暁のスイーパー 〜もっこり提督と艦娘たち〜 作:さんめん軍曹
こんばんは、さんめん軍曹です。
暑い夏がやってきましたね。身も心も物理的に溶けそうです。
仕事中、いくら水を飲んでも汗で流れていくのでトイレにほとんど行っておりません(((
さて、当小説には北上が2人いるので、彼女達をどう呼ぼうかで四苦八苦しております()
それでは本編どうぞ!!
「冴羽っちさぁ、ちょっと節操がなさすぎっしょ」
ジト目の北上が獠へ文句を言う。海へ飛び込んだ彼をボートへ引き上げた後、鎮守府へ帰港するため艦隊と一緒に海を航行していた。
「へ?なんで」
「なんでって…あたしゃあんたの嫁艦だよ?」
「よめ…かん?」
頭の上にハテナを乱立させた獠を尻目に、彼女は大きなため息をつく。
「あのね、さっきあたしの指にこれ、嵌めたでしょ」
そう言って左手の薬指をかざす。
「これであたしとあんたはケッコンカッコカリした事になるんだよ。分かってる?」
「へ…?」
ここでようやく状況を飲み込む獠。
彼の顔は青ざめていった。
「北上と…ケッコン?!」
「何さ。あたしとじゃ嫌なの?」
北上の表情が、呆れ半分悲しさ半分といったものになる。
「そんな…あたしとは遊びだったのね…。よよよ…」
ここで彼女が泣くポーズをしてみれば、すかさず大井が割って入った。
「冴羽さん?北上さんを泣かせるなと、あ・れ・ほ・ど、言いましたよね?」
「あ、あれは夢中だったと言うか、そうしなきゃいけない気がして…」
言い訳しながらも香になんて説明しようかと真剣に悩んでいた獠。大井は軽くため息をつきながら、獠に近づいていった。
「冴羽さん」
耳元で囁く。
「ケッコンカッコカリの主な役割は、艦娘の練度上限を解放する事です。香さんにはそう説明してあげなさいな」
ハッとする獠。そういえば大井はさっき、自分には指輪を握れと言った。
彼女の完璧な気遣いを察した獠は、感謝の表情で大井に向き直る。そして視線が合った彼女は、パチンとウィンクしたのだった。
「なるほど。あんたの艦隊は賑やかで面白そうだね」
特別艦隊の北上は、自身を引っ張っている北上に呟く。
「やっと気づいた?あたしはね、
「いるべき場所…かあ」
旗艦の北上は少し考え込む。そんな彼女に、横須賀の北上は話を続けた。
「なんというかさ…。家族なんだ。横須賀鎮守府に所属してる艦娘や提督たちは、固い絆で結ばれてると思うわけ」
「…なるほど」
「だから、みんながみんな唯一無二の存在だし…仮にあたしが沈んで後任の北上が来たとしても、それはまた別の北上になるんよ」
「…あたし達特別艦隊は、そんな感覚はないなあ。言うなれば、仕事上のパートナーって感じ。沈んでも代わりはいると思ってた」
そう言うと、旗艦の北上は少し寂しそうな表情を浮かべた。
「だろうね。あくまでも上からの指令があった時に動くだけっしょ」
「まあね」
「うちらの場合はね…、例え艦娘個人の問題であったとしても、皆で考えて動く。常に最善の方法を探して解決するんだ」
「…本当にいい鎮守府だね」
「そう…まあ、そうねえ。これも提督や冴羽っち達のお陰かな」
「話は聞いてるよ。冴羽獠が提督になっている理由」
「そうかい。…今度、時間のある時にあんたの事も話しておくれよ」
「いいよ。同じ"北上"同士、しっぽりとやろうじゃないのさ」
「あっ、帰ってきた。おーい!」
瑞鶴が手を振る。
艦隊が着岸すると、そこに一同がわっと集まった。
「みんなお疲れ様〜。無事でなによりだよ」
「あれっ?北やん、その指どったの??」
北上の指輪をいち早く見つけた鈴谷が問えば、北上は自慢げに見せびらかす。
「ふっふ〜ん。あたしも遂に身を固めたって訳よ」
「ウッソまじぃ?!ケッコンカッコカリしたん??」
鈴谷が驚き、艦娘から黄色い声が上がる。
ケッコンという単語に反応した香はと言うと、即座にハンマーを展開して獠を追いかけ回していた。
「これがなきゃ今度こそ沈んでたね。いやあ、さすがはあたしを助けた恩人よ」
「ほえー!修羅場じゃん!ってか鈴谷とお揃いだね!指輪があるとなんか違うっしょ!」
