リベラル「私には未来の知識ある」
ラプラス「なんやて!? 詳しく教えろや!」
リベラル「よかろう、貴様はまもなく死ぬ…それが定めだ」
ラプラス「なん…だと…!?」
今回はタグの独自設定がようやく活用されます。しかし、これから先はこれ以上に盛りまくることになる予定です。
「私も……私にも、何か出来ることはありませんか?」
彼女の問いに、十分助かってると答えた。
「そんなの嫌です! 私もラプラス様のお役に立ちたいんです! 一緒に戦えるとは思えませんけど、何か、何かありませんか? 将来、御子様のためになるようなこと、なにか……」
彼女は戦いたいと願った。私も龍神様の役に立ちたいと、そう願った。
ならば、だからこそ、その意思を尊重しなければならない。五龍将として、龍神のために働こうという者を、どうして無碍にできようか。
どのような感情を抱こうとも、受け入れなければならない。
「! 何か、私にも出来ることがあるのですか!?」
必死となる彼女に、説明する。
呪いを元に戻すことによって、将来誕生する御子様の役に立てると。
長い時間を掛けて、からだを少しずつ変化させる必要があると。
眠っている間に、精神に影響のないよう調整をしてみせると。
「……ご主人様がそう仰ってくれるなら、大丈夫です」
――そうか、君は耐えられると、そう言うのだね?
「はい」
結局、それが彼女の――ロステリーナの選択であった。古龍の昔話を聞き終えた彼女は、共に戦うことを選んだ。
どのような結末になろうとも、それがロステリーナの選んだ道。だからこそ、それに応えなければならない。
その日、ロステリーナは長い眠りについた。
――――
龍鳴山より遠く離れた地下洞窟。ラプラスが研究所の一つとして使っている場所。そこに、ひとつの台座があった。
透明なカプセルが被せられ、淡く輝く水で満たされている。そんな中に、美しい一人の女性が眠っていた。
「……ロステリーナ、眠ってしまいましたね」
「そうだね…龍鳴山も寂しくなるな」
少しでも龍神様の役に立ちたいと願ったロステリーナは、その身に宿る膨大な魔力を利用するために、からだを作り変えることにした。
彼女は長い眠りにつき、未来へと繋ぐひとつの希望となり、やがて目覚める日を待ち続ける。
動作に問題がないことを確認できたラプラスは、僅かに逡巡する様子を見せるが、踵を返す。
「じゃあ、大人しく待ってるんだよ」
ラプラスには、やることが山ほどある。このようなことで感傷に浸り、立ち止まっている暇などないのだ。
悲しみを振り切り、前へと進み続けるのみである。
コツコツと音を立て、寝台から足音が遠ざかっていく。彼には次の戦いがある。それに備えなくてはならないのだ。
やがて、眠っているロステリーナと、リベラルは二人きりとなった。
「……あっという間でしたね。ロステリーナと過ごした日々は」
ラプラスと和解してから、既に数百年。ロステリーナは可憐な少女から、立派な美女へと成長した。
その間を、ずっと共に過ごしたのだ。長い、長い時間だ。
最早、リベラルはロステリーナのことを家族の一員…妹だと思っている。
だからこそ、この先の未来によって、どうなるのかが決まる。
「
寂しそうで、泣き出しそうな、そんな表情を浮かべ、リベラルは眠る彼女を見つめる。
「私は…何が起きようともここに干渉はしません」
ポツリと、そう言った。
「ラプラス様が生き残れば、貴方はきっと何も失わずに目覚めるでしょう」
そう、リベラルが干渉しないと言ったところで、ラプラスがいれば何も問題はないのだ。彼さえいれば、ロステリーナは願い通りの未来を過ごすことが出来るのだから。
けれど、もし、もしも、そのような未来が訪れないのだとしたら――。
「ラプラス様が負けてしまえば…全ては歴史通りになります。歴史通りにします」
そうなれば、リベラルは全てを投げ捨て、ロステリーナを見殺しにするだろう。
ロステリーナの存在は、とても重要な位置にいる。
彼女は将来誕生するルーデウスの父親である、パウロと大きな関わりを持つのだ。実際にその時にならなければ分からないだろうが、ロステリーナ…エリナリーゼがいなければ、ルーデウスが誕生しないかも知れないのだ。
