無職転生ールーデウス来たら本気だすー   作:つーふー

14 / 116
前回のあらすじ。

ラプラス「ヒトガミに勝つんやで」
リベラル「頑張るんやで」
ラプラス「」
リベラル「パパ帰ってこーへんやん…」

風邪…なのか?すっごいしんどい。ただ、症状が完全にノロウイルスなんですよね…医者にはまだ行ってませんので、本当にそうなのか分かりませんけど。。もう動けない。
そうだ…こうなったのも全て人神が悪いんだ。この小説の駄目な部分も、体調が悪いのも、投稿が遅くなったのも…全部、人神さんが居たからじゃないか…!


13話 『神託の意味』

 

 

 

 ラプラスが戦争に参加してから約十年。その間、リベラルはずっと龍鳴山で父親の帰りを待っていた。

 といっても、その間に何もしていない訳でない。リベラルはずっと研究を行っていた。『龍神の神玉』の力を引き出す方法を調べていたのだ。

 

「あふぅ、んぅ……こんなものですか」

 

 だが、ようやく最低限の目標を達成し、リベラルは凝り固まったからだを伸ばして解す。

 

 人神の能力の無効化。

 長い研究のお陰か、ようやくその効果を確立出来たのだ。

 

 恐らくこれで、人神の持つ千里眼や未来視から、完全に逃れられるようになったのである。以前のように、夢の中に現れることも出来ないだろう。

 今のリベラルは、呪いを克服した状態のオルステッドと同じ状態である。人神の干渉を受けることはない。人神から視られることはもうないのだ。

 

「まあ、まだまだ引き出さなければならないものはありますけど…」

 

 しかし、人神の能力の無効化は、あくまで一部の力に過ぎない。一応、他にも出来ることは沢山あると予想しているのだが、全く持って見当が付かずにいた。

 ただ、今は研究が一段落着いたことを喜ぼうと、肩の力を抜いた。それから、窓の外に映る空を眺め、ボンヤリとする。

 

「ラプラス様…無事でしょうか?」

 

 龍鳴山は閉鎖されたコミュニティである。当然ながら、外の情報など一切流れてこない。態々レッドドラゴンの巣に、自殺しに来るバカなどもいる訳がないので、誰かと遭遇することもない。

 研究をしていた時は、そちらに集中していたから良かったものの、やることがなくなれば外の情勢が気になり、悶々とするのだ。

 龍鳴山を降りられたら…なんて思うが、それは鍛練をしなかったリベラルが悪いので、どうしようもない。

 

(そう言えば…人神の助言は一体何だったのでしょう)

 

 人神が言ったのは、ラプラスと仲直りしろという助言。選択肢のない状況だったので、従う形になってしまった。しかし、今のところはただの良い奴でしかない。

 まさか本当に良い奴なのでは……なんて思ってしまうかも知れないが、そうして油断した時に致命的な一撃を加えてくるような存在だ。気を抜くことは出来ないだろう。

 自分が人神のことを知らず、ルーデウスと同じ状況に陥れば、きっと人神の助言を信じてホイホイと従っていただろう。そう考えると、ルーデウスは凄い。偉大なる先人だ。彼には感謝しておかなければならない。

 

「人神…本当に何がしたいのでしょうね」

 

 助言をしてきた理由も分からないが、そもそも人神が何を目指しているのかもよく分からないのだ。ただ単に生きることが目的、というのであれば、態々龍神などを殺した意味が分からない。

 ラプラスは唯一の神になりたかったのではないか、と予想していたが、実際にそうなのかも不明だ。人神はあまりにも自分本意で、俗物過ぎる。

 

「しかし…暇になってしまいましたね」

 

 手持無沙汰になってしまったせいか、リベラルは短い間隔で様々なことに思考を傾けてしまう。

 それから少しボーッとすると、その場から立ち上がり、外へと出ていく。そして、昔にラプラスから教わった、型のひとつの動きをゆっくりとなぞっていった。

 たまにしかしていないためか、どことなくぎこちない動きだ。しばらく型の繰り返しをしていたが、動きを間違えて手を止めてしまう。

 

