パウロ「北王ウィ・ターを仕留めたぜ」
オルステッド「ギースから敵の合流地点を聞いて北帝オーベールを仕留めた」
ガル「オーベールたちの撤退の殿を務めた」
お待たせしました。最近暑すぎるのに湿気が高すぎて辛いです。蚊もうざいです。無限湧きします。一匹残らず駆逐したい。
北帝オーベールの逃亡と共に現れた剣神。
彼は獰猛な笑みを浮かべてみんなの前に立ちはだかった。
ガルは言った。
この場にいるのは己だけだと。
その言葉には疑問が渦巻くだろう。
少なくとも、パウロとルーデウスはそう思った。
彼一人でここにいる全員に勝つつもりなのか、と。
リベラルがいる以上、それは無理である。
パウロやルーデウスは、彼女の強さをよく知っているのだ。
間違いなく、頂点を目指せる実力であると。
そしてそれは、ガル自身分かっていた。
自分一人で戦うことが如何に無謀なのかを。
けれど、止められる訳がなかった。
銀緑と戦うまで、どれほど待ち続けていたことか。
剣の聖地で敗北してから、己の剣を見直した。
再び最強を目指し、欲望のまま剣を振り続けた。
ギースの言う機会を待っていたのだが、結局彼は寝返りその機会は失われることになった。
もう二度と最強に挑むことは出来ないと思ってしまった。
だが、ダリウスから誘いを受け、最強に挑むチャンスがやって来たことを悟る。
今ここでそのチャンスを逃せば、自分は二度と最強を目指すことが出来ないと思った。
このまま朽ち果てることになるのであれば――挑むしかないだろう。
男ならば、必ず最強を目指すものなのだ。
「これも、ヒトガミの指示ですか?」
「ヒトガミ? いいや、これは俺様の意思だ」
元々、ガルはヒトガミと出会ったことはなかった。
ルーデウスにビタを憑依させたのも、ビタ本人やギースから頼まれたことである。
言う事を聞けば、必ずリベラルと戦うチャンスがあると言われ、その言葉に従った。
結果はご覧の通りだが。
ダリウスと出会う前に、ヒトガミとは夢の中で出会った。
かの神は、必ずリベラルとの戦う機会を設けるから頼みを聞いて欲しいと言った。
もちろん断った。
ギースの件で、自分の間違いに気付いたのだ。
他者から与えられた機会なんて必要ないことに。
チャンスとは自分の手で作るものなのだ。
だからこそ、剣神ガルは自分の意思でこの場にやって来た。
最強を目指すために、彼はここにいるのだ。
「……仕方ないですね」
リベラルは一歩前に出る。
正直、彼女としてはあまり嬉しいことではなかった。
龍聖闘気を纏えないリベラルにとって、剣神は相性の悪い相手とも言えるのだ。
彼の放つ光の太刀は、残念ながら素手で受け流せるものではない。
こちらの防御を容易に突き破り、即死攻撃を放ってくる相手と戦いたいなどと思う訳がないだろう。
とは言え、この場で剣神を相手を出来るのはリベラルだけである。
だからこそ、彼女は戦うしかないのだ。
そう思っていたのだが、リベラルの後方からガルに向けて、魔術がひとつ放たれる。
「!!」
当然ながら彼は魔術を斬り裂き、放ったであろう下手人に視線を向けた。
「……ルディ?」
魔術を放ったのはルーデウスだった。
争いが苦手な彼らしくない行動だ。
一体どうしたのだとリベラルとパウロは視線を向ける。
「剣神とは、俺にやらせて欲しいです」
「本気……ですか?」
「冗談でそんなこと言いませんよ」
本来であれば、ルーデウスは戦うことがなかった。
魔術師が剣神に挑むなど、自殺行為に等しいだろう。
怖いし、なんなら今すぐ逃げ出したいとすら思っている。
だが、それでは駄目なのだ。
ここで逃げてしまうと、二度と強敵と命を掛けて戦えなくなってしまう。
リベラルから未来で起きた話は聞いている。
ビタに憑依されていた己が、家族や親友に手を掛けてしまうことを。
