仮面ライダーウィザード FANTASTIC DAYS   作:青空野郎

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第9話 開戦、ガレットvsビスコッティ

ビスコッティ共和国に訪れた片時の平和。

 

誰もが穏やかな時を過ごせるはずが、ガレット獅子領国からの突然の宣戦布告。

 

それは国の宝剣を賭けた大きな戦の知らせ。

 

それぞれの運命を賭けた戦いが始まろうとしていた……。

 

『行軍は万事順調。我らがミルヒオーレ姫さまの騎車は騎士達に守られて静かに進んでいます。姫さまの愛騎ハーランも、元気についてきております』

 

フィリアンノ城からの道のりにビスコッティ軍が長蛇の列を形成している。

 

その道中ではビスコッティの放送局の女性アナウンサーであるパーシー・ガウディの実況がスリーズ砦に移動中の騎車を中継している。

 

『おお!見てください!姫さまが手を振ってくださっています! 』

 

言葉通り、騎車の中からカメラに向かって柔らかく微笑むミルヒの姿が空中に浮かぶディスプレイに映しだされる。

 

誰もが皆、いまだかつてない規模で行われる大戦への期待をさらに高めていく。

 

「こんな急襲、戦の道義に反すること。卑怯者との誹りを受けるのは、私一人でいいのですが……」

 

そんな中で、順調に渓谷を進んでいくミルヒ一行の隊列を崖の陰から見下ろすビオレが実に困った口調で小さく嘆息した。

 

意識だけを向ける背後にはビオレの部下である大勢の戦士団員達が頭を垂れた状態で指示を待っていた。

 

これから彼女がやろうとすることはどう言い訳しても決してほめられることではない。

 

それをわかっていて尚、汚名を背負う覚悟で彼女は今ここにいる。

 

しかし、さすがに部下までを巻き込むことは自身の良心が咎めてしまう。

 

不本意を顔に表してしまうビオレだが、そんな彼女に後ろに控えていた団員が説得を投げかける。

 

「そんなことを仰らず、我々にもお手伝いさせてください」

 

「我ら近衛戦士団、いつだってビオレ姉さまの御供を。ね、みんな?」

 

『『『はい!!』』』

 

後ろから聞こえるあたたかな声。

 

自分を慕ってくれる部下達の言葉に込められた純真な想いがビオレの胸を熱くした。

 

それをきっかけに、ビオレは戸惑うことをやめた。

 

不覚にも涙が出そうになるのを堪え、振り向く彼女の笑顔には迷いの色はない。

 

「わかりました! 本日最初の任務は、潜入と貴重品奪取!近衛戦士団一同でビスコッティ本陣へ密かに潜入、ミルヒオーレ姫さまの手から聖剣エクセリードを盗み出します!」

 

そして、新たな決意とともにビオレはあの日の出来事をひとり思い起こしていた。

 

                      ☆

 

あの日、レオンに呼ばれて訪れた部屋で告げられた衝撃の告白に晴人、ビオレ、バナードの3人は動揺を隠せないでいた。

 

「ミルヒオーレ姫さまと、あちらの勇者さまが…!?」

 

「ああ、死ぬそうじゃ」

 

ビオレの驚愕に、レオンは冷静に肯定した。

 

晴人たちが視線を向ける先に立てかけられた映像版にはが映し出されている映像には血まみれで倒れるミルヒとシンクの姿があった。

 

「ミルヒに危険があるかもしれぬというのは半年ばかり前に星読みに出ておった」

 

「そうでございますか…」

 

「それでレオさまはあんなに姫さまのご心配を…」

 

じわじわと侵食する緊迫感に言葉が途切れ、相手の出方を伺うような居心地の悪さが漂っている中で、瞳にいつも以上の厳しさを宿しながらもレオンはあくまで冷静を務めて言葉を紡いでいく。

 

「はっきり死ぬと出るようになったのは、三月前のことじゃがな。――同時に、わしがミルヒやビスコッティの連中に危険を伝えようとするほど、星が悪くなっていくのが分かった」

