仮面ライダーウィザード FANTASTIC DAYS 作:青空野郎
晴人とレオンが姿を消し、魔獣の背に残されたシンクとミルヒは依然として現れ出でる浮幽霊とグールの大群と対峙していた。
「やあっ!」
棒形態に戻したパラディオンで眼前の怪人、霊魂を叩きのめす。
しかし敵の数は減るどころか、次々と現れ出でるその姿で視界が埋め尽くされていく。
縦横無尽に飛んでくる浮幽霊、捨て身で掛かってくるグール。
襲いくる狂気は気を休める暇さえ与えてくれない。
異常な恐怖にのどが渇き、少しでも気を抜けば全身が震えで支配されてしまいそうだった。
向けられる明確な殺意。
遺伝子に刻まれた生物特有の本能が激しく警鐘を鳴らしている。
齢14の少年は生まれて初めて命の危機というものを自覚していたのだ。
「シンク!」
シンクの背後に躍り出たミルヒが紋章術の防壁を張り、迫るグールの攻撃を防いだ。
「姫さま、下がって!」
瞬時に機転を利かせて跳躍。
「上段唐竹割り!」
輝力を纏わせた棍を勢いよく振り下ろした衝撃でグールを弾き飛ばした。
「ありがとう、姫さま!」
「ハイ!」
シンクのお礼にミルヒは元気な返事で応じる。
その力強い笑みにシンクは自身の緊張が和らぐのを感じた。
そうだ、今姫さまを守れるのは自分だけなんだ。
今は姫さまを守ることだけを考え、気を引き締めなおす。
だが安堵するのも束の間。シンクとミルヒの周囲はグールに包囲されてしまっていた。
頭上も浮幽霊例が群れを成している。
だが、完全に逃げ場が無くなった状況に苦虫を噛み潰した面持ちを浮かべた時だった。
「裂空一文字!」
突如飛来した斬撃が一角に屯していたグールを消し飛ばした。
さらには、続けざまに桜色の光線が降り注ぎ、グールと浮幽霊を次々と撃ち抜いて行ったのだ。
そして訪れる一時の静寂の中、目の前に降り立った人物にシンクは喜々とした声で叫ぶ。
「エクレ!無事でよかった!」
砦からミルヒの救出の道中、エクレはシンクを向かわせるため、トルネイダーの跳躍距離を稼ぐために自ら降下し、紋章砲で撃ち上げていたのだ。
「当然だ。すぐ戻ると言ったろう」
駆けつけるシンクにエクレは決まりの悪い顔で視線を泳がした。
「ありがとうエクレ。助かりました」
「姫さまもご無事で何よりです」
シンクへのこそばゆい面持ちから一転、エクレはミルヒの無事をその目で確認して破顔を浮かべる。
「姫さまー!勇者さまー!」
今度は頭上から幼さを感じさせる声音が耳朶を打った。
見上げれば、ミルヒのセルクル、ハーランの背に乗るリコがシンクたちを見下ろしていた。
小柄な身体で大きく手を振るその手には一丁の拳銃が握られていることから、先ほどグールと浮遊霊を打ち抜いた光線はリコの射撃であることはすぐに察しがついた。
リコはハーランとともに魔獣の背中に降り立つと、一目散にミルヒに抱き着いた。
「リコ!」
「リコも本当に……」
「ハイであります!ここに来る途中でちょうど落下中のエクレを見つけて合流したでありますよ!で、姫さまと勇者さまのピンチと聞いて!」
互いに笑顔を交し合う光景に、シンクは微笑ましさを覚える。
ヴォロオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!
