バーディ「決着を付けよう」
リベラル「よっしゃ勝っーー」
闘神鎧「本当の戦いはこれからだ」
今回はちょっとだけ長め。戦闘シーンばかりなのによくこんなに長く書いたなって感じです。でもまあ、ラストバトルに相応しい規模にはなったかと。インフレさせた感もありますが、次回でおしまいなので最後までお付き合いお願いします。
六腕である闘神鎧は、その手に生成した様々な武器を持っていた。
槍、剣、短剣、斧、そして2本の素手。
とは言え、状況によりその武器も形を変えることだろう。
相手の出方をうかがっていたリベラルに対し、闘神鎧は短剣を投げ付けた。
「ふっ!」
真っ直ぐに飛んでくる短剣。当然ながらその程度を防げない訳もない。
軽く弾いたリベラルの斜め横から、カーブを描きながら斧も飛来していた。当然それも弾こうとする。
が、もう一本の斧が全く同じ軌道を描いていたことに気付く。
「っ!?」
身体を動かし斧を避けたリベラル。
ほんの一瞬だけ視線を逸らしたその隙を逃さず、死角に移動していた闘神鎧を彼女は見失っていた。
真横から感じる脅威にリベラルは見えずとも反応してみせるが、ゾクリとした悪寒に襲われる。
(これは受け止められない……!)
直感に従い、大きくしゃがみ込む。その上を轟音をたてて剣が通り過ぎるのだった。
攻勢は終わらず、2本の豪腕がリベラルへと向かう。
「ぐっ!?」
闘神の拳は横へと逸れていく。だがそれは彼女の目論見と違う状況だった。
リベラルは『
それどころか、受け流した筈の威力を殺し切れず、ビリビリと痺れた感覚が残りさえする。
当たる直前に拳に捻りを入れることで、『流』を乱したのであった。
(この技量……このまま打ち合えば詰んでしまう……!!)
明鏡止水により未来の予測を立てたリベラル。
体勢が崩れているこの状況では、十八手目で詰んでしまうことを理解した。
だが、状況を変えることは出来ない。
あまりの威力に体勢を直せないリベラルだったが、それでも淀みない足取りで攻撃を躱していく。
三手目まで。身体を捻りながら避けていたが、次第に限界を迎える。
六手目まで。剣や拳の軌道を跳ね返そうとするが、先ほど同様逸らすことで精一杯だった。
十手目まで。大きく体勢を崩し、後方に飛び退くことで回避する。
(槍を持っていない……? 最初の段階で投げた?)
リベラルは最初に生成されていた筈の槍を、闘神鎧が所持していないことに気付く。
チラリと視線を周囲に向ければ、遥か上空から迫っていることを確認した。
(このまま行けば直撃コースですかね……?)
だが、気付いたところで自身の動きを変えることは出来なかった。
先ほどから別の場所に回避しようとしているのだが、ことごとく防がれ徐々に誘導されているのだった。
十五手目まで。もはや防御姿勢も取ることが出来ず、ひたすら後方に下がり続けることで避けている状況だ。
そして十八手目。下がり切れずに足が縺れて地面に手をついてしまう。
そこに迫る闘神鎧の剣。横に転がって躱すが、それ以上は限界だろう。
ならばと、魔術を用いた回避を選択した。
「『
土魔術により、自身をカタパルトのように横に射出することで回避を試みたのだ。
……試みたのだが、闘神鎧は魔術を用いて『
「なっ……!」
バーディガーディは魔術を扱うことがない。自身のその身を持って戦う魔王だ。
魔術を扱うことがないであろうというその先入観から、レジストされることを考えていなかったのである。
そして上空から迫る槍が、彼女の肩に突き刺さった。
「ーーーー」
闘神鎧は槍が刺さる前から既に準備をしていた。
決定的な隙を見逃さず、六腕から二腕に形を変えていたのだ。
既にその拳を振るい上げている。
唸りを上げて迫る拳は、圧倒的な質量を持っているのか白い光を照らし輝く。
それを目前にしてリベラルが感じたのはーー防ぐことの出来ない死の景色。
そしてこの日ーー魔大陸の地図は書き換えられることとなった。
まるで核爆弾が落ちたかのような衝撃が走る。
荒野に何キロメートルにも及ぶ巨大な穴が、ポッカリと開いた。
