暁のスイーパー 〜もっこり提督と艦娘たち〜 作:さんめん軍曹
おはこんばんにちは、さんめん軍曹です。
大変長らくお待たせしました。また約2年と間を空けてしまいたいっっっっへん申し訳ございません(汗
風呂敷を広げすぎて、話をまとめるのに時間がかかってしまいました…
無理はする物ではないですね()
それでは本編どうぞ!
横須賀鎮守府の提督執務室。日常の光景であるはずのゆるりとした雰囲気はどこへやら、憲兵に扮した提督と海坊主、そして彼らと対峙する突如現れた黒澤と名乗る大本営特別艦隊を率いる大佐は、まさに一触即発の状態だった。
指先一本でも動かそうものなら即撃たれかねない、言葉ではとても言い表すことのできない剣呑な雰囲気に、彼らの間に立っていた瑞鶴は背中に冷や汗がびっしりと浮かんでいた。
隣にいる姉も同じ様子で立っており、精鋭部隊に選出されて場数を踏んでいるはずの彼女らが緊張するほど、この場は異様なものだった。
「どうした五航戦。暫くぶりの再会というのに、嬉しくて言葉も出ないか」
「……出来れば二度と会いたくなかったわ」
やっとのことで言葉を発した瑞鶴は、まるで化物を見るような目で黒澤を睨みつけた。
「まあそう言うな。彼らに君達の事を詳しく紹介しようとこちらから出向いたわけだが…」
そして海坊主達から視線は外さずに、ゆっくりとした動作で椅子に座ると足を組んだ。
その行動が、彼らには挑発しているように見えた。
「この鎮守府では、わざわざやってきた上官に茶のひとつでも出さないのが決まりなのかね?」
ここで提督の片方の眉が吊り上がった。海坊主がちらと見て彼を制すると、それに気づいた黒澤は声を押し殺して笑った。
「こんな事でいちいち腹を立てるようでは、まだまだ青いな…篠原提督」
どこからどう見ても憲兵の姿をしている提督だが、どこから知ったのか、目の前の男は彼の正体を看破していた。
篠原はひとつため息をつくと、ノールックで被っていた帽子をポールハンガーに投げ、見事ひっかけた。続いて第一ボタンを引きちぎる勢いで外すと、つかつかと歩み寄って机の縁に片足を乗せる。
「テメェがどこで俺を知ったかなんざこの際どうでもいいや。その方があんな堅っ苦しい格好せずに済むからな。…だがな、何しにここに来たのかきっちり説明してもらおうじゃねえか、ああ?」
「なに、私の元部下達が君達に迷惑をかけてないかと思ってな」
「御託並べてんじゃねえぞ。それを見に来たってだけで深海棲艦の大群を一瞬で灰にしちまうのか?てめえはなんの警告も無しに、攻撃の意思がない相手を一方的に叩きのめしたんだ。冴羽よりよっぽど貴様のが軍法会議にかけられるべきだと、俺ァ思うんだがよ?」
「敵に情けなど無用だ。落ち着け若造」
「落ち着けだと?てやんでえ、これが落ち着いてられるかバッキャローめ。他人様をコケにするのも大概にしやがれ。どっから仕入れた情報かは知らねえがな、うちの機密までてめえの耳に入っている以上ははいそうですかで終わらせらんねえんだよ。これ以上わるく骨箱を叩く前にそのムカつく面ァすぐにでも捻り潰してやるから覚悟してろやクソ親父」
提督は怒りが頂点に達しているようで、いつもの口調から一転して江戸のべらんめえ口調で捲し立てる。だが、次の言葉を発する前に彼の首筋に冷たく固いものが押し付けられた。
「これ以上狼藉を働くようならば、この場で貴方を撃ち殺します」
「その声は聞き覚えがあるぜ。…神通か」
提督が後ろへ向き直ると、そこには彼に真っ直ぐと南部十四年式自動拳銃を構えた神通が立っていた。
「お久しぶりです、提督」
「うちから大本営へ移籍と思ったら、特別艦隊に入ってたんだな」
