無職転生ールーデウス来たら本気だすー   作:つーふー

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前回のあらすじ。

人神「君の家族を探せるのは僕だけだよ。だから言うこと聞いてね」
パウロ「くっ、仕方あるまい」
エリナリーゼ「何か唐突に泣き付かれましたわ」

いやぁ……見事なまでに遅れてしまいましたね。あらすじにもちょっと記載しましたが、執筆の手が全く進まないこと。細かいやり取りが上手いこと思い付かないし、上手く書けない。
何か、時間掛かってる割に雑なところが多いような気がしてままなりません。文章とか展開とか。時間を掛ける=丁寧という訳ではありませんからね……。

遅れて申し訳ございません。
最近、同じ内容の謝罪しかしてませんね……。


10話 『必要なのは当たり前のこと』

 

 

 

 割り切ることは、出来た。

 

 目の前にいるのはロステリーナではなく、エリナリーゼ・ドラゴンロードであると。今はもう、別人なのだ。

 だから、ラプラスとの約束を忘れているのであれば、思い出すのを待つだけだった。龍族の宿命に、彼女は本来関係のない立場なのだから。

 故に、思い出すのか出さないのか、そして約束を果たそうとするのかしないのか、その時になるまで、見守ることにした。

 それがいつになるのかは分からない。でも、大丈夫だ。

 

 リベラルは、待つことに慣れているのだから。

 

 

 ――そう、決めたのに……。

 

 

――――

 

 

「……なるほど。いなくなった貴方の妹と、わたくしが瓜二つだったと。それで、つい泣いてしまったのですわね」

「ええ、お見苦しいところ見せて申し訳ございません……」

 

 リベラルの事情を訊ねたエリナリーゼは、どうして唐突に泣き出したのかを納得する。人違いでそのような姿を晒したことは醜態かも知れないが、それを笑ったりするほどエリナリーゼとタルハンドは嫌な人間ではない。

 ましてや、ここは難民キャンプだ。リベラルと似たような人たちも、数多くいるだろう。馬鹿に出来るわけがない。

 

「それで、お前さんはパウロの友人なのじゃな?」

「ええ、まあ、先ほど喧嘩してしまいましたが……」

 

 タルハンドの質問に、リベラルは暗い表情を浮かべながら答える。そのどんよりした雰囲気に反応するのは、エリナリーゼだった。

 彼女は憤慨してるかの様子で、リベラルの肩を掴んだ。

 

「喧嘩、ですの? どうせパウロが悪いことでもしたんでしょうし、貴方が気にする必要なんてありませんわ」

「いえ、別にそうでもないですけど」

「パウロを庇う必要なんてありませんわ。あの男はロクデナシですし」

「同感じゃ。あの男はろくなことをせん」

 

 元パーティーメンバーに陰でボロクソ貶されてるパウロだが、リベラルとしてはその言葉に頷くことは出来ない。

 そもそも、今の彼は平常時とは違い、家族が被害にあっている。更にはヒトガミもちょっかいを掛けてるのだ。

 リベラルが悪い部分も多いのに、そんな状態のパウロを悪く言うことなど出来なかった。

 

「どうするのじゃ? やはり、パウロと会うのは止めておくかの?」

「そうですわね。元パーティーのよしみで助けて上げようかと思ってたけど、こんな綺麗な女性と喧嘩するくらいですわ。どうやら、必要なさそうですわね」

「いやいや、何を言ってるのですか。今のパウロ様は心身共に参ってるので、お二人からも声を掛けてあげて下さいよ」

 

 折角ここにやって来たのに、そのまま踵を返して去ろうとする二人を、リベラルは慌てて引き止める。どこまで本気なのかは不明だが、二人の表情は心底呆れてるものだったのだ。

 リベラルとしては、もう一度パウロと話をしてどうにか和解しようと考えている。しかし、本当にちゃんと話し合えるのか、あまり自信がなかった。激情のまま拒絶され、何も話すことなく終わってしまいそうな、そんな不安だ。

 だが、パウロと元パーティーの二人がいるのであれば、少しくらい気持ちも落ち着かせてくれるかも知れない。そんな気軽な気持ちだった。

 けれど、二人は首を横に振る。

 

「そうは言ってもの、わしらもパウロとは喧嘩別れしておるのじゃ。あまり話すこともないわな」

「私もパウロと会ったところで、罵倒するだけになりそうですわ」

 

 だったら、どうしてここに来たんだと言いたかったが、

 

「私、ゼニスのために来たんですもの」

「同じく、わしもじゃな」

 

