無職転生ールーデウス来たら本気だすー   作:つーふー

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前回のあらすじ。

アリエル「アスラ王国に向かいます」
ペルギウス「お寿司美味しい」
リベラル「静香へ。帰ってくるまでに転移装置作っといて」

お待たせしました。今回は特に言うことはありません。
暑いので熱中症にはお気を付け下さい。


4話 『待ち伏せ』

 

 

 

 アスラ王国へ向けて出発する際、多くの人々が見送りに来た。

 魔法大学の教頭に、生徒会の役員。

 魔術ギルドの本部長。

 魔導具工房の長。

 その他、何かの組織の長や魔法三大国の王族・貴族の代理人が、続々とアリエルを見送りにきたのだ。

 リベラルは協力関係でありながら、ほとんどアリエルたちと関わっていなかった。

 基本的にヒトガミ関係のことや、実験と鍛錬の日々である。

 そのため、アリエルの人望を見ると本当に王女になるべく努力していたのだと実感が湧くのだった。

 

 そのまま馬車で移動しつつ、転移陣を利用して空中城塞へと赴く。

 シルヴァリル案内のもと謁見の間に向かい、ペルギウスと顔合わせを行う。

 

「来たか」

 

 ペルギウスは12の精霊たちに囲まれながら、椅子にふんぞり返っている。

 アリエルが前へ歩を進めると、堅苦しい挨拶が行われた。

 

「ペルギウス様、何から何までありがとうございます」

「構わん、協力すると我が決めたのだ。遠慮なく頼ると良い」

 

 そんな感じのやり取りを行った後、彼はリベラルへと視線を向ける。

 

「貴様とまた肩を並べられることを嬉しく思うぞ」

「いや、ペルギウス様は空中城塞で待機してるだけじゃないですか。そして良いとこ取りするだけですし」

「ラプラス戦役で名を隠した貴様が悪いのだろう」

 

 リベラルだけでなく、オルステッドもいるため道中の心配はないらしい。

 ククク、とペルギウスは笑みを浮かべて楽しそうだ。

 

「もう空中城塞でそのままアスラ王国に向かいません?」

「リベラルよ、貴様はどうにも演出というものを知らぬようだな」

「それくらい知ってます」

「ならば我のために舞台を作るがいい。主役は遅れてくるものなのだろう?」

 

 ラプラス戦役で散々コキ使われていた彼は、とても嬉しそうであった。

 今回コキ使われるのはお前の番だと言いたげな様子である。

 そして当然ながら、リベラルはそれを拒むことなど出来ないのだった。

 

「仕方ないですね。露払いは私がしてあげますよ」

「フッ……頼んだぞ」

 

 そうして、アリエルたちは案内された魔法陣に乗ってアスラ王国の国境へと転移するのだった。

 

 因みにだが、オルステッドとギースはこの場におらず、先に出発している。

 ギースが魔族であり、空中城塞を経由出来ないためだ。

 オルステッドと共に別の転移陣を使用し、先に安全確保をしてくれているのだった。

 そのため転移陣にて国境付近へと転移すれば、ギースが出迎えた。

 

「おう、ギース。どうだった?」

「流石にこの辺りには誰もいなかったぜ」

「そうか」

 

 現在地としては『赤竜の上顎』と呼ばれる渓谷の、やや北西だ。

 赤竜の上顎とは赤竜山脈によって隔てられた、アスラ王国と北方大地を繋ぐ谷だ。

 大きな馬車がすれ違える広さを持つ、一本道の谷であり、アスラ王国を目指すにはそこを通り抜けなければならない。

 それまではダリウス大臣からの敵襲もないだろう。

 

 ギース先導の元、馬車を進めて行く。

 といっても、彼の言うように誰もいない道を歩くだけだ。

 時おり魔物などに遭遇するが、パウロや親衛隊によって蹴散らされるのだった。

 

 しばらく進んだ先の街道で日が沈み始めたため、そこで一夜を過ごすことになる。

 リベラルとギース、そしてゼニスが食事を用意し、皆に振る舞うのだった。

 

