ヒトガミ「パウロは剣の聖地にいるよ」
ノルン「パパはけんのせいちにいるの!」
リベラル「ノルンを利用するとかヒトガミ許すまじ」
お待たせしました。この時期は本当に忙しいですね……(言い訳)
何と言うか、思ったように書けないんですよね……展開自体は考えていたものに沿えてるけれど、考えているよりも意外性やら期待感が足りないというか。有名著者の作品のように、次の展開を見るのがワクワクさせれないというか。
スランプっていうか、私の力量が足りない悲しみ。
うーむ、もっと精進せねば。
それは、まだ転移事件が起きる前のことだ。その日、パウロは何が起きたのか、分からなかった。
シルフィエットの父親である、ロールズと共に魔物を相手にしていた時に、それは起きた。空に何か異常が起きていたことには気付いていたが、だからと言ってそちらに意識を向ける暇もない。
いや、正確には二人とも空に意識は向いていた。そのせいで、本来ならアッサリと仕留められる筈の魔物たちに、手こずっていたのだ。
しかし、それでもパウロは元S級冒険者。目の前の魔物に対し、注意力が散漫になりながらも、危なげなく仕留めていく。だが、魔物が最後の一体になった時に、それは起きてしまった。
「パウロさん!」
さっさと始末しようとしていたパウロの後ろから、ロールズの切羽詰まった叫びが響く。何事だと思い、彼は反射的にそちらへと意識を向けてしまった。
現役から退いてしまったパウロが見せた、致命的な隙と言えよう。その機を逃さず、魔物は飛び掛かっていった。
「ちっ!」
そのことに気付いたパウロは、結局ロールズの叫んだ意味を悟ることなく、反応に遅れつつも魔物へと剣を振り下ろし――迫り来る光に包まれた。
そして彼は、空にいた。
大体、2~30メートルほどの高さだろうか。目測なので、正確な高さまでは把握できなかった。
目の前には、魔物もいた。
剣が胴体の半ばまで食い込み、死に体となってる魔物だ。
「…………あ?」
一瞬、パウロは夢を見ているのかと思った。現実味の感じられぬその状況に、思考が追い付かなかったのだ。最後に覚えてる光景を思い出そうとし、頭を混乱させる。
やがて、彼の体と事切れた魔物は、地面へと落下していく。そこで、パウロはようやく目の前の現実に気付いた。
「う、おおおぉぉっ?」
どんどん落ちていく感覚。人がどれほどの高所から落ちれば死ぬのか分かっていないが、パウロは本能的にこれは死んでしまう高さだと感じた。
彼は剣士だ。魔術を扱うことは出来ない。手元には何もない。けれど、無情にも雪景色の地上は段々と迫り来る。
だが、パウロはやはり引退していてもS級の冒険者だった。地面に落ちるまでのほんの僅かな間に、彼は生き残るための解答を導き出した。
「おおおおおぉぉぉぉぉ!」
目の前にいた魔物から、剣を引き抜く。ドバドバとそこから血が溢れ出すが、そんなことは気にせず魔物に抱き付く。そしてそのまま空中で体を捻り、魔物が下になるようにする。
やったのはそれだけだ。恐らく、いや、間違いなく常人であればそれでも死んだだろう。しかし、パウロは地面に衝突する寸前に、無意識の内に闘気を纏っていた。死の恐怖に対する本能か、それは普段よりも強力なものだった。
「ぐがっ! あぁっ!」
そして、地面に衝突したパウロは、魔物をクッションに一度大きく跳ね飛ばされ、それでも勢いは殺しきれずに何度も地面を跳ねる。その際に、北神流の受け身で極力衝撃を殺した。
実際、それだけでは厳しかっただろう。しかし、落ちた場所に恵まれた。辺り一面が雪に覆われたこの地によって、運よく致死的なダメージを避けていたのだ。
やがて、勢いはなくなり、地面を転がり尽くしたパウロは、そのまま気を失う。
彼は、何とか生き残った。
けれど、パウロにとっての悪夢は、これから本当の意味で始まる。
――――
パチリと目を開けば、そこは不思議な空間だった。
真っ白な空間だ。最果てまで白で埋め尽くされ、空を見上げても白に阻まれて何も見えない。
すぐに、夢だと悟った。いや、もしかしたら死んだのではないかと、言い知れぬ恐怖を感じた。
けれど、その不安はすぐに払拭されることになる。
「――やあ、初めましてかな。こんにちわ。パウロ君」
目の前に、ソイツはいた。
その姿は認識しようとしても、何故かボヤけて見ることが出来ない。
けれど、その神々しさに、言い知れぬ安心感に、パウロは妙に心が落ち着き、信頼感を抱いた。――ああ、目の前にいる存在は俺を救ってくれる、と。
何故だか分からないが、そんな気持ちを抱いてしまうのだ。目の前の存在は信じられると、心を傾けてしまう。妙に心地よい気分だった。
