クリフ「リベラルにオムツを履いてもらったぞ。……言っておくが疚しい気持ちはないからな」
ザノバ「魔導鎧も順調に改良しておりますぞ」
リベラル「空気清浄機でオルステッド社長の呪いをほぼ無効化するのに成功しました」
大変お待たせしました。約半年振りです…。やはり時間をあけると駄目ですね…何を書こうとしていたのか分からなくなり余計に筆が進まない悪循環に陥ってしまいます。でも勉強もしなきゃだから書く時間も少ないうぐぐ。
今回は2話更新となってますのでご注意下さい。
魔界大帝キシリカ・キシリス。
彼女の捜索はルード傭兵団を使うことになった。
メインで捜索活動するのは、奇抜派北神三剣士であるオーベール、ヴィ・ター、ナックルガード、元アトーフェ親衛隊全員と、補佐役としてギースだ。
戦力や土地勘、情報収集能力も彼らならば特に問題ないだろうということになった。
十分な資金を持たせて送り出したが、ラノアにいる傭兵団も戦力に余力がある。
残った傭兵団も本来の歴史と変わらぬ集まりなのだ。
オルステッドの活動を手助けする余裕は有り余っていた。
そもそも魔神ラプラスの復活位置の固定に成功したため、布石作りや布石潰しをする機会も減っている。
そのため、オルステッドもラノアから離れる機会が減っており、街中で見掛けることが増えているのだった。
平和な時間だ。
この時代における強大なヒトガミの使徒は、ほとんど潰している状態。
残っているのも、バーディガーディのみ。
彼と邂逅するまでは、きっとその平和も続くだろう。
しかし、意外と言うべきか。
魔大陸へと送り込んだ捜索隊は数ヶ月もしない内にキシリカを発見するのだった。
運が良かっただけなのか、はたまた何かの干渉があったのかは分からない。
だが発見者はギースである。偶然でもなく、彼が優秀だからこそ短期間で発見に至ったのだろう。
オルステッドコーポレーションの連絡網を通し、リベラルたちへとその情報は伝わる。
そしてそれは即ち。
この時代最後の戦いに至るためのピースが揃ったということだった。
――――
コツコツと、足音を響かせる。
事務室へと訪れた銀緑の彼女は、静かに扉をノックした後に部屋へと入っていく。
正面の机に座るのは、龍神オルステッドだ。
彼はアポもなく現れた彼女に怪訝な表情を見せながらも、書物を整理して迎え入れた。
「リベラルか。どうした?」
「オルステッド様、話があります」
真面目な様子でそう告げたリベラルに対し、彼は無言で続きを促す。
「キシリカ様、見つかりましたね」
「ああ、そうだな。もっと時間が掛かると思っていたが……ギースの手腕が良かったのだろう」
「殺さず仲間にして良かったでしょう?」
「ふっ、その通りだったな」
元々はギースを始末すべきと考えていたが、ここに至るまでの間、彼は有能な働きばかりしてきた。
何百と世界を繰り返しているオルステッドの最後の一手を毎回防いできた存在だ。
無能な訳がないだろう。
ギースの価値を見抜けず、役立たず呼ばわりしてきた彼に追い詰められているヒトガミの姿は、あまりにも滑稽だった。
「……仲間というのは、良いものだな」
「それはそうでしょう。一人では困難なことも、誰かと共にすれば呆気なく解決することもありますからね」
感慨深く呟くオルステッドに、リベラルは同意を示す。
今までは呪いによって孤独な戦いを強いられてきた。
もちろん、これまでのループの中で共に戦ってきた存在が誰一人いなかった訳ではない。
それでもここまで多くの者と足並みを揃えて戦えたことは、初めてだった。
あれほど苦労していたと言うにも関わらず、今回は信じられないほどスムーズに物事が進んでいるのだ。
自分一人だけでは、決して出来なかったであろうことだ。
「…………」
オルステッドはこれまでのことを思い出すかのように、静かに目を閉じる。
けれどすぐに目を開き、リベラルを見据えた。
「……それで、本題は何だ? 態々そんな話をしにここへ来た訳ではないだろう」
彼女は時おり世間話をすることがあるが、基本的にはすぐに本題に入るタイプだ。
何かしら大切な話をする時は、必ず当事者だけで話そうとする。
いつものようにふざける様子もないことからも、確実にそうだろうとオルステッドは考えていた。
「もうちょっと感傷に浸っていてもよかったんですよ?」
「いや、それは今することではない。もっと先に取っておこう」
「そうですか」
