聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい! 作:みおん/あるあじふ
沖縄行航空機内、上空。
「ふふ……上手く乗り込めたな、ゆっきー。私達に誰一人として気づいてないぞ」
由香里はサングラスをずらしながら、まるで悪戯に成功した子供のような無邪気な笑みを浮かべている。
「……………」
それに対し由紀江はというと、この現実から目を背けるように、憂鬱な表情で窓の外を眺めていた。
窓の外からは、雲が一つ一つ流れるように空を泳いでいる。あの雲のように、何も考えず流され当てもなく泳ぎたい……そんな事を思いながら、由紀江は現実逃避を続けている。
「……皆さん、おはようございます。こんにちは。そしてこんばんわ。黛由紀江です。私達は今、沖縄に向けて飛び立っています」
誰にというわけでもなく由紀江は語り始める。今すぐこの空へとダイブしてしまいたい、そんな心境で。
「ゆっきーは誰と話してるんだ?」
「…………」
現在、由紀江と由香里は沖縄に向けて飛び立っていた。2年の修学旅行に紛れて忍び込み、今はファーストクラスで空の旅を満喫している最中である。ただし今の所楽しんでいるのは由香里だけだが。
2年生の修学旅行―――沖縄。学園に今、大和達はいない。本来ならば、由紀江達1年生は学園で授業を受けている筈だった。
ならば何故由紀江と由香里が同乗しているのか……話は数日前に遡る。
大和達をお見送りをする立場だった筈の由紀江と由香里。しかし、由香里はそれでは満足ができなかった。“私達も行きたい”と、とんでもない事を言い出したのである。
理由はない。ただ行きたいから行きたいだけだという、由香里の願望だった。その自由奔放ぶりは、キャップに似ていると由紀江は思った。
だが仮について行くとしても、沖縄行きのチケットと宿泊費はどうやって手に入れるのかが問題である。
自分達の所持金では到底賄えない。現実的に考えても難しい話だった。残念だが、由香里には諦めてもらうしかないだろう。
しかし、由香里の行動力の恐ろしさは群を抜いていた。由紀江はそれを身をもって知る事になる。
『二泊三日 沖縄旅行ペアチケット』
由香里は偶々行われていた商店街の福引で当選。しかも一発で。おまけに一等はハワイだというのに、ピンポイントで二等の沖縄旅行を当てる彼女の強運。ドヤ顔でチケットを入手。
だが、問題はそれだけではない。チケットは手に入れても、飛行機内では大和達と鉢合わせする可能性がある。変装してもサーシャ達にすぐ見破られてしまうだろう。ファーストクラスでもない限り、実現は不可能。さすがの由香里も諦めるだろうとそう思っていた由紀江。
しかし由香里はどこから手に入れてきたのか、ファーストクラスのチケットまで用意したのである。何でも街中で出会ったセレブな女性を口説き、デートに付き合った後貰ったらしい。恐ろしき彼女の執念。
ただ、それでも最後に残る問題がある。それは無断で授業を欠席できない事だ。当然旅行へ行くとなれば、何かしらの理由がいる。
二人揃って“病欠しました♪”などと、そんな嘘が通る筈もない。ましてや由香里は保護観察中なのだ……調べらればすぐに分かる。こればかりはどうにもならない。
もういい加減諦めるだろうと思っていた由紀江だが、由香里はとんでもない理由で申請した。
その内容は、
『アトスからの協力要請』
無茶苦茶である。自分の保護観察という立場を利用した虚偽申請。こんなもの通る訳がない。だが学園からはあっさりと許可が降りた。世の中絶対におかしいと由紀江は思った。
こうして全ての準備が整い、由紀江と由香里は沖縄旅行へ忍び込む事に成功した。そして今、ファーストクラス内で寛ぎ、現在に至っている。
「あうぅ……バレたら確実に停学処分ですよ……」
この事が露見すれば、二人揃って定学処分になる事は間違いない。由紀江は泣きたくなった。どうしてこんな事になってしまったのだろう。