その結果、ラノア王国が崩壊することを知った。
かつて剣神に敗北したことで、大きな分岐点<ターニングポイント>を迎えたのだ。
未遂だったのならば、こんな真似はしなかった。
けれど敗北が原因で、シルフィエットとロキシーは実際に魔石病になってしまったのである。
子どもの命も、亡くなる寸前だった。
自分の弱さが原因で、実害が出てしまったのである。
ここで剣神を相手にしないと、ルーデウスは心にしこりを残したまま生きていくことになるのだ。
ここで戦わないと、きっと後悔する。
そんな予感があった。
「ハッ……俺様に挑むなんて百年早いぜ」
「それならハンデくれませんか?」
「やるわけねぇだろ」
ルーデウスの提案は当然ながら断られる。
元から期待などしていなかったため、特に気にせず彼は構えた。
距離は約10メートル程度だろうか。
剣士と戦うには致命的な距離だ。
ガルはそれでも油断なく構えたままである。
近くにリベラルがいるので、それも仕方ないだろう。
正直、ルーデウスのことなど眼中になかった。
彼とは過去に戦ったことがあるし、既に格付けのついた相手なのだ。
リベラルと真正面から戦っても絶対に勝てるとは思っていないため、彼女の仲間を狙うことで隙を突こうとしていた。
そういう意味では、ルーデウスはありがたい存在だっただろう。
師弟関係があるため、リベラルは必ずルーデウスを守ろうとする。
その隙を逃すつもりはなかった。
「いくぜ」
ジリジリと、距離を詰める剣神。
それに対し、ルーデウスは剣を構えていた。
魔術師なのに、剣士の真似事をしているその姿に、ガルは一瞬目を丸くする。
「小細工したところで意味はないぜ」
それは奇策ですらない無謀な姿だ。
疑問に思いつつも、剣神は迷いなく一歩踏み出し『光の太刀』を放とうとする。
――ここでガルの失敗を挙げるとするのならば、やはりルーデウスのことを侮っていたことだろう。
ルーデウスはこの世界で本気で生きている。
そして彼は、同じ失敗を繰り返さない。
2人は一度戦っているのだ。
再び剣神と相対する可能性を考慮し、その対策をルーデウスが取らない訳がないだろう。
あらゆるシミュレートを繰り返した。
どうすれば良かったのか、何が有効なのか。
様々な試行錯誤の先で、ルーデウスは剣士に対する答えを見つけていたのだ。
「――――あ?」
光の太刀は、必殺の一撃。
放たれれば、防ぐことも避けることも出来ない。
けれど剣神の放ったその一閃は、ルーデウスに当たらなかった。
否、
ルーデウスは何もしていない。
それどころか、剣筋を見切ることすら出来ていない。
呆気に取られていた剣神は、ルーデウスに足を斬られて膝を付いてしまう。
そこに傍へと詰め寄っていたリベラルに組み伏せられる。
そのまま剣を取り上げられ、彼は無力化されるのだった。
「……おい、なんだよ今の」
この結果に茫然自失となるガル。
近くで見ていたリベラルは、ルーデウスが何をしてのか正確に理解していた。
彼は
細かく操作した訳ではなく、反発するようにだけしていたのだろう。
それによってガルの放った剣は、あらぬ先に逸らされたのだった。
鉄の棒を振り回す剣士にとって、天敵とも言える魔術をルーデウスは作り上げていた。
――今のルーデウスに勝てる剣士は、存在しないだろう。
リベラルから魔術に対しての理論を聞いてからは、魔術王の称号に相応しい実力をメキメキとつけていった。
本来の歴史でも語られたように、魔術とは万能なものなのだ。
術理を理解していれば、あらゆる事象を引き起こすことが出来る。
現代知識のある彼は、この世界の人間よりも知識があるのだ。
もはやリベラルがいなくとも、魔術の開発を行うことが出来るようになった。
「残念でしたね、ガル様」
「――――」