しかし、そんな感動的な思いは突如の魔物の咆哮によって掻き消されてしまった。
改めて、自分たちが置かれている状況を認識する。
先の魔物の咆哮をきっかけに再び新たなグールと浮幽霊が姿を現したのだ。
敵側が無尽蔵に数を増やしていく戦況に変化はない。
対していくらこちらの戦力が増えたといっても、戦闘が長引けばいずれ体力、輝力ともに底をついてしまうだろう。
「ここは姫さまだけでもはやく避難を」
「私も一緒に戦います!」
圧倒的不利な状況を冷静に分析し、まずはミルヒの安全を最優先に考えてエクレが避難を促すが、彼女が首を縦に振ることはなかった。
「いや、ですが―――」
「それにまだレオさまとハルトさまもいるんです!」
尚も食い下がるエクレだったが、遮るミルヒの口から発せられた名前に驚かずにはいられなかった。
「レオンミシェリ姫が!?それにハルトと言うと例の魔法使いのことですか?」
「はい。2人とも先ほどどこかへ行ってしまわれましたが、きっと私たちの知らないところで戦っているはずです。なにより、私はこの土地神さまを助けたい……ここまで来て逃げるなんてできません!お願いです。一緒に戦わせてください、エクレ!」
しばし視線を交し合うミルヒとエクレ。
しかし状況は酷一刻を争う中で、エクレは半ば諦念を抱いていた。
まっすぐな瞳でエクレを射抜くミルヒ。
こうなってしまえば彼女は梃でも動かない。
それは家臣として、同時に友として目の前の彼女の性格を熟知しているが故だ。
「……わかりました。では姫さまは我々の援護をお願いします。リコは姫さまの護衛を頼む」
「了解であります!」
ミルヒをシュタッと敬礼するもうひとりの幼馴染に任せるとして、エクレは横目でシンクを見据える。
「勇者、我々は目の前の敵の殲滅だ。覚悟はできてるな?」
「もちろん!姫さまが覚悟決めたってのに、勇者が逃げ腰なんてありえないでしょ!」
まったく、自分が来るまで追い詰められていたクセに、今となっては力強い笑みを浮かべる現金さに溜め息を吐きながらエクレは双剣を構える。
そして、グールと浮幽霊の軍勢にオレンジと緑の輝きが迸った。
☆
場所は移って、土地神のアンダーワールド。
見事、妖刀の呪縛から子狐を解放した晴人とレオンだったが、何かの意思に導かれるように集束する瘴気がドス黒さを増した闇と化していくという光景に、剣呑な表情を崩せないでいた。
「この子を頼む」
これから始まる戦いを予想し、まずは子狐の安全を最優先に考えて晴人はレオンに預ける。
彼女の方も異論はないようで足早に母狐の元に向かっていった。
「気を失っておるが死んではおらん。心配はなかろう」
『本当に、なんとお礼を言えばよいか……』
我が子の無事に今にも泣き出しそうな声音を発する母狐。
本来なら喜びを分かち合いたいところだが、現状はそれを許さない。
「すまぬが、それはまた後にしてくれ。どうやら、悠長にしておる暇はなさそうじゃ」
苦々しく言うレオンの本能は揺らめく闇の隙間から漏れ出る紅い可視光に警鐘を鳴らしていた。
頬をなでる生ぬるい風に母狐もこれから姿を現すであろう存在を睨め付けている。
『おそらく、我が子という器を失ったことで妖刀の核が本来の姿を現さざるを得なくなったのでしょう……』
そして、晴人、レオン、母狐、それぞれの眼前でうねるように流動していた闇がピタリとその動きを止めた。
『気を付けてください。ここからが妖刀の――――マガタチの本領です!』
次の瞬間、爆発的な勢いでアンダーワールドに黒い波動が迸った。
瞬く間に視界を塗り潰す闇が晴れ、そこにいたのは一体の人型の異形だった。