「スリルがあるからこそ、そそられるものがある」
由香里自身は気にしている様子はなく、むしろこの状況を楽しんでいる。由紀江はそれどころではなかった。いつ見つかるか分からないような状況なのだ。楽しめる方がおかしい。
「む、あの張りのある乳……マルギッテ=エーベルバッハか!」
突然由香里は双眼鏡を使って、後ろの座席に遠く離れているマルギッテを眺め始めた。一体何をするつもりなのだろう……由紀江には気が気でない状態である。
「口説きに行きたい」
でしょうね、と由紀江は頭を抱える。相手は生粋の軍人であるマルギッテ。口説き落とせるような相手ではない。辞めた方がいいと諭す。しかし、由香里は既にマルギッテに近付いてしまっていた。
「もし、そこのお嬢さん」
「何でしょう」
「いいお天気ですね」
「……外は微かに曇っています。したがって貴方の意見は適切ではないと知りなさい」
「そんな事はありません。私の心は晴々としています。何故なら、貴方のような人と出会えたのですから」
「言っている意味が理解できません」
「では単刀直入に言わせてもららいます。あなたの―――」
「――――連れの者が大変ご迷惑をおかけしました失礼しますすみませんでした!」
由紀江は由香里に駆け寄りマルギッテに謝罪すると、腕を引っ張り、自分達の席へと連れ戻した。目立った事をすれば自分達の存在がバレてしまう。彼女に自覚はないのだろうか。
「い、一体何を考えているんですか由香里!」
「顔が赤いぞ、ゆっきー。もしかして妬いてるのか?可愛い奴め」
由紀江の頭を撫でる由香里。由紀江は思い知った。由香里は生粋の美少女好きであると。
「……そ、そんなに女の人の体が好きなんですか?」
「当然。きめ細かい肌。柔らかくて弾力のある胸。想像しただけでご飯三杯はいける!」
そして、彼女が度し難い変態である事も。登校当初から美少女大好き宣言をしている事は知っているが、ここまでとは想像していなかった。次第に由香里という人間の性格が理解できるようになっていた。
ようするに美少女なら誰でもいいという事なのだろう。それはそれで悲しい気がする。
「そ、それでは……私だけでは、物足りないのですか」
由紀江は寮で起きた出来事を思い出していた。夜這いをされ、
ただ流されるままに。彼女のされるがままに。思い出しただけでも恥ずかしくなる。
すると、由香里は恥ずかしそうにしている由紀江を見て悪戯に笑い、急に由紀江の胸元に手を当て始めた。由紀江の心臓の鼓動が高鳴る。そして由香里は彼女の耳元でそっと囁いた。
「……少しゆっきーの聖乳が欲しいな」
「えっ!?あううぅ――――」
由香里に服を引き剥がされ、突然聖乳を吸われる由紀江。胸が、まるで掃除機か何かで力強く吸引されていく……身体中がびくびくと震え、思わず声を漏らしたい所だが、あいにくとここは航空機内かつファーストクラス。周囲に聞こえてしまえば羞恥プレイの何物でもない。
由紀江は自分で口を塞ぎながら堪え続けた。しばらくして吸引を終えた由香里は、由紀江の乳から口を離し、そっとその頬に口付けをする。
「物足りないだなんて事、あるものか。確かに私は美少女が好きだ。でも本当に好きなのは、ゆっきーだけだぞ」
まさに告白だった。聖乳を吸った際に由紀江自身の心理を読み取ったのだろう。ずるい……とも思った。それでも、その由香里の気持ちは少しだけ嬉しかった。
「由香里……って、話をうまく丸め込まないで下さい!」
「本心だ」
「ななななななななにが本心ですか!というか、ドサクサに紛れてキスまでしましたね!?見られたらどうするんですか!?」
「見られたら、とことん見せつけてやるさ♪」
忍び込んでいるというのに、由香里は大らかで能天気だった。バレたらどうしようという危機感は、彼女からは微塵も感じない。果たしてこんな調子で修学旅行を乗り切れるのだろうか。不安で仕方が無い。
もうすぐ目的地である沖縄へ到着する。どうか、この旅行が無事に終わりますように……と切に願う由紀江なのであった。