そんな一拍を置き、リベラルは口を開く。
「以前した話の続きをしに来ました」
「以前の話?」
「私が魔龍王を継げる立場だということについてです」
「――――」
オルステッドは無言でリベラルを睨む。
その視線には、その話をするなという明確な拒絶と怒りが含まれていた。
リベラルはその感情を全て受け止めた上で、視線を外さずに言葉を続ける。
「すみませんオルステッド様。どうしてもしておかなければならない話なんです」
彼女とて、好きでその話をしたい訳ではない。
オルステッドが五龍将に抱いている感情を知っているし、想いも理解している。
けれどこれからする話は、リベラルと五龍将の関係を切っても切ることの出来ない内容なのだ。
以前した時は、ナナホシとの約束もあり口にはしなかったことである。
だが約束を果たした今、もはや引き止めるものはなかった。
「私がその話をするのは……私の中に『龍神の神玉』の一部が埋め込まれているからです」
彼女の話す話。
今しがた告げられた内容を、オルステッドは知っている。
リベラルがヒトガミから見えない理由や、龍神の『固有魔術』を模倣出来たのも龍神の神玉があるからだ。
その話は既に知らされているものである。
だからこそ、彼は気付いた。
リベラルが何を言葉にしようとしているのかを。
「『龍神の神玉』はーー『五龍将の秘宝』の代わりとして使用できるんです」
意図的に触れないようにしていたことだった。
しかしそれは、彼女の口から告げられてしまう。
「ーー私を殺せば、魔神ラプラスの復活を待つことなくヒトガミの元へ到れます」
リベラルがこのことを伝えたのは、目的の優先度が入れ替わったからだ。
以前までは、ナナホシを帰還させることが一番の目的で、その次にヒトガミの打倒だった。
けれどナナホシを元の世界へと無事に帰したため、ヒトガミの打倒が必然的に繰り上げられたのである。
思い残しはない。
故に、その発言に躊躇はなかった。
「ーーーー」
オルステッドは怒気を纏い、リベラルを睨み付ける。
その胸中は、もはや自分自身にも分からぬほど掻き乱されていた。
「ーー……何故、言ってしまった」
ポツリと溢れた言葉からは、悲しみや後悔が混じっていた。
言わなければ、追及する気はなかったのだ。
元々、ある程度は勘付いていた。
しかし意図的に話題にすることを避けた。
その真実は、よりオルステッドを苦しめることとなるから。
知らなくて良い真実だったのだ。
五龍将の宿命へと憎悪を抱き、オルステッドはカッと目を見開く。
「リベラル。お前はまだ正式に魔龍王を継いでいない立場だ。何故、それを先に言ってしまった」
「ヒトガミを倒すことが今の私にとって最優先事項だからです。私の命を捧げることで達成出来るなら……それが一番でしょう」
別にリベラルとて、死にたい訳ではない。
ただ、現状最速でヒトガミの元に至るための手段が、命を対価にすることだっただけである。
彼女はヒトガミを倒したいし、オルステッドもヒトガミを倒したい。
きっとラプラスならば、自身の命を捧げたであろう。
魔龍王を継ぐ立場であるリベラルも、それは同じ気持ちだった。
彼女がこの話を告げたのも、使命だけでなく義務的なものもあったのだろう。
今はヒトガミを相手に有利に事を進められている。
けれど、未来も有利であるとは限らないのだ。
ロキシーやシルフィエットが魔石病になってしまったように、とんでもないどんでん返しを受ける可能性もゼロではない。
だが、ここでヒトガミの元に到れるのであれば、そのような窮地に陥ることもないだろう。
有利を保ったまま、ヒトガミとの戦いに挑めるのだ。
「……ナナホシとの約束はどうするつもりだ」
「…………」
「約束したのだろう。いつかまた会うと」
オルステッドの言葉に、リベラルは沈黙する。
もちろんそのことを忘れていた訳ではない。
けれど、約束は既に果たされたのだ。
生涯を掛けてでも救いたかったナナホシは、既に救われた。
再び交わされた約束はーー必ず果たす必要もない。
「静香には、手紙くらい残して置かなければならないですね」
「…………そうか。そこまでの覚悟を持って言ってるのだな」
「私は、魔龍王の娘ですから」
結局、その事実に行きつく。
前世での思い残しはなくなり、今のリベラルが背負うのは父親の願いだ。
ヒトガミを倒すのに必要であれば、躊躇する訳にいかない。
自分のワガママのせいで、過去に勝機を逃しているのだ。
