どうやら私はほのぼのしたものを書くのは苦手なようです。日常は駄目ですね…。
まあ、これもほのぼのしてるとは言い難いですが…。
因みに、書き直しが発生したのはこの回です。ほのぼのの定義を見失い、ただただリベラルを変態行為に暴走させるだけの内容になってしまい、最終的に何が書きたいのか分からなくなりました。
ラプラスとロステリーナの朝は、意外にも不定期である。早朝から活動をすることもあれば、昼頃から仕事を開始することもあった。酷いときには、夕方に起床することすらあったのだ。
その理由は単純なもので、ロステリーナを拾ったラプラスが、時間に無頓着だからである。長い寿命を持つ者にとって、一秒の価値は低いのだ。
故に、たったの数時間程度の誤差は、何一つ気にされない。夜更かししたロステリーナが起きなくても、誰も咎めることはなかった。
しかし、この龍鳴山には、一人だけある程度のルーチンワークを組み立てている者がいた。
「ふあぁ……ねむ…」
寝起きなためか、緑と銀色の髪をボサボサさせ、小さな欠伸を彼女は溢す。言うまでもないだろうが、リベラルである。
数か月ぶりに睡眠を堪能したリベラルは、ボーッとしながらも起床をし始めた。しかし、まだ頭が半分寝惚けているのか、布団を片付けたリベラルはボンヤリとその場で佇む。
それから数分ほど経過すると、ようやくからだを伸ばし、頭を覚醒させた。
「んぅー…! やっぱり睡眠は大切ですね。寝る必要がなくても、人として感覚を維持するには必要な行為ですよ」
家の庭前へと出ていき、深呼吸しながら明朝の空気をリベラルは味わう。魔術で水を発生させ、軽く顔を洗ってストレッチをしていく。
そうしてからだを解したリベラルであったが、そこでハッとした様子を見せた。
「……鍛練しなくていいから、準備体操する必要ないじゃないですか」
そう、ラプラスに本音をぶつけた結果、リベラルは鍛練を必要最低限するだけでよくなった。
その代わり、『龍神の神玉』の研究に多くの時間を掛けることになったのだが…リベラルとしてはその方がありがたいことである。
それに、自由時間も多くなったため、のんびりとやりたいことをやれるのだ。
(以前は酷かった…)
寝るのは数年に一度のみで、食事は数日に一度だけ。龍鳴山の外にも出ることは叶わない。
ひとつの型を覚えるために、一日中鍛練を行い、それを覚えれば次の型を覚えるのに、再び一日も掛ける。その繰り返しを毎日毎日行った。更には、ラプラスにサンドバックにされるオマケ付きだ。
休憩もろくにもらえず、数時間休めば数十時間鍛練に勤しむ羽目になる。ずっと鍛練しかしていない。
そして、それほどまでにやらされてるのに、ラプラスはあまり褒めることもない。そんな環境でやる気を出せる訳がないのだ。
やる気のなかったリベラルの成長は悪く、実力の伸び代が少なかった。そしてそれを、ラプラスが咎める。咎められたことにより、更にやる気を失わせる。そんな悪循環であった。
ぶっちゃけた話、アトーフェラトーフェの親衛隊になる方が幸せだっただろう。
ラプラスからすれば、大したことのない内容なのかも知れない。しかし、元日本人であり、人間としての感性を持っているリベラルからすれば、それはただの地獄と変わらなかった。
「まぁ、暗い回想は止めてと…フヒッ」
とは言え、それは既に終わったことである。リベラルはアッサリと過去の出来事だと割り切り、気持ち悪い笑いを溢した。
「ロステリーニャンへの進化を進めなくては」
ニヤリと表情を歪め、自分の部屋へと戻って行く。その道中にてロステリーナの寝室に足を運び、ソッと静かに扉を開ける。
中では布団にくるまっていたロステリーナが、スヤスヤと幸せそうな笑みを見せて眠っていた。
忍び足で彼女へと近付く。
「ハァ…ハァ…」
荒い息だ。血走った目をしたリベラルは、ゆっくりとロステリーナへ手を伸ばし、
「…リベラル。何をしてるのだい?」
背後から聞こえた声に、大きく飛び退いてしまう。振り返った先にいたのはラプラスだ。壁に背中を預け、佇んでいる。
彼はじっとりした視線を娘へと向け、とても微妙そうな表情を浮かべていた。
「…アハハ、ちょっとした研究の一環ですよ! やだなーもう。疚しいことは何もしてませんってば!」
リベラルはキョロキョロと忙しなく視線を戸惑わせ、愛想笑いをしながら答える。
そのあまりにも分かりやすい態度に、ラプラスは深い溜め息を溢した。
「リベラル。君の
「うっ…何のことかさっぱりですねぇ?」
「……その言い訳をする癖も改めて欲しいところだ」
ラプラスと和解してからというもの、彼女の行動は唐突におかしくなっていた。まるで枷から解き放たれた獣のように、淑女にあるまじき欲望にまみれたことばかりする。
具体的には、ロステリーナとのスキンシップがやけに激しいのだ。いきなり抱き付いたり、胸を触ったり、夜這い紛いなことをしたり。そしてラプラスに対しても、異様にベタベタと接触することが多かったのだ。唐突に股間をまさぐられた時は、流石の彼も焦ってしまった。
ラプラスは父として、そんな娘の行いにどう対処すればいいのか分からず、上手く止めることが出来ずにいたのだ。
「何か勘違いされてるみたいですが、私は研究の一環としてここに訪れたのです!」
「ほう」
「なので、変に疑わないで欲しいです!」
「ふむ、ならばその研究の内容を是非とも教えて欲しいな」
「フッ…その言葉を待っておりましたよ」
内容を訊ねられることをあらかじめ予測していたリベラルは、ドヤ顔を見せながら懐に手を入れる。そして、カチューシャのようなものと、モフモフした何かを取り出した。
「これこそ私の研究成果…獣族なりきりセットです!」
ドンッ!