身長は晴人と比べてあまり大差はない。
騎士の甲冑のようにも見て取れる黒一色の外見は独特な光沢を見せており、関節の可動部分を含めて身体のいたるところを走る紅い血管組織が怪しく脈動している。
そして何より目を引くのは怪人の右腕と同化した一本の妖刀。
血塗られた紅い刀身は魔獣だった時以上の禍々しさを放っていた。
一目見るだけで伝わってくる肌を突き刺すようなマガタチの威圧感に、晴人は無意識の内に息を飲む。
マガタチが一足踏み込んだ瞬刻、黒い残像が走った。
「―――ッ!」
気が付けばマガタチが晴人に肉薄していた。
眼前に迫り来る妖刀をウィザーソードガンで防ぐが、再びマガタチは右腕を大きく振り上げて紅い一刀を振り下ろす。
予想を上回る力に、競り合いは不利と判断した晴人は妖刀を横に受け流し、マガタチの脇腹に横蹴りを食らわせた。
急所を打たれ、動作が止まったところに突き蹴りをお見舞いする。
マガタチが一歩退いたところで、続けてウィザーソードガンを構えるが向こうも反応してくる。
胸部を狙った刺突が紅い刃によって刀身が上方に跳ね上げられた直後、返す刀で縦一線に紅い剣閃が火花とともに散った。
「があぁッ」
初撃を食らい苦悶の声を漏らす晴人だが、マガタチの刃は止まらない。
だが、負けじと晴人もマガタチの連撃を巧みにいなしていき、荒れた大地を走りながら刃を交わしていく。
今まで経験で培ってきた剣と蹴りによるトリッキーな戦法で徐々に加速していく妖刀に食らいつき、捌ききれぬ剣閃は最小限の動作で躱しながら、冷静にマガタチの剣筋を見極める。
交差するウィザーソードガンと妖刀が甲高い音を立ててアンダーワールドに響き渡る中、マガタチの一撃を受け止めたところで晴人はすかさず巻き押さえて体勢を固定した時、そして晴人は至近距離で相対して眼前にいるマガタチから放たれる底なしの不気味さに気づく。
ただ目の前の敵を喰らい、殺すためだけに鋭さを増幅させていく空虚に呑まれそうになり、たまらず晴人は旋風脚を食らわせてその場から飛び退いた。
一度距離を置き、呼吸を整えながら晴人は指輪を潜らせる。
【バインド!プリーズ!】
空中に出現した魔方陣から飛び出した鎖が一斉にマガタチに襲いかかる。
しかし、物言わぬマガタチは鋭く、迅速な太刀筋で次々と鎖を切り捨てていく。
やはり一筋縄ではいかないようで、無残に地に落ちていく鎖の残骸に歯噛みする晴人。
得物を中段に構えたマガタチが突進し、晴人はそれを迎え撃つ。
両者の刃が弾き合い、銀と紅の軌跡が躍り、そしてギリリッ、と互いの刀身が鬩ぎ合った時だった。
「伏せろ、ハルト!」
突如名前を呼ばれ、咄嗟に横に跳ぶ晴人と入れ替わる形でレオンが前に出る。
マガタチもすぐに標的を切り替えて、荒々しく豪快な斬撃で襲い掛かる。
取り回しに優れた妖刀でマガタチが猛烈な速度の剣戟に対して、レオンはそれら全てをグランヴェールで打ち払っていく。
「オオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
怒涛のごとく攻め立て、犬歯をむき出しにして轟かせる咆哮はまさしく獅子。
「さっすがレオンちゃん。すごい気迫だ」
グオオオオオオオンッ!
勇ましいレオンの姿を見て、疲労が溜まった身体に力が戻るのを感じた。
そしてドラゴンもまた、晴人の戦意に同調するかのように咆哮する。
「俺たちも行くぞ、ドラゴン!」
【フレイム!ドラゴン!】
希望を救うために、指輪に想いを込める。
己を奮い立たせ、晴人はレオンの元へと駆け走る。
【ボー!ボー!ボーボーボー!】
グオオオオオオオオオオオオオンッ!
