シルヴァリル「私はペルギウス様の下僕です」
ペルギウス「リベラルの姿勢許すまじ」
リベラル「ルーデウスに会いに、ブエナ村に行ってきます」
今回の話を書いてて気付いたんですけど、ロキシーとリベラルって口調が似てたんですよね。字面にしたら、どっちが喋ってるのか物凄く分かりにくかった…。
とは言え、今更どうしようもありません。どうにか描写を詳しく書くことで対処するしかないのだろうか…。あんま自信ないですね…。
甲龍歴410年。
ロキシー・ミグルディアは、ブエナ村へと向かっていた。
魔大陸ビエゴヤ地方に存在するミグルド族の女性であり、種族の身体的特徴として全体的に小柄である。トンガリした帽子を被り、水色の髪を三つ編みにし、いかにも魔術師っぽい茶色のローブで身を包んでいた。
彼女はブエナ村で、魔術の家庭教師を募集していたのを目にし、割が良かったので受けることにした。今はその村へと向かって、歩いている最中だ。
鞄をひとつと、魔術師っぽい杖を持つロキシーは、傍目から見れば危うい存在だろう。あまりにも無防備に見える。
だが、彼女はA級冒険者であり、水聖級の魔術師である。その実力は折り紙つきだ。この辺りの魔物が、ロキシーに敵うことはないだろう。
「…………」
しかし、熟練の冒険者であるロキシーは、決して油断することなく周囲を警戒し、目的地へと歩き続ける。
本来であれば、馬車などに乗ってのんびりと向かいたかったのだが、生憎と金銭に余裕がないがために、途中から徒歩で行く羽目になっていた。
「……!」
ふと、気配を感じたロキシーは、後ろを振り返った。すると、一台の馬車が街道を走り、彼女の元へと向かって来ていたのである。
「……おかしいですね。ブエナ村に向かう予定の馬車は、もうない筈ですが…」
乗合馬車の待合所にて、あらかじめ便を確認していたロキシーは、訝しげに感じた。予定にない馬車の正体は、通りすがりの行商人かも知れないが、ただの賊の可能性もある。
更に言えば、ロキシーの姿は現代での中学生くらいでしかない。そんな女性の一人旅は、悪人に狙われやすいのだ。ロキシーはいつでも仕掛けられるように身構え、接近してくる馬車へと意識を向ける。
徐々に近付き、御者の姿を視認したロキシーは、更に警戒を高めた。手綱を握る人物がおかしいのである。
緑と銀色のメッシュの髪を伸ばした女性だ。特に防具を着用しておらず、無骨な茶色のコートを羽織っていた。それだけならばあまり気にしなかったのだが、隙らしい隙を一切感じられなかったのだ。
例え、ロキシーが唐突に最大火力の魔術を放ったとしても、アッサリと対処されてしまいそうな、そんな予感。何をしても、勝てるイメージが沸かないのだ。
己よりも強いかも知れない存在が現れては、嫌でも警戒してしまう。
「むっ……お一人ですか?」
走行していた馬車は、ロキシーに近付くと速度を緩め、彼女の目の前で停止する。銀緑の女性は笑顔を見せて語りかけるが、三白眼のせいか睨んでいるようにしか見えなかった。
ロキシーはどう答えるか逡巡し、なるべく相手を刺激しないように努めることにした。
「そうですね。この先にあるブエナ村へと、向かってる最中です」
「ほう、奇遇ですね。実は私もこの先にある村へと用がありまして……」
ふむふむと言いたげに頷く女性に、ロキシーは首を傾げる。
特に悪意を感じられなかったのだ。それに、ロキシーを見る目が、どことなく憧憬を混じらせていた。まるで、キラキラと瞳を輝かせているようである。
そんな女性の様子に、ロキシーは僅かに警戒心を下げた。
「私はリベラル。見ての通り旅人です」
「何が見ての通りなのか分かりませんが……ああ、いえ、申し訳ありません。わたしはロキシー・ミグルディアです」
「……なるほど、ロキシー様ですか。私の記憶が正しければ、確かA級冒険者であり、水聖級魔術師の凄腕ではありませんか?」
「えっ…いえ、それほどでも……」
まさか、いきなりそのように褒められるとは思わず、少しばかり照れてしまうロキシー。
