無職転生ールーデウス来たら本気だすー   作:つーふー

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前回のあらすじ。

ヒトガミ「来ちゃった」
パウロ「ヒトガミ……一体何者なんだ……?」
リベラル「どうやら私は出稽古するようです」

今回は期待通り、とはなりませんかね……。ただ、変化の兆しを書きたかったのです。
しかし……戦闘シーンは他の場面に比べてスラスラ書ける。皆様には戦闘描写が良いのか悪いのか分かりませんが、一番何も考えずに書いていけるんですよね……。
パウロとガルに違和感があるのか分からなくなってしまったよ……。

※12月14日、ティモシーの妻の形見という記述を修正→ティモシーの妻との結婚記念品に変更致しました。


7話 『出稽古』

 

 

 

 当座の間へと入ったリベラルたちに襲い掛かるは、鋭い威圧感。今にも斬りかからんとする殺気だ。中で何を話し合ってたのかは不明だが、そこで引きずったままの重い空気が、辺りを支配していた。

 中へと入った三人の周囲には、剣聖以上の称号を持つ、剣神流の高弟たち。女子供がいようと、その緊張感を途切らせることはなかった。

 だが、そんな彼らの奥に、一人だけ弛い雰囲気を持つ者がいた。

 

 『剣神』ガル・ファリオンだ。

 

 彼は胡座をかき、肘をつき、呑気に欠伸を溢している。入ってきた三人のことなどどうでもよさそうに、流し目で見ているだけだった。

 実際に、興味などないのだろう。ただ、剣帝に介護してくれたお礼を言いに来ただけなのだから。ガルには関係のない話である。無礼な態度を取らぬ限り、気にも止めないだろう。

 

「おお、怪我は治ったのかパウロ」

「ああ、お陰様でな」

 

 気軽な口調で話し掛けてきたのは、剣帝ティモシー・ブリッツだった。彼とは介護されてる間に仲良くなったのか、パウロも気軽な応対をしていた。

 その空気に触発されたのか、周りの雰囲気も僅かに軽くなりつつある。

 

「もう帰られるのか?」

「迎えが来ちまったからな。それに、家族が心配でな」

「そうか……」

 

 ティモシーはパウロの言葉に、どこか落ち込んだ様子を見せた。リベラルにはそれが何故なのかは分からないが、恐らく介護中に何かがあったのだろうと考える。もしくは、何かがあったから介護してもらえたのか。

 リベラルはそのことが気になり、ちょんちょんとパウロの肩を叩く。

 

「剣帝様と随分親しいのですね?」

「ん? ああ、俺がここに転移した最初はよ、誰も手を差し伸べようとしてくれなかったんだよ。けどまあ、ちょっとした切っ掛けがあってな」

「切っ掛けですか?」

「ティモシーさんが無くしてしまった、妻との結婚記念品を偶々見付けてな。そのお陰で、態々世話してくれてんだ」

「結婚記念品……」

 

 色々と可笑しな話だろう。しかし、剣神流の者たちが、重傷を負っていたパウロの世話が嫌なのは理解できる。

 単純に面倒なのもあるだろうし、見ず知らずの他人を助けても見返りは薄い。人助けにこんな考えを持つべきではないのだろうが、パウロを助けても利益がないのだ。

 他の木っ端ならまだしも、剣帝がパウロの介護をしたのが不思議なのである。そして、重傷を負ってる筈のパウロが、どうして彼の大切な物を見付けられたというのか。色々と都合良く進み過ぎだろう。

 

 だからこそ、とても分かりやすい。

 ヒトガミがどのような介入をしたのか。パウロが使徒であることが、ハッキリ分かる。むしろ、あからさまだろう。

 

「…………」

 

 リベラルは何も言わず、一歩後ろへとさがった。しかし、次の会話でその動きはピタリと止まることとなる。

 

「ところで、パウロよ。そちらの女性が、よく話していた御方か?」

「まあ、そうなるな」

「ほお……何でも、彼女は『銀緑』だとか。ラプラス戦役でも有名な、龍神流の使い手だと」

 

 その台詞に、道場にいる者全ての視線が、リベラルへと向けられた。様々な感情が込められている。驚愕、猜疑、好奇、期待……彼らがリベラルのことをどう思っているのであれ、彼女へと意識が集中する。