それは、大変困る。ルーデウスが生まれなければ、恐らくナナホシも転移事件によって現れないだろう。
それだけは、避けなければならないのだ。ある意味、一番重要だとも言える。
「……とは言え、それはあくまでもラプラス様が負けた時の話です」
だが、やはり捨てきることは出来ない。大切な家族が死に行くのを、黙って見つめることなど出来ないのだ。
例え、ルーデウスやナナホシが現れなくなったとしても、ラプラスは助けたい。それが、自身の願いである。
だからこそ、
「ロステリーナは大切な家族です。妹です。でも…こんな馬鹿な姉でごめんなさい」
しかし、ラプラスが死ねば、リベラルは目の前の
だって、そうしなければ、望む未来に辿り着けないのだから。
上辺だけの想い。
そう言われても仕方ない選択だ。
もしも記憶を取り戻せば、罵られてしまうだろう。
その覚悟は出来ている。
「例え、ロステリーナが全てを忘れようとも……私だけは覚えてます」
故に、この先何が起きようとも、刻み付けなくてはならない。
己の選んだ選択を。己が選んだ道を。
その結末を、見届けなくてはならない。
「ずっと、覚えてますから……」
リベラルはそれだけを告げると、その場から立ち去っていく。彼女が遠ざかるにつれて、部屋の明かりも落ちていく。
やがて、足音は完全に消え去り、部屋の中は暗闇に包まれた。
ロステリーナは真っ暗となった部屋の中で、ただ一人待ち続ける。
共に戦える日を夢見て、ずっと……。
――――
巨大な羽音が響き渡る。そこらにいるレッドドラゴンよりも遥かに力強く、そして待ちわびた音。
サレヤクトの背に乗り、ラプラスが帰ってきたのだ。
「帰って来ましたか」
その音を聞いたリベラルは、出迎えに家の外へと向かう。そこには、いつもと変わらぬ様子のラプラスが、リベラルの姿を認めて片手を上げていた。
サレヤクトが家の前に悠々と着地すると、その背中からラプラスが飛び降りる。
「お帰りなさいラプラス様」
「ああ、ただいまリベラル。態々出迎えてくれてありがとう」
「グオ」
挨拶を交わしてる間に、サレヤクトは一声上げてノシノシと家の裏手へと帰って行った。長い間飛び続けて疲れてると思われるので、そのまま寝てしまうのだろう。
「……成果はどうでしたか?」
そんなサレヤクトを傍目に、リベラルは尋ねた。
「ああ…やはり今回も駄目だったよ」
「そうですか…バーディガーディ様は見つかりませんでしたか」
「以前は痕跡自体はあったんだけどね…。今では痕跡すら見つからないよ」
お手上げだと言わんばかりに、ラプラスは両手を上げてしまう。
二人は和解してから、先ずはバーディガーディの身柄を確保することを優先した。第二次人魔大戦でラプラスを倒すのは、『闘神鎧』を着用したバーディガーディだからだ。
故に、戦争前に彼をさっさと押さえようと考えたのだが、いくら捜しても見つけることが出来ずにいた。原因は分かっている。人神だ。
どうやら、リベラルとラプラスが和解してる間に接触でもしていたのか、その時期から足取りを掴めなくなっていた。ラプラスが魔眼を使用したにも関わらず、見つけられないのだ。人神の関与は、ほぼ間違いないだろう。
それに、リベラルの未来の知識もほぼあてにならなかった。彼女が知っているのは『ラプラスがバーディガーディに負ける』という結果であって、過程など何も知らないのだ。
そもそも、未来で有名となるアルデバランが、本当はどちらなのかすら曖昧であった。そんなものに頼るには、あまりにもあやふやな情報だろう。
「しかし…どうしますか? 戦争の火蓋は切られたのですよね?」
「ああ…人神の手によって戦争が始まった以上、私はそれに介入せねばならない」
一応、戦争そのものを回避するための行動も行った。幸いなことに、キシリカキシリスの発見は早かったので、彼女を傀儡にしようとしていた好戦的な魔王を殺したのだ。
だが、それとは別の魔王が現れ、そいつがキシリカキシリスを傀儡にしてしまったのである。ラプラスはその魔王も殺し、その他にも何人か殺したのだが、不毛な行為だと思い止めた。
蜥蜴の尻尾切りだ。人神をどうにかしない限り、新たな使徒を延々と遣わせるだろう。
魔王を殺し続け、魔族全体を敵に回しでもすれば本末転倒である。4つの世界を滅ぼしてしまった、龍界での過ちを繰り返すことになってしまう。
