暁のスイーパー 〜もっこり提督と艦娘たち〜 作:さんめん軍曹
日が少しづつではありますが伸びてきましたね。
今回はむっちゃんが大活躍です。
それでは本編どうぞ!
執務室にて。
提督サイドと黒澤サイドの睨み合いは未だ止まる事なく続いている。
「どうした?早く引き渡したら君達の無事を約束しようと言うのだ。損はあるまい?」
「どうだかな…。ここで彼女を渡したところで口封じの為に、って線もありえるからな。お前みたいな奴の考えそうなこった」
「実に愚かだよ。そんなに死に急ぎたいのなら、お望み通り地獄へ送ってやろうじゃないか。…神通」
「申し訳ありません提督。ですがこれも日本の為、です」
そう言いながら神通は引き金にかけた指に力を込めていく。彼女の銃は十四年式の前期型なので、トリガーを引ききるまでにあまり余裕などなかった。
海坊主は懐中にあるM29のグリップを強く握り、提督もすぐに反撃できるように脚を広げる。
だが、一連の流れは突如轟いた銃声によって中断を余儀なくされた。
「伏せて!」
美樹が叫ぶやいなや、陸奥が潮と北方棲姫を庇った。彼女のすぐ頭上を弾丸が通過する。
美樹も負けじとコルト・キングコブラで撃ち返すが、相手の弾幕によってそれもままならなかった。
「くっ…マシンガン相手に拳銃一挺だけじゃまるで歯が立たないわね…!」
相手は少なくとも20発以上は入る機関銃、それも何人分もある中こちらは6発ずつしか装填できないリボルバーひとつのみという、はたから見ても劣勢の状況にあった。じりじりと前線が押されているので、このまま負けるのも時間の問題だった。
「陸奥さん!何か武器はないの?!」
「参ったわね…。艤装は改修中だし…」
ここで彼女は素早く周りを見渡す。なんでもいい、何か突破口になる物は…あった!
陸奥の視線の先には、火災時に用いる消火設備が壁に埋め込まれていた。
「…これだわ!」
「このままじゃ持たない!はやく!」
美樹が悲鳴に近い声をあげる。
それに反応した陸奥は飛ぶような勢いで設備に取り付くと、肘でガラスを割って斧と消火器を取り出した。
「火遊びにはこれが…」
そのまま流れるような動作で斧を足元へ置いてグリップの安全ピンを引き抜き、ホースの先を持つ。
「いちばんよ!!」
自分や美樹達にまで薬剤がかからないようにしながら角の向こうへ噴射口を向ける。そしてほぼ同時にグリップを強く握った。
容器内の圧力が解放されて、界面活性剤を主成分とする泡がホースから勢いよく噴射される。飛距離自体は10メートルもないが、彼女らの目前に迫っていた敵に対しては充分に絶大な効果を誇った。特に先頭あたりにいた男達には顔に直撃したようで、くぐもった悲鳴を上げながら倒れた。
「今よ!」
薬剤が出きった消火器を捨て、今度は斧を片手に前へ走り出す。相手の男達が混乱している中に突撃した陸奥は、相手を殺さぬように気を遣いつつ、美樹の手も借りながら被害からなんとか逃れていた残りを斧で圧倒していった。具体的には、手のひらで相手の頬にビンタをするような使い方だ。
だが、それでも常人より力のある艦娘ーーそれが戦艦ともなれば特にーーが振りかぶって金属の塊で胴体を殴っているので、肋骨の何本かは確実に折れているだろう。もちろんそれをまともに喰らった敵は1発でノックアウトされてしまった。
美樹の方も、海坊主仕込みだからか女性とは思えぬ程の力で陸奥が取りこぼした敵を倒していく。
潮がおそるおそる覗く頃には、その場にいた敵は全滅していた。
「終わったんですか…?」
「今のところはね。だけどこの騒ぎで他の連中にも気付かれたと思うわ」
「どうするの?」
「コノママデハマタ同ジ結果ダ」
「そうよねえ…。そうだわ!」
陸奥は何か思いついたようで、耳元のインカムのスイッチを入れた。
「こちら陸奥。姉さん聞こえる?」
そして場所は提督執務室へ戻る。
黒澤は何が起きたのかと無線に呼びかけているが、部下からの応答がないのでほんの少しだけ狼狽えていた。
「いったい何が起きたと言うのだ…?」
様子を見ていた提督は首は動かさずに海坊主へ囁く。
「どう思う?海坊主」
話を振られた海坊主はフンと鼻を鳴らす。
「あの銃声の中には美樹のものもある」
「なーるほど。まあ、彼女がいるなら少しは安心かもな」
「だが美樹の他にもいるようだ。あいつ1人だけではここまで派手にはならん」
海坊主が言い終わった時、突如ドアの向こうから人の気配がした。
何かが起きると予感した2人はそれぞれ横に飛び退く。その刹那、ドアが蹴破られて吹っ飛び、一瞬遅れてしまった神通へ直撃して下敷きにした。
「ぐあっ…!くっ…な、何事なの…?!」
「陸奥!」
扉のあった場所には、ビッグ7の1人が立っていた。