「むぅ…ダメダメですね…」

 

 研究のためにずっと机に向かい合っていたこともあり、体力自体も落ちていた。その事実にリベラルは溜め息を溢す。

 だが、流石にこれは不味いと感じ、終了することなく、ゆっくりと鍛練を続けていく。

 そんな感じで、リベラルは日々を過ごしていた。充実しているようにも見えるだろう。実際に、彼女はやりたいことだけをやってるので間違いない。

 

 だが、それから事が起きたのは、数日後のことであった。

 

 

――――

 

 

 研究を一段落終えたリベラルは、しばらく『龍神の神玉』について調べることを止めていた。ずっと研究漬けだったので、少しばかり違うことをしたくなったのだ。

 なので、彼女が家でやっているのは、主に自主鍛練になっていた。掃除などはリベラル一人しかいないので、特に散らかることもない。たまに埃を掃く程度だ。

 特にラプラスにしごかれてる訳でもないので、のんびりと自分のペースでこなしていき、リフレッシュするリベラル。やはり、たまにからだを動かすのはいいな、なんて思いながら続けていく。

 

「……ん?」

 

 ふと、何かを感じたリベラルは、鍛練の動きを止めた。微かな違和感だ。その感覚が何なのか気になり、そちらへと意識を向ける。

 

「んー…? 何かの気配…ですかね?」

 

 龍鳴山から降りたのは一度だけであり、他者との関わりが極端に少なかったリベラルは、それが本当に気配なのか分からず、首を傾げた。

 それに、龍鳴山には数多のレッドドラゴンがいる。レッドドラゴンたちの感知能力はずば抜けて高く、縄張り内に侵入すれば、ネズミ一匹と逃しはしない。気付かれずに家に近付くことは不可能なのだ。

 

(人神の使徒が来たとしても、レッドドラゴンたちで足止めを食う筈です。それだけの時間があれば、その間に迎撃の準備は整えられますが…)

 

 この家の中には、ラプラスが開発した魔道具が山ほどある。それらを全て駆使すれば、ある程度の実力差は補えるだろう。

 それに、最悪でもリベラルが『闘神鎧』を纏い、逃走することも出来るのだ。『闘神鎧』を纏えば、リベラルでも龍鳴山から降りることは可能になるのだから。その場合は彼女の消耗が凄まじいものになるだろうが、背に腹は変えられない。

 

(まあ、それは人神の使徒が来ればの話なのですがね)

 

 特にレッドドラゴンたちが騒いでる様子もないので、リベラル先ほど感じた気配は勘違いだと胸を撫で下ろす。

 杞憂なら構わないと、再び鍛練を行おうとするのだが、

 

「…………ん?」

 

 足が動かなかった。

 

 まるで地面に縫い付けられているかのように、ビクともしなかったのだ。

 不思議に思い、リベラルは自身の足を見る。

 

 手があった。

 真っ黒な手だ。

 その手が、己の足を掴んでいたのだ。

 

「…………え?」

 

 リベラルは頓狂な反応を見せ、固まった。だが、それも仕方ないだろう。地面から生えた黒い手が、自分の足を掴んでいるのだから。意味不明な状況だろう。

 しかし、その反応はあまりにも致命的過ぎた。

 

「――ふぇ?」

 

 気が付けば、リベラルは宙を舞っていた。

 

「あ、ああああぁぁぁぁ!!」

 

 恐ろしい速度で飛来し、目まぐるしく変化する景色を前に、リベラルは情けない悲鳴を上げる。

 しかし、徐々に迫り来る大木を目にし、何とか体勢を整えようと空中でからだをひねった。だが、体勢を整えるのは間に合わず、全身を大木に叩き付けられる。

 

「がふっ!?」

 

 全身に走る痛みと圧迫感に、リベラルは強制的に息が吐き出された。そのまま地面を転げ、のたうち回る。

 

