パウロ「クッと踏み込んでザンッだよ!」
ルーデウス「分かりません」
リベラル「なら私が教えますよ」
ネーミングセンスのない私は、名前を考えるところでいちいち詰まります。そして最終的に妥協して安易な選択をしてしまいます…。
昔飼ってたハムスターも、金色っぽい毛並みだったから『キン』とか名付けてましたね(真面目に考えた結果、そう名付けた)。
……作中でもところどころおかしなネーミングがあるかも知れませんがご了承下さい。
ルーデウスは5歳となり、あっという間に誕生日を迎えた。その日はグレイラット家でささやかなパーティーが開かれ、ルーデウスは祝福される。
この国では5歳おきに誕生日を祝い、10歳と成人である15歳の計三回、祝日があるのだ。
そのパーティーには、師匠であるロキシーはともかく、よくお裾分けに来てくれるリベラルの姿も、当然ながらあった。ルーデウスがなついていたと言うこともあり、招待されていたのだ。
「男は心の中に一本の剣を持っておかねばならん、大切な者を守るには―――」
長く重い実剣と、短めの木剣をプレゼントしたパウロは、長ったらしい薫陶を講釈していたが、ルーデウスはニコニコした笑顔で聞き流していた。
そのことに気付いてないのか、上機嫌な様子で語るパウロは、最終的にゼニスが「長い」となだめたことにより終了した。
「ルディは本が好きだから」
そのゼニスは、ルーデウスに植物辞典をプレゼントしていた。本を読むことによって独学で言葉を覚えた彼は、読書をしていることが多い。
読書をしてる姿をよく見ているからこその、本なのだろう。ルーデウスも新しい本が欲しいと思っていたので、純粋に喜んで受け取った。
「先日作成したものです。ルディは最初から魔術を使っていたため失念していましたが、師匠は初級魔術が使える弟子に杖を作るものでした。申し訳ありません」
ロキシーは、30センチほどのスティックの先に小さな赤い石のついた、質素なロッドをプレゼントしていた。
ジーナスとの拗れてしまった関係を思い出すため、師匠と呼ばれるのを嫌がってたが、やはり教えていく内に情が芽生えたのだろう。可愛い弟子に何も贈らぬほど、彼女は器量の小さい者ではなかった。
「では、パウロ様と被ってるような気もしますが、私はこちらを」
リベラルが贈ったのは、ナイフであった。鞘に華麗な装飾の施された、実用するには少しばかり派手過ぎる代物だ。鑑賞用に見えないこともない。
パウロからもらった短剣は木製なので、ありがたいとは思ったものの、骨董品にも見えるそれは、使えるのか微妙なのでルーデウスも微妙な気持ちになる。
とは言え、プレゼントなのだ。実用性か鑑賞用なのかは関係ない。すぐにその気持ちを振り払い、感謝の言葉と念を送った。
その際に、リベラルはルーデウスの耳元へと口を近付け、
「そのナイフ、とある名工が作った物ですので、売ったらいい値段をしますが……ルーデウス様がどうするのか楽しみにしてますよ。肌身離さず持ち歩いて下さいね?」
何やら悪い顔を浮かべ、そんなことを告げた。どうやら、リベラルなりの意地悪らしい。
金に目を眩ませ売り払うのか、それとも記念として保存してくれるのか。人間性を試されてるかのようである。
「ありがとうございます。何があっても絶対に手離さないようにします」
「まあ、どうしてもお金に困った時は別に構いませんけどね」
こうして、ささやかなパーティーは進行していった。
――――
「フンフンフーン」
ブエナ村に滞在し、空き家を借りてるリベラルは、畑仕事に励んでいた。自由気ままに過ごせる旅人だが、今はこの村の一員となっているのだ。流石に狩りだけでは時間が有り余るので、こうして村人たちの手伝いをしていた。その対価として、野菜などをたんまり貰っている。
仕事を一段落終えたリベラルは、拝借させてもらった野菜をざるに移し、魔術で発生させた水で汚れを落とす。
「んー、やっぱり取れ立ては最高ですね!」
新鮮な野菜を一口囓り、表情を緩ませていた。そのままパクパクと食べていき、あっという間に野菜はなくなる。
張り詰めた生活を長く続けるのは辛いので、こうしてのんびり過ごせる時はのんびり過ごすのだ。要は、メリハリが大切なのである。
休憩を終えたリベラルは、再び畑仕事に戻り、やるべきことを終わらせる。そうして、のんびりと本日の仕事を終えたリベラルは、村人たちに挨拶をしながら帰ろうとした時に、とある女性を見付けた。
中学生のような発展途上なからだに、トンガリ帽子。はみ出ていた水色のように澄んだ髪は、ルーデウスの家庭教師であるロキシー・ミグルディアだ。