と擬音が出そうな仁王立ちをし、自信満々にそれを掲げる。
「それは…?」
「よくぞ聞いてくださいました! これは猫耳カチューシャとモフモフテールです! 『狂龍王』カオス様の技術を参考に作ってみました!」
リベラルはその二つを装着した。
上目遣いでウインクし、親指と人差し指を顎に当て、シャキーンとポーズを決めて見せる。
だが、ラプラスは頭に疑問符を浮かべ、困惑していた。
「これさえあれば、獣族への変装が可能ですよ旦那! 今ならお1つ一万円! 何と一万円ですよ! しかも尻尾が動くんですよこれ!」
「お、おう…」
「ささっ、どうぞお付けください!」
「あ、ああ…」
ラプラスが狼狽えてる間に、リベラルは手早く黒色の猫耳と黒色の尻尾を取り付けてしまう。あっという間の出来事だ。何が何だか分からぬ内に、進められてしまった。
やがて、キッチリと装着することが出来たのか、リベラルが「よし、オッケーです」と言って、その場から離れる。
「どうかなリベラル? 似合っているかい?」
「…………」
ラプラスはかなり大柄な男だ。肌は透けるように白く、背中には翼が生えている。眼光は鋭い三白眼であり、無愛想にも見える。そんな男に猫耳と尻尾を着ければ、カオスな見た目になるのは当然だろう。更には何故か尻尾がひとりでにブンブンと荒ぶり動いていた。
猫耳+尻尾+翼+男+斑髪=カオス。
これこそ『狂龍王』カオスが生み出した、技術の結晶。
二つを取り付けたラプラスは、キマイラのような姿だった。特に、黒色の猫耳と激しく動く黒色の尻尾が、実に髪色とマッチしていない。
リベラルはサッと目を逸らす。
「……リベラル?」
「…え、ええ、とてもお似合いですよラプラス様。迫力が増しました…」
「そうか」
娘の感想を聞けたラプラスは、少し照れてしまったのか頬を赤く染め、嬉しそうにしていた。
「折角リベラルが作ってくれたものだ。近々獣族のところに寄る予定だから、使わせてもらうよ」
「うぇ!?」
今度はリベラルが狼狽える番だった。真面目なラプラスは、娘のお世辞をそのまま受け取り、本当に似合ってると思ってしまったのだ。感情に呼応しているかのように、尻尾の動きは激しいままだった。
そんな間抜けな姿の父親を、外に出してはならないと何とか止めようと試みる。
「んぅ…何だか騒がしいのです…」
と、そこに寝ていたロステリーナの声が響き、二人の視線はそちらに向く。寝ている幼女の前でくっちゃべっていたので、目を覚ますのは当然のことだった。
目覚めたロステリーナはボーッと虚ろな瞳を見せ、それからラプラスへと顔を向ける。
「ひっ」
悲鳴を上げてしまった。
髪の毛は緑と銀色の斑模様であり、強面で猫耳で翼が生えていて、尻尾をモフモフブンブンさせてる男が目の前にいれば、誰だって怯えてしまうだろう。完全にただの変態だ。
「あ、あぁ……リベラル様…助けて下さい…!」
「おー、よしよし、私ならここにいますよー」
「…………」
泣き出してしまったロステリーナを、リベラルは抱擁して慰める。「うへへ」と表情を崩し、だらしなく涎まで垂れさせていた。完全にただの確信犯だ。
「ぐすっ…リベラル様ぁ…」
「大丈夫ですよロステリーナ。私が変態から守って上げますからねー」
「…………」
事ここに至れば、流石に騙されたことにラプラスは気付く。
不機嫌そうな雰囲気に変わって行くが、リベラルはそれに気付かず、ロステリーナの頭に顔を埋めている。
「ハァ…ハァ…クンカクンカ」
「おい」
「幼女…幼女…」
「おい」
「さて、そろそろ性教育でもしましょ……」
次の瞬間、リベラルはとてつもない衝撃に襲われ、窓を突き破って吹っ飛んでいく。
「ぷぎゃあ!!」
残ったのは、呆れた表情をして猫耳と尻尾を取り外すラプラスと、何が起きたのか理解出来ず、キョトンとした様子のロステリーナであった。
「……あ、ラプラス様」
「ロステリーナ、顔を洗ってそろそろ今日の仕事を始めなさい」
「はい、分かりました!」
