無職転生ールーデウス来たら本気だすー   作:つーふー

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前回のあらすじ。

ルーデウス「エリスにプロポーズしました」
ギース「北神の誘い出しは俺に任せな」
オルステッド「北神なんかに負けるわけがないだろう。縛りプレイで余裕だ」

深夜テンションの勢いで書き上げました。
暑いので皆さん熱中症にお気を付けてください。


7話 『大魔王オルステッド』

 

 

 

 対峙する北神と龍神。

 方や巨大な大剣を構え、方や無手で自然な姿勢でいる。

 アレクサンダーは龍神と向き合い、その身から感じる威圧感に僅かな動揺を見せていた。

 ゾクリと背筋の凍るかのような殺気。

 これほどのものを彼は初めて体感していた。

 

「……あなたが、『龍神』オルステッド……か」

 

 王竜剣を構えたアレクサンダーは、若干引き攣った表情を見せつつも後退はしない。

 そんな彼に対し、オルステッドは変わりない様子で答える。

 

「そうだ」

「ならば、あなたを倒して僕は英雄となる!」

 

 その宣言に、オルステッドは小さく笑う。

 

「フッ、それは無理だ、アレクサンダー・ライバック。お前は英雄が何かを分かっていない」

「なっ! 馬鹿にするな!」

 

 アレクサンダーは舐められていると思った。

 だからこそ武器も持たずに己の前に立ち、自然体のまま王竜剣と向き合っているのだと考える。

 そしてそれは間違いではない。

 オルステッドは龍神刀も、更には魔力も使わずに戦おうとしているのだから。

 

 怒りが恐怖を凌駕する。

 先ほどまでの動揺は消え去り、目の前の敵へと意識が没入していく。

 僅かな沈黙の後、アレクサンダーは駆け出した。

 

「たああぁぁぁ!!」

 

 巨剣を軽々と片手にて振るい、袈裟懸けにオルステッドへと斬りかかる。

 その巨剣は一歩後退されることで避けられるが、アレクサンダーは恐るべきバランス感覚で体の向きを変え、再度打ちかかった。

 回転しながら嵐のように迫りくるアレクサンダーだったが、オルステッドは難なく躱していく。

 後ろへ、横へ、時には前へ。

 腕すら使わず、純粋な体捌きだけで猛攻を凌ぐ。

 

 いつまで経っても攻勢に出ようとせず、逃げ続ける彼にアレクサンダーはしびれを切らす。

 大きく王竜剣を振り被り、地面へと叩き付けた。

 当然ながらそれも軽々と避けられるが、衝撃波によって遠くに弾かれてしまう。

 

「逃げてばかり……口だけですか!?」

「いや、動きを見ていただけだ。だが、今ので十分だろう」

「残念ですけど、僕はまだ何も本気を出してませんよ」

 

 アレクサンダーはまだ王竜剣の能力を使っていない。

 この程度で実力を測った気になるのは早計だろう。

 ならば、油断している隙に一気に仕留めてしまおうと彼は考える。

 

「とあああぁぁぁ!」

 

 先ほどのように、袈裟懸けにオルステッドへと斬り掛かる。

 それに対して、彼は後ろへ一歩下がるという全く同じ対応を取った。

 が、同じ対応をするであろうと読んでいたアレクサンダーは、王竜剣の能力である重力操作を使った。

 一瞬だけ重力が変わり、オルステッドは体勢を崩す。

 その隙に大きく横へと振り被った一撃を、アレクサンダーは叩き込んだ。

 

 ――奥義『止水』。

 

 渾身の力で振り被った王竜剣は、オルステッドの手のひらで優しく受け止められていた。

 特に出血している様子もない。

 無傷で受け止められた……その事実に気付いた彼は慌てて後ろに下がろうとしたが、王竜剣を動かすことが出来なかった。

 

 次の瞬間には――アレクサンダーの右腕は斬り飛ばされていた。

 

 そのまま王竜剣は宙に舞い、それをオルステッドが手に取る。

 もちろん、アレクサンダーも残った腕で取ろうとしていたが、オルステッドに蹴り飛ばされ地面を転げてしまう。

 

 あっ、と思った時には、既に王竜剣を突き付けられているのだった。

 

「貴様は未熟だ、アレクサンダー・ライバック」

「くっ!」

 

