暁のスイーパー 〜もっこり提督と艦娘たち〜 作:さんめん軍曹
新玉ねぎが美味しい時期になりましたね。
これを投稿したら白子の新玉ねぎを買いに行こうかと思っております。
さて、本編どうぞ!!!
「陸奥さん」
「なぁに?香さん」
「さっき言ってた大本営の同期って、もしかして提督さんのこと?」
北上達と別れた一行は、そのまま湾岸線を避けるルートで高速に入り、一路横須賀へと向かっていた。
「そう、ね…。彼が着任したての頃、大本営の訓練の一環で建造されたのが私なの」
「そうなんだ!」
ーーー遡ること数年前。大本営の建造ドックにて。
「…であるからして、この場合に投入する資材は…」
説明がクソ長いな、退屈だ。
上官の説明を背筋正しく聞いていた集団の中、ただひとりだけ耳をほじりながら大欠伸をかいている男がいた。
獠たちと別れてもしばらくの間傭兵稼業を続けていた提督こと篠原聖斗だが、日本が深海棲艦との戦争に突入したとの報を聞きつけた彼はいち早く帰国。生活基盤を築いたのち海自に入隊し選抜試験を突破して、提督になるための訓練を受けていた。
「ぃ……おい!」
「ほあ…」
いつの間にか立ったまま寝ていた篠原を、上官が叩き起こす。
彼の傭兵時代の経験上、習うより慣れろ、がモットーなので説明を受けてやり方を覚える方法は性に合わなかったのだ。
「貴様…!話を聞いていたのか!?」
「あー…?ああ、建造と資材の話でしたっけ」
「そうだ。きちんと聞いていたのなら、貴様から作業してみろ!」
そう言われながら、彼はドックのコントロールパネルの前に立たされた。正直、説明があまりに回りくどくて途中から聞くのを放棄していた為に何をどうすれば良いのか皆目見当がつかなかった。
「ええと…これとこれとこれを…」
とりあえずテキトーに資材を放り込んで開発ボタンを押す。その直後、彼の頭上からペンギンのぬいぐるみが落下してきた。頭に跳ね返ったぬいぐるみをキャッチした篠原はしげしげと眺め、
「これが艦娘…?」
と呟くと、顔を真っ赤にした上官に怒鳴られた。
「馬鹿者!それは開発だ!!私は建造しろと言ったのだ!!」
上官が声を張り上げた時、瞬く間に周囲が笑いに包まれる。
「あいつ、バカじゃねーの!」
「だっせ、立ち寝なんかしてるから間違えるんだよな」
そんな声が篠原の耳に入り、彼の中で何かがカチンと切れた。
「分かったよこのスカタン共!きちんと建造すりゃ良いんだろうが建造をよ!!」
そう叫びながら、もう一度モニターを見る。
笑い物にされたのは自分のせいであることを棚に上げながら、とにかく腹が立って仕方がなかったので仕返しをしようと考えていた。
すると、建造メニューの端に大型艦建造の文字が。講義中に教科書の先を覗いていた時、確か大量に資材を消費する事が記載されていたのを思い出した彼は邪悪な笑みを浮かべると躊躇なく選択。そして限界量の資材を投入したのである。
「きっ貴様、大型建造はまだ教えとらんぞ!!」
「どっちでも同じでしょう。…おっ、建造時間が表示されましたよ上官殿。えーっと、あとは…」
高速建造のボタンを押した篠原。バーナーによって建造時間が短縮されるが、カウントが0になった瞬間に彼達のいるドックが大爆発を起こした。
「…うぇっほ!げっほ、ゲホッ」
瓦礫の中から篠原が這い出てくる。
「な、何が起こったんだ?えらいこっちゃ」
「こんにちは」
声のした方に向くと、下から順番に喫水線を模したブーツにすらりとした長い脚、今にも見えそうなくらい短いスカート、菊紋をあしらった艤装に細いくびれが見えた。
