仮面ライダーウィザード FANTASTIC DAYS 作:青空野郎
昼間にもかかわらず、その公園に人の姿はなかった。
そこにあったのは不気味に蠢く影。
その影を人と認識するにはあまりにも異型じみていた。
尖った耳に、獣のような双眼が獰猛な光を迸らせる。
全身を覆う硬質な皮膚は薄汚い緑色に染まっている。
片手に持つのは一振りの棍棒。
それを振り下ろすだけで人の頭などトマトのように簡単に潰されてしまうだろう。
「チィッ!やっとゲートを絶望させることができたはずなのに…!」
だが、そんな異形の怪物は肩で盛大に息をしながら、毒を吐いていた。
「そう簡単にやらせるわけないだろ?ファントムさん」
ファントムと呼んだ異形の怪物に、飄々とした様子で言葉を投げかけた存在の姿もまた特異なモノだった。
特徴的な赤い宝石を模した円形の仮面が日の光を反射し、全身に纏っている黒いロングコートが風でふわりとはためく。
左手の中指には仮面と同じ形の指輪が赤く煌き、腰にはバックル部分に黒い手形の意匠が施されたベルトが装着されてある。
「おのれ!指輪の魔法使い!このゴブリンさまをコケにしやがって!」
そう、ファントムが魔法使いと呼んだその存在こそが絶望を希望に変える魔法使い、『仮面ライダーウィザード』である。
「はいはい」
ウィザードはファントム・ゴブリンの怒声を適当に流し、専用武器“ウィザーソードガン”を構えて駆け出した。
すぐさまゴブリも棍棒で応戦するが、ウィザードの華麗な剣戟に簡単にあしらわれてしまう。
「はあっ!」
すぐさまウィザードはがら空きになったゴブリンの腹部に十字の斬撃を加え、最後に突きを食らわせた。
「ガアァッ!」
硬質な皮膚から火花を散らせ、たまらず地面を転がっていくゴブリンを見据え、ウィザードは腰のベルト“ウィザードライバー”に手を掛け、右手側に傾いていた黒い手形“ハンドオーサー”をもう一度右手側に傾けなおした。
【ルパッチマジックタッチゴー!ルパッチマジックタッチゴー!…】
「フィナーレだ」
ベルトから怪奇で軽快な音声が周囲に流れるが、ウィザードは気にせず右手の中指に付け替えた指輪をハンドオーサーに翳した。
【チョーイイネ!キックストライク!サイコー!】
足元に出現した赤い魔法陣から燃え盛る炎を右足に纏い、ウィザードはロンダートから跳躍する。
無意識にも見とれてしまうほどの美しい乱舞を見せつけるウィザード。
「だああああああああッ!」
そして、キックストライクウィザードリングを使用して発動する“ストライクウィザード”がゴブリンを貫いた。
「ギャアアアアアアアアアアアアア!」
着地と同時に体を回転させてポーズを決める背後で、断末魔とともにゴブリンは爆散し、燃え盛る炎の中で赤い魔方陣が浮かび上がった。
「ふぃ~」
無事に戦闘を終えたウィザードは溜息をひとつもらした。
そして、足元に現れた魔方陣が上昇し、ウィザードは変身を解除して青年『操真晴人』の姿に戻った。
☆
ファントムを倒した晴人は公園を離れ、しばし町をぶらついていた。
「紀乃川市か…。ファントムを追ってる内に、ずいぶんと遠くまで来ちゃったな」
目についた看板を見て思わず言葉が漏らしていると、不意に携帯が着信を知らせた。
「もしもし、コヨミか。どうした?」
『晴人、大丈夫?』
電話の向こうから聞こえてきたのは『コヨミ』という少女の声だ。
「ああ、問題ない。ファントムはばっちり倒したからすぐに帰るよ」
『わかったわ。お疲れさま。気を付けてね』
電話越しの会話を終えて歩を進める晴人。
携帯をしまい、再び歩き始めると戦闘終わりということもあって緊張がほどけたのか、ぐうぅ、と腹の虫が空腹を訴えた。
「そういやまだ飯の途中だったな」
晴人はコネクトウィザードリングを装着し、待機状態のウィザードライバーに手を翳した。
【コネクト!プリーズ!】
そして晴人は横手に現れた小さな魔方陣からお目当ての品を引っ張り出した。
『ドーナツ屋はんぐり~』と書かれた紙袋から取り出した晴人の大好物、プレーンシュガーを前にまずは一口。
口の中に程よい甘さが広がり、思わず口元がほころぶ。
口についた砂糖をペロリと舐め、子供のような笑みを浮かべながら晴人が学校らしき施設に差し掛かった時だった。
