無職転生ールーデウス来たら本気だすー   作:つーふー

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前回のあらすじ。

レイダ「ペ様にフルボッコにされた」
ペルギウス「我が弱いと思ったか?」
アリエル「アスラ王になれることがほぼ確定しました」

ナナホシのお話も、ようやく終わりが見えてきました。
予定通り次話で、この章は終わりになりそうです。
でも、最後まで気を抜いちゃ駄目だぞ!


9話 『最後の試練』

 

 

 

 アリエルをアスラ王国の王にするための戦いが終わり、リベラルたちはラノア王国へと帰還していた。

 ペルギウスはさっさと1人で帰ってしまったため、空中城塞を経由することなく移動することとなった。

 魔族であるギースを空中城塞に入れられないため、道中にある転移陣を使用することになったのである。

 

 流石に帰りは危険も少ないため、行きしなよりも全員肩の力を抜いていた。

 特にエリスは久し振りにルーデウスと旅を出来たため、非常に嬉しそうであった。

 パウロやゼニスも、その光景を微笑ましく見守っていた。

 まあ、シルフィエットやロキシーに紹介するのは緊張するだろうが、それでも彼らを見ていると安心出来るだろう。

 もし修羅場になったら、とりあえず頑張ってくれと投げやりに思うのだった。

 

「――とまあ、そんな感じでアスラ王国の問題は解決しましたよ」

 

 という顛末を、リベラルはナナホシに報告していた。

 それに対し、彼女は「ふーん」とどうでも良さげな様子である。

 

「何か反応薄いですね」

「だって、王位継承とか言われてもあんまり想像つかないし」

 

 日本からこの世界に転移してからそれなりに時間が経っているものの、ナナホシは国の揉め事に関わったことがないのだ。

 アリエルやザノバといった王位を持つものとある程度親しくなったとは言え、信頼関係まで構築されてる訳でもない。

 そんな状態でアリエルが王になるのが確定的だと伝えられても、良かったねとしか言えないだろう。

 武力的な話はもってのほかだ。

 王級だとか帝級などと言われても、サッパリである。

 オルステッドより弱いということしか分からないのだった。

 

「それに、あなたに言われた転移陣の作成に忙しかったのよ」

「完成しました?」

「まだに決まってるでしょ。あんな複雑なの簡単に作れるわけないし」

 

 日本への帰還用転移陣の作成を依頼してから約2ヶ月ほどだろうか。

 アスラ王国のいざこざに向かい、解決して帰還するまで大体それほどの帰還が経過した。

 しかし、ナナホシが作ろうとしているのは直径にして50メートル、高さ1メートルくらいある魔法陣だ。

 更に4方1メートル、高さ10センチほどの石版を10枚ずつ積み重ね、縦横に50枚ずつ並べたりする必要がある。

 それを1人で作成していくのだから、2ヶ月で完成させるのは厳しいだろう。

 残念ながらペルギウスは手伝ってくれないのだった。

 

 リベラルなら完成させられるが、それは経験や龍族特有の体力の多さ故のものだ。

 普通の女の子であるナナホシと比べるのは酷だろう。

 

「ま、仕方ないですね。私も手伝いますよ」

「助かるわ。最近はずっと寝不足だったのよ」

 

 ということで、リベラルも転移陣の作成に参加することもなった。

 彼女は過去に作成経験もあるため、当然ながらテンポよく作られていく。

 元々はナナホシがメインだったが、途中からリベラルが主導して作ることになるのだった。

 

「ふふ」

「何笑ってるのよ? 気味悪いわね」

「いえいえ、こうしてまた静香と一緒に地球に帰るための共同作業が出来るとは思わなくて」

 

 転生するまえのリベラルは、ナナホシを元の世界に戻すために転移装置を共に開発していた。

 だからこそ、こうして再び同じことを出来るのが嬉しかったのである。

 

「昔は貴女の持っていた本を元に試行錯誤してたのに、今では私が教える側ですからね」

「……そう」

 

