無職転生ールーデウス来たら本気だすー   作:つーふー

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前回のあらすじ。

ラプラス「一緒にお風呂入ろう(*´Д`)ハァハァ」
リベラル「こっちくんな変態」

※10月9日修正
リベラルがテレポーテーションを発明したという訳ワカメな記述を削除致しました。彼女はただの学者なのです。


3話 『誇りと仇』

 

 

 

 龍鳴山の中腹には、場違いとも言える一軒家がポツンとある。その家の中へと入り、奥へと進んで行けば、そこには所狭しと本棚が並べられた図書館のような部屋へと辿り着く。

 そんな本だらけの領域の中に、一人の少女がいた。入り口に背を向け、机に向かって無心に何かを書いている。

 幼子から少女…妙齢と呼べる程に成長したリベラルであった。

 

「ふむ…大した成果はなし、ですか。まぁ、時間も足りませんし仕方ありませんね…」

 

 ラプラスがヒトガミの目論見を潰すため、家から離れた際に、リベラルはいつもの鍛練をサボってこの部屋で調べものをしていた。

 

「『龍神の神玉』…やはり興味深いものですね」

 

 彼女は自身に埋め込まれた龍神の神玉について、調べていたのだ。

 本来であれば、そのような研究など普通の者には出来ないだろう。だが、リベラルはこの世に転生する前――即ち前世では、研究者であったのだ。主に時間や空間などについての研究をしていた物理学者で、天才とまでは言わずとも、秀才と呼べるほどの人物だった。それ故に、柔軟な思考が出来ずに凝り固まった考えしか出来なかったが、そのことはいいだろう。

 その知識があったからこそ、彼女は魔術に対して天賦の才とも言える片鱗を見せていたのだ。

 とにかく、リベラルは常人にはない知識や経験を駆使していき、龍神の神玉について調べていった。

 と言っても、ほとんど分かっていない。分かったことと言えば、精々、埋め込まれた『龍神の神玉』に形はないこと。そして、取り出すには専用の魔術が必要となることくらいだ。

 

 それ以外には、ヒトガミの読心術や未来視、それに千里眼などから逃れられるのではないかと考えている。もっとも、それらについては、実際に効果を見るまでは絶対と言えないのだが。

 これ以外にもまだ『龍神の神玉』の効果はあると思われるのだが、それについては現段階では不明だ。

 

「しかし…五龍将は悲しい宿命を背負ってますね…」

 

 無の世界に至るには、五龍将の秘宝が必要な訳だが、五龍将はまず生き残れないようであった。

 まだ推測の域を出ていないのだが、恐らく、五龍将の秘宝に全魔力と生命力を注ぎ込む必要があるのだろう。それほどのエネルギーがなければ、無の世界にある結界を越えることが出来ないようだ。

 即ち、ラプラスを含む五龍将の皆は、ヒトガミとは絶対に戦えない訳である。彼らほどの力を持った者達でなければ、結界を越えるためのエネルギーが足りないのだから。

 

『奴らはちっぽけな誇りと共に自由に生き、くだらん仇のために死ぬ』

 

 オルステッドは未来でルーデウスにそのように告げ、龍王を名乗ることを許さなかったらしいが、その気持ちも分からなくはない。

 ただヒトガミを倒すためだけに存在し、ただヒトガミを倒すためだけに死ぬ存在。

 リベラルにはそのような誇りもなければ、仇のために死ぬつもりもなかった。だから、ラプラスが死んだとしても、『魔龍王』の名を継ぐことはないだろう。

 

 本当に、どうして私なんかが“ラプラスの娘”として誕生したのだと溜め息を吐く。今のところは歴史を改竄する予定などないので、何とも言えぬ罪悪感に絡め取られていた。

 

「とにかく、研究を続けましょうか……『龍神の神玉』を宿している以上、ヒトガミと敵対することは目に見えてますし……」

 

 リベラルに信念などなく、ただの護身として研究を続ける。彼女のやりたいことなど、転移事件が起きるまで存在しないのだから。

 

 そして、リベラルが鍛練に乗り気でないのには、3つ理由がある。

 

 まず、ラプラスはオルステッドに研鑽した技術を伝えることを目的としているが、オルステッドはループによって世界を繰り返しているので、既に伝えられているのだ。故に、リベラルという保険は元より必要ない。

 もしも、この世界がループ初期頃のオルステッドであるのならば、ヒトガミを殺すことはほぼ不可能なので諦める他ないのだ。それに、ルーデウスやナナホシも現れないということになる。