敗北した相手が、まさかの魔術師。
その事実に、剣神は言葉を失っていた。
今まで培ってきた技術や経験、それら全てを否定されたかのような気分。
かつて頂点を目指し振るい続けてきたその剣は、登る途中でへし折れる。
一度ならず二度までも、その剣を振るい切ることが出来なかった。
「ハハ……ハァッハッハッハー! 予想しなかったぜ、この結果はよ!」
己の目指した剣は、なんと小さきことだろう。
人生を捧げてきたのにも関わらず、このザマだ。
最早笑うしかない。
魔術師に負けるなど、夢にも思わなかった。
「おい、お前。ルーデウスって言ったか?」
「はい」
「お前は何のためにその力を手に入れた?」
ガルは最強を目指して、今の今まで剣を振るい続けた。
燻っていた時期も確かにあった。
それでも己には才能があり、あらゆる剣術を扱うことが出来た。
そしてその中でも剣神流を特に磨いてきた。
剣神流を選んだのは、それが一番強いと思ったからだ。
実際に七大列強の中でも、剣神が三大流派の上に立っている。
だからこそ、魔術師として異様な力を持つルーデウスが、何のために力を求めたのか気になった。
「何のためもなにも、後悔しないためです」
「後悔だ?」
「……どんなに頑張っても、結果が伴わないことがあります。
やらなきゃ良かったなんて思う時もあるでしょう。
でも、無駄なことなんてないんです。
自分の歩んできた道のりは、きっとどこかで活きてくる。
その時になってようやく気付くんですよ。
あの時に頑張ってて良かったって。
俺のこの力は、俺の歩んできた全ての道のりです」
ガルとルーデウス。
どちらも人生を捧げた者である。
けれど2人の大きな違いは、力だけに全てを注いだか否かだろう。
ルーデウスはブエナ村で過ごしていた頃、気付いたのだ。
ロキシーの試験にて豪雷積層雲<キュムロニンバス>を扱った時、自身の知識を活用することで水聖級魔術を安定させることが出来た。
あらゆる知識や技術は、あらゆる場面に応用することが出来る。
故に、ルーデウスは剣や魔術以外の全てにも本気で取り組んだ。
今度こそ後悔しないように。
本気で生きるというのはそういうことだった。
それこそがガルとの大きな差であり、今回の結果を生み出すことになったのだ。
「……そうか、それが俺様の敗因か」
剣だけに生きてきた男が、剣以外のことで負けた。
言葉にすれば、ただそれだけのことである。
その答えに、ガルは満足したかのように笑う。
「結局、しがらみに囚われてたのは俺様だったって訳だ」
リベラルやオルステッドを倒す。
その一心でやってきたが、それによって選択肢が狭まっていたのだろう。
組み伏せられていたガルは、抵抗を止めて力を抜いた。
ここまで無様な姿を見せたのだ。
これ以上情けない生き様を晒したくなかった。
「……俺たちの仲間になりませんか?」
剣神もヒトガミにいいように使われた被害者だ。
だからこそ、ルーデウスは勧誘する。
その勧誘を彼は鼻で笑った。
「冗談言うなよ。俺様をこれ以上惨めな負け犬にするつもりかよ」
「生きていればまた最強を目指せるじゃないですか」
「青臭せぇ野郎だな。お前には一生分からねぇんだろうよ。純粋さが濁ってしまう意味を……」
ガルはひたすら自分のために剣を振るっていた。
自分のためだけに振るう剣は純粋で、純粋な剣は誰よりも鋭くなる。
これがリベラルやオルステッドに負けたのならば、そんなことを思うことはなかった。
けれど、ルーデウスという“剣士でもない魔術師に負けてしまった”ことで、その心は濁ってしまったのだ。
剣神にまで登り詰めたからこそ、その濁りの持つ意味を知っていた。
――ガルは自分の目指してきた剣を、信じられなくなったのである。
「それが最期の言葉で良かったですか?」
もう生きる気がないことを悟ったのだろう。