確かに吟遊詩人によって有名にはなっているが、名前や種族は明らかになっていない。しかし、詩が流行りだした頃に冒険者だったものにとっては、ロキシーの名は有名だった。
つまり、目の前のリベラルは冒険者である可能性が高く、更にはこんな辺境地でもロキシーの名を知ってる者がいると言うことだ。
「んー…折角なので、乗っていきますか? ロキシー様が護衛して下さるのでしたら、私も安心して御者に勤めることが出来ます。勿論、護衛なのでタダですよ。報酬は渡せませんけど」
「しかし…その、わたしよりもあなたの方が強いのでは?」
「何を言ってるのですか。一人よりも二人の方が、安心出来るではありませんか。私も貴方も、女性の一人旅をしているのですよ?」
ふむ、とロキシーは考える。リベラルが悪意を持っていなければ、メリットしかない提案なのだ。
無料でブエナ村まで行ける上、馬車なので休息することも出来る。一人では襲われやすいし、魔力を消費し過ぎれば無力になってしまうが、二人ならばカバーも出来るだろう。
それに、僅かとは言えリベラルと言葉を交わしたので、ある程度の人柄も掴めた。この人は、悪人ではないと感じるのだ。
なので、提案に乗っても問題ないだろうと、ロキシーは判断した。
「確かに、一理ありますね。では、失礼します」
「はい。ご乗車ありがとうございます! ブエナ村まで金貨十枚でーす!」
「えっ……まさか、お金を取るのですか?」
「あはは、言ってみただけです。お金なんていりませんよ。冗談です冗談」
じっとりした目で見つめると、リベラルは苦笑いを浮かべて頭を掻く仕草を見せる。ただからかってきただけのようだ。
この様子なら大丈夫そうだな、とロキシーは再度思い、今度こそ馬車へと乗り込んだ。
――――
「ロキシーです。よろしくおねがいします」
「リベラルです。よろしくお願いします」
二人並んで、自己紹介をする。
そんなロキシーとリベラルの眼前には、三人の男女がいた。
一人は年若い茶髪の男性で、ワガママそうな顔をしている。パウロ・グレイラットだ。
もう一人も年若くて金髪の女性だが、おしとやかな顔をしている。ゼニス・グレイラットだ。
そして、二人の息子であろう少年も、茶髪で父親似の顔をしていた。彼こそが、リベラルの待ち望んでいた存在。ルーデウス・グレイラットである。
そんな三人は、びっくりして声も出せない様子で、ロキシーとリベラルを見つめていた。
「あ、あ、え、二人…?」
「どういうことなの……」
ゼニスとパウロは何がなんだか分からないと言いたげな表情を浮かべ、二人を見つめたまま微動だにしなかった。その様子に、ロキシーも頭にはてなを浮かべている。自分が魔族だから、驚いてるようにも見えなかったのだ。
そこに、冷静に状況を見守っていたルーデウスが、一声掛けた。
「小さいんですね」
「あなたに言われたくありません」
「3歳児に良さなど分かりやしませんよ」
ロキシーは2つの意味で言い返し、リベラルは胸の小ささなどお前に理解できぬと言い返す。二人とも、何だかんだで気にしていた。
そんなやり取りを見ていたゼニスとパウロは、ハッとした表情を浮かべ、前に出てきた。
「あの――家庭教師の応募は一人だけの筈なんですけど……」
「えっ」
「あっ」
ゼニスの戸惑いの言葉に、ロキシーとリベラルは顔を見合わせた。二人とも、まさか目的地が同じで、更には目的も同じとは恐ろしい偶然だな、くらいにしか思っていなかったのだ。
しかし、ロキシーは単純にお金が欲しかったので、ここで不採用などと言われては非常に困る。ある程度の路銀を使い、既に手持ちの余裕はほとんどなかったのだから。
「わたしは依頼が受理されたことを確認してから、ブエナ村へと向かったのですが……リベラルさんは?」
「私は依頼を見ただけです。現地で交渉すればいいやと思ってました」
「…………」
「…………」
互いに沈黙。
リベラルは無言の圧力を掛けてごり押そうとしていたが、そんなことでロキシーが退くわけもなく。既に答えなど出ているのだった。