翔鶴が目を見開く。どうやら神通が横須賀出身という事にたいそう驚いたようだった。
妹である瑞鶴も同じだったが、ほんの少しだけ彼女の方が冷静だった。
「…神通さんは教艦として、演習で私達の指導をしてたわ」
「なるほど、な…。えらく出世したじゃないか」
「この状況で褒められても嬉しいとは思えません。仮にでも軍隊の一員であるならば、上官に歯向かえばどうなるかご存知ですよね?」
彼女は本気だろう。特別艦隊の教官を務めている神通は横にいる五航戦よりも鋭い気迫を放っており、その手に握られた彼女の拳銃は真っ直ぐ提督の眉間に向けられていた。
「君の威勢が良いのは結構なことだが、少しは自分の置かれている状況に対して心配したらどうだね?」
「…目的はなんだ」
胸元へ手を入れ黒澤への警戒を解かぬまま、海坊主は質問する。
「北方棲姫をすぐに引き渡せ。でなければここの艦娘は全て解体処分する」
「だろうと思ったぜ」
提督は先程よりも大きく溜息をついた。
「ウ…」
気を失っていた港湾棲姫が目を覚ますと、そこは冷たい海などではなく暖かいベッドの上だった。
辺りを見回すと、どうやらここは誰かの部屋のようだ。そして隣には椅子に腰掛けて鼻ちょうちんをこさえたスーツの男が。
自分自身を見れば、傷を負ったであろう箇所には丁寧に包帯が巻かれていた。
「ワタシハ…」
もう一度男を見る。いつから座っていたのかはわからないが、気持ちよさそうにいびきをかいているので長時間ここにいたのだろう。
彼女は大きめに膨らんだ鼻ちょうちんを、自身の武器でもある鉤爪の先でつついてみた。
パンと小さな音で破裂して、男は気がついた。
「んが…」
彼がうたた寝から覚めると、自分の目の前には鋭い金属の爪の先が、今にも刺さりそうな距離に見えていた。
「んがあああああああああ????!!!!」
一瞬で意識が覚醒した男は、パニックのあまりそのままの勢いで椅子ごと後ろにひっくり返った。
「何ヲソンナニ驚イテイル?」
「ひええっ!?堪忍して!殺さんといて!!」
そう言いながら物凄い速度でスーツのポケットを弄ってハンカチを出すと、左右に激しく振った。
「ほ、ほら、このとおり白旗や!だから殺さんといて、な?!」
「色ガ違ウヨウダガ…」
彼が白旗の代わりに出したハンカチは、白ではなく派手なパッチワークの色だった。
「ああっしもた!今日はこれやったんか!」
「ソンナニ慌テナクトモ、今ノワタシニハ攻撃スル意思ナドナイヨ」
「え、そうなん?あんためっちゃ強そうやし、深海の姉ちゃんたちは俺ら人間をえろう憎んでるって聞いたんやけど」
「確カニソレハ間違ッテハイナイ。ダガ、私ハ無駄ナ戦闘ハ好マナイ」
「深海の姉ちゃんにも色々おるんやなあ。あんた話が分かりそうで安心したわ。俺は八戒組の松浦っちゅうもんや。よろしゅうな」
すっかり安心した松浦は親指を立てる。
港湾棲姫が今までに遭遇した人間は皆彼女に敵意をむき出しにしている者ばかりだったが、ここまで友好的な人物に出会ったのは初めてだったので、どう接したら良いものかわからなかった。
「あんたをここに連れてきた嬢ちゃん達から話は聞いたで。姉ちゃん達もえらい目におうたなあ」
「他ノ仲間ハ皆沈ンデシマッタノカ…。ココハドコダ?」
「出来れば、助けてやりたかったけどなあ…。ここは冴羽さんの家や。今は俺ら八戒組が事務所として間借りさせてもろてる」
「サエバ…」
あの時、北方棲姫を返すよう通信をした鎮守府。そこで通話した相手の提督がそう名乗っていた。
その時までははっきりと向こうを敵と認識していた港湾。
だが、自分の部隊を壊滅に追い込んだ人間がなぜ自分を保護しているのだろうか?そもそも、自分の部隊を砲撃したのはあの鎮守府だったのだろうか?