崩壊した大地の隙間から海流が入り込み、次第に穴は海で満たされていく。
これほどの規模の攻撃を行えば、放った本人も無事とはいかないだろう。
しかし闘神鎧はその防御力の高さと、無尽蔵とも言える再生能力によってほぼ無傷の状態であった。
闘神鎧の眼前には巨大な海が広がり、そこにリベラルの姿は見当たらない。
だがその眼は対岸へと向けられており、彼女の存在をハッキリと認知しているのだった。
ーーーー
観戦していたルーデウスたちは、光とともに映像が途絶えたことに沈黙していた。
映像はアルマンフィが現地に向かうことで送られて来ていたのだが、先ほどの一撃で彼は消滅したようだった。
もはや戦闘の規模が変わり過ぎて、誰も言葉を発せない。
途中までは明らかにリベラルが優勢だった。
しかし突然その均衡は崩れ、動きの変わった闘神鎧に圧倒されていたのだ。
「闘神……これほどとはな。我の見通しが甘かったか」
「いえ、これは……流石に予想出来ないのでは」
「我は無意識の内に闘神はラプラスよりも弱いと思い込んでいた。だが、これは……」
言葉は続けられなかったが、ペルギウスが言いたいことは皆に伝わる。
例えばルーデウスも本気で魔術を扱えば、地形を変えることは出来るだろう。
しかし地図を書き換えるような規模は無理だ。
自分が巻き込まれるとかそいうのは度外視しても、想像すら出来ない。
実際に戦えば魔神と闘神のどちらが強いかは分からないだろう。
けれど、闘神が七大列強三位であることは伊達ではなかった。
「……仕方あるまい。俺も出よう」
沈黙を保っていたオルステッドが、ポツリと呟いた。
もはやリベラル1人だけに任せられるような状況ではなかった。
この場で戦闘に混ざれるのは、オルステッド以外にいないだろう。
「そうか。ならば一度リベラルを呼び戻すとしよう」
仕切り直しにする必要があった。
そうして召喚するために魔力を込めたペルギウスだったが、いつまで経っても彼女が現れることはなかった。
魔力を込めていた彼は、苛立ちを隠せないかのようにバンッとテーブルを叩く。
「どういうつもりだ!? 我の召喚を拒んだぞ!」
「と、いうことは……」
「まだ1人で戦うつもりらしい。巫山戯おって……!」
少なくとも、リベラルが生存していたことにホッとはしている。けれどそれとこれは別なのだろう。
感情を露わにするペルギウスを珍しく思いつつ、オルステッドはどうすべきかと思案する。
状況的に見れば、加勢するべきだろう。このような強敵相手に一対一でこだわる必要もない。
魔力の回復速度のことを考えれば参戦は痛手だが、ここで闘神を取り逃がすことに比べれば安いものだろう。
「まあ、いいんじゃねぇか。まだ勝算があるから拒否したんだろ……したんじゃないでしょうか」
傍から聞こえたパウロの声に、オルステッドは思考を止めた。
「……パウロ・グレイラット。お前はまだリベラルの勝利を信じているのか」
「え? あぁ、まあ確かに闘神がやべぇってのはよく分かったけどよ、不思議とリベラルは負けない気がするんだ」
とても曖昧な根拠だ。
正直そのような勘頼みに縋るわけにいかないだろう。
けれどそれに続いて、他の者も声をあげた。
「そうだよね。ボクもそう思うんだ」
「ええ、それにリベラルさんは闘神との戦いでこうなるかも、って少しだけ言ってましたので」
シルフィエットとロキシーの言葉。そしてそれに同意するかのように、エリスが隣で腕を組みながらふんっと鼻を鳴らしていた。
その発言を受け、オルステッドはルーデウスへと視線を向ける。
「ルーデウス、お前もか?」
「……そりゃあ助けに行った方が良いとは思いますよ。けど、リベラルさんは俺達に言ったんです。『私が勝つから迎えの準備をお願いします』って」
「大した自信だな……」
「俺もそう思います。でもそこまで断言する理由は、俺よりもオルステッドさんの方が知ってるんじゃないですか?」
「…………」
確かに彼はリベラルの想いを知っている。