「ほんとね。なんだか身が引き締まるかんじ?良いよねぇ」
やいのやいのと騒ぐ艦娘たち。だが、そこから一歩引いた所に陸奥が立っていた。この手の話に興味を持たない様子に、獠を叩き潰して満足していた香は、不思議に思いつつ彼女に訊ねた。
「陸奥さんは混ざらないの?」
「私は…ううん、いいの。…わたし…」
陸奥は何かを言いかけた所で、我慢ができなくなったのか何処かへと走っていってしまう。
「あっ!待って陸奥さん!」
慌てて追いかけていく香。その様子を獠は黙って見ていた。
「どこ行っちゃったのかしら…」
工廠付近。陸奥の足跡を追って、香は辺りをキョロキョロと見回していた。彼女は大きな声で呼びかける。
「陸奥さーん!どこー!?」
香の声に反応したのか、近くの木箱がガタリと揺れる。
それを聞き逃さなかった香は音のした方へと歩み寄ると、膝を抱えて小さくなっている陸奥がいた。
「いたいた。どうしちゃったの?」
香も目線が合うようにしゃがみ込む。相手が子供の場合だけでなくとも、落ち着いて話す為には必要な動作だ。
「香さん…」
顔を上げ、香を見るその目にはキラリと光るものが。
「…落ち着いたらでいいから、話を聞かせてくれるかしら?」
「ええ…ありがとう。…香さんは車の中での話、覚えてる?」
前腕で目をゴシゴシと擦る陸奥。彼女からの問いかけに香は少しだけ考えると、すぐにピンと来た。
「提督さんと同期、って話?」
「そう。私は提督を追って
「うん」
「彼との訓練や日常の中で気づいたもの…それは、私が提督…篠原くんに対して抱いてる気持ちが、いつしか、ただの同期以上になっていたってこと」
「そうなのね」
「でも、ここに来たら、彼は鈴谷さんとケッコンカッコカリをしていた」
「ああ…それはショックだわね…」
陸奥は少し俯き加減になりながらも、話を続ける。
「そうね…。でも、彼と一緒に仕事をして、生活ができれば私は…それで満足だと思っていたわ」
彼女は鼻を啜る。
「でも…でも、さっきの盛り上がる鈴谷さんを見てたら…わたっ、わたしっ…」
「あー、要するに妬いちゃったのね。ヤキモチ」
陸奥はもう、目からとめどなく溢れる涙や鼻水を気にしなかった。
「うん…。だっ、だから、こんな気持ちを抱く私はっ、彼の側にいる資格はない、って、ひぐっ」
「そんなことないわ。それは立派な感情よ。あなたが人である証だわ」
「そ、そうな、の…?」
「そうよ。そういう時は提督さんにガツンと言ってやんなさい!私だってあんにゃろう、アタシを差し置いて北上ちゃんとケッコンカッコカリしやがって。絶対、ずぇーーーったい許さないんだから!」
香の瞳の奥に燃える炎を見た陸奥は、少しだけ落ち着きを取り戻す。
「か、香さん。その…ケッコンカッコカリっていうのはね…」
「あら?知ってるわよ。練度の上限を取っ払う為でしょ?」
あっけらかんと話す香に、陸奥は驚きを隠せずにいた。
「提督さんから聞いたもん。本当に結婚しちゃう訳じゃないけど、でも、艦娘にとってはそういう意味も強いって」
「なら…どうして…?」
「まあ、アタシもなんかムカついたから、かな…。だからあいつをハンマーで叩き潰してやったわ。まったく、ここにずっと連れ添ってやってるパートナーがいるってのに…」
後半はボソボソと呟く香だが、陸奥は聞き逃さなかった。
「あらあら。冴羽さんも隅に置けないわね」
「なっ?!あっ、アタシと獠はそんな関係じゃ…!」
「あら?私、香さんの事だなんて一言も言ってないわよ?」
「がっ…?!」
赤面する香。海坊主級のゆでダコ状態を見た陸奥は、クスクスと笑っていた。
「あーあ。こんな事で悩んで、なんだかアホらしくなってきたわね」
「そう?」
「うん。だって私にもまだチャンスはあるって事よね。…ねえ香さん」
「はいな」
「握手しましょ。私と香さんは秘密を共有する仲って事で」
陸奥が手を差し出し、その手を取る香。
「私諦めないわ。篠原くんの事」
「頑張って!アタシも心から応援するからね、むっちゃん」
笑い合う2人。
その様子を、獠と提督は離れたところから見守っていた。
「なあ獠」
「あん?」
「あの2人、なんの話をしてるんだろうな」
