聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい!   作:みおん/あるあじふ

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59話「まじこい☆くぇいさー 4」

GNクッキーはビームセイバーを振りかざし、由紀江と由香里に襲いかかる。

 

 

クッキーとは異なる未知の機械……どんなギミックが搭載されているか分からない為、迂闊に手出しはできない。

 

 

かと言って、手を拱く訳にはいかない。由香里が先手を打ち、見えない糸状の水銀を瞬時に張り巡らせた。接近すれば最後、対象がバラバラに切断されるという仕掛けだ。

 

 

だが相手は機械……無数の糸が絡まり、一時的に身動きを封じるのが限度である。

 

 

GNクッキーは止まる気配を見せない。やはり機械でも、このピアノ線を見切る事はできないのだろう。

 

 

しかし、次に取ったGNクッキーの行動に、由紀江達は驚愕する事になる。

 

 

GNクッキーは仕掛けられた糸の寸前で立ち止まり、ビームセイバーを振り上げた。瞬間、背中のバックパック―――加速装置が作動するエンジン音が鳴り響く。

 

 

『GN―――クッキー・ダイナミック!!』

 

 

加速装置により出力が上がったビームセイバーが振り下ろされる。ビームセイバーは容易く見えない糸を斬り裂き、由紀江達の防衛ラインを突破した。

 

 

小細工は通用しない……今度は由紀江が前衛に出て、模造刀の一閃を入れ込む。

 

 

だがGNクッキーは由紀江の攻撃に即座に反応し、その一閃を振り払い、左腕による正拳突きのカウンターで由紀江を容易く吹き飛ばした。

 

 

「あぐ……っ!?」

 

 

『無駄な足掻きだ。貴様らの剣は見えている!』

 

 

水銀のトラップを突破し、剣聖黛の剣技すらも容易く受け止める反応速度。GNクッキー……パワーもスピードも二人を凌駕していた。百代に次ぐ強敵であると言っていい程に。

 

 

「よくもゆっきーを―――!」

 

 

由紀江に手を出され、感情的になった由香里は怒りに任せてロッドを振りかざし、先端から射出された水銀をGNクッキーに叩きつけた。

 

 

怒りに任せた攻撃は荒く、容易くGNクッキーに避けられてしまう。冷静さを失えば、このGNクッキーに勝ち目はない。

 

 

「由香里……ダメです。もっと冷静にならないと……!」

 

 

由紀江はよろめきながら模造刀を構える。状況は劣勢。攻撃は完全に読まれていた。

 

 

『隙を見せたな――――!』

 

 

「――――!?」

 

 

GNクッキーはビームセイバーの柄を、隙だらけになった由香里の腹部に捩じ込んだ。胃の中が逆流しそうな衝撃を受ける。そして動きが止まった由香里の首を左腕で掴み上げた。

 

 

「ぐっ………あ……!」

 

 

『くっくっく……どうした?もっと足掻いて見せろ!』

 

 

首を締め上げながら嘲笑うGNクッキー。由香里は苦しみもがきながら抵抗を試みるが……何もできない。

 

 

「由香里っ!!」

 

 

由香里が危ない……助けようと走り出す由紀江。冷静になる時間さえも許されない危機的状況の中、目の前で由香里が死にかけている。落ち着いて等いられない。

 

 

――――あのクッキーは、本気で人を殺す。

 

 

「黛流・十二斬!!」

 

 

十二回繰り出される斬撃をGNクッキーに放つ由紀江。しかしGNクッキーはもろともせず、右手のビームセイバーで斬撃を捌いていく。

 

 

初見で十二斬を見抜くGNクッキーの性能……あり得ない、と由紀江は戦慄した。

 

 

『そんなにこいつが大事か?ならばくれてやろう―――!』

 

 

GNクッキーは左腕で掴み上げている由香里の身体を、豪快に由紀江に向けて投げつけた。由紀江と由香里は衝撃で投げ飛ばされ、床へと叩き付けられる。

 

 

「か……ごほっ、ごほ!?」

 

 

「つ、強い……」

 

 

激しく咳き込み項垂れる由香里。GNクッキーの強さに半ば絶望しかけている由紀江。圧倒的な戦力差に追い込まれている……一体あの化け物に、どう勝てばいいのだろうか。

 

 

「流石はGNクッキー。これならば我々銀乳研の時代が来るのも近い!」

 

 

勝利に酔う所長。全てはマスターの思いのままにと服従するGNクッキー。さらにGNクッキーの宣告が由紀江達を更なる窮地へと追いやる事となる。

 

 