 もっとも、それについてリベラルは不安に思っていないのだが。

 

 2つ目、既にある程度の実力を持っているからである。

 比較対象がラプラスしかいないので、あまりアテに出来ないかも知れないが、恐らくルーデウスと同じくらいの力量を、手に入れていると思っているのだ。魔導鎧を着用前の、であるが。

 科学者として前世の知識を生かした魔術は、既にルーデウスと同程度と考えている。それに加え、龍気――もとい闘気も纏えるのだ。

 ぶっちゃけてしまうと、「私って十分強くね?」と思っている。とは言え、そんな驕りをラプラスは叩き潰してくるわけだが。

 とにかく、護身としては十分過ぎるほどの実力が備わっていると、リベラルは考えているのだ。

 

 3つ目、鍛練に乗り気にならない理由があるとすれば、特に強くなるつもりがないからであった。

 そもそも、目指す場所が可笑しいのだ。ヒトガミの実力は、間違いなく世界最強の『七大列強』よりも上であり、恐らく一対一であればオルステッドにも負けない。

 ラプラスはそのヒトガミを殺すために研鑽している訳だが、生半可の強さでは辿り着くことの出来ない、頂点を越えようとしているのだ。

 

 つまり――最強を目指している。

 

 そして、当然ながらリベラルがそんなものを目指している訳がない。龍族の過去とヒトガミの所業を知っているからと言って、命を賭けて戦う気概も信念もないのだから。

 漫画やアニメなどで、救われないキャラクターを助け出す妄想をする人は少なからずいるだろう。けれど、妄想は妄想だ。

 仮にその世界に行けたとして、助け出そうと行動したとしよう。最初の内は助けるための行動が出来たとしても、実際に痛みや恐怖を感じれば、その想いは次第に薄れ行く。

 最初から軽く一捻り出来るチートな力でもあれば、勿論助けるだろう。けれど、所詮はその程度の想いなのだ。努力の過程をすっ飛ばして楽を出来るのであれば、誰でも助け出すだろう。

 

 ラプラスの娘であるリベラルの素質はかなり高い。世界トップクラスと言っても過言ではないだろう。

 けれど、それはあくまでも素質だけだ。才能だけで頂点など取ることは出来ない。

 龍神と人神の血を引くオルステッドですら、最初から最強ではないのだ。何百回と繰り返しているループの中で磨き続けた努力があるからこそ、彼は最強なのだ。

 

 少なくとも、なあなあで努力を続けられる人はいないだろう。その程度の覚悟で頂点を目指すなど、舐めているとしか言えない。

 

 リベラルの想いは、そこまで強くなかった。

 けれど、それが普通なのだ。

 

 過酷な道を突き進むには――それ相応の覚悟が必要である。

 

 

 因みに、リベラルは転生する前、同僚の学者から「お前太ったよな?」と言われ、腕立て伏せ100回上体起こし100回スクワット100回ランニング10㎞を行おうと決心した時期がある。

 ハゲてしまうことを代償に、敵をワンパンで粉砕する最強の力を手に入れられるかも知れない、なんて馬鹿な妄想をしながら。

 

 初日はクタクタになりながらも何とかやり遂げ、全身筋肉痛になりながら一日を終えた。その時のリベラルはかつてない達成感に満たされ、「明日も頑張ろう!」と誓って泥のように眠った。

 2日目は疲労したからだを言い訳に、トレーニングの半分を終えることなく終了した。昨日の誓いはどこに行ったのやら、「何かめんどくさくなったな…」と既にやる気を喪失させながら眠った。

 3日目は仕事があるから面倒だと言って行わず、その日を境にトレーニングを辞めた。同僚には「トレーニング? なにそれ? おいしいの?」と告げながら仕事に励んだ。

 

 残念ながらリベラルの意思は、その程度の強さである。興味のあることであれば持続するが、なければ長続きもしない。

 

 

――――

 

 

「うぐっ!」

 

 リベラルは地面を激しく転がり、呻き声を上げていた。そしてその様子を、ラプラスは無表情のまま眺めている。

 この数週間、引きこもり生活を堪能していたリベラルであったが、それもラプラスが帰ってくるまでの話である。彼が帰還すれば、いつもの鍛練の日々が待っていた。

 

「また受け身を取れていないようだな……しばらくは受け身の練習としよう」

「えぇっ? 嫌ですよそんなの……」

 

