無職転生ールーデウス来たら本気だすー   作:つーふー

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前回のあらすじ。

リベラル「最近物忘れが激しい」
シルフィ「やだ!ルディと離れたくない!」
ルーデウス「俺超強いし何処にも行かんよ」

今回は結構無理矢理にイベント進行。主人公がパウロを唆すことで進めていく…みたいな?
ルーデウスをボレアス家へ行かせない訳がないじゃないですか!ルディはエリスと結婚させるんや!


8話 『親の心子知らず』

 

 

 

「…………」

 

 パウロ・グレイラットは、悩んでいた。悩みの元凶は、息子であるルーデウスのことだ。

 この数年の間に、ルーデウスはとてつもなく成長していた。それ自体は喜ばしいことだ。我が子の成長を喜ばぬ訳がない。その嫉妬してしまいそうなほどの才能は、親として誇らしくも感じていた。

 しかし、その才能故か、どうにも最近のルーデウスは弛んでいるのだ。稽古中も明らかに気が抜けており、以前のような勤勉さを感じられない。

 冒険者時代に見掛けた、己の力を過信して早死にした奴らの雰囲気にも似ていた。不味い兆候である。

 

 それに、シルフィエットとの関係もあまり良い傾向とは言えない。彼女の父親であるロールズからも相談されたのだが、この頃のシルフィエットは言うことを聞かなくなってるらしい。どうやら、ルーデウスを盲信し過ぎて、周りの声を聞かなくなったようだ。

 まるで、洗脳されてるかのようである。シルフィエットはルーデウスに依存し過ぎてるのだ。もしもルーデウスがいなくなれば、彼女がどんな行動を起こすのか想像もつかないが、悪い方向に事態が進むことになるだろう。

 昔のパウロは、彼女のような他者に依存しきった貴族の娘たちを見たことがある。しかも、今のシルフィエットは、変に力を付けているのが危なっかしい。

 

「はぁ…失敗したなぁ…」

 

 ロキシーが家庭教師だった頃のことを思い出す。あの時「力を教える者として、ルーデウスに慢心させないようにしましょう」と、会話していた筈なのだ。

 しかし、それが今ではこの有り様である。ロキシーはルーデウスの才能を前に、己の力不足を痛感して去っていった。その後釜で、何やら知らぬ間にリベラルが教えてるようだが、力を持つ者としての心得は教えられてるように思えない。

 と言うか、以前に丸投げされた。それは父親の仕事だと。

 

 パウロは剣士としてならば、我が子を叩きのめせる自信がある。少なくとも、剣術はまだまだ未熟者だと思い知らせている筈だ。だが、大きく距離を開けたところからの戦いとなれば、パウロは勝つ自信があまりなかった。

 いつの間にか覚えている数々の聖級魔術を鑑みるに、遠距離戦でルーデウスに勝てる存在はほとんどいないだろう。ルーデウス自身もそのことを自覚してるのか、いくら心得を説いても流されてしまってるのだ。

 

 そんな折りに現れたのが、リベラルである。彼女はひとつの提案をしてきたのだ。

 

「ルーデウス様に世界の広さを見せてあげてはどうでしょうか?」

 

 パウロとしても、その提案には賛成であった。と言うよりも、世界は広いから慢心するなと教えたかったのだ。是非もない願いである。

 ルーデウスがこの村に収まる器でないことは、パウロも察していた。いずれ一人立ちし、世界を巡るだろう、と。だからこそ、その前に教えなくてはならない。手遅れになる前に。

 

「どうやら、ボレアス家のお嬢様が暴れん坊らしくてですね……シルフィエット様のこともありますし、一度そのお嬢様の家庭教師をさせてみては如何でしょうか?」

 

 その言葉を聞いた時は、リベラルに読心術があるのではないかと疑ってしまった。もしも、ルーデウスがシルフィエットと共に学校に通いたいと言い出していれば、コネを使ってボレアス家の家庭教師をさせようかと考えていたのだから。