晴人の前を一匹の犬が横切った。
どこからか拾ってきたのだろうか、その犬は口におもちゃの短剣を銜えたまま施設の正門を潜っていく。
「平和だね~」
そんな感想を漏らしながら、ドーナツを頬張る。
晴人が流し目でその光景を見つめていると、校庭のど真ん中で止まった犬は銜えた短剣を天に向けたかと思うと、そのまま地面に突き刺した。
短剣を中心に迸る強烈な桃色の閃光に視界が奪われてしまい、その瞬間晴人の表情は一変してしまうがそれは一刹那のこと。
恐る恐る見やると、晴人は目の前の光景に唖然としてしまった。
「これは…魔法陣!?」
晴人の眼前で、校庭全体に広がる巨大な魔方陣が淡い桃色の光を放っていた。
その中心で奈落の闇が大きく口を開けている。
さらに言えば、今まさにひとりの少年が悲鳴を上げながらその奈落に吸いこまれようとしていた。
「おいおいマジかよ!」
それを見て咄嗟にドーナツを放り投げて駆け出す晴人。
奈落の目前まで助走をつけて跳躍した晴人だが、残念ながらその手が少年に届くことはなかった。
「わああああああああああああああああっ!」
強い力に引かれ、晴人と少年は成す術なく奈落の空間に飲み込まれていった。
最後に件の犬も奈落に飛び込んで、魔法陣は消失する。
後にはただただ、静寂が訪れるだけだった。
☆
目の前には白しか映っていなかった。
辺りを見渡しても視界に映るすべてが穢れのない白一色。
天と地の境目すらわからないそんな世界に晴人はいた。
「…あれ?」
訳が分からず晴人は漏らした。
「これは…」
割と落ち着いている様子の晴人は、ふと背後に気配を感じた。
振り向くとそこにはフードをかぶったひとりの少年が立っていた。
その少年もまた白で統一された姿だった。
身に纏う民族的な衣装からのぞくキメ細かい白い肌に、髪も、瞳もまた純白。
一瞬少女かと思ったが、その顔立ちから晴人は少年だと判断した。
「キミは…?」
戸惑いがちに尋ねる晴人だが、少年は口を開かない。
その時、晴人は少年の瞳に深い悲しみが隠れているのを見た。
「―――たすけて」
そして、今にも消えてしまいそうなか細い声を聞いた途端、少年の身体の全体に黒い亀裂が走った。
「―――ッ!?」
その光景に晴人は戦慄で身を震わせた。
絶望したゲートからファントムが生まれる光景にあまりにも似ていたのだ。
こうして目の当たりにしている今でも、少年の全身を蝕む亀裂の勢いは止まらない。
咄嗟に駆け出すも、晴人の手が少年に届く前に全身に回った亀裂からドス黒い瘴気が噴出した。
一気に視界が白から黒へと塗りつぶされる。
「グうッ…クッ…がああああああああああ―――」
☆
「―――ハッ!」
絶叫とともに晴人は目を覚ました。
大きく肩を上下させながら慌てて周囲を見渡せば、視界に入るのは青々と生い茂る草木の緑と朝日を反射する朝露の輝き。
「夢か…」
ようやく息が落ち着いてきたところで、晴人は先程までの白い世界は夢だと認識する。
どうやらあの空間を漂っていた途中で意識を失ってしまったようだ。
そしてぼやける視界がはっきりした時、晴人の顔を覗き込む者がいた。
「…犬?」
「わん!」
晴人の言葉に答えるように、犬がひとつ吠えた。
麻呂眉にキリリとした目つきがなんとも凛々しい小犬だった。
誰かの飼い犬なのか、首に赤いスカーフを巻いている。
ゆっくりと体を起こす晴人を小犬はお行儀よくお座りの体勢のまま見上げている。
なんとなく手を伸ばしてみるも、小犬は逃げるそぶりを見せない。
このまま引っ込めるのもなんだったので、晴人はそのまま小犬の頭を撫でることにした。
晴人の行為を受け入れ、擽ったそうに目を細める子犬に自然と心が和んでしまう。
子犬を撫でながら晴人は改めて自分の状況を確認する。
「ここは…」
晴人が目を覚ましたのは青々とした草木が生い茂る森の様な場所だった。
見慣れない景色と突然の出来事に戸惑いを覚えながらも、晴人は意識を失う前の記憶を呼び起こす。
「確か俺は…そうだ!あの子は!?」
慌てて周囲を見渡すが晴人と子犬以外誰も見受けられなかった。
少年の安否が確認できない今、晴人は歯がゆい思いをかみしめる。
「それに、あの魔方陣は一体…?」