キシリカキシリスをどうにかしようとも考えた。
だが、彼女はバカだった。アホだった。
ちょっと煽てられれば調子に乗り、アッサリといいように使われてしまうのだ。あまりにもチョロイ魔界魔帝だ。簡単に操られ、傀儡にされてしまう。
ラプラスとしては、いっそのことキシリカキシリスを殺してやろうかとも考えたが、それは最後の手段だと思い止まる。今は亡きネクロスラクロスが残した、魔神の娘だ。そんな彼女に手を掛けるのは、あまりやりたくもない。
龍鳴山に拉致しようにも、彼女は魔大陸から離れることも出来ない。お手上げだ。
それに、人神を倒すのには、やはり魔神の血を引くキシリカキシリスの力が欲しかった。彼女の力は強力なのだから。
そう、本来であれば、互いに手を取り合うべきなのだ。
なのに、どうしてこんなチョロイ娘となってしまってるのか。あまりにも残念すぎてラプラスは思わず頭を押さえてしまう。
母親であるキリシスカリシスがこの光景を見れば、きっと同じ気持ちを抱いてくれるだろう。……いや、特にそんなこともなく、「それでこそ我が娘だ。ファーハハハハハ!」と笑い飛ばすかも知れないが。
「そうですか…」
「なに、心配することはない。やれることは全てやったのだ」
ラプラス一人では、出来ることに限界があった。一手ずつしか手を進められないのだ。どうしても間に合わないものがある。しかし、もしも他にも戦う仲間が存在していれば、結果は違ったかも知れないだろう。
彼はそのことを僅かに思案し、リベラルを見るがすぐに視線を外した。リベラルはリベラルで『龍神の神玉』を研究する役目がある。人神への対抗手段なのだ。
それに、リベラルはまだまだ未熟な身。安心して背中を任せるには時期尚早だ。そんな娘に手助けを求めるのは無粋だろう。
「……勝つさ、私は」
戦争を止めることは出来なかった。だから、そのことを嘆いても仕方ない。すぐに切り替え、出来ることをするのだ。
既に、人族側で『アルデバラン』と名乗り、介入する準備は出来ている。後は、魔族との戦いに勝利することによって、人神の目論見を阻止するだけだ。
もっとも、それが一番の問題なのだが。
「あの鎧……どうしますか」
リベラルは後方へと顎をやり、後ろに立て掛けられている黄金色に輝く、大きな鎧へと目を向ける。今は別の名前だが、いずれ『闘神鎧』と呼ばれることになる、ラプラスの最高傑作にして最狂の失敗作だ。
ラプラスは、間違いなくこの世界で最強の存在である。恐らく、世界で一番強いだろう。彼を殺すことが出来る者は、存在しない。
そんな慢心をしていては駄目だろうが、未来の情報も持ち得るリベラルからすれば、その予想は間違ってはいないと考えている。
だが、相手が『闘神鎧』を着用するとなれば、話は別だ。着用した者は、魔術を無効化し、疲れも痛みも感じず、常に最高の力で戦うことができる。意味不明な装備だ。
これは、バグのような代物である。
以前にリベラルが尋ねたのだ。
『この鎧はどうやって作ったのですか?』
と。魔力自体が意思を持っているなど、それはもはや擬似的な生命の創造である。いくら魔術が万能な力とは言え、流石に生命の創造を出来るとは思えなかったのだ。
恐らく、この世界を創り出した創造神くらいにしか出来ないだろう。だから、尋ねたのだ。
それに対するラプラスの回答は、
『分からない』
なんて言われてしまったのである。元々はも少し別のものを作成しようと考えていたらしいのだが、何故かこの鎧が出来上がったと言う。
手順通りだった。1+1の答えが2となるように、丁寧に仕上げていた。それなのに、どういう訳か1+1が100になってしまったのだ。違う答えとして現れたのが、『闘神鎧』。だからこそ、世界の法則をすり抜けたバグである。
製作者であるラプラスにすら、御しきれぬ代物。だからこそ決戦用の鎧。
「それは私にも破壊出来ない。戦争で使おうと考えていたが…奪われるリスクがあるから止めておこう」
故に、ここにある『闘神鎧』さえどうにかすれば、ラプラスが敗北する未来を回避出来る筈なのだ。
相手が人神である以上、どこかに破棄するなんて馬鹿なことは出来ない。拾われてしまうのは目に見えてるだろう。
だからこそ、答えはひとつしかなかった。