 それに対し、リベラルはひきつった表情を浮かべることしか出来なかった。

 

 転移事件が起きた以上、リベラルとしてはその名を隠す必要はなくなった。しかし、だからと言って、容易に広めていいものでもない。

 少なくとも、自慢するために広めるつもりはなかった。名声として利用することはあっても、利用されるのはなしだ。厄介事にしかならない。

 

「……パウロ様?」

 

 なんとか開いた彼女の言葉に対し、

 

「すまん。良ければ稽古でもしてやってくれねえか? 俺じゃ、ティモシーさんに恩返しが出来ねえんだ」

 

 図々しくも、そう告げるのであった。

 そのことに、リベラルは頭を抱える。ヒトガミの使徒になると、性格が改変でもされるのだろうかと内心で思う。バカなのかと。アホなのかと。愚痴を溢したくなった。

 つまり、要約すると「俺の代わりに恩返し宜しく」ということだ。リベラルのことを何だと思っているのだという話だろう。

 

「頼む! 以前に約束しちまったんだ!」

「チッ……本人の了承も得ずにそんな約束しないで下さいよ……」

 

 苛立ちを隠さず、舌打ちしながらそう告げたリベラルに対し、パウロは狼狽えながらも「すまん」と口にし続ける。

 彼の様子は、本当に申し訳なさそうだ。不本意だと言いたげだった。普通ならば「ふざけるな!」と 怒り、取り合うこともしなかっただろう。しかし、ここまでヒトガミの介入があからさまであると、どのような態度を取るのが正解なのか、彼女には分からなくなった。

 

「ハァ……まあ、いいでしょう。お相手します」

 

 ヒトガミの狙いは、正確には分かっていない。

 だが、リベラルの予想では、グレイラット家との繋がりを切り離したいのではないかと考えている。あわよくば、ルーデウスをぶつけようとしている、とか。

 

 リベラルに対する猜疑心を与えることにより、徐々に敵対させようとしているのだろう。ヒトガミの視点でも、彼女がグレイラット家と仲良くしたいと言うのは分かる筈だ。恐らくそこに、ヒビを入れようとしている。

 リベラルが甘い性格のままならば、決してグレイラット家の人間を殺さないだろうと。だからこそ、予めノルンに助言を与え、リベラルの反応を知りたかったのだ。

 

 ――リベラルがグレイラットの人間を切り捨てるのかどうか、と。

 

「私が本当に銀緑なのか疑ってる方も多いでしょう。試しに、誰かどうぞ」

 

 その言葉に、周囲の者たちはざわめき、互いにどうするか顔を見合わせる。一人奥にいたガルも、興味深そうにリベラルを見ていた。

 やがて、一人の男が立ち上がり、道場の中央へと進み出る。それに合わせ、彼女も前へ進み出た。

 

「得物はどうなされる?」

「真剣ならまだしも、木刀相手なら無手で問題ありません」

「ほう……」

 

 開始の合図もなく、唐突に木刀は振り抜かれた。

 

 それは、彼女の言葉を挑発と受け取ったからかも知れないし、単純に彼がそうしなければ勝てないと感じたからなのかもしれない。

 男は剣聖だ。そして剣神流の剣聖は、全員が必殺技を放つことが出来る。『光の太刀』である。全ての闘気を注ぎ込むことで放つ、最速の一太刀。あらゆるものを両断する、防御不能の必殺だ。それがあるからこそ、剣神流は最強と謳われる。

 

 しかし、男の振るった木刀は、途中で止まっていた。

 リベラルの掌に、握られていたのだ。

 

「なっ……」

 

 寸止めをしたつもりはない。手加減したつもりもない。だが、男が感じたのは、何か柔らかいものに受け止められたような感覚だ。

 棒切れで布団を叩いたかのような、手応えの無さ。自分が握っているのは、本当に木刀なのかと錯覚してしまう。けれど、その瞬間に男の体勢は大きく崩れ、投げ飛ばされていた。

 男はすぐに立ち上がるも、手にしていた筈の木刀はなかった。代わりに、目の前に突き付けられる。

 

「……参った」

 

 男は、悔しげにそう呟いた。

 

 

――――

 

 

