仮面ライダーウィザード FANTASTIC DAYS   作:青空野郎

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第10話 魔法使いと騎士

想定していた通り、ミルヒの聖剣エクセリードを奪うためにビスコッティ陣営のスリーズ砦に急襲してきたビオレと彼女が率いる近衛騎士団の捕縛に成功したミルヒオーレ直属のメイド隊。

 

ビオレたちが観念したのを確認し、リコッタはすぐそばに鎮座していた装置のスイッチを足で踏みこんだ。

 

するとスリーズ砦上空に小さな花火が打ち上がった。

 

花火が淡い桜色の光を散らすのを、グラナ砦に続く渓谷の道を行くシンクとエクレール、そしてスリーズ砦にいるはずのリコッタがしかと己が目で見届けていた。

 

「リコからの合図…」

 

「本当に本陣への奇襲があるとは……」

 

信じられないという風にシンクとエクレールが呆然とつぶやいた。

 

同時に、2人の後ろでリコッタの姿が煙に包まれ、案の定現れたのはリコッタの服を着たミルヒ。

 

彼女の手にはリコッタが変装していた時に所持していたモノと同じ木の葉が握られていた。

 

「これで確信できました。……レオ様は私に何か隠し事をされています」

 

晴天に溶けて消える花火を目で追うミルヒが確固たる自信に満ちた声で言う。

 

そして手綱を握る手にさらに力を籠め、ミルヒはシンクとエクレールとともにセルクルを走らせた。

 

戦にはいつだって正々堂々と向き合うレオンが自身の美学に反してまで宝剣を必要とするのには、きっと何か理由があるはずだと断定する。

 

もう戸惑いはない。

 

ビスコッティの領主として、エクセリードの主として、そして何より、レオンのことを愛するただのミルヒオーレとして、レオンと話さなければならないと改めて心に強く誓う。

 

覚悟と決意を胸に、ミルヒは渓谷を吹き抜ける風を切る。

 

シンクもエクレールもミルヒの気持ちに応えるためにグラナ浮遊砦に急ぐのであった。

 

                      ☆

 

「さあ、この橋を抜ければ本陣もすぐでござるよ。どんどん参られよ!」

 

場所は変わってチャパル湖沼地帯にて自信満々な笑みを浮かべて声を高らかに発するブリオッシュ。

 

彼女の眼前――丁度河川を渡る橋を挟んだ対岸にはガレット戦士団の兵士たちが屯している。

 

腐っても戦士である彼は、ただ闇雲に突っ込むような愚行は犯さない。

 

圧倒的な力の差がある敵を前にした場合、その差を覆すためには数に頼ることが最も効果的である。

 

各個人が自然と呼吸を合わせ、身心ともに気力を練りあげていき、やがて訪れる最も充実した瞬間。

 

「かかれぇぇえええええッ!」

 

地響きの如く轟く雄叫びとともに、ブリオッシュ目掛けて一斉に飛びかかった。

 

そして―――

 

「瞬光錬天砲!」

 

ドカァァァァァンッ!!

 

ものの見事にブリオッシュの紋章術の斬撃に吹き飛ばされてしまいましたとさ。

 

空中でけものだま化してしまう兵士たちが河川に落ちて遥か彼方に流されていく。

 

すでにブリオッシュひとりに半分以上の戦力を失いかけていたガレット兵。

 

逆さまになったとしても覆しようのない実力差をようやく悟った兵士たちは本陣を守る最後の砦を前に撤退を余儀なくされるのだった。

 

「ダルキアン卿!」

 

ひとりのビスコッティ軍の騎士がブリオッシュに駆け寄ってきた。

 

「騎士団長より伝令がございます!」

 

「おう」

 

「ダルキアン卿と、パネトーネ筆頭の三番隊は、先行二番隊の応援に行って欲しいとのこと」

 

「うむ、心得た」

 

伝令を聞いたブリオッシュは目前に広がるガレットの軍勢を見渡した。

 

