サレヤクト「俺ってマジで死んだのかよ」
ノルン「ここはどこ?私は誰?」
リベラル「取り合えずフィットア領に向かおうぜ!」
おうどんたべたい。
今回の話はちょい雑かも知れません。
ベビーキャリアのようなものを使い、ノルンを背負ったリベラルは、目的地へと出発を始める。
彼女は四歳くらいなので自分の足で歩けるかも知れないが、龍鳴山でそんな馬鹿なことをさせるつもりはなかった。目を離した間に死、なんてことになれば、悔やんでも悔やみきれない。それに、幼児が山を歩くのは流石に厳しいだろう。
「さて、行きますか。ノルン様、私の背中は大丈夫ですか?」
「うん、だいじょうぶ」
「それは良かったです」
龍鳴山の自宅という拠点にいるリベラルは、装備を整えることが出来る。ブエナ村に運んでいた荷物は転移によって全滅したので、ありがたいことだろう。
しかし、彼女はほとんど何も持たず、まるで近所に出掛けるかのような着の身着のままだった。所持しているのは、ある程度の金銭に金目の物。それから、白紙の本とペンのみだ。
武器すら持たずに龍鳴山にいるその姿は、傍目から見ればただの自殺行為にしか見えないことだろう。
リベラルは基本的に、武器を持たない。単純に、彼女の力が強すぎるからだ。並大抵の武器では、簡単に折れてしまう。
流石に魔剣などの類いは簡単に折れないが、それでも長期的に使用し続けていると折れてしまうのだ。リベラル専用のものでも作らない限り、武器を常用することはないだろう。
故に、彼女は基本的に武器など持たずにいた。もちろん、そんなものを持たずともリベラルは十分に強い。
(ブエナ村に持っていった物がなくなったのは痛いですが……まあ、仕方ありませんね)
ブエナ村の家に保管していたのは、主に書物関係のものだ。龍族の技術に関するものや、自分の歴史を記した日記。本来の歴史との相違点や、自分なりの考察なども纏めていたりした。
その他には、魔道具が幾つかといったところだろう。高価なものがあったので、そのことにリベラルは悲しみを覚える。
(そんなもの、また新しく書いていけばいいだけです)
なくしたことを嘆いたところで、意味などない。喚いたところで手元に戻ってくる訳でもないのだ。
サッと意識を切り換え、なくした事実を割り切る。そしてそのまま、目の前に意識を集中させていった。
――――
龍鳴山を下山している途中、案の定と言うべきか、やはり赤竜に襲われることとなった。単体であれば、リベラルも気にはしなかったが、龍鳴山では竜たちは群れで棲息する。
赤竜山脈に連なる龍鳴山は、赤竜のテリトリー。ドラゴンは探知能力が非常に優れており、縄張り内に入った生物は小動物であれ、一匹たりとも見逃すことがない。山の何処にいようと、彼らの標的だ。
山の中腹にあるリベラルの自宅には、彼女の施した竜避けの魔術があったので、ドラゴンたちは近寄らなかったが、その範囲から出れば別となる。
つまり、ノルンを背負っているリベラルに対し――数百匹もの赤竜たちが襲い掛かるのだ。
――――
リベラル一人であれば、龍鳴山や赤竜山脈を突破できる。それは当然のことである。でなければ、リベラルは『魔龍王』の死去から、今もなお龍鳴山から降りることが出来ず、餓死していたことだろう。
上空を旋回し、狩りのために群れと連携を取る赤竜たちをリベラルは見上げ、迎撃のために魔力を練り上げる。その視線の先には、空を覆い隠すほどの赤竜たちが群れを為していた。
「お、おねえさん……」
「大丈夫ですよ。私がついてるので安心してください」
まるで羽虫のように集う赤竜たちを前に、ノルンは恐怖に震えた声を上げていたが、リベラルは優しく宥める。とはいえ、流石にそれだけで恐怖を払拭出来る訳もなく、ノルンは震えたままだった。
「さてと……コソコソするのはもう終わりですからね。ド派手にいきましょうか」