遺言を確認するリベラルの言葉に、ルーデウスは慌てる。
「リベラルさん! ここで説得出来なくても時間を掛ければ仲間になってくれるかもしれませんよ!」
「これは私からガル様に送る慈悲です」
「慈悲? 生きていく方がよっぽどいいでしょう?」
だが、剣神を組み伏せていたリベラルは立ち上がり、その場から離れた。
もちろん、彼の愛剣である『喉笛』はリベラルの手に握られている。
「こう見えて、私はガル様のことを同志と思ってるんですよ」
「……俺様がお前と同志?」
「私の剣も貴方の剣も、その本質は同じですから」
困惑しながら立ち上がるガルへと、リベラルは喉笛を構えた。
「貴方に倒したい相手がいるように、私にも倒したい相手がいます」
「……それがヒトガミって奴のことか?」
「そうです。私の全ては、ヒトガミを倒すためのものです」
そういう意味で、ガルのことを同志だと思っていたのだ。
その点で言えば彼のことをリスペクトしている。
リベラルの築き上げた強さは、才能もあるが約五千年もの努力と経験によるものだ。
ガルは約五十年かそこらで、今の強さまで登り詰めたのである。
凄いと思うのは当然だろう。
五十年ほど経過した時のリベラルは、彼よりずっと弱かったのだから。
「だから、貴方に敬意を評して見せましょう――私の築き上げた剣を」
リベラルは武器を扱えない呪子だ。
その身に宿る龍神の神玉の影響により、武器を振るえば壊れてしまう。
しかし、魔剣や最高峰とも言える剣ならば、一度くらい全力で振るうことが出来る。
居合の構えを取るリベラルに、ガルは唖然としつつも獰猛な笑みを見せた。
自分が今しがた諦めてしまった剣の到達点を見ることが出来るのだ。
振るうのが自分ではないとは言え、嬉しく感じるのは当然だろう。
「構えてください。予備の剣はあるでしょう」
「……いいぜ、見せてくれよ。お前の剣を」
「行きますよ」
僅かに溜めを作った彼女は、深く腰を沈めたかと思えば距離を詰める。
間合いに入ると同時に、剣は鞘から消えた。
リベラルが剣を振るったようには見えなかった。
ルーデウスも、パウロも、そしてガルも。
誰もその剣がいつ振るわれたのか認識出来なかった。
気付いた時には、鞘に入っていた筈の剣が剥き出しとなっている。
まるで時間が切り離されたかのように、結果だけが現れた。
「光すら超えるその剣筋は、誰にも認識することが出来ない。斬られたことすら認識出来ない。
――故に私はこの技を『無の太刀』と名付けました」
その言葉と同時に、彼女の力に耐えられなかった喉笛にヒビが入り、崩壊するのだった。
リベラルは素手での戦闘が多いが、その真価は武器を持つことで発揮される。
魔龍王としての彼女の役割は、龍神オルステッドに技を伝えることだ。
そのオルステッドは全力で戦う時に、龍神刀を扱う。
武器を持った技の方が多く、強力なのは必然だった。
初代剣神の剣を見てきたリベラルは、光の太刀を次の段階に引き上げることが出来ていたのだ。
とはいえ、完成させたのも最近である。
未来からの日記を見て、今の自分では闘神に勝てない可能性を考慮して磨き上げたのだった。
そしてその技を使うということは、魔龍王の使命である“技の伝道”を意味する。
つまり――、
「……俺様を殺すんじゃなかったのか?」
斬られたのは、ガルの持っていた剣だけだった。
剣を動かすことで真っ二つに折れ、その刀身を失う。
刀身を落としたところで、彼は斬られていたことに初めて気付くのだった。
「今回のことを切っ掛けに、また私の前に立ち塞がるも良しです。最強を目指す私の糧にするまでですよ」
「……ハッ、言ってくれるな」
「貴方が強くなることを祈ります。私の……私達の到達点はこんなものではない筈ですから」
独りでは限界がある。
