仮面ライダーウィザード FANTASTIC DAYS   作:青空野郎

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第7話 前に進む決意

「「はあああああああああああああああああああああっ!」」

 

異世界フロニャルド、ガレット獅子団領ヴァンネット城内の武闘場でウィザードに変身した晴人と、宝剣グランヴェールを掴むレオンの雄叫びが響く。

 

ガキイィィィインッ!

 

甲高い音を発する、剣と魔戦斧の刃の接触がわずか一瞬足らずだったにもかかわらず、思わず身構えてしまうほどのすさまじい衝撃が武闘場内全体を駆け抜けた。

 

「はあっ!」

「ふんっ!」

 

すれ違う寸前に晴人もレオンも身体をひねり、両者は再び得物を振るう。

 

再度交わる剣と魔戦斧の刃。

 

即座に晴人はウィザーソードガンで魔戦斧を払い流し、身体を反転させてレオンめがけて蹴りを叩き込む。

 

しかしレオンはすかさずグランヴェールの柄でそれを防いだ。

 

続けて強く踏み込みを入れて、大きく振り下ろされるグランヴェールの一撃を晴人は咄嗟にウィザーソードガンで受け流す。

 

しかしそこを間髪入れずに次々とレオンはグランヴェールを振り回してきた。

 

だが、晴人は襲い掛かる魔戦斧の一撃一撃を見極めてウィザーソードガンでいなす、身体を傾けるなどしてかわしていき、隙を見つけては刺突や斬撃、蹴り技を繰り出していく。

 

もちろん、逆もまた然り。

 

レオンは巨大な魔戦斧を器用に使いこなして晴人の攻撃を防いでいく。

 

攻めて攻められ、防ぎ防がれる、そんな一進一退の激しい攻防に観戦に来ていたギャラリーたちのボルテージは上がりに上がりまくっていた。

 

「す…すばらしぃぃぃいッ!まさかあのビスコッティ自由騎士ダルキアン卿以外にもレオンミシェリ閣下と渡り合える人物がいようとは!私、感激で興奮が冷め止まりません!」

 

「だあぁぁぁあッ!本当は俺が先に戦うはずだったのにチクショー!」

 

熱の籠るフランボワーズの実況の実況に被さるようにガウルが哮けり立った。

 

「もう何でもいいから俺も戦わせろオオオオッ!」

 

「落着いてくださいガウさま。今更言ったってもう手遅れですよ」

 

頭をかきむしり荒れる様子のガウルをジェノワーズのひとり、ベールがたしなめる。

 

「ノワはどう思う?この勝負」

 

「正直何とも。あの人の紋章術が厄介なものなのは確かだけど、やっぱりレオさまが負けるとはとても思えない」

 

「はっ、アホか。あんな若造に閣下が負けるはずなかろう。世迷言も大概にしろ」

 

同じくジェノワーズのジョーヌとノワールの会話に割り込んできた将軍ゴドウィンがガウルの隣でふんぞり返って大酒をかっ食らっていた。

 

「…世迷言なんかじゃないもん。本当のことだもん…」

 

そっぽを向いて小さくむくれてノワールが言った。

 

「ちょっと将軍、うちのノアの機嫌損ねんといて」

 

「この子拗ね始めると長いんですよ!」

 

ジョーヌとベールの指摘に、ゴドウィンのもともと低かった沸点が限界に達した。

 

「知るかァッ!ボケェッ!」

 

「戦わせろオオオオ!」

 

客席で騒ぐガウルたちには見向きもせず、すでに幾度となく得物で打ち合う晴人とレオンの両者。

 

しかし晴人はローブを翻して身体を回旋させる際にウィザーソードガンをガンモードに変形させるとすぐさま真後ろに跳びながら引き金を引いた。

 

「くっ!」

 

咄嗟の判断でレオンは魔戦斧を盾にして縦横無尽に飛来する数発の銀の銃弾を防いだ。

 

その隙にレオンと距離を取った晴人は指輪を取り換えた右手をウィザードライバーのハンドオーサーにかざしていた。

 

【ビッグ!プリーズ!】

 

魔方陣を潜らせた右腕を巨大化させて勢いよく振り下ろす。

 

しかしレオンに横に跳んでかわされたので、もう一度振り下ろすが、これも同様に横に転がってかわされた。

 