 ラプラスの提案にゲンナリした様子を見せるリベラルであったが、当然ながらその意見が通る訳もなく、毎日転がされ続ける羽目となる。

 リベラルは戦うよりも、魔術などの研究がしたいのだ。だと言うのに、ずっと近接訓練ばかりしているのでモチベーションが上がらずにいた。

 確かに龍気……闘気についても研究したいことなどあるが、得られる効果は既に判明しているのだ。身体能力の向上に、身体硬化とも言える物理耐性の向上。

 なるほど、確かに心踊るものはあるが――現在やっていることは近接訓練である。研究者気質の強いリベラルは、全く持って楽しくもなかった。

 

 戦うことで得られる情報もあるが、それよりも痛みで泣きそうだった。

 だって、ドラゴンを手刀で倒せるような化け物に、延々とサンドバッグにされているだけなのだから。

 

「あぅ……」

「守勢から攻勢へと転じられなければ、勝つことなど出来ないと言っているだろう」

 

 相も変わらず吹き飛ばされるリベラルに対し、ラプラスは語りながらも手を緩めることはない。

 地面に倒れている彼女に容赦なくサッカーボールキックを放ち、リベラルの顔面を蹴り抜く。鼻血を撒き散らしながら更に吹き飛ばされるも、その最中に追い付いたラプラスに腹部を踏みつけられて、血ヘドを吐く。

 親子だとか、女だとか、子供だとか、そんなことなどで一切手加減されることなく、ラプラスの訓練は続いていった。

 ボロ雑巾のようになり、地面から立ち上がることの出来ない我が子に対し、

 

「リベラル、早く立ちなさい。これが本当の戦いならば、君は既に何度も死んでいるよ」

「……はい……ラプラス様……」

 

 血も涙もなく、延々と訓練と言う名のリンチは続いていった。毎日、毎日、ずっと……。

 

 前世という記憶を持ち、生まれた時から自我を持っているリベラルにとって、それは最低な家庭環境でしかなかった。

 もしも彼女がそのような記憶を持たず、純粋なリベラルとして生まれていたのであれば、そのように感じることはなかったかも知れないだろう。もしかしたら彼女と同じような考えを持ったかも知れないが、それは訪れることのない“もしもの話”でしかないのだ。

 地球の常識を持つリベラルにとって、この状況は理不尽な地獄でしかない。

 生まれたくて、ラプラスの子供として生まれた訳ではないのだ。使命だとか、誇りだとか、仇だとか、そんなことはリベラルに関係のない話なのだ。

 龍族の過去を知り、ラプラスの力になろうと思った時期もあったりするのだが、度重なる暴力によってその想いは薄れていった。

 

 ラプラスは、いつもヒトガミが如何に悪い神なのか語っていた。

 神々を騙し、争わせ、自分の為だけに他者を貶める。未来で起こる出来事も知っているリベラルにとって、ヒトガミがどのような悪さをするのかも知っている。

 だが、洗脳するかのように延々と教え込まされていれば、誰でも嫌になるだろう。リベラルの心は、徐々に不満が溜まっていったのだ。

 

 助けたいと、そう思った時期はあった。未来で起きる惨劇を回避させたいと思ったりした。義兄弟とも言えるオルステッドに殺されるのは悲しい。ヒトガミを殺すためだけに存在しているなんて虚しい。それでも使命を果たさんとする姿は美しい。ラプラスは救われるべき存在だ。

 そう思っているのに、何でこんな目に逢わなければならないのだ。そもそも龍鳴山から離れたことすらない。町に行ってみたい。もう少し優しくして欲しい。容赦がなさすぎる。実はいたぶることを楽しんでるのでないか。痛いので戦いたくない。のんびりと研究したい。

 ごちゃごちゃとそんな思いが巡り回っていたリベラルであったが、

 

(……何か、もうめんどくさくなってきましたね)

 

 顔面を容赦なく殴られ、考えることを止めた。

 でも、やっぱり痛みはあった。辛い。

 

 

「今回はここまでにしよう。私はまたしばらくここを離れる。その間の留守は頼んだよ」

「…………」

 

 それから一体、何時間、何十時間と戦わされ続けたのだろうか。

 既に日の落ちた夜空を、地面から起き上がれずに眺めていたリベラルを傍目に、ラプラスは家の中へと戻っていく。その後、サレヤクトと共に飛び立つ彼を見送った。

 それからしばらくして、彼女から溜め息が溢れる。

 

「……ラプラスの修行……マジつらたん……」

 

 初めの頃に比べ、その軽口には活気がなかった。

 

 

――――

 

 

 ――ラプラスにとって、リベラルとは希望であった。

 