 

語りながらレオンが映像盤に近づき、そっと手を添える。

 

「そして向こうの勇者が現れて、よりはっきり読めるようになった。…死ぬのはミルヒオーレではなく、エクセリードとパラディオンの所有者だそうじゃ」

 

心の奥底からにじみでる焦燥が、映像盤を掴むレオンの腕の力を強めた。

 

映像盤から鳴る、ギチギチという物音が必死にこらえようとするレオンの悲鳴のように聞こえた。

 

「星読みで未来が読めるなど、世迷言の域を出ぬとわかっておる。そんなものを振りかざし、自国や他者を動かすなど愚の骨頂!………そう思う心は変わらんが、この数か月はあまりにはっきりと見えすぎる。……さすがに不安になってきてしもうた」

 

精神的に追い込まれていたのだろう、今まで溜め込んでいた不安を吐露するレオンの陰りが顕著になっていく。

 

「不安に思うのは当然です」

 

「せめて、我々にはお伝えいただきたかった」

 

ビオレとバナードが憫察する面持ちで納得し、晴人は黙って静観することにした。

 

「すまぬ。占いごときで国を動かすわけにはいかん、という心は変わらんが、ミルヒや向こうの勇者が死ぬのは両国の不安や悲しみになろう。そんなわけでな―――わしは領主をやめようと思う」

 

「「「――っ……!」」」

 

決然としたレオンの一言が晴人たちに更なる衝撃を与え、事実を理解した瞬間、感情が素直に反応した。

 

「そんな…!領主の座を空席になど、ガレットの民はどうすれば…!」

 

「どうもせんでよかろう」

 

レオンはビオレの抗弁をあっけらかんとした様子で切り返す。

 

図らずもビオレが言葉を詰まらせてしまったところを妙に沈着した面持ちで続ける。

 

「本来、ガレットの領主はガウルの席よ。わしは奴が大人になるまで預かっておるだけじゃ。いまだ未熟者ではあるが、あれには人に好かれる才がある。責任を与え、周りがしっかり支えてやれば明日からでもそれなりに領主を勤め上げるであろうよ」

 

「ガウル殿下の資質やお人柄は私も十分に存知あげておりますが…」

 

「レオさまが領主を下りるというのはまた話が別です!」

 

だが、やはりそう簡単に納得できるわけもなく、なお説得を試みるビオレとバナード。

 

しかし、これ以上何も言うことはなくなったのか、背を向けてぺたんと耳を閉じた。

 

「「………あ」」

 

ビオレとバナードの口から思わず間の抜けた声がこぼれた。

 

「レオさま!無視モードは駄目です!」

 

「くっ…!こうなると閣下はないも聞いてくださらん…」

 

唯一何のことかわからないでいる晴人が察するに、どうやらこれがレオンが無視するときの常套手段のようだ。

 

「レオさま!めっ!ですよ」

 

バナードが額に手を当て、ビオレが注意するも、レオンは背を向けたままうんともすんとも言わなかった。

 

「…………」

 

結局、これ以上かける言葉が見つからない気まずい雰囲気が支配する中、晴人ひとりレオンたちが問答するやりとりを見ていた。

 

そして静かに瞑目し、心の中で決意を新たに晴人はレオンの元に歩みを進め始める。

 

当然、背を向けているレオンは晴人の行動に気づかない。

 

何事かとビオレとバナードが見る前でレオンの背後に立ちつとゆっくりと手を伸ばし、そして、

 

にぎっ

 

おもむろにレオンの尻尾を握った。

 

「んにゃぁあッ!!?」

 

妙にかわいらしい悲鳴を上げながらレオンが反射的に飛び上がった。

 

「危ね」

 

振り向きざまに拳を振るわれたが、晴人は体を反らしてかわすことに成功した。

 

尻尾を庇うように体勢を取り、顔を紅潮させたレオンが晴人を睨めつけた。

 

「な、なにをしおるかッ!」

 