「敵陣は薄く伸びておる。駆けて抜けるが早かろう。ユキカゼ、ビスコッティ三番隊一同、拙者に続け。敵陣を抜け、二番隊の援護に向かうぞ!」

 

判断するなりユキカゼと三番隊の面々に指示を飛ばし、移動を開始した。

 

『おっと、戦況動きます。ダルキアン卿と旗下がここで攻めに回ります!』

 

『これはレオ閣下の本陣狙いか、先行2番隊の応援か?おっと?だがしかし!』

 

「お待ちあれ、ダルキアン卿!」

 

すぐに実況席の2人からブリオッシュが移動を始めたこと伝えられるが、間もなく彼女たちの前に立ちふさがる軍勢。

 

そして先頭に立ち行く手を阻むのはバナードだった。

 

「おお、久しいのう。バナード将軍」

 

「ご無沙汰です。申し訳ありませんが、ここから先へはお通し出来ませんねぇ……」

 

「ほお、それは一騎打ちのご提案と受け取ってよろしいか?」

 

「ご無礼でなければ、是非」

 

闘気に満ちた視線がぶつかり合い、誰もがこれから始まるであろうブリオッシュとバナードの一騎打ちに息をのんだその瞬間―――

 

「その勝負待った!!」

 

一触即発の雰囲気を掻き消す咆哮とともに両者の元に突如一本の槍が飛来した。

 

「バナード! 一騎打ちなら私が受けよう!!」

 

「ロラン!」

 

「マルティノッチ卿!」

 

ブリオッシュとバナードの視線が行き交う先に颯爽と現れたロラン。

 

投擲した槍を回収し、視線だけをブリオッシュに向けて言う。

 

「すまんな、ここは預かる。行ってくれ、ダルキアン卿」

 

「うむ、心得た。三番隊、行くでござるよ」

 

ロランの言葉に首肯し、ブリオッシュは愛騎であるセルクル、ムラクモを走らせた。

 

そして、バナード先を行く彼女たちを追いかけることはなかった。

 

「やれやれ。君との一騎打ちなど、何年ぶりになるやら?」

 

「私達が騎士団長の職を拝命してからは初めてだ。もう三年以上前だな」

 

後に残されたバナードとロランはブリオッシュの小隊の影を見送りながら他愛もない会話を交わす。

 

『両者とも、生まれた時から騎士の家系。そして、プライベートでは季節の贈り物をお届け合う友人同士でもあります』

 

実況席からエリータがバナードとロランの間柄について説明してくれるが、軽く聞き流す2人はどちらからともなく距離を取り、そして互いに紋章を展開させて輝力を開放する。

 

『両軍騎士団長の騎乗するセルクルもいずれ劣らぬ名騎の血統!そして両者とも武器は槍と盾!さあ両軍騎士団長、互いの誇りを賭けた一戦が―――』

 

「「うおおおおおおおおおおおおッ!」」

 

覇気が漲る雄叫びが実況の声を掻き消し、黒の槍と白の盾が、白の槍と黒の盾が火花を散らせた瞬間、2人の騎士の周囲を凄まじい衝撃が駆け抜けた。

 

                      ☆

 

「レオさま」

 

ガレット陣営の拠点であるグラナ砦にて、ルージュの声にレオンは意識だけを向けた。

 

「すみません。ビオレ姉さまと近衛戦士団は任務に失敗とのこと。姉さまも近衛戦士団もスリーズ砦内に捕まってしまったと」

 

「そうか。ガウルはどうした?」

 

しかし報告を聞いてもレオンは取り乱すことはなく、ただ淡々とガウル側の戦況を確認した。

 

「ご命令通り、ゴドウィン将軍やジェノワーズとともにスリーズ砦へ。ただ、ガウ様達は今回の戦にあまり乗り気ではいらっしゃいませんでしたので……」

 

「かまわん。せいぜい派手に暴れて、民と兵達を楽しませてやればいい」

 

奇襲が見抜かれたことは正直意外ではあったが、それでこそ長年の好敵手。

 

しかしそれもまた想定の範囲内であり、この程度でレオンの計略に支障をきたすことはない。

 

