EXPRESS LOVE   作:五瀬尊

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以前の8話から少しばかり改訂しました(前のは消したからこの回を初めて見る人は確認のしようが無いけど)。
※話の中に登場する商店街、店舗は全て架空です。


#8 2人の初デート

 彩葉との告白合戦から数日。俺は、市内の駅前広場の日光を避ける様に樹木の下で人を待っていた。天気予報では1週間後には梅雨入りするだろうとの予測が出されており、夏が近付いてくるのが感じられる様になってきていた。ふと時計に目を遣れば、針は9時30分を少し過ぎるところを指していた。そろそろ来るか?と思ったところで、突然視界を塞がれる。

「だーれだ。」

一瞬パニックになるが、耳元で聞こえてきた可愛らしい声に落ち着きを取り戻し、1つ息をつく。

「彩葉。」

その名を呼んだ瞬間、視界が開かれ、昼間の日差しが目を突き刺した。

「正解!」

ピョコンと俺の横に飛び出してきた彼女は真っ白なサマーワンピースに身を包み、髪にちょっとした飾りを付け、はにかんだ笑みを浮かべていた。その姿は衝動的に抱きしめたくなる様な可愛らしさがあった。が、人目があったので、それは(はばか)られた。

「へぇ、―綺麗なワンピースだね。凄く似合ってる。」

せめて胸中の動揺が表に出ない様に、出来うる限りの微笑みを浮かべる。

「ふぇ!?あ、ありがとう?」

突然褒められた事に驚いたのか、何故か言葉の最後が疑問系になる彼女を見ながら、俺は漸く冷静さを取り戻した。

「それじゃ、行こうか。」

市内電車の発着場へと体を向けながら、彩葉に向かって手を差し出すと、すぐに柔らかな感触が帰ってきた。

「うん!」

夏の様な日差しの中を2人並んで歩く。それは、俺にとって1つの幸せだった。

 

***

 

八丁堀から紙屋町の間、アーケード通りの様になった商店街をぶらぶらと歩きながら、彩葉と言葉を交わす。時折、気になった店に寄って店内を物色してみるが、彼女は気に入ったものが無いのか、それとも遠慮しているのか、今のところ特にこれと言ったものは購入していない。が、此処で今度は俺が、気になる店を見つけた。

「ちょっとここ寄って行こうか。」

俺の指さした方を見て、すぐに頷いた彩葉の手を引いて入ったのは、ちょっとレトロな雰囲気を醸し出すアクセサリーショップ。店内に入って見ると、様々な種類のアクセサリが棚や台に陳列されていた。その内どれにも純宝石というものは見当たらず、どちらかと言えば、ガラスで出来たアクセサリを多く揃え、お高くは纏まらないという様な意図を前面に押し出していた。店主は青色のバンダナに丸眼鏡、顎髭を少し伸ばした優しそうな風合いを醸し出していた。

 

店に入ってから暫く立って、ふと彩葉の方を見ると、何やらネックレスの方に熱心に見入っていた。後ろから覗いてみると、彼女が見ていたのは切子(カットグラス)の製法によって作られたネックレスだった。いや、装飾品が付いているから、ペンダントと言うべきなのか。装飾部の切子は、鼈甲色と透明な部分があるグラデーションの付いたガラスの上に、緑のガラスを着せ、複雑な細工を施されていた。正確な角度でカットされたガラスは、外から差し込む光を分散させ、美しい光を放っていた。切子の上部には、金具が埋め込まれ、そこにチェーンが通されている。結構良い趣味だな。俺的な尺度で、だけど。

「それ、気に入った?」

後ろから声を掛けると、彩葉がピクッと肩を振るわせ、振り返る。

「あ、うん。結構色合いが気に入って・・・。」

切子のペンダントを見つめながらそう言う彩葉。

「ふーん・・・。」

気に入ったのなら良いかと、そのペンダントを手に取る。値札に書かれていた値段は、6000円程。この少しばかり湾曲した小さなガラスに細工を施すのは結構な手間の筈だが、技術のわりに安い方だな。