 自身が死んでしまったとしても、未来へと繋げられる、道標だ。それと同時に、宿命に囚われた存在でもある。

 未来に誕生するオルステッド様も、人神(ヒトガミ)を打倒しなくてはならない宿命に囚われている。

 そのことを考え、ラプラスはかつての龍神のことを思い返す。思えば、あの御方もこのような気持ちで、息子を未来へと送ったのではないのだろうか、と。

 

 リベラルは強くならなくてはならない。そのために生み出したと言っても、過言ではないのだ。

 保険――そう、保険である。彼女はラプラスの後継者として誕生させた。リベラルを生んでもらった今は亡き半人半龍の女性も、そのための犠牲。

 

 全ては、人神を打倒するためなのだ。その目的のために、数多の死体を築き上げてきた。同族たちもそのために切り捨て、オルステッドに技術を伝えるためだけに、ここまでやってきた。

 今更、自身の娘もそのための犠牲にすることに、感情を感じてはならない。それに、賽は投げられたのだ。リベラルには龍神の神玉が宿っている。そして、そのような存在を、人神は決して無視することはないだろう。

 

 リベラルは、戦いを宿命つけられた存在だ。

 

 だからこそ、強くならなくてはならない。殺されないためにも、誰より強く、ただ強く、未来に繋げるために。

 そのために、ラプラスは厳しい訓練を課す。かつての自身も経験した、甲龍王ドーラ様との訓練を思い出しながら、それよりも過酷に鍛え上げて。

 

「うぐっ!」

 

 地面に転がり、呻き声を上げる己の娘をラプラスは見つめながら、足りないと心の中で呟く。リベラルは幼い頃から魔術の才を発揮し、戦いの才能を見せた。

 けれど、それだけでは足りない。もっともっと強くならなくてはならないのだ。

 

「また受け身を取れていないようだね…しばらくは受け身の練習としよう」

「えぇっ? 嫌ですよそんなの…」

 

 戦いを強制されるリベラルは辞めたいと懇願するが、それを聞き入れる訳にいかないのだ。

 ささやかな抵抗のつもりなのか、近接関係を全く覚えようとしないリベラルに対し、ラプラスは僅かな焦りを感じながらも、ゆっくりと待つ。賢い己の娘であれば、その行いが如何に無意味なのか、いずれは理解してくれるだろうと。

 

 賽は投げられてる。

 宿命は、運命は、既に定められている。

 

「あぅ……」

「守勢から攻勢へと転じられなければ、勝つことなど出来ないと言っているだろう」

 

 強くならなくてはならない。

 今更引き返すことなど出来ない。

 数多の屍の上に、数え切れない犠牲の先に、リベラルという存在はいるのだ。

 

「リベラル、早く立ちなさい。これが本当の戦いならば、君は既に何度も死んでいるよ」

「……はい……ラプラス様……」

 

 だから、こんなところで立ち止まることは、決して許されない。

 だって、リベラルは――魔龍王の後継者なのだから。五龍将なのだから。龍神様のために、尽くさなくてはならない。

 

 それからラプラスは、ひたすらリベラルを叩きのめした。泣き言を溢しても手を緩めず、悲鳴を上げても容赦せず、魔龍王としての、五龍将としての責務を果たすために。

 そして、地面に倒れ伏せた己の娘を瞳に映し、今回も駄目だったかと溜め息を溢す。だが、時間はあるのだ。焦らず、確実にやっていけばいいと考える。

 

「今回はここまでにしよう。私はまたしばらくここを離れる。その間の留守は頼んだよ」

「…………」

 

 それから、彼は倒れているリベラルを一瞥し、この場から離れていく。そのままサレヤクトのいる洞窟へと向かい、彼の元へと歩み寄る。

 そのことに気付いたサレヤクトは顔を上げ、相棒たるラプラスを視界に映す。

 

「行こう、サレヤクト……戦いの時間だ」

 

 その言葉に、竜は咆哮を上げ、意気を高揚させる。立ち上がり、洞窟の外へと走り出し、飛翔した。その背にラプラスは飛び乗り、彼もまた咆哮を上げる。

 

 龍と竜は叫ぶ。

 戦いに臨む。

 

 古き龍たちは、過去の誇りを胸に抱き、果たせぬ仇のために戦い続ける――そんな哀れな存在だった。




次回はラプラスがヒトガミの布石を潰すお話ではありません。ロステリーナちゃんが登場してからのお話になります。
正し、ほのぼのとは言えないナニかになる模様。
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