どうして闘神と戦うことに執着しているのかは、以前に言われたばかりだ。
だが、リベラルを失うことだけは避けたいことも事実。
このまま見守るかどうか天秤に掛けたとき、やはり傾くのはーー。
「信じましょう。それが仲間です」
「ーーーー」
その言葉にオルステッドは開こうとした口を閉じ、逡巡する様子を見せる。
けれどやがて小さな溜め息を溢し、一歩後ろに下がるのだった。
「……ただ待っているだけなのが、これほど大変なことだとは知らなかったな」
「大丈夫ですよ。俺も似たような思いですから」
「フッ、そうか」
オルステッドは大人しく待つことにした。
仲間を信じる。
今までのループでは、一度もしたことのないことだ。
これまでの布石潰しとも違う。
この勝負の行方は、ヒトガミとの戦いに大きな影響を与えることになる。
そこに自身が関わることが出来ず、ただ信じて待つことがこれほど辛いことであるとは思わなかった。
「ふん……手助けする気がないのならば良い」
その様子に、ペルギウスはつまらなさそうに呟くのだった。
「だが、ここでただ傍観しているだけなのは愚かなことだ。リベラルが負けた時のことも考えておくのだな」
「安心しろ。その時は俺が責任を持って決着をつける」
「そうか……ならばよい」
そのタイミングで、復活したアルマンフィが皆の前に戻ってくる。
ペルギウスは再びリベラルの元に行くように命令し、戦いの行方を見守るのだった。
ーーーー
対岸まで弾き飛ばされていたリベラルは、当然ながら無事とは言えなかった。
致命傷だけは何とか避けるために防御したのだが、その代償として四肢は捩じ切れダルマのような状態になっていたのだ。
仰向けに倒れていた彼女は、空の景色を眺めながら治癒魔術によってその身を再生させていく。
「はぁー……インフレが過ぎませんかね……」
闘神鎧の一撃は、龍族の固有魔術である『龍門解放』を身に纏っていたものだ。
恐らく過去の装着者であるラプラスから、類似した魔術を生み出したのであろうと予想する。
しかし驚くべきはその精密さだろう。
リベラルもやろうと思えば同じ規模の破壊力を生み出すことは出来る。それでも今までずっとしなかったのには理由があった。
以前にも述べたが、純粋に自爆するリスクが高いからだ。圧倒的なエネルギーであるが故に、その境界を超えないコントロールが難しい。
だと言うにも関わらず、闘神鎧は見事にコントロールして見せたのだ。
まるで機械のような正確さである。
「私も……言い訳せずにやるしかありませんね……」
立ち上がったリベラルは、闘神鎧と同じように四肢が光り輝いていく。
更には四肢だけでなく、『
かつてのラプラスと同じ結末を辿る可能性もあるだろう。
だけどもうそんなことを言っている場合ではなかった。
闘神鎧はそのような甘さで勝てる相手ではない。
あらゆるリスクを度外視し、全てを賭けて戦わねば勝てぬ相手だった。
対岸がキラリと光ったかと思えば、弾丸のように飛翔した闘神鎧が、海を割りながら迫りくる。
一瞬とも言えぬ速度でリベラルの眼前へと到達し、そのまま体当たりした。
彼女はその衝撃を全て受け流すかのように脱力し、慣性に従ったまま闘神鎧とともに何キロメートルも弾き飛ばされる。
空中で追い付いた闘神鎧は、そのまま地面に叩きつけるかのように拳を振るった。
だが、それより先にリベラルの拳が顔面を捉え、闘神鎧を上空へと弾き返す。
リベラルは地面を蹴り、それを追い掛けるように上空へと飛翔した。
「!!」
闘神鎧に翼が生える。
どうやら武器の生成だけでなく、肉体の変化も行えるらしい。
肉体変化の魔術は元々は魔族の生み出したものだ。
驚くこともないだろう。
リベラルも自身の龍族としての身体を解放し、背中に羽を生やして飛翔を続けた。
そもそも空中戦は龍族が得意としている分野だ。
現在は龍族の数自体が少ないため、飛んでいる者など皆無と言えよう。
だが、太古の時代では戦士で飛べぬ龍族などいなかった。
当然ながら、彼女もラプラスから教えを受けている。
