仮面ライダーウィザード FANTASTIC DAYS   作:青空野郎

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第6話 戦の後で

ミルヒオーレ姫のコンサートから一夜が明けて、ビスコッティ共和国領内に駐留していたガレット軍が撤退を終えて、すでに日が落ちて夜になっていた。

 

パリィンッ!

 

ガレット獅子団領ヴァンネット城の一室にて、何かが割れるような音が響いた。

 

「クソ…またか…!」

 

足元で割れた花瓶に見向きもせず苛立った声を発するのはレオンだった。

 

「戦を済ませて戻ってもやはり何も変わらん。いや、かえって悪くなった!」

 

レオが憤ろしく見るのは、星読みで使用する映像板。

 

「さして強くもないはずのわしの星詠み。なのに何故、こうまではっきり未来が見える……?」

 

忌々しげな表情から悲壮に染まるものへと変わり、嘆くように呻吟するレオン。

そしてもう一度映像板に映る光景に視線を向ける。

空には陽の光を遮る暗雲が立ち込め、大地はひび割れドス黒い瘴気が上る。

おおよそ平穏からかけ離れた惨状にシンクとミルヒが血だまりに倒れ伏して絶命していた。

そして映像版に記されたフロニャ文字にはこう書かれていた。

 

『エクセリードの主ミルヒオーレ姫とパラディオンの主勇者シンク、30日以内に確実に死亡。』

『この映像の未来はいかなることがあっても動かない。』

 

それはシンクとミルヒに対する映像の未来が絶対であるという内容。

 

「ミルヒだけでなく勇者まで死ぬ。…星の定めた未来か知らんが、かのような出来事、起こしてたまるか!」

 

たまらず星詠みの予言に激昂するレオンは隣接する奥の部屋に歩みを向けた。

そこには一本の戦斧が鎮座してあった。

 

「キサマを出すぞ、グランヴェール!天だろうが、星だろうが、貴様となら動かせる!」

 

レオンの叫びに呼応するように、グランヴェールと呼んだ魔戦斧が青白い光輝を放っていた。

 

――俺が最後の希望になってやるよ――

 

そんな時、ふとレオンの脳裏に、ミオン砦からの帰り際に見た晴人の姿と言葉が過った。

 

「ハルト…。あやつなら、もしや…」

 

拳を握り締めて決意を新たに刻むレオンは静かのそう呟いた。

 

                      ☆

 

「すまなかったね、ダルキアン卿。結局手伝わせてしまった」

「なに、国の慌ただしい時期に一年以上も留守にしたでござる。些末なことでも役に立たねば」

 

同時刻、ビスコッティ共和国フィリアンノ城の屯所内で、ブリオッシュはビスコッティ騎士団騎士団長、ロラン・マルティノッジと荷物の整理を手伝っていた。

 

「キミはもとより国に縛られる器でもないんだ。今もビスコッティに籍を置いてくれているだけでもありがたいよ」

「買いかぶりにござる。拙者、ただの風来坊にござるよ」

「今度は、当分いてくれるんだろう?」

「ああ………。拙者の探し物がどうなるかは、ユキカゼの星読み次第ゆえ、何とも言えぬでござるが…なるべく長く留まりたいでござるよ」

 

確認するように訊ねるロランの問いに、ブリオッシュは寂しげな語気で答える。

 

「それに、隣国ガレットにはなにやら不穏な空気もあるでござるしな」

「ああ、私は星は読めないがガレットの戦の仕掛けようが尋常と異なるのは明らかだ」

「ガレットというより、レオ姫が、でござるな」

 

ふと、作業の手を止めたブリオッシュは表情が真剣なものに変わる。

 

「考えたくはないが、魔物の類がかかわっておるやもしれん。そうなればまさしく、拙者の出番にござるが…」

 

覚悟と意気込みがにじみ出る強い語気でブリオッシュは腰にさした得物の鍔に手をかける。

 

「確かにレオ姫さまのこともそうだが、今は最近フロニャルドに出没している謎の魔物のこともあって本当、騎士団は大忙しだよ」

「ああ、そのことについてでござるが、実はその魔物についていろいろわかったでござるよ」

「それは本当かい!?」

 