むしろ落ち着いた様子でレオンは小さく笑んだ。

 

「なにも問題なかろう。―――すでにハルトも動いてくれておる」

 

                      ☆

 

二転三転していく戦況の中、ブリオッシュ率いる三番隊が間もなくチャパル湖沼地帯を抜けようとした時だった。

 

何かに気付いたブリオッシュが走らせるムラクモの脚を止めた。

 

唐突の出来事に彼女に続いていたユキカゼたちも移動を止める。

 

「どうかされましたか、親方さま?」

 

怪訝な表情でユキカゼが訊ねるが、ブリオッシュの視線は遥か彼方の方向を見据えるだけ。

 

程なくして隠密の能力に長けたユキカゼも気配を感じとり、ピコリと耳を澄ませる。

 

ブゥゥウウウウウウウウウウンッ!!

 

そして耳朶を叩いたのは、つい最近聞覚えのある機械式の駆動音だった。

 

間もなく地平線の向こうから小さな人影が現れる。

 

「あれは……」

 

「どうやらそう簡単には行かせてくれないようでござるな」

 

意味深な言葉を呟きながらブリオッシュは不敵な笑みで相手の―――晴人の姿を捉えた。

 

【ドライバーオン!プリーズ!】

 

マシンウィンガーを駆る晴人もブリオッシュたちの姿を捉えると、起動させていたウィザードライバーのハンドオーサーを左手側に傾けた。

 

【シャバドゥビタッチヘンシーン!…シャバドゥビタッチヘンシーン!…】

 

「変身!」

 

【フレイム!プリーズ!】

 

【ヒー!ヒー!ヒーヒーヒー!】

 

眼前に出現した魔法陣を通り抜けて晴人はウィザードに変身し、マシンウィンガーの速度を上げた。

 

【コピー!プリーズ!】

 

ウィザードライバーのハンドオーサーを右手側に傾け、手早く付け替えた指輪をかざすと、晴人の前方とその横手に2つの魔法陣が展開された。

 

そのまま晴人が魔法陣を透過したその刹那、晴人の隣に晴人のコピーが召喚される。

 

そしてもう一度、今度はコピーと2人でハンドオーサーを操作してコピーウィザードリングをかざす。

 

【【コピー!プリーズ!】】

 

案の定、晴人の右手とコピーの左手に、合計4人のウィザードがマシンウィンガーを駆って並走するという光景が展開されたのだった。

 

【【【【コネクト!プリーズ!】】】】

 

ウィザードライバーの電子音が4重に重なって鳴り響き、4人のウィザードが一糸乱れぬ動きでウィザーソードガンを取り出す。

 

そしてタイミングを見計らい、晴人はマシンウィンガーを加速させて空高く跳躍した。

 

太陽の逆光を浴びる4人のウィザード。

 

見下ろせば、こちらを見上げる兵士たちの呆気にとられる表情が見て取れた。

 

【【【【キャモナシューティング!シェイクハンズ!…】】】】

 

晴人はウィザーソードガンのハンドオーサーを展開させ、フレイムウィザードリングをかざした。

 

【【【【フレイム!シューティングストライク!】】】】

 

【【【【ヒーヒーヒー!…ヒーヒーヒー!…ヒーヒーヒー!…】】】】

 

晴人は炎を纏った魔方陣が踊る銃口を向け、そして引き金を引いた。

 

兵士たちが我に返った時にはもう遅い。

 

隕石のように降り注ぐ炎の弾丸が轟音とともに辺り一帯を蹂躙した。

 

『『『ギャアアアアアアアアアアアッ!』』』

 

響く絶叫と爆音を背に感じ、アクセルターンを利かせて小隊の後方に着地すると3人のコピーが晴人に吸い込まれるようにして消えた。

 

「―――これはこれは、ずいぶんと過激なあいさつにござるな」

 

不意に晴人が見つめる先、立ち込める煙幕の向こうから凛と透き通る美声が聞こえてきた。

 

だが晴人は特に驚いた様子を見せることはなく、仮面の内側で微笑を作った。

 