晴人はあの時の魔方陣を脳裏に浮かべる。
用途はおそらく転送用。
晴人自身は使えないが、以前に似た魔法をこの目で見て、この身で体験したことがある。
晴人に魔法を与えた『白い魔法使い』の“テレポート”。
咄嗟のことだったので細かい部分は覚えていないが、晴人はやはり初めて見るものだと確信する。
「おや?ようやく目が覚めたでござるか?」
「え?」
突然の声に、いつの間にか深く考え込んでいた晴人は我を取り戻した。
声の主に視線を向けると、そこ先に2人の少女が数匹の子犬と一羽のダチョウのような生物を引き連れていた。
ひとりは長い栗色の髪を三つ編みにした、ほんわかとした表情が印象的な女性。
和風の着物にはんてんを羽織るという服装で、腰に大剣を携えている。
その物腰の柔らかそうな気品がどこか神秘的な雰囲気を感じさせる。
もうひとりは、年の頃は10代後半だろうか。
エメラルドのような翡玉の瞳に、日の光で煌めくゴールドブロンドの髪を後ろで一つに束ね、膝丈までの浴衣を着こなして少女の活発さを醸し出している。
さらには2人の少女の頭には犬のような耳がぴこりぴこりと動き、お尻のあたりでふりふりと尻尾が揺れる。
10人が10人、絶賛するほどの美少女だった。
「…耳?…尻尾?」
危うくスルーしてしまうところだった。
晴人の視線が耳としっぽの2点に集中する。
少女の容姿は人そのものなのだが、何故耳と尻尾が付属しているのだ。
晴人は予想外の有様に思考が一時停止してしまう。
「お~い。もしも~し」
しばし呆然としていた晴人だったが、眼前で手を振り心配そうにこちらを覗き込む金髪の少女の声で再び我に返った。
「…え?あ…あぁ、悪い。えっと…」
「そういえばまだ名乗ってなかったでござったな。拙者はビスコッティ騎士団自由騎士、隠密部隊頭領“ブリオッシュ・ダルキアン”でござる。以後、お見知りおきを」
「同じく拙者もビスコッティ騎士団隠密部隊筆頭“ユキカゼ・パネトーネ”でござる」
足元で子犬たちがじゃれ合う中で、古風な言い回しをする2人の少女、ブリオッシュとユキカゼ。
聞きなれない言葉に疑問を覚えるが、とりあえず晴人も名を名乗る。
「俺は晴人。操真晴人だ。よろしく」
気になることはあるが、お互いに自己紹介したところでブリオッシュが切り出した。
「ところでソウマ殿は何故このようなところで倒れておられたのでござるか?」
一瞬、晴人は言葉に詰まった。
何をどう話すべきかと思考を巡らせるが、聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥という。
「晴人でいいよ。うん…まあ、そのことなんだが…」
多少言葉を濁しながらも晴人は、意を決して訊ねた。
「ブリオッシュちゃんにユキカゼちゃんだっけ?変なこと聞くようだけど…ここ、どこか分かるか?」
疑問に疑問で返すというのは礼儀に反するような気がするが、今の晴人は形振り構っていられなかった。
今はとにかく少しでも情報がほしい。
そんな晴人の言葉にブリオッシュとユキカゼは目を丸くする。
「えっと、一応ここはフロニャルドの西部に位置するフイユタージュ街道に入ったところでござるが…」
「ふ…ふろ、にゃるど?」
ご丁寧にユキカゼが答えてくれたが、やはり明らかに聞いたことのない地名だ。
晴人の怪訝そうな反応を見てブリオッシュが口を開いた。
「もしかしてハルト殿は異世界の人間でござるか?」
「…え?」
予想外の言葉に晴人は耳を疑った。
「いや、このフロニャルドには古くから異世界の住人を召喚する儀式が存在するのでござるよ。おそらくハルト殿は異世界でその儀式に応じたのでござろうな」
「…」
黙って聞く晴人に、ブリオッシュは淡々と続ける。
「でもハルト殿の反応からすると、いまだに召喚主とは出会えていないご様子。我々がこの場所に訪れた時にはハルト殿が倒れていたのでござる」
「異世界、イセカイ、いせかい…」
言葉を反芻しながら晴人は内心で冷や汗を掻く。
見知らぬ土地に放り込まれたこの状況。
導かれる言葉はただ一つ。
「ってことは俺…迷子、ってこと?」
それもかなりスケールのでかいやつ。
「ハルト殿から見ればそうなるでござるな」