「いや、これくらいしないと話聞いてくれないんじゃないかと思って」

 

「なるほど、その手がありましたか」

 

「そこも納得するな!」

 

特に悪びれたふうもなく平然と答える晴人と割と本気で頷いていたバナードたちに一括するレオン。

 

「――で、結局レオンちゃんは領主をやめた後はどうするつもりなんだ?」

 

いつもの飄々とした口調を真剣なものに急転させた晴人の問いかけに、釈然としない思いを抱きながらもレオンは大きく嘆息して答えた。

 

「もちろん、わし一人で何とかするさ。グランヴェールだけは借りていくが、連中から宝剣を奪えば奴らの死の星は遠ざかるかもしれん故な」

 

「本当にそれでいいのか?」

 

「なに?」

 

晴人に目を向けたレオンの眉根が寄っていた。

 

さらには、目つきは鋭くその声音には明らかに苛立ちが含まれている。

 

しかし、晴人はレオンの歪んだ決意を真っ向から否定した。

 

「ミルヒちゃんもシンクもまだ死んじゃいないんだ。こんな未来におびえて、今から目をそらして立ち止まったってしょうがないだろ?」

 

「ならどうしろというんじゃッ!」

 

息も詰まりそうな雰囲気を漂わせる一室に憤怒に彩られたレオンの激昂が静かにこだました。

 

しかし彼女には凛とした覇気は感じられず、明らかにいつもの迫力が欠如していた。

 

「―――ッ」

 

レオン自身もそのことに気づいたのか、気圧されたように晴人から視線をそらした。

 

「……このままでいいはずがないのはわしだってわかっておる。じゃが何をしても見透かされたかのように星の廻りは悪くなるばかりで、……挙句の果てに、こんなものを見せられてはもう……手段を選んではおれんのだ………」

 

心のしこりを紐解き始めたレオンから淡々と言葉が紡がれるに連れ、慟哭する勢いが失われていく。

 

窓から差し込む月明かりに照らされるレオンの姿を見た途端、晴人は思考が根こそぎ奪われてしまうかのような錯覚に陥った。

 

後ろでもビオレとバナードが息を飲む。

 

晴人たちの目の前で―――――レオンが涙を流していた。

 

いつも勝気で豪快なレオンからは想像できないほど、今の彼女はガラス細工のような繊細で儚げな印象が受けてとれた。

 

「もし…もしも本当にミルヒが死ぬようなことになったら、その時こそわしは絶望してしまう……」

 

今にも消えてしまいそうな声音でそう呟いた。

 

レオンは今まで大切な人が死ぬかもしれないという絶望にひとり苦しんでいた。

 

先の晴人との決闘後に迷いが晴れたと言っていたのはきっとこのことなのだろう。

 

きっと、考えに考えた末の苦渋の決断に違いない。

 

しかし―――だからこそ、何も変わらない。

 

目の前で誰かが絶望しようとしているなら、自分は何をするべきなのか。

 

答えは考えるまでもない。

 

それは魔法を手に入れたあの時から、すでに決めていたことだから。

 

「だったら、俺がこの絶望を希望に変えてやる」

 

「――――!」

 

たった一言。

 

しかし、晴人のその一言がレオンの心を強く震わせた。

 

「そんな簡単に―――」

 

「できるさ」

 

慌てた面持ちでかぶりを振って声を荒らげようとしたレオン反論をすかさず晴人は遮った。

 

「あきらめない限り、必ず希望はある。きっと未来も変えられるさ」

 

呆気にとられるレオンに揺るぎのない自信に満ちた笑みで、まっすぐに言葉を投げかける。

 

「大切なのは、今をどう生きるかだ。どうせ信じるなら、絶望より希望の方がいいだろ」

 

                      ☆

 

晴人の強い意志を宿した瞳に不覚にもレオンは我を忘れて見惚れてしまっていた。

 

自らを飲み込もうとする悪夢が一瞬にして霧散していくかのような感覚。

 