予期せぬ吉報に思わずロランは驚きの声をあげた。

 

「おかげさまで。その魔物の名はファントムというそうでござる」

「ファントム…聞いたことがないな」

「無理もなかろう。元々ファントムは勇者殿の世界に現れる魔物らしいでござるからな」

「勇者殿の世界にも魔物が!?いや、そもそもなぜ勇者殿の世界の魔物がこのフロニャルドに?」

「さすがにそこまでは…。しかも、どうやらファントムの動きはこれからが本番らしいとのこと」

「これから、か…。ところで、ダルキアン卿はどこでその事を?」

「いや、実に情けないことでござるが、すべて教えてもらったことゆえな」

「教えてもらった?いったい誰に?」

 

怪訝そうに訊ねるロランの疑問に、ブリオッシュは答えた。

 

「指輪の魔法使い、でござるよ」

 

                      ☆

 

「ヘクション!」

「風邪ですか?ハルトさん?」

 

突然くしゃみをあげた晴人にビオレが心配そうに声をかけた。

場所は再びヴァンネット城に戻る。

現在晴人は城内の図書館の一角でビオレにフロニャルドの文字を教えてもらっていた。

 

「いや、大丈夫。えーと、フロニャ力とはフロニャルドに偏在する力で、きりょくなどの力の源…気力?」

「輝力、ですね。フロニャ力を自分の紋章に集めて自分の命の力と混ぜ合わせ変換したエネルギーのことです」

 

なるほどと頷く晴人にとっては1から外国語を学ぶようなものだが会話が通じる分、予想以上に早く理解することができた。

やはり今思っても会話が通じることに心の底から安堵する。

晴人は一通りかな文字に当たる文字を学んだあと、ひたすら書物から適当な文章を書き写すて翻訳、という作業を繰り返している。

 

「失礼します。お茶とお菓子の差し入れに参りました」

 

そんな時、机に噛り付いてあーだこーだと本と格闘する晴人と、その姿を微笑ましく見守っていたビオレのもとにカートを押すルージュが現れた。

 

「ありがとうございますルージュ。ハルトさん、丁度いいですしそろそろ休憩にしましょう」

「了解ぃ………」

 

ビオレの言葉に緊張が解けたのか、盛大に息を漏らしながら晴人は糸が切れた人形のように机にへたり込んだ。

 

「ふふふ、調子のほうはどうですか?」

 

だらしのない晴人の姿にやわらかな笑みをこぼしながらルージュがお茶を注いでくれている。

 

「今のところ順調ね。すでにある程度の読み書きなら問題なくこなせるまでになってるわ」

「それもこれも、ビオレ先生のおかげです。それより悪いね。帰って来て早々こんなこと頼んじゃって」

「いえ、それこそ気になさらないでください」

 

申し訳なさそうに言う晴人にやさしい笑みで答えるビオレだった。

ありがとうと言って差し出された茶菓子を味わいながら束の間のひとを和んでいたそんな時、警戒にあたらせていたガルーダが戻ってきた。

様子からして、ファントムが出現した様子はないようだ。

 

「おかえり、ガルーダ。本日もご苦労様です」

 

いつもお世話になっている使い魔に感謝の意を述べる晴人。

その時、晴人は机の下でふと違和感を覚えた。

何気なく視線を下に向けると、晴人の足元に一匹の子どものライオンがすり寄っていた。

 

「…ライオン?」

 

にぃ、と鳴くきれいな淡黄色の毛並みの子どものライオン。

 

「あらあら、バノンの子どもですね。こんなところまで来るなんて珍しいですね」

 

ルージュの言うとおり、どこかで見覚えがあるかと思えば昨夜のミオン砦でミルヒと一緒にいた子ライオンだった。

まだ子どもとはいえ、ゼロ距離でライオンと触れ合う晴人にとっては新鮮な体験だった。

 

「どうしたんだお前?迷っちまったのか?」

 

とりあえずその場にしゃがんで顔の位置まで持ち上げて子ライオンに冗談めいて語りかける晴人。

 

「にゃー」

 

果たして晴人の言葉を理解したのか、子ライオンは呑気な鳴き声で返してきた。

 

