無職転生ールーデウス来たら本気だすー   作:つーふー

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前回のあらすじ。

ロキシー「フィットア領に向かう際に新たな弟子が出来るみたいです」
オルステッド「銀緑とかいうやついい加減邪魔だし消すか」
リベラル「社長……信じてますよ」

今回思った以上に文字数が少なかった悲しみ。5998文字だったけど……まあ、いいよね。
今回から章が変わりますが……例によって展開スピード遅いかもです。

では、見てくださってる皆さま、今回からもまたよろしくお願いいたします。


三章 変わるものと変わらぬもの
1話 『始まりの地からの始まり』


 

 

 

 友は、間違えた。

 

 

 使命を忘却し、内から無限に溢れ出す『人』への憎悪に従い、殺戮の限りを尽くした。その姿は余りにも痛々しく、そして、救いがなかった。

 何十年、何百年と準備を整え、人族を滅ばさんとした男は、道を間違えていることに気付かず、前へと進み続ける。だが、虐げられていた魔族たちは、彼を英雄視し、その背に続いた。彼らにとっては、正しい道だったのかも知れない。

 

 

 ――ああ、友よ……随分と変わり果ててしまったな。

 

 

 復活した男と再会できたのは、必然の出来事だ。いずれ蘇ると信じて、彼をずっと待っていたのだから。それ故に、使命を忘れ、憎悪に囚われていたことに嘆いた。

 その行動にかつての面影はなく、ただの修羅と化している。人の身を持たぬ己では、間違いを指摘することも出来やしない。昔のように意志疎通出来なくなったのだから、仕方なかったのかも知れない。

 友は間違え、己はそれを止めることも出来ぬ。

 

 しかし、しかしだ。

 間違えているとはいえ、友はそれでも戦い続けている。憎悪に身を焦がされながらも、『人』を打倒しようと藻掻いている。

 きっと、彼は救われないだろう。無意味な戦いの果てに待つは、終わりなき『人』への殺意だ。全てを壊したとしても、その憎悪が収まることはないだろう。そして、訳の分からぬ怒りを抱いたまま、朽ちゆくことになる。

 今はその背に続く者たちも数多くいるが、やがて誰も付いていけなくなるだろう。

 

 

 ――ならば、己だけでも傍に居よう。せめて、味方であり続けよう。それが、友というものだろう。歩みを止めぬ限り、付いていこうではないか。

 

 

 間違っているのならば、その道を正すのが本当の友なのかも知れない。けれど、間違っていると知っていても、その結末を見届けるのも、本当の友ではないのだろうか。

 後悔はなかった。少なくとも、友と再び戦えたことに、喜びを覚えていた。かつての記憶が甦り、心高ぶった。力が滾った。

 

 

 ――だから、後悔などない。後悔などないから……どうか、泣かないで欲しい。

 

 

 そして、通常個体よりも遥かに巨大な体を持つ赤竜は、己の目の前で泣きじゃくる家族へと、穏やかな視線を向けた。

 

『……うぅあ、ああ……嫌です、嫌ですよぉ……私を、私を独りにしないで下さい……!』

 

 その巨体を血塗れにし、地面に横たわる赤竜の眼前には、友の娘がいた。己も娘のように接し、共に日々を過ごした『魔龍王』の後継者。

 しかし、強くなった筈の彼女は情けなく涙を溢し、人目も憚らず喚いていた。強者であるというにも関わらず、すぐにこれだと赤竜は内心で溜め息を溢す。

 

 

 ――ああ、強くなったな……昔とは比べものにならぬほどに。今ならば、殺されても悔いはない。

 

 

 結果論かも知れないが、殻に閉じ籠もってしまった彼女の元を離れたのは、正解だった。

 きっと、この赤竜が傍に居続けていれば、彼女はここまで強くならなかっただろう。堕落した生活を続け、前に進めなかった筈だ。

 

 

 ――あの時は、見捨てて悪かった。だが、その結果がこれならば良かったのかも知れない。

 

 

 地に墜ちた赤竜は、穏やかな瞳を浮かべ、目の前にいる『銀緑』へと愛おしそうな視線を見せる。その姿は、今から死にゆくものとは思えぬほどに、落ち着いていた。

 けれど、目の前にいる『銀緑』は、その事実を覆そうと必死に治癒魔術を使い、赤竜の傷を癒そうとしている。しかし、開いた傷口から血が止まらず、徐々に生命の灯火を弱らせていた。

