リベラル「私、誕生!」
ラプラス「保険、誕生!」
尚、この話の前に12話も更新されておりますので、そちらを観覧されていない方はお気をつけ下さい。
龍鳴山の中腹に、木の無い空間がポッカリとあった。その不自然さから、人工的に手が加えられていることは明らかであろう。
ポッカリと開いた空間の中心に、一人の男と幼い少女が向き合って位置していた。ラプラスとリベラルである。
「では、始めようか」
「……はい」
ラプラスの問い掛けに対し、リベラルは心底嫌そうな表情を浮かべながらも、彼女なりの構えを見せる。両手を前に置き、軽く膝を曲げた。ボクシングに近い構えである。
ラプラスはその様子を棒立ちのまま眺め、自然体のまま立ち尽くす。遠い昔の野性的な獰猛さはなりを潜め、今では理知的な姿だった。
「君のタイミングで始めるといい。私を殺すつもりで掛かってきたまえ」
彼の言葉に、リベラルは無言のまま佇む。呼吸を図るかのように観察し、ただ時間だけが過ぎて行った。そして、意を決したかのように足に力を込めると――大きく後ろへと跳躍した。
飛び下がりながら掌に魔力を集め、着地と同時に魔術を放とうとするリベラルであったが、彼女の眼前には既にラプラスが迫っていたのであった。リベラルの行動を読んでいたラプラスは、彼女が動いた瞬間に全力で駆け出し、距離を詰めていたのだ。
苦し紛れに魔術を放ったリベラルであったが、彼は軽く腕を動かすだけで受け流し、彼女の腹へと蹴りを見舞う。
「うぐっ!」
フワリとからだが浮き上がり、そしてボールのように跳ねながら地面へと打ち付けられる。リベラルは受け身を取ることすらままならず、勢いがなくなるまで地面とキスをする羽目になった。
ようやく止まったところで立ち上がろうとする彼女であったが、その前にラプラスが目の前へとやって来ていた。
「立ち上がるのが遅い。受け身を取らないからそうなるのだ」
それだけを告げたラプラスは、呆然としているリベラルに追撃を仕掛ける。地面に倒れていた彼女は、当然ながら防御すら出来ず、無防備なまま拳を受け入れた。
血ヘドを吐こうが、ラプラスの手が緩むことはなかった。助かりたければ、自分の力でこの状況を打開しろと言っているのだ。
リベラルは歯を食い縛りながら、何とか隙を見付けようと目玉を動かし、顔面を殴られる。辺りに使える物はないかと見渡そうとし、からだを蹴られる。
どうすることも出来ない現状に喚きながら藻掻くも、ラプラスの手が緩むことはなかった。
結局、リベラルは何も出来ないまま気絶した。
それから数時間後、意識を取り戻したリベラルはムクリとからだを起こし、辺りを見渡す。ラプラスは既にこの場から去っており、彼女の周りには誰一人としていなかった。
リベラルは自分の傷だらけとなったからだを見下ろし、溜め息をひとつ吐く。全身血塗れで、常人ならば致命傷であろう大怪我だ。それでも、死ぬことはない。龍族としての生命力の強さを垣間見る光景であった。
何で自分はこんな目にあってるのだと思いつつも、魔力を高めて行き、
「『ヒーリング』」
その言葉と同時に、全身が淡い光で包まれたかと思いきや、リベラルの負っていた傷はひとつ残らず治る。
自身の状態を確認出来た彼女は、再び地面へと寝転がり、日の落ち始めた空を眺めながら、
「ラプラスの修行マジつらたん」
この時代には合わぬ、軽い呟きを溢すのであった。
――――
リベラルは天才であった。
言葉を教える前に言葉を覚え、意味を理解する。自分の足で動けるようになれば、家の隅々を探索するかのように移動し、本などを読みあさっていた。ラプラスが何をせずとも、一人で学習をしていたのだ。
特に驚くべきことは、その魔術の才能であった。
勝手に本から知識を得て、誰の教えもなく一人で魔術を行使した。問題点などを見付ければ、瞬く間に改良して扱いやすくする。
幼子とは思えぬ異常な行動であったが、ラプラスはそのことを喜んだ。リベラルは戦うことを宿命づけられた子である。その異常な才覚を喜びこそすれど、忌諱するなどあり得ないのだ。
彼女の才がヒトガミを追い詰め、将来誕生するオルステッドの力になることを思えば、頬が弛む一方である。
だが、リベラルに対して、ひとつだけ不満があった。
彼女は近接戦闘能力関係がからっきしであったのだ。
身体能力を向上させる内なる生命の力、龍気――闘気を纏えぬわけでもない。からだが弱いわけでもない。むしろ、自分の子として相応しい力がある。