しかし、彼女は思案げな表情を浮かべ、どうにもリベラルに気付いてなかったようなので、声を掛けた。
「ロキシー様。何やら表情が優れませんが大丈夫ですか?」
「えっ? ……ああ、リベラルさん」
そこでようやく、彼女は気付いた反応を見せる。
「いえ、少しルディのことを考えていました」
「どうしたのですか? まさか惚れたのですか?」
「違います。師匠として教えられることがなくなってきたので、そろそろ卒業試験にしようかと考えておりまして」
「そう思うなら、したらいいじゃないですか」
「……ただ、あっという間だと思いまして」
どこか寂しそうな、悔しそうな表情を見せるロキシーに、リベラルは納得した。
表情通りなのだろう。2年間も魔術を教え、弟子として可愛くなってきた頃に、教えられることがなくなったのだ。それは、己への不甲斐なさと同時に、ルーデウスの才能への嫉妬もあった。
ロキシーとて、一人の人間なのだ。
この短期間でほとんど己へと追い付かれてしまい、何も感じない訳がなかった。しかも、ルーデウスはまだ5歳の少年なのだ。自身が積み重ねてきた40年近くもの研鑽に、たったの2年で届こうとしている。
――その事実が、魔術師としてとても悔しかった。
その想いが、ありありと滲み出ていた。
「ルディの卒業試験が終われば、また旅に出ようかと思ってます。しばらくは各国を巡り、魔術の腕を磨くつもりです」
「……そうですか」
ロキシーが魔術師を目指した理由を、彼女は知らない。だからこそ、慰めの言葉が分からなかった。神妙な表情で頷き、その台詞を受け入れる。
「私はブエナ村から去りますが、リベラルさんはどうするつもりですか?」
「家庭教師…と言いたいところなのですが、既に無償で教えてしまってるんですよね……今更お金が欲しいとはとても言えませんし…」
「無償で教えてたのですか……」
「まぁ、まだまだ発展途上なので、もうしばらくは教えようかと思ってます。中途半端に止めても気持ち悪いので」
「でしたら、もうすぐでお別れのようですね」
「そうなりますね」
会話はそこで途切れ、ふたりは別れた。
その背を見送っていたリベラルは、どうするものかと思案する。
ロキシーは単独で迷宮攻略を成し遂げ、シーローン王国で水王級魔術師となってしまう。しかし、迷宮攻略に関しては、男が欲しくて物語のようなロマンチックな出会いに憧れ、潜っていたような気がするのだ。
助言も糞もない。掛ける言葉が見付からなくて当然である。そもそも、リベラルも今世で、相手は一度も出来ていない。長生きし過ぎたせいか、男でも女でもどっちでもいいと思ってるが、全てが終わるまで、そう言うのは無しにしていた。恋愛相談など持っての他である。
「……まあ、魔術師としての助言くらいはしておきますか」
完全に化石だなぁ、と苦笑しながら溜め息を吐く。どう見ても行き遅れのババアだ。正直、今更恋愛などと言うような歳でもない。そんな乙女な時期は、とうの昔に過ぎ去っている。流石に相手が欲しいとも思ってなかった。
取り合えず、相手がいないことなんてどうでもいいか、なんて思いつつ、リベラルは収穫した野菜を一口齧る。
そして数日後。
ロキシーはブエナ村から去っていった。
――――
数か月ほど経過し、いつもの仕事を終えたリベラルは、自宅でゆっくりと過ごす。
「…………」
静かに机へと向かい合い、これまでの出来事や、習得した技術を本に記述していたリベラルは、扉のノック音を聞き、そちらに意識を向けた。この家に誰かが訪ねて来るのは珍しいので、相手が誰なのかは一切分からない。
一息吐いたリベラルは立ち上がり、入口の扉を開けた。
「こんにちは、リベラルさん」
扉の先には、ルーデウスがいた。相変わらずネッチョリした笑みを浮かべ、挨拶を交わしてくるのだ。
「おや、よく私の家が分かりましたね」
「そりゃ、父様から聞いたので分かりますよ」
「なるほど……と、他にも誰かいるようですね?」
そこで、リベラルは扉の陰にもう一人何者かがいることに気付き、そちらへと意識を向ける。そこには緑髪の少女が、おずおずした様子でふたりを伺っていた。
リベラルはすぐに、その少女が何者なのかに気付く。
シルフィエット。
将来、ルーデウスの妻となる人物だ。
それに、ロステリーナ――エリナリーゼの孫である。
「ほら、シルフ。そんな所にいないで、挨拶しなよ」
「う、うん……えっと、初めまして……」