 殺られる。

 そう思ったのだが、オルステッドは彼の右手ごと王竜剣を投げ返すのだった。

 何が起きたのか理解出来なかったアレクサンダーだったが、反射的にその2つを受け取る。

 唖然とする彼に対し、オルステッドは最初と変わらぬ表情で口を開くのだった。

 

「今のは油断しただけだろう? 次こそは本気で来るといい」

「……舐めるな! 僕を甘くみたことを後悔させてやる!」

 

 怒りに満ちた表情で、アレクサンダーは立ち上がる。

 右手をくっつけ、王竜剣を握り締めた彼は先ほどのように地面に振り被った。

 そして、衝撃によって弾け飛んだ無数の岩が、ゆらりとオルステッドの周囲に浮かぶ。

 

「ハァッ!」

 

 重力操作を扱い、周囲に浮かぶ岩を利用した立体機動でオルステッドへと迫っていく。

 上から下に、下から横に、横から斜めに。

 規則性のない動きを行い、オルステッドの死角から死角へと飛び移っていき、一気に距離を詰める。

 オルステッドは反応出来ておらず、アレクサンダーに背中を見せたままだ。

 そのまま縦から一閃を行い――半歩横にスライドすることで避けていたオルステッドに顔面への掌底を受けていた。

 

 重力が軽くなっていたことでクルクルと何回転もしたアレクサンダーは、いつの間にか腕が軽くなっていたことに気付きながら地面に叩きつけられる。

 そして目の前には、王竜剣を突き付けるオルステッドがいた。

 すぐさま立ち上がろうとするが、自身の右手が再び斬られていたことにそこで漸く気付く。

 

「俺の実力を見誤ったか、アレクサンダー・ライバック。次こそ本気で来るといい」

 

 そして、再び投げ返される王竜剣と右手。

 それを受け取ったアレクサンダーだったが、わなわなと肩を震わせる。

 明らかに舐められている。その上で手加減すらされている。

 今までに経験したことのない屈辱を前に、彼の怒りのポルテージが更に上がっていく。

 

「ふざけるな!!」

「ふざけてなどいない。まだ本気を出していないのだろうアレクサンダー・ライバック」

「〜〜!!」

 

 彼の表情は怒りや悔しさに満ちたものへと歪む。

 2回も王竜剣を奪われ、更には生殺与奪まで握られてしまったのだ。

 そこからこの発言である。

 ふざけているのか、それとも本気で言ってるのか、それすら分からなくなってしまう。

 けれど、アレクサンダーは再び立ち上がり、オルステッドへと挑むことを選択した。

 

「くそっ! くそっ! 絶対に殺してやる!」

 

 先ほどのように岩を浮かせ、立体機動を行うアレクサンダー。

 オルステッドの視線は完全に外れ、死角にいるのだが飛び込むことは出来なかった。

 先ほどのカウンターが脳裏に焼き付き、前に出ることが出来なかったのだ。

 ずっと周りを飛んでいるだけの彼に対し、オルステッドは近くにあった岩を殴り飛ばした。

 そしてそれは丁度立体機動をしていたアレクサンダーへと命中し、彼は弾かれてしまう。

 

「こうなったら……!」

 

 すぐさま立ち上がったアレクサンダーは、一度王竜剣の能力を解除する。

 

「右手に剣を」

 

 アレクサンダーの右手に持った剣が持ち上がり、先が天を向く。

 

「左手に剣を」

 

 左手が、剣柄を持つ。

 両手持ち。

 今まで片手で扱っていたあの巨剣を、両手で持った。

 

 オルステッドはそれをただ眺めているだけだ。

 明らかに大きな隙を見せているが、特に詰め寄る様子を見せない。

 油断からか、それとも警戒からか。

 どちらにせよ、アレクサンダーにとっては好都合だった。

 

「両の腕で齎さん、有りと有る命を失わせ、一意の死を齎さん」

 

 アレクサンダーは王竜剣を大上段に構える。

 

「我が名は北神流アレクサンダー・ライバック」

 

 気付けば、周囲の全てが浮き上がっていた。

 それはオルステッドも例外ではない。

 周囲に散らばっていた草木、岩やその破片。

 それらが宙に浮き上がる。

 

 オルステッドは浮き上がりながらも、真っ直ぐな姿勢でバランスを保っていた。

 完全に無防備な状態。

 アレクサンダーが全身に力を込め、王竜剣を振り下ろした。

 

 

「――奥義『重力破断』」

 

 