 アッサリそう告げた二人に、リベラルは口を閉じてしまう。元パーティーメンバーの問題に、彼女は何の関わりもないのだ。そう言われてしまえば、割り込むことも出来ないだろう。

 詳しい事情は何も知らないし、二人がどうしてそこまで怒っているのかも知らない。

 

「そう、ですか」

 

 なので、リベラルは二人を強く引き止めることも出来ず、静かにそう呟くだけだった。

 残念ながら、強制なんて出来ないのだ。仮にパウロと会うことになったとして、それが嫌々であれば意味などない。余計に話が拗れるだけだろう。

 

「でも、貴方を見て気が変わりましたわ」

 

 しかし、エリナリーゼは悪戯っぽい顔を浮かべ、顎に指を当てる。

 

「貴方のような綺麗な女性を怒らすんですもの。ちょっとくらい、文句でも言ってやりますわ」

「ですが……」

「ですがもヘチマもありませんわ! ガツンと一発言ってやらないと、パウロは調子づきますのよ?」

 

 有無を言わさず手を取るエリナリーゼに、リベラルはまともに応対出来ずに引っ張られていく。

 その状況に、彼女はどこか懐かしさを覚えていた。けれど、思い出すことが出来ずに首を傾げる。

 

「タルハンド。貴方はどうするんですの?」

「わしは遠慮しておく」

「そう、それは残念ですわ」

 

 そのまま手を引っ張り、難民キャンプの外にズンズンと出ていくエリナリーゼに、リベラルは既視感があった。昔にも、同じようなことがあった筈なのだ。

 そんな思いに引かれ、何となく口を開いてしまう。

 

「……やっぱり、パウロ様と顔を合わせるのが気まずくなってきました」

「いきなり何ですの?」

「いえ、ただ……何を言えばいいのか整理出来なくて」

 

 その言葉を聞いたエリナリーゼは、歩を止めた。それと同時に、リベラルの足も止まる。

 向き直ったエリナリーゼの表情は、今にも溜め息を吐きそうな、残念そうなものだった。実際に「ハァ」と息を溢し、彼女はリベラルの胸を軽く押す。

 

「貴方の気持ちを、思うままに伝えればいいんですの」

「思うままに、ですか?」

「そうですわ。ウジウジ悩んだところで、意味なんてないですもの」

 

 あっけらかんとそう告げるエリナリーゼに、リベラルはかつての面影を見た。

 

 

「言葉にしなければ、伝わりませんのよ?」

 

 

 それは、同じだった。昔となんら変わらぬ笑みを浮かべる彼女(ロステリーナ)が、そこにいたのだ。

 ああ、そうかと、一人心の中で納得する。

 記憶を失ったとしても、彼女の根底は何も変わってなどいないのだ。リベラルよりもずっと純粋で、真っ直ぐな心を持ったままだった。エリナリーゼは、ロステリーナのままである。

 

 それと同時に、先ほどから覚えていた既視感が何だったのかに気付く。

 

(……あの頃と一緒、ですね)

 

 かつて、龍鳴山で過ごしていた時にあったことだ。転生者であることを父親(ラプラス)に知られ、互いに距離が出来てしまった時と似ている。

 リベラルはリベラルで上手く言葉にすることが出来ず、ラプラスに殺されそうになって。ラプラスはラプラスで、直情的に行動を起こしてしまって。

 そんなどうしようもない二人の架け橋になってくれたのが、目の前の女性だ。

 

 リベラルは、同じ失敗を繰り返してる。

 過去と同じ過ちをしていた。

 

 家族を見付けたいパウロに、ろくな言葉を掛けずに自分の要求だけを通そうとして。そんなもの、拒絶されて当たり前だろう。

 父親(パウロ)なのだから、必死になってるのだ。それなのに、自分勝手な目的を押し付けたのだ。パウロが怒って当然だった。

 

 泣きたくなった。

 自分の仕出かしたことに気付いて。

 怖くなった。

 私は本当に許されるのだろうかと。

 

 けれど、そんなリベラルを励ますかのように、エリナリーゼは言葉を紡ぐ。

 

「どういう経緯であれ、お話をしなければ始まりませんわ。それこそ、死ななければいつでも出来ますのよ?」

 

 そう、そんな当たり前のことだった。

 