「リベラルの、料理は凄い、わね」

「まあ、伊達に長生きしていないってことです。色々な料理を見てきたことも大きいですね」

 

 彼女の持つ料理の技術は、龍神流を応用することで最上級のものとなっている。

 前世で見てきたレシピや、今言ったように様々な国や種族の料理を知っていることも大きいだろう。

 更にルーデウスにも教えている『明鏡止水』により、観察力の高いリベラルは他者の好みまで見抜いているのだ。

 それによって本人が一番美味しく感じる料理を提供することが出来るのだった。

 完全に技術の無駄遣いである。

 

「久しぶりの旅はどうですか?」

「流石に、昔のようにはいかない、けど、やっぱり楽しいわ」

「楽しい、ですか。危険な道程になることが解っているのに?」

 

 パウロが止めたように、リベラルも彼女が付いてくることに関して良い顔は見せなかった。

 とは言え、元Sランク冒険者だ。

 ブランクがあるもののその実績は確かなので、リベラルは同行することを止めはしなかった。

 

「それは、勿論、分かってるわ。でも、ルディと、パウロと一緒に行けることが、嬉しいの」

「…………」

 

 ゼニスは転移事件後、ずっと介護されながら過ごしてきた。

 何をやるにしても1人では出来ず、付き添われてしまう状態だ。

 会話も出来ずに過ごし、けれど意識は朦朧としつつもずっとあった。

 自分のせいで家族がひとつになり切れないことが嫌だったのだ。

 だが、ようやくひとつになることが出来た。

 そしてそれから最初の遠征だ。

 応援だけでなく、傍で支えたいと思うのは当然のことだろう。

 その気持ちを分かっていたからこそ、リベラルも止めはしなかったのだ。

 

「それに、ルディも、パウロも、危なっかしいもの。私が見てあげなきゃ、いけないでしょ」

「……ふふ、それもそうですね」

 

 ゼニスの言葉を否定することなく、リベラルは笑みを浮かべて頷いた。

 

 彼女は失ってしまった時間を取り戻そうとしているのだ。

 家族との関係性を大切にするリベラルは、その行動の大切さを知っている。

 

「それと、私にも、料理を教えて欲しいわ」

「うーん……技量の問題もあるので限界はありますが、それでも良ければ構いませんよ」

「やった、ありがとう!」

 

 本題も終わり、ほんわかと会話をするリベラルとゼニス。

 元々ゼニスは料理下手であり、ギースに教わることでご飯を作れるようになったのだ。

 パウロのためにも今よりも上手になりたい彼女は、嬉しそうにするのだった。

 

「……俺にも教えてくれねえか?」

 

 対抗心という訳ではないが、ギースも教えてほしそうにする。

 旅をする上で食事の質というのは重要なものなのだ。不味い飯より上手い飯の方がいいのは当然だろう。

 彼は純粋に料理の腕を上げたくなり、そう口にするのだった。

 

「よろしければ私達にも教えて下さると助かります」

 

 そのやり取りを見ていたアリエルの従者であるエルモアとクリーネも、リベラルの料理の技術を知りたがる。

 パウロやルーデウスがその光景を微笑ましそうに眺める始末だ。

 

「仕方ないですね。手取り足取り教えますよ」

 

 リベラルとしても断る理由もないため、快く了承するのだった。

 そんな感じで、赤竜の上顎に到着するまでは緊張感のない道程を歩んでいった。

 

 赤竜の上顎は、ただ一本道が続く渓谷だ。

 まっすぐ伸びているわけではないが、道なりに進むことで迷うことなく歩くことが出来る。

 時おりアスラ王国からの商人たちとすれ違うことがあるものの、特に何かある訳でもない。

 会釈だけをして先に進んで行くのだった。

 

 ゼニスが病み上がりということもあり、何度か休憩を挟むことで赤竜の上顎を抜ける。

 抜けた先は森が広がっていた。

 大きく広がる森と、遠くにある城壁が見て取れるのだ。

 しかし木々の高さもあり、途中にある曲がりくねった道は見えない。

 ここは襲撃を行うにはもってこいのポイントなのだ。

 アリエルたちがラノア王国へと逃亡する際も、ここでの襲撃が一番激しかったらしい。

 そのためか、彼女やその従者であるルークたちの表情が固くなっている。

 ルークたちは馬から降りると、道端にある飾り気も何も無い石の所まで歩いた。

 アリエルの従者たちが散っていった地にて祈りを捧げ、再び乗馬するのだった。

 