3度目の正直のつもりで晴人は張り手をかますも、レオンにバックスッテプであっけなくかわされてしまった。

 

「次はこっちから行くぞ!」

 

仕方なく腕を引っ込める晴人に叫ぶレオンが魔戦斧を構えて素早く距離を詰めてきた。

 

「ならこれだ!」

 

【エクステンド!プリーズ!】

 

今度は伸縮自在となった腕でウィザーソードガンを振るう。

 

だがウィザーソードガンの刃が届く前に、レオンはムチのようにしなる晴人の腕の軌道を完全に見切って攻撃を掻い潜った。

 

さらにはそれだけではとどまらず、レオンは突進を中断させて晴人が伸ばした腕を掴んだ。

 

「なに!?」

 

驚いている間にレオンは勢いよく腕を引いて晴人を引き寄せる。

 

予想以上の力に引っ張られる晴人は空中で体勢を崩されてしまった。

 

タイミングを窺うレオンは晴人が射程範囲内に飛んできたところをすかさず魔戦斧の一閃をくらわせた。

 

「がああっ!」

 

装甲から飛び散る火花が痛烈な一撃の威力を物語っていた。

 

地面に激突する寸前に受け身をとって墜落を逃れた晴人は反撃に移ろうと素早く指輪を取り換える。

 

【バインド!プリーズ!】

 

レオンの周囲に浮かび上がるいくつもの魔方陣から飛び出す鎖が彼女を拘束しようと迫る。

 

「なめるな!」

 

冷たい声音で叫ぶレオンは魔戦斧を一蹴させてすべての鎖を破壊した後、天高くグランヴェールを掲げて自身の背後に紋章を出現させた。

 

「爆砕衝破!」

 

グランヴェールを地面に突き刺した直後、地響きとともに晴人の足元から爆炎が噴き出した。

 

「ぐああああああっ!」

 

予想外の方向からの攻撃に対応できず、絶叫をあげて晴人は宙を舞う。

 

「決まったァァァアアアアッ!レオンミシェリ閣下の必殺技、爆砕衝破!これは痛い!果たしてハルト選手は大丈夫なのか!?」

 

「グッ…くぅ……」

 

フランボワーズの実況を聞きながら小さく呻き声を漏らしながらも態勢を立て直そうと立ち上がったが、すでに目の前で距離を詰めたレオンがグランヴェールを振りかぶっていた。

 

一撃、二撃、三撃と容赦のない斬撃をくらわされ、トドメに腹部を蹴られて大きく吹っ飛ばされた。

 

まさか彼女がここまで強かったとは、と内心で軽く後悔しながら何とか再度起き上がろうとするが思ったよりダメージが大きかったらしく結局、晴人は膝から崩れ落ちてしまった。

 

その姿に会場は完全にレオンの勝利ムードに染まっていく。

 

「――ふざけるな」

 

そんな時、レオンの絞り出すような声がはっきりと聞こえた。

 

「ハルト、キサマ昨日言ったであろう?俺が希望になってやる、と。よもやキサマ、その程度でわしの希望になれるなどと本気で考えてはおるまいな。今までキサマがどれだけのものを背負ってきたかはわしには分からん。じゃが、それはわしとて同じじゃ。そんな中途半端な覚悟では何かを守ることなどできるはずなかろう!」

 

レオンはギリギリと奥歯を鳴らし、自然とグランヴェールを掴む腕に力が籠っていく。

 

「それが全力というわけではあるまい。少なくとも、最初にキサマの戦いを見た時はそんなものではなかったぞ!」

 

「………」

 

レオンの言葉のひとつひとつが胸に突き刺さった。

 

もしかしたらレオンは、絶望するつらさを知っている晴人がいつのまにか同情し、これ以上傷つけることを恐れて無意識に攻めを抑えていることに気づいていたのかもしれない。

 

「…信じるって、決めたばかりだったのになぁ…」

 

誰にも聞こえないほどの小さな声で呟く晴人は、仮面の下で自嘲する笑みを浮かべた。

 

同時に、これ以上彼女を失望させないために今は彼女の想いに全力で応えよう、そう思った。

 

晴人はウィザーソードガンを地面に突き刺して、顔を上げる。

 

「いいぜ。なら見せてやるよ。………ドラゴンの力を!」

 

ゆっくりとした動作で立ち上がりながら静かに呟く晴人はハンドオーサーを左手側に傾ける。

 