 もっとも、そんなことは言い出してないので、その案は却下していた。だが、再びそのことを一考してみれば、どうにもしっくりくるのだ。ありかも知れないと。

 剣術を途中で教えられなくなってしまうが、ボレアス家には元“黒狼の剣”のメンバー『剣王』ギレーヌ・デドルディアが食客としている。最悪、彼女に引き継いでもらえばいいだろう。

 

 元々考えていた案を、リベラルが後押ししたことにより、明確な選択肢となっていた。

 

「貴族の世界を経験してもらうのもありかと。黒くドロッドロに濁った世界ですので、立ち回りの経験も必要でしょう」

 

 なるほど、と考える。父親との折り合いの悪さが大半だったが、貴族の面倒臭さを知ったからこそ、パウロはノトスの名を捨てて出奔したのだ。

 ルーデウスは強い。だからこそ、ルーデウスの力を欲しがる貴族が、必ず現れる筈だ。その時に、上手くあしらえないと大変なことになったりする。厄介事は誰でも嫌だろう。

 ボレアス家には従兄弟であるフィリップがいる訳だが、彼にその辺りのことを息子へと教えてもらうのもありだろう。世界の渡り方を学べる筈だ。上手い処世術を身に付け、振る舞いを覚えてくれれば幸いである。

 

「あ、ついでに私もコネで使用人にでもしてくださると嬉しいです。最近、本格的にお金がなくなってきまして……」

 

 途中で図々しい頼みもされたが、それはさておこう。

 リベラルとはとうの昔に顔馴染となっているので、コネを使われるのはいいのだ。今までお裾分けを沢山貰ったので、その恩返しにもなる。

 しかし、どう考えてもルーデウスの異常な成長に、一役かってる元凶の一部と言っても過言ではない。彼女とルーデウスを行かせることに、不安しかなかったのだ。

 

 とにかく、リベラルの言う通り、息子の慢心をどうにかするのは、父親の仕事だと考えている。今の現状が駄目であることなんて分かりきってるのだ。

 手段はどうあれ、我が子を正しい道へと導くのが親の責務だ。

 

 とは言え、問題もある。

 ルーデウスをボレアス家へと届けるのはいいのだが、素直に言うことを聞くとは思えない。説き伏せようにも、口の回る息子を説得出来そうにないのだ。逆に、パウロが丸め込まれる未来しか見えない。

 いっそ、力尽くで捩じ伏せようかとも思うが、どうにもルーデウスは切り札や奥の手を隠し持ってるように感じるのだ。だからこそ、こちらの言葉が流されてるようにも思える。

 自信がない訳じゃないが、あまり無様な姿を晒しては説得力もなくなるだろう。

 

「大丈夫ですよ」

 

 そんな不安を打ち消すかのように、リベラルは告げた。

 

「今のルーデウス様は、パウロ様の敵じゃありませんよ。あのような腑抜けた世間知らず(ガキンチョ)に、パウロ様が負ける訳ないじゃないですか」

 

 そう、元々はその心構えのままでは、呆気なく野垂れ死にすることを教えたいのだ。だったら、そんな気の抜けた息子に負けてはならない。お前は俺よりもまだまだ弱いのだと、教えてやらねばならぬのだ。

 パウロがいつもしてきたことである。口で説明しても分からないからこそ、実践してきた。今回も、その事実を目に見せればいいのだ。

 

「ただ……その辺りのことをパウロ様に丸投げして申し訳ありません」

 

 今回の件は自分が悪いと、リベラルはアッサリ謝罪した。彼女としても、少しばかり考えなしだったと反省してるのだ。

 もしもルーデウスがオルステッドと遭遇した後であれば、どれほど伝授して強くしても、驕ることなどなかっただろう。上には上がいると、骨の髄まで思い知らされることになるから。

 けれど、今はそんな歯止め的存在がいなかった。パウロには勝てるのではないかと、そのような考えが透けて見えるのだ。

 

 もちろん、リベラルが力を見せ付けても良かったのだが――。

 

