ、と声を漏らすサーシャ。サーシャと対峙した時のクローン黛は、もっと冷酷で残虐性のある人物であった。

 

 

しかし、今目の前にしているものとは明らかに違う。落ち着き過ぎている上に由紀江の聖乳を吸いましたなどと、巫山戯た行動をする始末。これが別人でなくてなんと言おう。

 

「……恐らく、ですが」

 

 

と、ユーリ。ユーリは一呼吸置いて、立てた推測の説明を始めた。

 

 

「確かに彼女は死にました。ただ……死んだのは彼女の別の人格でないでしょうか?」

 

 

ユーリの推測はこうである。クローン黛は確かに由紀江の前で息を引き取った。但し、死んだのはサーシャ達と戦っていた“クローン黛の人格”であり、一時的に仮死状態だったという事ならば一応説明はつく。

 

 

「この推測が正しければ、今の人格が彼女の本来の人格という事になります」

 

 

クローン黛に装着されていた元素回路(エレメンタル・サーキット)は一子がつけていたものと同じである。一子も現に人格変貌を起こしている事から、元素回路の影響で変貌が起きたとすれば納得がいく。

 

 

元素回路が取り除かれ、クローン黛の変貌した人格が死に、本来の人格に戻った……ここに居合わせている誰もが、あり得ないという顔をしている。そして由紀江自身も、今まで悲しんでいた私は一体……と、とても切ない思いをしていた。

 

 

「……ともかく。クローン黛が生きていると分かった以上、アトス本部へ引き渡さなければなりません」

 

 

クローン黛の処分は、それから下されるとユーリは告げた。このまま、川神院に置くわけにもいかない。明日にはアトス本部へと連行され、取り調べを受ける事になるだろう。

 

 

クローン黛も元素回路を装着していたとはいえ、全てを覚えているらしい。自分のした事を認め、罰を受けようという彼女の表情は潔かった。

 

 

すると、

 

 

「ま……待ってください!」

 

 

隣にいた由紀江が声を上げ、ユーリに抗議を始めた。そして、由紀江の口からとんでもない提案が告げられる事になる。

 

 

「彼女の事は……どうか、私に任せては頂けないでしょうか?」

 

 

無理なお願いだという事は分かっていますと、由紀江。つまりクローン黛を保護するという事であった。その提案は、当然受け入れられる筈がない。

 

 

それは無理な相談ですね、と眈々と答えるユーリ。それでも由紀江は食い下がった。

 

 

「私が……私が責任をもって彼女の面倒を見ます!身の回りのことも、全部!」

 

 

由紀江の決意は揺るがない。クローン黛の事を、一任してくれと頼み込む由紀江。その姿を見て困りましたね、とユーリ。しばらく考え込み、

 

 

「仮に貴方にお任せしたとして。もし、彼女が貴方や大和さん達に刃を向けたら……どうするおつもりですか?」

 

 

ユーリはその覚悟を問い始めた。クローン黛は一度敵として、由紀江やサーシャに刃を向けている。元素回路がないとはいえ、襲わないとは言い切れない。

 

 

クローン黛を預かるという事は、常に危険と隣り合わせという事だ。さらには周囲の人間にまで危害を加える可能性も否定できない。

 

 

それでも覚悟があるのならと、ユーリは言っている。それに対し由紀江はしっかりとユーリを見据えて、

 

 

「その時は――――私の手で、彼女の首を跳ねます!」

 

 

揺るぎない覚悟を、示したのだった。由紀江の目は本気である。もしクローン黛が刃を向ければ、迷いなく彼女の命を経つだろう。その真剣な表情から伝わる覚悟は、周囲の空気を凍りつかせた。

 

 

由紀江の覚悟を聞いたユーリは含み笑いをして、

 

 

「と、由紀江さんは言っていますが……どうでしょう。サーシャ君」

 

 

「だから俺にふるな破戒神父」

 

 

サーシャに最終決断を投げるのだった。サーシャにとっては鬱陶しい事この上ない。このまま任せるか、アトスに引き渡すか……どちらにせよ安全が保証されるわけではない。

 

 

それなら、とサーシャは由紀江に顔を向けた。

 

 

「お前の好きにしろ。だが妙な真似をすれば、俺は迷いなくそいつを斬る」

 

 

それだけは肝に命じておけとサーシャ。異存はないようである。

 

 

「まゆっちがそういうならいいんじゃね?ん……待てよ。って事は寮で暮らすって事だよな?何か面白くなってきたぜ!!」

 

 

一人で盛り上がるキャップ。忠勝は相変わらず好きにしろとだけ口にする。

 

 

「自分も構わんぞ。それに、今の彼女に悪意は感じなかった。ここは、彼女とまゆまゆを信用しよう」

 

 

と、クリス。

 

 

「私はOK。何か賑やかになりそうだね。あ、でも大和に手を出したら容赦しないから。もちろん性的な意味で」

 

 

京も同じく。但し大和には手を出すなと念を押して。

 

 

「俺も賛成だ。まゆっちの意志を尊重するよ」

 

 

大和も快く承諾してくれた。これで寮に住む全員と、サーシャ達の承諾を得る事が出来た。皆さん……と感謝する由紀江。ユーリも仕方ありませんとわざとらしく肩を落とす。

 

 

――――と、勝手に話は進んでいるが。クローン黛自身の意見を聞いていない。クローン黛が否と答えればそれまでだ。どちらを選ぶかは彼女に権利がある。

 

 

「……すまないが、紙をくれないか」

 

 