そして、ソイツは名乗る。
「――僕は
その名を知る意味を知らず、パウロは無条件の信頼を寄せた。
――――
リベラルとノルンがフィットア領から出発し、剣の聖地に辿り着くまでに約4ヶ月ほど経過した。
転移事件から既に半年だ。
本来であれば、転移陣を用いて剣の聖地へと辿り着くのに、1ヶ月程度で十分だった。しかし、予定よりも大幅に遅れていたのだ。
単純な理由である。
季節は冬となり、雪が降り始めたからだ。中央大陸北部『北方大地』の冬は、過酷だった。
大量の雪が振り続け、積雪は5メートルを超える。国内なら街道もあり、国がある程度整備するため移動する事はできるが、国外となると難しくなる。
魔術で天候を操作しても、延々と魔力を持たせることは出来ない。雪を溶かしながら進むにしても、ろくに道も見えず、遭難してしまうだろう。
勿論、これも龍鳴山の時と同様に、リベラル一人なら冬でも関係なく向かうことは可能だ。しかし、そうするにはやはり、ノルンの存在がネックとなり、向かえなかった。彼女の体力では、途中で力尽きてしまうだろう。
その事を失念していたことにリベラルは己の馬鹿さに頭を抱え、冬が終わるまでの間、仕方なくアスラ王国の情報収集を優先していた。
(シルフィエット様……守護術師フィッツの存在が確認できませんね……)
そこで気になったのが、アスラ王国でシルフィエットを見付けられなかったことだ。無論、リベラルは直接王国内に足を運び、自らの目で見た訳ではないので、確証は持てない。
それに、フィッツを名乗るシルフィエットの存在は、ある時期まで隠蔽されていたと記憶していた。だから、今はまだ表に出ていないだけだと考える。
少なくとも、アリエル王女が死亡したという話は聞いてないので、安心は出来た。
(ヒトガミの言う通り、パウロ様は剣の聖地にいました……シルフィエット様の転移位置が変わっていても可笑しくありませんが……)
既に、己の知る未来から変化している。転移場所まで分からない以上、皆の居場所を考えて仕方ないだろう。
そのことに関しての思考を止め、リベラルは目の前へと意識を切り替えていく。
「ご無事なようで何よりです。パウロ様」
そこには、怪我によって包帯などでグルグル巻きにされた、パウロの姿があった。
「お前はこれが無事に見えんのかよ……」
彼はどうやら剣の聖地の上空に転移したらしく、その際の落下で重傷になったようだ。しかし、近くに剣神流の門下生が数多くいたこともあり、手早く処置された。
その結果、事なきを得たらしく、完治するまで保護されてるとのこと。野蛮な者ばかりだと思ってた剣神流だったが、意外と優しい人たちが多いらしい。
くせ者は全て斬り捨てるイメージを持っていたリベラルとしては、ホッと安心な結果だ。
「おとうさん!」
「おお、ノルン!」
無事だったパウロに、ノルンは喜び抱き付く。本来であれば、感動的な場面なのだろう。
だが、ヒトガミの言葉でこの地に訪れたリベラルとしては、あまりその光景に喜ぶことが出来ず、難しい表情を浮かべながら見守っていた。
意図的に図られた再会。喜びよりも、警戒心が高まるばかりだ。
リベラルとノルンが剣の聖地に訪れてから、パウロと再会するまで、実にスムーズに事態が進んだ。
この地にいた門下生に、パウロを探していることを告げれば、アッサリと彼の元まで案内されたのである。どうにも、フィットア領で起きた転移事件自体は、冬が来る前に伝わっていたようだ。
フィットア領が壊滅した事実に、重傷のパウロは結構喚いていたらしく、保護したのはいいが結構迷惑だったらしい。とは言え、怪我人なので無理に追い出すことも出来ずにいたとのこと。
だが、迎えも来たようなので、さっさと帰って欲しいのだろう。雪も溶け始める時季ということもあり、丁度いいタイミングだったのかも知れない。
「パウロ様、怪我の具合はどうですか?」
剣の聖地に治癒魔術の使い手がいるのかは不明だが、パウロの怪我はあくまでも応急的な措置だ。それ以上のことはされてないように見えた。
なので、再会した二人のほとぼりが冷めるのを待ったリベラルは、機を見て怪我のことを尋ねる。
「まだ完治してる訳じゃないが、フィットア領に向かうぐらいなら大丈夫だろ」
「無理は禁物ですよ。仕方ありませんね、私が治しましょう」
「お、おう」
患部の状態を確認し、リベラルは治癒魔術でパウロの怪我を治していく。それが終わると、彼は包帯を外し、具合を確かめるかのように何度か手を閉じたり開いたりして、満足げに頷いた。