 嬉しそうに話すリベラルだが、ナナホシは反応に困っていた。

 リベラルの知るナナホシと、今のナナホシは違うのだから仕方ないだろう。

 彼女からすれば知らない人の話をされているようなものなのだ。

 正直、そんなことを言われてもそうなのね、としか思うことが出来なかった。

 

 そんな思いに気付いたのだろうか。

 リベラルは微笑みながら言葉を続ける。

 

「こんな話をするのは私の我儘です。けど、長年の目標がもうすぐ叶いそうなので許して下さいね?」

「分かってるわよ。別に何も言ってないじゃない」

「つまらなさそうな反応をするからですよーってね」

「……謝らないわよ?」

「ふふ、構いませんよ。自己満足でもありますから」

 

 リベラルの年月と、ナナホシの年月ではズレがある。

 何十年も共に過ごした家族のような存在だと思っていても、ナナホシは数年ほど関わりのある友人程度のものだ。

 そのことに思うことはあれど、態々ここでぶつけるほど大人気なくもない。

 

「私としては、こうして顔を合わせられるだけでも十分すぎるほどなので」

「……そのうち私を襲ったりしないわよね? 私、そっちの気はないわよ?」

「…………」

「ちょっと、何よその沈黙は」

 

 あまりの激重感情につい気になったことを口にしたナナホシだが、それが失敗だったことを悟る。

 高校にいたメンヘラの友人のことを思い出し、彼女はドン引きしてしまうのだった。

 

「……まあ、私は純愛好きなので無理矢理はしませんよ」

 

 などと、リベラルは過去の記憶をなかったことにしてそのようなことをのたまう。

 当然ながら、ナナホシはそれを信用せず。

 というより、そっちの気があると言ってるようなものだったので、そそくさと距離を取るのだった。

 

「何で近付くのよ。離れてても出来るでしょ」

「いや、深い意味はないんですって! ただ静香が困ってたらすぐにアドバイス出来るようにって思ってただけです!」

「信用出来ないわよ」

「そこを何とか!」

 

 なんてやり取りをしていると、入口の扉が開かれるのだった。

 そこから現れるのは、白をベースにした豪華な衣装に身を包んだ、銀髪の男。

 この空中城塞の主、ペルギウスだ。

 

 

「随分と騒がしい様子だな、リベラルよ」

 

 

 ズカズカと入ってきた彼は、近くにあった席へと座る。

 そして、リベラルへと視線を向けるのだった。

 

「今日は何を持ってきたのだ?」

「…………」

「何故黙っている? 持ってきてるのだろう? 異世界の食事を」

「持って来てる訳ないでしょ」

「なん、だとっ……!?」

「毎回毎回ご飯をたかりにきて、貴方はまるで乞食のようですね」

「――っ!!」

 

 怒りに震えていたペルギウスだったが、リベラルの言ってることも事実。

 毎回リベラルが来るたびに、ご飯を求めて現れていたのだ。

 ぷるぷる体を震わせながら、彼は無言で立ち上がり去っていくのだった。

 

「ふん、百合の間に挟まろうとする男は馬に蹴られてくたばればいいんです」

「ねえ、私をあなたの同類にしないでくれる?」

 

 そんなやり取りをしつつ。

 数週間後、2人は地球への転移装置を完成させるのだった。

 

 

――――

 

 

 ナナホシの転移装置の完成は、色々な人たちに報告された。

 ルーデウス、ザノバ、クリフは作成に協力していたため、特に喜んでいる様子だった。

 最近は全員忙しいため、手伝うことが出来なかった。

 ルーデウスはアスラ王国の問題を。ザノバはシーローン王国の問題を。クリフは生まれてきた子どものお世話を。

 どれもこれも彼らにとって大切なことだったため、ナナホシは文句なんてなかった。

 むしろ、今まで手伝ってくれたことを感謝していた。

 