翼に龍気を込め、力場を発生させる。そして力場を操作して滞空し、風を利用して滑空するのだ。
「空中戦は龍族の十八番。負けるわけにいきませんね……!」
まるで慣性を無視するかのように、高速でありながら直角に曲がるリベラル。
闘神鎧は流石に飛行の制御が難しいのか、彼女の動きに付いて行くのは一手遅れている状態だった。
分が悪いと感じたのか、巨大な竜巻を魔術で発生させようとする。だが、魔術こそリベラルの得意分野だ。
竜巻が発生する前には散らされていくのだった。
そうして動き続け、完全に闘神鎧の背後を取ったリベラル。
そのまま手を伸ばすがーー。
「やはり反応しますか」
突然速度が上昇した闘神鎧は、目にも止まらぬ速度で剣を振るった。
が、動きが鈍いことはブラフだとリベラルは最初から想定していたのだ。
重力魔術を発動していた彼女は、地面へと加速的に落下することで剣を回避する。
闘神鎧はその並ならぬ魔力量によって重力魔術をレジストしており、何の影響もなくその場にいるままだった。
闘神鎧のレジスト能力を逆手に取った駆け引きだ。
妨害を受けることなく足を掴んだリベラルは、力の流れを変え大車輪のように闘神鎧の身体を振り回す。
手を放して上へと投げれば、闘神鎧はきりもみ回転しながら落下する。
そして、右手に渾身の龍気を溜め込み、
「ーー光の太刀!!」
ガキイィィィン! と甲高い衝撃音とともに闘神鎧は弾き飛んでいく。
あまりの威力に空中で止まることも出来ず、遠くに見える山まで吹き飛び衝撃音を響かせるのだった。
リベラルはそれを追い掛けずに、今しがた起きた状況を思い返していた。
(光の太刀を防ぐとは……私には真似出来ない方法ですね)
光の太刀とは、その速度も当然だが防御不能であることも最強たらしめている技である。
闘神鎧は六本の腕を使い、『止水』を扱うことで防御不能の一撃を防いでみせたのだ。
衝撃は殺しきれなかったようだが、その防御力を突破出来なかったことの方が問題だった。
破壊力だけで言えば、この世界に光の太刀を超える技はない。
ラプラスの技を扱う闘神鎧の防御を掻い潜り、直撃させなければならないのだ。その難しさは言うまでもないだろう。
山がキラリと光ったかと思えば、闘神鎧が六本の腕にそれぞれの武器を携え高速で現れる。
その六本を十全に扱い、空中で武器を振るう。
流れを乱され水神流の技で跳ね返せないとは言え、逸らすことは出来る。
まるで機械のように正確に振るわれる武器は、リベラルに届くことなく横へと逸れていく。
(この威力……掠っただけで押し込まれる……!)
逸らした攻撃は、それぞれの方向に影響を与えていた。
大地は大量の切断面により、足場のない地割れだけとなり、
遠方に見える魔王城は破壊され、山は真っ二つとなる。
空は割れ、世界にその攻防を響かせていた。
一撃一撃が必殺の威力を秘めており、それが六腕から嵐のように降り注ぐのだ。
しかも、合理を持って攻め立てている。
ちょっとした失敗であろうと、判断ミスをすれば最初の攻防のように詰みへと追い立てられるだろう。
途轍もない重圧と攻勢の中、リベラルは焦ってはいなかった。
(強い……本当に強いです……)
心の中で、闘神鎧の持つ実力を称賛していた。
(正確無比な技量に、世界すら破壊しうる暴力。更には不死とも思える再生能力。今の私にはない強さです)
常人ならば絶望すらする状況。
父親であるラプラスですら、超えることの出来なかった高き壁だ。
けれどリベラルはーーその逆境に笑みすら浮かべていた。
(未来の私は言った。出し惜しみは必要ないと。全てを出し切り戦うべきだと。限界を知ることが、新たな極致に踏み込むための一歩になると)
既に『
奥の手は使うことも出来ない。隙と負担が大き過ぎるのだ。具体的に言うと、使用後に死亡する。
未来ではオルステッドに使おうとしたものの、ビタが先に死亡したため死にはしなかった。
そしてこの戦いで、彼女は死ぬつもりもなかった。
(だからこそ、私はまだまだ強くなれるーー歩み続けることが出来るーー!!)