【シャバドュビタッチヘンシーン!…シャバドゥビタッチヘンシーン!…】

 

軽快な音声を鳴らしながら、晴人はフレイムウィザードリングよりもさらに凝った装飾が施された赤い指輪を潜らせ、ハンドオーサ-にかざした。

 

【フレイム!ドラゴン!】

 

真正面に炎を纏う赤い魔方陣が顕現し、晴人を透過する。

 

すると魔方陣から火のエレメントで形成された真紅のドラゴンの幻影が出現した。

 

【ボー!ボー!ボーボーボー!】

 

炎のドラゴンの幻影が周りを旋回し、晴人は燃え盛る紅蓮の炎に包まれた。

 

グオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッ!!

 

竜の咆哮が響き渡り、巨大な一対の炎翼が広がるエフェクトと同時に、晴人を包み込んでいた紅蓮の炎が一斉に弾け飛ぶ。

 

そして、現れ出でた晴人の姿にレオンはその瞳を大きく見開いた。

 

赤い宝石の如き仮面からはドラゴンの角を思わせるアンテナロッドが伸長し、胸部にはドラゴンの頭部を模した装甲が追加されている。

 

黒かったウィザーローブは烈火の炎を連想させる真紅の赤に染まっている。

 

―――ウィザードフレイムドラゴン。

 

それは晴人の内に宿るファントム、ウィザードラゴンの力を現実に引き出すことで火のエレメントが強化されたフレイムスタイルの進化形態。

 

「―――ッ…!」

 

進化した晴人から放たれる魔力のプレッシャーに、レオンは思わず息をのんだ。

 

そんな彼女に晴人は左手のフレイムドラゴンウィザードリングを見せつけるように掲げて言い放つ。

 

「さあ、ショータイムだ」

 

【キャモナスラッシュ!シェイクハンズ!…】

 

【コピー!プリーズ!】

 

晴人はウィザーソードガンのハンドオーサーを起動させて指輪をかざす。

 

そして新たにウィザーソードガンを複製し、二刀流となった晴人は出方を窺うレオンを見据えながら悠々と歩き始める。

 

それを見て額から汗が流れるのを感じたレオンは一気に片をつけるつもりで駆け出す。

 

「はあぁぁあッ!」

 

雄叫びをあげながら距離を殺し、レオンは魔戦斧を振り下ろす。

 

それを晴人はウィザーソードガンで受け流し、もう一本のウィザーソードガンで一閃する。

 

咄嗟にレオンは上体を反らしてかわし、その後は次々と繰り出される晴人の連撃に必死に食らいついていく。

 

ガキイィィィインッ!

 

大上段から振り下ろしたレオンの一撃を晴人はウィザーソードガンを交差させて受け止めた。

 

1分1秒が長く感じられる静寂で、苦戦を強いられれているはずのレオンは、笑っていた。

 

己と同等、またはそれ以上の者と対峙することに魂が震える。

 

「まだじゃ!」

 

叫ぶレオンは再度紋章を出現させた。

 

魔戦斧に炎が纏われるのを寸前で察知した晴人は後ろに跳躍してレオンと距離を取った。

 

「獅子王裂火…爆炎斬!」

 

魔戦斧から放たれた炎が巨大な鳥を形づくり、晴人に襲い掛かる。

 

だがすでに、晴人は2本のウィザーソードガンのハンドオーサーを展開させていた。

 

【フレイム!スラッシュストライク!】

 

【フレイム!スラッシュストライク!】

 

【【ボーボーボー!…ボーボーボー!…】】

 

「はあああッ!」

 

対抗するように晴人は炎のエレメントが宿る2本のウィザーソードガンを振るった。

 

炎の十字の斬撃が炎の鳥と衝突し、一瞬の拮抗の末に武闘場内ですさまじい轟音と共に大きな爆発が発生した。

 

生じた煙が両者の視界から相手の姿を隠したが、晴人が先に動いた。

 

「うおおおおおおっ!」

 

出方を警戒していたレオンが気づいた時には、煙を突き破って跳躍する晴人がガンモードに変形させた2丁のウィザーソードガンの銃口を向けて引き金を引いた。

 

連射される銀の銃弾の雨に防御態勢を取るレオンの動きが封じられてしまう。

 

「チィッ…!」

 