「こちらこそ初めまして、リベラルです。ロールズ様の所の子ですね?」
「は、はい…」
ビクビクと怯えた様子を見せる彼女は、まさに小動物のようであった。美少年とも言える可憐さを併せ持つ彼女は、確かにルーデウスの言う通り、己がショタコンであればジュンっときただろう。
しかし、どう見ても女の子だ。リベラルの目からは、とても男の子に見えない。ルーデウスが彼女の性別に気付いてなさそうだったので、敢えてご息女だと言わなかったのだ。
「それで、態々私の家にまで来られて、どうしたのですか?」
「ロキシー先生も旅立ってから暫く経ちましたので、そろそろ別のことも教えて欲しくて」
「それは、隣にいるシルフィエッ……シルフ様も一緒にですか?」
「その…言いにくいんですけど、あまり村の子たちと仲良く出来なくて……だから、シルフのことを放って置く訳にもいきません」
元々は打算があったのかも知れないが、ルーデウスにとって、シルフィエットとはこの世界で初めて出来た友達である。何だかんだで、気にかけてしまうのかも知れない。それに、前世のルーデウスは過去に虐められていたのだ。シルフィエットの気持ちがよく分かるのだろう。
しかし、それが原因で、互いに依存し合ってしまう訳だが、それをリベラルが気にする必要もない。どうにかするのはリベラルではなく、両者の親の仕事なのだから。
取り合えず、リベラルとしてはふたりに教えるのは構わないと思っていた。むしろ、エリナリーゼの孫であるシルフィエットには、積極的に教えたくもあった。
どのように教えて行くのかをボンヤリ考えながら、リベラルは頷く。
「分かりました。では、ルーデウス様は以前のように一時間ほど座禅でも組んで下さい。そして頑張って奥義を習得してくださいね」
何てことないかのように告げた彼女の言葉に、ルーデウスはげんなりした様子を見せる。
「……また座禅ですか? あまり意味があるように感じないんですけど…」
リベラルが彼に『龍神流』を教えると告げたあの日、習得出来たのは結局『
だが、その日以降、リベラルはずっと座禅を組ませるだけであった。本当にそれで大丈夫なのかと思い、ルーデウスは素朴な疑問を溢したのである。
「闘気を纏えぬルーデウス様には、『明鏡止水』と呼ばれる奥義を習得してもらいたいのです」
「はぁ…明鏡止水ですか?」
「水神流の五つある奥義のうち、もっとも困難と言われる奥義…『
龍神ウルペンが龍聖闘気を纏えるようになる前、彼は歴代最弱と呼ばれながらも、龍神の座についていた。その際に使っていたのが、『明鏡止水』である。
己を極限まで静めることにより、周囲の流れを読み取る技術。要は、自分の心を落ち着かせ、周囲に気を配りましょう、と言うことだ。
それを限界まで極めたのが『明鏡止水』。ウルペンの編み出した奥義のひとつだ。そして、闘気を纏えぬ『技神』の得意技。
「相手の動きを察知出来るくらいにはなって欲しいところです。出来るようになれば、パウロ様にも勝てるかも知れませんよ?」
「うーん…では、やれるだけやってみますよ」
いまいち納得していない様子のルーデウスだが、それも仕方ないだろう。いきなりそんなよく分からないものを習得しろと言われても、ピンとこないのも当然である。
水神流の奥義の原型、などと大層なことを言われたが、そもそもルーデウスは水神流もまだまだ知らないことばかり。奥義など、ひとつも知らないのだから。凄さを理解出来ないのだ。
「ひとまず、敵から接近された時に対処出来るようになって欲しいのです」
魔術師となるルーデウスは、遠距離は無類の強さを誇ることになる。だが、接近された時、彼の魔力量は恩恵を与えることがない。
なので、リベラルはその短所をどうにかしようと考えていた。闘気を纏えないのであれば、相手の動きを先読みすればいい、と。完全に脳筋思考である。当たらなければどうということはないのだ。
もちろん、それ以外の術も授けるし、そちらが本命になるのだが。
とにかく、キシリカから貰うことになる予見眼と合わせれば、聖級と斬り結ぶことも可能になるだろう。もしかしたら、王級にも太刀打ち出来るかも知れない。
そこに魔導鎧も組み合わされれば、神級との近接戦も不可能ではないと睨んでいた。
もっとも、それは習得出来たらの話である。
「大丈夫ですよ。魔術も剣術も教えますから。剣術に関しては、パウロ様は北神流を教えてないみたいですので、そちらを中心に教えます」
「……思ったんですけど、リベラルさんって剣術どれくらい出来るんですか?」