 けれど、リベラルはそんな当たり前のことを忘れていた。そして、エリナリーゼはそれが当たり前だった。

 恐れてはならないのだ。互いにどんな言葉を交わしたのであれ、それで全てが終わる訳ではない。伝えたいことは、ちゃんと伝えねばならぬ。

 そして今回が駄目であったとしても、その次に何度でも話し合えばいいのだ。

 

(本当に、ロステリーナ……エリナリーゼは凄いですね……。それに比べ、私はダメダメですよ)

 

 昔から、変われていない。そのことが悲しくて、悔しくて、投げ出してしまいそうになるけれど、だからこそ前に進まなくてはならないのだ。

 パウロの気持ちを、リベラルは理解してるつもりだった。けれど、全く出来てなかった。ちゃんと向き合い、互いに認識し合わなくてはならない。

 落胆の溜め息が溢れる。どうして己はこんなにも駄目なのだろうかと。だが、そんな自己嫌悪に意味などないのだ。自分に足りないものを理解した上で、向き合わなくてはならない。

 

「……ありがとうございますロステ……()()()()()()。パウロ様とはしっかり言葉を交わします」

「どういたしまして。それでよろしくてよ」

 

 また同じようなことを繰り返すかも知れない。上手くいかず、どうすればいいのか分からなくなる時もある。

 だけど、その度に思い出せばいいだろう。

 

 

 ――言葉にしなくては、伝わらないのだと。

 

 

「吹っ切れたようですし、そろそろ行きますわよ」

「そうですね」

 

 エリナリーゼと共に歩み出したリベラルの瞳に、一切の不安はなかった。

 

 

 

 

「……ところで、パウロはどこにいますの? 勢いに任せて適当に向かってしまいましたわ」

 

 その言葉に、リベラルは思わずずっこけてしまった。

 

 

――――

 

 

 人伝に探すことしばらく。二人がパウロを見付けた場所は、本営の奥の部屋であった。どうやら生還していたフィリップと話し合っていたようで、中では席を挟んで向き合っていた。

 そしてその部屋の隅で、辺りを警戒するように立っている獣族の女性が一人。ギレーヌ・デドルディアも、そこにいたのである。

 パウロとギレーヌは、部屋へと入ってきた二人に目を見開く。そして、ギレーヌは小さな笑みを、パウロは剣呑な雰囲気となった。

 

「……うん? リベラルと……君は誰かな?」

 

 エリナリーゼのことを知らないフィリップだけは、キョトンとした表情を浮かべていた。だが、パウロは制するように手を出し、その場から立ち上がる。

 

「俺の元パーティーメンバーだ。気にすんなフィリップ」

「……そうかい。ならば、気にしないでおくよ」

 

 パウロの言葉に、フィリップはアッサリと引き下がった。そのまま深い溜め息を溢し、天上を喘ぐ彼の姿に、城塞都市ロアの町長としての貫禄は微塵もない。ただ、疲れ果てたかのように、諦観に満ちた暗い表情を浮かべるばかりだ。

 フィリップへと声を掛けようかと思っていたリベラルだったが、その姿を見て口を閉じる。あまりにも暗く、声を掛けられなかったのだ。

 

 そんな彼を他所に、パウロはエリナリーゼとリベラルを見比べ、苛々した表情を浮かべている。まるで「今はお前らに構ってる暇はない」と言わんばかりの空気だ。

 しかし、エリナリーゼはそんな空気を気にすることなく、一言声を掛けた。

 

「パウロ。付いて来てくださいまし」

「ちっ……分かったよ」

 

 外へと促す彼女に、パウロは渋々といった様子で付いていく。久方振りの再会とは思えぬ程、物々しい雰囲気であった。

 しかし、それは二人だけのようで、エリナリーゼがギレーヌへとウィンクすると、彼女は「フッ」と小さく笑う。パウロとは違い、信頼感のあるちょっとしたやり取りであった。

 

「隣の部屋を使うといい。今は誰もいない。積もる話もあるだろう」

「あら、感謝しますわギレーヌ。と言っても、私は何も話すつもりがないんですの」

「そうか」

 

 何てことを言いつつも、エリナリーゼは示された部屋へと入っていく。パウロとリベラルもその部屋へと入り、扉を閉めると、彼女は向き直った。

 

「パウロ。私からは一言だけですわ」

「……何だよ」

 

 互いに邪険な態度を取り、空気はピリピリと張り詰めて、一触即発となる。しばらく沈黙が続き、二人は睨み合う。

 だが、ふとエリナリーゼは小さな溜め息を溢し、肩の力を抜いた。それと同時に、重たい空気はパウロだけのものとなる。

 