「もう、どこ見てるのよ」
そして目に入ったゴミを払おうと袖でゴシゴシと擦った後にまた首を上げれば、黒焦げの服から溢れそうな大きな胸とアフロヘアーの女性が目に入ったのである。
「長門型戦艦の2番艦として生まれた陸奥よ。…ところで、入渠したいんだけど…」
のちに提督になる篠原と、艦娘の出会いはこれが初めてだった。
2人が見つめ合っている中、篠原の後ろでは上官や同僚たちも瓦礫の下からずるずると這い出ていた。
その後、この出来事を目の当たりにした当事者たちから篠原は"瞬間湯沸かし器"と呼ばれるようになった。
「そういうことで、提督が鎮守府に赴任するまでの間、彼とペアを組んで一緒に訓練してたの」
「そっか、それで同期ね」
「彼が秘書艦として選んだ吹雪ちゃんと共に横須賀へ行った後、私はしばらく大本営にいたんだけどね。ちょっとつまんなかったから大和さんに直談判して、提督を追いかけたってわけ」
「行動力あるわね陸奥さん!」
美樹が眼をらんらんと輝かせながら喰い気味に話しかけた。
「ま、まぁね。彼と一緒に仕事してると、その…楽しかったし」
「分かるわぁ。私もファルコンから生きる術を教えてもらった時、凄く楽しかったから」
「そ、そうよね」
そう言いながら、陸奥はシフトを一速落とす。提督のクラウンは手配されているので、代わりに獠の自宅にあったホンダ・CR-Xを借りていた。
「さ、ペースを上げるわよ。早くしないと鎮守府が瓦礫の山になっちゃう」
彼女は喋り終わると、アクセルを踏み込んだ。
一方で横須賀鎮守府。ここでは海坊主と提督が敵から鹵獲した高機動車を用いて、黒澤の手下を追い立てていた。
「ハッハァ!流石は12.7mmだ。撃ち応えモリモリだぜ!!」
敵のいる方へ強烈な弾幕を張れば、その凶悪な威力に怯えた兵士達が一目散に逃げていく。撃っては移動を繰り返し、敷地内を派手に暴れまくる。
と、そこへ無線機から通信を知らせるブザーが鳴った。
「海坊主だ」
『やっほー海ちゃん!調子はどうなのさ?』
「その声は鈴谷か」
『当ったりー!陽動してくれてさんきゅ!!鈴谷達はどうすればいい?』
『割り込むぞ。こちら日向だ。伊勢が目を覚ました』
『マジ?!』
「わかった。鈴谷、俺達で奴らを浜に追い立てるぞ」
『医療棟から引き離せば良いんだね!』
「そうだ。それから何人か向こうへ回せ。安全を確保しろ」
『おういぇあ!まっかしてー!!』
通信が切れると、武器庫の方角からも銃声が轟き始める。
「おっ、あいつらも動き出したな。仕上げといこうぜ海坊主!」
「伊勢、伊勢!!」
「ひゅうが…ひさしぶりだね…」
伊勢が力無く笑う。
「大丈夫か?!すぐにバケツを持ってくる!」
「ま、待って日向…。その前に、私の話を聞いて…」
彼女がやっとのことで起き上がるのを見た日向は、部屋を出るのをやめてもう一度伊勢の傍へと座った。
「私の事、どこまで知ってる?」
「あ、ああ…君が大本営特別艦隊に所属していて、背後から艦娘に撃たれた事までは調べがついている」
「そう…。結論から言うと、
「なんだって!?」
「私はその子と話し合って、ブラック提督の尻尾を掴む為に、ひと芝居打ったの」
ーーーある日の大本営・元帥の執務室。
ここには元帥と大和の他、3人の艦娘がいた。
「わしに用があると聞いたのだが…どうしたんだね?」
元帥が窓から向き直れば、目の前には川内と伊勢、そしてもう1人の特別艦隊のメンバーが立っている。元帥の言葉に川内が返事をした。
「お時間をいただき恐縮です。今度の大規模作戦について至急、元帥のお耳に入れたい事があって参上しました」