煙が晴れると、ブリオッシュが晴人を見つめていた。

 

紋章術で防いだという、彼女の手の甲には紋章が淡い光を放っていた。

 

さらにはユキカゼと彼女たちの周りにいた数人の騎士たちがけものだま化を免れていた。

 

「久しぶりでござるな、ハルト殿」

 

「ああ、ブリオッシュちゃんたちも元気そうで何よりだ」

 

2人が言葉を交わすだけで空気がピリピリと張り詰める。

 

『おおっと!ここにきてダルキアン卿、突然の乱入者に足止めをくらってしまいました!三番隊もほぼ壊滅状態!果たして彼はいったい何者なのか!?』

 

実況席も事態に気付き、エリータの興奮気味な実況がけたたましく響き渡り、ディスプレイには対峙するウィザードとブリオッシュが映し出されていた。

 

『たったいま情報が届きました。ほおほお。……なんと、彼もまた勇者シンクとともに異世界から舞い降りたニューヒーロー!その名は―――魔法使いウィザード!その名の通り魔法と呼ばれる紋章術を駆使するその実力はレオ閣下に匹敵するらしく、先日行われたレオ閣下との模擬戦では見事勝利を収めました!今回はガレット軍のゲストとして戦に参加されたとのことです!』

 

「ほお。まさかレオ姫が打ち負かされるとは……。さすがでござるな」

 

解説とともに切り替わった映像には以前行われた晴人とレオンとの戦闘映像を見上げるブリオッシュが感嘆を込めた言葉を晴人に贈る。

 

まあね、と飄々とした様子で答えてマシンウィンガーから降りる晴人に習うようにブリオッシュもムラクモから降り立った。

 

「ユキカゼ、残った騎士たちを連れて勇者殿の援護に向かえ」

 

静かな声音で紡がれた言葉に、ユキカゼはブリオッシュの雰囲気が剣呑なものに変わったのを感じ取った。

 

「御意。―――御武運を」

 

主の勝利を信じ、ユキカゼは生き残った騎士たちを引き連れてこの場を後にした。

 

先を行くユキカゼたちに視線すら向けず、ブリオッシュは晴人に集中していた。

 

戦が始まる直前の移動中にシンクと軽く会話した時、彼は今朝偶然にも晴人と出くわしたと言っていた。

 

その時に晴人が言い残したという一言。

 

―――今度は戦場で会おう。

 

その言葉を聞いて予感はしていた。

 

「やはりハルト殿も来たでござるか」

 

開口したブリオッシュの言葉に晴人はごく短い一言で返した。

 

「希望を守りに来た」

 

しかし、その一言には晴人の意志と覚悟が強く籠められている。

 

「それはレオ姫の、でござるか?」

 

「ああ。でも、レオンちゃんだけじゃない。ミルヒちゃんやシンク――みんなの希望を守るためにここに来たんだ」

 

晴人とブリオッシュ、両者の戦意を煽るかのように一陣の風が2人の間を駆け抜け、絹糸のように艶やかな髪が揺れ、ウィザーローブがはためく。

 

「なるほど。しかし、今は戦の最中。拙者は拙者の役目を果たすのみ。お互いこれ以上の言葉は無粋でござるな」

 

悟ったように瞑目し、小さく呟くブリオッシュは初めて会った時から操真晴人という人物に戦士の姿を見た。

 

それは用意された舞台の上で輝かしい脚光を浴びる道化役者ではなく、命を懸けた死闘に身を置く本物の強者の姿。

 

表情を隠す仮面越しからでも射抜かれるような視線を感じ、油断すれば返り討ちにあってしまうと直感で理解する。

 

故に自分も相応の覚悟で臨まねばと息み、ブリオッシュはゆっくりとした動作で太刀を構える。

 

「戦士の一刀は、千の言葉にも勝ると言う」

 

重みのある声音で呟き、猛者の瞳でブリオッシュは目の前の魔法使いを鋭く睨めつけた。

 

「さあ、魔法使いウィザードよ。―――すべては血風の中で語り合おうぞ」

 