返す言葉すら失っている状態で、意地と虚勢で塗り固めた心の壁が崩壊の音をたてて崩れ落ちていくのがわかった。

 

「約束する。俺が必ずみんなの希望を守り抜いてみせる」

 

目の前で晴人があの時と同じように拳を突き出して宣言する。

 

どうして晴人の言葉のひとつひとつがこんなにも響くのだろうか……。

 

この根拠のない自信はどこから生まれてくるのだろうか……。

 

「―――まったく、お前はあきらめるということを知らんのか?」

 

気が付くとレオンは小さな笑みで皮肉をぶつけていた。

 

晴人はいつもの飄々とした様子で得意げに開き直る。

 

「あいにく魔法使いってのはあきらめが悪くてね。でも、それはキミだって同じだろ?」

 

「フフ。否定はせんよ」

 

涙をぬぐうレオンがようやく笑顔を見せてくれた。

 

さっきまでの不安が、本当に消えたかのような笑顔だった。

 

しかし、楽観できる要素がないのも事実である。

 

具体的にどうすればミルヒとシンクが死ぬという星の定めた未来を回避できるのかを考えなければならない。

 

レオンが打ち明けてくれたタイミングからして、あまり時間はなさそうだ。

 

「それではこういう策はいかかでしょうか?」

 

その時、助け舟を出してくれたのはバナードだった。

 

この場にいる全員が注目する中で、バナードは自身の考えを説示していく。

 

「話題性のある大戦を仕掛け、その懸賞として互いに宝剣を出す事とします。戦士たちも2連敗の汚名返上に燃えております。あらたな戦を申し出るには丁度よい機会でしょう」

 

聞いていくうちに、表情が感心する面持ちに変わっていった。

 

「そして戦に勝利し次第、ビスコッティの宝剣はどこか誰も近づけぬ場所に保管する。もちろんこれは単に盗難を防ぐためです。と、どなたかの星読みとはまったく無関係にただただガレットとビスコッティ両国のためにこんな提案をいたします」

 

                      ☆

 

「―――オ……ん…………ちゃん………………レオンちゃん!」

 

「――ぁえ?」

 

回想していたレオンは突然の呼び声で間の抜けた声を漏らしてしまっていた。

 

いつの間にか記憶に没入していたようだ。

 

我に返ると目の前には心配そうに見つける晴人の顔があった。

 

「だいじょうぶか?」

 

「ああ、すまない。どうかしたか?」

 

「いや、さっきから笑ってたからどうしたのかなと思ってさ」

 

「笑っていた?ワシがか?」

 

「ああ。なあ?」

 

「ええ、それはもううれしそうに」

 

確認を求めた晴人の問いにそばに控えていたルージュも肯定し、レオンは思わず頬に手を添えた。

 

自分では気づかなかったが、もしかしたら晴人の言うとおり自分は笑みを浮かべていたのかもしれない。

 

そう思うと、なんだか無性に羞恥の念に駆られてしまう。

 

しかし、なぜ自分は無意識のうちに頬を緩めてしまっていたのだろうか。

 

だがこの時の彼女は自身が求める答えに至ることはできなかった。

 

『さあ! 午後に入って昼食も終えた、ビスコッティ、ガレット両軍。現在、チャパル湖沼地帯で両者とも戦闘開始の合図を待っております!!』

 

レオンがひとりで問答しているうちに、遥か頭上の上空を浮遊する実況席からのアナウンスが国中に響き渡った。

 

もうすぐ大切な戦が始まるというのに、とレオンはかぶりを振ると揺れる白銀の髪を陽の光で美しくきらめく。

 

自身を自重し、表情を引き締めなおして思考を完全に切り替えて誓いの色を瞳に宿すレオン。

 

晴人たちがすでに到着した本拠地のグラナ浮遊砦から見渡せる景色には、参加者たちがそれぞれの定位置に臨戦態勢で待機し、後は開戦の合図を待つだけとなっている。

 

そんな時、ふと思い出したようにレオンが問いかけてきた。

 