『先に言っておく……私は自分の能力の50%しか出していない。よって、貴様らが私に勝つ事は万に一つもあり得ない!』

 

 

今までGNクッキーの戦闘力は約50%。まだ半分である。それにも関わらず、二人は手も足も出ないのだ。由紀江も由香里も、これが精一杯であると言うのに。

 

 

しかし、それでも由紀江は諦めなかった。立ち上がり、再び模造刀を構える。

 

 

「……まだ、です。私達が負けると決まったわけでは……」

 

 

由紀江の模造刀を持つ手は、微かに震えていた。目の前の強敵に、恐怖していた。

 

 

怒りや恐怖は刃を鈍らせる。虚勢を張っているようなものだ……その由紀江の心境を、GNクッキーは読み取っていた。

 

 

『貴様はもう理解している。決して私に勝つ事はできないと。その震えこそが……何よりの証拠だ!!』

 

 

「―――――!」

 

 

図星を突かれた由紀江の手の震えは止まらなくなり、激しく動揺し始めていた。

 

 

勝てない。勝てない……そんな言葉が由紀江の心を蝕んでいく。すると震える由紀江の手に、由香里の手が添えられた。

 

 

「由香里……?」

 

 

「気をしっかり持て。私達二人なら……何だってできる!」

 

 

由香里の励ましが、由紀江の恐怖を取り除いていく。その優しい言葉が、由紀江にどれだけの心の支えになる事か。

 

 

由紀江は力強く頷き、今までの迷いを拭い去り―――GNクッキーを見据えた。

 

 

その瞳には一点の曇りもない。ほう、と声を漏らすGNクッキー。状況が変わったわけではないと言うのに。人間と言うのは理解できないなとGNクッキーは思った。

 

 

「そろそろ演舞再開といこうか、木偶人形!」

 

 

由香里も再びロッドを構える。二人は気力を取り戻し、GNクッキーと改めて対峙する。

 

 

二人なら何でもできる……その思いが由紀江と由香里を突き動かしていた。

 

 

『思い上がるなよ。今更貴様ら二人に何ができる?』

 

 

勝利を確信するGNクッキーにとって、今まで絶望しかけていた由紀江達の根拠のない気力の回復は不可解であった。理解できない、機械であるが故に。

 

 

「決まっています。私達にできる事は――――」

 

 

「―――お前を倒す、ただそれだけだ!」

 

 

二人はGNクッキーに向かって走り出す。死に急ぐようなものだ、とGNクッキーは笑う。だが敵は斬り捨てるのみ。せめて楽に死なせてやろうとビームセイバーを振りかざす。

 

 

「せやああああ!!!」

 

 

由紀江の斬撃がGNクッキーの攻撃を弾き返す。そして、次なるGNクッキーの一手が繰り出される。

 

 

瞬間、

 

 

「ゆっきー、下がれ!」

 

 

由香里の呼び声と同時に、由紀江は後退した。GNクッキーの攻撃は空振りに終わる。二人の攻撃はまだ終わらない……由香里の水銀攻撃がGNクッキーに向けて放たれた。

 

 

『またピアノ線か。馬鹿の一つ覚え………む?』

 

 

GNクッキーは異変に気づく。放たれた水銀が分散し、霧状の気体へと変化する。

 

 

気化水銀……形のない毒素。機械であるGNクッキーに害はないが視界が悪い。ビームセイバーの斬撃と剣圧で霧を吹き飛ばす。

 

 

『ふん、ただのこけおどしか……それでは私に―――――何!?』

 

 

そして、GNクッキーはもう一つの異変に気付く。身体中の関節が、まるで縛られているように動きが鈍くなっていた。ピアノ線が絡まっているのか……それはない。だが次第に身体の自由が効かなくなっている。

 

 

「外側がダメなら内側、と言うやつだ!」

 

 

かかったな、と笑う由香里。由香里の気化水銀の粒子がGNクッキーの内部へと入り込み、中で再構築した後、関節と言う関節を糸のように縛り上げたのである。

 

 

『き、貴様………!』

 

 

迂闊だった、とGNクッキー。由香里の能力を侮った結果、身動きを封じられてしまっていた。ボディには何も入り込まないよう隙間という隙間は塞がれている……だが、分子レベルの元素までは防ぎきれない。

 

 

これ程までに元素を操る力。先程の由香里の戦い方とはまるで違う。

 

 

「ば、馬鹿な……まさかその力、第六階梯――――!」

 

 

あり得ない、と所長は表情を引きつらせた。

 

 

由香里のクェイサーとしての能力は第四階梯であった。そして、彼女は僅かなこの戦闘で、クェイサーの頂点である第六階梯へ上り詰めたのである。

 