晴人はガンモードからソードモードに変形させたウィザーソードガンを手元でくるりと回し、フレイムウィザードリングをブリオッシュに見せつけるように掲げた。

 

「さあ、ショータイムだ!」

 

しばしの間静寂が流れ、そして―――

 

「ハアアアアアアアアアアアアッ!」

 

「オオオオオオオオオオオオオッ!」

 

晴人がウィザーソードガンを、ブリオッシュが太刀を振り上げ、腹の底から雄叫びを張り上げながら大地を駆けた。

 

すぐに両者は肉薄し、2人の間でウィザーソードガンと太刀が切り結ぶ。

 

間髪入れずに2撃目、3撃目と2つの刃が銀の軌跡を描いていく。

 

激しい剣戟で風を切る鋭い音と空気を震わせる甲高い音を響かせ、火花が散る。

 

晴人が振りおろしたウィザーソードガンの刃がブリオッシュの太刀の刃によって弾かれる。

 

「ハアッ!」

 

息も吐かぬ間にブリオッシュが晴人の懐目掛けて太刀を斬りあげ、薙ぎ、刺突する。

 

「――ッ!」

 

晴人は素早い身の熟しですべて紙一重で躱していき、ウィザーソードガンを振るう。

 

そして再び激しい剣戟が繰り広げられていき、2人の周囲に生じた剣擊の軌跡が残像を残していく。

 

振り下ろされた太刀を受け止めると即座にウィザーソードガンで大きく巻き払い、隙ができた脇腹目がけて突き蹴りかました。

 

咄嗟にブリオッシュは籠手で防ぐが、さらに晴人は強烈な二段蹴りを叩き込み、最後に旋風脚がブリオッシュの胴に突き刺さった。

 

ブリオッシュが苦悶の声を漏らし僅かに後ずさったが、すぐに下がった間合いを埋めるように踏み込んで太刀を一閃させた。

 

閃く斬撃が炸裂した胸部から火花が散り、晴人の身体がよろめくや否やすかさずブリオッシュの太刀が晴人に襲い掛かる。

 

負けじと晴人もウィザーソードガンを振るうが、ことごとく剣閃が弾かれていく。

 

上段からの斬撃を晴人はウィザーソードガンの刀身で太刀の一撃を防ごうとするが、如何せん強すぎるその威力は女性のものとは思えない。

 

体勢的にも力負けし、晴人は咄嗟に後ろに飛んで距離を取った。

 

対峙するブリオッシュが手に持つのは、何度見てもその圧倒的な存在感に目を奪われる太刀。

 

元々長身の彼女の身の丈以上の刀身に、相応の長さを誇る柄が伸びている。

 

ウィザーソードガンと比べてもその差は歴然。

 

そして明らかに身長を超える太刀を軽々と操るブリオッシュの腕もやはり相当なものだ。

 

互いの間合いが違えば、速度すらまた違ってくるため、晴人はどうも間合いが詰められないでいる。

 

しかし、方法がないわけではない。

 

正面から挑んで無理なら、もっと強引に、そして効果的に懐に飛び込めばいい。

 

一度張り詰めた息を吐き出し、晴人はブリオッシュに目を向けながら立ち上がり、ベルトのバックルに指輪をかざした。

 

【ウォーター!プリーズ!】

 

【スイー!スイー!スイスイー!】

 

水が滴る青い魔方陣を潜り抜け、ウォータースタイルにスタイルチェンジした晴人はブリオッシュを目指して全力で駆け走った。

 

「おもしろい!」

 

初めてウィザードのスタイルチェンジを目の当たりにしたブリオッシュもまた、太刀を構えて迎え撃つ。

 

強く大地を蹴った晴人がブリオッシュの間合いに入った寸前、晴人は指輪をウィザードライバーのハンドオーサーにかざした。

 

【リキッド!プリーズ!】

 

そしてブリオッシュの太刀の一閃が晴人を捉えた、と思われた。

 

「なッ……!?」

 

しかし、ブリオッシュが見せた反応は驚愕。

 

目の前で晴人の身体が水のように液状化し、斬撃をすり抜けたのだ。

 