今まで黙って聞いていたクローン黛が紙を要求する。修行僧の一人が半紙を彼女に差し出すと、クローン黛は突然自分の親指の皮膚を噛み切り、半紙に血で文字を書き始めた。その行為に、誰もが目を見開く。

 

 

そこには、

 

 

 

 

 

“私は黛由紀江の保護の下、周囲に一切の危害を加える意志がない事を証明します。”

 

 

“また、今後は黛由紀江を護る剣となり、盾となり、この命を捧げる所存です。”

 

    

“もし、万が一この制約を破るような事があれば自らの手で自分の命を絶ちます。”

 

 

“黛由紀江には、決して手を汚すような事はさせないと誓います。”

 

 

 

 

 

血文字で書かれた、クローン黛の誓約書である。

 

 

敵である自分を、暖かく迎えてくれた。その恩義と決意を、ここに己の血で証明した。これに背く事は、決してないだろう。彼女の誓いは本物である。

 

 

「……どうか、よろしくお願いします」

 

 

由紀江に一礼して、誓約書を差し出すクローン黛。

 

 

彼女が生きていた事。彼女がここにいたいと言う事。様々な思いが由紀江の心を満たし、嬉しさのあまり感涙する。由紀江は震えた声で、クローン黛に返答した。

 

 

「はい。こちらこそ……よろしくお願いします」

 

 

 

 

 

川神院での一件後、一度寮へと戻った由紀江とクローン黛。最終的にユーリから許可を貰い、アトスによる一定期間の保護観察、そして今後の捜査に協力する事を条件に、島津寮で暮らす事を許された。

 

 

また、クローン黛の戸籍や、その他在学等の身の回りの手続きは全て、ユーリが手配してくれたらしい。

 

 

由紀江とクローン黛は部屋に入ると、正座して互いに面と向かいあった。

 

 

「先程ユーリさんからご連絡がありました。明日から川神学園に在学できるよう、手配してくれたそうです」

 

 

「そうか。何かと世話になるな」

 

 

明日から川神学園の生徒として、一緒に登校する事になる。ユーリ曰く、由紀江の双子の妹と言う形で口裏を合わせている。いずれは由紀江の両親にも、伝えなければならない。

 

 

「洋服とか、下着は私とサイズ一緒ですから大丈夫ですね。あ、あとそれから……」

 

 

これから一緒に、一つ屋根の下で暮らすのだ……生活用品は何かと必要になる。あれこれ考える由紀江の姿は、どこか楽しそうだった。

 

 

一通り話を終える由紀江。こほんと咳をしてから、今度は話題を変える。

 

 

「あの、昨日の夜の事ですが………」

 

 

昨夜、夜這いをして聖乳を吸われた由紀江。突然の事で抵抗できなかったが、今後ああいう事をされると対応に困る。

 

 

「聖乳を吸うなとはいいません。ただ、その……欲しい時は、言ってください」

 

 

恥ずかしそうに、そう答える由紀江。一言断りを入れれば、補給はしてもいいようだった。クローン黛もクェイサーなので少し安心する。

 

 

「分かった。今後は断りをいれよう」

 

 

約束する、とクローン黛は承諾した。してもらわないと困る……と、由紀江は心の中で思うのだった。

 

 

……………。

 

 

しばらく沈黙が続く。由紀江は何を言えばいいか、言葉を選んでいる。

 

 

それとは対照にクローン黛は真顔だった。それがプレッシャーになり、さらに慌てて目を逸らしてしまう。

 

 

すると、

 

 

「一つ、聞きたい事がある」

 

 

先に口を開いたのはクローン黛だった。何でしょうかと、クローン黛に姿勢を戻す。

 

 

「この前、実は廊下でゆっきーとクリスが話しているのを聞いてしまった。あの時、ゆっきーは……なんて言ったんだ?」

 

 

クローン黛が島津寮に来てから数日後、由紀江とクリスが話している所を、襖越しに聞いていたらしい。死んでしまった人格の記憶を残しているクローン黛が、一番気になっていた事である。

 

 

「あ……はい、私はあの時――――」

 

 

由紀江も、いつかは話さなければならないと思っていた。今がその時である。

 

 

由紀江は微笑んだ。彼女に伝えたかった事を伝える為に。

 

 

「――――“私は、彼女を家族にしたいと思っています。”って、そう言ったんです」

 

 

クローン黛を、友人ではなく家族として迎え入れたいと言ったのである。確かにクリスの言っていた通り、由紀江らしい答えだった。クローン黛は始めて、自分の居場所ができたと実感する。

 

 

そして、由紀江を……大切な人を必ず守ろうと誓うのだった。

 

 

由紀江の剣として、盾として。

 

 

「そういえば、私の名前は“黛由紀江”なのか?学籍上に問題はないだろうか……」

 

 

ふと、思い出したように疑問を抱くクローン黛。当然ややこしい事になるので、そんな事はしていない。由紀江は待ってましたと言わんばかりに、無邪気に笑う。

 

 

「それならもう決めています。貴方の名前は―――」

 

 

既に名前は決まっていた。クローン黛が、新しい自分になる瞬間。由紀江のクローンではない、由紀江の家族。

 

 

彼女の名前は――――。

 

 

「“由香里”………黛由香里です」

 

 

“黛由香里”。それが新しく与えられた名前。彼女のスタートライン。

 

 

「由香里……か。いい名前だな」

 

 

クローン黛は名前を気に入り、これから始まる新しい自分を祝福し、笑うのだった。

 

 

 

 

二人はそれぞれ歩き出す。由紀江は松風を卒業し、新しい自分に向かって。そして、彼女も今日から、新しい自分が始まろうとしていた。

 

 

 

クローン黛ではなく――――由紀江の家族、黛由香里として。

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