「…………」
元気よく返事をするロステリーナに対し、ラプラスは無言で先程取り外したなりきりセットへと視線を落としていた。
しばらく思案げにしていたが、やがてそれをロステリーナの頭へと近付け、装着させる。
「ラプラス様?」
「…ふむ」
猫耳と尻尾をつけられ、不思議そうにするロステリーナを、ラプラスは凝視する。
「あの、これは…?」
「ああ、いや、気にしないでくれ。何となく着けてみただけだよ」
「そうですか」
「……ふむ」
「……?」
「ありがとう、もう十分だよ」
性能を見ることに満足したのか、なりきりセットを回収したラプラスはその場から離れていく。そして、窓の外で鼻血を撒き散らしてぶっ倒れているリベラルに、お仕置きをするのは止めておこうと思うのであった。
結局、ロステリーナは何が何だか分からぬまま、その場に取り残されてしまう。
後日、猫耳と尻尾をつけてるロステリーナを発見し、リベラルは発狂した。
――――
「リベラル様」
「何ですか?」
ロステリーナの声に、リベラルは返答する。
「どうしてくっついてくるのですか?」
「抱き心地がいいからですよ」
むぎゅっと腕を回し、ロステリーナを抱き枕にしているリベラル。抵抗したところで、龍族である彼女には力で敵わず、どのみち抜け出すことが出来ない。
ロステリーナは諦めて受け入れていた。
「ところでリベラル様。リベラル様はどうして、ラプラス様のことをラプラス様と呼んでるのですか?」
ロステリーナは、ふと疑問に思ったことを口にする。
二人でちゃんと話し合い、和解した筈なのだが、リベラルは何故かラプラスのことを『お父様』と呼ぶことが全くないのだ。他人行儀だろう。たまに呼んでる時があるだけに、不思議に思っていた。
リベラルは「んー」と顎に手を当て、思案げな表情を浮かべる。
「そう、難しい理由でもありませんよ。今までずっと父と呼んでなかったので、今更そう呼ぶのがちょっぴり恥ずかしいだけです」
「そうですか? 別に私もラプラス様も気にしないと思いますけど」
「…まぁ、私にだって色々あるのですよ」
「色々ですか」
「色々ですよ」
どことなく寂しそうに呟くリベラルに、ロステリーナはソッと彼女の背中に手を回した。ビクッと一瞬だけ震えたが、素直に受け入れる。
「ふふ」
「どうしたのですか?」
「いえいえ、まさかロステリーナから抱きついてくれるとは思いませんでしたよ」
とても嬉しそうな声だった。顔を見上げれば、リベラルは「むふふ」と笑みを溢しながら、ロステリーナを見下ろす。
何となく身の危険を感じたロステリーナは、すぐさま逃げ出そうと試みるが、残念ながらリベラルの拘束を解くことが出来ない。
「ほーれコチョコチョ!」
「んひゃ! あふっ! ひゃうぅ!」
逃げ出そうとしたロステリーナは、からだをくすぐられて、少しでも刺激を弱めようと全身をよじらせる。しかし、その程度でリベラルの手から逃れられる訳もなく、延々とくすぐられ続けた。
「ハァ…ハァ…もう止めて下さいぃ…」
「ちょこっと、後ちょこっとだけですから!」
「うぅ…」
逃げ出せないので、終わりはリベラルのさじ加減である。
最近のリベラルはずっとこの調子なので、あまり近寄りたくなくなっていた。ボディタッチというか、スキンシップがあるのはいいのだが、些か激しすぎるのだ。
胸とお尻を鷲掴みにされて、「グヘヘ」とおっさんのような笑いを溢されたときは、流石に気持ち悪かった。ドン引きである。
だが、力では敵わないし、どこに逃げても何故か見付けられるのだ。それに、龍鳴山から降りれる訳もないので、あまり遠くに逃走することも出来ない。
今のロステリーナはさながら、猛獣の檻の中に閉じ込められた哀れな草食動物であった。
「今はラプラス様もお出掛けしてますし、時間はたっぷりありますよ」
普段からリベラルの暴走を止めてくれるラプラスもいないのだ。絶体絶命である。
「ヘヘヘ…」
「ひっ」
再びサワサワと撫でられる全身。ロステリーナのからだに鳥肌が立つ。