「みなさん、行きましょう」

 

 アリエルの一言に、従者たちは力強く頷いた。

 

 

――――

 

 

 ギースは馬車から抜けて先行し、オルステッドと共に安全確認を行う。

 そのため、襲撃や待ち伏せを察知した際の合図や目印は決めていた。

 一個分隊(約5人)ならば∑のマークを。

 一個小隊(約20人)ならば$のマークを。

 それ以上では×のマークを木に印すことになっている。

 今回は×のマークが印されていた。

 そのことに気付いたアリエルたちは、緊張した表情で臨戦態勢に移るのだった。

 

 しばらく進むと、倒木によって道が塞がれていた。

 一本道なので馬車では迂回することが出来ないだろう。

 先頭にいたルークは声を張り上げ後方に呼び掛けるのだった。

 

「ルーデウス!」

「了解!」

 

 ルーデウスが腕を一振りすると、土が勢い良く盛り上がり倒木を弾き飛ばす。

 それによって呆気なく道は開くのだったが、同時に数十もの矢が馬車に向かって射出されるのだった。

 しかし、彼らに到達する前に、矢は全て光の壁によって阻まれる。

 

「『物理障壁(フィジカルシールド)』! みんなには、手を出させないわ!」

 

 結界魔術によって障壁を作り出したのはゼニスだった。

 伯爵家であるラトレイアの名を持っていた彼女は、ミリス神聖国が独占している結界魔術をある程度扱うことが出来るのだ。

 弓矢での襲撃を察知したリベラルの合図によって、彼女は障壁によって先手を見事に防いでみせた。

 

 それと同時に駆け出すのは、パウロだ。

 彼は二本の剣を両手に、襲撃者へと飛び掛かっていく。

 それに続くように、ルークやデリックも駆け出すのだった。

 

「ルディ、やっちまえ!」

「『電撃(エレクトリック)』!」

 

 後方から紫電が走る。

 ルーデウスの手から放たれた電撃は、襲撃者である兵士たちに感電していき、一気に何人もの数が倒れるのだった。

 そしてパウロたちは対策としてゴムの装備を身に着けていたため、何の影響も受けずに兵士たちを斬り裂いていく。

 魔術を扱う上でもっとも避けなければならないのは誤射である。

 対策は当然ながらしているのだった。

 

 眼の前の兵士たちを薙ぎ倒し、空白地帯が生まれる。

 だが、森の中から兵士が次々と現れるのだった。

 

「『泥沼』」

 

 ルーデウスの本来の歴史での代名詞である泥沼。

 それはここでもその威力を発揮することになる。

 現れた兵士たちは泥沼に嵌り、足を取られて転んでしまうのだった。

 その後ろを走っていた兵士たちもそれに反応出来ず、連鎖的に転がっていく。

 先頭にいた兵士たちは恐らく押し潰されてしまっただろう。

 そのことに嫌そうな表情を見せるルーデウスを傍目に、リベラルがトドメを刺していく。

 

「『絶対零度(アブソリュート・ゼロ)』」

 

 転げて団子状態となっていた兵士たちは、とてつもない冷気と共に氷像と化す。

 魔術を扱える兵士もいたが、混乱の中でレジストも出来る訳がなかった。

 泥沼に足を取られた兵士たちは全員凍り付くのだった。

 

「ひっ」

 

 あまりにも一方的な殺戮に、流石の兵士たちも怖気つく。

 ものの数秒で30人を超える兵士が殺されたのだ。

 無理もないだろう。

 だが、そのタイミングで兵士たちの群れが割れる。

 割れた間から出てきたのは小人族の男だ。

 小さな体を全身鎧に包み、日の光を反射させていた。

 

「我が名は北王ウィ・ター!