周囲を旋回しながらドラゴンが炎の円を描いて晴人を包み込む。
ドラゴンの力が紅蓮の炎となって全身に行き渡っていく。
刹那、迸る炎を振り払い晴人はフレイムドラゴンにスタイルチェンジする。
深紅のウィザーローブをはためかせ、レオンと対抗するマガタチの間合いに潜り込むとウィザーソードガンで振り下ろし、薙ぎ、刺突を繰り出す。
マガタチもすぐに応対するが、如何せん不意打ちのような晴人の剣戟を前に後退せざるを得なかった。
そこをすかさず開けた間合いを埋めるように踏み込んだレオンのグランヴェールを一閃が閃いた。
初めてマガタチに有効打を与えたわけだが、油断はしない。
すぐに妖刀を振りかぶるマガタチに銀の銃弾で迎撃、火花を散らせてひるんだところを晴人とレオンが距離を詰めて突き蹴りを叩き込んだ。
「まだヘバっちゃいないよな、レオンちゃん?」
「当たり前じゃ!ようやくみなを救える方法が見つかった……ここまで来てあきらめてたまるものか!」
瞳は闘志で燃え滾っている。
決意の表れたレオンの声音に、晴人は仮面の内で笑みを浮かべた。
もちろん晴人もあきらめる気など毛頭ない。
「そのとおりだ。いくぜ。ここからは………俺たちのショータイムだ!」
「おうともよ!」
ウィザーソードガンをくるりと回して、晴人の掛け声にレオンも応じる。
両者が雄叫びを上げながら地を蹴る。
ウィザーローブをはためかせ、白銀の髪をなびかせ、ウィザーソードガンとグランヴェールが妖刀と切り結ぶ。
剣と斧、似て異なる近距離武器による乱舞を捌きながらマガタチは攻めに転ずるが、晴人を狙えばレオンが邪魔をし、レオンを狙えば晴人が立ちはだかる。
晴人もレオンも、マガタチの間隙を縫いながら互いが互いの隙を補うように果敢に攻め立てていく。
意識しているわけでもないのに、自然と成り立つコンビネーションがマガタチを翻弄する。
しかし、マガタチもまた、晴人とレオンの猛攻を斬撃で応える。
踏み込もうとしたところを先んじてレオンは地面を蹴るが、転瞬、マガタチは踏み込みから待ちの構えへと転じた。
フェイクだと気付いた時には紅い刃が届く間合いに入っていた。
機転を利かせて、攻撃を放棄。
グランヴェールを逆手に構えて妖刀の居合いを防ぐと、レオンは一思いに腕を巻き上げてマガタチの胴を強引に抉じ開けた。
直後、体勢を崩されたマガタチの視界に過ったのは、腹部にウィザーソードガンの銃口を突きつける晴人の姿だった。
【フレイム!シューティングストライク!】
「はあっ!」
ゼロ距離で火炎弾が炸裂した。
砂塵を巻き上げながら地面を転がるマガタチに晴人とレオンがさらに踏み込んで得物を振り下ろすが、2人の銀閃は受け止められてしまった。
「グ…ガッ……」
刃と刃が拮抗する最中、マガタチは初めてその閉ざしていた口から声を発した。
「ゴガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ」
そして地の底から響くような咆哮とともに膨大な量の瘴気がマガタチから放たれる。
「ガララアアアアアアアアッ!」
このままカタをつけようと力を込める晴人だったが、恐るべき膂力によって繰り出された一閃に耐え切れずレオンとともに弾けるように後方に飛んだ。
一度、間合いを取り、再び両者は相対する。
先の現象をきっかけにマガタチは全身から瘴気を放出している。
周囲に漂う瘴気の中でマガタチの血管組織が紅い妖光を放っていた。
危機感を感じたのか、ここにきてようやく敵も躍起になり始めたといったところか。
対して、こちらは今朝からの戦闘で身体が疲弊を訴えてくる。
レオンも肩で息をしていた。
「なかなかやるな。でも、このまま一気に勝負を着けさせてもらうぜ!」
【コネクト!プリーズ!】
「ハルト……?」
口調こそは飄々としているものの、その声音に重みがあることに気づいたレオンの隣で晴人は魔方陣に右腕を突っ込んだ。
【ドラゴタイム!】
そして引き戻した晴人の手に装着されていたのは、サムズアップしたハンドオーサーの中央に取り付けられた時計のような回転盤にドラゴンを模ったクリスタルが接続されたブレスレット、魔道具――――ドラゴタイマー。
そのまま晴人は音声を発するドラゴタイマーの回転盤『ドラゴダイアル』を回転させた。
【セットアップ!】
ボーン、ボーン、ボーン……
音声とともにドラゴンを模ったクリスタル『プリズムドラゴライト』が発光し、時の調べが辺りに響き渡る。
その様子をレオンと母狐が固唾を飲んで見つめる中で晴人はドラゴタイマーの起動レバー『サムズエンカウンター』を押した。
【スタート!】
グオオオオオオオンッ!