「そうだ、晴人。無事に戦が終われば、お主に褒美を取らせよう」

 

「褒美?」

 

唐突の提案に眉根を寄せる晴人にレオンはうむ、と軽く首肯する。

 

「もちろん、戦興業で発生する報奨金とは別にお主個人へのな」

 

「いや、別に―――」

 

「――どうせ信じるなら絶望より希望だ」

 

やはり遠慮の意を唱えようとした晴人だったが、聞き覚えのある発言に一瞬言葉を失った。

 

「お主が言った言葉だぞ?」

 

そう言ってレオンは得意げな笑みを向けてきた。

 

「なに、この戦でどちらが勝利しようが今のわしがいるのはお主のおかげでもあるんじゃ。わしからの感謝の気持ちとして好きなものを所望するがよい」

 

相変わらずの上からの物言いだが、これが彼女なりの誠意の表れなのだろう。

 

どうやら晴人が何を言っても譲るつもりはないようだ。

 

「そうだな……」

 

小さくつぶやきを漏らし、腕を組む晴人は考えを巡らせる。

 

「今は特に思いつかないからまた今度でいいか?」

 

結局晴人が返したのは保留という答えにレオンは呆れたような笑みとともに嘆息をこぼした。

 

「しかたないやつじゃ。ならそういうことにしておいてやろう」

 

「フフ、素直じゃないんですね」

 

後ろでルージュが微笑んでいたがレオンはフンと鼻を鳴らして華麗にスルーする。

 

「ま、とにかくだ。これが終わったらミルヒちゃんとちゃんと仲直りしろよ」

 

「………………ああ、そうじゃな」

 

晴人が聞いてからしばし間をあけて答えるレオン。

 

やはりまだまごついているのかと思ったが、心配とは裏腹にレオンの口調は決意に満ちたものだった。

 

とりあえず安心すると、今度はレオンの方から話しかけてきた。

 

「すまないな、ハルト」

 

「ん?なにが?」

 

「どんな理由であれお主をワシのわがままに巻き込んでしまう形になってしもうたのは紛れもない事実じゃ。もしかしたらワシの星読みにはファントムは関与しておらんかもしれん……」

 

罪悪感からくるものであろう、わずかに眉根が下がる面持ちで謝罪するレオン。

 

しかし晴人はさほど気にした風もなく、ニッと笑って飄々と言う。

 

「関係ないさ。別に俺はファントムが関わってるからここにいるわけじゃないんだ。誰かが絶望しようとしているなら、俺は俺の全力でその人の希望を守り抜く。それだけだ。それに、ゲートにだってわがままな奴もいるんだ。これぐらいのことにはもう慣れたさ」

 

「そうか。……しかし、希望を守る魔法使いか。ワシも魔法使いだったらお主みたいに前向きでいられるのやもしれんな。少しばかりうらやましく思うぞ」

 

それは冗談を交えた何気ない一言だった。

 

だがその一言を聞いた途端、晴人の顔に陰りが生まれた。

 

「………魔法使いなんて、そんなにいいもんじゃないさ」

 

突然の重々しい晴人の口調がレオンの耳朶を打った。

 

「―――え?」

 

「救える希望もあれば、救えなかった希望だってあるしな」

 

「ハルトさま……?」

 

意味深な晴人の言葉にレオンと同じく、ルージュも怪訝そうに眉根を寄せた。

 

「それに、俺はなりたくて魔法使いになったわけじゃないから」

 

2人が窺う晴人の表情は、初めて見る悲痛に歪んだモノだった。

 

すぐにレオンは晴人の言葉の真意を訊ねようとしたが、しかし再び鳴り響く実況アナウンスに無理やり遮られる形になってしまった。

 

『みなさま、お待たせしました!開戦の合図まで間もなくです!』

 

『チャパル湖沼地帯の実況と解説は私、ビスコッティ国営放送、エリータ・サレスと――』

 

『ガレット国営放送ジャン・カゾーニの2名でお送りします』

 