 本来の歴史通り、装置は空中城塞の地下15階のエントランスホールにあった。

 そこへと案内された彼らは、異世界転移装置を見てそれぞれの感想を溢す。

 

「ほう、これは……素晴らしいとしか言えませんな」

「くっ、そんな……僕だってこれくらい……!」

 

 ザノバはともかく、クリフは何故か悔しがっていたが、異世界転移装置の完成度の高さには舌を巻いてる様子だ。

 呪いを軽減するヘルメットを被ったオルステッドも近くにおり、表情は見えないが感嘆してるようだった。

 

「素晴らしい出来だろう」

 

 ペルギウスはやけに嬉しそうである。

 リベラルも手出ししているとは言え、ナナホシに召喚や転移の術を教えたのは彼なのだ。

 己の弟子が作ったのだから、胸を張るのも当然だろう。

 それに、リベラルも元は未来のナナホシが持っていた知識を活用してるのだ。

 結局、この装置はナナホシがいなければ完成されなかったのである。

 

「オルステッド。ついに……まだ、完璧ではないかもしれませんが、帰還用の魔法陣が、完成しました」

「やったな」

 

 オルステッドは端的な言葉を1つ残した。

 それでも何故か、暖かさを感じる言葉だった。

 それに対し、ナナホシは満面の笑みで答える。

 

「はい……はい!」

 

 ナナホシはこの世界に転移し、最初に出逢ったのがオルステッドだった。

 言葉も通じず、過酷な環境に身を置くことになった彼女を守ってきたのは彼なのだ。

 今までのループになかった出来事だったため、観察のために保護しただけなのかも知れない。

 それでも、守られてきた事実に変わりないのだ。

 

 特に、オルステッドにとっては途中からそのような打算もなくなっていただろう。

 何せ、自身の呪いの影響を一切受けない人間だったのだから。

 孤独であることの辛さは、リベラルも知っている。

 久し振りに他者とのまともな交流を与えたことは、きっとオルステッドの救いになっていた筈だ。

 

 祝福する彼の姿は、やはり暖かった。

 

「ルーデウス。今日は来てくれてありがとう」

「いや、むしろ今まで手伝うことが出来ずすまん」

「いいのよ。あなたは私と違って、この世界で本気で生きてるんだから」

 

 この世界で生きることを決めたルーデウスと、元の世界に戻ることを決めたナナホシ。

 決定的な違いはあれど、互いの意思は尊重していた。

 ルーデウスは己以外の転生者や転移者の存在に恐怖していた時期もあったが、今ではそのようなこともない。

 むしろ、同郷としてナナホシのことを頼もしく思っていたし、放っておけないとも思っていた。

 何だかんだで、故郷の話を共有出来る存在というのは嬉しいものなのだ。

 

 ナナホシもナナホシで、故郷の話をするのは嬉しかった。

 オルステッドやリベラルとはまた違う安心感だ。

 リベラルに関しても、どうにも平行世界と思わしき場所であり、本当の意味で共有することが出来なかった。

 最も心を開いていたのは、ルーデウスに対してだったかも知れない。

 彼と話す時のナナホシは、いつも嬉しそうだった。

 

「遅れたけど、その、お子さん、おめでとう」

「ありがとうございます」

「……ルーデウスを見てると、時おり置いて行かれたかのような思いになったわ。私は歳を取らないのに、あなたはいつの間にか大きくなってるし」

「…………」

「気付いたら家族が出来てて、子どもも生まれて……。その間、私はずっと帰ることだけを考えて何も変わってない」

 

 その言葉に、ルーデウスは何も言わなかった。

 下手な慰めは、余計に傷付けることになるだろう。

 こればかりは、誰にも心境を理解出来る者がいなかった。

 

「……ねえ、ルーデウス」

「はい」

「私、変われるかな」

 

 ポツリと溢れ出した言葉は、更に続けられる。

 

「まだ好きな人にも告白出来てないし、勉強だってたまに分からないこともある。あなたのように結婚とかして、子どもを作って、なんて考えたこともあるわ」

 