 北神三剣士が一人!

 『光と闇』のウィ・ターである!」

 

 名乗りを上げる彼に対する返答は、ルーデウスの魔術だった。

 先ほど使われた泥沼の泥を弾き飛ばすかのように、突風をウィ・ターに向けて放ったのだ。

 広範囲にばら撒かれた泥を回避出来る訳もなく、彼はそのキラキラに光る鎧を泥まみれにするのだった。

 

「き、貴様……!」

「急に口上を名乗ったから……」

 

 勿論、ルーデウスが魔術を放ったのはわざとである。

 リベラルやオルステッドから敵の情報を共有しているため、ウィ・ターの戦い方を全員が知っているのだ。

 彼は二つ名の通り、光と闇を利用した戦い方をする。

 具体的には、日光を利用した目潰しと、暗闇での目の錯覚の利用。

 そのため、ルーデウスは反射的に敵の武器を潰したのであった。

 泥まみれの鎧では、日光を利用することも出来ないだろう。

 

「くっ……致し方ない。『銀緑』リベラルとお見受けする!

 いざ尋常に一騎打ちの勝負を挑む者なり!!」」

 

 この不利な条件でどうするか逡巡したようだったが、覚悟を決めたのかリベラルを指名するウィ・ター。

 だが、彼女はそれに首を横に振った。

 怪訝な表情を見せるウィ・ターの前に、パウロが一歩前に出た。

 

「残念だがリベラルはお前にゃ勿体ねえ。オレが相手になってやるよ。パウロ・グレイラットだ」

「パウロ……なるほど、そういうことか。よかろう! 相手に取って不足なし!」

 

 パウロは暗殺者騒動にて、オーベールと戦ったことがある。

 そのためウィ・ターも彼のことを知っていたのだろう。

 不満そうな様子を見せることなく、パウロへと剣を向けるのだった。

 

 互いに一騎打ちを了承することで、戦場の流れは止まる。

 襲撃者である兵士たちは2人の行動を見守り、ルークやルーデウスも同様に見守るのだった。

 そのことに対し、様子を窺っていたデリックが不安そうに口を開く。

 

「……リベラル殿、大丈夫ですかな?」

「何がですか?」

「相手は北王です。いくらパウロ殿とはいえ、援護しないのは不味いのでは……」

 

 彼の不安はもっともだろう。

 パウロは三大流派を聖級クラスまで納めているものの、王級には至ってないのだ。

 雰囲気に飲まれてしまってるが、ルークたちも同じような不安を抱いていることだろう。

 しかし、リベラルはその言葉に悪戯っぽい笑みを浮かべた。

 

「大丈夫ですよ。そもそもウィ様は王級の中でも純粋な剣術の技量はそこまで高くない方ですから」

「む……そうなのか?」

「その強さは特有の戦闘法によるものですが……ルディによって封じられましたし」

 

 先ほど説明したように、光を利用した戦い方はもう出来ない。

 ルーデウスの泥飛沫によって鎧を汚されてしまったからだ。

 今のウィ・ターは純粋な剣術でしか戦うことが出来ない状態だった。

 

「それに――」

 

 リベラルが思い返すのは、日々の鍛錬の様子だ。

 彼女は驚いた。

 オーベールと戦った日から、パウロの実力は段違いに上がっていたのだ。

 ブエナ村で出会った頃は、冗談で神級を目指しましょうなどと口にしたこともある。

 けれど、それは冗談ではなく実現可能な目標であることを予感させるのであった。

 

 

「――今のパウロ様は帝級に匹敵する実力ですよ」

 

 

 リベラルの言葉と同時に、2人の剣士は駆け出す。

 ウィ・ターは鈍重そうな見た目からは想像出来ないほど素早く移動した。

 小人族らしく懐に潜り込み、刺突を繰り出す。

 パウロは反応していたが、防ぐよりも真っ直ぐに進む切っ先の方が早いことは明らかだった。

 苦し紛れのように、パウロはブーツを前に出した。

 刺突がブーツに触れた瞬間、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ――剣を使用することなく、足だけで(ナガレ)を扱ったのだ。

 