今まで一切聞いてなかったな、と思い、ルーデウスはつい訊ねてしまう。成り行きで、リベラルから『龍神流』とやらを教わることになったが、彼女のことをほとんど知らないのだ。リベラルに対する認識が、近所の優しいお姉さんのままなのだから無理もない。
「世界一です。私の剣術に敵う者など存在しません」
「…………」
ドヤ顔を見せつけ、無い胸を張るリベラルに、ルーデウスは呆れてしまう。どこか冗談めいた口調からは、本気で言ってるように感じられなかったのだ。
「…コホン、下らない冗談はさておきまして。私は特に師がいた訳でもないので、正確な階級はありません、が……三大流派の奥義は大体修めております。なので、全部帝級ということにしておきましょう」
「適当ですね…」
「正式な手順を踏んでませんからね。そもそも誰にも認められてませんし、何を名乗るのかは自由ですから」
「……分かりました」
本当に大丈夫なのか不安になってきたルーデウスだが、どうやらリベラルは本気のようだった。そのことを察し、大人しく頑張ることにする。
剣術に関しては、パウロがいるのだ。例え、リベラルが適当なことを教えても、一応問題はない。魔術に関しては、ロキシーがいなくなり、完全な独学となっているのが現状だ。なので、教わるだけなら損はない。
「シルフ様は……」
その他には、結界魔術や治癒魔術も、ひとつひとつ教えていくつもりだ。ルーデウスはこれでいいだろうと考え、リベラルは次に隣にいた少女へと視線を向ける。
今の今まで話についてこれず、口を挟むことの出来なかったシルフィエットは、キョトンと可愛らしい表情を浮かべていた。
「ふむ…そうですね。ルーデウス様が教えてください」
最初は自分が教えようかと考えていたが、並び立つ二人の姿を見て、やはり止めることにした。
「僕がですか?」
「はい、ルーデウス様のことなので、今まで教えてきたのでしょう。なので、引き続き教えてください。そして、私から教わったことを教えられるようになってくださいね」
人に教えるには三倍理解していないといけない、と言う。復習にもなるだろう。それに、教えることによって、自分に足りないものを知る切っ掛けにもなろう。
ルーデウスは本気で生きると誓ったが、今はまだ我武者羅に頑張ってるだけだ。後悔したくないという願いも、定義が広すぎる。
明確な目標も定まってないのだから、それはあやふやな誓いだとリベラルは考えていた。最終的には、家族のために何でもするようになるが、今は違うのだ。
リベラルとしては、己の知る未来の形になって欲しいと思ってはいるものの、無理にその未来にしようとは考えていない。ルーデウスの人生は、ルーデウスのものだ。彼がどのような選択をするのか、現時点では分からないが、リベラルは彼の意思を尊重する。リベラル自身の意思を、押し通すことももちろんあるが。
とにかく、ルーデウスが“何のために”本気で生きるのか、シルフィエットの教師をすることによって、少しでも学んでくれれば幸いだった。
「まあ、最初は私も見ますよ。同じ緑髪のよしみで。もちろんタダです」
何故か怯えた様子を見せるシルフィエットへと再び視線を向け、ニッコリ微笑んで見せる。しかし、三白眼が原因なのか、態度が変わることがなかった。
シルフィエットとは、リベラルにとって言葉には表せない存在だ。先程も言ったように、ほぼ義妹であったエリナリーゼの孫であり、父親であるラプラスが世に放ったラプラス因子の持ち主で、緑髪なのだから。ラプラスの血も引いてるようなものである。
ルーデウスと結婚して幸せになってくれるなら、それに越したことはない。だが、もしそうならなかった時に、一人で生きる力を持っておいて欲しい。
結局、怯えられてロクにシルフィエットと会話出来なかったことにションボリしつつ、リベラルはふたりを教えることにした。
「あ、ちょっと待ってくださいね」
そして、外へと向かおうとした際、リベラルは家の中へと戻り、机の上で開きっぱなしとなっていた本を、本棚へと戻す。
龍族の技術を書き記したこの書物は、あまり見られたくないものなので、せめて片付けるくらいのことはしなくてはならない。
「どうしたのですか?」
「日記をしまってました。私の黒歴史ですからね。誰かに見られたら恥ずかしさで死んでしまいますよ」
そうして準備を終えたリベラルは、今度こそ外へと出ていった。
Q.明鏡止水?転?漣?何それ?
A.独自設定たちです。水神レイダの『剥奪剣界』を見て考え付きました。明鏡止水はその原型という設定です。