「でも、ふと昔の私と、今の私は一体何が違うんだろう、って思うのよ」

 

「姿は変わらないし、やっていることも変わらない」

 

「だから、不安になるのよ」

 

「元の世界に戻って、私はちゃんとやれるんだろうか、って」

 

 ナナホシの不安は、至極単純なものだった。

 成長する周りを見て、そう感じてしまったのだ。

 元の世界に帰ったとき、もしかしたら時間がかなり進んでるかも知れないし、逆に変わってないのかもしれない。

 けれど、ナナホシはこの世界で過ごした時間は確かなのだ。

 周りが大人になっていれば、その中に混じれるかも分からない。

 変わってなくても、ここで過ごした年月が足枷となる。

 帰ることが望みだが、それでも怖かったのだ。

 

「…………」

 

 不安そうなナナホシ。

 それに対し、ルーデウスはフッと笑う。

 

 

「変われるよ――俺でも変われたんだから」

 

 

 ルーデウスは今でこそ家族に囲まれ立派となっているが、昔は。否、転生する前はそんなこともなかった。

 引きこもりニートとして穀潰し生活を送り、親の葬式にも顔を出さないクズだ。

 転生してからも、最初は美少女ハーレムを作るぞ、なんて思ってクズな思考にとらわれていた。

 転移事件前までは、自分でも酷かったと思うほどだ。

 それでも、今はこうして父親になることが出来た。

 大学も卒業して、愛しい嫁に囲まれ、とても充実した生活を送っている。

 

 昔では考えられなかったほど、今のルーデウスは変わった。

 

「知ってるだろナナホシ。俺のことを」

「…………フフ、それもそうね。愚問だったわ」

 

 これほど説得力のある言葉もないだろう。

 暴走するトラックがやって来た時にいたルーデウスの姿は、今とは似つかわしくない小汚いデブのオッサンである。

 文字通り生まれ変わりでもしなければ、ここまでカッコよくはなれないだろう。

 ナナホシは小さく笑うのだった。

 

「帰ったら、やりたいことをやればいいさ」

「やりたいこと?」

「たくさんあるだろ」

 

 そう言われれば、彼の言う通り色々と湧き出してくるのだった。

 

「そうね……最初は、やっぱりお父さんとお母さんに会いたい。そして秋刀魚を食べるの」

「そうだな。家族は大切だからな。失ってからじゃ……遅いからな」

「友達にも会いたいわね。何だかんだで、楽しかったし」

「ああ、友達は良いよな。俺もザノバとクリフに出会えたことが幸福だったよ」

「好きな人もいるから、その、ちょっと付き合ったりもしたいわ」

「恋人が出来たら世界が変わるぞ。毎日が楽しくなる。シルフィも、ロキシーも、エリスも。俺にはもったいないくらいさ。毎日エッチなことも出来るし」

「……えっちなことは置いといて。でも、まあ、キスくらいはしたいわね」

「そりゃそうだろうな」

 

 なんてことを、2人は話すのだ。

 どれもこれも、多くの人が経験する普通なことである。

 その普通なことを、ナナホシは今までずっと出来なかったのだ。

 帰ることが出来たら、存分に楽しめばいいだろう。

 

「……ありがとうルーデウス」

「どういたしまして」

 

 同郷にしか交わせない暖かさがそこにあった。

 ナナホシはそれを心地良く思いながら、未来のことを馳せるのだった。

 

 と、会話が終わったタイミングで、ペルギウスがリベラルへと顔を向けて口を開く。

 

「リベラルよ。そろそろ我らに答えを教えてもらおうか」

「答えですか」

「そうだ。貴様は言っていただろう。ナナホシの転移が失敗してしまう理由を」

 

 その言葉に、全員の視線がリベラルへと向けられる。

 既にこの場にいる者たちには説明済みだが、ナナホシはタイムパラドックスが原因で、元の世界に帰ることが出来ないと考察していた。

 少なくとも、転移装置の不備ではないことは分かっている。

 

