仮面ライダーウィザード FANTASTIC DAYS 作:青空野郎
突然のレオンの宣戦布告からはや数時間。
未だガレットとビスコッティの両国から期待と興奮から沸き立つ喧騒が鳴りやむ兆しは見えない昼下がりの午後、ガレット領内の森林地帯に煙が昇っていた。
すでに住処とする動物と土地神たちが姿を消した森の中で異形の怪人ファントムが暴れていたのだ。
「邪魔だコンニャロウ!」
毒づきながらガウルがグールを蹴り飛ばす。
「うぉおりゃあ!」
ガウルの背後を守るようにジェノワーズのひとり、ジョーヌが豪快な叫びをあげて巨大な大斧を振り回す。
2人はとある所要で極秘にビスコッティ共和国を訪れていた。
その帰りの際、突如として現れたファントムの軍勢に襲われてしまっていたのだ。
すでに何体目かのグールを殴り飛ばして、視界のほとんどを埋め尽くすグールの軍勢を睨みつける。
「どうやらこいつらがハルトや姉上の言っていたファントムっつう魔物みたいだな」
「聞いた通り気味が悪いうえに数が多すぎる!きりがあらへんでガウさま!」
「泣き言言ってもはじまらねえ!とにかくまずはここを突破するぞ!」
「了解!」
素早く切り替えてジョーヌはガウルと同時に地面を蹴った。
繰り出される槍の攻撃を掻い潜り、ガウルが一体のグールの顔面を踏みつけて宙に跳んだ。
「輝力開放!獅子王爪牙!」
獅子の如き叫声で紋章術を発動させたガウルの腕と足に鋭い爪状に模った輝力が宿る。
「獅子王爪牙ァ――爆雷斬り!!」
落下の勢いに乗せた一撃が轟音とともに大量のグールたちを吹き飛ばした。
「爪牙双拳!」
全力で振り抜く蒼い輝力が迸る獅子王爪牙が、竜巻となってグールの数を大きく減らしていった。
「この調子で―――」
「がああああっ!」
勢いが乗ってきたその矢先、地を揺るがすほどの爆発に紛れたジョーヌの悲鳴がガウルの足を止めた。
「ジョーヌ!?」
ガウルが丁度ジョーヌに襲いかかろうとしたグールを蹴り飛ばし、急いで彼女の身を抱き起こす。
その時新たに姿を現した3つの異形の存在にも気づいた。
2人の前に現れたのはファントム、ヘルハウンド、ケットシー、そしてベルゼバブの3体だった。
特に指揮者のように4拍子を刻みながら歩み寄るベルゼバブは、他のファントムとは違う不気味さを放っている。
「なんだ?ようやくリーダーさまのご登場ってわけか?」
ガウルが鼻で笑って挑発してみるがファントムの反応に特に変化は見られなかった。
「上等だ!」
ガウルは再び獅子王爪牙を発動させ、強く大地を蹴ってベルゼバブに斬りかかった。
しかし、獅子王爪牙の斬撃がベルゼバブを捉える寸前、ガウルは妙な違和感を覚えた。
その正体はすぐに分かった。
「なッ……!?」
突き出したはずの獅子王爪牙がベルゼバブに触れる寸前の位置で消えていた。
かわりに、突き出したはずの獅子王爪牙の切先がなぜかガウルの頬をかすめていたのだ。
当然その現象をすぐに理解することができないでいたガウルを、ベルゼバブは4拍子を刻みながら嘲笑の視線で見下ろしていた。
「こんの…!」
咄嗟に腕を引っ込め、今度は下から抉るように狙ってみたが、結果は同じように獅子王爪牙の爪先はベルゼバブに触れることなくあらぬ方向から飛び出していた。
「ガウさま危ない!」
わけがわからず混乱に陥ってしまったガウルだったが、背後からジョーヌの叫びが聞こえた時には
突如腹部に受けた強い衝撃によって皮肉にも冷静さを取り戻していた。
「へっ!魔物のくせになかなかやるじゃねえか……」
痛みが走る腹部を抑えながら、不覚にも隙を晒した自身の不甲斐なさを自嘲するガウル。
見ると、相変わらず4拍子を刻むベルゼバブの手には一本の長剣が握られていた。
どうやらガウルの腹部に一撃入れたのはその長剣のようだ。
フロニャ力の加護がなければ死んでいたかもしれない。
頬をつたう冷や汗を拭いながらガウルはちらりと視線だけをジョーヌに向けた。
ジョーヌは大斧を振るって次々とグールを叩きのめしているが、明らかに肩で息をしていた。
お互いこれ以上の戦闘は厳しそうだと判断する。
しかし状況は悪くなる一方で、すでに周囲はファントムたちに囲まれている。
追い打ちをかけるように、ベルゼバブの指示でグールたちがガウルたちとの距離を詰めてきた。
どうするべきかと悩んでいると、突如、槍を振るおうとしていたグールたちが
ブゥゥゥウウウウウウウンッッ!!