 龍神流とは、ヒトガミを打倒するため、ラプラスが作り出した流派だ。

 世界のあらゆる技術を取り込み、その後、改良点を加えて世に伝える。そして再び取り込み、世に伝える。その繰り返しの果てに、高純度な上澄み(技術)が残るのだ。

 しかし、龍神流はとある男がその名を継承したことにより、大きな変化がもたらされる。

 

 三英雄が一人――『龍神』ウルペン。

 

 歴代最弱と蔑まされた彼の代から、龍神流は更なる飛躍を見せた。それまでは魔力を大幅に使う技が多かったのだが、彼の編み出した龍神流は、魔力を極力使わずに、相手を追い詰めるものだった。

 そして、魔力を使わない、と言うことは、闘気すらも極力扱わぬ、純粋な『技』だけが研ぎ澄まされる。その果てに、龍神流の真価が生まれた。

 

「おお、お見事……」

「これが龍神流か……」

 

 最初は、悔しげな者が多かった。

 しかし、いつしか彼らの表情は変わり、彼女の技に感嘆し、賞賛し出す。

 

 リベラルの動きは、常に最小限だ。余分な力はなく、間を見極め、相手の力を利用する。決して彼女の動きが速い訳ではない。しかし、それでも彼女の方が速い。

 何故か?

 無駄な動きがないからだ。

 最速に追い付くため、リベラルは常に最短を先取っていた。

 

 合理。まさに合理だ。

 彼女の戦いに、その場にいた多くの者たちは素直に認める。それと同時に、その技を己の糧にしようと、目を離さなかった。

 

「では、次は私がお相手致そう」

 

 ここまで見せ付けられれば、彼らもリベラルが『銀緑』であることを納得したのだろう。剣帝ティモシー・ブリッツが前に出て来ても、誰も文句を言わずに見守っていた。

 ティモシーは奥にいる剣神へと視線を投げやり、自分が戦ってもいいか訊ねる。それに対し、ガルはニタニタとした獰猛な笑みを浮かべ、頷く。

 

「ティモシー、どうにかしてソイツの本気を引き出してみろ。俺様の予想が正しけりゃあ、面白いもんが見れるかも知れねえ」

「本気……? 師匠、彼女はまだ本気ではないと?」

「お前なぁ……ソイツは素手で戦ってんだぞ? 本気な訳ねえだろ」

 

 リベラルはずっと素手で、彼らの相手をしていた。しかし、それでも彼女は圧倒していた。単純に、技量に差がありすぎたのだ。武器を持つまでもないとは、正にこのことだろう。

 まだまだ隠し持ってるものがあるのかと、ティモシーはブルリと体を震わせる。底知れぬ相手を前に、己の勝つ姿を想像できなかった。

 しかし、それでも戦わせてもらおうと笑う。

 

 リベラルは紛うことなき達人だ。そして達人の動きには、合理性がある。

 彼女は剣神流の『光の太刀』のような技を使うことなく、ただ“行動の選択”で最適解を選んでいるのだ。派手な技もなく、詰め将棋のように一手ずつ追い込んでいくもの。

 ならば、その動きを見極められれば、己はまた一歩精進出来るだろう。

 

「…………」

「では……尋常に!」

 

 気合いを入れるかのように宣告し、ティモシーは居合いの構えで間合いへと足を踏み込んだ。その瞬間に『光の太刀』を振るい、彼にとっての最速最短を選択した。

 それに対し、リベラルはほんの僅かに体を逸らすことによって、木刀は彼女の服を掠りながらも空振る。

 

「フンッ!」

 

 かわされるのを予期していたのか、ティモシーは木刀を振り抜くことなく、返す二の太刀を振るっていた。こちらも『光の太刀』だ。

 剣帝まで登り詰めた彼だからこそ、二連続の必殺を放てた。あらかじめ準備していたということもあるが、それでも放てたのはティモシーの才能と努力故と言えるだろう。

 

 リベラルはそれに反応出来ていないのか、対応が一手遅れていた。何かをしようとしていたが、それよりも確実に、彼の一太刀の方が速い。

 放つは『光の太刀』故に、回避も防御も意味をなさない。彼女は選択を間違えたのだ。

 

(今更何をしようと間に合わんッ!)