 しかし、打ち付けられた痛みを我慢し、リベラルは何が起きたのか知るために顔を上げた。

 だからこそ、目の前にいた男を視界に映し、絶句してしまう。

 

 

「――貴様がリベラルだな?」

 

 

 馬鹿な。

 あり得ない。

 何故この男がここに。

 

 混乱した頭で、リベラルは目の前の事実を否定する。だが、現実が変わることはない。

 

 

「我が名はバーディガーディ! 愛しき者、魔界大帝キシリカを守るために参上した!」

 

 

 地面に亀裂が入り、漆黒の肌を持つ六本腕の偉丈夫が、地の底から現れたのだ。

 ラプラスが百年以上捜しても、見付けることの出来なかった魔王が、目の前にいた。

 

 

――――

 

 

 何が起きたのだと、リベラルは混乱する。しかし、疑問の答えは単純で、目の前にあった。

 バーディガーディは穴を掘ってきたのだ。どれほどの時間を掛けたのか分からないが、レッドドラゴンの縄張りの外から地面に潜り、ピンポイントで龍鳴山にいたリベラルの懐まで掘り進んで来たのだ。訳が分からない。

 訳が分からないが、バーディガーディが人神の助言に従った結果なのだろう。でなければ、こんな家の目の前に現れられる訳がない。別の場所に出ていれば、レッドドラゴンたちの餌食になるのだから。

 

 息を整え、リベラルはバーディガーディを見据える。

 

「ラプラスから逃れるのは困難であったぞ? ヒトガミの助言がなければ、恐らく捕まっていたであろう。奴の言うことにただ従うだけであったのはつまらなかったが、我輩とてなさねばならぬことがあるのだ」

 

 よく分からないが、何か語り始めた。

 なので、リベラルはその隙に受けたダメージを回復させていく。

 

「龍鳴山に忍び込むのにも骨が折れたな。流石の我輩とて、あの数のレッドドラゴンの相手は出来ぬ。故に、単純な手であるが掘って進むことにしたのだ。これもヒトガミの助言がなければ、辿り着くことは出来なかったであろう」

「何故ヒトガミの手助けをするのですか…? あんな奴の味方をしたところで、待っているのは破滅ですよ…」

 

 実際な話、バーディガーディはラプラスと相討ちになり、キシリカと共に死んでしまうことになるのだ。

 人神の言うことに従ったところで、良いことなどありやしない。

 

「何を言っておる? 実際にヒトガミが助言をしてなければ、我輩はラプラスの手に掛かっておったのだぞ。ならば、構わん!  我輩は一度死んだ程度では死なぬのだ。破滅など気にせぬ! 故に不死魔王! それが我輩よ!」

「それはごか……」

「それに、貴様が言うのは未来の話であろう? 我輩は自分の選んだ選択を後悔などせぬ! 破滅するのであれば、それが我輩の天命であっただけのことよ!」

「…………」

 

 どうやら、説得は無理らしい。先に行動を起こしたのは、こちら側である。助言のお陰で助かった人神の味方をするのは当然だろう。

 そして、バーディガーディの言う通り、破滅と言っても未来の話だ。ならば、この男は自分の選択を曲げることはないのだろう。その結末が確かだと理解したとしても。バーディガーディとは、そういう男だ。

 

「御託はこれくらいにしておこうではないか。我輩はやることがあるのだ。さて、リベラルとやら、問わせてもらうぞ」

 

 彼の語りもここまでらしい。ある程度の状況を把握出来たが、肝心なところはまだ把握出来ていない。

 この問い掛けで、ハッキリするだろう。

 

「黄金に輝く鎧はどこにある? 我輩にはそれが必要なのだ」

「――――」

 

 彼の問い掛けに、やはり狙いは『闘神鎧』かと、状況を確認していく。となれば、『闘神鎧』が奪われればどうなってしまうのかに想像は難しくない。

 リベラルは沈黙で返し、ユラリと立ち上がった。

 