 

 

『どうして、どうして!!』

 

 

 ――もういい。もう治らぬ。既に手遅れだ。

 

 

『嫌、嫌っ!! 死なないで下さいよ……強くなったのに、もう二度と繰り返さないと誓ったのに……なんで、こんな……あんまりですよ……!』

 

 

 未だに泣きじゃくる彼女に、赤竜は再び溜め息を溢す。けれど、昔から変わらぬその姿に、安堵を感じていた。

 そう、昔の彼女はこんな感じで、あまっちょろい奴だった。今は敵同士だというにも関わらず、これだ。

 甘い思想に甘い心意気。だが、その甘さは嫌いではなかった。

 

 だから、かつての頃に戻れたような気がして、赤竜は最期に笑った。

 

 

 ――託した。この意志を、誓いを、魂を。さあ、勝とうではないか。

 

 

 赤竜は死んだ。

 それでも、終わりではない。

 『銀緑』は後継者だ。

 

 『魔龍王』の意思を継ぎし者。

 数々の誓いと約束を背負い、新たな道を切り拓く力を持つ。彼女は弱くなどない。それらを受け継げれるほどに、強くなった。

 

 だから、立ち止まることは許されない。

 どれほどの困難があろうとも、重荷に押し潰されそうになろうとも、それは許されないのだ。

 前に進む以外の選択を、彼女には許されなかった。

 

 

――――

 

 

「――……ぅ……」

 

 ふと気付いた時、リベラルは地面に倒れていた。辺りはすっかり暗くなっていたようで、転移してからどれほどの時間が経過したのかを窺わせる。

 

(……あぁ、懐かしい夢でしたね……それより、ここは……?)

 

 ボンヤリとした思考のまま、その場から起き上がろうとした時、傍に誰かがいることに気付く。

 

 ノルンだ。

 

 彼女は顔を涙でグシャグシャにし、今までずっと意識を失っていたリベラルの傍で、泣き叫んでいた。

 寝ている間に転移事件に巻き込まれ、起きた時には知らぬ場所だったのだ。共に転移してきたリベラルは倒れており、状況を理解出来なかったことだろう。幼子なのだから、余計にそうだ。

 更にはその状態で日まで暮れてしまい、きっと恐怖に押し潰されてただろう。

 

「うぇぇん! おどうさん、おかあさん! どこ、どこにいるの!」

「……ノルン様、大丈夫です。落ち着いて下さい」

「……!! リベラルおねえさん!」

 

 泣き叫ぶノルンへと声を掛けると、彼女はリベラルが意識を取り戻したことに気付き、勢いよく抱き付いた。そのまま胸の中でずっと喚き、感情を吐露する。

 リベラルは抵抗することなく受け入れ、ノルンの背中を優しく擦った。あやすかのように「よしよし」と声を掛け続け、彼女に安心を与えていく。

 

 やがて、泣き疲れてしまったのか、はたまた安心感からか、気が付けばノルンは小さな寝息をたてていた。

 

「…………」

 

 リベラルはノルンが眠ってしまってからも優しく抱き抱え、なるべく起こさないように配慮しながら、辺りを見回す。

 

(暗くて見え辛いですが……ここはもしかして……)

 

 日も沈んだ闇夜の中、それでもリベラルがすぐに気付いたのは必然のことだろう。彼女にとってここは、忘れられる場所ではない。

 とても馴染み深い場所であり、そして原点ともいえる場所……とある山の中腹にある、ひとつの家の前だ。

 

 リベラルとノルンは転移によって――龍鳴山に飛ばされていた。

 

(何ともまぁ、運の良いことですね……体制を整えるためにも、一度中に入りましょうか……)

 

 ひとまず、状況整理と休息のため、ノルンを抱えたリベラルは家の中へと入っていく。奥へと進んでいき、埃まみれになっていたベットを魔術で軽く掃除し、そこにノルンを寝かせる。

 その他にもやるべきことや確認すべきことはあったのだが、リベラルは近くにあった椅子へと座り、大きく一息吐いた。

 

(……身体が、重い……それに、魔力が枯渇していますね……頭も痛いです……)

 