彼女が今まで、己の存在をなるべく明かさないよう行動していたのは、転移事件を起こすためだった。なるべく本来の歴史通りに事を進め、ナナホシを召喚させるためのもの。あまり余計なことをしなければ、起きるという確信を持っていたのだ。
そして、その目的が果たされた以上、リベラルは本来の歴史通りに動く必要がなくなった。今までは道をなぞるだけの人生だったが、これからは自らの望む未来を掴み取るために、自分だけの道を歩むことになる。
「『
使用するのは、土系統中級魔術。魔力を操作していき、本来の用途とは違う形へと作り上げていく。
地面から土の槍が生えると、リベラルの隣に浮き上がった。魔力を圧縮させていき、鋼鉄のような硬さへと変質させると、内側からまるでマグマのような熱量を感じさせる。
そして次の瞬間、音だけを残して、向かってくる何百匹もの赤竜たちへと射出された。
先頭にいた赤竜たちは、放たれた土槍を回避する。着弾までの距離があったので、避けるのは難しくなかったのだ。
しかし、その後ろにいた赤竜たちは避けられなかった。目の前の仲間が横に動いた瞬間には土槍が目前に迫り、その強固な鱗に守られた身を貫くのだ。
土槍は一匹貫いただけでは勢いが止まらず、何匹、何十匹もの赤竜たちを貫いていき、
「『
群れの中心地にて、土槍は大きな爆発を引き起こし、周囲を飛び交う大量の赤竜たちを巻き込む。また、爆発に巻き込まれなくとも、凄まじい爆音と閃光によって平衡感覚を失わせ、何匹もの赤竜が地に墜ち行く。
一気に仲間の数を削られたことに赤竜たちは唖然とするも、すぐさま怒りを露に咆哮しながら突撃を再開する。
「グオォォォォ!!」
「ノルン様がいる以上、残念ですが近寄らせませんよ」
背中にノルンを背負っているリベラルは、緊急時以外で近接戦をするつもりがなかった。単純に危険なのはもちろん、リベラルの動きが激しすぎて、ノルンが耐えられない可能性を考慮してのことだ。
そしてそれは、赤竜たちを魔術のみで追い払うことを意味していた。
迫り来る赤竜たちに対し、再度魔力を練り上げたリベラルは、次の魔術を発動させる。
――水帝級魔術『
リベラルの目の前は一瞬で凍結されていき、怒り狂う赤竜たちを絶対零度が包み込んでいく。ブレスを吐いてどうにか脱出しようとするも、それよりも早くに芯まで凍り付き、やがて氷の彫像を作り上げた。
後方から更に突撃していた赤竜たちは、勢いのまま氷の彫像を破壊していき、周囲に氷の結晶を散らばらせる。そして、リベラルはそれらに紛れこみ、ユラリと夢幻のように移動し、距離を取った。
驚異的な探知能力を持つ赤竜たちであっても、彼女の歩行術に惑わされ、一時的に姿を見失う。怨敵を探して、キョロキョロと首を動かしていた。
そんな無防備な赤竜たちに、リベラルは容赦なく次の魔術を放つ。
「これで終わりです」
風聖級魔術『
旋風が、赤竜たちを呑み込む。
全てを消し飛ばす風の旋律は、飛び交う赤竜たちをことごとく吹き飛ばし、その飛行能力を奪い取る。
空を覆っていた大半のレッドドラゴンは、無様に地に墜ちていく。だが、それでも王者のプライドか、何匹かのドラゴンは旋風を堪えてみせた。
しかし、残ったことを確認したリベラルが指を動かすと、重力が乱れ狂い、努力を嘲笑うかのように掻き消す。
重力を失った赤竜たちは、突風に対して踏ん張ることも出来ず、回転しながら地面へと墜ちていった。
「ふぅ……思った以上に魔力を消費してしまいましたね……」
一息吐いた彼女へと、襲い掛かる存在はいなかった。空を覆い隠していた筈の赤竜たちは、一匹残らず地に墜ちたのだ。
全滅。
リベラル一人で、全ての赤竜を退けてみせた。
もちろん、墜ちただけでは赤竜たちは死なない。だが、飛行能力がお粗末な彼らは、平地から飛び立つことが出来ない。故に、山の中に墜ちたドラゴンたちは、無力となったのだ。