「とにかく、父親の偉大さをルーデウスだけでなく、私にも見せて下さいよ」

 

 それは、我が儘だった。

 

 かつて龍鳴山で、ラプラスと過ごしていた頃のことを思い出し、親子の姿を見たくなってしまったのだ。今のルーデウスは、どこかリベラルと似ている。

 彼のように全く頑張ってなかったけれど、そこから鍛練をサボるようになってからは弛み続けて、結局後悔しか残らなかった。けれど、それでもラプラスと和解出来たことだけは良かったと思っている。

 今のルーデウスは、パウロのことを父親だと思えてないかも知れない。だが、パウロは確かに、ルーデウスのことを息子だと思ってるのだ。

 そして、互いの気持ちがどうあれ、二人は血の繋がった家族である。

 

 どうか、そのことを理解して欲しい。

 当たり前のように過ごせているこの日常が、どれほど儚く、そして美しいのか。

 見せて欲しいのだ。その絆を、繋がりを。

 失ってからでは遅すぎる。後悔なんてしてほしくない。

 

「不器用でも、口下手でも、だらしなくても、情けなくても、威厳がなくても、良いところがなくても――」

 

 リベラルが最初からルーデウスを説いていれば、話が拗れることもなかっただろう。ただ、二人の絆を見たいが為に、助言だけで押し止めた。

 ただ、それだけのために。

 

 

「――それでも我が子を導くのが、親ってものでしょう?」

 

 

 だから、これは我が儘なのだ。

 

 

――――

 

 

 本日も午前中からの鍛練を行ない、パウロと稽古を続けるルーデウス。とうの昔に日々のルーチンワークと化した稽古に、彼はマンネリしていた。

 

「あふ…ふあぁ……」

 

 気の緩みからか、思わず欠伸を溢してしまったルーデウスに、パウロの振るった木剣が迫るも、咄嗟に後ろへと飛び退きかわす。

 避けられると思ってなかったのか、僅かに目を見開くパウロ。次の動きをルーデウスは待っていたが、やがてパウロは木剣の切っ先を地面に下ろし、構えを解く。そのまま溜め息をひとつ溢した。

 

「なあ、ルディ」

「はい、なんでしょう父様」

「俺との稽古はつまらんか?」

 

 ルーデウスはいきなりそのようなことを尋ねられ、キョトンとしてしまうも、先ほど欠伸をしてしまったことを思い出す。あのような姿を見せては、そう思われるのも無理はないだろう。

 

「いえ、そんなことはないですよ」

「けどなぁ…最近のルディからは気迫を感じないんだよ。全てをものにして見せるって気概がな」

「……今までの僕は少し急ぎすぎてましたからね。だから、これからはゆっくり学んでいこうかと思いまして」

「ははっ…確かに、今までのお前は生き急いでたからなぁ……本当ならこれくらいが普通なのかも知れん」

 

 どこか自嘲気味に呟くパウロに、ルーデウスは首を傾げる。

 いつもなら途中で会話を交えようとも、稽古を中断してまで話に乗じることはなかった。しかし、未だに剣を構えようともせず、口を開き続けるのだ。

 

「今まで聞いてなかったが……ルディは何のために頑張ってるんだ?」

 

 ふと、そのように聞かれ、ルーデウスは答えに詰まってしまう。

 

「剣術と魔術は俺とゼニスが習わせたことだが、お前は嫌なことは嫌だと言うだろ。だが、弱音を吐くことなくここまでやってきたんだ」

「それは……」

「なのに、最近のお前からはやる気が感じられねぇんだ……なあ、ルディ。今まで何のために頑張ってたんだ?」

 

 ――前世での後悔を繰り返さないため。

 

 なんてことを言える訳もなく、当然ながらルーデウスは沈黙してしまう。自分が何者で、何のために本気で生きていたのか、言える訳がなかった。

 咄嗟に尤もらしいことも言えず、沈黙が空間を支配する。

 