 爆音と閃光が周囲を包み込む。

 それと同時に――アレクサンダーの身体もまるで竜巻のように回転しながら宙に吹っ飛んでいた。

 最早何が起きたのか彼にもサッパリだった。

 クルクル回転していたアレクサンダーは、途中で蹴り飛ばされて地面を転げる。

 そしてやはり軽くなっている右手だ。

 いつの間にか王竜剣と右手がなくなっていた。

 

 目の前には、王竜剣を突き付けているオルステッドがいた。

 

「アレクサンダー・ライバック。お前は英雄と呼ぶには未熟だ」

「こ、この……!」

「お前にはお前の物語があるように、他の者にもそれぞれ物語がある」

 

 いつしか、アレクサンダーの怒りは恐怖に塗り替わっていた。

 

「誰もが様々な想いや背景を持っている。貴様に取っては路傍の石であっても、その者に取っては違う」

 

 たった3回やられただけだ。

 不死魔族の血を引く彼からすれば誤差の範疇かも知れない。

 再生能力もあり、ここから本領発揮をしていくのだろう。

 だが、それでも彼は目の前の男に敵う姿を想像出来なかった。

 

「アレクサンダー・ライバック。もう一度言おう……貴様は未熟だ」

 

 気付けば、王竜剣と右手が投げ返されていた。

 アレクサンダーは恐怖しつつも、2つを受け取り立ち上がる。

 それは勇気からの行動ではなかった。

 恐怖から逃れるための、本能的な行動にしか過ぎない。

 恐れを抱く彼に対し、オルステッドは再び口を開いた。

 

「まだ本気を出していないのだろう? 実力を隠さず全力で来るといいアレクサンダー・ライバック」

「……う、うわあぁぁぁ!!」

 

 

「――心折れるまで、何度でも相手になろう」

 

 

 そこからの戦いは……否、戦いとは呼べなかった。

 北神としての意地か、卓越した技量は見せていただろう。

 だが、それだけである。

 彼の技量と肉体に、心が追い付いてなかったのだ。

 完全に恐怖に飲まれたアレクサンダーの動きは、オルステッドに筒抜けだった。

 いくら死角を取ろうと、王竜剣の能力を使おうと、容易に対応される。

 そしてオルステッドの余裕の姿にまた恐怖し、剣先が段々と鈍っていく。

 

 何度も同じやり取りがなされた。

 気付けば斬り飛ばされる右手。

 奪われている王竜剣。

 倒れている己へと、王竜剣を突き付けるオルステッドの姿。

 そして……投げ返される右手と王竜剣。

 

 その度に、オルステッドは必ず同じことを口にしていた。

 

『まだ本気を出していないのだろう?』

『全力で来るといい』

 

 そんな訳がない。

 最初はともかく、それ以外は全力で挑んでいた。

 それなのに、オルステッドに取っては大差のないものだったのだ。

 全力を出そうが出さなかろうが、結果は何も変わらない。

 

 そんなやり取りを繰り返し――アレクサンダーの心はポッキリ折れた。

 

 最早立ち上がることも出来ず、投げ返された腕と王竜剣を眺めることしか出来なくなってしまう。

 そんな彼に対し、オルステッドは特に外傷もなく立っていた。

 せいぜい、服が多少汚れた程度だろうか。

 

「どうしたアレクサンダー・ライバック? もうおしまいか?」

「…………」

「ならばここで死ぬか。俺の配下となるか、選べ」

「…………」

 

 当然ながら、既に戦意はなかった。

 敗北者の目で、口を半開きにして、恐怖を顔に張り付かせ、涙を流しながらオルステッドを見あげている。

 そこには、英雄になるなどと息巻いていた少年の顔は無かった。

 完全に心を叩き折られた、一匹の負け犬がいるだけだった。

 

「…………配下に、なります」

 

 長い沈黙の末、アレクサンダーはそう言った。

 そうして、龍神と北神という戦いは、人知れず終えるのだった。

 

 

――――

 

 

 オルステッドからの報告を受け、リベラルは安堵する。

 魔力を使うことなく、そして無傷で北神に勝利したのだ。

 流石という他ないだろう。

 そのことにシャンドルやギレーヌ、パウロは驚くと同時に頼もしさを感じるのだった。

 

 懸念していた闘神の襲撃もなく、北神はオルステッドに下った。

 これで残すは水神と北王だけ……と思ったのだが、パーティ前日に北王ナックルガードが現れたのである。

 