そもそも、採決するのはロキシーではなく、パウロとゼニスの二人である。
「では、そちらのロキシーさんが家庭教師ということですか」
「そのようですね」
当然ながら、正式な手続きを踏んだロキシーが採用されるのであった。必要な手順をすっ飛ばし、いきなり現地に向かったリベラルが、採用される訳もなかった。
ショボーンと落ち込むリベラルであったが、チョンチョンと膝元を突っつかれ、そちらへと視線を向ける。そこには、ルーデウスがネットリとした笑顔を浮かべ、
「父さま、母さま。リベラルさんも一緒に採用することは出来ないのですか?」
助け船を出すかのように、擁護してくれたのである。とても、3歳児の心遣いとは思えない。精神年齢は37歳くらいであるが。
彼の言葉に、リベラルは神はここにいたと言わんばかりの表情を見せ、期待に満ちた瞳を両親の二人に向ける。
「い、いいのですか……?」
だが、現実は非情であった。
「いや、無理だな。金が足りん。そもそも、家庭教師は二人も必要ないからな」
「そうねぇ…あらかじめ知っていれば何とかなったかも知れないけど、突然だもの」
「あ、はい」
キッパリと断られたリベラルは、ルーデウスの家庭教師になることを諦めざるを得なかったのである。
途方に暮れるリベラルであったが、同情でもされて「やっぱり採用ね」となる訳もない。そもそもな話、リベラルが馬鹿で間抜けなだけなのだから。
「……分かりました。私はその辺りで小金でも稼いで細々と暮らします。気が向いたら採用してやって下さい…」
リベラルはトボトボとその場から立ち去り、門の外へと出ていった。
「……はぁ。それで、わたしが教える生徒はどちらに?」
残念ながら、世間は冷たく。
そんな去っていくリベラルのことを無視して、ロキシーは家庭教師としての雇用確認を行っていた。ブエナ村まで送ってくれた恩はあれど、彼女にどうこう出来る問題ではないのだ。手持ちのお金も少ないので、何かを上げることも出来ない。
そもそもな話、リベラルが実力者だと勘づいてるので、自分がどうこう世話する必要もないだろうと思っていた。
パウロとゼニスも同様で、見知らぬ他人に無償で金銭を授けるほどお人好しでもない。ちょっとくらい、村の者たちに口利きしてもいいと思うが、今はどうしようもないのである。
結局、誰も声を掛けることが出来なかったが、ルーデウスだけはその後ろ姿をじっと見送るのであった。
――――
「馬鹿なことをしてしまいましたが……まあ、問題はなさそうですね」
家から離れ、馬車へと戻ってきたリベラルは、この目でルーデウスの姿を見れたことに、安堵を抱いていた。
正直、ルーデウスが誕生する根拠と確信はあったが、やはり万が一の可能性が訪れた時の恐怖もあったのだ。しかし、ルーデウスが存在したことにより、未来はある程度確定したと言っても過言ではなかった。
ルーデウス・グレイラット。
七星 静香。
篠原 秋人。
この三人はトラックの居眠り運転によって地球から消え去り、この世界へと転生と転移してくる存在だ。篠原 秋人は本当にこの世界に転移するかは現時点では不明だが、状況的にほぼ間違いなく現れると考えている。
そして、ルーデウスが現れた以上、サイレント・セブンスターことナナホシが、転移事件によって現れることが確定した。もしも現れないのであれば、ルーデウスの存在は矛盾してしまうのだ。
この世界に来る前に、トラックに轢かれたのがルーデウスと篠原君だけなどというふざけた平行世界でもない限り、絶対にナナホシは転移することとなる。仮にしてなければ、彼女と篠原君はトラックに轢かれて死んでることになるだろう。そもそもそうであれば、ルーデウスも転生など出来ない。
世界を隔てる次元とは、そう易々と破れないのだ。ナナホシと篠原君が召喚され、転移したことによって生じる、次元の隙間がなければ、魂だけになったルーデウスがこの世界に来ることは出来ない。
つまり、ルーデウスが転生している以上、必ず召喚による転移が発生してるのだ。