 

「ゆっきー、今だ!」

 

 

「いきます!」

 

 

GNクッキーは水銀による拘束によって身動きが取れない。ならば今こそが好機。由紀江は三度GNクッキーへと突貫した。

 

 

「これが私の全力です!黛流剣術―――――」

 

 

由紀江の構えが、抜刀の形に変わる。模造刀に由紀江の闘気が注ぎ込まれ、暴風の如く荒れ狂う風を纏い始めた。

 

 

由紀江が日々の鍛錬を重ね、編み出した黛流剣術。それが今ここに具現する。

 

 

「―――――嵐翔一閃(らんしょういっせん)!!」

 

 

抜刀した瞬間、暴風の塊が嵐を巻き起こし、GNクッキーに向けて疾走する。嵐を翔ける……まさにその名に相応しい剣技であった。

 

 

暴風はGNクッキーを直撃し、会場の壁まで吹き飛ばした。GNクッキーの身体は壁にめり込み、内部構造にダメージを受ける。

 

 

『グ………ガ………!?』

 

 

だが、致命傷にはならなかった。GNクッキーは身体を支えるようにビームセイバーを床へと突き刺している。倒せはしなかったが、今までのような動きはできないだろう。

 

 

恐怖を克服した由紀江と、第六階梯へ成長した由香里。戦局は覆された。

 

 

 

――――だが、由紀江達は失念している。GNクッキーがまだ本気ではないという事を。

 

 

『―――――システム起動。Code:Lily-alize(リリィ=アライズ)

 

 

突然、GNクッキーのバックパックから緑色の粒子が放出し、ボディ全体が赤褐色に変化した。否、発光していると表現した方が正しいか。

 

 

床に突き刺したビームセイバーを引き抜き、GNクッキーは由紀江達を見据えている。そのビームセイバーは禍々しく紫色に輝き、瞑想するように静かに立ち尽くしていた。

 

 

GNクッキーからは何も感じ取れない。殺意も。何もかも、全て。静止状態であるそれは、動かざる狂気と呼べる程に不気味であった。

 

 

危険だ……と再び身構える二人。そう感じ取った矢先、GNクッキーは既に二人の前から姿を消していた。

 

 

まさに一瞬の出来事。瞬間移動の如く跡形もなく消え去っている。気配を探る由紀江と由香里だが、探るまでもなく、身体に衝撃が走った事により証明された。

 

 

「うぁっ……!?」

 

 

「くっ……!?」

 

 

GNクッキーは、既に由紀江達の背後を取っていた。動きを悟られる事もなく、秒単位で距離を詰めて襲撃したのである。二人は吹き飛ばされ、壁へと叩きつけられた。

 

 

由紀江達が気付けない程の超速移動。それはGNクッキーが有する最強にして最速の能力。

 

 

Lily-alize System(リリィ=アライズ・システム)”。システムが起動する事でGNクッキーのリミッターが解除され、限界を超えた高速戦闘を可能する攻撃プログラム。

 

 

早過ぎて、反応さえも許されない。由香里はロッドから水銀を放ち、反撃を試みる。分子レベルまで研ぎ澄まされた水銀は避けられる数ではない。分子の一つ一つが銀の針となってGNクッキーに降り注ぐ。

 

 

しかし、

 

 

「なっ――――」

 

 

GNクッキーは、その分子さえも避けて見せた。高速接近し由香里にビームセイバーで斬りつける。由香里は辛うじて回避したものの、剣圧で服が破け散り、肌に切り傷を負う。

 

 

「由香里!」

 

 

加勢しようと由紀江も動き出した。まだ戦う力は残っている……由紀江はGNクッキーに向けて模造刀を一閃する。

 

 

『止まって見えるぞ!』

 

 

その一閃を、GNクッキーが薙ぎ払う。ビームセイバーの最大出力による斬撃は、由紀江の攻撃を止めただけでなく模造刀をも破壊した。模造刀は虚しく折れ、刀としての意味を成さなくなる。

 

 

もはや二人に戦う術はない。GNクッキーはビームセイバーを握り締め、

 

 

『くらえ――――リリィ=アライズ・クッキイイィィィィィ・ダイナミック!!!』

 

 

全身全霊の一撃を、由紀江達に向けて放った。音速を超えた一閃が二人を薙ぎ払う。さらに発生した凄まじい剣圧が暴風となり、周囲のものを破壊した。あとに残るのは、惨状という名の残骸のみである。

 

 

 

―――――――――――。

 

 

 

「あ、く……」

 

 

「う……あ………」

 

 