今はまだ、完璧な打開策は見えない。
だが、この戦いを乗り越えることが出来れば、リベラルは更に先の極地へと至ることが出来るだろう。
「ーーそこっ!!」
合理を極めたかのような完璧な攻撃を、闘神は繰り広げている。
しかし合理はリベラルも最上級へと至っているのだ。
闘神鎧がミスをした訳ではない。
明鏡止水により未来を見通している彼女は、一手だけ闘神鎧の先を進んだ。
闘神鎧の嵐とも言える攻撃に半歩だけ間合いを詰めていた彼女は、先にその腕を当てていた。
その一撃によって闘神鎧は大きく仰け反り、その瞬間には光の太刀によって肩から腹部まで縦に切り飛ばしていたのである。
そのまま攻勢に移ろうとしたが、闘神鎧が残った腕をリベラルへと向けると、白い光が放出された。
「!!」
『龍門解放』による、指向性を持った高エネルギーの奔流だ。
流石に直撃する訳にいかないため横に飛翔して回避するが、闘神鎧は再度手を向け光の奔流を放つ。
「だったら押し合いでもしましょうかーー!!」
それに対し、リベラルも手を向け光の奔流を放った。
ぶつかり合ったエネルギーの塊は、その質量を空間に押し止めることが出来ず、白い爆発を起こして2人を弾き飛ばすのだった。
爆発による煙幕が張られている中、闘神鎧は持ち前の耐久性から早期に復帰し、煙を突き抜けてリベラルへと体当たりしていた。
体勢を立て直せていなかった彼女は、『止水』によって威力を減退させるが、そのまま弾き飛ばされてしまう。
何キロメートルも弾けた彼女は、遠く離れた森の中に墜落する。
「ぐぅぅ……痛覚ってものがないんですかね? 私はめちゃくちゃ痛いのに……」
軽口を叩きつつ闘神鎧に備えようとしたが、突如横合いから別の別の存在に襲われた。
リベラルの知覚出来る範囲内にも、無数の魔物が棲息している状況だ。どれもこれもAランクやBランクといった強大な魔物である。
が、今はその程度の存在を気にしている暇はなかった。
リベラルが僅かに魔物たちへと気を逸らしている間に、闘神鎧が隕石のように降り注いで来ていたのだ。
すぐさまその場から退避する。
その瞬間、巨大なキノコ雲とともに森は消滅するのだった。破壊ではなく文字通り消滅だ。
当然ながら魔物たちも一瞬にして消滅した。
「さっきから好き勝手してくれましたね……仕返しですよ……!!」
回避していたリベラルは、闘神鎧の動きを模倣するかのように突撃する。
白い光を纏ったまま蹴りを直撃させると、闘神肉体を破壊させながら弾き飛ばした。
衝撃波によりキノコ雲は霧散し、停滞していた空間に木々や大地の瓦礫が降り注ぐ。
内から溢れ出る龍気を身に纏い始めてから、既にある程度の時間が経過している。
力の制御が出来ずに自爆することを恐れていたリベラルだったが、徐々に慣れてきていたのだ。
当初に比べ、明らかに破壊力が増していた。
彼女の攻撃もまた、闘神鎧に負けず劣らずの威力を発揮し始めたのである。
闘神鎧の肉体はバラバラとなっていた。
しかし凄まじい速度で肉片は繋がり、あっという間に再生して無傷の姿に戻るのだった。