「え?買ってくれるの?」

彩葉は遠慮したのか少し途惑った様な声で聞いてくる。

「まあ、初デートだし、記念にね。」

「あ、ありがとう。」

彩葉はデートという単語に反応したのか、少し頬を染めていた。

「じゃあ、買ってくるから。」

俺はそう言い残して店主の座るカウンターに向かった。

「良いねぇ、初デートかい?」

優しそうな店主が見た目に沿った穏やかな声で聞いてくる。

「ええ、まあ。」

「そうかぁ、じゃあちょっとオマケしとこうか。」

そう言うと、店主は電卓を叩き、値札の値段から1000円程値引いてくれた。

「ああ、ありがとうございます。」

随分なサービスだなと思いつつ、提示された額を支払い、会計を済ませる。振り返ると、彩葉が何かを持って立っていた。俺と入れ替わりで、店主にそれを手渡す。

 

***

 

 店から出たが、今すぐには購入したものを渡さず、帰りに別れる前に渡す事にした。また暫く歩き、今度は軽食店に入る。テーブルに着き、同じものを注文する。

「そう言えば、さっきは何買ったの?」

先程の店での事が気になり、聞いてみるが、

「うーん。それは秘密。帰りのお楽しみって言う事で。」

彩葉は答えてはくれなかった。まあ、お楽しみというのならそう言う事にしておこうか。

「ふーん。まあ良いか。この後、どうする?」

「午後はもう、普通にぶらぶらしたいな。公園とか、まあ、このまま商店街でも良いけど。」

公園というのは、平和公園の事だろうか。

「・・・ん、分かった。」

取り敢えずは商店街を暫く歩いて、それから移動だな。そう計画を立てたところで、注文したものが運ばれてきた。

***

あれから暫くたって、時刻は日の沈み始める頃。俺達は、平和公園の少しばかり人目の少ないベンチに座っていた。

「結局、殆ど商店街でだらだら歩いてただけだったな。」

「そうだね。・・・でも、2人でいられただけで、今日は楽しかったよ?」

そう言いながら、俺の肩に頭を預けてくる彩葉。ふわりとした髪が肩に触れ、ほんのりと甘い香りが漂ってくる。

「そうだな。俺もかなり充実してたよ。」

そう言った時、肩から彩葉の頭が離れる。不思議に思ってそちらを見ると、少し頬を赤らめた彩葉の顔が傍にあった。そして次の瞬間―、彩葉の唇が俺の口に触れた。そのまま数秒。漸く顔を離した彼女の顔は真っ赤に染まっていた。

「こ、これは、お礼だから。今日は修也の方から誘ってくれたから・・・。」

「そう。」

突然のキスに動揺する心を抑えようと、少し素っ気ない返事になってしまったが、気にしている暇は無い。

「取り敢えず、今日はもうそろそろ帰ろうか。」

そう言って、ベンチから腰を浮かせる。彩葉は一瞬名残惜しそうな顔をしたが、同じようにベンチを立つ。

「そうだね。プレゼントも交換しなきゃだし。」

気のせいだろうか、ここの所。少々彩葉が積極的になっている様な気がするのだが。

「それもそうだな。」

午前と同じように彩葉に手を差し出す。握り返された感触をしっかりと感じ取りながら、俺は歩き出した。

 

***

 