「ふむ…やはり渡す気はないか。我輩は戦うのはあまり好きではないのだがな…仕方あるまい」

 

 バーディガーディを視界から外さず、リベラルは両者の位置を確認する。先ほど投げ飛ばされてしまったため、家から距離を離されてしまった。

 それどころか、中間地点にバーディガーディが位置している。彼を無視して家の中に入るのは無理だろう。

 つまり、何の準備も無しで『不死魔王』バーディガーディをどうにかしなくてはならない。

 

(レッドドラゴンたちを利用するのは……無理ですね)

 

 サレヤクトの施した縄張りの外へと出ていき、レッドドラゴンたちにバーディガーディを襲わせることが出来ないかと考える。しかし、それでは自分も被害を受ける上、彼が無視して『闘神鎧』を探すかも知れないので、すぐにその考えを却下した。

 

 気が付けば、王手を取られていたのだ。

 ここから搦め手などで、状況を覆すことは出来ない。まずは、目の前の王手をどうにかしなければならないだろう。

 故に、必要となるのは知略でも奇策でもない。

 

 ――目の前の敵を叩き潰す力だ。

 

 

「長々と語っておきながら何だが、我輩には時間がないのだ…不死たる我が時間に追われるとは、何とも皮肉なことであるがな」

 

 バーディガーディは構える。

 当然ながら、リベラルと戦う気だ。

 詳しい経緯は分からないが、ヒトガミの使徒であることは明らかである。

 

 彼女としても『闘神鎧』を盗まれる訳にいかないので、逃げ出すという選択肢は存在しなかった。ここで負けてしまえば、歴史を繰り返すことになってしまうのだ。

 

 ――父親(ラプラス)を、殺させはしない。

 

 静かな闘志を瞳に宿らせ、リベラルも構えた。

 

「――――」

「――――」

 

 互いに沈黙し、出方を伺う。

 

 リベラルは彼の実力を…体質を知っている。剣王による『光の太刀』以上の威力でないとダメージを通さず、受けたダメージは破片を集めて再生する不死身の肉体を持つのだ。

 今の時代でも、それほどの防御力があるのであれば、生半可な攻撃は通用しないだろう。それどころか、大きな隙を見せてしまうことになる。

 リベラルは、気付かれないようゆっくりと魔力を練り上げ、魔術をすぐに発動出来るようにした。

 

 放つのは土系統中級魔術『岩砲弾(ストーンキャノン)』。

 未来でルーデウスがバーディガーディに放ったのと同じ魔術だ。しかし、状況が違うので、ゆっくりと準備をすることは出来ない。ルーデウスほどの威力を出すことは出来ないだろう。

 だが、魔術の扱いに関しては、ラプラスのお墨付きだ。全力で放てなくても、それなりの威力が期待出来る。

 

「『岩砲弾』!」

 

 瞬間、中空に岩が現れ、射出された。

 凄まじい勢いで放たれた岩砲弾は、身構えていたバーディガーディへと一直線に突き進んでいく。常人には視認することすら困難な速度だ。

 普通ならば防ぐことなど出来ないだろう。普通であったのならば。

 

「むんっ!」

 

 バーディガーディは反応していた。

 

 六本ある内の一本の腕を眼前に掲げ、そこに岩砲弾が命中したのだ。腕は粉砕されたが、それだけである。どうやら、後方へと僅かに受け流されたらしい。

 バーディガーディは破壊された腕のことを気にした様子も見せず、リベラルへと走り出す。

 

「『岩砲弾』!」

 

 更にもう一発放った。だが、それすらも先ほどと同じように一本の腕を犠牲とすることで、直撃を回避される。

 もう、魔術を放つ時間はない。肉薄するバーディガーディを前に、リベラルは体術で対応することを選んだ。

 

「ゆくぞ!」

「っ!」

 

 一手目、右上段から振り下ろされる拳を受け流す。二手目、左上段と左中段から同時に迫る拳を、大きく屈んでかわす。三手目、残り一本の腕は掴もうと伸ばされ、渾身の打撃を持って相殺する。