 体調の問題だった。意識を取り戻してからは、体力が著しく低下し、まるで病気に掛かったかのように体が怠かったのだ。

 家の中をもう少し見て回りたかったものの、今すぐしなければならない訳でもなく、自然と休憩を優先してしまう。とにかく、リベラルは休みたかった。

 

(……こんな状態では、無理に活動も出来ませんね。強行して死んだりすれば笑えません……)

 

 実際なところ、もっと優先すべきことがあった。転移事件が発生した現場――ナナホシが現れる場所へと、向かわなくてはならない。それが、ずっと掲げていた目的の1つだからだ。対策しているとはいえ、やはり自分の手でどうにかしたい気持ちがあった。

 しかし、ここは龍鳴山である。幸いなことに、家の前に転移したからこそ赤竜に襲われなかったが、ここから離れれば赤竜の群れに襲われる可能性があるだろう。

 そんなところへ、魔力が枯渇という最悪なコンディションで向かえば、リベラルとて死んでも可笑しくはない。

 

 それに、ノルンのこともある。

 彼女を引き連れたまま、強行軍など不可能だろう。

 

(……全く、こうして情にほだされぬよう、他人事のように全員に敬称を付けていましたのに……ほんと、私は甘いですね……)

 

 パウロたちと数年も接していながら、このようなことを言っても説得力などないが、深く入れ込むつもりはなかった。しかし、彼らと関わり合う内に、それなりの情が湧いてしまった。

 

 ノルンを抱えたまま転移したのは、自分の意思だった。光の波に包まれるより前に、彼女を手離していれば、一人で龍鳴山かその他の場所に飛ばされただろう。けれど、いくらなんでもそんなことは出来なかった。

 もしもノルンを手離していれば、きっと彼女は一人で転移して確実に死んだだろう。リーリャに預けるにしても、アイシャと同時に面倒を見切れるとは思えない。下手すれば、三人ともお陀仏になる可能性もあっただろう。

 パウロがいない状況下で、ノルンの生存率が一番高くなるのは、リベラルと共にいることだった。

 

 チラリとノルンの寝顔を見つめ、己の判断は間違ってないと言い聞かせる。長年生きてきて感情も少しばかり希薄になった。けれど、その判断が目的から逸れる行為だったとしても、幼子を助けるだけの道徳心は捨てられなかった。

 それだけの人間性が残っていることに、リベラルはむしろ喜ぶべきなのかも知れない。

 

(ですが、これでよかったのかも知れませんね……)

 

 ノルンがこの場にいなければ、きっとリベラルはすぐに龍鳴山から降りようと行動しただろう。その結果、赤竜の群れに襲われて死んだかも知れない。

 賽は既に投げられている。焦って行動したところで、現実は変えられないのだ。例え、目的から遠回りしてしまうとしても、今から慌ててフィットア領に向かうのは下策。

 その程度のことは、彼女とて理解していた。

 

(……クソッ……)

 

 焦燥する気持ちを必死に押さえ付けるあまり、噛んでいた唇から血が滴り落ちた。けれど、どうすることも出来ずに、苛立ちばかりが募る。

 結局、疲労で凄まじい眠気に襲われているにも関わらず、リベラルは一睡もすることなく夜を明かした。

 

 

――――

 

 

 龍鳴山にある自宅で休息を取れたリベラルは、ノルンの世話をしながら今後の計画を練り上げていく。

 

「おねえさん……ここ、どこ……?」

「ここは私の実家ですよ」

「おねえさんのじっか?」

「ええ、ちょっとした事情でこんな場所にいますが、すぐにパウロ様の元に帰りましょうね」

 

 ノルンは不安そうな表情を浮かべていたが、リベラルが怖がらせないように優しく応対し、恐怖を取り除いていく。数年もの間、グレイラット家へ入り浸っていたお陰か、彼女の信頼はそれなりに高かった。

 しばらくは付きっきりで過ごし、徐々に安心を与えていくことによって、ノルンは大きく取り乱すことなく、静かになっていく。初めの内は泣いてばかりであったが、今ではそのようなこともなく落ち着いていた。

 

「体力が回復しましたら、出発しましょう。いつまでも私と二人っきりでは、ノルン様も退屈でしょうし」

「……うん」

「大丈夫ですよ。私が付いてます。もしかしたら道中で辛い思いをするかも知れませんが、必ず守りますから」

「……うん」

「では、明日の明朝に出発します。キツかったらすぐに言って下さいね?」

「……うん」

 