 今までのパウロとは違う練度の高さ。

 その技量は間違いなく王級に至っていた。

 

「なっ」

 

 姿勢を崩すウィ・ター。

 既に振り下ろす体勢だったパウロの剣を躱すことなど出来ない。

 そのまま両腕が斬り落とされるのだった。

 

「ぐ、ぅぅ……!」

 

 そこにすかさずリベラルが足元を凍り付かせ、動きを封じる。

 何か口を開こうとしたが、パウロがその前に布を口内に突っ込む。

 勢いに負けたウィ・ターはそのまま倒れ伏し、行動不能に陥るのだった。

 

「オレの勝ちだな」

「――――」

 

 猿轡により喋ることの出来ないウィ・ターだが、それでも驚愕の表情を浮かべていることは見て取れた。

 勝鬨を上げるパウロを中心に、ルークたちは驚きつつも歓声を上げる。

 同じく観戦していたゼニスも「よしっ」っと言わんばかりにガッツポーズを見せていた。

 逆に襲撃者たちは意気消沈し、動揺が辺りを支配する。

 惨敗だったことは、誰の目にも明らかだっただろう。

 

「さて、後はかくれんぼの時間ですかね」

 

 北王という大将首のひとつが取られた以上、兵士たちは逃げ出すかと思われたがその場に残り続けていた。

 そのため、この場に北王と同等かそれ以上の存在がいることは明白だろう。

 そうなると本来の歴史と同様に、オーベールが隠れて機を窺っていることが分かる。

 もちろんリベラルは既にオーベールの姿を捕捉していた。

 

 ルーデウスの丁度真下である。

 地面に穴を掘り、そこにオーベールは隠れていた。

 

「ルディ!」

「分かってます!」

 

 明鏡止水となっているルーデウスは、自身の真下に掘られた跡があることに気付いていた。

 土魔術を発動し、地中を動かすことでオーベールをそのまま押し潰そうとする。

 

「ぬ、おぉぉぉぉ!?」

 

 が、そこは剣士としての勘なのか、オーベールは慌てて地中から飛び出すのだった。

 ルーデウスの目の前に現れたのだが、その隣にはリベラルもいる。

 逡巡することもなく、流れるように懐から玉を取り出した彼は、それを地面に叩き付けようと振り被り、

 

「駄目じゃないですかゴミを捨てたら」

「!!」

 

 リベラルは足を伸ばし、ピタリと玉を受け止めていた。

 奥義、止水。

 衝撃をゼロにする龍神流の技だ。

 それによって割れることなく静止する。

 

 ――『毒霧』。

 

「うわっ!?」

 

 オーベールは口に含んでいたものを霧状にし、2人へと吹き掛けていた。

 微弱な毒物であり、掛かったところで大した効果のないものだ。

 しかし目に当たれば激痛により視界が閉ざされてしまうような代物。

 

 リベラルとルーデウスは、それをモロに受けてしまう。

 

 2人して絶叫を上げて目を閉じてしまった。

 オーベールとしてもここまで綺麗に当たると思っていなかったのか、僅かに驚いた表情だった。

 元々は撤退しようと考えていたが、あまりにも致命的な隙を晒している2人の姿に考えを改める。

 とはいえ、少し離れた位置にいるパウロがこちらに駆け付けているのだ。

 リベラルを潰しておきたいところだが、防がれる可能性はあるだろう。

 欲張らずに確実に始末出来るであろう、ルーデウスを狙って剣を振り上げるのだった。

 

「闇討ち御免――ッ!?」

 

 完全に意識が外れた瞬間だった。

 気付けば、オーベールは両腕を斬り裂かれていた。

 まるで先ほどのウィ・ターと同じ光景だ。

 斬ったのは当然ながらリベラルである。

 

 ――『誘剣』。

 

 それは七大列強五位の『死神』ランドルフが得意とする剣技。

 相手に攻めるべきだと思わせてカウンターを取る技である。

 騙されたことに気付いたオーベールは、踵を返して逃げようとするがリベラルの間合いから抜けられていない。

 すぐさま追撃しようとするリベラルと、駆け付けているパウロ。逃げ出すのは困難だろう。

 