 

「『(マロバシ)』」

 

 気付けば、ティモシーは床に倒れていた。

 

 二の太刀を放ち、リベラルに一撃を加えた……と確信したところまでは覚えていたが、そこから何が起きたのか分からなかったのだ。意識が一瞬飛んでいた。

 唖然とした表情を浮かべて体を起こせば、無傷のリベラルが彼を見下ろし、奥では剣神が笑っていた。

 その光景に、己は負けたのだと悟る。

 

「……参った」

「連続で『光の太刀』を放てるとは、私はどうやらティモシー様のことをお見逸れしておりました……もう少しで、こちらがやられておりましたよ」

「嫌味では、なさそうだな」

「もちろんですよ」

 

 小さな吐息を溢し、立ち上がったティモシーは一礼して下がっていった。その光景を見ていた周囲は、よりざわめきたつ。

 

「なんだ今のは……?」

「見えたか?」

「いや、何が起きたのか分からなかったぞ……」

 

 困惑する彼らの声を無視し、リベラルは二人の元へと戻る。パウロも周囲と同様に、ポカーンと呆けた表情を浮かべていた。まさか、ここまで凄いとは思わなかったのだろう。

 逆に、ノルンは父親とは違い、純粋な目を向けて喜ぶ。

 

「勝ちましたよノルン様。いえーい!」

「おねえさんのかちだ! いえーい!」

 

 手のひらを向けたリベラルに、ノルンはその意味をいまいち理解してなかったものの、真似をしてハイタッチを交わした。

 それから彼女は、優しくノルンの頭を撫でながら、隣にいるパウロへと視線を向ける。

 

「どうですか? パウロ様もやります?」

「い、いや……遠慮しておこう」

「そうですか、残念です」

 

 パウロの性格からして、リベラルと剣神流を戦わせるような真似はしないだろう。少なくとも、今回の件は不自然だった。きっと、ヒトガミから「リベラルと剣神流を戦わせて欲しい」とでもお願いでもされたのだろう。

 だから、リベラルは他にもヒトガミの使徒がいると考えていた。しかし、今のところ彼以外にそうだと思える人物を発見できずにいたのだ。

 

 ならば、単純にリベラルの戦闘力をより明確にしたいが為に、パウロに今回の件を頼んだのかと考える。山賊や盗賊たちよりも、遥かに手強かったのは間違いない。

 だが、もしそうだったとしても、全く本気を出していないので、ヒトガミの思惑は失敗した訳だが。純粋な地力だけで戦ったので、何が出来るのかなんて結局分からず仕舞いだろう。

 使った技も、ひとつだけだ。引き出しはまだまだ沢山温存できている。

 

 そこまで思考したところで、笑っていた剣神が拍手していた。

 

「ハァッハッハッハー! なるほど、確かにお前は『銀緑』だ。龍神流の使い手なだけはあんな!」

「まあ、伊達にラプラス戦役を生き抜いてないってことですよ」

「そうかそうか……一つ聞きてぇんだけどよ。お前、オルステッドと知り合いか? 戦い方がやけに似てやがるぜ」

「オルステッド様ですか? 生憎、名前しか知りませんね。現在の龍神とは会ったことがないのですよ」

「ってことは、ウルペンも同じ様な戦い方ってことか。なるほどなぁ……」

 

 愉快そうにクツクツ笑うガルは、やがて剣を手にしながら立ち上がる。

 

「龍神流ってのは、三大流派を取り込んでやがるな? 水神流の奥義なんて使いやがってよ。お前といいオルステッドといい、どこでそんなもん覚えてやがんだ……」

「流石に、剣神様なら『(マロバシ)』のことも知っておりましたか」

「当たりめぇだ」

 

 剣神はそう言いつつ、ゆっくりと剣を抜く。刀身が金色に輝くその剣を。

 剣神七本剣が一つ。魔界の名工ユリアン・ハリスコが、王竜王カジャクトの骨より作り上げた48の魔剣の一つ。魔剣『喉笛ノドブエ』。

 剣神が魔剣を、だらりとぶら下げるように持った。気合い十分殺る気満々だ。周囲にいた者たちも、息を飲む。

 

 けれど、リベラルはその光景に顔を顰めた 。

 

「何ナチュラルに本身を取り出してるのですか。嫌ですよ、剣神様とガチバトルなんて」

「なんだよ、ビビってんのか?」

「そりゃビビってますよ……流石に貴方の太刀を素手で受け止められる自信はありませんし……」

 