ただ破壊力があるだけでは、闘神鎧を倒すことは出来ない。
「ーーーー」
「ぐっーー!!」
闘神鎧は猛スピードで突撃したかと思えば、リベラルの攻撃を無視して身体を掴む。
そして飛翔した勢いのまま、地面へと激突していく。
が、大地に叩き付けられてもなお勢いは止まらず、地面の中を突き進んでいった。
未だ止まらず、大地を砕いていき、砕いていき……やがて魔大陸を突き抜け海の中へと到達するのだった。
「ゴボッ?! ガバァ!!」
突然呼吸が出来なくなったリベラルは一瞬慌ててしまうが、すぐさま現状を理解する。
大地を突き抜けたことで、突進の威力は消失していた。
闘神鎧を振り解いた彼女は、そのまま突き飛ばして距離を取る。
緩やかに水中に浮かんだリベラルは闘神鎧を見据えたが、その闘神鎧の姿はみるみる変形していった。
ところどころにエラが生え、そして水かきのように四肢が変化したのである。更には人魚のような尻尾まで携えると、水中を猛スピードで旋回するのだった。
地上にいたときと遜色ない速度だ。
水中にいるリベラルは流石に動きが鈍り、闘神鎧の動きに追い付けない。
簡単に背後へと回り込まれると、そのまま一撃を受けてしまう。
「ゴブッ」
水中を吹き飛ぶリベラルを、闘神鎧は追撃するように追い掛ける。
だが、このままなすすべなくやられる彼女ではない。
鋭い眼光とともに、闘神鎧を視界に収めていた。その腕は今まで以上に光り輝いている。
もはや直視することも困難なほどに、海底を照らしていた。
闘神鎧は何が起きるのか理解していた。遠くへ回避するという選択肢もあったが、攻撃前に出どころを潰すという判断をする。
更にスピードを上げ、先に攻撃しようとしたが……リベラルの方が僅かに速かった。
振るわれた拳は凄まじい爆発を引き起こし、その空間を消滅させる。
ポッカリと海面に穴が開けば、その中心から闘神鎧が空へと吹き飛んで行くのだった。それを追い掛け、リベラルも海中から空へと飛翔する。
ーー『龍門解放』の力を徐々に制御し始めていた彼女は、当初よりもずっとその力を増していた。
大陸に巨大な穴を開けた闘神鎧の一撃を、今ならば彼女も放てるだろう。
真の力を引き出した闘神鎧に、最初は押されていた。けれどその力の均衡は徐々に傾いていき、今や追い越そうとすらしていた。
このまま力の制御をより正確にしていけば、順当に勝てただろう。
だがーー闘神鎧はまだその全ての力を引き出していない。
空に追い付いたリベラルは、奥義により一気に勝負を決めようとした。
「不死瑕北神流ーー『不帰』」
ーー『光の太刀』。
ボトリと、リベラルの腕は分離し地上へと落ちていく。
奥義を放とうとしていた彼女の腕は、まるで光とも言える速度で振るわれた剣によって切り落とされたのだった。
闘神鎧は今までに蓄積してきた技術を持って、リベラルと相対していた。
その中には『魔龍王』ラプラスのものもあった。だが、彼は過去の存在であり、現代の技を扱うことはない。
だというにも関わらず、闘神鎧は現代で編み出された『光の太刀』を扱ったのである。
(まさか……!!)