ドラゴンの嘶きとともに晴人は駆け出す。
同時に、マガタチはこれ以上の接近を許さんとばかりに晴人を切り刻まんと襲いかかってきた。
指針が時を刻む音を聞きながらマガタチの剣戟すべてを相殺していく晴人。
やがてドラゴタイマーの指針が青い盤面を指したことを確認して、晴人は再びサムズエンカウンターを叩いた。
【ウォータードラゴン!】
プリズムドラゴライトが青色に光ったその時、水で形成された青い魔法陣が出現する。
そこから現れ出でた人影にレオンは驚きで目を剥いた。
「なっ!ハルトがふたり、じゃと……?!」
そう、レオンの言うとおり、晴人とマガタチが剣を交える舞台に現れたのはもうひとりの晴人、ウィザード・ウォータードラゴンだったのだ。
すぐさまウォータードラゴンも戦闘に加わり、水の流れのようなしなやかさを備えた剣戟の隣で鋭く研ぎ澄まされた剣戟をマガタチに繰り出しながら、晴人はドラゴタイマーの起動レバーを指で弾いた。
【ハリケーンドラゴン!】
すると今度は空中に出現した風を纏った緑の魔法陣から姿を現したウィザード・ハリケーンドラゴンが着地の折に、ウィザーソードガンの引き金を引く。
連射される銀の銃弾が飛来し、マガタチをひるませたところをすかさず晴人とウォータードラゴンが一閃を食らわせた。
指針が土のエレメントのエリアに入り、プリズムドラゴライトが黄に光る。
【ランドドラゴン!】
攻撃を仕掛けようとするマガタチの真下に黄色い魔法陣が出現。
矢庭にウィザード・ランドドラゴンが飛び出し、旋風脚のカウンターで蹴り飛ばした。
「魔法使いの力、見せてやるよ」
【ファイナルタイム!】
そして今ここに、火、水、風、土、それぞれの力を宿した4人のウィザードが整列した。
【チョーイイネ!グラビティ!サイコー!】
晴人の叫びを皮切りに、まずはランドドラゴンが重力を操る魔方陣でマガタチを拘束。
続いて前に出たウォータードラゴンとハリケーンドラゴンが右手に嵌めた指輪をベルトのハンドオーサーにかざした。
【チョーイイネ!ブリザード!サイコー!】
【チョーイイネ!サンダー!サイコー!】
たちまち、強烈な吹雪とドラゴンを模した雷撃がマガタチに放たれる。
「グ、ゴ……ゴガッ………!」
鳴り響く轟音、吹雪と雷撃の暴威に苛まれながらマガタチが苦悶の声を漏らした。
「ガラアアアアアアアアアアアアッ!」
しかし、マガタチは妖刀を一閃、全身から放出する瘴気とともに魔法を薙ぎ払う。
攻撃が掻き消されたその余波でウォータードラゴン、ハリケーンドラゴン、ランドドラゴンの3人は吹き飛ばされてしまう。
そしてマガタチは唯一、踏ん張りを利かせてその場に留まった晴人に狙いを定める。
時をおかずに妖刀の切っ先を向けて飛び掛かるが、冷静に対峙する晴人の行動も迅速なものだった。
【ディフェンド!プリーズ!】
紅い刃が晴人に迫る寸前に魔方陣の防壁に阻まれ、マガタチの動きが一瞬止まる。
「レオンちゃん!」
「任された!」
晴人の叫びに合わせて、マガタチの死角からレオンのグランヴェールが白刃の軌跡を描いた。
「ガグギャアアッ!?」
絶叫しながら痛烈な一撃で火花を散らせるマガタチに、体勢を立て直したウォータードラゴン、ハリケーンドラゴン、ランドドラゴンの3人が攻めたてていく。
「チョーイイね」
「フン、次いくぞ!」
精悍な笑みを交わしながら晴人とレオンは並び立つ。
【キャモナスラッシュ!シェイクハンズ!…】
晴人はウィザーソードガンのハンドオーサーを開き、レオンは背後に自身の紋章を展開する。
【フレイム!スラッシュストライク!】
燃え盛る刃を携えて狙い定めるはただ一点、2人は同時に駆け出した。
【ボーボーボー!…ボーボーボー!…】
3人のウィザードの横をすり抜け、マガタチの真正面に躍り出る。