「篠原くん!車のキー貸して!」
「あ?お、おう」
提督はポケットから愛車の鍵を取り出すと、陸奥に投げ渡した。
「止まれ!」
黒澤は拳銃を抜いて提督へ向けようとするが、海坊主が放った.44マグナム弾によってスライド部分が破断されてしまう。
「大人しくしてろ」
「小癪な…!」
「陸奥!一体どうするってんだ?!」
「車の暗証番号教えて!」
彼女の表情から、さっきの騒ぎに関係していると察した提督。
「"鈴谷の誕生日"だ!」
「さんきゅー!借りるわね!」
「大事に扱えよ!」
「私の腕を忘れたわけじゃないでしょ?それじゃ!」
そう言って陸奥はガレージへと走り去っていった。
「いいのか篠原?」
「あん?ああ、まあ…」
「なんだ」
「陸奥が俺にああいう呼び方するのはな、なにか状況が差し迫っていて彼女が本気になってる時だけなんだ。それに…」
少し、だが楽しそうに笑いながら海坊主を見る。
「車に関しちゃ、あいつの右に出る者はいない。張り合えるのはお前や獠、野上刑事くらいだろうな。俺が保証するよ」
提督から鍵を受け取った陸奥はその足でガレージへ急ぐ。
屋内からの通用口をくぐり抜けると、そこには長門や一度分かれた3人が待っていた。
「陸奥!」
「姉さん!」
長門が妹へ近づく。彼女の肩には大きめのダッフルバッグが下がっていた。
「遅かったじゃないか。いったい何やってたんだ?」
「ごめんごめん。提督の様子を見にいってたのよ。ついでに車の鍵も借りてきたわ」
「なるほどな。これは言われた通りの品だ」
長門からバッグを受け取り、ジッパーを開けて中身を確認する。
「さすがは姉さん。これも提督からの借り物だから、きちんと返さなきゃね」
「うむ。ところで、提督はどんな様子だった?」
「相当危ない感じ。なんだか嫌な予感がするわ」
「そうか…」
「姉さん達も気をつけてね。それから、他のみんなには聞かれたくない会話は非常用のチャンネルを使うように言っといて」
「相わかった。そうするとしよう」
「行きましょう陸奥さん。また追手が来るわ」
美樹に促され、4人は提督のセダンに乗り込む。陸奥が指をポキポキと鳴らし、鍵をさしてエンジンをかけると、ナビの画面には暗証番号を入力するコマンドが出現した。
「ええっと確か、番号は…っと」
鈴谷の進水日を打ち込もうとするが、2桁ほど入力したところで手を止める。
いや待てよ…?確か、"誕生日"って言ってたわね…
そう思った陸奥は、おもむろに訂正ボタンを押して、再度4桁の番号を打ち込んだ。
するとナビが認証して、すべてのロックが解除された。
「篠原くんもなかなかキザなことするわね」
「いたぞ!あそこだ!!」
先程陸奥が通り抜けた通用口から、後を追ってきた兵士たちがドカドカと出てくる。振り返った長門は間髪を入れずにブローニング・M1919A4機関銃の弾幕を浴びせた。
布の巻かれたバレルの付け根部分を左手で握り、腕で弾帯を支持しながら右手で引き金を絞り続ける。
「ここは私に任せろ。お前らは早く行け!」
彼女の援護射撃をルームミラーで確認した陸奥は、水温計が上がり始めたのを確認するとシフトレバーをDレンジへ入れる。
「みんな、シートベルトはつけたわね?…行くわよ!」
チャンスは今しかない。
そう思った陸奥はサイドブレーキを解除して、ブレーキにかけていた足をアクセルへ切り替え一気に踏み込む。すると、マフラーから排気音が咆哮して車はタイヤを激しくスキールさせながら勢いよく前へ発進した。
通常において、クラウンコンフォートが装備する機関はトラックなどに用いる1TR-FPEというLPG用の2000ccエンジンだが、それではパワーが低過ぎると明石や夕張はこういったカーチェイスが起きることを予測してチューンナップを施していた。
まず燃料をガソリン用のエンジンに換装。ベースは日本のハイエース型救急車などで採用されている2TR-FE 2700ccを載せて、そこから彼女らが手を加えてスーパーチャージャーを取付、高負荷に耐えられるようエンジンだけでなく車体各所にもカスタムを施していた。さらにボディは本来用いられる車種よりもかなり軽量なために、そのパワーは存分に発揮されるという有様だ。
あえてトヨタのように型式を付けるなら、2TR-GZEが正しい名前だろう。
最も、これは明石と夕張謹製のオリジナル作品ではあるが。
ーー閑話休題。
陸奥はガレージのシャッターをぶち抜き、障害物とぶつからぬよう巧みにハンドルを捌きながらも、常にアクセル全開で正面出口へと向かっていた。
「もうすぐだわ!」
陸奥達を乗せた車は門へと向かう。しかし、事前に仲間から連絡を受けたであろう敵は門を閉じるようレバーを動かす。鋼鉄製の門が閉まり始めたが、車は既にブレーキをかけても間に合わない距離にいた。