 そして、ナックルガードは戦うことなく降参した。

 彼の視点では残す戦力は自分しかいないのだ。

 彼は双子であり2人とは言え、流石に己たちだけでこの戦局を覆せるとは思っていなかったらしい。

 オーベールやヴィ・ターが生きていることを嗅ぎ付けていたため、軍門に下っても生き残れると考えたのだろう。

 お金で雇われていたことが裏目に出た形だ。

 剣士としての意地はあれど、流石に犬死になると判断したらしい。

 

 こうして、パーティ当日にはダリウス陣営の戦力はほぼ皆無となるのだった。

 

 親衛隊とシャンドルは、捕虜の関係もあり留守番。

 オルステッドはアレクサンダーを引き連れ、不測の事態に備えて待機。

 それ以外のメンバーでパーティに参加することになった。

 因みに、アレクサンダーはオルステッドに付き従っている。

 まるで100年前からこのポジションにいましたと言わんばかりの従順っぷりだ。

 流石に警戒するのだが、オルステッドが「今の奴は大丈夫だ」という発言により警戒を止めるのだった。

 ループしている彼がそう言うのならば、きっと大丈夫なのだろう。

 ルーデウスたちも警戒しつつ、アレクサンダーを受け入れるのだった。

 

 そして開催されるパーティ。

 大規模なパーティ用に作られた広間の一つ。

 スタッフの一人として現地入りしたリベラルたちは、待合室の入り口付近に立ちながら、参列者の顔を眺める。

 彼らは期待や不安に満ちた顔をし、アリエルとフィリップの話に興じるのだった。

 やはり甲龍王の紋章を見せびらかしていた効果は大きく、既に会場はアリエル派の者が多い様子だ。

 ピレモンやジェイムズといった者たちも参列し、最後に遅れてこのパーティにおける一番の目的人物が入ってきた。

 

「…………」

 

 ダリウス上級大臣だ。

 彼は非常にやつれた表情を浮かべ、何人もの護衛を引き連れてやって来た。

 護衛の中に名のある実力者はいない。

 それどころか練度の低い兵士であることは、誰の目にも明らかだった。

 

 ダリウスはリベラルやルーデウスの存在に気付くと、怯えた顔ですぐに視線を逸らしてしまう。

 今の彼からは、この戦いに勝とうという気概が最早見えなかったのである。

 流石に自身が詰みの状況に陥ってることを理解しているらしい。

 それでも尚、逃げずにやって来た事を褒めるべきだろう。

 

「リベラルさん……」

「分かっています。ルディはゼニス様を守れる位置に」

「分かりました」

「エリス様とギレーヌ様は、フィリップ様の近くに」

「分かったわ」

 

 水神がこの場にいないため、不意打ちを受けても大丈夫なように声掛けを行っていく。

 本来の歴史では、水神はパーティに参加せずダリウスを守るために天井を破壊し乱入してきた。

 今回も必ずしも同じとは限らないが、水神が乱入してくる可能性は高いだろう。

 乱入前に対処出来れば良かったが、水神を相手にする正当な理由もないため放置せざるを得なかった。

 そのため、水神に関してだけはどうしても後手に対処する必要があったのだ。

 

 やがて全員が揃い、パーティは始まる。

 貴族たちは順番に部屋へと入り、決められた席へと座っていく。

 会場に貴族が入りきったのを見て、上座に立っていたアリエルが、一歩前へと出た。

 

「本日、お忙しい中、お集まり頂きありがとうございます」

 

 主催のアリエルが開幕の挨拶。

 国王陛下の病気の話に始まり、昨今の国内情勢のあれこれ、

 留学中にどのような思いでアスラ王国を思っていたかを語り……。

 

 そして本来の歴史と同じように、トリスティーナを理由に、ダリウス上級大臣を弾劾した。

 貴族の子女を誘拐し、性奴隷にしていたこと。

 そのことに対し、処罰が必要だと声に出す。

 それに対して、ダリウスは反論せず苦い表情を浮かべるだけだった。

 何せ彼は、かき集めた戦力も全て失い、多くの貴族の仲間にも見限られていたのだ。

 反撃する余力がないのも当然な状態だった。

 

「貴族の子女を誘拐し、監禁し、辱めるなど……。

 いかに王国の重鎮といえど、罪は罪。

 逃れうるものではありません。

 あなたは王国の法により、裁かれることでしょう」

 