だからこそ、技術を散りばめることで新たなる進化を促さなければならない。
それが魔龍王の役目であり、リベラルの役目である。
ガルが強くなるかどうか分からないし、再び敵対するかどうかも分からない。
だが、伝えていくことに意味があるのだ。
新たなる領域に、独りで到達するのは困難なのだから。
剣神は折れた剣を捨てると、背を向けて去っていく。
リベラルの剣に希望が見たのかどうか不明だが、目指すべき姿は見えたのだ。
少なくとも、まだ剣を捨てるようなことはしないだろう。
「生かしてよかったのか?」
「構いませんよ。剣神流と敵対するのも愚策ですし」
パウロの心配そうな様子に、リベラルは端的に答える。
ガルを殺せば、剣神流は将来的に敵になる可能性が高い。
オルステッドから剣神が近い将来代替わりすることを聞いているが、今のガルはまだ現役の剣神だ。
ヒトガミの駒が増えるようなことをすべきでないという打算も当然あった。
「とりあえず、襲撃は一旦おしまいですかね?」
「それはギース様やオルステッド様からの報告次第ですね」
ということで、今回の襲撃でこちらの損害をゼロで乗り切ることが出来た。
その後、報告に来たギースにより正確な戦況が判明する。
剣神、北帝、北王。
今回の襲撃で相手はその戦力を失ったのだ。
残す戦力は北王ナックルガードと水神レイダ。
後はいるか不明だが、北神と闘神である。
今回のガルの姿を見るに、北神はヒトガミも制御不能に陥ってるだろう。
そのため、先ほどのガルのように各個撃破するチャンスである。
オルステッドも同様の考えを示していた。
それから先の道程では、特に襲撃もなく平和に経過することになった。
トリスティーナも最初から確保しているため、余計な寄り道をせず真っ直ぐ向かうことが出来た。
隠れずに堂々と進んだのだが、何の音沙汰もなく。
流石のダリウスも、王級以上の3人を持っていかれたのは痛かったようだ。
結局、アリエルたちは無事に王都アルスに辿り着くのだった。
因みにだが、北王ヴィ・ターは治療されており、腕の封印が為された状態で同行している。
反骨心を見せて逃げようとする場面もあったが、オルステッドに会わせることで大人しくなった。
彼の恐れられる呪いも、使いようによって便利になるということだ。
当の本人は微妙そうな顔をしていたが。
――――
王都の中に入ったアリエルたちは、懐かしさに浸っていたがすぐに気を引き締め直す。
彼女にとっては、ここからが本番なのだ。
既に王手飛車取りとなっているが、勝つまで結果は分からない。
緊張感を途切らせることなく、凛とした表情で予定を告げた。
「私の別宅へ移動します。そこを拠点としましょう。王宮に入る前に、いろいろと準備が必要です。それに……協力者との情報のすり合わせも必要でしょう」
アリエルの言う協力者。
それは当然ながら――フィリップである。
彼は何年も前から準備を行い、アリエルがラノア王国に逃亡した時からずっと小さな積み重ねを行ってきた。
その積み重ねにより、今や対局は傾いている。
手紙でのやり取りで情報はあるものの、時差があるため近況のことまでは分かっていない。
そのため、フィリップとの話し合いは必要だった。
フィリップと会う。
それの意味するところは、ルーデウスがエリスと会うということでもある。
こちらも長い時間離れ離れとなっていた。
シルフィエットとロキシーの2人と結婚していると手紙で送ったきりである。
更にその状況で3人目として結婚しないかと言ったのである。
当時はリベラルやエリナリーゼに乗せられ、一時のテンションに身を任せてしまった。
こうして実際に会うとなると、恐怖を感じていた。
何せあのエリスである。
いつかの冒険者ギルド内で、大切な棒と玉を潰されそうなっていた男の姿が過ぎった。