たまらず舌打ちするレオン。

 

そこに晴人が丁度正面の位置に降り立ったため、レオンはグランヴェールを力いっぱい横なぎに振り放つ。

 

だが晴人はバタフライで回避、着地と同時に振り向き様にするどい旋風脚を叩き込んだ。

 

魔力だけでなく基本スペックも大きく上昇してあるため、レオンは大きく蹴り飛ばされてしまった。

 

【ルパッチマジックタッチゴー!…ルパッチマジックタッチゴー!…】

 

レオンが起き上がった時には当に、晴人が新たな指輪をウィザードライバーにかざしていた。

 

【チョーイイネ!スペシャル!サイコー!】

 

両腕を大きく広げる晴人の背部に魔方陣が顕現すると同時に身体がゆっくりと上昇する。

 

魔方陣から飛び出した炎のドラゴンの幻影が再び晴人の周囲を乱舞する。

 

そしてドラゴンの幻影が晴人の背中に向かって突進し、胸部の装甲からウィザードラゴンの頭部、ドラゴンスカルが具現化した。

 

グオオオオオオオオオオンッッ!!

 

再びドラゴンの咆哮が轟いた。

 

「フィナーレだ」

 

晴人の言葉を引き金に、ドラゴンスカルから放つフレイムドラゴンの必殺の劫火、ドラゴンブレスが炸裂した。

 

「なっ!?…クッ……がああああああああああっ!」

 

そしてそのまま成すすべもないまま呆気なくレオンは爆炎の奔流に飲み込まれてしまった。

 

「ふぃ~」

 

炎上する炎の中に浮かぶウィザードの魔方陣を見ながら優雅に降り立つ晴人はいつもの一息を吐いた。

 

やがて炎が晴れると、そこには地に足をつけて立つレオンの姿があった。

 

しかし、誰もが固唾を飲んで勝負の行方を見守る中で、薄く笑みを浮かべたレオンの手から魔戦斧の柄が離れた。

 

ゴトン、と重く、乾いた音が響き渡り、ゆっくりとレオンの身体は仰向けに倒れる。

 

「参った。降参じゃ」

 

レオンのその一言が言葉を失った武闘場を沸かせた。

 

「し…試合終了ォオオオオオオオオオオッ!ハルト選手、まさかの大逆転!見事レオンミシェリ閣下に勝利しましたアアアアアアッ!」

 

予想をはるかに超える番狂わせに、場内の熱気は最高潮に達していた。

 

レオンが敗北したという結果に、大声を張り上げる者、指笛を鳴らす者、唖然とする者などそれぞれがそれぞれの反応を見せていた。

 

「気分はどうだい?」

 

そんな場内の興奮に気にした風もなく変身を解いた晴人が仰向けに倒れるレオンの元に歩み寄り、声をかけた。

 

「…不思議なもんじゃな。勝負に負けたというのに、妙に落ち着いておる。キサマの紋章術、確か魔法と言ったか?なかなかのものだったぞ」

 

「まあね。これは誰かの希望を守るための、そして、俺自身が前に進むための魔法だから」

 

視線を落として左手のフレイムドラゴンウィザードリングを見つめながら、晴人は言う。

 

「前に進む、か。フ…ハハハ。そうじゃな。おかげで迷いも晴れた。礼を言うぞ、ハルト」

 

「どういたしまして」

 

レオンの謝辞をいつもと変わらない飄々とした口調で答えて、晴人は手を差し出した。

 

レオンはその手を掴んで立ち上がる。

 

その時のレオンの初めて見た笑顔はとても晴れ晴れとしたものだった。

 

その刹那のことだった。

 

ババッ!

 

晴人の目の前で、レオンの衣服が弾け飛んだ。

 

そう、下着すら容赦なく。

 

程よく育った豊満な両の美乳、雪のように透き通る白い肌、細くくびれた腰に引き締まった美脚。

 

晴人の眼前で芸術品のように思わせるレオンの見事なプロポーションが露わにされていた。

 

「……へ?」

 

一瞬、何が起きたのか理解できず唖然とする晴人は間の抜けた声を漏らしていた。

 

「な゛ッ………!?」

 

いち早く事態に気付いたレオンは目を白黒させ、口をパクパクさせながら耳までかつてないほどに顔を紅潮させていた。

 

目の前の光景を目の当たりにしていた観客たちの誰もが晴人と視線を合わせようとはしなかった。

 