 未来で起きた歪みによって過去に生まれたルーデウス。ルーデウスのもたらした歪みによって転移したナナホシ。ナナホシの失敗によって誕生したリベラル。

 ここまで条件が揃えば、未来に原因があることは分かるだろう。

 そこから導き出した答えが、『未来にナナホシがいるから、元の世界に帰れない』である。

 未来が確定している、なんてことはペルギウスも否定していたが、それでも何か反論することは出来なかった。

 ループをしているオルステッドも、何も言わなかった。

 

 だからこそ、ナナホシは元の世界に帰れないと、そう思われていた。

 

 

「……私がすることは、至極単純です」

 

 

 リベラルはナナホシの元へと歩み寄って行く。

 

 

「誰にでも出来ることであり、けれどとても難かしいことです」

 

 

 彼女の傍に辿りついたリベラルは、そのままナナホシの腕を取った。

 

 

「ただ、約束をするんです」

 

 

 そして、2人は指切りをする。

 

 

「もしも未来に静香がいるのならば、その未来を変える必要はありません」

 

「未来で何かすることを定められていても、その未来を変える必要はありません」

 

「結果を変える必要はないんです」

 

「過程を変えるんです」

 

「未来に貴女がいるのならば、私がまた呼びましょう」

 

「未来で何かする必要があるのならば、共にしましょう」

 

「だから、約束して下さい」

 

 

「元の世界に帰っても――また、会いましょう」

 

 

 これが、リベラルの出した答えだった。

 つまりは、エル・プサイ・コングルゥ。

 未来が……運命が定められているのならば、世界を騙せばいい。

 実際に騙す必要はないが、似たようなものだ。

 

 ナナホシの帰還に必要なのは、確約だった。

 元の世界に帰っても、未来で再び出会うこと。

 そうすれば、『ナナホシが未来にいる』という矛盾はなくなる。

 矛盾さえなくなれば、タイムパラドックスは起きず帰ることが出来るのだ。

 

 ただし、それは強い意思がなくては出来ない。

 

 世界を隔てて、再会の約束を交わすのだ。

 互いに再び会おうという気持ちがなければ、きっと会うことが出来ないだろう。

 時間が経過すれば、想いや記憶というのは薄れていく。

 だからこそ誰にでも出来ることであり、けれどとても難しいことなのだ。

 約束を交わしても、それを果たせるかは別問題である。

 

 けれど、五千年もの前の約束を果たさんとするリベラルなら、それも可能だろう。

 彼女ならば、きっと忘れることなく実現させる。

 

「忘れないで下さい静香。私は執念深いですからね?」

「……当たり前よ。ここで過ごした日々を、私は忘れない」

「なら、良かったです。安心して送り出せます」

 

 そうして、交わされた指切りは離れる。

 リベラルは最初からずっとナナホシのために動いていた。

 約束に対し、不安など何もなかった。

 後は、帰るだけである。

 

 そして、異世界転移装置の最後の準備に取り掛かるのだった。

 

 

――――

 

 

 最後の準備が完了した後、ナナホシは世話になった人たちへと挨拶まわりをしていった。

 そして最後にルーデウスの家へと行き、お風呂を借りて行くのだった。

 空中城塞にあるお風呂は豪華すぎるため、庶民のナナホシには少し合わなかったのだろう。

 ルーデウス宅のお風呂が、一番好きな様子だった。

 

 リベラルもお風呂へと乱入しに行ったのだが、断られてしまい撃沈。

 何とか入ろうとしたが、ルーデウスやエリスによって阻止されるのだった。

 エリス曰く、何か気持ち悪い、とのことである。

 ボレアスの血を引く彼女にそこまで言わせるのはかなりのものだろう。

 泣く泣くルーデウスと入ろうとしたが、それはシルフィエットとロキシーに阻止されるのだった。

 