「ややこしいので頭が混乱しちゃいますよ。……私の推測が外れてて、静香が現れなかったらどうしましょう…」
どれだけ確信や根拠があったところで、所詮は仮説だ。自分の考えが全くの的外れな可能性もあり得る。
その場合は、本当にどうすればいいのか分からなかった。正直、想定すらしていないし、想定して行動する気にもならないのだ。
そんな未来を、想像すらしたくなかった。
「……うん、そのことは一先ず置いておきましょう。今はルーデウス様のことです」
リベラルは難しい考えを振り払い、先程の家庭教師でのやり取りを思い返す。
家庭教師としてブエナ村にやって来た訳だが、別に家庭教師になるつもりなど全くなかった。ロキシーがルーデウスに魔術の基礎から教えるのはもちろん、彼のトラウマを解消させるのは、逃してはならぬ重要イベントだ。
外に出ないことには、事態が進展することがないのだから。態々その邪魔をする必要などない。ならば、何故あのような間抜けな行動をしたのかと問われれば――縁作りのためである。
切っ掛けはどうあれ、間違いなくリベラルは印象深い人物として頭に残っただろう。それに、ルーデウスは転生前での経験か、あまり胡散臭い人物を信用しない。ヒトガミがいい例だ。
打算と計算で関係を作るのは美しくないが、ペルギウスの時と同じである。必要だから、関係を作らなければならない。綺麗ごとだけでは、目的は達成できないのだ。
オルステッドも似たようなことを行ない、自身の望む未来に進むよう、仕向けている。それと同じようなものだ。
とは言え――嫌々やっている訳でもない。
(フフ……ルーデウス様とロキシー様、パウロ様にゼニス様。リーリャ様にシルフィエット様…早く仲良くなりたいですね!)
ペルギウスもそうだったのだが、自身の知識にある人物と過ごせる日を、リベラルはずっと楽しみにしていた。
彼らは、希望なのだ。
ラプラスが敗北し、孤独になって以来、ずっと戦いに明け暮れていた、リベラルの希望。この時代に至るために、力を蓄え続けていた。
待ち望んでいたのだ。
こうして出会える日を。
そのために、力を付けたのだ。そのお陰で、挫けることがなかったのだ。復讐心だけでは、心が折れていた。
だからこそ、リベラルは喜ぶのだ。自分のしてきたことは、決して無駄ではなかったと。
まだまだ始まったばかりだけど、始まってすらいないかもしれないけど、ようやくスタートラインに立てたのだと、実感が沸き上がるのだ。
(それにしても…道程でロキシー様と会えるとは、運命を感じます)
リベラルは家庭教師の依頼を確認して、ブエナ村へと向かった訳だが、その道中でロキシーと遭遇したのは本当に偶然であった。元々はロキシーより遅く到着しようと、のんびりと出発し、ゆっくりと向かっていたのだが、まさか徒歩で向かっていたとは思わなかったのだ。
父さん、神の気配がします。
その気持ちが分かった気がした。遠目から一目見た時、一瞬で何者なのか分かってしまったのだから。強い運命を持っていた。確かに迷宮の中でも、探し出せそうである。
(私も魔眼を使えば不可能ではなさそうですが…ルーデウス様には敵わないでしょう)
ルーデウスとロキシーは強い運命によって、ヒトガミが阻止しようとしても結ばれるらしい。ヒトガミですらその運命を阻止出来ないのだ。世界の意思を感じてしまう。
だからこそ、運命の弱まるらしい妊娠中に、ロキシーは狙われてしまうのだが。
取り合えず、リベラルが家庭教師と採用されていたとしても、実際には問題なかったのかも知れないし、逆に何をしても採用されなかったのかも知れない。
とにかく、先程も言ったように、顔繋ぎは出来た。リベラルは数年ほどブエナ村に滞在し、彼らとの交流を深めるのだ。
転移事件が発生するまでの、当面の目標も決まっている。
(ルーデウス様を強くしましょうか)
イレギュラーが発生しても大丈夫なように、ルーデウスには強くなってもらうのだ。
次回はろくに話が進まない上、ルーデウスとほぼ会話なしです。
私の文才に早くも限界が見えてしまったよ…。