少なくとも、今は復讐を企てるより話を聞く方が得策だと、港湾棲姫は考えた。
「まあ、詳しい話はあんたを連れてきた艦娘の嬢ちゃん達としたってや」
「艦娘…ソウカ…」
港湾が気絶する直前に見たクリーム色の服を着た少女は、思っていた通り艦娘だったようだ。
なぜ敵であるはずの自分を保護したのか。彼女が複雑な気持ちを抱えていると、ノックせずいきなり扉を開けた人物が入ってきた。
「お風呂あんがとさーん。いいお湯だったよ。入渠とはまた違った趣があっていいねぇ」
湯上がりで瓶のコーヒー牛乳を片手に、タンクトップにショーツ姿の首にタオルを掛けた軽巡と見られる艦娘が入ってきた。
「北ちゃんやんか。ここにおるのは俺と深海の姉ちゃんやからええねんけどな、年頃の女の子なんやからもちっと、その…格好に気をつけてもろてやな」
「まっさんあたしに気を遣ってくれてんの?嬉しいけどねえ、別に裸を見られてるわけじゃないからあたしゃ気にならんよ」
「そうなん?まあ知らんけど。それより深海の姉ちゃん気が付いたで」
「おお!そりゃよかった。港湾棲姫?だっけ。怪我はどう?」
北上は港湾に声をかけながら、床にあぐらをかいて座った。
「オ陰サマデ特ニ痛ミハ無イヨ。ダガ、アナタト私ハ敵同士ダ。ドウシテ助ケタ?」
「話すと長くなるけどねえ。確かに、あたしらが任務中に海の上であんたらと出くわしたら戦わにゃならんけどね。今回は別、そうじゃないっしょ。そもそもあたしらはそんな命令は受けていないし、どっちかって言やあ戦うのめんどいもん」
ここで北上は手に持っていたコーヒー牛乳を口にする。
「ぷはーっ、やっぱ風呂上がりはこれだねぇ」
「状況ハ飲ミ込メタ。ダガシカシ…」
「皆まで言うんじゃないよ。…強いて言えば、あたしらは借りを作らない主義なんだ」
「ホウ…ドウイウコトダ?」
「あんたの妹が傷ついた艦娘のひとりを保護して治療した。これじゃ理由として不足かい?」
しばらくして、リビングに連れられた港湾棲姫。彼女が座らされた前にあるテーブルには、見たこともないような食事が並べられていた。
「ナ、ナンダコレハ…」
「怪我したあんたの為に香っちが作ってくれたご飯だよ」
「カオリ…?」
人間の名前だろうか。港湾は顔を上げて辺りを見回すと、先ほど彼女に食事を運んできた女性が目に入った。
「アナタガ作ッタノカ…?」
「たはは…。あなたの身体が大きくて、どれくらい食べるかわかんないからちょっと気合い入れて作りすぎちゃった。アタシは槇村香。冴羽獠のパートナーよ」
もう一度目の前の食べ物に目をやる。海の底で生きてきた彼女ら深海棲艦の食事はレーションのようなものを食べていた為に、温かい食事とはまるで縁がなかった。
「ワカラナイ…」
「なにが?」
いち早く食事に手をつけていた北上は質問する。
「ドウシテ、敵デアルハズノ私ニ対シテ、ドウシテココマデ手厚クスルノカ…?」
「ほっぽちゃんのお姉さんなら、あの子みたいな優しさがあるんじゃないかと思って。それならあなたは敵じゃない。現にその気になればアタシ達なんてすぐに殺せるはずよ。…あなたの力なら、ね」
香は港湾の手を指で示す。確かに彼女ならここにいる人間を斃す事くらいは赤子の手をひねるような物だろう。だが抵抗はせず、大人しく座っている。
「いいから食ってみなよ。美味しいよこれ」
そう言って北上が差し出した器の中には、湯気の上がるクラムチャウダーが入っていた。
そういえば食卓には、港湾棲姫が海からやってきたのを考慮してだろうか海鮮物の割合が多かった。
彼女は器を受け取って器用にスプーンを持つと、恐る恐る口に運んで行った。
「アツッ」
「そのまま食べようとすると火傷しちゃうから、口でフーフーしてから食べてみて」
香から言われた通りに熱をある程度冷まして、改めて口に入れる。すると、彼女が今まで食べたことのないようなアサリの旨みが口いっぱいに広がっていった。
そして気がつけば、港湾の頬にはいつの間にか涙が伝っていた。
「オイシイ…」
香と北上は目線を合わせると、満足げに笑った。
いかがでしたか?
今回は珍しく獠ちゃんが登場しません。
緊迫した鎮守府と、人間のあたたかさに触れる港湾さん。
さてさて、次回からどんな展開が待ち受けているのでしょうか…?
乞うご期待です!
皆様の評価と感想が励みになります。ぜひコメントをお待ちしております!