けれど、何故かリベラルが戦う時は、魔術だけでどうにかしようとするのだ。だからこそ、ラプラスが稽古をつけると、いつも一方的な展開にしかならなかった。
ラプラスはどうしてなのか一度問い掛けたことがあるのだが、素っ気なく「別にいいじゃないですか」としか言わず、結局理由は不明なのだ。
将来のことを思えば、それは非常に由々しき問題であったのだが、ラプラスはしばらく放置することにした。どのみち、稽古でボコボコにされているのだから、いずれは覚えてくれるだろう、と。
魔術だけでは限界があることなど、賢い娘ならばすぐに気付くだろうと、期待を込めて様子見することにしたのだ。
だが、ラプラスは気付かなかった。
リベラルがどうして賢いのか。どうして魔術だけしか扱わないのか。その魂が本来よりも歪であったことに、ラプラスは気付けなかった。
本来の魂は、龍神の神玉の力に耐えきれずに消滅し、別の魂が肉体に滑り込んだことに、彼は気付けなかった。
即ち――リベラルが転生者であることに、ラプラスは気付かなかったのである。
――――
「んう、くぅぅ…!」
リベラルは大きくからだを伸ばし、疲労で凝り固まった筋肉をほぐしていく。気持ち良さげに吐息を溢しながら、からだを伸ばし続ける。
それから一息吐き、すっかり日の落ち始めた空を眺めた後に立ち上がる。のんびりとここで休んでいても仕方ないので、家へと向かう。
(ハァ…それにしても、転移事件が起きるまで何千年待てばいいのでしょうか…)
鬱蒼とした気持ちで、彼女は未来で起きるであろう出来事へと思い馳せた。
リベラルには、未来の知識があった。とある無職の男が異世界転移を果たし、この世界を本気で生きて行く物語だ。
とは言え、それは不完全な情報だった。
彼女が知っているのは、ギースとの最終決戦前…即ち、ナナホシが異世界転移装置を作り出したところまでである。生憎、その先の話を知ることが出来ずにいた。
そこまではいいのだ。未来の知識は強力な武器であり、利用出来るものなのだから。しかし、その知識を活かすには、あまりにも長く、遠すぎた。
今は第一次人魔大戦から数百年ほどであり、転移事件が起きるまで約五~六千年も先のことなのだ。
リベラルの未来の知識は、全く持って役に立たなかったのである。
(ラプラスには申し訳ありませんが…私はなるべく歴史を改変しないようにさせて頂きますよ)
正直、彼女はラプラスに対して、そこまで好感を持っていなかった。元々知っている知識では、ただの殺戮者であり、オルステッドの最大の障害になるのだから。
勿論、それがヒトガミの策略によってそうなってしまったことも理解しているし、ラプラスが語ってくれたので、現在に至るまでの過去も知っている。将来、オルステッドの役に立ち、ヒトガミを打倒するために、どれほどの想いで行動しているのかも、全部知っている。
五龍将を殺され、龍神を殺され、龍界を壊され、夢を壊され、掌で踊らされ続け。ただヒトガミを倒すためだけに、ずっと独りで戦い続けた男。けれど、その想いが実ることなく、最終的にオルステッドの邪魔をする魔神へと変貌して。
“人” を憎悪し、世界を戦禍に巻き込む、救われない最後の五龍将の一人。
ずっとオルステッドのためにやってきたのに、そのオルステッドの前に立ちはだかるなんて、あまりにも救われない。
だけど、その歴史を知っていても尚、
(ラプラスは見殺しにする他ありませんね)
冷徹にそう思うのであった。
(どのみち、ヒトガミは私とラプラスだけでは倒せませんですし)
オルステッドが行動を開始するのは、甲龍歴330年の冬頃。即ち五~六千年後だ。そこから200年の間、ヒトガミを殺すまでループし続ける。
ここで問題になるのは、その時期までラプラスが無事に過ごせるか、である。
例え第二次人魔大戦でラプラスを助け出したとしても、そこから何千年もの間、ヒトガミから一方的な攻撃を受け続ける羽目になるのだ。
強力な未来視を持ち、読心術も持ち、更にはそれ以外にも不明な力を持つかも知れない“神”を相手に、助け出すなどどう考えても無理である。
ルーデウスはよくそんな相手に立ち向かえたと感心することしか出来ない。大切な人を守るため、そしてオルステッドに脅されたようなものだとは言え、常人にはとても無理だろう。
(行動を起こすのは転移事件後。そのことを見据えて布石を置くべきですかね…?)