「じゃあ、これ。家で開けてね。」

あれから何事もなく、電車で彼女の降りる駅まで帰り、彼女を家まで送りとどけた所で、今日購入したものを交換した。

「ん、分かった。それじゃ、また明日。」

「うん、じゃあね。」

彩葉の返答を聞き、踵を返そうとしたが、ここでちょっとした悪戯心が出た。彩葉に顔を近付け、頬に唇を触れさせる。

「えっ!?」

これにはかなり驚いた様子で、素っ頓狂な声を上げる彩葉。その姿を見て俺は今度こそ踵を返した。

「ははっ!じゃあな!」

反撃が怖いので、駆け足で逃げると後ろから「もうっ!」という様な怒鳴り声が聞こえた。明日が怖いなこれは。

***

 再び電車に揺られ、俺は自分の家に戻ってきた。自分のベッドに腰掛けて、彩葉から貰った包みを開けてみる。袋の中には、水色のガラスの小さな六角柱を3つ繋げた様な飾りが付いた金属チェーン製ブレスレットが入っていた。

「これもカット製法か・・・。」

ガラスの六角柱の角は、一体成型にはない程角張っており、それだけで、ガラスを切り出して作られたものだという事が分かった。あの、優しいアクセサリーショップの店主が値札を綺麗に外していた為、幾らしたのかは分からないが、成型コスト分それなりの値段はしたはずだ。

「貰って良いのかこれ・・・。」

少し不安になったところで、携帯に着信が入った。ちょっとばかり前の型のガラケーの外部ディスプレイには芹沢(せりざわ) 龍士(りゅうじ)の文字。―大阪に住む俺の従兄弟からだった。携帯の通話ボタンを押し、耳に当てる。

「もしもし?龍士か?」

『おお!修也?ワイや龍士や。彼女出来た?』

やたらハイテンションな大阪弁で捲し立ててくる龍士。面倒くせえなぁ・・・。だが、まあ面白いから良しとしよう。

「・・・龍士その胡散臭いエセ大阪弁いい加減止めろよ鬱陶しい。あと、あいさつからいきなり恋愛の話に持ち込むなよ・・・彼女は出来た。」

『エセに胡散臭い・・・酷い言い様だな、ってちょい待てお前最後何て言った?』

不機嫌そうにぶつくさ言っていた龍士が何を不思議に思ったのか、最後を聞き直して来た。

「だから、彼女出来たって。」

『はぁ!?お、おま、嘘だろ!?何だそれ羨ましい。』

嘘だろ?と言っておきながら、思いっきり信じてるんだが。

「はあ、うるせえよ。それより、何か用があったんじゃ無いんか。」

おっと、面倒くさくなって思わず素を出してしまった。

『ああ、そうだ。明日からお前んとこの学校通う事なったからな、一応連絡しとこうと思ってな。』

「は?」

龍士の突拍子もない言葉に、間抜けな声が出てしまう。

『いや、だからな?明日からお前んとこの学校通う事なったて言ってるんだよ。』

「はぁ!?嘘だろ!なしてそがぁな事になったんじゃ!?」

『いやあ、ちょっと喧嘩沙汰でな、親が危ないからって。』

喧嘩沙汰?どうしてそうなった。お前参加してないだろうな?喧嘩ッ速いからな

「いや、それはまあええとしても、何で明日からよ!?」

『ああ、すまんすまん。すっかり忘れててな。転学手続きとかで色々忙しくて。』

「忘れてたって、お前、今何処におるんや。」

『今?今は、家だよ。近々引っ越しもするからな。ま、ちょっとはお前の家に近くなるぞ。』

「要らねえわ。元から広島市内なんだから変わりゃせんって。」

「はっはっは。ま、報告っつー事で、明日から宜しくな。お前の彼女にも会いたいし。」

そのまま、一方的に電話を切られてしまう。やれやれ。彩葉がどうこうよりよっぽど面倒な事案が発生したもんだ。

「あー、明日学校行きたくねえ。」まあ、ぼやいても始まりはしない。頭を切り換える為に、夕飯の支度を手伝おうと、ベッドから起き上がる。机の上に置かれたブレスレットが、西日を反射して幻想的な光を醸し出していた。

 




お分かりの通り、龍士は完全に広島県民です。大阪に住んでません。まあ、以前より冷静な性格にしていきたいなと思っています。
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