「ここに置いておくしかないだろう」
龍鳴山はラプラスのテリトリーだ。周囲には大量のレッドドラゴンたちが飛び交い、ほとんどの者が近寄ることも出来ない。ラプラスの目の届く範囲と言えるだろう。少なくとも、適当に海の底へと捨てるよりは安心出来る筈だ。
恐らく、龍鳴山はラプラスにとってもっとも信用出来る場所である。彼にとっては、庭同然なのだから。
「……そうですか。確かにここよりも安全な場所なんてなさそうですよね」
「ああ、そうだろうね……」
そこで、ラプラスは口を閉じ、申し訳なさそうな表情を浮かべた。リベラルもその意味に気付いているので、黙って言葉の続きを待つ。
「リベラル」
「はい」
「もう分かってるみたいだけど、もしかしたらこの鎧を目当てに使徒が襲撃してくるかも知れない」
「そうですね」
「だから、リベラル。君に頼みたいことがあるんだ」
「…………」
両者の視線が交わる。
リベラルの気持ちを聞いたラプラスは、彼女は戦うことが嫌いだと理解している。
痛いのはラプラスだって嫌だし、死にそうになるのはもっと嫌だ。生物としての当然な欲求なので、彼とて同じ気持ちだ。だから、無理強いをすることはしなかった。
しかし、ラプラスは戦争に参加しなくてはならない。そうなれば、龍鳴山へと戻ることは出来なくなるだろう。その間、リベラルが一人きりになってしまう。
ラプラスにとっては庭同然だが、彼はいないのだ。故に、その間の守護は、リベラルに任せるしかない。
苦渋に満ちた表情で、ラプラスは己の娘に告げる。
「この地を守れ。誰にも全てを奪わせるな」
頼みと言った筈の言葉は、命令のようなものであった。
「――人神に勝つぞ」
しかし、苦渋に満ちた表情は何処へやら。いつの間にか、ラプラスは決意に満ちた表情を見せ、力強く宣言してみせた。
「……はい! 勝ちましょう!」
リベラルも力強く頷いてみせた。
どれほど痛みや恐怖を拒絶したところで、この気持ちに嘘を吐くことは出来ないから。例え歴史が変わろうとも、父親には死んで欲しくないから。
この先の未来を、ラプラスと共に歩みたいのだ。誰もが悲しまない、笑って過ごせる結末を見たいのだ。
――――
「さて、私はそろそろ行くよ」
数日ほど、親子としての時間を過ごしたが、ラプラスは不意にそう告げた。
「……そうですか」
「なに、心配することはない。龍鳴山はレッドドラゴンの群れによって堅牢な要塞と化している。君に守護を頼んだが、誰も来やしないさ。それに、家の中には私が作った魔道具もある」
「いえ、そうではなくて」
リベラルとしては、そのことを心配などしていない。
「……負けないで下さいよ」
そう、『闘神鎧』などなくても、ラプラスが敗北する可能性はあるのだ。彼は最強であるが、孤独なのだから。傍で戦ってくれる仲間がいないのだ。
そのことに、不安を感じていた。
「大丈夫だ。私は誰にも負けないよ。必ずここに帰ってくるさ」
不安そうにするリベラルに、ラプラスは近寄る。
「何せ、私には使命があるのだ。こんなところで終われないよ。そして何より……」
そして、リベラルの頭に手を乗せ、優しく撫でる。
「こんなにも愛おしい娘が帰りを待ってるのだ。負ける訳がないだろう?」
その手は、ゴツゴツしていた。
戦いに明け暮れ、血に染まっているかも知れない。
けれど、その掌には温かみがあった。
父親の温もりだ。
リベラルはラプラスに抱き付く。
そして、言葉を送る。
「いってらっしゃい――お父様」
「いってくる――愛しき娘よ」
こうして、ラプラスは第二次人魔大戦へと赴いた。二人とも完璧ではないので、足りない準備はあったかも知れないだろう。それでも、出来ることは全てした。後は、勝つのみである。
その未来を信じて、サレヤクトの背に跨がった彼の背中を見送る。
そして、
闘神鎧は破壊できない(破壊できないとは言っていない)
まあ、破壊したとしても、不死魔王みたいにどっかで復活しそうなんですよね。自己修復するみたいですし。
なので、ラプラスにも破壊できないということにしました。
因みに、エリナリーゼとロステリーナの英語読みに関してはWikiのコメント欄にあったのを使用。実際に合ってるかはともかく、よくあんなの気付けますよね…。