「……おし、大丈夫そうだな。すまんなリベラル、助かった」
「構いませんよ」
パウロはその場から立ち上がり、ストレッチをしたりと体を解していく。体の準備を整えた彼は、近くにいた門下生へと視線を向け、頭を下げる。
「ティモシーさんはいるか? 介抱してくれた礼が言いたいんだが」
「今は当座の間におられる。案内いたそう」
「そうか、頼む」
ここから出ていく以上、世話になった方々にお礼を言うのは当然だろう。ましてや、パウロは瀕死の重傷から助けられた身である。門下生たちもそれを当たり前だと思っているので、特に迷うことなく案内を承った。
「おとうさん! わたしもいっしょにいく!」
「おお、なら手を繋いで行こうか」
「うん!」
抱き付いたままのノルンに対し、快く了承したパウロは、チラリと申し訳なさそうな表情を浮かべながら、前にいる門下生へと視線を向ける。
「すまん、そう言うことなんだが……娘が一緒でも構わないか?」
「大人しくしていれば、大丈夫だろう」
「……では、私が騒がないように面倒を見ますよ」
結局、ノルンも一緒に付いていくことになったので、リベラルも共に向かうことにする。彼女としても、パウロを保護してくれていた剣神流の皆に、感謝を捧げる立場だ。だから、そのこと自体は気にしなかった。
しかし、ヒトガミのもたらした助言が、何度も頭を過るのだ。剣神流の総本山であるこの地には、リベラルを殺しうる存在がいる。
七大列強第六位――『剣神』ガル・ファリオン。
そして、その他にもいる剣帝や剣王も、リベラルを殺しうるだけの実力を秘めている。『光の太刀』を放てる剣聖も、リベラルを殺すことは可能だろう。気を抜けるような相手ではないのだ。
更に言えば、彼ら一同が揃ってるかも知れない場所に、お礼を言いに赴くのだ。行かなくてはならないことは分かっているが、正直、気が進まないのがリベラルの本音だった。
十中八九、ヒトガミの使徒も混ざり込んでいるだろう。誰が敵なのかは現時点では不明だが、戦闘になる可能性はある。
考えれば考えるほどに、リベラルは行きたくなくなった。
だからと言って、行かない訳にもいかないが。
「暫し待たれよ」
やがて、当座の間に辿り着いた門下生は、保護していたパウロが出ていく旨を伝える為に一人中へと入っていく。
それを確認したリベラルは、懐からスクロールを取り出し、何かを書き始めた。彼女の唐突な行動に、パウロは怪訝な表情を浮かべる。
「……何してんだ?」
「念のための準備ですね。もしもの想定をして、相手を無条件で無力化するための用意です」
「無条件って……滅茶苦茶だな」
「いえいえ、備えておくのは聖級の結界魔術です。闘気を霧散させることを主にしておきますので、魔術師がいれば何とか抜け出せるかもしれませんよ」
やがて、スクロールに記述し終えたのか、リベラルは床を剥がし、その下に設置した。
「おいおい……」
「魔術で綺麗にしますので、大丈夫ですよ」
「おねえさん! ものこわしちゃだめ!」
「ハハハ、ノルン様。バレなきゃいいんですよ」
「そうなの?」
「そうなのです」
「おい。俺の娘に変なこと吹き込むな」
他愛ないやり取りだ。実際にしていることと言ってることは大概だが、それでもほのぼのと平和的であろう。
けれど、ノルンがリベラルになついてる様子を見て、パウロはどこか複雑そうな表情を見せる。
「どうしましたか?」
「……いや、そう言えばノルンを保護してくれてたなって思ってな」
「まあ、一緒に転移しましたからね」
「そうか…………今更こんなことを言うのも何だが……ノルンを助けてくれてありがとう、ございます。リベラルがいなければ、きっとノルンは死んでたよ……」
唐突に、敬語で感謝の言葉を口にしたパウロに対し、リベラルは目をパチパチと瞬かせる。あまりにも突然過ぎて、どう反応すればいいのか分からなかったのだ。
「敬語、似合ってませんね」
「うっせえよ」
「ですが、まあ、ノルン様を助けるのは当然ですよ。感謝されるほどのことでもありません」
「だが、リベラルは俺の娘を助けてくれた。その事実に変わりないだろ。……だから、感謝“は”する」
何か含みのある言い方だったものの、パウロは本当に感謝しているのだろう。突然フィットア領から剣の聖地へと転移させられ、瀕死の重傷に陥った。更に、その状態でブエナ村が壊滅した報告を聞いたのだ。
恐らく、リベラルとノルンが現れるまでの間、気が狂いそうな時間を過ごしただろう。すぐさま飛び出して家族を探したいのに、探すことも出来ず、ただ傷を癒すために床に伏せるだけの生活。まるで、拷問のようだ。