「――!!」

 

 しかし、手を伸ばそうとしたリベラルは、危険を察知して飛び下がった。

 彼女の眼前に剣閃が走る。

 明らかに北神流にはない一閃だ。

 全員の視線が放たれた方向へと向く。

 

 

「――銀緑、ようやくお前と戦えるぜ」

 

 

 森の中から現れたのは――剣神ガル・ファリオンだった。

 

 彼は散歩するかのように悠然と現れる。

 その隙に、オーベールは走り去っていく。

 当然ながらそれを止められる者はいない。

 

「感謝する、ガル殿」

「気にすんな。俺様が自分のためにやったことだぜ」

「……撤収! 撤収!」

 

 その言葉に、兵士たちは一斉に森の中へと逃げ出す。

 追撃したい気持ちがルーデウスやパウロにあったが、剣神を相手に背中を見せたくはなかった。

 リベラルは特に焦った様子もなく、のんびりとその後ろ姿を見送るだけだ。

 逃してしまったことに、何も思うところがないかのように見えた。

 

「まさかこんなところにやってくるとは思いませんでしたよ、ガル様」

「ハッ、本来は別の形でお前とやり合う予定だったんだけどな。あのサル野郎が裏切ったみてえだからそれも叶わなかったんだよ」

「それで、ダリウス大臣辺りから情報でも貰ったという訳ですか」

「その通りだ」

 

 本来ならばギースの情報の元、リベラルたちを一網打尽にする予定だった。

 だが、魔石病は解決されてしまい、更にはギースまでいなくなったのだ。

 途方に暮れていたところで、ダリウスから情報を入手したのだろう。

 なんともまあ執念深いな、などとリベラルは他人事のように思う。

 

「貴方一人なのですか?」

 

 ギースがいなくなれば、彼らはまとまりがなくなりバラバラになると考えていた。

 しかし、まさかこうして一人でのこのこと現れるとは思わなかったのだ。

 

「元々は北神とも一緒にいたがよ、どっか行っちまったよ」

「本当ですか?」

「さあな、そんなことはどうでもいいだろ」

 

 ガル・ファリオンは構えた。

 足を広げ、腰を落とし、剣柄に手を添えて、剣を隠すように、構えた。

 居合の構えだ。

 相手の理合を見切り、嗅覚で最善のタイミングを取れる者に向いた、防御型の構えである。

 

「銀緑、剣の聖地の続きだ――俺様の剣を見せてやるぜ」

 

 剣神は獰猛な笑みを浮かべた。

 

 

――――

 

 

 両腕を斬られたオーベールだが、彼はバランスを崩すことなく森の中を駆けていた。

 

 北神流をほぼ極めているオーベールは、両腕がなくても険しい道であろうと走り抜けることが出来る。

 剣神が殿となったことで無事に撤収出来たのは僥倖だが、その剣神が持っていかれた可能性が高いことが悔やまれるだろう。

 そもそも剣神はもっと別のタイミングで動いてもらう予定だったので、今後のプランを練り直す必要があった。

 とはいえ、助けてもらったのは事実なので恨んだりボヤいたりすることはなかった。

 

「そろそろか……」

 

 撤収した際、兵士たちはバラバラに逃亡している。

 追跡されるのを防ぐためだ。

 相手の数が少ないことは分かっていたため、追い掛けられることは想定していなかった。

 罠があるかも知れないのに、無理に追わないのが道理だろう。

 実際に追跡はない様子だった。

 

 両腕は既に止血しているものの、相応の出血をしているためすぐに治療が必要である。

 合流地点には治癒魔術のスクロールもあるため、それを使って腕を治す予定だった。

 そうして合流地点の一軒家に辿り着いたオーベールだが、違和感を覚える。

 

「……? 某が一番乗りか?」

 