 白ける台詞を宣ったリベラルに、ガルは小さな溜め息を吐く。

 

「俺様としちゃあよ、そこにいるパウロって男のことなんざどうでも良かったんだよ。テメェ等が勝手に世話して、勝手に出ていくだけだ。興味なんざねぇ」

「はぁ……」

「だがな、お前は別だ。態々遠くからパウロを迎えに来てご苦労さん、って感じだったがよ、ちょっとばかし好き勝手しすぎだ」

「好き勝手、ですか?」

「お前はこの場にいる剣聖から剣帝まで、全員のしちまったんだぜ? 事情はどうあれ、それは事実だろ」

「……まあ、そうですけど」

「なら……なぁ? 剣神である俺様が出張るのも、当然だろ?」

 

 元々は、パウロが勝手に約束し、リベラルが巻き込まれた形だ。しかし、ガルはそんなことは関係ないと言う。どんな理由だろうと、やったのはお前だと。

 別に、リベラルはそれが間違ってるとは思わないし、反論する気もなかった。落としどころを見送り、ずっと戦ったのだから。

 そう。まだ、剣神が使徒であるのか確認出来ていない。多少流されたところはあれど、そのことを確認するには今が最適だ。

 

 リベラルは魔眼を開眼した。

 

「分かりました。ですが、その前に私からも一つお尋ね……いえ、この場にいる皆様に尋ねたいのですが、構いませんか?」

「なんだよ?」

人神(ヒトガミ)、という単語に聞き覚えのある方はおられませんか?」

 

 辺りを見回し、全員の反応を確認する。

 

「ヒトガミ? 何だそりゃ、知らねぇな」

 

 魔眼によって、普段よりも些細な動きすら鮮明に読み取れるリベラルだったが、反応を見せたのはパウロだけだった。他の者たちは、不思議そうに顔を見合わせるのみだ。

 僅かな心臓の高鳴りすら察知出来るのだが、その生理的な反応すらなかった。ということはつまり、この場にいるヒトガミの使徒は、パウロだけと言うことだ。

 

(ふむ……予想が外れましたね。一人くらいいると思っていたのですが……)

 

 考えていた結果と違っていたことに、リベラルは首を傾げる。しかし、いないのであれば、それに越したことはないのだ。

 魔眼を閉じた彼女は、すぐに目の前へと意識を切り換え、剣神を視界に映す。彼は、既に殺気立っていた。

 

「いえ、知らないのであれば結構です」

「あ、そう」

 

 ガルは大上段に構える。相手の理合を崩し、より前へと攻める者に向いた、攻撃型の構えだ。

 己の技と剣に絶対の自信を持つ、彼らしい構えと言えよう。

 

「よし、行くぜ」

「…………」

 

 それに対し、リベラルは構えを解いた。怪訝な表情を浮かべる剣神は一歩前進するが、彼女は合わせるかのように一歩後退する。

 リベラルは龍神流の使い手だが、龍神流の全てを扱える訳ではない。残念ながら、扱えないものが幾つかあるのだ。

 

 その内の一つが『龍聖闘気』。

 ウルペンの龍神流最大の奥義だ。

 

 剣神ガル・ファリオンですら「反則みてえな防御力」と言わしめ、ルーデウスの帝級威力の岩砲弾ですら、かすり傷を負わせることしか出来ない最強の闘気。リベラルは、それを纏うことが出来ない。

 故に、無手の彼女は本身を持った剣神に対して、近寄らない。流石のリベラルでも、彼の太刀を受け止めることが出来ないからだ。

 だが、やりようは幾らでもある。

 

「ここからは龍神流ではなく、私の戦い方で行かせてもらいます」

「あん? なにを――」

 

 言葉を紡ぐ前に、剣神へと衝撃波が襲い掛かる。リベラルが無詠唱で魔術を使ったのだ。

 予想外の攻撃に不意を突かれた彼は、しかし、軽く後方に吹き飛ばされながらも綺麗に着地し、すぐさまリベラルへと走り出そうとした。

 

「降参します」

「は……?」

 