その矢庭に独特な低音のマフラー音が耳朶を叩き、ガウルは意中の人物の名を叫んだ。
「ハルト!」
刹那、予想通り茂みの向こうからすでにウィザードフレイムスタイルに変身した晴人がマシンウィンガーを駆って飛び込んできた。
着地と同時にマシンウィンガーを巧みに操りアクセルターンで残りのグールたちを蹴散らしていく。
「大丈夫か、ガウル?ジョーヌ?」
「あったりまえだ!こんな連中に手を焼くほどやわな鍛え方はしちゃいねえよ!」
「なら安心だ」
軽い口調とは裏腹に、内心で安堵の息を漏らしながら視線をファントムたちに移す。
「あの時は逃げられたからな。今度こそ、きっちり倒させてもらうぜ!」
ガンモードからソードモードに変形させたウィザーソードガンを手元でくるりと回して、晴人は駆け出した。
「ガウさま!ジョーヌ!」
「2人とも無事ですか?」
「ノワ!ベルまで!」
入れ替わるようにガウルたちのもとに駆けつけてきたのはジョーヌと同じジェノワーズのノワールとベールだった。
「話は後。まずはこいつらを」
「立てますか?」
ガウルとジョーヌを守るようにノワールが短剣を、ベールが弓矢を構える。
そうだな、と納得するガウルとジョーヌも立ち上がる。
目の前では晴人が鈴なり状態に群がるグールを返り討ちにしていっている。
もちろん、ガウル自身、後のことを晴人に任せるつもりは毛頭なかった。
「うっしゃあ!俺たちも行くぜ!」
勢いよく立ち上がり気合を入れなおすガウルと彼に頷くジェノワーズは、それぞれの武器を構えてグールの軍勢に立ち向かっていった。
☆
【ランド!プリーズ!】
【ド!ド!ド!ドドドン!ドン!ド!ドドン!】
土塊が舞う魔方陣を潜り抜け、ランドスタイルにスタイルチェンジする晴人。
琥珀色のボディを煌めかせ、晴人は悠然とした足取りでグールたちとの距離を詰めていった。
槍を振りかぶるグールの腕を巻き押さえ、懐に入り込むと同時に肘鉄を打ち込んだ。
ドン!と鈍い音を響かせて崩れ落ちるグールを尻目に、続けて槍を振り下ろすグールの攻撃を華麗に躱す。
即座にその背中に再び肘鉄を、腹部に膝蹴りを入れて叩きのめした。
今度は2体がかりで槍を突き出された。
だが瞬時に、そして冷静に攻撃のタイミングを見計らって槍を掴む。
そのまま強引に引き寄せ、体制が崩れたところにラリアットを食らわせて大きく吹っ飛ばす。
数体のグールが魔力弾を撃ち出すのを視界の端に捉え、晴人は指輪をハンドオーサーにかざした。
【ディフェンド!プリーズ!】
魔力弾を遮る土の防壁の裏で素早く指輪を付け替えて、再度手形のバックルにかざした。
【ドリル!プリーズ!】
高速で身体を回転させる晴人。
土の防壁が崩れた時にはすでに晴人は地中深くに姿を消していた。
慌てるグールたちの背後を取るように晴人が地中から飛び出した刹那、ウィザーソードガンで回転の勢いに乗せた斬撃が閃いた。
そして再び身体を回転させて地中に身を隠し、飛び出しては斬撃を食らわせていった。
そんなヒットアンドアウェイを繰り返し、次々とグールを斬り伏せていく。
かなりの数のグールを減らしたが、一息つく間もなく晴人の背後にベルゼバブの凶刃が迫っていた。
寸前で気付いた晴人は身を翻して回避に成功する。
ウィザーソードガンを振るって激しい攻防を繰り広げる晴人とベルゼバブ。
ベルゼバブが怒涛の剣戟を繰り出すが、焦る様子を見せない晴人は相手の剣筋を見極め確実にかわしていく。
ガキィンッ!