「魔王爆炎斬!」
「はああっ!」
袈裟方向に振るった炎の斬撃が十字に走った。
「グガアアアアアッ!?」
刹那、轟音を立てて爆ぜる衝撃でマガタチは大きく宙に身を投げた。
受け身も取れぬまま、地面に伏せるマガタチ。
晴人とレオンは大きく息を吐き――――かけた時だった。
「グラガアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
身の毛もよだつ叫声をあげてマガタチが立ち上がったかと思えば辺りに瘴気を撒き散らせながら紫黒色に光る翼を背面に発生させ、大きく羽ばたく。
思いもよらぬしぶとさに驚く間もないままマガタチが妖刀を振るった。
紅い軌跡が黒い斬撃波となって晴人たちに襲いかかってくる。
無意識の防御姿勢のおかげで致命傷には至らなかったが、それでも幾重にも放たれた凶刃のダメージは大きかった。
「チィッ!奴め、まだこれほどの力を………!」
「だが、こっちにもまだ希望は残されてる!」
【セットアップ!】
再びドラゴダイアルを回して晴人はサムズエンカウンターを押した。
【スタート!】
時を刻む音を聞きながら立ち上がる。
そして、その時が来た。
【ファイナルタイム!】
晴人は時を知らせるドラゴタイマーをウィザードライバーのハンドオーサーにかざした。
【オールドラゴン!プリーズ!】
大きく両腕を広げ、ウォータードラゴン、ハリケーンドラゴン、ランドドラゴン、そして晴人がエレメントを宿した魔法陣を背にして宙に浮き上がる。
そしてウォータードラゴン、ハリケーンドラゴン、ランドドラゴンの3人のウィザードの姿がそれぞれのエレメントで形成されたウィザードラゴンの幻影に変わると、周囲を飛び回りながら一体、また一体と晴人と融合していく。
まずは腰部に強力な破壊力を秘めた『オールドラゴテイル』、次に背中に鋭い刃と化した『オールドラゴウィング』、両手に強靭な切れ味を誇る『オールドラゴヘルクロー』、そして最後に胸部からウィザードラゴンの頭部『オールドラゴスカル』が具現化していった。
正しく、ウィザードラゴンと一体化したその姿こそ、全てのエレメントの力を完全に開放したウィザードの超強化形態――――ウィザード・オールドラゴンである。
「これが世界を救う、希望の力だ!」
ドラゴンの如き叫びをあげて、晴人はマガタチに向かって飛翔する。
「まったく、どこまでも驚かせてくれる………」
晴人の後ろ姿を見送りながらレオンは呆然とつぶやく。
ここまで来ると、驚きを通り越して呆れる他ないというのが正直な心情だった。
☆
辺りに漂う瘴気を吹き飛ばし、大空を翔けていく晴人にマガタチが黒い斬撃波の洗礼を浴びせてきた。
しかし晴人は襲いくる凶刃を、オールドラゴヘルクローを振るって次々と切り捨てていく。
「はあっ!」
そしてマガタチ目掛けて直進し、土塊を纏った刺突を繰り出す。
マガタチは寸前のところで妖刀を構えて食い止めるが、風を味方につけた勢いを止めるまでには至らなかった。
色濃く苦悶を露わにするマガタチに畳み掛けるように晴人はオールドラゴウイングを強く羽ばたかせる。
全身を切り刻んでくる風の刃に耐え切れず、マガタチはその場を離れようと試みるが、晴人はそれを許さない。
「逃がすか!」
すぐさま距離を詰めて取っ組み合い、空中で繰り広げられていく刃と刃による応酬は晴人が上回っていた。
低姿勢の状態から半月状にオールドラゴヘルクローを振るい、素早く身体を反転、オールドラゴテイルを逆袈裟方向に叩き付ける。
水の尾を引くすさまじい衝撃に宙を舞うマガタチに晴人はさらなる追撃を加えていく。
素早く飛行し、マガタチの頭上をとらえると、オールドラゴスカルからドラゴンブレスを放った。
必殺の超火力に飲み込まれ、成す術もなくマガタチは地面に落ちて行った。