だが、ヒトガミが相手であることを考えれば、それは無意味であると思い直す。
ヒトガミの未来視がどれほど正確なのか不明であるが、オルステッドが200年間のループを100回以上しても勝てていないのだ。その事実を考えれば、どれほど先のことを見据えていても、無駄なような気がしたのだ。
こちらにも未来の知識があるとは言え、そんなものはヒトガミがちょっと動けば壊せる程度のものである。
リベラルは何をどう行動しても、勝利するイメージが沸かなかった。
(となれば、やはり鍵は私の持つ『龍神の神玉』ですか…)
ラプラスにより、自身が龍神の神玉の恩恵を受けられることをリベラルは知っていたが、それでも効果を検証することが出来ずにいた。
当たり前である。対ヒトガミ用に調節された神玉は、ヒトガミを相手にした時にしか効力を発揮しないのだ。そもそもどのような効果なのか、検証のしようがない訳である。
正に宝の持ち腐れという言葉が相応しいだろう。
(しばらくは神玉について調べたいんですけどねー…)
そう思うも、毎日ラプラスにボコられる日々である。そんな余裕はなかった。
リベラルは溜め息を溢し、トボトボと家の中へと入る。だが、そこは以前とは違い、様々な物が乱雑に放置されていた。グッチャグチャのゴッチャゴチャだった。
彼女が寝転んでいた間にラプラスは実験でも行っていたのか、綺麗だった筈の室内は見るも無惨な姿になっていたのである。
そのことに、リベラルは再び溜め息を吐いて片付け始めた。片付けを終えれば、彼女はソファーに寝転んで疲れを癒そうとする。
数少ない休息だ。至福の時間とも言える瞬間であったが、そこになに食わぬ顔をしたラプラスが現れ、
「何をしているんだいリベラル? 次は私が教えた型の動きを反復練習するんだよ。それが終われば飛行練習もしよう。君に羽はないが、やりようによっては飛べるようになるだろう。飛べるようになれば、私と空中での戦闘訓練としよう。やはり、空を飛べることは大きな利点になるからね。ああ、飛んでいる相手を打ち落とす術も教えなければ。オルステッド様が飛べるとも限らないからね。一緒に最適な方法を模索していこう。レッドドラゴンの相手をするのもいいかも知れないね。なに、もしも危なければもちろん助けるさ。そろそろリベラルも一人でレッドドラゴンを狩れるようにならないと龍鳴山から降りられないからね。後、それからは――」
「もう嫌だぁぁ!」
ひたすらに戦闘訓練を課すラプラスに、リベラルはうんざりしていたのであった。
彼女がある程度成長してからは、24時間毎日ずっとこれである。食事は数日に一度。睡眠は数年に一度。休みは無し。風呂もなしで水浴びのみ。そして血が流れぬ日のない暴力。
龍族の血を引いているので何とか耐えられていたが、中身が現代人であるリベラルにとって、ブラック企業とかそんなレベルを越えている重労働っぷりである。
いつか逃げ出そうと考えているのだが、龍鳴山にはそこら中を飛び交うレッドドラゴンがいるため、その願いが叶うことはなかった。
ただ、補足するのであれば、この内容は龍族の日常を少し厳しくした程度のものでしかない。
龍界で過ごしていた龍族は、一歩でも町の外に出れば、レッドドラゴンに襲われる。だからこそ、ドラゴンに負けない戦闘力が必要だった。
そして、ある一定の年齢から厳しい戦闘訓練が行われ、立派な戦士へと育てられる。多大な特訓を経験したからこそ、彼ら龍族は六種族の中でも一番強いという自負があった。
つまり、ラプラスは自分の常識に従っていただけななのだが、リベラルの知る常識とはかけ離れていたのだ。
確かにリベラルには、通常よりも厳しい訓練を課しているが、将来誕生する御子のためであり、そもそも魔術による戦いの才を見せてしまったからである。
結局、互いに常識のズレがある以上、通常の特訓でもリベラルは泣き言を溢すことに変わりない。
つまり、リベラルがラプラスのことを見捨てようと考えた一因は、過度な特訓が原因であった。
――――
「――そういう訳だから、しばらく家を開けることになりそうだよ」
ラプラスが違和感を感じたのは、家から離れようとした時であった。
ヒトガミの打つ布石を取り除くため、しばらく家から離れるとリベラルに告げたときである。