「黒澤提督の作戦かね?北方棲姫を討伐する内容だったな。何か不備があったのかな?」
元帥は椅子に座り、手元のパイプに火をつけた。
「不備であれば良かったのですが、そうではありません」
大本営特別艦隊に任命された川内は主に諜報活動を専門分野としており、敵艦隊のみだけでなく大本営の内側にもアンテナを伸ばしていた。これは、ブラック提督を懸念した元帥が彼女へ密命した、いわゆる直属のような関係である。
「黒澤は北方棲姫を誘き寄せるために、そのテリトリー内で艦娘を1人同士討ちさせ、大破状態で海へ捨てようと企てています」
「…奴の噂は聞いておるが、とうとう尻尾を出した、と言う事だな」
「はい。そこで…」
川内は伊勢を見る。彼女の言葉の続きを伊勢が繋げた。
「指令が降りたら、
会話を記録していた大和の手が止まる。
元帥は紫煙を吐き出すと、伊勢へ目を合わせた。
「…一歩間違えば轟沈だ。それでもやると言うのかね?」
「私は川内、そしてもう1人、
「近いうちに
「承知した。くれぐれも、伊勢が沈まないように頼むよ」
「もちろん火薬の量は調整します。…ですが、これは賭けになるでしょう」
川内は表情に出てない事を祈った。こういった場ではポーカーフェイスを崩さない彼女であるが、それでも心から悔しかったのだ。
そこへ彼女の両肩に伊勢の手が置かれる。
「川内ちゃん。私は貴女を信じてるよ。だから撃つ時は、躊躇なく背後から撃ってね」
伊勢が微笑む。その表情を前に、今度こそ川内のポーカーフェイスは崩された。
元帥はもう1人の艦娘を見る。
「特別艦隊の旗艦である君はどう思うね?」
「…全ての証拠が揃ったらギッタギッタにするよ」
こうして、秘密裏の作戦が開始された。
「…これが伊勢大破の真実よ。最も、貴方のいる横須賀へ辿り着いたのは全くの偶然だけどね」
「なるほど。それで君が特別艦隊からウチに移籍したってわけか。…だがそれなら、どうして五航戦まで来たんだ?」
「彼女らは別の任務で艦隊に編成されなかったから、この事は知らない。でも日頃から黒澤の下で仕事するのを心から嫌がっていた」
川内はバイクのアクセルを捻る。獠はその後ろに座っており、2人乗りの状態だった。
「私はそんな五航戦が解体されるという情報も掴んでいた。そこで急いで旗艦の艦娘と共に元帥へ訴えて、3人で横須賀へ移籍したってわけ」
「となると…五航戦も危ないな」
「そうなるわね。スピード上げるわ、捕まって!」
こうして、深夜の道路を1台のバイクが駆け抜けていった。
「や、やめて下さい!!」
「何すんのよ!翔鶴姉ぇをどこへ連れていくの!!」
「黙ってついてくるんだ。貴様らは前々から目障りだった」
「どういう事よ…!」
黒澤に引っ張られて辿り着いた場所は、鎮守府の工廠だった。
「翔鶴くんにはそこへ立ってもらおう。瑞鶴、貴様はこのモニターの前へ立て」
「何するつもりよ…!」
今すぐにでも姉をこいつから引き離したい所だったが、銃を向けられているので黙って指示された場所へ立つしかなかった。
「簡単な話だとも。これを使って翔鶴を解体しろ」
「なっ…」
「私に歯向かう艦娘などに用はない。安心しろ、解体が済んだら貴様ら2人ともあの世へ送ってやるとも」
解体。
艦娘のその後については諸説あるものの、少なくとも確認されている限りでは艤装に適用されて、普通の人間に戻る事を指す。
つまり五航戦と対峙しているこのブラック提督は、瑞鶴の手で翔鶴を解体させ、姉の前で妹を殺し、翔鶴にも後を追わせようとしているのだ。