圧倒的。もしもこの光景を見たものがいれば、それ以外の言葉を思い浮かべることが出来なかっただろう。
「す、すごい……」
「ふふん、どんなもんですか」
「おねえさん、すごい! すごい!」
すごいという言葉以外を発さなくなってしまったノルンに対し、リベラルは得意気に無い胸を張って応える。それでも、無邪気なノルンは純粋にリベラルを褒め称えた。
――――
龍鳴山はとても広いので、赤竜が落ちたところで山から出ることは出来ない。どこか高い崖を見付けるか、ある程度長くて滑走出来る斜面を見付けるまでは、再び空に現れることはないだろう。
とはいえ、リベラルはこの辺りの赤竜を殲滅しただけであり、他の場所にまだまだ棲息する。悠長にしている暇はないので、極力急いで山から降りることを優先した。
やがて、数日ほど費やし、リベラルとノルンは龍鳴山から下山することが出来た。夜通し移動し続けたお陰だろう。
一睡もすることなく、リベラルは先へと歩を進め続けていた。
「ぅぅ……ハァ……ハァ……」
「これは……仕方ありませんね……」
しかし、基本的にリベラルに背負われていたノルンだが、それでも四歳児には過酷な道程である。体力面の消耗は魔術で治せても、精神面の消耗はそうもいかない。
山から下りた頃のノルンは高熱にうなされ、看病を余儀なくされた。精神的な疲労からきたものなのか、治癒してもすぐにぶり返すのだ。
仕方ないので、リベラルは一度龍鳴山から最寄りの国へと立ち寄り、休息を取ることにした……のだが、龍鳴山より南にある国々は、紛争地帯である。
数多くの小国が、祖国を発展させようと無意味な争いに興じる。貧民街はそこかしこにあり、大勢の者たちが貧富に喘ぎ苦しんでいた。
当然ながら、治安は悪い。傍目から見て、リベラルとノルンの二人はとても美味しい鴨に見えたことだろう。スリなどは可愛いもので、あからさまに体目当てな乱暴者や、奴隷商人のような者たちが数多くちょっかいを掛けてくる。
こういった余計な者たちが沸くことはリベラルとて理解しており、だからこそあまり近寄りたくなかった。
「…………」
日も暮れたので、そのまま宿で休息を取っていたリベラルは、寝静まったノルンの傍で、思案げな表情を浮かべていた。ノルンの体調は安定してきており、明日には出発出来そうだった。
だが、それよりも気になることがあったのだ。確かに現在地は紛争地帯で治安も最悪なのだが、リベラルを狙う襲撃者がやけに多く感じられた。
「んぅ……おとうさん……おかあさん……」
安静させたお陰か、顔色が幾ばか良くなったノルンが、寝言を溢す。転移事件という不幸に巻き込まれ、親の元から強制的に引き離されてしまったのだ。
彼女以外にも、同じような境遇になってしまった者は数多くいるだろう。そのことを思い、リベラルは顔を顰めるも、すぐに頭を振った。
「……ん?」
その時、部屋の外から何者かの気配を感じたリベラルは、その場から立ち上がる。
「誰ですか?」
また強盗の類いかと思い、内心で悪態を吐いた彼女は、気配を殺したまま扉へと近付く。感覚を研ぎ澄まし、四人の存在が潜んでいることを確認したリベラルは、静かに扉を開いた。
その瞬間、短剣を構えて黒衣を纏った二人の男が飛び掛かり、リベラルへと襲い掛かる。
「今は夜中ですよ? 静かにしてください」
だが、彼女は身体を逸らすだけで突き出された短剣をかわし、そっと二人の男たちの胸元へと掌を添える。それと同時に、凄まじい衝撃が心臓へと轟き、心の臓を破壊した。
グッタリと力なく崩れ落ちる男たちを傍目に、リベラルは残りの二人へと音もないままスライド移動し、一人の顎を殴って気絶させる。
残りの一人は、何が起きたのかも分からぬまま唖然とした表情を浮かべ、気が付けば手に握り締めていた短剣を奪われていた。
「もう一度問います。誰ですか? あなた方は何者でしょうか?」
「……ッ!」