一瞬の出来事だったが虚を突くのは十分だった。

 

身体を液状化した晴人はブリオッシュの全身に纏わりつく。

 

何とかして振りほどこうともがくブリオッシュだが今の晴人の前では徒労に終わってしまう。

 

関節技で無理やり押さえつけて身体を実体化させると、晴人は巴投げの要領でブリオッシュを投げ飛ばした。

 

宙に身を放り投げられたブリオッシュはまるでコンパスで引いたような半円を描いた。

 

地面に落下する寸前で受け身をとることに成功したものの、予想外の反撃に呆気にとられてしまったブリオッシュ。

 

「俺は負けない。俺は最後の希望だからな」

 

【チョーイイネ!キックストライク!サイコー!】

 

足元に魔方陣を展開させて晴人は腰を低く鎮め、ストライクウィザードの構えを取った。

 

晴人の右脚に水の魔力が収束していく。

 

「上等!受けて立とうぞ!」

 

対するブリオッシュも紋章を展開させ、太刀の刀身から輝力の光が迸る。

 

呼吸を整え、精神を集中させる両者。

 

「だああああああああッ!」

 

「裂空……一文字!」

 

晴人はロンダードで跳躍して水の魔力を纏わせた右脚を突き出し、ブリオッシュの太刀から放たれた一閃が飛ぶ。

 

2人の必殺技が激突し、激しくスパークが爆ぜる。

 

そして、わずかな僅差で力と力の拮抗を制したのは―――ブリオッシュだった。

 

「な!?――ぐああああああああああっ!」

 

ストライクエンドを破られた晴人は衝撃で大きく吹っ飛び、そしてそのまま近くを流れる河川に墜落した。

 

ドボン!とブリオッシュの目前で水飛沫が上がった。

 

                      ☆

 

ブリオッシュの視界の端で、晴人の手元から離れたウィザーソードガンがきれいな弧を描いて地面に突き刺さった。

 

やはり強い―――その一言に尽きる。

 

ゆっくりと深呼吸をして荒ぶ息を落ち着かせながらブリオッシュは心の内で晴人を称賛した。

 

己の信念を賭けた戦いをできたことに、ひとりの騎士として素直に誇らしく思えた。

 

だが勝負はついた。

 

晴人のことは救護班に任せるとして、ブリオッシュが先を急ごうと思い立った矢先のこと。

 

踵を返すブリオッシュは澄んだ水面に魔方陣が浮かんだことに気付かなかった。

 

ドボゴオオオオオオオオオンッ!!

 

「―――ッ!?」

 

突然の地を揺るがすほどの轟音に振り返ったブリオッシュは言葉を失い、我が目を疑った。

 

「こ、これは……!?」

 

明らかに動揺の色を露わにするブリオッシュ。

 

彼女の眼前では河川を流れる大量の水が巻き上げられ、天に届く勢いで渦動していた。

 

【ウォーター!ドラゴン!】

 

ブリオッシュは鳴り響く電子音の発信源―――螺旋を描く竜巻の中に浮かび上がる人影の周囲を旋回するドラゴンの幻影をはっきりと見た。

 

【ジャバジャババシャーン!ザブン!ザブーン!】

 

グオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッ!!

 

ドラゴンの咆哮が辺り一帯に轟き渡り、魔力で形成された水の両翼が激しく渦巻く竜巻を貫いた。

 

宙空に弾け舞う水が雨粒となって降り注ぎ全身が濡らすが、ブリオッシュの視線はトン、と優雅に着地を決める晴人の姿に釘付けになっていた。

 

アンテナロッドが伸びる雫をイメージした菱形の仮面に、紺碧の青に染まったウィザーローブ。

 

フレイムドラゴンと酷似したその姿こそが水のエレメントを司るウォータースタイルの進化形態―――ウィザード・ウォータードラゴンである。

 

腕を大きく回し、最初と同じように今度はウォータードラゴンウィザードリングを見せつけた。

 

「フィナーレにはまだ早いぜ、ブリオッシュちゃん」

 