ベルゼバブの攻撃が大降りになった瞬間を見定め、カウンターの要領で相手の得物を打ち上げた。
間髪いれずにウィザーソードガンで刺突を繰り出す。
だが、ウィザーソードガンがベルゼバブを貫くことはなかった。
ガウルのときと同じく、ウィザーソードガンの剣先が在らぬ方向から突出していた。
これが空間を捻じ曲げ、出口を別の場所に作り出すベルゼバブの特殊能力である。
しかしその程度で平静を取り乱す見せる晴人ではない。
即座に余裕の面様を浮かべるベルゼバブの腕を巻き取り、無理やり体勢を固定する。
「2度も同じ手が通じるかっての!――ガウル!」
「おうよ!」
晴人の声に答えて、ガウルの獅子王爪牙がベルゼバブの背中に炸裂した。
予測外の方向からの攻撃までには対応できず、強烈な一撃にベルゼバブの身体から盛大な火花が散った。
「はああっ!」
「うらあっ!」
畳み掛けて晴人のウィザーソードガンとガウルの獅子王爪牙が閃いた。
大きく身体を仰け反らせ、おぼつかない足取りで後ずさるベルゼバブ。
亡霊なりに本能が働いたのか、ベルゼバブは歪めた空間の中に飛び込んで姿を消した。
「逃がすか!」
【エクステンド!プリーズ!】
追いかけるように、伸長させた左腕を歪んだ空間に突っ込んだ。
ほどなくして、引き戻した腕とともに首根っこを掴まれたベルゼバブが飛び出てきた。
空中で手足をバタつかせ、まともに受け身も取れないまま無様にも地に落ちる。
ふらつきながらも立ち上がろうとするベルゼバブだったが、横手から飛び込んできたヘルハウンドとケットシーとともに、再び倒れ伏すことになってしまった。
「ガウさま親衛隊ジェノワーズをなめたらあかんで!」
そうジョーヌが叫ぶのが聞こえた。
ノワール、ベール、ジョーヌ、3人並ぶ彼女たちの衣服が所々破れているところを見ると、相当の戦いを繰り広げていたことが伺い知れた。
「ハルト、トドメを!」
「ああ!」
頷く晴人はランドウィザードリングをフレイムドラゴンウィザードリングに付け替え、ハンドオーサーを左手側に傾けた。
【フレイム!ドラゴン!】
【ボー!ボー!ボーボーボー!】
グオオォォォォォオオオオオオンッッ!!
魔方陣から飛び出した炎のドラゴンの幻影が晴人の周りを旋舞し、咆哮する。
紅蓮の炎を振り払い、フレイムドラゴンへとスタイルチェンジした晴人は即座にスペシャルウィザードリングをバックルにかざした。
【チョーイイネ!スペシャル!サイコー!】
グォォオオオオオンッ!
ドラゴンスカルを顕現させ、咆哮とともにドラゴンブレスを解き放った。
紅蓮の劫火に飲み込まれるや否や、3体のファントムと数対のグールたちは断末魔とともに消滅していった。
同時に、ガウルとジェノワーズの紋章術が残るすべてのグールたちを一掃し、戦闘は終幕した。
☆
「ホンマに助かったわ。ありがとうなノワ、ベルぅ!」
ジョーヌが涙目でノワールとベールに抱きついた。
受け止めたベールがよしよしとジョーヌの頭をなでている。
「でも、どうしてここに?」
「実はハルトさんとお昼を食べながらハルトさんの世界についていろいろ教えてもらってたんです。そしたらガルちゃんがファントムを見つけたと聞いて一緒についてきたんです」
「そうしたらガウさまとジョーヌがいた」
ベルとノワの言うとおり、彼女たちの上空で晴人の使い魔のガルーダが飛行していた。
「でも本当に無事でよかった」
いつも無表情が印象的なノワールも安心したのか頬を緩めていた。
そんな微笑ましいやり取りをする傍らで、ガウルが晴人に声をかけた。
「助かったぜ、ハルト」
「気にすんな」
ごく簡単な受け答え。
危機を乗り越えたばかりで、多少は気が緩んでもおかしくはないのだが、真剣な面持ちでガウルが口を開いた。
「なあ、ハルト。お前は何か知らないか?」
ガウルの問いになにが?と視線で返す。
「姉上のことだよ。前々から気づいてはいたけど、最近の姉上は明らかにおかしい。今回の戦だって
正直納得しちゃいねえんだ。きっと姉上が暴走する理由が何かあるはずなんだ。お前ならもしかしたらと思ってな」
わずかに俯くガウルの顔に陰りが生まれた。
きっと彼なりにレオンのことを心配し、同時に計り知れない不安を抱いているのだろう。
「ああ、知ってるよ」
あっさりと晴人は答えた。