「ライオンを見るのは初めてなんですか?」

「いや。でも、触るのは初めてだな。似たやつはいるけど」

 

ずいぶんと人間慣れしているなと思いながら見つめていると、自然とビーストに変身してポーズをとる仁藤を連想し思わず笑いを吹き出した。

 

「にゃ」

「んにっ」

 

突然子ライオンが伸ばした前足で晴人は鼻頭を叩かれて間抜けな声を漏らしてしまった。

 

「ふふふ」

「くすくす」

 

晴人が肉球の独特な感触を懐かしく思っているとビオレとルージュに押し殺したような声で笑われてしまい、ちょっと恥ずかしくなった。

照れ隠しに視線を泳がせると、同じく偵察から戻ってきたユニコーンとクラーケンを追いかけるもう一匹の子ライオンとその様子を見守る母親、バノンがいた。

どうやら使い魔たちに誘われてここまで来たようだ。

気が付くと、同じように晴人に抱きかかえられていた子ライオンも周囲を飛ぶガルーダにくぎ付けになっていた。

 

「おっと」

 

幼いなりの本能を刺激されて我慢が出来なくなったのか、とうとう子ライオンはガルーダめがけて晴人の腕から飛び出していった。

 

「ふふふ、ずいぶんとなつかれてるみたいですね」

「俺が、というより使い魔たちがだけどな」

 

結局、遊び盛りな2匹の子ライオンに追いかけられる羽目になった使い魔たちの光景に自然と笑みをこぼす晴人とビオレだった。

 

「ところで、昨夜はレオさまといい雰囲気だったそうですね」

「へ?」

 

不意のビオレの言葉に晴人は間の抜けた返事をしてしまった。

 

「まあ、そうなのですか?」

「昨夜帰ってからのレオさまは珍しく機嫌がよろしかったのでどうされたのかと訊くと、ハルトさんの世界について楽しく語られておられました」

 

そういえば確かにそんな話もしたなと内心でうなずく晴人にビオレは実にうれしそうに続ける。

 

「あんなに楽しそうにしていたレオさまを見たのは久しぶりでした。きっといい気分転換になったんだと思いますよ」

「そっか。でも、それってやっぱりあのお姫さまが関係してるんじゃないの?」

「「――ッ!」」

 

唐突の晴人の指摘にビオレとルージュはハッとしたように瞠目していた。

あのお姫さまが示すのは、もちろんミルヒオーレ姫殿下のこと。

 

「レオンちゃんとミルヒちゃんって昔は仲がよかったんだろ?」

 

晴人のその言葉に、ビオレとルージュはわずかに表情を翳らせた。

 

「…やはり、ハルトさんも気づかれましたか?」

 

その反応を見て、晴人の中で予想は確信に変わった。

 

「やっぱり何かあったんだ」

 

小さく唇をかむビオレは短い躊躇の後、おずおずと口を開いた。

 

「―――両国の先代領主が旅立たれる前、レオさまは姫さまをとても大切に扱ってくださいました。その様子はまるで、生まれついての姉妹のようでもありました」

 

ビオレが言うには、幼いころから臣下と民を思いやる心を持つミルヒと武術と紋章術に秀でるレオンの二人は互いに足りないところを補い合い、大切なことを教えあうほどの間柄だったらしい。

 

「お2人が領主になられてからも目立った波乱もなく、会う機会は減っても公式非公式問わずずっと仲良くされていたのですが半年ほど前のことでしょうか。レオさまが急に姫さまの身の回りや、ビスコッティの騎士団のことを気遣ってくださるようになって…」

「気遣う?」

「ビスコッティの軍備増強を提案したり、姫さまが危険な目に合うような興業は避けるように、姫さまにきちんと護衛をつけるように、ですとか。それはもう一生懸命に。…ですが、3ケ月ほど前からはまるで人が変わられたように冷たくなられて、姫さまとの交流もそれきりぱったりと。姉妹のように思っていた幼馴染の心変わりと、交流を続けてきた隣国との関係不和。…姫さまは個人と領主の両面から心を痛めていらっしゃっています」

 