ドラゴンの力を完全に開放した晴人の希望を前にして立ち上がるがその足取りはおぼつかないものだった。
「グルラァッ……」
それでもわずかに戦意は残っているのか、唸り声をあげて妖刀に瘴気を集めていく。
「どこを見ておる?」
そんなマガタチに言葉を投げかけたのはレオンの声だった。
マガタチが睨めつける先には弓の形態に変形させたグランヴェールを構えるレオンの姿があった。
携える弓矢に翡翠に輝く輝力が収束していく。
「ハルトが言うてたであろう?今はワシたちのショータイムじゃと!」
マガタチという存在に、恐怖という感情は備わっているのだろうか。
ただ確かなことは、今のマガタチからは正常な判断能力が欠落していたということだ。
本能に身を任せレオンに向かって地を蹴るマガタチだったが、軍配はレオンに上がった。
「魔神旋光波!」
瘴気を切り裂き、煌めく弓術紋章砲がマガタチを空高く撃ち上げる。
「決めろ!ハルトッ!!」
レオンが見上げるはるか上空で、晴人は巨大な魔法陣と火、水、風、土、4つのエレメントの光を放つ魔法陣に立ち、上昇してくるマガタチを見上げる。
「フィナーレだ!」
声高らかに宣言し、晴人は火のエレメント、水のエレメント、風のエレメント、土のエレメントの魔方陣から出現したドラゴンの幻影を引き連れて飛翔する。
「だああああああああああああっ!」
グオオオオオオオオオオンッ!!
火!水!風!土!
嘶きとともに、それぞれのエレメントで形成されたドラゴンの幻影が突撃し、トドメに巨大魔法陣ごと叩きつける突き蹴り――――ストライクドラゴンがマガタチを貫いた。
「グ、ガ……ガ……ガギャアアアアアアアアアアアアアアアッ!!?」
一刹那の後、耳をつんざくような断末魔の叫びとともに宏大な爆発がアンダーワールドに広がった。
「ハルト!?」
予想以上の規模の大きさにたまらずレオンが叫ぶが胸に生まれた不安は杞憂に終わる。
グオオオオオオオンッ!
爆発が生み出した煙幕の中から聞こえたのはドラゴンの雄叫び。
すぐにウィザードラゴンの背に乗る晴人が姿を現し、滑空してきた。
「レオンちゃん!」
手を伸ばし名前を呼ぶ晴人に、同じように大きく手を伸ばすレオンに笑顔が戻った。
「ハルト!」
そして互いの手がしっかりと繋がり、引き上げるようして晴人はレオンを後ろに乗せる。
今度こそ希望は救われた。
それは晴人の落ち着いた雰囲気から感じ取れた。
「今度こそ、終わったのだな......」
「ああ。これでようやく―――――」
『ありがとう』
安堵する2人の耳朶を叩いたのは優しさに満ちた声音。
視線を向けると、母狐がとても穏やかな眼差しでこちら見つめていた。
「帰ろう、みんなのところに」
「ああ……」
土地神の親子に見送られ、晴人とレオンはアンダーワールドを後にした。
先日、スーパーヒーロー大戦GPを見てきました。
今作もなかなか肉厚な内容だったと思っています。
今回は仮面ライダーの定義に重きを置いて、何より、及川さんが仮面ライダーのダークな部分をいい感じに表現してくれていて大変満足いく作品でした。
今日の合体スペシャルもおもしろかったです。
お待たせしました。
今話が第1期のクライマックスだったので、レオンとの共闘部分にこだわっていたら1万字超えてました(笑)
とりあえずこの作品もひと心地ついたので、残りはほんわかとした内容にしていきたいと思います。
P.S.
作中で、晴人がディフェンドを使用した点についてですが、本編の33話「金で買えないモノ」でドラゴタイマー装着した状態でキックストライクを使おうとしてたんで、とりあえず他の魔法も使えるという設定でいかせていただきます。
どうしても違和感を覚えたとしても、いや使えるんかい!という突っ込みで勘弁してやってください。