彼女は色恋をまだ知らなければ、同性愛などというものに目覚めてる訳でもない。ただ抱きつかれるだけならまだしも、下心丸出しでは流石に嫌悪感に包まれてしまう。
「い、いやっ!」
故に、拒絶する。
ジタバタと藻掻くと拘束されていた腕がすっぽ抜け、偶々リベラルの顔に手が当たった。
「あだっ」
怯んだ一瞬の隙を見逃さず、ロステリーナは脱出に成功する。
「逃げないで欲しいですね」
「こ、来ないで下さい!」
やれやれと言った様子を見せるリベラルであったが、明確な拒絶の言葉を聞いて足を止めてしまう。
「それ以上近付いたら、リベラル様のことを嫌いになります!」
「なん…だと…!?」
リベラルはそれ以上先に進むことが出来なくなった。ロステリーナの目に見覚えがあったからだ。
そう、あれは畏怖の目。
呪いを抑える前に向けられていた、敵意だ。
リベラルに呪いがあろうとなかろうと、その目を向けられることに変わらなかった。
「あっ…」
そうして狼狽えてる間に、ロステリーナは駆け足でこの場から逃げ去って行く。当然の結果であった。
――――
それから、何度も何度もリベラルから逃亡をし続けた。用を足してる最中に現れたり。水浴びをしている最中に現れたり。その度に、逃げ続ける。
けれど、その日だけは少し違った。
スヤスヤと寝息をたてながら布団にくるまり、完全に寝入ってるロステリーナ。そんな彼女の部屋に、またもやリベラルは侵入していた。
「いけませんね…暴走し過ぎてロステリーナに嫌われちゃいましたよ…。これでは呪いの影響があった頃と変わらないじゃないですか…」
欲望に忠実になりすぎたと反省し、寝入るロステリーナを見下ろす。
「すぅ…すぅ…」
「…………」
無言のまま隣に座り、ロステリーナの頭を優しく撫でる。すると、彼女は「んぅ…リベラル様…」と寝言を呟いた。
可愛い姿だ。天使のようである。本音で言えばこのまま夜這いをしたいところだが、リベラルはその欲求をグッと堪えた。
代わりに、彼女の名前を呟く。
「ロステリーナ…」
リベラルは薄々と気付いていた。
ロステリーナが何者になるのか。未来でどのような人物になるのか。
今の思い出全てが無意味となってしまうことを、リベラルは知っていた。
未来は不変であり可変だ。
ラプラスに未来を伝えたが、未来を変えられるとは限らないのだ。その時にならなければ、分かりやしない。
ロステリーナがこの先、どうなってしまうのかも分からない。もしかしたら、全く違う未来を辿るかも知れない。もしかしたら、同じ未来を辿るかも知れない。
故に、その時に後悔しないよう、今を楽しまなければならないのだ。
(だからこそ、無駄にはっちゃけてしまいましたが)
未来での淫乱っぷりを知っていたからこそのスキンシップだったのだが、どう考えてもただの言い訳だった。誰も聞いている者はいないので、自分が欲望にまみれるための言い訳である。
今のロステリーナは変態ではないので、リベラルの独り善がりでしかなかった。残念ながら、変態はリベラルだけである。
「んぅ…ん……」
「ん?」
「ふぁ……リ、リベラル様…!?」
どうやら起きてしまったロステリーナが、怯えた様子でリベラルを見ていた。彼女を視界に映しただけで、眠気を吹き飛ばして完全に頭を覚醒させたらしい。
「おや、気付きましたか」
「ひっ」
とんでもない勢いで飛び下がり、露骨に警戒した様子を見せるロステリーナに対し、リベラルは手をワキワキとさせながら近付く。
「おやおや、どこに行こうというのですか? ここが貴方の帰るべき場所だと言うのに」
「い、いやぁ…」
「なぁ…スケベしようや…」
「いやぁぁぁ!!」
リベラルは今日も暴走する。
いつか訪れる終わりの日に後悔しないよう。
都合のいい言い訳を並べて。
結果として、リベラルは呪いを抑える前よりも嫌われてしまった。
失敗作……一応、別の場所に投下しておきます、正直恥ずかしいですが…まぁいいでしょう。