あれは春だったろうか。
秋だったろうか。
過ごしやすい季節だったのは覚えている。
広瀬優助は高校の帰り最寄りの駅の駐輪場へ向かう階段の下で小さな怪しげなテントのような物を見つけた。
それはまるで、怪しげな占い師でも住んでいるかのような物だった。
周りの人は誰も気づいていないのか。
気づきたがらないのか、誰もそれには近寄ろうとしなかった。
優助は何故かそれに魅かれた。
気づいた時には入り口らしきところに自分の手がかかっていた。
中に入ると、そこにはちゃぶ台より少し大きめのテーブルと対面するようにならべられた二つの椅子、そして奥にはまるで魔法使いのコスプレでもしているかのような長いとんがり帽子と、黒い服を着た長髪の男がいた。
男はティーカップで紅茶のようなものを飲みながら本を読んでいた。
「ふぁあ…お客さんか。まぁ座ったら。」
あくびをしながら男はそう言うと優助の側にあった椅子に手招きをし、本を閉じた。
優助は不審に思いながらもそこへ座った。
「あの俺別に客ってわけじゃ」
「はいはい。君がここに用なかったとしても、俺は用があるの。」
男は優助の言うことを遮ったが、優助にとっては意味がわからなかった。
「まぁ何にせよ一応自己紹介かな。俺の名前はルナ・クローズ。現世の魔術師なんて呼ばれてる。」
そう言うとルナは手を振りかざすと何もないところから、紅茶の入ったティーカップをもう一つ手から出した。
これがルナと優助の初めての出会いだった。
少し驚いた。
素人目だが、何か仕掛けがあったかには見えなかった。
でもこのレベルならよく見るレベルだ。
実際に見たのは初めてだったが。
「さぁどうぞ。」
そう言うとティーカップをルナは差し出して来た。
特に変わった様子はない紅茶だった。
さすがに見ず知らない人にもらったものであるから怪しまずにはいなかったが、優助は少し口につけるだけと言うような感覚で、紅茶を口に運んだ。
砂糖が甘すぎず、良い香りがしていた。
そのおかげか張り詰めていた心が癒された気がした。
「少しは落ち着いたかな?」
ルナは少し笑みをこぼしていた。
「はい。でも俺に用ってどういうことですか?」
「それはね、君は今復讐したいような人がいないかな?」
唐突だった。
復讐?たしかにこんな世の中恨みを持っている人はいるが、復讐をしたい前提で言われると、さすがに言いづらい。
それにそんなことしても大して自分に利はない。
「恨んでる人はいるけど、復讐なんてする気はない。それに復讐なんてしたって」
「なるほどなるほど。じゃあその恨んでる人って?」
「それは…」
いきなり言われても言いづらいそれが本音だった。
しかし何故かは言えなかったが、この人には言っていいのではないかとふと優助は思った。
「僕は誰にもいわないよ。そして君が思う限り何人でも言っていい。」
相変わらずの笑顔でルナは語りかけてくる。
そこで迷った末に優助は腹を決めた。
「江島勇希、大野隆彦。」
「後は?」
「黒田祐一。」