「本当ですか!?」
「……うん?」
何だが、リベラルが無性に嬉しそうにしていたのである。
普段はムスッとした様子で、淡々と訓練をこなしていた娘が、まるで龍神様と会話しているルナリア様のように、輝かしい笑顔を見せていたのだ。
「何か嬉しいことでもあったのかい?」
「えっ!? いえいえ! そんなことはありませんよ!?」
「ふむ…ならいいけれど、特訓はサボらないようにしなさい」
「はーい! 頑張りまーす!」
笑顔を浮かべる娘が元気のよい返事をしたことに、ラプラスは頬を緩めながら行ってくると告げた。きっと、ヒトガミの策略を潰せることを喜んでいるのだろうと、都合のよい解釈をして。
そして彼は、長年の相棒であるレッドドラゴンのサレヤクトの背に飛び乗り、龍鳴山から離れていく。
だが、彼は気付かなかった。
リベラルが笑顔を浮かべていたのは、ヒトガミなど関係のないことに。
ただ、ラプラスがしばらくの間、留守にすることを喜んでいたのだと…。
それから無事にヒトガミの布石を潰すことの出来たラプラスは、約一ヶ月後に龍鳴山へと帰ってきた。
きっと出発時のように、娘が笑顔で出迎えてくれるだろうと頬を綻ばせて。そんな想像をしていたラプラスであったが、その予想は完全に外れることとなった。
「あ、ああっ…!? そんな…もうですか…? 私の安息の時間は…ここまでなのですか…?」
龍神様の神玉を砕かれ、ヒトガミによってネタバラシがされた時のシラード様と同じような、絶望した表情を娘が浮かべていたのだ。
「リベラル! 何かあったのかい!」
その様子に、ラプラスはただならぬ事態を感じた。
(まさか…ヒトガミの布石は罠であり、私が離れた隙にリベラルを狙ったのか!)
サレヤクトから飛び降り、急いでリベラルの元へと駆け付けたラプラスは、まずは怪我の有無を調べた。リベラルが無事であることを確認すると、次は家の中に向かった。
しかし、特に荒らされた形跡もなく、特に何かが無くなっていた訳でもなく、ラプラスは混乱することとなった。
それからリベラルに事情を訊ねて、特に何かがあった訳でもないことを知り、彼はホッと一安心する。
ここまでは良かったのだが、ラプラスが更なる違和感を感じたのは、ヒトガミの布石を潰すために、再び家から離れようとした時だ。
この時もまた、リベラルは嬉しそうに笑顔を見せていたのだが、帰ってきた時には無表情になっていた。
その次の時も、また次の時も、リベラルは出発時は嬉しそうだったのに、帰還時は無表情になっていたのだ。
(何だ…これはヒトガミの攻撃なのか?)
ラプラスは考えた。
もしかしたら、リベラルはヒトガミに唆されてしまっているのだろうかと。
もしかしたら、リベラルはヒトガミの術中により、事情を語ることも出来ぬ事態に陥っているのだろうかと。
もしかしたら、リベラルは誰にも語ることの出来ない悩みを抱えているのだろうかと。
(ならば…どうして私が龍鳴山から離れる時は笑顔なのだろうか? そして、どうして私が帰ってきた時には、あのような表情を浮かべるのだろう…?)
共通点は全て同じである。笑顔なのは離れた時で、暗くなるのは戻ってきた時。
家にいる間も、何だかリベラルは暗い空気を纏っていた。ならば、自分が離れた時はずっと笑顔を浮かべているのだろうか。
何故? どうして? 本当にそうなのだろうか? ヒトガミは関係している? もしくは私の勘違い? それとも、他に何か――。
そして、ラプラスは気付いた。
(まさか――私はリベラルに嫌われているのか?)
その事実に。
――――
本日の特訓を終え、クタクタとなったリベラルは家の中へと入り、ソファーに寝転ぶ。
ラプラスがいない間はずっと特訓をサボったりしていたので、彼が帰ってきてから始まる特訓はいつも以上にキツく感じるのだ。
ずっと引きこもりニートと化していたので、からだを動かしていなかったことを軽く後悔するのがいつもの流れである。
そんなこんなで寝転がって休憩をしていたリベラルであったが、
「リベラル、いるかい?」
そんな呼び声と共に部屋の扉が開かれ、現れたラプラスに対してビクリと飛び起き、
(クソッタレがふざけんじゃねー! さっさと封印されちまえよコンチクショー!)