 全ての腕は振り抜かれ、最初の一合を乗り切った。

 

 凌いだ。

 しかし、そう思った瞬間、リベラルの腹部に拳が突き刺さっていた。

 

「あぐッ、がはッ」

 

 更にもう一発、顔面に凄まじい衝撃が走り、リベラルは鼻血を撒き散らしながら吹っ飛ぶ。

 

「凄まじい魔術であったが、我輩には無駄であったな」

 

 見れば、バーディガーディの腕は既に生えていた。粉砕された筈の二本の腕は、あの僅かな攻防の間に治されていたのだ。

 

「う、ぐぅ……」

 

 幸か不幸か、吹き飛ばされたお陰で、バーディガーディとの距離が出来る。 立ち上がったリベラルは、すぐさま魔力を練り上げ、魔術を発動させた。

 本来であれば、炭化出来る高火力な火系統を使いたかったのだが、ここは山奥である。自然と使える魔術が限定されてるリベラルは、圧縮させた水の中に細かな砂利を混ぜ込み、レーザーのように放った。

 現代知識を用いた、簡易的なウォーターカッターだ。

 

 だが、バーディガーディはそれを避けることもせず、無抵抗で受け入れた。

 

「無駄だ無駄だ!」

 

 命中はした。しかし、薄肌を僅かに傷付けただけであり、彼の進行を止めることは叶わない。威力が足りなかったのだ。

 再び迫り来るバーディガーディに、十分な火力を見込める魔術を、放つ時間がなかった。リベラルはもう一度構え、近接戦闘を挑む。

 

「くっ…!」

「どうした! そんなものか!」

 

 上段から大きく振りかぶられた拳をすり抜けるようにかわし、バーディガーディの腹部にそっと手を置く。そのまま力の流れを変え、合気によって彼を逆に吹き飛ばそうとし、

 

「――ッ!!」

 

 失敗してしまう。

 

 鍛練不足が原因か、満足に力を変えることが出来なかったのだ。ラプラスを相手にしても出来た技は、長らくサボっていたことが原因で、出来なくなっていた。

 リベラルは無防備なまま拳の嵐に晒され、バーディガーディのサンドバックとなってしまう。何度も何度も殴られ、リベラルは防戦一方となった。

 

 

――――

 

 

 それからは、似た展開が続いた。

 十分な時間を掛けずに放つ魔術では、バーディガーディにろくなダメージを与えられない。故に、近接戦でどうにかしなくてはならなかった。

 格闘に関しては、力や速さなどは互角であった。技に関しては上手く出来ずにいたが、それでも両者の間に然程の差はなかった。

 

 だが、互いの実力差は近かったが、手数は違った。

 

 リベラルはバーディガーディとの一度の攻防で、約六手もの攻撃を凌がなければならないのだ。実力が近いが故に、全てを防ぎきることが出来なかった。

 攻防する度に一発、一発とダメージを蓄積させ、リベラルは徐々に追い詰められていく。家の中にある魔道具を使用しようにも、彼とてそれくらいは警戒しているのか、両者の立ち位置が変わることはなかった。

 長らく同じ攻防を続けていたが、リベラルは限界を迎えていく。

 

(ま、不味いです…このままでは…)

 

 焦りが彼女の胸中を埋め尽くす。状況を覆す手が思い付かないのだ。

 格闘では僅かな手数差を埋められない。強力な魔術を放とうにも、その隙を見せてくれない。逃げれば『闘神鎧』が奪われてしまう。

 先手を取られただけで、ここまで追い詰められているのだ。情けない話である。

 

 焦りはそのまま動きに現れ、判断が鈍っていく。判断が鈍っていけば、瞬時の攻防を制することが出来ず、体勢を崩していく。体勢を崩せば、攻撃を避けることが出来ず、体力を削られていく。

 じわりじわりと、一歩ずつ追い詰められる。泥沼に嵌まったかのように、徐々に深みに沈みゆく。

 

(なんで…どうして思い通りに出来ないのですか…!)