 パウロは違和感を感じていたのだ。言われるがままに習っていたのであれば、今までの必死さに理由が付かない。何か目標があったとしても、弛んできた理由が分からない。確かに強くなったが、何故ここで気概がなくなったのか分からないのだ

 だが、もしもその才能にかまけ、十分に強くなったのだと思ってるのならば――その勘違いを正さねばならぬ。

 

「ルディ。お前もしかして、自分の力を過信してねぇか?」

「してませんよ。むしろ、上には上がいると思ってます。父様に剣術で勝てる気もしないのに、更には聖級やら王級やらと上が存在するじゃないですか」

「……そうだな、父さんはまだ上級だしな」

 

 もっともなことを言うルーデウスであったが、パウロは内心で「やっぱり心得を教えられてないか」と落胆していた。

 

(俺が言ってるのはより強い相手じゃねぇよルディ……俺を基準で考えてる時点でお前は俺をナメてるんだよ)

 

 パウロは自分のことを最強だと思ってる訳じゃない。自分より強い奴なんてゴロゴロ存在することを理解している。

 だが、ルーデウスが目を向けるべき相手はそんな上の高みじゃない。もっと身近にいる下の存在だ。そこらにいる魔物もそうだし、町のチンピラだってそうだ。そんな奴らだって、ルーデウスを殺すことは不可能でも何でもないのだ。

 牙やナイフで首を掻っ切られれば、それだけで呆気なく人は死んでしまう。そんな当たり前なことを、ルーデウスは忘れてしまってる。

 

 パウロを基準にしてる時点で、パウロより弱い者を侮っていた。自分より弱いと侮れば、それは慢心でしかないのだ。そのことを自覚してないのだから、質が悪い。無意識の内に驕ってるのだろう。

 外では誰もが己を殺しうる存在だと、気を抜いてはならないのだ。人は、簡単に死ぬのだから。

 

「――――」

 

 パウロは意識を切り替えていく。思考が戦闘のものへと変化し、周囲から音が消えた。殺気を剥き出しにし、目の前にいる相手(息子)へとぶつける。

 

「えっ!?」

 

 パウロの豹変に、ルーデウスは戸惑いを見せた。だが、そんなことに構わず、むしろその戸惑いを隙と受け取り、パウロは仕掛ける。

 

 無言で踏み込み一閃。

 殺す気で木剣をルーデウスへと振るった。

 

「ッ!」

 

 ほとんど反射的だったのだろう。ルーデウスは風と火の魔術を使い、爆風を発生させた。更にはその爆発を利用するかのように飛び退き、距離を取る。牽制と後退を兼ねた、素晴らしい判断と言えよう。

 だが、パウロはそんなものお構いなしで、前傾姿勢のままルーデウスへと突っ込んでいた。

 

 既に剣士の間合いだ。

 

 そのことを瞬時に判断したルーデウスは、手に持つ木剣を構え、パウロの攻撃に備えた。心を深く落ち着かせたまま一挙一動を注視し、視線や間合いなどの様々な要因から、パウロの動きを先読みする。

 

「ふっ!」

 

 剣神流・先手『腕落とし』。

 見事に動きを見切ったルーデウスは、木剣を振るうパウロの腕に目掛けて小手を放つ。タイミングを合わせて放たれた小手は、完全にパウロの腕を捉えていた。

 

 ――勝った。

 

 まさかここまで想定通りに運べると思わず、ルーデウスは内心で歓喜する。脳内でのシミュレート通りだ。

 あのタイミングの太刀を、避けることは無理だろう。剣士としてはまだまだ敵わないと思ってたのに、実際にはそんなこともなくパウロに一泡吹かせられた。

 だが、ルーデウスはタイミングを合わせられただけで、まだ攻撃を当てた訳ではない。確かに、地球であれば避けられる者は存在しなかっただろう。だが、ここは異世界であり、相手はパウロなのだ。

 喜ぶには、早すぎた。

 

「えっ?」

 

 パウロは剣を手放していた。

 本来であれば、回避の間に合わなかったルーデウスの小手は、木剣を手放し身軽となることで、パウロの速度を一手早めた。

 そのまま空を斬るルーデウスの木剣の、更に下を潜り込むかのようにパウロは身を屈め、勢いのまま足払いを放っていた。

 