「…もう我慢ならないわ!今すぐにお前を粉微塵にしてやる…!!」
即座に艤装を展開して、弓矢を黒澤へ向ける。しかし、それよりも翔鶴へ銃口を向けられる方が早かった。
「煮るなり焼くなり好きにしたまえ。その前に私は引き金を引く」
「くっ……ちくしょう!」
瑞鶴は艤装を解除して、すごすごと操作盤の前に歩いていった。黒澤はその様子を見て鼻で笑う。
「五航戦も大した事はないな。たかが姉ひとり護れんとは」
「あら?彼女達は言うほど弱くはないですよ?」
「あなたは空母を見くびり過ぎね」
黒澤は驚いて声のした方へ向こうとする。が、その前に銃と制帽を何かに弾き飛ばされた。
入口の方を見れば、艦娘が3人ほど立っていた。
「惜しいですね加賀さん」
「手元が少しだけ狂いました」
弓を構えている赤城と加賀。瑞鶴のインカムを通してやり取りを聞いていた一航戦は、すぐさま翔鶴の救出にやって来たのだ。そして、2人の間から明石がゆっくりと出て来た。
「黒澤提督。あなたは私の工廠で何をやっているんですか?」
「何をやっているだと?見ての通り…」
1発の銃声。弾丸は黒澤のこめかみすれすれを飛んでいった。
「もう一度聞きます。あなたは、私の工廠で、何を、やっているのですか?」
明石はまだ硝煙の上がるベレッタ・M9を、今度は目の前の男の眉間に向けた。
「答えによっては遠慮なく引き金を引かせていただきます」
「私は五航戦を解体しようと…」
「提督は艦娘を解体する場合、所定の書式にて書類を作成・秘書艦ないし本人が工廠担当の艦娘…即ち私に見せなければいけないはずですが?」
「事態は急を要するのだ。早くこの艦娘達を…」
「正当な理由が無ければどんなに急いでいようと、私は許可しませんよ」
「ぐっ…」
2人のやりとりを見ていた赤城が声をかける。
「その2人をこちらへ寄越しなさい。さもなければ貴方には魚の餌になってもらいます」
「翔鶴、瑞鶴、こちらへ来なさい」
加賀は表情を変えずに促すと、2人は走って彼女のそばへ来た。
「加賀さん!」
「こんな男にいいように弄ばれるとは、少々だらしが無いんじゃないかしら」
「んなっ?!」
加賀のひとことに愕然とする瑞鶴。ほんの数秒前にお礼を言おうと考えていた事を後悔した。
「なにもそんなこと言う必要ないでしょ!」
「どんな時も油断してはならない。その筈でしょう」
「まあまあ加賀さん。その辺にして下さい」
すぐ赤城が宥めに入る。
が、しかし黒澤は突如笑い始めた。
「何がおかしいんですか?」
「忘れたのか。私は大本営特別艦隊の提督だ。君達が騒ぎを起こしている間に、特別艦隊を出航させた」
「…ドックは破壊した筈よ」
「彼女らはどこからでも出航出来るんだよ。そしてあと数分で、深海棲艦の群れに攻撃を仕掛けるよう指示を出したのだ」
「…なんですって?」
「そして戦争は激化し、
明石は兵器の売買、というワードが引っかかる。銃は降ろさず、真っ直ぐと目の前のブラック提督に尋ねた。
「…兵器の売買とは、艦娘も含まれるんですか」
「それは自分達で確かめるといい。君達をリストの優先事項に載せて差し上げるよ」
彼女は引き金に力を込めるのをぐっと堪えた。
いかがでしたか?
むっちゃんとの馴れ初め、伊勢大破の経緯…
自分でも書いててハラハラしてました()
さて、次回は海の上がメインになりそうですが、果たして…?
いつも読んでいただき誠にありがとうございます!
よろしければ評価・感想・ここすきをいただけるとエネルギーになります!
それでは次回もお会いしましょう!!