だからこそ、当事者でないリベラルには、想像も出来ない。同情も出来ない。ただただ、その深い苦しみを、受け入れることしか出来なかった。
けれど、そう告げたパウロの表情は、どこか違和感のあるものだった。
「あー……なあ、リベラル」
「何ですか?」
「一つ聞きたいんだがよ、いいか?」
「エロいこと以外なら、構いませんよ」
歯切れ悪く、どうにも言いにくそうにしていたので、緊張感を解すためリベラルは軽い冗談を言う。その心遣いに、パウロは苦笑しながら改めて向き直った。
「以前に、ゼニスとリーリャに指輪を渡してただろ? 詳しく聞いてなかったが、あれって何だったんだ?」
「魔道具ですよ。魔力を込めれば、ちょっとした結界を張るものです。低位の魔物なら、破ることも出来ない代物です」
「……何で渡したんだ? 金欠金欠って言ってた割には、あれって結構高価な物だったよな?」
魔道具というものは、全般的に高価なものしかない。
リベラルがブエナ村にいた頃、彼女は金稼ぎという理由で、ボレアス家へ出稼ぎに行こうとしていた。その時、実際に金があったのかどうかはさておこう。
しかし、パウロの目からは、リベラルは金がないように見えていたのだ。当時はあまり疑問に思わなかったようだが、今にして思えば、リベラルが魔道具をプレゼントしたというのは疑問に思えたのだろう。
「何で渡したもなにも、プレゼントを渡すのはいけませんか?」
「いや、そう言うことじゃなくてよ……はぁ、まあいい。代わりにもう一つ聞かせてくれ」
「一つと言った割には、三回も訊ねてますが?」
「茶化すなよ」
真面目な表情を浮かべたまま、パウロは口を開き、
「別に、リベラルを疑ってるわけじゃねえんだけどよ……あー、あれだ。その、な?」
「私は逃げませんので、ゆっくりどうぞ」
「……すまんな」
言いにくそうに何度も躊躇し、
「…………もしかしてよ、フィットア領で起きた転移っておま――」
「お待たせした。パウロ殿、当座の間に進まれよ」
その台詞を言い切る前に、扉から門下生の男が現れる。タイミング良く準備が整ったようで、話しの流れが完全に途切れた。
パウロはもう一度訊ねようかと、何度か口をパクパクさせていたが、やがて口を閉じてしまう。
「……いや。やっぱ何でもねえ。気にしないでくれ」
葛藤してるかのような、そんな表情を隠すかのように顔を背けた彼は、そのまま扉の先へと進んで行った。その後に続こうと、ノルンがリベラルの腕を引っ張る。
「おねえさん、いこ?」
「……そうですね」
パウロが何を言いかけたのか、リベラルは理解した。あそこまで言われ、分からぬほど彼女は鈍くもない。
それと同時に、ここに来る前に抱いた、自分の予想が本格的に的を射てきてる事実に、小さな溜め息を溢す。断定はしてないが、恐らくそうなのだろうと、ほぼ確信に至っていた。
――ヒトガミの使徒はパウロだ。
ノルンをメッセンジャーとして利用した時点で、それは予想出来ていた。そもそも、ヒトガミの使徒とは誰もが成りうるものだ。
『信頼される呪い』を持つヒトガミは、信念や信じるものを持たぬ人を、容易に操ることが出来る。グレイラット家の人間も、その例から漏れない。
ルーデウスにはその呪いは通用しなかったようだが、 目先の利を取らせ続けることにより、最後の最後で騙されることとなった。
パウロは息子のような耐性を持たないのだ。リベラルとしても、彼を責めるつもりはなかった。
もちろん、パウロだけが使徒だとも思っていない。先程も述べたように、ここは剣神流の総本山だ。リベラルを殺せるだけの存在は、何人かいる。
(ハァ……我ながら安い挑発に乗ってしまいましたね……)
その事実にもリベラルはうんざりし、再度溜め息を溢した。
次回は剣神流の皆様と戯れる回です。
Q.おい最初……冬であること忘れてたって……。
A.ヒトガミはそのあたりのことも計算していたのかも知れませんね。なので、リベラルは剣の聖地に向かう際に、仕方なく情報収集しながら向かいました。
Q.冒頭唐突だな。
A.私の力量では、もっと最適な場面を作れませんでした。前書きで言ってた不満点ですね……。
Q.パウロ剣神流に保護されてたのか。
A.流石の彼らも、行倒れを放置するほど無情とは思いませんので。それに、フィットア領のことも耳にしますので、死にかけのパウロを雪の中に放り出すことはしないでしょう。多分。
Q.リベラル行くの嫌だったら待機しとけよ。
A.一応、使徒がいるかを確認しなくてはなりませんので。流石に使徒を放置はしません。もちろん、パウロも含めて。