 

 両者の間に、地力の差は少なかった。そうでなければ、ここまで長引くことはないだろう。

 確かに手数に差はあったが、リベラルは本来、その差を埋めるだけのものを持っている筈だった。お互いに、戦闘スタイルが違うのだ。

 

 バーディガーディは、その不死身の肉体を生かした強引な戦闘。いわゆる“剛”のタイプである。

 リベラルは、今までに教わった様々な状況に応じた技術を用いた戦闘。いわゆる“柔”のタイプである。

 ここに、決定的な差があった。

 

 今まで鍛練を行わなかったリベラル。

 ずっと研究を行い、からだを動かさなかった結果。

 その因果が、ここにきて顕著になっていた。

 

 

 ――リベラルの技量が、追い付いていない。

 

 

(私がもっと、鍛練をしていれば……)

 

 受け流しに失敗し、血ヘドを溢しながら吹き飛ばされたリベラルは、そこでようやく気付く。

 

(そっか…そういうことですか…)

 

 今までずっと、気になっていたことがあったのだ。それは、ラプラスの元から飛び出してしまった日にあったこと。その日の夢で、見たこと。

 

 人神だ。

 リベラルはずっと、人神が与えた助言について、引っ掛かりを覚えていた。

 何故、リスクを犯して『龍神の神玉』を持つ、己の前に現れたのか。何故、選択肢のない選択肢を与えたのか。何故、態々助言を与えたのか。

 その理由に、ようやく気付いた。

 

(全ては、この日の為ですか……)

 

 リベラルが鍛練をしなくなった原因は何か。

 

 鍛練がキツかったから?

 否。鍛練を課していたのはラプラスである。リベラルの意思で、止めることは出来なかった。

 リベラルが本音を打ち明けたから?

 否。本来であれば、ただ鍛練が嫌だからという理由だけで、何もしなくていいと許可される訳がない。

 

 ならば、何故か。

 そんなの、単純な理由である。

 

 ――人神が夢に現れたと、報告したからだ。

 

 だからこそ、リベラルは『龍神の神玉』だけに集中して、研究することを許された。人神の能力の無効化という、免罪符があったから。

 その結果、リベラルは鍛練から離れてしまった。間抜けにも、そのためだけに人神が現れたとも知らずに。

 

(何故、何故気付けなかったのですか…!)

 

 人神の狙いに気付くことは、不可能ではなかった。未来を知るリベラルであれば、可能だった筈なのだ。

 人神は、無意味な助言をしない。彼の言葉は、必ず布石となって意味を持っていた。

 そして、第二次人魔大戦でのラプラスの結末。その障害に、娘であるリベラルが立つことになるのは、誰にでも分かることだろう。ならば、その障害の力を削ろうとするのは、自明の理。

 もしも、人神が助言などせず、無駄話だけをすれば、その狙いに気付けただろう。もしくは、適当な助言でもされていれば、リベラルは気付けた。

 だが、人神はそのことを悟られないよう、混乱させるためその後に起きることを教えた。その結果、リベラルは狙いに気付くことが出来なかった。

 

(おと、うさま……)

 

 防ぐことも出来ず、顎に拳が突き刺さる。

 

 それがこの結末。

 リベラルは強くならなかったことを死ぬほど後悔し、その意識を手離した。

 

「――安心せよ。ヒトガミから貴様は殺さなくてもいいと言われておる」

 

 最後に、そんな言葉を聞いた気がした。

 

 

――――

 

 

 ザラリとした感触が、頬を撫で上げる。ヌチョヌチョと顔がベタつき、リベラルは不快感から目を覚ます。

 

「グルゥ…」

 

 目の前に、サレヤクトがいた。かの赤竜王は心配そうな瞳を見せ、倒れ伏せていたリベラルを舐め上げていたのだ。

 目を覚ましたリベラルは、目の前にいるサレヤクトを見つめながら、ボンヤリと思う。

 

「私は……?」

 

 何故、私は生きているのか?