「うわっ!」

 

 無様に転んでしまうルーデウスに、パウロは地面へと落ちる寸前の木剣をキャッチし、それを振るおうとした。

 ルーデウスは少しでも距離を取ろうと足掻いてたのか、倒れたまま地面を蹴っている。

 

「むっ!?」

 

 だが、ルーデウスのからだは不自然な動きで後方へと飛び上がり、パウロの木剣をかわしていた。

 フワリとした奇妙な動きだった。まるで重力を失ったかのような、通常ではあり得ない重たさを感じさせぬ動き。フワフワと後ろへと浮き上がりながら、ルーデウスは距離を取っていた。

 しかし、パウロはその奇異な動きに動揺せず、着地点に向かって踏み込む。

 

 『泥沼』。

 

 ルーデウスはフワリと浮き上がってる最中にもパウロから目を離さず、既に仕掛けていた。将来で彼の代名詞ともなる魔術だ。

 パウロの踏み出した一歩は泥沼と化し、片足を踏み抜いてしまう。が、一瞬で逆足へと体重を乗せ替え、そのまま前へと進もうとし、

 

「ぬおっ!?」

 

 唐突に泥沼側の足が重くなり、バランスを崩して両手をついてしまうのだった。ルーデウスがパウロの重力を、一瞬だけ重くしたが故の現象だ。

 ルーデウスは、今度こそ勝ったと確信する。剣士に両手をつかせたのだ。それはもう勝ったも同然だろう。

 

 しかし、ルーデウスの眼前には、パウロがいつの間に投げていたのか、木剣が迫っていた。

 

「えっ…?」

 

 気が付いた時には、既に脳天へと木剣は直撃する。

 ルーデウスは敢えなく意識を失った。

 

 

――――

 

 

 

「あ、あっぶねぇ……」

 

 パウロは気絶した我が子と、泥沼で汚れた靴を見下ろす。一度父親の強さを見せ付け、ルーデウスの驕りを改めさせようとしたが、危うく返り討ちに遭い掛けたのだ。そんなことになれば笑えない。

 確かに強くなってることは理解していたが、まさかここまで追い詰められるとは思いもしなかったのである。

 

 内容的には完敗だった。

 完全な奇襲は避けられ、反撃に小手を取られそうになった。一瞬でも判断が遅れていれば、腕は持っていかれただろう。

 極めつけは、奇妙な魔術と足元に作り出された泥沼である。両手を地面につけてしまうなど、剣士としてあるまじき失態だ。

 寸前に投げていた木剣が当たらなければ、確実に負けていたであろう。これでまだ七歳なのだから、将来が末恐ろしい。

 

「お見事ですパウロ様」

 

 そこに、観戦していたのか拍手をしながら、リベラルが庭の中へと入ってきた。パウロは思わず、じっとりした目で彼女を見つめてしまう。

 

「おま…ルディに何教えたんだよ。調子に乗るのも当然な強さだったぞ……」

「龍神流ですよ」

「りゅ……!? ……コホン、あ、あー、聞かなかったことにするよ」

「そうですか。パウロ様なら構いませんのに」

「変なこと言うなよ。勘違いすんだろ」

「浮気をしてリーリャ様を孕ませるようなクズに惚れると思ってるのですか? 馬鹿なのですか?」

「…………」

 

 リベラルがブエナ村へとやって来てから約四年。彼女が只者でないことに気付くには、十分すぎるほどの時間だった。

 ルーデウスへと教えた数々の聖級魔術に、王級魔術。剣術の奥義にも精通しており、更にはミリス神聖国に独占されてる筈の結界魔術まで扱える始末。

 だが、今まで食事のお裾分けや、ロキシーに代わって村での困り事を解決してくれた恩もあり、彼女へと深く踏み込むことはしなかった。しなかったのだが、まさか自分から何者なのか仄めかすことを言うとは思わず、軽口を叩き合いながら呆れてしまう。