ブリオッシュの遠慮がちの声音が、晴人に無慈悲な現実を突き付けた。
「うっそぉ…」
絶望とまではいかないが、軽く眩暈を感じた晴人は途方に暮れるような錯覚に呆然としてしまう。
「でも、まあ、そう悲観することもないでござるよ。ですよね?親方様」
「左様でござる」
意味深なユキカゼの言葉にブリオッシュは肯定する。
「どういうことだ?」
「実は、我々にはその召喚の儀式を行える御方に一人心当たりがあるのでござる」
「ちょうど拙者たちもその御方のもとへ向かっている最中故、よければハルト殿も一緒に参られるか?」
「…いいのか?」
期せずしての申し出に、晴人は思わず聞き返さずにはいられなかった。
そんな晴人にブリオッシュは柔らかな笑みを浮かべて答える。
「旅は道連れ、余は情け。ここで出会ったのも何かの縁でござる。遠慮は無用でござるよ」
地獄に仏とは正にこのこと。
知らない地で初めて出会ったのが彼女たちであったことを晴人は心の底から安堵した。
晴人が続けてありがとう、と繋げようしたがそれは叶わなかった。
先ほどまで足元でじゃれ合っていた小犬たちが威嚇するように唸り声を漏らしている。
晴人たちも子犬たちの視線の先の茂みの奥から不穏な気配を感じ取っていると、現れ出でた存在に3人は驚愕の表情を浮かべた。
「親方様!」
「うむ。やはりここにも現れたか…」
3人の前に姿を現したのは、頭部に2本の角を生やし、全身を覆う石の如く荒い硬質さを見せつける皮膚に、そのところどころに罅のようなラインが走る身体。
槍を携え、ゾンビのように不規則な足取りで歩み寄る異形の影が晴人たちを囲んでいた。
ざっと数えるだけでも、その数は50を超えているだろうか。
異形たちの登場に、無意識に戦闘態勢をとるブリオッシュとユキカゼ。
そして彼女たちの会話に違和感を覚えたが、晴人は目を見開いてその異形の名称を漏らした。
「グール!?なんで…!」
グールとはファントムが携帯する量産型ファントム。
量産型のため、一個体の戦闘力は大したことはない。
故にファントムも作戦遂行時や逃走時といった時間稼ぎに多く用いる。
グールに見慣れたさすがの晴人でも、それが異世界に現れるという事実に目を疑ってしまっていた。
「ハルト殿はこやつ等のことを知ってるでござるか?」
晴人の言葉に隣にいるユキカゼが反応する。
「…まあね。2人とも下がってな」
取り乱すのも数瞬のこと。
すぐに冷静を取り戻し、目を細めてグールの群集を睨めつけながら前へ踏み出した晴人は顔の横で赤い指輪を左中指に通す。
続けて、右手の中指にはめたドライバーオンウィザードリングをベルトにかざした。
【ドライバーオン!プリーズ!】
待機状態のウィザードライバーが本来の姿に戻り、晴人はバックルの両端に供えられたレバーを操作して、右手側に傾いたハンドオーサーを左手側に傾けて、叫ぶ。
【シャバドゥビタッチヘーンシーン!シャバドゥビタッチヘーンシーン!…】
「変身!」
ドライバーが軽快な音声を響かせる最中、晴人は赤い指輪“フレイムウィザードリング”のバイザーを下ろし、再び黒い手形のバックルに翳した。
【フレイム!プリーズ!】
そのまま左手を真横に伸ばせば、赤い魔法陣が出現し、ゆっくりと晴人に近づいていく。
【ヒー!ヒー!ヒーヒーヒー!】
揺らめく炎を散らす魔方陣が晴人を透過し、晴人は火のエレメントを司る魔法使い、ウィザード・フレイムスタイルに変身した。
「なんと…!」
「ハルト殿?」
後ろでブリオッシュとユキカゼが一驚する声が聞こえたが、晴人は気にせず黒いローブ“ウィザードローブ”を翻してコネクトウィザードリングを使用する。
【コネクト!プリーズ!】
空間に生じた小さな魔法陣に腕を突っ込み、ウィザーソードガンを引っ張り出す。
そして、もう一度フレイムウィザードリングを相手に見せつけるように、ルビーの如き真紅の仮面の横に持っていく。
「さあ、ショータイムだ」
静かに、だが力強い声音でいつものセリフを口にした。
ということで、新作第一話となります。
これからも更新を進めていこうと思いますが、やはりクウガが優先的に進むことになるかもしれません。
その辺はご了承くださいm(_ _)m
…さて、ヒロイン誰にしたろ…。