ビオレの沈みつつある雰囲気を察したのか、それともただ単に使い魔たちを追いかけることに飽きたのか、いつの間にか子ライオンたちが2人の足元に歩み寄り、不安げに見上げていた。

丁度その時だった。

 

「おめぇがソウマハルトか?」

 

一息つく晴人に背後から声をかけられた。

振り向くとそこにいたのは見覚えのあるひとりの少年。

 

「キミは確か、レオンちゃんの弟の――」

「ガウル・ガレット・デ・ロワだ。よーく覚えとけ!」

 

腕を組んで自信満々に声を張るガウル。

ガウルの登場にビオレとルージュが敬礼する。

 

「そうそう。シンクと一緒にレオンちゃんの鉄拳制裁を食らった」

「グッ…。それを言うんじゃねぇよ」

 

思い出した晴人の言葉を聞くなりばつが悪そうに表情を歪める。

 

「ハハハ。で、こんなところで何やってんだ」

「いやな、昨日の戦でいろいろ迷惑かけちまったからな。姉上に書庫の整理を命令されてたんだよ。ジェノワーズも向こうで荷物を運んでんだ。そんであんたを見かけたからちと挨拶をと思ってな」

 

ガウルの言うとおり、そういえば確かにこれがミオン砦以来の再会だった。

 

「そっか。じゃあ改めて、操真晴人だ。よろしく」

「おう!よろしくな、ハルト!」

 

お互い握手を交わし合う晴人とガウル。

 

「ところでよ…」

 

声色を変えたガウルが晴人の首に腕をかけ、耳元で囁いた。

 

「おめぇ、強いんだってな?」

「へ?」

 

突然の言葉に訝しげな返事を返す晴人。

ガウルは面白おかしそうに口角を上げて続ける。

 

「兵士たちから聞いたぜぇ。昨日おめえひとりで魔物の大軍を追い払ったんだってな?」

 

どうやら昨日のファントムとの戦いのことを言っているようだ。

 

「さらにはジェノワーズとビスコッティの垂れ耳隊長をまとめて相手にして勝ったんだろ?」

 

今度はミオン砦での対決。

 

「ああ、うん。まあな」

 

別に隠すことでもないのでとりあえず晴人は首肯した。

 

「かーっ!やっぱそうなのか!なあなあ、今度俺様と勝負しようぜ!な!」

「なんでそうなるの?」

 

予想を斜め上に行く発言に思わず晴人は眉を顰めた。

 

「そんなもん、強者がいると聞いたらガレットの戦士として戦わねぇわけにはいかねぇだろ?」

「いやいや、それ理由になってないから。そんなことよりもこんなところでサボってると知られたらまたレオンちゃんに怒られるんじゃないのか?」

 

「あー、平気平気」

 

晴人の注意を適当に流してガウルは得意げに腕を組む。

しかし、気配もなくガウルに近づく影。

丁度ガウルの背後に位置していたため、影の主に気付いた晴人は冷や汗をかく。

 

「だいたい姉上は―――」

「―――ほお…。わしがなんだって?」

 

背後から聞こえた声を聞いてガウルは初めて表情を強張らせた。

 

「あ、あああああ姉上!な、何故ここに!?」

 

地の底に響くような声音を発するレオンは一見笑っているように見えるが目は笑っていなかった。

 

「どうやら、まだ仕置きが足りんかったようじゃの。のお?ガウル」

 

ものを言わせぬレオンの迫力にガウルはしどろもどろになる。

子ライオンたちはおびえていつの間にかバノンのそばで縮こまっている。

 

「い、いや、その、あの、これは――」

「問答無用じゃ!」

「ぎゃふん!」

 

とうとうレオンの2度目の鉄拳制裁の音とガウルの奇妙な悲鳴がこだました。

 

「あーあ」

「―――っ。邪魔をして悪かったの、ハルト」

 

呆然とする晴人の反応に気づいたのだろう、頬を少し赤らめるレオンは晴人の顔を見るなり恥ずかしそうに顔を背けた。

しかし晴人はレオンの表情の変化に気づかなかった。

 

「あー、いや。大丈夫、気にしないで」

 