 

 そんな疑問が、真っ先に浮かんだ。リベラルはバーディガーディとの戦いに敗北し、意識を失っていたのだ。幼子ですら殺せる無防備な姿を晒していた。

 だというにも関わらず、サレヤクトが現れるまでの間、誰にも危害を加えられていなかった。

 殺せたと言うのに、生かされたのだ。意識を失う前に聞いた言葉は、正にそのままの意味だった。

 

「ま、さか……っ!!」

 

 中身が日本人であるリベラルにとって、本来ならば『情けを掛けられる』という状況を、喜ぶ人間であった。生きてるだけマシだという、単純な意見だ。

 だが、この時ばかりは、生きてることを喜ぶことが出来なかった。

 

 

「――ふざけるなぁ!!」

 

 

 胸中を埋め尽くすは、身を焼き焦がす怒り。煮えたぎる憎悪。即ち屈辱だ。

 舐められているのだ、リベラルは。生かされてしまった、幾つもの答えが浮かび上がる。至極単純な理由だ。

 

 “いつでも始末出来る”。

 “駒として利用する”。

 “敵になり得ない ”。

 

 そのことを思い、堪えきれぬ憤怒に包まれる。

 

(私を生かしたこと…必ず後悔させてやる…)

 

 許せる訳がないだろう。どうして、人神はここまで人を怒らせられるのだろう。

 

「グゥ…」

 

 怒りに滾るリベラルであったが、しかし、隣にいるサレヤクトの鳴き声のような唸りを聞き、意識を傾ける。

 そして、そう言えばと思い出した。

 

「……ラプラス様は?」

 

 今更ながら、どうしてここにサレヤクトがいるのだという疑問が沸き出ると同時に、ひとつの結末が思い浮かんでしまう。だが、そんなことは決してあり得ないと、言い訳するかのように否定する。

 

(いえ…バーディガーディは私との戦闘でそれなりに消耗した筈です…『闘神鎧』を着用されたとしても、お父様が負けるわけ…)

 

 しかし、現実が変わることはない。サレヤクトは小さく首を横に振り、ラプラスが負けたという事実を悲しそうに伝えた。

 

(そんな……)

 

 足元から力が抜けていくような感覚がした。目の前に広がる光景が視界に入っているはずなのに、上手く思考することが出来ない。頭の中が真っ白になる。

 

 ラプラスは負けたのだ。

 リベラルが原因で。

 

「あ、あぁ……ああっ……ご、ごめ、ごめんなさ、ぁあ、ぅあああ……っ」

 

 口を突いて出たのは、ラプラスへの謝罪の言葉だった。嗚咽まじりに、何度も何度も謝罪の言葉を口にする。

 なんて愚かな娘だろう。なんて不甲斐ない娘だろう。荒れ狂う感情の嵐で、先程までの怒りも相俟って、何がなんだかわからなくなってしまう。

 

「お父様…お父様ぁ……」

 

 ただ、龍鳴山にひとつの嗚咽を響かせた。




Q.バーディガーディが龍鳴山を掘って進んだってどゆこと?
A.他にいい案が思い付きませんでした。ヒトガミが助言しながら家に進んだと思って下さい。

Q.何でリベラルが『龍神の神玉』で人神の能力を無効化したのに、この結末を見通されてるの?
A.独自設定になってしまうのですが、人神はリベラルが『龍神の神玉』の能力を確立させてない未来も見てます。要は、別の可能性の未来を見た結果、鍛練してなければバーディガーディに勝つことが出来ないと知りました。

Q.そもそも、何でよわっちいリベラルに自宅警備員させてるの?
A.リベラルはよわっちいので、龍鳴山から降りることすら出来ません。なので、あれこれ理由をつけましたが、警備員をしてもらうしかなかったのです。戦争に連れてくなんてもっての他ですよ!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。