一瞬の内に羽交い締めにし、首元に短剣を押し付けたリベラルは、声を低くして問いただす。襲撃者は力量差に恐怖したのか、冷や汗を滴ながら固唾を飲んでいた。だが、彼は何も答えようとせず、沈黙を押し通す。
リベラルは倒れた襲撃者たちの格好をチラリと見て、何者なのか推測を立てていく。
「隠密に適したその格好。それに、汚れも少ない……ただの乱暴者でないことは確かですね」
「…………」
「連携していたことと言い、力量も訓練されたものでした」
「…………」
「この国の暗殺者か何かでしょうか? 態々無法者をけしかけたことと言い、余程私の命でも欲しかったのですかね」
「……っ!」
僅かであったが、リベラルの言葉に反応を示した男に、図星であることを確信する。だが、問題は、何故唐突にリベラルが狙われたかだ。
少なくとも、彼女はこの国で何もやってない。龍鳴山から下山し、ノルンの体調を整えるために立ち寄っただけである。知らない内に恨みを買っていた可能性もあるが、襲撃されるほどのことはないだろう。
しかし、リベラルには心当たりがあった。
今までずっと沈黙を保ち、けれど転移事件が発生してから関わってくるであろう存在を。
「――
リベラルの怨敵。
果たすべき目的のひとつだ。
このタイミングでちょっかいを掛けてくる存在なんて、ヒトガミ以外にあり得なかった。ただの強盗の可能性も捨てきれなかったが、それよりも確率が高いと確信していた。
「な、なぜそれを……」
「うわー……分かりやすい反応ですね。てっきり貴方の上司とかその辺りが知ってるとばかり思ってましたが、私の予想も外れてしまいました」
もしかしたら、と思い口に出しただけなのだが、あからさまな反応を見せた男に、リベラルは思わず苦笑してしまう。とにかく、これで確定した訳である。
目の前の男が、ヒトガミの使徒であるということが。そして、命を狙われる訳が。
「死んだらヒトガミに伝えてください。『今頃慌てるとか、お前バカだろ?』と。草を生やしまくれば尚良です」
「や、やめ――!」
隙を見て逃れようとしていたであろう彼は、もう殺されることを察したのか、何とか止めようと声を上げる。だが、リベラルはそんなことお構い無しで、首に当てていた短剣を引き抜いた。
ドバッと吹き出す血をサッと避け、絶命した男から離れる。ついでに、気絶しただけの男にも止めを刺しておいた。
一息吐いたリベラルは、寝入ってるノルンの元へと歩み、彼女を抱き抱える。こんな死体だらけの場所で目覚めてしまえば、トラウマものだろう。さっさと離れるに限る。
そのまま受付にいた宿主の元へと向かい、事情と共に謝礼などを払って宿から出ていく。襲撃者がどのような地位の者なのかはハッキリと分からなかったものの、もしかしたら指名手配される可能性もあるだろう。
ヒトガミの使徒だったため、殺すのは確定していた。どのみち、この国からは早めに出なくてはならない。
(それにしても……フフ、まさか本当に今頃慌てたりしてませんよね?)
思い返すは、ヒトガミのことだ。
どうして第一次人魔大戦の時に、リベラルを見逃したのかは不明だった。けれど、ひとつの理由として上がるのは、彼女はその後に敵にならないから、というもの。
実際にそれが正しいのかは分からないが、今の今までヒトガミは一度たりともリベラルへと干渉することはなかった。故に、転移事件によって未来は変化し、リベラルの存在が厄介なものになったと考えるのが自然だろう。
もしもその予想が当たっていたのだとしたら、何とも滑稽なことだ。
彼女は転生してからずっと転移事件を待ち望んでいたのにも関わらず、ヒトガミはそのことに一切気付けなかったのだから。リベラルが今まで本来の歴史をなるべくなぞっていたのも、無駄ではなかった。
「私を生かしたこと、必ず後悔させてやりますよ」
不敵な笑みを浮かべたリベラルは、過去の決意を再度口にし、人神の打倒へと道を進めた。