それどころかレオンの怒気に気圧されてしまい、巨大なたんこぶを作って気絶してしまったガウルを気の毒に思いながら晴人と、ビオレ、ルージュの3人は苦笑いを浮かべることしかできなかった。

 

「ところで、レオさまがこのような場所に赴くなんてどうかされたのですか?」

「いや、ちとハルトに用があってな」

「ん?俺?」

「ああ。単刀直入に言うぞ。ハルト、わしと戦え」

「え?」

「レオさま!?」

 

予想外の発言に晴人だけでなくこの場にいる者全員が驚愕に包まれた。

しかし、そんなことを気にした風もなくレオンは淡々と続ける。

 

「もちろん戦えと言っても、戦のような公式のものではない。あくまでわしとお主の一騎打ちでの模擬戦じゃ。戦2連敗に気落ちしておるガレットの戦士たちにとってきっといい刺激になろうて」

 

決して真意を悟られまいと平静を装って理由を述べるレオンだったが、それが後付されたものだということはすぐにわかった。

ビオレ、ルージュが片隅にて状況を見守っている中で、晴人は静かに息を吐いた。

 

「いいぜ。俺もそろそろ体を動かしたいと思ってたところだし」

 

晴人の了承の返事を聞いて、幾ばくかレオンの強張っていた表情が緩和された。

 

「感謝する。ではまた後で、武闘場でな」

 

それで会話は終わり、踵を返すレオンは気絶したガウルの首根っこを掴んでその場を去って行った。

 

「どうして、レオさまの挑戦をお受けになったのですか?」

 

予想通り、ビオレが訊ねてきた。

結局のところ、不安に揺れるビオレの語った内容からは何がレオンを変えてしまったのかはいまだにわからなかった。

しかし、同時にわかったことがひとつ。

 

「別に。大した理由じゃないさ」

 

ビオレの問いに答える晴人はその場にしゃがみ込み、そっと1匹の子ライオンの頭をなでる。

くすぐったそうににゃーと鳴くその愛らしい姿に思わず口元がほころぶ。

 

「きっとレオンちゃんも同じだよ」

「――え?」

 

晴人の静かな一言にビオレはかすかに声を漏らした。

 

「確かにレオンちゃんが何を隠しているかはわからないけど、レオンちゃんもミルヒちゃんと同じくらい傷ついているんだ。それでも、いつか話してくれる時が来るさ」

 

「ハルトさん…」

「それに、昨日約束したからな。もし絶望しちまいそうになった時は、俺が最後の希望になるって。だから、今はレオンちゃんを信じようよ。」

「…ふふ、そうですね」

 

そして、晴人の強く優しい決意がいつの間にかビオレとルージュの中でくすぶっていた不安を吹き飛ばした。

誰かの絶望を希望に変えること。

例え世界が違ったとしても、晴人の誓いが揺るぐことはない。

それは魔法使いになったあの日に決めたことだから。

 

                      ☆

 

「さあさあさあさあ!やって参りました!我らがガレット獅子団領領主、レオンミシェリ閣下による緊・急・特・別・演・武!実況は私、ガレット国営放送のフランボワーズ・シャルレーが勤めさせていただきます!」

 

図書館でのやり取りからわずか1時間足らずにも関わらず、晴人とレオンの一騎打ちの話はすぐさま城中に駆け巡り、武闘場広場には観客や報道陣を含めて、かなりの数のギャラリーがひしめき合っていた。

 

「なんか、騒ぎが大きくなってないか?」

 

武闘場のステージにひとり立つ晴人の第一声がそれだった。

しかし唖然とする晴人をよそに、実況が会場を盛り上げていく。

 

「なお、解説にはバナード将軍とビオレさんにお越しいただきました。本日はよろしくお願いします!」

「どうも」

「よろしくお願いしまぁす」

「さて早速なのですが、本日レオンミシェリ閣下と対戦されるソウマハルトなる人物は一体どのような方なのでしょうか?」

 

実況席でフランボワーズが率直な疑問を投げかける。

 