「みんな!体重を思いっきり右にかけて!」
3人が言われた通りに体を傾ける。そして陸奥は同じく傾きながらハンドルを右に切った。
するとどうしたことか。車体までもが右に傾き、片輪走行を始めたのだ。
そのまま速度を緩めず、トランクリッドと床下を擦りながら狭くなっていた出口を通り抜けていった。
門は閉じられるが、一連の流れを見ていた子飼いどもは終始呆気に取られていたのだった。
門を突破したクラウンは右折しながら片方を着地させる。後輪が流され始めたので陸奥はハンドルを切りカウンターを当て、姿勢を安定させた。
「む、陸奥さん…」
「何かしら?」
「どこでそんなテクニックを覚えたんですか…?」
「あー…昔ね、遊園地のゴーカートで遊んでたのよ」
もちろん冗談である。
というのも陸奥は過去において、各鎮守府で開催されるドライビングコンテストや、警察との合同演習で常にトップの成績を飾っていた。また、富士スピードウェイや鈴鹿サーキットなどのレースでも数々の優秀賞を受賞するほどの腕の持ち主で、これまでに彼女の残した功績は名のあるレーサー達の間でも噂になる程の凄まじさだ。
彼女のドライビングテクニックは、日本にいる艦娘の中でも極めて特異といえるだろう。
「ところで…、どうしてさっき車のパスを打ち直したの?」
美樹が疑問を口にする。
「ああ、あれはね…鈴谷さんの誕生日を打ったのよ」
「というと…11月20日かしら?でも、1を2回打って訂正したわよね?」
「それは彼女の"艦として"の進水日ね。提督は、鈴谷さんの"誕生日"、つまり、艦娘として建造された日って言ってたの」
「なるほどね」
「そしてもうひとつ。その日は提督と鈴谷さんにとっては特別な日なの」
「へえ。なにかしら?」
「それはね…あの2人の"ケッコン記念日"でもあるのよ」
「まあ!」
ふふっと美樹が笑い、後ろで会話を聞いていた潮は赤面し、北方棲姫は少し考え込んでいた。
「"ケッコン"ッテナンダ?ドウイウ意味ナノ?」
「ほ、ほっぽちゃん!」
「それはね…私達は"女性"という性別なんだけど、例えば私がファルコンみたいな"素敵な男性"と出会って結ばれることなのよ」
美樹が少し照れくさそうに解説をする。だが、小さな姫はまだ解せない様子だ。
「ファルコン、トイウノハオマエノ相棒ダナ。ダガ、ソレデハドウシテサエバトカオリハ結バレテイナイノ?」
北方棲姫の言葉に他の3人がきょとんとする。
確かに今の話からでは彼らの関係に疑問を持つのは無理もないだろう。
「うーんあの2人は…ねえ」
「そうよねえ…」
「ソレバカリカサエバハ他ノタクサンノ女性ニ手ヲ出ソウトシテイル。ドウシテ?」
鎮守府のメンバーと北方棲姫が共に過ごした時間は限りなく少ないはずだ。なのに、彼女は彼らの普段の光景をしっかりと見ていたのだ。獠たちを知る人間にとって、北方棲姫が投げかけた質問は些か回答に困るものだった。
「あ、あのね、ほっぽちゃん…」
「?」
「多分冴羽さんは、香さんに構ってほしくて他の女の子にちょっかいを出してるんだよ」
「ソウナノカ?」
「あの、その…あとね、多分みんなの緊張を解こうとしてる時もあるの…かも」
潮がもじもじとしながらも、かなり鋭い回答を出す。
「みんな良いわねえ。遅めの青春って感じかなあ」
「あら。陸奥さんはそう言った相手はいないの?」
「わ、わたし?!」
ちょうどその時、車はカーブに差し掛かっていたが運転していた陸奥はハンドルを切り違えかけて、対向車からパッシングとクラクションのダブルパンチを喰らってしまった。彼女は慌てて元の車線に戻る。
「…そう、ねえ。いたにはいたんだけど…」
「なになに、どんな人??」
普段は海坊主のパートナーとして、またはキャッツアイの女マスターとして過ごしている美樹ではあるが、20代ということもあってかこういったガールズトークには目がなかった。
「うーん…私の大本営時代の同期、かなあ」
「それで?その人とはどうなったの!?」
陸奥が大本営にいたのも驚きではあるが、その先が気になった美樹は喰い気味に質問を浴びせる。少し困った陸奥が若干の哀しみのこもった笑みを浮かべた。
「…先越されちゃった。今はもう、腐れ縁って感じね」
「え?それって」
「敵ダ。ウシロノ方向!」
楽しい会話というのはそう長くは続かない。北方棲姫のひと言で現実に戻った一行が後ろを振り向くと、追っ手の車がどんどん迫ってきていた。
いかがでしたか?
例によって工廠の2人組がやりたい放題やってましたね。
やっと提督(の車)が本格的に動き始めました。
次回でもむっちゃんが無双します。お楽しみに!
(早いとこ状況を転換させたいなぁ)