と、心の中で呪詛を吐くのだ。
だが、本日のラプラスはいつものように、容赦なく外へと追い出そうとせず、何かを考えるかのような仕草を見せるのであった。
そのことにリベラルは首を傾げつつ、
「どうかされましたかラプラス様? 私に用事があったのでは?」
と、訊ねた。言われることなど既に予想してゲンナリしていたリベラルであったが、ラプラスの口から出されたのは思いもよらぬものであった。
「お風呂というものに入らないかい?」
「お、お風呂…ですか?」
予想外の言葉に動揺を隠そうとしつつも、リベラルは内心に沸き上がる期待を抑えられずに声が震えた。
「ああ…昔、私が外交官であった時、人界に立ち寄った際にこのような話を聞いたのだ――」
そして、ラプラスは懐かしむかのような表情を浮かべながら、トンでもないことを口走る。
「――本音を語り合うならば、裸の付き合いをしたらいい、とな」
「はっ…?」
その台詞を聞いたリベラルは、しばらく頭を捻ることとなったが、気が付けばラプラスによってからだを持ち上げられていたのだった。
「ちょ、降ろして下さい!」
「リベラル…君は私のことを嫌っていないかい?」
抵抗して暴れていたリベラルであったが、その言葉にギクリとからだを震わせ、何も言うことが出来なくなった。
その間にもラプラスは進んで行き、外へと出た。それから手早く魔術を発動させ、簡易的な湯船のようなものを作り出す。
「確か…この中にお湯を入れ、からだを浸からせるのだったかな?」
ささっと魔術で水を張り、ラプラスは火の魔術で水を温めていく。沸騰直前となった時に、彼の魔術は止まった。
「さて、と」
「うぇ!?」
ラプラスがリベラルを地面に降ろすのと同時に、彼女の服は剥ぎ取られていた。抵抗することも出来ず、いつの間にか上着もズボンもスルスルと脱がされて彼の手に握られる。
その事実に混乱している内に、ラプラスは更に下着などを剥ぎ取っていく。傍目から見れば完全に事案ものである。
「ちょ、ちょっまっ」
「リベラル、これは相手の武器を奪う技術の応用だよ。しっかり覚えて、君も使えるようになるんだ。相手の武器を奪うことは、戦う上でかなり有効な術だからね」
全く持ってお門違いなことを抜かすラプラス。しかし、リベラルはそのことに気を向ける余裕などなかった。
ここは家の中ではなく外である。龍鳴山という自身のテリトリーにいるとは言え、外で裸にされてしまい、リベラルは羞恥心で動けなくなっていたのだ。
「なるほど…裸になって心に衣きせず、くったくなく、隠し事もせずか…人族もよくこのようなことを考えたね」
その間にゆっくりと服を脱いだラプラスが、彼女の肩を掴んだ。
「さあ、リベラル。本音で私にぶつかって来て欲しいんだ。どうして私のことを避けているんだい?」
そして、ラプラスはリベラルをお湯へと放り落とした。…沸騰しかけていたお湯へと。
「あっ、あづ、あづづづ!?」
「む…少し熱いかな」
あまりの熱さに藻掻いているリベラルを傍目に、ラプラスは龍気を纏うことによって、お湯の熱さを中和していた。
しかし、リベラルはそのことに頭が回らず、絶叫を上げながら湯船から飛び出る。
「こんなん喋れるかぁぁぁ!!」
あまりの熱さに喚くリベラルに対し、ラプラスは肩までお湯に使ってリラックスした様子を見せる。
「リベラル、これは特訓でもあるのだよ。龍気を上手く纏えば熱くないからね。丁度いい湯加減になるよう努力してみなさい」
「うるせーよロリコン親父が! 沸騰寸前の湯に我が子を放り込むとかどこの世界の常識だよバーカ!!」
いつもの丁寧な口調も鳴りを潜め、乱暴な言葉遣いでリベラルは裸のまま家へと逃げ出していった。結局のところ、両者にある常識の違いをどうにかしない限り、二人の距離が縮まることはないのだ。
リベラルは更にラプラスのことが嫌いになった。