 なんというか、もう可哀想にすらなっていた。

 ダリウスは無言でぷるぷると拳を震わせるだけで、何も出来ない。

 なされるがままに沙汰を受け入れるしか道はなかったのだ。

 

「……アリエル、いじめるのはそこまでにしておけ」

 

 そしてここで第一王子グラーヴェルも出てくるのだが、いまいちダリウスを庇い切ることも出来てない様子だった。

 第一王子も分かっているのだ。

 アリエルの背後にペルギウスがいるであろうことに。

 更にここまで追い詰められた以上、出来ることは少ないことに。

 それでも諦める訳にいかないからこそ、なんとか足掻くのだった。

 

「父上が倒れた今、ダリウス上級大臣の手腕はアスラ王国にとって無くてはならぬものだ。

 確かに罪だが、国の大事においてどちらを取るかなど、言わずともわかることだろう」

「兄上、罪は罪。これを裁かなくては、国は立ち行きませぬ」

「…………」

 

 話は平行線である。

 そうなった以上、この2人で話を決めることは出来ない。

 故に、周りの意見で決めなくてはならないのだが……フィリップの根回しにより、アリエル派の貴族が多いのは明らかである。

 結局、グラーヴェルは自分の言葉が悪足掻きでしかなかったことを再認識させられ、小さなため息を溢すのだった。

 

 もはやダリウスを庇うことは出来ない。

 そのことを悟った彼は、見捨てる以外の選択肢がなかった。

 

 

「やれやれ――夢のお告げはこういう事かい……」

 

 

 そうして雌雄が決しようとした時、1人の声が響き渡る。

 小さな体躯に、深い皺の刻まれた肌。

 美しき黄金色の剣を、杖のように床に突き立てて。

 その老婆はゆるりと人混みの中から現れた。

 

 ――水神レイダ・リィアだ。

 

 彼女はダリウスを庇うように前に出ると、膝をついて嘆願するのだった。

 

「アリエル様、どうかダリウスを許してやってくれませんかね?」

「それは何故ですか? 水神である貴方が庇う理由が分かりませんね」

「昔、あたしがその男に助けられたことがあるからさね。それで理由としては十分だろう?」

「そうですね」

 

 とは言え、ただそれだけでダリウスを許す訳にいかないだろう。

 彼を罰することは既に決まっており、今更取り消すことの出来ない事実だ。

 

「……あたしの命を対価にしても、駄目かね」

「残念ながら」

「そうかい。それは困っちまったねぇ……」

 

 自身の嘆願を聞き入れてもらえないことを悟った水神は、そのままアリエルを人質にしようとし――。

 

「いやいや、流石にそれを許しはしませんよ」

 

 横合いから現れたリベラルによって、蹴飛ばされるのだった。

 あんな堂々と剣を持ってアリエルに近付いたのだから、警戒していて当然だろう。

 アリエルを守るように前に立った彼女は、既に立ち上がっている水神に目を向けるのだった。

 

「おばあちゃんもう歳なんだから無理しちゃいけませんよ」

「……無理なんてしてないさね」

「恩返しでもして最後を迎えようとしてるのに、何を言ってるんですかね」

「…………」

 

 この場にダリウスの味方はいない。

 本来の歴史ならば、オーベールという護衛によってこの場から退避出来るのだが、ここでは彼がいないため出来ない。

 このパーティ会場から出た瞬間、ダリウスは捕縛されてしまうだろう。

 水神に残された手は、もう自身の命を賭してこの場にいる者たちと戦うしかなかったのだ。

 短絡的だろうと、ダリウスの処罰が決まった以上それを覆す力は水神にはない。

 

 昔に受けた一度きりの恩のために、一体なにをしてるんだろうねと、レイダは自嘲するのだった。

 

「受けた恩はなるべく早くに返すことをおすすめしますよ」

「全く、言う通りだよ。さっさと返してたら、あたしもこんな無謀なことをしなかったのにねぇ」

 

 そんなやり取りをしていた2人だったが、レイダの方は隙を見つけることが出来ずに困っていた。

 いっそのこと無関係な貴族たちも含めて無差別に剣戟を放とうとしたのだが、それは全て防がれる未来を見たのだ。

 ダリウスを助けに来たのに、一体どうすればいいのだと嘆いてしまう。

 

「そろそろですかね」

「なにがだい?」

「私の友人の到着がです」

 