正直うまい具合にはぐらかされてしまうのではないのかと思っていたが、予想をいい意味で裏切られ、ガウルは大きく目を見開いた。
「なら―――」
「でも、今もレオンちゃんが秘密にしていることを俺が話すわけにはいかないだろ」
だが、晴人は追求しようとするガウルを遮った。
「それは!……いや、確かにお前のいうとおりだ。すまない」
決して晴人の正論に納得したわけではない。
しかし、晴人はこれ以上何も言う気はないらしい事を悟り、ガウルは問いただすことをやめた。
同時に晴人もガウルの心情を察したのか、微笑みを浮かべて視線を彼に向けた。
「大丈夫。何があったって誰一人絶望なんてさせやしない。……絶対に」
決意を強く込めた口調でそう言った。
いつの間にかノワールたちも晴人の言葉に耳を傾けていた。
この時の晴人の姿がどう映ったのかは、それはガウルたちにしかわからない。
そんな中、彼らの心地を知ってか知らずか、遥か上空からけたたましい喧騒が鳴り響いた。
「お、そろそろ始まるみたいだぜ」
晴人の言葉に全員が追うように視線を上に向けた。
☆
晴人たちが見つめる空中に浮かぶディスプレイにはフィリアンノ城の映像が映し出されている。
予定ではこれからミルヒがレオンの宣戦布告に対する返答を行うことになっている。
フィリアンノ城のバルコニーから見下ろす広場には大勢の国民たちの息遣いが渦巻いている。
期待や不安、様々な想いが緊張となって現れ、思わず尻込みしてしまいそうな物静かな迫力がそこにはあった。
そして、誰もが見守る中、ミルヒがバルコニーに姿を現した。
途端に広場に集まる国民たちが歓声を上げる。
真剣な面持ちで差し出されたマイクを手に取り、静かにスイッチを入れられた。
一瞬にして辺りが静まり返った。
大勢の人の気配だけが重厚な存在感を放つ中で、ミルヒは笑顔に切り替えて第一声を放った。
『こーんにーちわー!!』
手を振りながら、元気なあいさつに国民たちからも耳が痛くなるような大音量の声援が返ってくる。
『さて、みなさん。今朝のニュースはご覧になりましたよね?レオ閣下からのいきなりの宣戦布告、急な話でしたので私たちもびっくりしちゃいました。元老院のみんななんて、驚いて椅子から落っこちちゃったくらいで―――』
ミルヒの冗談で束の間の一時、国民たちの笑い声がこだました。
幾ばくか国民たちの緊張が解れたことを確認してミルヒは続ける。
『私が領主になって以来、ガレットにはたくさん敗戦してしまいました。戦自体は楽しめても、みんなに勝利を味わってもらうことはなかなかできなくて、でも、ビスコッティか決して弱い国ではありません。これまでの敗戦は一重に、十分な戦支度を行えなかった私の力不足です』
ミルヒ自身を責める内容に、しかし国民達は総じてそれを否定する言葉で応える。
それは決して皮肉でも同情でもない、ただ純粋にミルヒが国民達に慕われているということを証明している。
『ありがとう、みんな。でもですね、だからこそこれ以上負けないようにこの半年、しっかり準備を整えてきました。フィリアンノ商工会は武器と装備を用意してくれました。若手騎士達も訓練を重ねて強くなってくれました』
シンクが、エクレが、リコッタが、ブリオッシュが、ユキカゼが、ロランが、放送を視聴している晴人やレオンたちも、誰ひとり一言も聞き漏らすまいとミルヒのスピーチに静かに耳を傾ける。
『ですから―――』
訪れる刹那の静寂。
そして次にミルヒは自信を持って高らかに言い放つ。
『ビスコッティはガレットからの宣戦布告をよろこんでお受けします!』
ミルヒの出した答えにビスコッティの晴天に花火が打ち上げられ、国民達の歓声が重なった。
『勿論、聖剣エクセリードと神剣パラディオンを賭けるのも、受けて立ちます。何故なら、私達は負けないからです!!』
ミルヒの言葉と笑顔に迷いは微塵もない。
空に掲げる人差し指には、差している指輪、神剣エクセリードが日の光で煌めいた。
『この戦に勝利しましょう!』
ミルヒの言葉に三度国民達が歓声を上げる。
『勝って、楽しい明日をつかみましょう!!』
ミルヒが締めの言葉とともに、ビスコッティの晴れ渡る青空に今日一番の歓声が響き渡った。
☆
そして、戦の当日が来た。
新鮮な朝の空気が満ちる早朝、シンクが召喚されたという儀式台に晴人の姿があった。