 ルーデウスの家で、ナナホシとリベラルは寝泊まりした。

 途中までは枕投げなどしてふざけていたが、最後の方は真面目な話も行う。

 本来の歴史通り、ルーデウスはナナホシのために手紙などを用意する。

 地球のどこに転移されるか分からない以上、備えはいくらあっても困らないだろう。

 もちろんリベラルも用意した。

 彼女も手紙を用意し、それとは別に転移魔術に関する本を渡すのだった。

 仮に別の平行世界だったとしても、どうにか出来るようにと思ってである。

 転生前のリベラルのように、協力者を探してもいいだろう。

 

「本当に、何からなにまで、ありがとうございます」

 

 涙ぐみながら、彼女は2人に感謝するのだった。

 そして、ナナホシの帰る日がやって来る。

 

 転移魔法陣の間に現れたのは、ルーデウスとリベラル、そしてペルギウスと下僕達のみだった。

 見送りがないのは、ナナホシの希望である。

 彼女は魔法陣の中心へと向かい、そこに立つのだった。

 大きなリュックを背負った旅装姿で、皆の方を向いて立っている。

 あのリュックの中には、考えられるあらゆる事態を想定して、色んなものが詰め込まれていた。

 リベラルとルーデウスの旅の経験を活かし、必要であろうものを必要最低限用意したのだ。

 

「…………」

 

 言葉は無い。

 言葉は、十分に交わした。

 もう必要ないのだ。

 

「ルーデウス! リベラル! 準備はいいか!」

「私はバッチリですよ」

「こっちもオッケーです」

「ナナホシ、いいな!」

 

 ナナホシがペルギウスに向かい、頷いた。

 

「はい、ペルギウス様、今まで、お世話になりました!」

「礼は必要ない。我も、面白い術式を学ばせてもらった」

 

 ペルギウスとナナホシの別れも、それだけだった。

 二人はすぐに視線を外す。

 そして、ペルギウスは下僕へと目配せをした。

 

「では、始める」

 

 ペルギウスの言葉で、転移装置が起動する。

 魔法陣の端がポウッと光り出し、ナナホシ以外の全員から魔力が吸い取られていく。

 魔力が供給されるのに呼応するように、魔法陣が輝きを増していく。

 青に、緑に、白にと色を変えつつ、魔法陣が光を放つ。

 

 ――ここが分岐点だ。

 

 本来の歴史のナナホシは、ここで転移に失敗した。

 そうして抜け殻となった片割れのナナホシが、転生前のリベラルの元に現れたのだ。

 フラッシュバックするのは、彼女の最期の姿。

 全てに絶望し、生気をなくした顔だ。

 ナナホシを救うために、ここまでやって来た。

 失敗は許されない。許せる訳がない。

 もう二度とあんな思いをさせないと、リベラルは更に魔力を込めていく。

 

 

 そして、

 眩い光が辺りを覆い尽くし、

 ナナホシの姿は消えた。

 

 

「どうだ?」

「……成功です」

 

 事前に設定しておいた魔力の残滓を辿り、転移陣のアーチが成功を告げる。

 転移場所も設定通りの場所になっていた。

 

 七星静香はこの世界から消え去り――元の世界へと帰ったのだった。

 

「……これで、終わりですか」

「そうですね。そして、始まりでもあります」

 

 ポツリと溢したルーデウスの言葉に、リベラルが感慨深く呟く。

 彼女にとっては、ここから新たな約束の始まりなのだ。

 元の世界に返すという約束は、無事に果たした。

 だから、次は。

 

 リベラルは交わした約束を思い出す。

 

(……静香、忘れないで下さいね。また会いましょう)

 

 その日まで、リベラルは進み続ける。

 どんな苦難も、乗り越えてみせよう。

 そう、決心するのだった。

 

 

 

 

 けれど――誰も気付かなかった。

 

 

 

 

 ペルギウスも、その下僕も。ルーデウスも。オルステッドも。そしてリベラルも。

 誰も、その()()に気付けなかった。

 