ガウルも、ビオレも、バナードも、フランボワーズも、ジェノワーズたちも、ゴドウィンも、晴人が視線を向けるなり、やはり同様に目を逸らした。

 

「にゃ、………にゃああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」

 

悲鳴にしてはかわいいな、などと思っている場合ではなかった。

 

「ちょっ!レオンちゃん落ち着け―――」

 

涙目で絶叫をあげて狼狽するレオンを宥めようとした晴人だったが、後で考えれば選択を間違えたことに後悔することになる。

 

「見るなあああああああああああああああああああああああああああっ!」

 

バチィイイイイイインッ!

 

この日、ガレット領国の夜空にレオンの怒号とビンタする音が響き渡った。

 

                      ☆

 

「はあ……」

 

レオンとの決闘後、とある一室の部屋の前で晴人は盛大なため息をひとつこぼした。

 

「ハハハ…大変でしたね…」

 

「その、ご愁傷様です…」

 

苦笑いを浮かべながら、ビオレとバナードが戸惑いがちに声をかけてくれた。

 

「いや、シャレになってないから…はあ……」

 

晴人はどこか納得のいかない口調で答えて再びため息を漏らす。

 

ヒリヒリと痛むその頬には赤々とした立派なもみじが出来上がっていた。

 

「あー。ところで、ハルトさんはこちらに来てどれくらいになるんですか?」

 

落ち込み気味の晴人に気を使ってくれたのか、ビオレが話題を変えてくれた。

 

「んー…多分もう一週間ぐらい経つかな。そういえば一度もみんなと連絡取れていないままだったな…」

 

「そうなのですか?でしたら今頃ご家族のみなさまも心配されてるのでは…」

 

「いや、俺家族はいないんだ」

 

「「――え?」」

 

まさかの晴人の言葉に、ビオレもバナードも一瞬言葉を失った。

 

「子どものころに事故にあって、ね。それからはずっと天涯孤独の身ってやつさ」

 

「それは、その…申し訳ない。知らなかったとはいえ、無神経なことを言ってしまった…」

 

頭を下げて非礼を詫びてバナードに晴人は柔らかく微笑んだ。

 

「別に気にする必要はないって。家族がいないのは俺だけってわけじゃないんだからさ。確かに父さんと母さんがいなくなった時はすごく悲しかった。だけど同時に、父さんと母さんから希望をもらった時でもあったから…」

 

「希望、ですか?」

 

疑問に思うビオレの言葉に晴人は頷いた。

 

「あの時言ってくれたんだ。俺が生きてくれていることが、自分たちの希望だって」

 

『父さん…母さん…。――イヤだ……イヤだよ!』

 

絶望寸前に追い込まれて涙を流すまだ幼かった晴人に、最後の力を振り絞って手を伸ばす父と母。

 

そうして手と手を繋いで2人の希望を受け取った瞬間―――それが晴人の心の支えになっている。

 

続けて語る晴人の表情に悲しみの色はなかった。

 

「それに、今は仲間がいるから」

 

晴人と同じ魔法使いで、常にマヨネーズを片手に周りを振り回す自由気ままでお人好しの仁藤。

 

人々を守るという信念を胸に抱き、自分にできることにいつも全力で取り組む凛子。

 

おっちょこちょいで無駄に騒がしいところが玉にキズだが、今は助手として奮闘してくれる瞬平。

 

実の子のように思い、迷った時には叱責し、慰めて背中を押してくれる輪島のおっちゃん。

 

そして、晴人の一番の理解者でもあり、どんな時でも晴人を信じてくれるコヨミ。

 

面影堂に集まって、みんなで一緒にバカ騒ぎをしていつも笑みが絶えない光景が浮かび上がる。

 

「今俺が俺でいられるのは、父さんと母さんや、仲間のみんなのおかげだから」

 

一切の曇りもない満面の笑顔で力強く言う晴人の姿に、いつの間にかビオレとバナードの表情からも暗い陰りが消えた。

 

「素敵な方たちなんですね」

 

「ああ」

 

そうしてヴァンネット城の一角に和やかな雰囲気が流れていた時、晴人が背を向けていた部屋の扉が開かれた。

 

「その…ま、待たせてすまぬ。入ってくれ」

 