闘神との戦いの中で、リベラルは『光の太刀』を何度か扱った。
そこから導き出される答えは、闘神鎧は歴代装着者だけでなくーー相対した者の技術すらも模倣出来るというものだ。
リベラルは強敵との戦いの中で、急速に成長していった。けれどそれは彼女だけの話ではなかった。
同じように戦っている闘神鎧もまた、戦いの中で急成長しているのだったーー。
ーーーー
ラプラスとリベラル。
今現在この2人が戦ったとき、どちらが勝つか。
状況により勝敗は変わるだろうが、素直に戦うのであればリベラルの方が強くなっていた。
ラプラスの技を受け継ぎ、ヒトガミを殺すためにあらゆる技術を吸収したことが大きいだろう。
発展した武術と技術を持つリベラルに傾くのは、当然と言えば当然だ。
そのために彼女は今まで戦ってきたのだから。
だが、ラプラスがその発展した技術たちを吸収すればどうなるか。
その時はやはりラプラスに戦局は傾くだろう。
とは言えそれは戦っているのがラプラス本人であればの話だ。
現在戦っている相手は闘神鎧である。
「ーーーー!!」
ーー光の太刀。
ーー光返し。
再度放たれた光の太刀は、リベラルのカウンターにより相手の腕を切り落とす結果となった。
けれど闘神鎧は怯まない。
残りの腕を使い、攻撃後で硬直している彼女に2連撃の光の太刀を放つのだった。
「ーーぐっ!!」
今度はリベラルの腕が切り落とされる結果となった。
すぐさま治癒魔術で腕を再生するが、同じタイミングで闘神鎧の再生も終わる。
再び激突した2人は、やはり相打ちの形で両者ともに手傷を負うのだった。
リベラルが龍神流の歩法により距離を詰めて身体を斬り飛ばせば、闘神鎧も全く同じ歩法で距離を詰めるようになる。
防御法についても同様だ。『止水』や『流』だけでなく、様々な技術により攻撃を防いでいたがそれも全て模倣されていく。
次第に闘神鎧へと、攻撃が直撃しなくなるのだった。
「…………!!」
思考まで模倣されている訳ではない。
けれどひとつひとつの細かいフェイントや、技への動きが徐々に彼女の動きと一致していくのだ。
かといって自分自身と戦っているような感覚に陥る訳でもない。
過去の装着者や相対者の動きを、最適なタイミングで切り替えて来るのだ。
まるで無数の英雄たちと同時に戦っているかのような気分だった。
「その手数の多さが羨ましいですよ……!!」
引き離されていた力は、同等にまで追い付いた。
追い付かれていた技量の差は、振り切ることが出来ていた。
だが、再びその技量に闘神鎧が追いつきつつある。
そして厄介だったのが、闘神鎧の六腕だ。
力も技術も追い付かれてきたため、手数の多さを捌き切れなくなって来たのである。
奇しくもそれは、龍鳴山でバーディガーディと戦った状況と似ていた。
あの時も同じ様に実力差は近かったが、手数の差で凌ぎきれなかった。
ダメージを徐々に蓄積させてしまい、最後に押し切られてしまったのだ。
けれど今は違う。
当時のリベラルには技量が足りなかった。
今のリベラルにそんなことはない。
そして未来に歩むための覚悟と忍耐力があった。
(……こうして受けてみると、私の技や動きにもまだ隙はありますね)
闘神鎧が模倣したことで、自身の動きを客観的に評価出来るようになった。
それによって反省点を見つけたリベラルは、その動きに修正を入れて反撃する。
アッサリと攻撃は当たり、闘神鎧は肉体を修復しながら更に修正したリベラルの動きを模倣していく。
再び押し込まれるリベラルだったが、そこからも修正点を見つけ出し、更に技の純度を高めていった。
(なるほど……この修正をしてしまうと3手目に繋がる動きに支障が出てしまいますね。なら別の形に変える必要がありますか)
何合もの攻防を凌ぎ、互いの動きはより洗練される。
僅かな穴を見付ければリベラルはその穴を修復し、闘神鎧がそれを追い掛けていく。
高まり合った技術は、もはや周りを魅了するほどに美しさすらあった。
閃光が舞い、余波が近隣の空間を襲う。
けれど打ち合う2人の周囲は、音すらも置き去りにして静寂であった。
(未来の私は間違ってなかった。出し惜しみしていれば、私は更なる高みには登れなかったでしょう)
リベラルは思考を止めない。
自身の技術は上昇していってるが、それだけでは闘神鎧を倒すには至らないのである。
このまま技量が上がっていっても、いずれは頭打ちになるだろう。もしくは先に体力が尽きるかだ。
千日手になった時、やはり不死魔族に分がある。