「と、思いましたけれど、やっぱりいいですわ」

「あ?」

 

 まるで、呆れてるかのような、哀れむかのような、そんな表情だった。彼女はそのまま歩み出すと、パウロの横をすり抜け、扉へと手を掛ける。

 

「呼び出しておいて、なんなんだよお前は?」

 

 しかし、唐突にそのような反応を見せられれば、当然ながらパウロはより不機嫌となる。再び唾を吐き捨て、苛立ちを募らせた。

 そんな彼に対し、エリナリーゼは哀れむように呟く。

 

「私に今のあなたの気持ちは分かりませんわ。でも、パウロ……貴方がそこまで追い詰められてるのは、初めて見ましたもの」

「ハッ、見たことないほど俺が焦ってるから、やっぱりいいってか? 同情してんのか?」

「ええ、そうですわ。今のあなたは、とても見てられませんわ……」

 

 昔のパウロを知ってる彼女からすれば、今の姿は苦痛でしかなかった。

 二人で何度も馬鹿をやらかし、それを見てギレーヌは尻尾を振っていたり。互いに男と女を捕まえ、部屋に連れ込んだり。

 くだらないけれど、楽しかった記憶だ。出来るのならば、もう一度あの頃のようにやりたいとも思っている。当時のパウロは、常に自信に満ち溢れていた。

 もちろん、彼の家族が災害に巻き込まれてることは知っている。落ち込んでいるであろうことも。けれど、それでももう少し精神的に落ち着いてると思っていたのだ。

 昔であれば、きっと「なに、全員すぐに見つかる」と楽観的に自分を励まし、視野を広くして最善を尽くすだろう。

 だが、今のパウロは駄目だ。見るからに焦燥し、一切の余裕がない。追い詰められても飄々としてる男なのに、冷静さが微塵も見えないのだ。

 

 流石のエリナリーゼも、空気を読むことにした。今のパウロに、パーティーが解散する原因となった昔のことを怒れる筈もない。

 今は、そんなことで喧嘩する場面ではないのだ。

 

「パウロ。ここにはタルハンドも来てますわ。そして、あなたの家族を助けるために来てますの」

「………タルハンドも、来てんのか」

「ええ、あなたとゼニスの為に、ですわ」

「そうか……」

 

 ゆっくりと深呼吸をしたパウロは、やがてポツリと溢す。

 

「ありがとう、エリナリーゼ」

「どういたしまして、パウロ」

 

 そんなしおらしいパウロの様子に毒気を抜かれたのか、彼女も小さな溜め息と共にお礼を返していた。

 そして、そのまま扉を開こうとし、ふとその動きを止める。首だけを後ろに向けたエリナリーゼは、一言だけ呟いた。

 

「パウロ。家族とは大切なものですのよ。必ず見つけなくてはなりませんわ」

「当たり前だろ」

「でも、手段は選ばなくてはなりませんわ。形振り構わずだけは、絶対にお止めなさい」

「…………」

 

 言いたいことを言い切れたのか、エリナリーゼは「ごきげんよう」と最後に告げて、扉から出ていった。それを無言のまま見送ったパウロは、何かを考えるかのような仕草を見せ、やがてリベラルへと振り返る。

 エリナリーゼと会話したことによって苛立ちはなくなったのか、先程よりも幾分か平静な表情を浮かべていた。話をするにはこのタイミングしかないと思い、リベラルは口を開く。

 

「パウロ様」

「……なんだよ」

 

 彼の声は、固さを含んでいた。リベラルとの喧嘩はほんの少し前の出来事なので、それも仕方ないだろう。あまり時間も経過してないのだから、忘れてしまうようなものでもない。

 何をすべきか、どうしなくてはならないのか。そのことを踏まえ、リベラルはまず頭を下げた。

 

「先程は申し訳ございません。家族が行方不明になった者に対する態度ではありませんでした」

「……おう」

「理由はどうあれ、私は傷付いてるパウロ様に自分の主張を通そうとしてしまいました。その結果、とても不快な思いをさせてしまったでしょう」

 

 リベラルに謝罪に対し、パウロは腕を組んだまま見つめていた。二人は喧嘩しまったが、リベラルはそのことで真摯に頭を下げているのだ。

 どのような意図を持ってるのかを知るためにも、パウロは言葉の続きを待つ。

 

「……私はパウロ様と仲良くしたいです。少なくとも、ブエナ村で過ごした数年間は私にとって大切なものでしたので」

「ハッ、そうかよ……」

「今更この腕輪を外し、私のことを信じて欲しいなどと言うつもりはありません。それは烏滸がましいでしょう。ですので、ヒトガミについてお教えいたします」

 