 本来の歴史で起きた、ナナホシの帰還の失敗。

 その結果として、リベラルが誕生した。

 リベラルは転移事件が起きるまでその存在が確定しておらず、未来がないのに生きている不思議な存在だったのだ。

 では、ナナホシはどうだろうか。

 

 彼女も、不思議な存在だった。

 遠い未来で起きた、過去改変。

 その影響として誕生したのがナナホシ。

 未来の影響で、彼女は現れた。

 

 ナナホシとリベラル。

 そう、2人の存在は似ているのだ。

 共に未来の影響によって生じた存在。

 

 だからこそ、この世界ではそれが足枷となった。

 僅かな影響でしかなかったが……()()は歪さを見逃さなかったのである。

 

 皆が、ナナホシは無事に帰れたと信じていた。

 けれど、そうではない。

 

 

 ――七星静香に最後の試練が待ち受けていることを、誰も知らなかった。

 

 

――――

 

 

 真っ白な空間。

 どこを見ても、その景色は変わらない。

 ここは、どこだろうか。

 私は……帰れなかったのだろうか?

 そう思っていると、ふと声が響く。

 

 

「……本当に、偶然だったよ」

 

 

 そいつは、のっぺりとした白い顔だった。

 しかし、モザイクが掛かっているかのように、その顔を記憶することが出来ない。

 私はその存在を伝え聞いている。

 

 ――ヒトガミだ。

 

 

「……そう、偶然さ。前例がなければ、ボクは君に気付けなかったよ」

 

 

 悪意を感じさせる声。

 私はその声に、恐怖を感じる。

 一刻も早くここから逃げなければ。

 けど、どこに逃げればいいの?

 

 

「リベラルだよ。アイツも最初は見えなかった。どうしてか分からなかったよ。けど、アイツのお陰で、こうして君の存在を認知出来たんだ」

 

 

 怖い。

 私は、私は帰れないのだろうか。

 ここまで来て、帰れない……?

 

 

「異世界転移……凄いね。ボクもそのうち君の世界に行ってみたいものだよ」

 

 

 嫌だ。

 私は帰るんだ。

 ルーデウスにも言った。

 お父さんとお母さんと会うって。

 友達と仲良くするって。

 好きな人とキスとかするんだって。

 

 リベラルと約束したんだ。

 また会おうって。

 

 

「でも、お陰様で君を引き寄せることが出来た。仕方ないとは言え、無の世界を通って来たのは失敗だったねぇ?」

 

 

 身体を動かせない。

 ヒトガミの声だけが、私の中に響き渡る。

 のっぺりした顔が、段々と近付いてくる。

 

 

「元の世界に帰る君を殺したところで、何の意味もない。けど、これは嫌がらせさ」

 

 

 ふざ、けるな。ふざけるなふざけるなふざけるな!

 そんな、そんなことで!

 私は帰るんだ。

 そう約束したんだ!

 

 

「大丈夫、君は帰れるさ――死体の姿で両親の元に届けてあげるから、安心しなよ」

 

 

 そして――私の胸を腕が貫く。

 

 

 不思議と痛みはなかった。

 けれど息が苦しい。

 意識が遠のいていく。

 暑いのに、寒い。

 

 死ぬ。

 やだ、やだよ。

 死にたくない。

 こんな訳の分からないところで、死にたくないよ。

 後もうちょっとだったのに。

 お父さん、お母さん。

 アキ。

 ペルギウス、オルステッド。

 ルーデウス。

 リベラル。

 

 誰か。

 誰か助けて。

 苦しいよ……。

 

 そして――ナナホシの世界は闇に落ちた。







「ビタを倒して、剣神も北神も撃退して、そしてアリエルをアスラ王国の王にして」

「勝ったって思ったんでしょ?」

「これ以上何も出来ないって、そう思ってたんだろ?」

「だから、嫌がらせしてあげるよ」

「ボクのことを忘れられないようにしてあげる」
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