勝負を決するには、闘神鎧が追い付けないほどの”進化“が必要なのだった。
(ーー考え続けましょう。私は既に闘神鎧を倒すピースを持っている)
そのピースは、リベラルの持つ奥の手だ。
即ち龍神の固有魔術の模倣である『龍神〈オルステッド〉』の使用。
それを使えば、間違いなく彼女の勝利になるだろう。
なにせ太古の六大神と同じ領域に至ることになるのだから。
だが問題があった。
敗北の未来で使われそうになったそれは、説明したように使用すればその後にリベラルが死亡することになる。
彼女の中に宿る『龍神の神玉』の力を全て引き出し、魔力として扱うことが原因だ。肉体がその魔力に耐え切れず、緩やかに崩壊して行くのである。
リスクに怯えず全てを出し切ると考えはしたが、死ぬことが分かっていて使うのは違うだろう。
それはただの道連れ、もしくは自爆と言うのだ。
(ヒントはあった)
だからこそ、別の道を模索する。
そしてその答えにはもう至っていた。
「……『
リベラルの身体は、更に龍として原始的な姿へと変貌していく。やがて3メートルを超える巨大な姿になるのだ。
部分的に使用して肉体を馴染ませていたため、もはや以前まであった使用後のリスクはほとんど軽減されていた。
更に部分的な使用により徐々に龍の力に至っていたため、詠唱省略でも完全な姿に到れるのだった。
その変身の姿を見逃さず、闘神鎧は巨腕を放つ。
リベラルはそれを受け止め、衝撃に身を任せたまま弾き飛ばされることで距離を取るのだった。
「…………」
砂埃が立ち上る中、リベラルは自身の思い描いていた形を再現していく。
闘神鎧が見せたことだ。龍族でない彼は『龍門解放』を模倣して見せた。そして圧倒的なエネルギーを持って地図を書き換える一撃を放ってみせた。
だからリベラルも、変身した『
龍人とも言える姿になっていたリベラルの身体は眩く輝く。
自身の中にある龍としての力をより凝縮させるのだ。
大きくなっていた身体はみるみる内に縮んで元のサイズへと戻り、龍でない通常の姿にまで戻っていた。
けれどその姿は先ほどまでと大きく異なる。
リベラルの短かった髪は背中まで伸び、淡く光る緑色へと変化する。
瞳は高純度な魔力の影響により残光が迸る。
全身には緑色に輝く光が起き、周囲の空間を歪ませる。
周囲の気温は低下していき、空の景色すら変化していた。雪がしっとりと降り始める。
魔力の高まりだけで、気象すらも変化したのだった。
「ーー感謝しますよ、闘神鎧」
そしてリベラルは、己の力だけで神の領域に足を踏み入れた。
「貴方の強さが、私に進化を齎したーー」
初代龍神の力。
人々を導いた本物の神だ。
彼女は『龍神の神玉』を用いることなく、彼の極地に辿り着いた。
突撃していた闘神鎧を見据え、リベラルは指で空間をなぞる。
世界が歪む。
空間全てに影響をもたらしたそれは、彼女の視界に映る全てを2つに切り分けた。
そしてそれは、闘神鎧も例外ではない。
真っ二つになった彼は、それでも再生しようとする。
けれどリベラルがもう一度指を動かすと、闘神鎧は更に細かく破壊された。
「3度目の正直、ですね」
それと同時に目の前まで移動していた彼女は、闘神鎧ーーバーディガーディの身体をポンッと押した。
再生する前に彼の身体は闘神鎧から離れ、地面に倒れ込むのだった。
装備者を失った闘神鎧もまた、抜け殻のように地面に落ちていった。
「今度こそ私の勝ちですよ、バーディガーディ」
長年続いてきた因縁の戦いが終結する。
勝者はリベラル。
龍族と魔族の歴史に、ひとつの終止符が打たれた瞬間だった。
Q.闘神の戦闘力。
A.書籍版の方も確認しました。書籍版23巻閑話『ギースと最後の仲間』にて語られる闘神本人による戦いの話を参考に。実際に私の作品ほどの力があるのか分かりませんが、それだけの力があったからこそラプラスも相打ちが限界だったのかなと思いました。
Q.何で技名ないんや。
A.センスないから。リベラルのことを『銀緑(ぎんみどり)』とか呼んでる時点でお察しです。もはや募集したいくらいです。
Q.リベラルの最後の姿。
A.分かりやすい例で言うと、超サイヤ人4です。あれも神の領域に到っているらしいですね。同じような感じでリベラルも太古の六大神の領域に足を踏み入れました。
Q.今回のタイトルは何がターニングポイントになるんや?
A.次回詳細書きます。ヒトガミが優しく分岐点について解説してくれる予定です。