その目的はコヨミたちと連絡を取ること。
ここでシンクが元の世界と連絡を取っているという話を聞いて、晴人も足を運んだのだ。
意気揚々と宙に浮く石段を上って儀式台に辿り着いたまではよかったのだが、携帯を開いた瞬間、晴人は言葉を失ってしまっていた。
「………電池切れかよ」
何も映らない液晶画面を見つめながら大きく嘆息する晴人。
期待が大きかった分、それが裏切られた時のショックはかなりのものだった。
だが、このまま落ち込んでいても何も始まらない。
気を取り直して来た道を引き返し、停めてあったマシンウィンガーに跨った時だった。
「晴人さーん!」
名前を呼ばれ視線を向けると、オレンジ色の毛並みのセルクルに乗ったシンクが大きく手を振っているのが見えた。
「よう、シンク。おはよう」
「おはようございます。もしかして晴人さんも―――」
「まあね。でも運悪く電池が切れちゃっててさ……」
「あー…。それは災難でしたね」
苦笑いを浮かべるシンク。
晴人自身も情けなくて失笑してしまう。
「まったくだよ。それじゃ、俺は用が済んだから帰るわ」
マシンウィンガーのエンジンをかけ、ヘルメットをかぶる。
「はい、お気をつけて」
「ああ。今度は戦場で会おう」
「―――え?」
晴人の言葉にシンクは虚を失った面持ちを見せた。
最後にヘルメットのシールドを下ろし、晴人はマシンウィンガーを走らせてこの場を後にした。
☆
すでにフィリアンノ城前には視界を埋め尽くすほどの騎士団や一般参加兵たちが意気揚々と集まっている。
高揚に胸を躍らせる誰もがこれから始まるガレットとの大戦への期待が押し寄せてくるのだろう、壮観な景色からざわめきが止むことはない。
それを見るだけで、ミルヒの胸に熱いものが込みあがってきた。
『みなさーん!』
時が来たことを知らせる花火が打ち上げられると同時、バルコニーから参加者達を見下ろしながらミルヒが呼びかけると同時、視線が集まった。
『朝早くから、こんなに集まってくれてありがとうございまーす!!』
音吐朗々なミルヒの歓呼に、参加者達は大歓声をあげて応答する。
『今日はガレットとの大戦ですよー! 昨日はちゃんと休めましたかー?』
マイクを向けながらのミルヒの問いに、参加者たちからさらに大きな歓声が上がった。
『うんうん』
その反応に満更でもない様子でミルヒは頷く。
『朝ご飯はちゃんと食べましたかー?』
再び歓声で返事が返ってくる。
『一般参加のみなさんはこれから騎士団の誘導に従がって隊列を組んでくださいね』
前置きの注意を済ませ、ミルヒはそのまま本題である今回の戦の説明に転移する。
『今回の戦場は、両国の国境付近です』
するとミルヒの背後に設置してあった映像板から拡大された近辺の地図が映し出された。
『私達の本陣はここ、スリーズ砦。ここは主に騎士団の守備隊と後方支援隊の皆さんで守ります』
地図上に矢印が伸びる進軍ルートが示されていく。
『主力隊はチャパル湖沼地帯から渓谷アスレチックを抜けていくルートを進行。そして先駆けの二番隊はそれらの難所を最速で抜けて、ガレット軍の本陣であるグラナ浮遊砦に一番乗りします』
一通り進軍ルートの説示をして、映像板を閉じてミルヒは話を続ける。
『今回は遠征戦になりますので、進軍は結構ハイペースです。戦に慣れていない方、付いて行くのが大変な方、気分が悪くなった方はすぐに同行している救護隊に連絡してくださいね』
注意を喚起するミルヒの横で再び起動した映像板にはピースを向けている救護隊が映し出されている。
彼らも彼らで張り切っているのだろう。
テンションが最高潮に達し、ミルヒが声を張り上げた。
『さぁて、それでは隊列を組みますよー! 移動、開始ーっ!』
澄み渡る青空に吸い込まれる湧き上がる喝采とともに、運命のカウントダウンが静かに刻まれ始めた。
とりあえず、駆け足気味の第8話です。
そして………更新遅れてホントすいませんでしたああああああああああ!!!
資格講座とか、文化祭とか、課題とか、ホントここ最近はいろんなことが立て続けに起こってしまいまして、自然と執筆する時間が減ってしまっていたんです。
でもようやく一段落つきそうなんで、次はもう少し早めに投稿できると思います。
クウガのほうもできるだけ早めに投稿できればと思っています。
では、この場を借りて謝辞を。