その惨状の中心に、二人の姿が横たわっていた。身体中は傷だらけで、もう戦う力は残されていない。GNクッキーによる攻撃で、立ち上がる事もできない程に弱り切っていた。

 

 

その光景を眺めながら、所長は勝利に歓喜する。

 

 

「くっくっく……勝負あったな。GNクッキーよ、トドメを刺せ!」

 

 

『イエス、デトックス!』

 

 

GNクッキーが二人を葬ろうと歩み寄る。今度こそ、二人の命を狩るつもりだろう。

 

 

逃げなければ……だが、今の由紀江達には立ち向かうどころか、立ち上がる事もままならない。精々意識を保つのが精一杯だった。

 

 

……徐々に死の足音が近づいてくる。意識はあるのに、逃げられない。このまま、GNクッキーの凶刃によって殺されるのを待つばかりだ。

 

 

「あ……だめ、だ……」

 

 

動かない身体に鞭を打ちながら、由香里は由紀江に向かって這いずり出す。そして由紀江を覆い被さるように、自分の身を挺して守ろうとしていた。

 

 

守ると決めた……たとえこの身体がボロボロになろうとも。由紀江だけは死なせはしない。その由香里の強い意思が、傷だらけの身体を突き動かしていた。

 

 

『終わりだ。姉妹で仲良くあの世で後悔するがいい』

 

 

GNクッキーが由紀江達の前で足を止める。ビームセイバーを振り上げ、由紀江と由香里に終焉を与えようと見下ろしていた。

 

 

ここまでか……逃げる事のできない由香里は由紀江を守るように蹲り、目を瞑った。

 

 

が、

 

 

『むっ!?……なん、だ……!?』

 

 

突然、金切り声のような不快音がGNクッキーのボディから聞こえてきた。

 

 

由香里はそっと目を開ける……GNクッキーがビームセイバーを振り上げたまま、錆び付いたように小刻みに震えて動かない。さらには身体中に放電が発生していた。

 

 

『ば、馬鹿な……オーバーヒート、だと!?』

 

 

システムによるオーバーヒート。限界を超えた高速戦闘は、GNクッキーのボディに負荷を与え続け、内部構造に支障をきたしていた。

 

 

しかも由紀江達による戦闘ダメージも蓄積されているとなれば、当然の結果である。

 

 

認めない。認められない。ここまで追い詰めておきながら……GNクッキーはビームセイバーを振り下ろそうと必死に力を入れる。動かなくなった手腕が、奇怪な音を立てながら徐々に下がっていく。

 

 

そしてビームセイバーの先端が、由香里の身体に届こうとした時だった。

 

 

『ガ――――アァァァ!?』

 

 

GNクッキーの強固な装甲を、飛来した薙刀が貫いていた。反動でGNクッキーは後ろへと後退する。薙刀からは電撃が発生し、GNクッキーの身体をショートさせる。

 

 

最後には一人の影が由紀江達の前に降り立ち、GNクッキーの身体を、バターのように真っ二つに切り裂いていた。

 

 

『―――――ニンゲン……人間、風情があああアアアアアアアアア!!』

 

 

断末魔を上げ、GNクッキーは爆発と共に砕け散った。殺戮機械の無残な最期である。

 

 

「……無事か、二人とも」

 

 

「間に合ってよかったわ……」

 

 

由紀江達を救うべく現れた二人の影。薙刀による雷撃の召還、そして聞き覚えのある声。由紀江達には、彼らが誰であるかすぐに理解できた。

 

 

そう……現れたのは、一子と大鎌(サイス)を手にしたサーシャだった。現れた二人に、由紀江と由香里は戸惑いを隠せない。

 

 

「一子、奴は?」

 

 

「……この部屋にはもう気配がないわ。逃げられたみたい」

 

 

所長を探しているのだろう。しかし、所長はいつの間にか姿がなくなっていた。

 

 

GNクッキーが破壊される直前に逃亡したのである。遠くへは行っていない筈だが……今は由紀江達が最優先である。

 

 

サーシャ達が来てくれたお陰で、危機は去った。来なければ今頃は……そう思うと背筋に悪寒が走る。由紀江達は安堵の息を漏らし、自分達がこうして生きている事を改めて実感するのだった。

 

 

 

 

「それで、どうしてお前達がここにいる?」

 

 

「…………」

 

 

「…………」

 

 

サーシャの最もな疑問であった。見つかってしまった以上、言い訳のしようがない。

 

 

次に待っているのは尋問と制裁である……由紀江と由香里はそう覚悟しながら、今は命がある事の喜びを噛み締めるのだった。

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