ナナホシのことがなければ、既に五龍将の秘宝を集めてヒトガミに到ることが出来ていた。
だからこそ、その分を返さなくてはならないと彼女は感じていた。
「…………」
オルステッドは沈黙する。
彼女の言い分を理解しているからだ。
その上で、これまでの過去を思い返していた。
「リベラル」
「はい」
「お前は、親友や恋人、大切な者を……自らの手で殺めたことはあるか?」
「……あります」
彼女が思い返すのは、赤竜王サレヤクトの姿だ。
かの竜はリベラルと長い時間を共に過ごした家族とも言える存在だった。
お互いにそう思っていたことだろう。
それぞれ違う道を歩んでしまった結果、敵対することになったが、それでも彼女の抱いていた思いは変わらない。
ラプラス戦役にて、サレヤクトを殺すことになってしまった。
最後の一撃を入れた感触を、リベラルは未だに覚えている。
「ならば分かるだろう……その苦しみが」
「…………はい」
「俺にとって
視線を逸らしたオルステッドは、思い出すかのように空を仰ぎ目を閉じる。
噛みしめるように、そのまま言葉を続けた。
「知識も技術も、全て受け継いで来た」
「…………」
「そしてそれはリベラル、お前も例外ではない」
確かに彼女の齎したものは、他の五龍将に比べて少ないだろう。
それでもオルステッドは知識も技術も切り捨てずに受け継いだ。
同じなのだ。
時間の差はあれど、リベラルのしてきたことは他の五龍将と何も差はなかった。
何百と繰り返してきた中で生まれたイレギュラー。
今後二度と起き得ぬであろう奇跡の存在。
何も感じぬ筈がないだろう。
リベラルがオルステッドのことを特別視してるように、オルステッドもまたリベラルのことを特別視していた。
「それは身に余る光栄ですね」
端的に呟いた言葉に、オルステッドは返答しない。
真面目な表情を崩さぬまま、リベラルのことを見据えていた。
「……リベラル、俺は普通の存在ではない」
「それはまあ、そうでしょうね」
「ヒトガミを倒すまでずっと同じ時間を繰り返し、前に進めないことが宿命付けられている」
「…………」
「呪いによりまともに人と関わることも出来ず、ずっと戦い続けてきた……」
その言葉からは悲観や諦観、憎しみ、怒りと、様々な感情が渦巻いていた。
オルステッドは世界最強の資質と力を持っていながらも、世界で誰よりも宿命に囚われていたのだ。
「心が折れそうにもなった」
何度も出会いと別れを繰り返し、何度も死を経験し、何度も逃れ得ぬ悲劇を迎えてきた。
その度に過去へと戻り、けれど誰にも記憶されず孤独に生きてきた。
何のために生きているのか、何のために戦い続けているのか。
ヒトガミを打倒した先に救いがあるのか、それすらも考えられなくなった時期もある。
苦痛を誰にも共有出来ず、今まで生きてきたのだ。
そんな最中、オルステッドの前に現れたのが……彼女たちだった。
「リベラル。お前やルーデウスの存在は……俺にとって希望とも言えるものだ」
呪いを克服しており、己の境遇を把握し、そして共に戦ってくれる。
それがどれほど貴重であり、心から求めていた存在だろうか。
言わずとも理解できよう。あまりにも都合の良い存在だ。
けれど、2人の存在がオルステッドの苦痛を和らげていたのは確かだった。
「配下と言える存在は今までに居たことはある。だが、それは恐怖に付き従っているだけの存在だった」
彼女たちは……否、今のオルステッドの周りに、恐怖に突き動かされているものはいない。
それは今までに経験したことのない、新たな局地だった。
誰も彼もが顔を引き攣らせることなく、自然体で接してくれる。
誰も逃げないし、怯えたりしない。錯乱して襲い掛かってくることもない。
普通のことでありながら、オルステッドは五龍将以外でそのような関係性を築くことが出来なかったのだ。
今や彼の周りには、頼もしい仲間が集っている。
たったそれだけのことが、何と嬉しいことか。
どれほど待ち望んでいたことか。
「お前たちは俺の気持ちに寄り添い、共に考えてくれる……それだけでも特別視するには十分だろう」
そして、彼は一拍置いて次の言葉を告げる。
「これは龍神としての命令ではない。友としての頼みだーー」
「自身の命を軽視するな」
「リベラルが思っている以上に、俺はお前に気を許している」
「俺のために命を使おうとしなくていい。俺のために生きてくれ」