 そこには誰かがいる気配がなかったのだ。

 オーベールならば腕がなかろうと早いので一番乗りでもおかしくないのだが、元から在中している者もいなかったのである。

 治療が必要なため、寄らないという選択肢はない。

 警戒しながら一軒家の様子を窺ったオーベールは、中に一人の人物がいることを確認する。

 サル顔の男だ。

 その男はいつからこちらに気付いたのか不明だが、オーベールと目線が合っていた。

 男はまるで誘うかのように首を振り、中へ入るように促す。

 

 他に伏兵がいないことを確認したオーベールは、意を決して中へと入るのだった。

 

「よお、待ってたぜ」

「これは……一体っ?!」

 

 サル顔の男――ギースのいる部屋に入ったオーベールは、その惨状に息を呑む。

 部屋の中は撤収していた兵士たちの死体の山が築き上げられていたのだ。

 どれも胸元に大きな穴を開けており、一撃で屠られたことが分かる。

 衝撃に表情を浮かべながらギースへと視線を向けるが、彼は否定するかのように首を横に振った。

 

「俺がしたのは、合流地点を探し当てただけだぜ」

 

 ギースは元々斥候として、オーベールたちの待ち伏せを察知していた。

 戦闘するのはリベラルたちであり、それはギースの仕事ではない。

 故に、彼は()()()()()()で貢献することにしたのだ。

 

 

「――待ち伏せまで固まって動いてたのは失敗だな。お陰様で簡単にここが分かったぜ」

 

 

 撤退の際はバラけようと、待ち伏せ地点まで固まって行ったのならば痕跡は多く残る。

 足跡や木々の枝折れを辿り、ギースは兵士たちの合流地点を割り出したのだ。

 それによって撤退した兵士たちは全員この場に集まってきた。

 そして集まった兵士を始末したのは当然ながらギースではない。

 

 彼と共に行動していた男だ。

 

「こ、これは……!」

 

 何かがオーベールの体の芯を通り抜け、どばっと汗が吹き出る。

 びくりと身を震わせ、動きを止めた。

 それは恐怖だ。

 蛇に睨まれた蛙のように、オーベールの身体が支配される。

 

 そして、扉を開いて入ってきたのは世界最強の男――オルステッドだ。

 彼は鋭い眼光でオーベールを射抜き、彼の元へと歩を進める。

 

「安心しろ、ルーデウスから話は聞いている――殺しはしない」

 

 圧倒的強者からの、慈悲の言葉。

 安心出来る訳がない。

 オーベールは身体を震わせながらも、何とか身構える。

 それは剣士としてのプライドか。

 何とか戦意を失うことなく、彼は膝をおらず真っ向から受け立つ。

 

「……某は北帝オーベール・コルベット。龍神オルステッド殿とお見受けする」

「…………」

「いざ、尋常に――!」

 

 両腕もなければ、既に死に体である。

 それでもなお、彼は立ち向かった。

 

 結果は言うまでもないだろう。

 彼は北帝として、最後まで立派に戦った。




最近高評増えてうれちぃ。
いつもありがとうございます。

Q.ゼニスの結界魔術。
A.独自設定。多分原作でも使えないと思う。けれどこの作品では使えます。リベラルが原作前から行動していることで生じた差異ということで。

Q.パウロ。
A.めっちゃ強くなってるけど、相性の問題もある。光の太刀を扱う敵との戦闘経験が少ないため、剣聖以上と戦えば間合い管理をしくじり、光の太刀で即死させられる。

Q.リベラル。
A.保護者としての観光気分。ランドルフの技は王竜王国で彼と会った際についでに盗んだ。戦闘狂ではないが最近戦うことがストレス発散となっている。

Q.剣神ガル。
A.ギースという手綱がいなくなったため好き勝手に動いた結果、速攻でリベラルと戦いに来た。一応、彼なりの勝算はある。

Q.ギース。
A.剣神の保護者。こうなることが分かっていたため今まで必死に剣神の行動を抑えていたが、もうどうにでもなーれ!
因みにオルステッドの呪いに当てられ過ぎて、アリエルのように呪いを克服する術を掴みかけている。

Q.オーベール。
A.彼は立派に戦った。暗殺者騒動の際にルーデウスが仲間に引き入れようとしていたので、今回は生存することになった。ついでと言わんばかりに北王も捕獲されている。
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