頬を僅かに赤らめたレオンが開かれた扉の隙間からから顔をのぞかせながら言った。

 

やはり、未だに先の出来事が尾を引いているようだった。

 

「えっと、こっちこそさっきは悪かったです…」

 

レオンに促される前に、とりあえず一言素直に謝っておく晴人。

 

「「「なっ……!」」」

 

そして部屋の中に足を踏み入れた矢庭の事、晴人、ビオレ、バナードの3人は同時に絶句した。

 

3人の目に飛び込んできたのは、血だまりにうつ伏せで倒れるミルヒとシンクの光景を映し出した映像版の映像だった。

 

                      ☆

 

それは翌日の早朝のことだった。

 

ビスコッティ共和国、フィリアンノ城に柔らかな朝の陽ざしが降り注ぐ

 

「姫さま。勇者さまとのお散歩、いかがでしたか?」

 

「楽しかったです!また明日も行きましょうねって」

 

フィリアンノ城の一室にてメイドの一人の質問に、シンクとの散歩から帰ったミルヒが楽しそうに答えた。

 

「それはようございました」

 

メイドがうれしそうに相槌を打つと、朝のニュースを流していた映像版が突然、アラームを発した。

 

『こちら、ヴァンネット城前のパーシー・ガウディです。つい先ほど、ガレット獅子団領レオンミシェリ閣下より、衝撃的な発表がありました』

 

アナウンサーの慌ただしい様子にミルヒたちの表情が強張った。

 

『とにかく、その発表の映像をご覧ください』

 

すぐさま映像が切り替わり記者会見の広間の光景が映し出される。

 

『4日後より予定していたガレット領国の戦闘評議会。この内容を少々変更しようと思う』

 

大勢の報道陣の目の前で、壇上に座るレオンが淡々と語る。

 

『先の2連敗に加え、ビスコッティには勇者が召喚された。さらには武勇に名高きダルキアン卿も帰国した。これを放ったまま国内に籠もっていては獅子団戦士の名折れであろう?』

 

意味深げな発言の後、不敵な笑みを浮かべてレオンは高らかに言い放った。

 

『よって、ビスコッティに新たな戦を申し込む!』

 

途端に、カメラのフラッシュが一斉にたかれた。

 

『急な戦を申し込む手前、付随興業はビスコッティ側で好きにやってくれて構わん。商工会や個人商店の参加も大歓迎じゃ。無論、賞金や商品は大量に用意するぞ。皆稼ぎ時じゃ!こぞって参加してくれ!』

 

おおおっ!と、レオンの発言に、会見を見ていた国民や兵士たちが興奮に踊るどよめきたった。

 

逆に、ミルヒを始め、シンクやブリオッシュ、エクレールにリコッタなどの一部の者たちがいぶかしげな眼差しでレオンの会見を聞いていた。

 

『ビスコッティ側の承諾を得次第、チケットの売り出しを開始する。開催まで時間がないゆえ、少々慌ただしくはなるが、こちらも、詳細は追ってお伝えしよう。参加の意思がある者皆にきちんと行き渡るようにする故な。…そして、国家間との勝利懸賞として賭けたいものがある』

 

目を細めるレオンの言葉に、そばで控えていた家臣の一人が豪華な刺繍が施された大きな布を取り払い、その中に隠されていたものが露わになった。

 

『ガレットの宝剣、魔戦斧グランヴェールと神剣エクスマキナ』

 

そこには魔戦斧グランヴェールと、その真上に鮮やかなコバルトブルーの光を放つ小さな球体が浮かんでいた。

 

『この会見を聞いておるかな?ミルヒオーレ姫殿下。ビスコッティにも、これと見合うものを出してもらえれば僥倖じゃ』

 

立ち上がり、レオンが強気な口調でミルヒにメッセージを送る。

 

「国の宝剣に見合うものなんて…」

 

「こちらも宝剣を出せってことですね。これではまるで――」

 

『ガレット、ビスコッティ両国民。己の国のため、自らのため、戦う勇気があるのなら、この戦に馳せ参じよ!』

 

ミルヒが不安げに見つめる映像の向こうで、レオンの煽り立てるような言葉にガレット、ビスコッティの国民たちの歓声が轟き渡った。

 




特別編、まさかの本編の続きだったあああああっ!
この物語も中盤に差し掛かりました。
うーん…。やっぱwとかもだすべきかなぁ…?
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