「さあてね。自分の胸に手を当てて考えてみな」
その場を離れようとする男性陣。
しかし。
少し進んだ所で、陸奥と香の悲鳴が聞こえてきた。
2人はすぐに反応して踵を返すが、あっという間に黒服の男達に囲まれてしまった。
「おいおい、敵さんは全て排除したと思ったんだがなあ」
溜め息を付きながら、ネクタイを緩める提督。
「我々は今までの雑魚とは違う」
「貴様らが深く探らなければ、こんな事にならずに済んだものを」
獠は足を開く。
「どうやら俺達を舐めてるみたいだな。ユニオン・テオーペは」
「そうは問屋が卸さねえ。思い知らせてやろうぜ!」
踏み出そうとする2人の提督。
だが、そううまく事が運ぶはずがなかった。
「止まれ!」
声のした方へ顔を向けると、黒澤に拘束された香と陸奥が目に入った。
「獠、ごめん…!」
「篠原くん!」
銃を向けられているからか、女性陣は抵抗出来ずにいた。
「香!」
「陸奥!!」
近づこうとする提督達。だが、目の前の黒服が行く手を阻む。
「冴羽に篠原!残念ながらここでゲームセットだ。この女と艦娘は戴いていく」
「…加賀と赤城はどうした…?」
「大破状態で気絶している。片割れを人質にすれば、武装解除なぞ容易い事だ」
提督のこめかみに青筋が立った。
「よくもやりやがったな、てめえ…」
「流石に艦娘は頑丈だな。私の手では轟沈させられなかったよ。そして、君達の負けは確定したと言うわけだ」
「それはどうかな。この後で思わぬどんでん返しもあり得るぜ!」
「おう。こちとら負けたなんて毛筋とも思っちゃあいねえよ。そンでもって黒澤、テメエはひとつミスを犯しやがった」
「なんだね」
「そらァな、俺ら最強コンビの怒りを買っちまったって事よ。首洗って待ってやがれダボが!」
提督の江戸言葉が、今の彼らの怒り具合を表していた。
「君達が体制を整え、こちらに追い付く頃にはこの2人は深海棲艦になっているだろう。己らの無力さを痛感するといい」
そう言うなり、香と陸奥を車へ押し込み発車していった。
黒の200系ハイエース。ナンバーは…
提督は、視覚から得た情報を素早く頭に叩き込みながら、ポケットからたばこを取り出そうとするが、銃を向けられてしまった。
「最後の一服くらいさせろってんだ、べらぼうめ!」
提督は取り出したソフトパックから1本つまむと、そのまま咥えて火をつけ、ニコチンが身体中を駆け巡る感覚を楽しんだ。
「くぅ〜、やっぱり国産の味だな」
そのまま獠へ回す。彼もひと吸いして、提督に返した。
「さて、消すかね」
そう言ってスライドして口を開けた携帯灰皿にたばこを押し込む。
するとどうした事か。派手な音を立てて、灰皿の先端から弾丸が発射された。
そのまま正面に立っていた1人に命中し、そいつは息絶える。
そして他の黒服が反応する前に2人は銃を抜き、片っ端から地獄に送った。
こと提督に関しては相当な怒りを込めてだろうか、滅多に使わないフルオート射撃をお見舞いしてやった。
「けっ、口ほどにもねえ。どこも違わねえじゃねえか」
「なあ篠原。あの灰皿にそのモーゼル、もしかして…」
「ん?もちろん明石謹製だわさ」
「やっぱり…」
「いくら9mmでもフルオートじゃ反動が凄まじすぎて、手が痺れちまうんだよなあ…」
痺れた手を払うような仕草をしながら、提督は駆けつけてきた鈴谷達へ顛末を説明しに行くのだった。
・次回予告・
香と陸奥が攫われてしまった!俺と篠原は救出に向かおうとするが、特別艦隊からの申し出により連合艦隊を組むことに。もっこりアイオワちゃんも俺の指揮下に入るってんだから、こりゃあ気合いが入っちゃうよね〜、ぐふふ!
次回、【陸奥を追え!味方になった特別艦隊】お楽しみに!
久々に次回予告をしました。
そしてこちらも予告ですが、この話が終わったら日常パートと、スピンオフ扱いである"ガンスミスに花束を"もぼちぼち書いていけたらなと思っています。
気になる方はぜひ私のプロフから飛んでいただいて、ご覧いただければと思います!
感想・評価・ここすき等、ぜひお待ちしております!
それでは次回お会いしましょう!