 突拍子な行動は、相手の思考を停止させる。人とは誰しも、想定外な出来事に弱いものだ。

 だからこそ、ガルは思考を制限されることとなる。

 

「それを許す訳なんざねぇだろ!」

「じゃあ、逃げます」

 

 リベラルが入口へと背を向けて逃げ出すのを見て、彼は怒りに顔を歪めた。

 

「テメェ……! 待ちやがれ!」

 

 逃げ出す相手がいれば、本能的に追い掛けたくなるものだ。そして、突拍子な行動によって思考が制限されていたガルは、無意識のうちに理性よりも本能を優先した。

 彼は、リベラルを追い掛けてしまった。

 

 困惑する門弟たちだったが、リベラルが事前にとある準備をしてる場面を見ていたパウロは、その行動の意味を理解した。

 入口の近くに、結界魔術が用意されているのだ。彼はそれを知っている。

 

 

――――

 

 

 敵わないと思った。

 けれど、越えたいとも思った。

 

 彼はオルステッドとの邂逅を、今でも覚えている。その時に受けた衝撃を、まさかこのようなタイミングで再び受けるとは思っていなかった。

 

(……おいおい、逃げるとかねぇだろ?)

 

 ガル・ファリオンは、リベラルをオルステッドと重ねて見ていた。それは、二人の戦い方が酷似していたからだ。三大流派を扱い、更には詰め将棋のように相手を追い詰める合理性。

 かつてオルステッドと戦ったことのある彼が、重ねて見ない訳がないだろう。だからこそ、リベラルと戦えることに歓喜していた。

 

 ――頂きに近付けるかも知れねぇ、と。

 

 銀緑との戦いは、オルステッドを越えるための踏み台だ。己が前へと進むための礎。

 リベラルと戦い、本当に勝てるかなんて分からなかった。オルステッドと同程度ならば、きっと勝てないかも知れねぇ、なんてことすら思ったりもした。

 

 ガルは、リベラルに対して盲目的になっていたのだ。

 

「――逃げてんじゃねぇよ!」

 

 平常時の彼であれば、リベラルの行動が誘いであることに気付けただろう。彼女の行動は、些か突発すぎる。

 けれど、オルステッドという幻影を見ていたガルにとって、リベラルの行動は許せなかった。あれほどの力を見せ付けて置きながら、背を向けるな、と。

 リベラルはリベラルで、剣神が己とオルステッドをそこまで重ねていたことは知らなかった。しかし、挑発の意味を込めて、門下生たちを相手にしたのだ。

 

「アッサリ釣れましたね……」

 

 リベラルは剣神と龍神の因縁など、ほとんど知らない。けれど、挑発のために落としどころを無視して、門下生たちと戦った。

 剣神は、リベラルをオルステッドと重ねて見てしまった。龍神の戦い方を知っているからこそ、そんなことはしないだろうと選択肢を除外してしまった。

 

 その結果が、これだ。

 剣神は、呆気なく結界に捕らわれた。




Q.パウロと剣帝。
A.母親亡くなってる設定は独自ですね。ジノのお母さんは原作で一度も出てきてなかったと思うので、そうしました。もしも原作でジノの母親の描写があれば、修正してティモシーの無くした宝物を見付けたということにします。
……勝手に殺してごめんね!
↑上記の設定を修正したので、記念品に変更となってます。まあ、これも全てヒトガミのせいと言うことで……。

Q.パウロ恩返しをリベラルにやらせるとか、自分勝手過ぎだろ。
A.きっと、そうするようにと神様からのお告げがあったのでしょうね。神の指示じゃ仕方ない。

Q.何かみんなリベラルの実力認めすぎじゃね?そんな凄くない気がする。
A.原作での対オルステッドを参考に書きましたが、そう感じたのであれば私が未熟と言う他ありませんね。
剣神以下の皆さんは、彼女の精錬された動きに格上だと認めてしまい、ガルはオルステッドとの戦いを思い出しただけですね。

Q.ガルさん呆気ないよ……。
A.け、剣神流は喧嘩っ早いから……。
それはさておき、作中でも書いたようにオルステッドと姿を重ねすぎた弊害ですね。リベラルを相手にしてるのに「オルステッドはそんなことをしない」という先入観を持ってましたので、アッサリと引っ掛かったのです。
まあ、次回で反省してくれますよ、きっと。
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