『さあ、カウントダウンが始まります。現場のみなさんも、放送をごらんのみなさまもどうかご一緒にお願いします!』

 

『『せーの!』』

 

そして、2人の実況者を映すディスプレイの画面が切り替わり、フロニャルドの数字でカウントダウンが始まる。

 

―――5――

 

各々が緊張で息を呑む。

 

―――4――

 

それぞれが得物を握る手に力を込める。

 

―――3――

 

誰もが勝利を期待し、胸を躍らせる。

 

―――2――

 

皆が笑顔でいられる未来を掴むために覚悟を決める。

 

―――1――

 

そして―――

 

ヒュ~~~………パァァンッ!

 

フロニャルドの晴天に打ち上げられた花火が盛大に弾けた。

 

『開ッ戦!』

 

「全軍、進めぇッ!!」

 

「ガレット戦士団、突撃ぃいい!!」

 

開戦の合図が告げられると同時に、ロラン率いるビスコッティ陣営とバナード率いるガレット騎士団の兵達が一斉に激突した。

 

                      ☆

 

間もなくフロニャルドの戦場に鬨の声が響き渡り、土埃や煙が空へと立ち昇る。

 

そして場所はビスコッティ本陣のスリーズ砦。

 

砦内の一室に設置された玉座にミルヒは腰を下ろしていた。

 

「姫さま、報告いたします」

 

外から聞こえた女性の声に、ミルヒはうつむかせていた顔を上げた。

 

「先程ガレットより使者が訪れ、至急姫さまにお伝えしたいことがあると」

 

その報告を聞いて、ミルヒは出入り口に立つ兵士に小さく頷いて合図を送った。

 

「わかりました。お通ししてください」

 

「はい」

 

その刹那、同時に数人の女性が侵入し待機していた兵士達に飛び掛った。

 

ある者は一撃を加え、ある者は羽交い絞めにして次々と兵士たちはけものだま化していく。

 

「姫さま。無礼の程、お詫びの仕様もございません。ですがどうか、我々の願いをお聞き入れ下さい!」

 

予想外の事態に驚き言葉を詰まらせるミルヒの前で跪いたのはビオレだった。

 

決心を固めたはずではあるが、やはりビオレの顔には後ろめたさの気持ちが顕著に現れていた。

 

「―――あの、ごめんなさい」

 

しかし、ミルヒから返って来たのは畏まった謝罪の言葉だった。

 

わけも分からず顔を上げるビオレ。

 

すると、ボンッといきなりミルヒは煙に包まれた。

 

「自分、姫様じゃないであります(・・・・・)

 

聞き覚えのある口癖とともに煙が晴れると、目の前にいたのはミルヒの衣装に身を包んだリコッタだった。

 

リコッタの頭には、小さな葉っぱが1枚乗っていた。

 

どうやら一杯食わされてしまったようだ。

 

だがしかし、ビオレがそれを理解した時には首元から刀剣の刃がのぞいていた。

 

「動かないでくださいね」

 

視線だけ背後に向けると、そこにいたのはメイド服を着た糸目が特徴的な女性だった。

 

彼女はミルヒ直属メイド隊隊長、リゼル・コンキリエ。

 

向けられる表情は笑顔そのものであるが、この時のビオレには恐ろしく見えた。

 

ふとビオレが周りを見渡すと、他の近衛戦士達も調理器具を持つメイドたちに囲まれて無力化されるというある意味シュールな光景が広がっていた。

 

小さく嘆息し、観念したビオレは両手を上げて降参の意を示した。

 

「まあ、お茶でも出しますので、ゆっくりとお話を聞かせてもらいましょうか?」

 

慣れた手つきで刀剣を鞘に納めてリゼルがニッコリと微笑んだ。

 




ビオレで始まりビオレで終わった第9話でした。
いやあ、当初の予定では今年中に第1期を終わらせる予定だったんですけどね……。
執筆って難しいですね(笑)
それはそうと。
さて、そろそろ新年に変わることですし、新作いっちゃおうかな?
なんて言ってみたり(笑)
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