 不意に呟かれた言葉に、水神も含めた全員の動きが止まる。

 彼らは気付いたのだ。

 いつの間にか王都に近付いていた空中城塞の姿に。

 アリエルたちが繋がっているであろう伝説の存在に。

 

 沈黙の後、響く足音に彼らは気付く。

 いつの間にか、アリエルの従者であるエルモアが、下座の扉の前へと立っていた。

 そして、扉が開かれる。

 

 

「招かれて来たというのに……ずいぶんと騒がしい様子だな」

 

 

 扉の先に現れたのは、甲龍王ペルギウス・ドーラだ。

 そして彼に付き従うかのように、12の精霊たちが背後に控える。

 そんなペルギウスの表情は、とても不満げであった。

 

 彼は整えられた舞台に主役として登場する予定だったのに、どう見ても舞台が崩壊しかかっているのだ。

 本来であれば、アリエルを王にするためのトドメの一撃として華麗に現れるつもりだった。

 だが、そのような状況にはどう見ても見えない。

 

 話が違うぞとばかりに、リベラルを睨み付けるのだった。

 

「ペルギウス様、これには深い事情がありまして」

「黙れリベラル。貴様が関わるといつもこうだ。思えばラプラス戦役の時も、貴様のせいで危ない目に遭ったぞ」

「それは誤解ですって」

 

 怒った様子のペルギウスに、リベラルは笑いながら対応する。

 真面目ではない態度に、余計に憤慨するのだった。

 

「舞台を壊したのは水神ですって。ほら、ペルギウス様が何とかしてくださいよ」

「リベラル、貴様! ペルギウス様に対していつもいつも……不敬だぞ!!」

「アルマンフィ様、ハウス」

 

 彼女の言葉に、水神が原因で舞台が壊されたことは理解する。

 しかし、ペルギウスとしてはそうなる前に対処出来ただろうと内心で思うのだった。

 

「ペルギウス様、いつも城の中で引きこもってばかりじゃなく、たまには身体を動かしましょうよ」

「…………」

「水神程度を軽く倒せなきゃ、魔神が復活しても倒せませんよ?」

 

 その言葉に、ペルギウスはハッと笑う。

 安い挑発だ。

 そもそもリベラルならば水神を軽く倒せるだろう。

 それでも尚、彼女は譲ろうとしている。

 

 試されているのだ。

 かつて戦役を乗り越えた戦友に対し、実力を疑われているのである。

 心外だろう。

 だが、言わんとすることは確かに分かる。

 

 リベラルの言う通り、水神程度をどうにか出来なければ魔神の相手など不可能だろう。

 今の己には、かつての兄貴分であるウルペンもカールマンもいない。

 1人で戦わなくてはならないのだ。

 

「――よかろう。我が自らこの舞台を立て直そうではないか」

 

 かつての英雄は、獰猛に笑った。

 ラプラス戦役に振るわれたその力が、ここで再び振るわれることになる。

 




Q.オルステッドとアレクサンダー。
A.残念ながら重力操作はリベラルもルーデウスも出来るため、ループを抜きにしても対策はバッチリだった。
 魔王ロールに心折れたが、アレクは頑張った。

Q.北王ナックルガード。
A.作中説明通り、犬死になると考え降伏した。2人で話し合って決めたが、実際に犬死にするところだったので英断である。

Q.銀緑=リベラルであることに誰も気付いてないの?
A.銀緑の顔を知ってる人は貴族の中にいません。ただ特徴を見てもしかして…と思ってる人はいました。

Q.ダリウス。
A.もう諦めの局地。なんか知らん間に水神とか銀緑、甲龍王が争いだしてビビってる。

Q.ペルギウスの強さ。
A.進捗転生140627にて召喚物全て込みだと9で、個人だと7かな……。まあ、私もこういうのはノリで書いてますので、あんまり数字は信用しないでください。
 と孫の手様の言葉がありますので、原作より強いか弱いのかは不明となります。しかし、私の作品ではラプラスを相手取れるだけの強さにする予定です。

Q.リベラルが水神対処すればいいのに。
A.ペルギウスはラプラスが復活した時の重要な戦力です。ずっと空中城塞に引きこもってるやつがラプラスを相手取れると思ってないので、たまには運動しようぜ!と優しさで誘った感じです。
実際、原作でもその辺りどうなんでしょうね。ぶっつけ本番で戦争に挑むとは思えませんが…。
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