もしかしたら自分もそのような目に遭うのではないかと不安でいっぱいである。
ヒェッ、なんて思いつつ股間を抑えるその姿に、アリエルたちは不思議そうな表情を浮かべるのだった。
「何ビクビクしてるんだよ?」
ニヤニヤしながらパウロが話し掛けてくる。
彼はルーデウスの不安を察していたのだ。
自分も同じ様な轍を踏んでしまったので、その気持ちがよく分かるのである。
「大丈夫だって。オレも何とかなったんだしよ」
「何とかなったじゃ、ないわよ! あの時私がどれほど、傷付いたか知らないの!?」
パウロの腕をつねりながら、ゼニスが怒った口調で問い詰める。
円満に進んだことは確かだが、それでも裏切られたように感じたことに変わりないのだ。
一夫多妻をよく思ってないミリス教徒のゼニスからすれば、やはり軽率な女関係は許しがたいものだ。
「ルディ、もよ? 悲しませるようなことをしたら、怒るんだから」
「それはまあ、勿論です」
とは言え、2人の言葉でルーデウスも恐れることは止めた。
ルーデウスも不安に思っているように、きっとエリスも不安な筈なのだ。
魔大陸での旅路を共にしたからこそ、彼女のことはよく知っている。
男である自分がドンと構えるべきだろう。
「アリエル様か!?」
「国王陛下のご病気を聞いて、戻ってらしたんだ!」
別邸へと向かう道中で歓声を受けつつ、アリエルたちは貴族の地区を通っていく。
貴族の地区に入ると、時折、甲冑を着て町中を隊列を組んで歩いている集団がいた。
そこでリベラルは思い出す。
今回はエリスと友人になっていないであろう、水帝にまもなく昇格する女性がいることに。
(有能な剣士が多い以上、あまり恨みを買うような結果を残さないようにしないといけませんね)
アリエルが王位継承すれば、オルステッドたちと同盟関係になる。
将来の仲間になるため、遺恨は少なくなるよう立ち回るべきだろう。
その点で言えば、ここまでの道中は及第点である。
北帝と北王を生かしているのは大きいだろう。
もっとも、その部下をオルステッドが全員始末してしまったが。
可能であれば水神レイダも味方につけたいところだが、それは流石に難しいと考えていた。
レイダがヒトガミの使徒になるのは、ダリウスを助けるためだ。
そのダリウスを排除しなければならない以上、敵対は避けられないだろう。
(まあ、レイダ様はペルギウス様に対処させればいいですか)
ペルギウスが相手をすれば、そこまで角が立つこともないだろう。
本来の歴史通り、オルステッドに任せても問題ない。
後は、レイダが完全に反逆者の立場になった時くらいか。
そこまで思考に陥っていたタイミングで、アリエルの声が響く。
「着きました」
彼女の別邸に辿り着いたのだった。
協力者であるフィリップとの合流地点もここである。
彼らと顔を合わせるのも久し振りだ。
特にルーデウスは緊張している様子だった。
そうして、アリエルたちは中へと入って行くのだった。
いつも誤字報告ありがとうございます。
評価、感想も嬉しいですし励みになります。
Q.何でルーデウスが戦った?
A.作中の説明通り、自分が自分であるために必要だと感じたためです。
本気で生きていくと誓ったのは後悔しないためであり、何の関与もしないと何かモヤッとしたものが残ると思ったためです。
Q.ルーデウスつよ。
A.この世界に磁石はあるのだろうか。未知の扱いなら非常に強力。違うなら対応可能な範囲ではあります。
Q.無の太刀。
A.光の太刀の上位互換。最近編み出したというのは結構重要な事実だったりする。光速を超えた速さで斬るので、極めれば時間を超えて斬ることも出来るかも知れないが作中でそこまで到達することはない。
因みにオルステッド社長も教わってる途中。もうすぐ使えるようになる。