「はい。ハルト殿はビスコッティの勇者殿の召喚の儀に巻き込まれてこのフロニャルドに舞い降りたと聞いております」

「なんと!あのビスコッティの勇者の他にも異世界から召喚された人物がいたとは!しかし、となるとあのレオンミシェリ閣下が直々に相手をするということは、その方はかなりの実力の持ち主であるとお見受けしますが?」

 

再びの質問に今度はビオレが答えた。

 

「そうですね。実際にハルトさんは前のミオン砦でのミルヒオーレ姫さま奪還戦でジェノワーズとビスコッティの親衛隊長さんを相手に勝利していますから実力は確かなものだと思いますよ」

「それは大いに期待できそうですね。おっと、そうこうしているうちにどうやらレオ閣下の準備が整ったようです。それでは参りましょう。我らがガレット獅子団領領主、レオンミシェリ・ガレット・デ・ロワ閣下の入場です!」

 

拍手喝采が巻き起こり、ギャラリーの歓声がとどろく中で丁度晴人の正面に位置する扉が開かれた。

 

「待たせたの」

 

扉の奥から悠々とした足取りで現れたレオン。

そしてその手には前に見た長柄斧ではなく、青白い神秘的な光を纏う巨大な戦斧が握られていた。

 

「あっ、あれはまさかぁぁぁ!宝剣!宝剣グランヴェールだァァァァァァッ!」

 

フランベールの絶叫に、会場にどよめきの波が一気に押し寄せた。

宝剣とは、フロニャルドにおいて多くの国で二体一対ずつ受け継がれる国を統べる者の証。

 

「レオンミシェリ閣下、まさかの宝剣を持ち出しての登場!バナード将軍、この展開をどうお考えになりますか?」

「さ、さすがの私もこれは予想外でしたね。ですが、おそらくレオ閣下はハルト殿を宝剣を用いて相手するに相応しいと判断されたのでしょう」

 

絶叫を続けるフランボワーズの隣で、驚きを隠しきれない面持でバナードは何とか解説の役割をこなす。

 

「なるほど、これは盛り上がることは間違いないでしょう!私も興奮が止まりません!」

「レオさま…」

 

ビオレの不安げな呟きは、しかしかき消されてしまった。

 

「レオンちゃん…」

 

ビオレと同じように訝しげに名前を呼ぶ晴人だが、晴人の心配も、周囲の喧騒も特に気にした様子もなくレオンは言った。

 

「ハルト。余計な心配も手加減もいらん。全力で来い」

 

静かでありながら透き通る声音が晴人の耳朶を打った。

普段は自身が魔法使いであることを隠すようなことはしない晴人だが、正直言って衆人環視の中で変身することに気が引けていた。

しかし、目の前で揺るぎのない決意に燃えるレオンの瞳を向けられて、今はそんなくだらないことは考えないことにした。

 

「……わかった」

 

【ドライバーオン!プリーズ!】

 

ウィザードライバーを出現させて、晴人は左手にフレイムウィザードリングを潜らせる。

 

「変身!」

 

続けてハンドオーサーを左手側に傾けて晴人はフレイムウィザードリングをかざした。

 

【フレイム!プリーズ!】

【ヒー!ヒー!ヒーヒーヒー!】

 

出現した魔方陣が身体を透過し、晴人はウィザードに変身した。

 

『おおぉ…』

 

晴人の変身に周りが動揺する声が聞こえたが、気にせず晴人は同時に取り出したウィザーソードガンをくるりと回す。

 

「いつでもいいぜ」

 

晴人の言葉に頷いて、ビオレが立ち上がる。

武闘場内は一度水を打ったかのようにシンと静まり返った。

 

「いざ、尋常に…」

 

お互いを見据えて晴人はウィザーソードガンを、レオンはグランヴェールを構える。

 

「はじめ!」

 

ドオォォォォォォォォォォォオオオンッッ!!!

 

巨大なドラが叩かれて試合開始のゴングよろしく、重厚な音色が響き渡る刹那、晴人とレオンは同時に地面を蹴った。




とうとうウィザードも特別編を残すのみとなってしまいましたねぇ…。
とりあえず、賢者の石の隠し場所はフロニャルドでも行けるんじゃね?と本編最終回を見て思ったりしてましながら書いた第6話です。
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