「五龍将ではない、ただのリベラルとして共に戦って欲しい」
「それが……俺の望みだ」
絞り出すかのように語られたその言葉に、リベラルは返事をすることなく彼の目を見据えた。
これは単純な話ではないのだ。
リベラルの命を犠牲にしなくていいというのは、あらゆるリスクを背負うことになる。
この世界は既にオルステッドの知る世界と、リベラルの知る未来からも外れているのだ。
何が起こるのか予測は出来ても、全てが不確定な世界である。
この先どうなるかなんて、2人には分からない。
むしろ、未来視を持つヒトガミの方が有利になる可能性すらあるだろう。
それでも尚、オルステッドはそう告げたのだ。
「……いいんですか?」
「ああ」
彼は迷わず即答する。
「すぐにでもヒトガミを倒せるかも知れないんですよ?」
「構わん」
「ーーーー」
真っ直ぐ告げられたその発言に、流石のリベラルも動揺してしまう。
「不利な状況になる可能性があるんですよ?」
「そうならないためにも、リベラルやルーデウスがいるのだろう」
彼女の言葉は否定され、そしてオルステッドは続ける。
「それに……共に見たいんだ」
「何をですか?」
「ヒトガミを倒した先の未来を、仲間たちと」
それが今のオルステッドの望みだった。
元々は世界が崩壊しようが、ヒトガミさえ倒せればいいとすら思っていた。
けれど、彼らと共に過ごす内にその考えは変わったのだ。
リベラルたちとの出会いは、紛れもなくオルステッドの心の奥底に刻まれていた。
敗北してもいいという訳ではない。
これまでの歩んできた道程の中で、彼は久方ぶりに心を許したのである。
リベラルたちを信頼しているからこそ、出てきた言葉だった。
長い沈黙が場を支配する。
両者の言い分は至極単純なものである。
リベラルは父親の意思を引き継ぎ、その身さえも犠牲にしていいと言い、
オルステッドはようやく得られた仲間を失いたくないと言っていた。
もはや議論する余地などないだろう。
父親の意思を受け継ぐのであれば、オルステッドの言葉を蔑ろにする訳がない。
ニマニマとしたリベラルが、先に口を開くのだった。
「…………あーあ、私ったらなんて罪な女なんでしょうか」
「何を言ってる」
「オルステッド様にそこまで想われているなんて考えもしませんでしたわ!」
演技掛かった彼女の言葉に、意図を読み取ったオルステッドは呆れた様子となる。
「茶化すな」
「いえいえ、本気の言葉ですよ……貴方にとって私は、何万年も歩んできた内の僅かな時間でしかありませんですし」
「……お前にもいるだろう。何千年と生きていようが薄れることのない存在が」
「ふふ、違いないです。確かにいますね」
リベラルにとってのナナホシやロステリーナのように、心の奥底に刻まれた存在となれたのだろう。
それはとても光栄なことだ。
ラプラスの期待していた形とは違うかも知れないが、それでも望んでいた形の1つになれたのだろう。
配下だろうが仲間だろうが、信頼されていることに違いないのだ。
そこまでの信頼を得られたことを、素直に喜ぶべきだろう。
「分かりました。では、オルステッド……いや、これだと違和感あるしお父様にも怒られそうなので、今までのように社長とお呼びします」
「…………」
「社長、共に頑張りましょう!」
「もういい。何も言うまい……」
呆れた表情を浮かべるオルステッドに対し、彼女は悪戯っぽい笑みを浮かべながらも改める。
「五龍将であることにはもう拘りません。ーーこれからも『銀緑』リベラルとして、共に戦わせてもらいます」
「……ふっ。そうだな、よろしく頼む。リベラル」
手を差し出しながら告げたリベラルに、彼は小さく笑いながら手を差し出すのだった。
「足引っ張らないで下さいね」
「お前は何故余計な一言を毎回言うんだ」
「!? ぐ、にゃあぁぁぁぁっ!!」
オルステッドは手に力を込め、彼女の手を握り潰す。
当然ながら抵抗したが、龍聖闘気を纏う社長には勝てないのであった。
Q.キシリカ確保はえーな。
A.方法については次話記載。単純な方法で確保してます。
Q.リベラル殺されんでよかったな。
A.なんだかんだで大切な仲間だと認識されています。かつての初代龍神も仲間を大切にする心優しい方だったので、きっと親子ともに性格が似たのでしょう。
Q.オルステッドの内心。
A.1人孤独に戦ってきたので、意外とチョロい。真摯に訴えかけるとすぐに絆される(殴