晴人の言葉に感化されたのか、ブリオッシュは再び太刀を構えた。

 

「なるほど、手強い」

 

独りごち、そしてにやりと笑みを浮かべた。

 

「―――ハッ!」

 

先に動いたのはブリオッシュだった。

 

先ほどまでとは比べ物にならない速度で距離を詰め、ひと思いで晴人の胸部めがけて逆袈裟方向に太刀を振るった。

 

取ったとブリオッシュが思ったその矢先、しかし晴人はバックステップを踏んで攻撃を躱した。

 

一瞬で躱されたことを理解したブリオッシュは即座に次の攻撃へと動作を移す。

 

手首のスナップを利かせて今度は逆方向から太刀を振るったが、晴人は身体を反らすことで逃れた。

 

下段から迫る斬撃は片足を上げるだけで躱し、返す刀で振り下ろされる一閃は跳躍して背後に回って回避した。

 

【コネクト!プリーズ!】

 

その後も無駄のない動きで襲いかかる太刀をいなしていきながら、晴人はウィザーソードガンを手元に引き寄せていなしていく。

 

晴人はブリオッシュの攻撃を受け止めることはしない。

 

すべて形に囚われない水のように流れに逆らうことなくブリオッシュの剣戟を受け流していく。

 

己の攻撃がことごとく無力化されていき、無意識の内に舌打ちを鳴らしてしまう。

 

再度太刀を握り直して横に払うが、晴人はウィザーソードガンを薙いで難なくいなしていく。

 

身体を旋回させると青いウィザーローブが華麗に翻る。

 

その隙に晴人はすかさずウィザーソードガンのハンドオーサーを開いた。

 

【コピー!プリーズ!】

 

素早く指輪をかざし、持ち替えて開いた左手に新たに複製されたウィザーソードガン・ガンモードで振り返ると同時に晴人はブリオッシュに銃口を向け引き金を引いた。

 

至近距離で数発の銀の銃弾がブリオッシュめがけて飛来する。

 

「―――クッ!」

 

ブリオッシュは苦悶を浮かべるも、瞬時に太刀を盾のように構えて後ろに飛び退いた。

 

僅かに銃弾が腕と脚を掠めたが気にしている余裕はなかった。

 

左手のガンモードのウィザーソードガンをくるりと回して晴人はブリオッシュとの距離を一気に踏み込む。

 

剣と銃と蹴り、リーチの異なる攻撃で晴人はブリオッシュに攻め立てる。

 

状況はブリオッシュの劣勢だった。

 

八卦掌を取り入れたアクロバティックな身のこなしに翻弄され、剣を意識すれば蹴りが迫り、死角を縫うように銃口が火を噴く。

 

冷静を欠かすことなく進攻を掻い潜り晴人に迫るのだが、今一歩のところで阻まれてしまう。

 

間合いを無視する変幻自在な戦い方にブリオッシュは舌を巻いた。

 

既に数え切れない程の攻防を重ね合っている晴人とブリオッシュの両名。

 

晴人も先ほどまでの戦闘によるダメージが抜け切っているわけでもなく、肩で息をしている。

 

どちらももはや満身創痍であった。

 

示し合わせるわけでもなく、2人は次で決着を着けると決断を下した。

 

【ルパッチ!マジック!タッチゴー!…ルパッチ!マジック!タッチゴー!…】

 

晴人はウィザードライバーのターンレバーを操作してハンドオーサーを右手側に傾け、指輪を付け替える。

 

ブリオッシュは極限まで意識を集中させ、背後に紋章を出現させて中断に構える太刀にありったけの輝力を注ぎ込む。

 

晴人は指輪をかざし、ブリオッシュは太刀を振り抜いた。

 

【チョーイイネ!ブリザード!サイコー!】

 

「――裂空……十文字!」

 

魔法陣から放たれる強烈な冷気を纏う吹雪と、光を放つ十字の斬撃が衝突した。

 

轟音が吹き荒れ、凄まじい衝撃が2人を襲う。

 

だが晴人もブリオッシュも苦悶を浮かべながらもその場に踏みとどまる。

 