 落ち着いているとは言え、どこか暗い様子のノルン。しかし、唐突に見知らぬ場所で家族と離れ離れになれば、それも仕方のないことだろう。

 極力明るい表情を浮かべ続け、リベラルはノルンが寝入るまで隣に居続けた。

 

 やがて、ノルンが寝静まったことを確認したリベラルは、近くの椅子に座って思考に耽る。

 

(まずは、城塞都市ロアに向かいましょうか)

 

 龍鳴山からフィットア領への距離は、さほど遠くもない。山伝いに移動していけば、一直線に向かえるからだ。しかし、そうすると自然に、赤竜の群れから常に狙われることとなる。

 自分一人ならまだしも、ノルンを連れた状態では無理だと彼女は判断する。故に、迂回して行く必要があるだろう。必然的に時間も掛かってしまうが、どうしようもない。

 

(そこで一度情報を集め……状況に応じて考えていたプランを選択しましょう)

 

 まず、フィットア領に辿り着いてから知りたいのは、ナナホシの情報だった。現場は混乱しているだろうから、情報を集めるのには難儀するかもしれないが、それだけは何としても知らなくてはならない。

 次に、パウロがちゃんと生きているのかどうか、または、彼等の身内がいるかどうかだ。パウロか身内がいるのならば、ノルンを任せて一人で行動することが出来る。いないのであれば、ボレアス家に預けることも視野に入れていた。

 最悪の状況は、どちらも壊滅してることだが……もしもそうであれば、ノルンはリベラルが引き連れることになるだろう。もっとも、その可能性はないと考えているが。

 

 とにかく、リベラルのこれからの行動は、ロアでの状況によって変化することとなる。

 

(しかし……体力を回復するのに時間が掛かってしまいましたね)

 

 魔力の枯渇に体調不良。この転移事件でのナナホシの推測では、エネルギー保存の法則によって魔力が持っていかれたという。だが、体調不良は明らかに転移とは別の要因にしか感じられなかったのだ。

 とは言え、リベラルはそれもある程度の心当たりがあった。恐らく、『龍神の神玉』と“自分の存在”に関係することだ。考察しか出来ないので確証はないものの、どのみち無意味な思考だと首を振る。

 

 そんなことよりもまずは、ルートを選択する必要があった。流石のリベラルも、龍鳴山から伝ってフィットア領に向かうつもりはない。無謀というものだ。

 故に、中央大陸の紛争地帯を経由して、山を迂回して行くことになる……と言うのが普通の選択だが、リベラルは普通の範疇から外れた存在。

 

 世界中を旅回ったリベラルは、転移魔法陣の位置をある程度把握していた。

 龍鳴山を下山し、ずっと先に進んだ麓に、反対側へと向かうための転移魔法陣が存在する。そこまで辿り着けば、ミラボッツ領へと転移出来るのだ。

 およそ1ヶ月半から2ヶ月の間に、フィットア領へと辿り着ける。

 

(ノルン様の体力の問題もありますので、もう少し掛かるかも知れませんが……上出来でしょう)

 

 ひとまずルートを考え付いたリベラルは、静かに目を瞑る。体力は回復したものの、まだ完全ではない。魔力も満タンではなかった。大体七割といったところだ。

 けれど、それで問題ないと判断したからこそ、出発することにした。むしろ、これ以上待つのは精神的に辛かったのだ。

 

「おやすみなさいノルン様……良い夢を見れることを期待しております」

 

 やがて、龍鳴山の中腹にある家からは、寝息だけが響き渡った。




Q.サレヤクトの傷治せんかったの?
A.銀緑とやらもテンパってたんでしょうね。禁術となってる呪術や、毒の可能性が頭からすり抜けてたのでしょう。

Q.龍鳴山にいるのに赤竜に襲われてないだと…?
A.リベラルは一応、定期的に実家に帰ってます。その際に、魔物避け的なことをしてるので家の周囲には近付いてきません。

書いていて思いましたが、ノルン(幼少期)の口調がいまいち分かりません。もしかしたら、皆さまの思ってる口調と違うかも知れませんが、その際は指摘してやって下さい。
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