 

「しかし、なるほどな……道理でルーデウスが強くなる訳だ」

 

 何となく何者なのか察してしまったが、そんな人物から教わってるのであれば、強くなるのも当然なのかも知れない。突然ルーデウスの動きがフワリとしたものになったのも、足が重くなってしまったのも、恐らくリベラルの入れ知恵なのだろう。

 あんな魔術、パウロは見たことも聞いたこともなかった。それでも対処して見せた彼は、流石と言うべきか。そのことにリベラルは素直に賞賛していた。

 

 パウロは戦いの際、考え事をしない。考えることが出来るのか出来ないのかはさておき、無駄な思考をしないパウロは、全てを感覚に任せて動いている。

 本能的に最適解を導き出す野性的な戦いは、ルーデウスにも理解出来ないものなのだろう。だからこそ、彼は勝てなかったのだろうか。

 

「っと、こんな事言ってる場合じゃないな。早くしないとロールズ達が来てしまう」

「そうですね。馬車も既に来てることですし、さっさと運びましょうか」

 

 気絶しているルーデウスを縛り、馬車の中へと放り込む。そのタイミングで、ロールズとシルフィエットは現れた。

 

「ルディ!?」

 

 縛られたルーデウスを見て、シルフィエットは魔術を放とうとする。だが、放つ寸前に集めた魔力を掻き乱され、何も起こすことが出来なかった。

 彼女はパウロの隣にいたリベラルを睨み付け、困惑と憤りを見せる。だが、それをロールズが宥め、何かを話してるようだ。

 

 その間に、馬車から降りてきたギレーヌが現れる。

 

「おまえがリベラルか?」

「はい」

「ギレーヌだ。明日からよろしく頼む……なにをしてる?」

 

 挨拶が終わると同時に、リベラルが懐に手を突っ込み猫耳や尻尾の装飾品を取り出したことに、ギレーヌは訝しむ。だが、リベラルはそんなことを気にした様子も見せず、それらを装着していった。

 

「ボレアス家は獣族が好きだと聞いてます。なので、好みに合わせようかと思いまして」

「そうか」

「にゃんにゃん。明日からよろしく頼むにゃん!」

「あ、ああ」

「何してんだお前……」

「……すいませんやってみたかっただけです。もうしませんごめんなさい」

 

 呆れるギレーヌとパウロを無視し、リベラルはそのまま馬車へと乗り込んだ。

 どうやら、少しばかり無理をし過ぎたのだろう。あのような痛いことをするのに、リベラルはあまりにもババア過ぎた。無茶すんなである。

 ギレーヌもパウロから手紙を受け取り、続いて馬車へと乗り込んだ。

 

「ふぅ……」

 

 三人を見送ったパウロは、一息吐いた。

 

(……ルーデウス)

 

 馬車を眺め、彼は息子のことを想う。今回は短絡的で暴力的な手段となってしまったが、世界のことを知るにはいい機会だと思うのだ。

 情けないことに己の力不足が原因で、こうなってしまったと言っても間違いではない。けれど、それでも父親として出来ることは尽くしたつもりだ。

 

(お前の行く先で起こる出来事は、きっとこの村では味わえないものだ)

 

 世界は広い。

 だから、もっと知って欲しい。

 可能性の広さを。

 

(それはきっと、お前の力になる)

 

 ルーデウスの乗った馬車を見ながら、パウロはそんなことを考えていた。




Q.ルディ強制連行?
A.本人の了承どころか、話を通してすらいません。パウロとリベラルがクズ野郎なのです。次回は拐われたルーデウスへの説得パートとなります。

Q.まさかそんな…重力魔術!?
A.今のルディでは、流石に僅かな間しか使えません。どこぞの三世のようなアクロバティックな戦いには、もっと修練が必要です。

Q.原作改編…あれ?しないの?
A.しますが、それはまだです。ちょっとずつずらしていってる最中なだけです。完全な改編はもうちょい先なのです。
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