一進一退に拮抗する吹雪と斬撃。

 

だが、徐々に拮抗は崩れ始める。

 

「ぐ……ッ!」

 

少しずつではあるが、晴人が押されつつあった。

 

腕を支えて踏ん張りを利かせるが、十字の斬撃は確実に晴人に迫っていく。

 

このままでは晴人が競り負けるのは時間の問題だろう。

 

―――しかしブリオッシュは知らない。

 

希望とはまた別に、操真晴人という人物が持つ強さの真髄である―――あきらめの悪さを。

 

「まだだ!」

 

叫ぶ晴人は気力を振り絞り、一度魔方陣を前に押しだした。

 

その隙にソードモードとガンモード、2つのウィザーソードガンのハンドオーサーを展開させる。

 

【キャモナスラッシュ!シェイクハンズ!…】

 

【ウォーター!スラッシュストライク!】

 

【キャモナシューティング!シェイクハンズ!…】

 

【ウォーター!シューティングストライク!】

 

【【ジャバジャババシャン!…ジャバジャババシャン!…ジャバジャババシャン!…】】

 

ウォータードラゴンウィザードリングをかざしたことで2つのウィザーソードガンに水飛沫が迸る魔方陣が躍る。

 

まずは最初にガンモードのウィザーソードガンを構えて水流弾を撃つ。

 

そして即座に今度はソードモードのウィザーソードガンを一閃させる。

 

そして水の弾丸と斬撃が魔方陣から放出される吹雪と融合し、極大の氷の刃となった。

 

予測外の晴人の切り返しにパワーバランスは一気に逆転した。

 

「――――な」

 

絶叫を漏らす間もなくブリオッシュは十字の斬撃ごと衝き疾る氷の刃に飲み込まれた。

 

急激な温度変化で生じた霧が陽の光を乱反射させて幻想的な空間を作り出した。

 

やがて霧が晴れると、一面に氷の世界が広がっていた。

 

河も、大地も、そしてブリオッシュも、視界に映るものすべてが凍りついていた。

 

「フィナーレだ!」

 

さらに畳み掛けるように晴人は指輪を交換してウィザードライバーのハンドオーサーにかざした。

 

【チョーイイネ!スペシャル!サイコー!】

 

魔方陣から水のエレメントで形成されたドラゴンが現れて晴人の周りを旋舞して背中に突進する。

 

すると、晴人の腰部にウィザードラゴンの尻尾―――ドラゴンテイルが具現化されるのだった。

 

晴人の意志でうねるドラゴンテイルで地面を叩き、晴人は駆けた。

 

狙うはもちろんブリオッシュ。

 

大地を覆う氷の上を滑るように加速して一気に距離を詰める。

 

そして晴人はブリオッシュ目がけてドラゴンテイルを叩き付ける一撃―――ドラゴンスマッシュを炸裂させた。

 

バリィィィィイイイイインッ!

 

氷が砕け散る儚い音が晴人の勝利を告げた。

 




どうも、斬月・真より斬月派の青空野郎です。
ナレーション・ロックシードの音声→デネブ。
エナジーロックシードの音声→ジーク。
……………電王じゃん!
デネブ×ジークじゃん!
なんか知らんけど電王でそろえてきちゃったよ鎧武!
ちょっとびっくりしました。

というわけでいかがだったでしょうか?
ブリオッシュとぶつけてみた第10話。
作成当初は地味にウォータードラゴンの使いどころをを悩んだりもしました。
とりあえず無事に出せて安心しています。
そして決め技はフェニックスを倒した時のやつを採用。

ついでに、この話を書いてる時に丁度ブリオッシュの声の人VerのブラッコのCMが流れていました。
いやあ、普段のやつもいいけどブラッコの時のひよっちさんの声、めっちゃええやん。
好きです。
……好きです。
………好きだあああああああああああああッッ!
紅白出てもいいと思う。
てか、出てほしいですね。

さて、本編もあとがきも長めになりましたがようやくこの作品も後半に入りました。
スパートかけてがんばります!
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