 パウロに伝えるべきことは変わらない。ヒトガミとの関わりを、止めさせなくてはならないのだ。このまま使徒となれば、彼がどうなるのか想像に難しくないのだから。

 しかし、要求だけを押し通すのであれば、先程の二の舞となってしまうだろう。だから、ヒトガミのことをちゃんと知って貰わなければならない。その上で、パウロ自身が判断するのだ。

 リベラルの言葉を信じず、ヒトガミに従うのか。リベラルの言葉を信じ、ヒトガミと手を切るのか。全てを知った上で、判断すべきことだ。

 

「まず、私とヒトガミは敵対しております。実際に夢の中にも現れたこともありますね」

「…………」

「ヒトガミの手段は単純です。目先の甘言によって、後々自分に有効な布石を敷きます」

「……それだけなら、別に構わねえんじゃないか?」

 

 何となくそう呟いた彼に、リベラルは端的に返す。

 

 

「その結果、家族が失われるとしても、ですか?」

 

 その言葉に、パウロは口を閉じた。先程までの平静な表情は崩れ去り、再び苛立ちを募らせた表情へと変化する。

 しかし、彼が何かを言う前に、リベラルが先に話し出した。

 

「ヒトガミと戦って来た私は、使徒となった色々な人たちを見てきました。友人のため、恋人のため、金のため、名誉のため……その者たちは皆、求めたものを失っております」

「求めたものを、だと?」

「はい。友人のために使徒となった者は友人を失い、恋人のために使徒となった者は恋人を失い。そして絶望に暮れてるところに、奴は肩を叩いて言うのです。『ありがとう。君が馬鹿なおかげで、僕の思い通りに事が進んだよ』……と。性格もかなり酷いですね」

 

 気休めのように「もっとも、全員がそうなった訳ではありませんが」と告げたが、全く安心できる話ではないだろう。むしろ、パウロからすればその話が事実であれば、悲惨な未来が待ち受けることとなる。

 しかし、リベラルとの喧嘩によって信頼が失われてる今、その情報は不安を煽るものでしかなかった。嘘か真か不明だが、そのような話を聞いて無視できる訳がない。

 

 リベラルからしてみれば、ヒトガミにとってパウロとは、使い捨ての駒のようにしか見えないのだ。

 何をさせるつもりだろうと、ヒトガミからすればその程度の価値しかない。だからこそ、ヒトガミはあそこまで邪悪になれるのだと。

 

「…………」

 

 パウロにとって、その話はどうしようもないものだった。家族が人質に取られてるような立場なのだ。リベラルの話を聞いて、やはりヒトガミとはそうなのかと、納得してしまうほどである。

 だが、それとこれとは話が別だ。彼女の話を信じるにせよ信じないにせよ、パウロの取れる手段なんてないのだから。

 

「転移災害によって皆はバラバラになりましたが、ヒトガミの力ではすぐにどうこうなることはありません。必ず、段階を踏んで布石として繋げてきます」

 

 そんなことを言われたところで、どうしろという話だ。パウロには、今すぐ行方不明の家族を探す手立てがないのに。そんなことを言われても、困るだけなのだ。

 家族を助けるための手段が段々と失われていき、パウロに焦りが募る。苛立ちが募る。そんな話を、聞きたくなかった。希望にすがっていたかった。

 けれど、リベラルは構わずにずっと続ける。

 

「どちらにせよ、未来視を持つヒトガミを相手に先手を打つことは難しいです。読心術もありますので、夢の中に現れたりすれば、どんな作戦も台無しですからね」

「……うるせえよ」

「とにかく、ヒトガミと関わった大半が、ろくな目に遭ってませんね」

 

 やがて、その思いを抑えきれずに溢れ出す。

 

 

「――だったら! 俺はどうすりゃいいんだよ!!」

 

 

 再びパウロは、怒声を上げた。先程とは違う怒りだ。リベラルへの怒りではない。

 どうすることも出来ない理不尽なこの状況に憤慨し、世界を呪っていた。

 

「ヒトガミは家族を見付けられる。実際にノルンを見付けてくれた! けどよ、そのヒトガミは家族を害するかもしれない! なのに、俺だけじゃ家族を見付けられねえ!」

 

 パウロはもう、何を信じればいいのか分からなかった。自分の力で家族を見付けることが出来れば、ここまで悩むこともなかっただろう。

 だが、一人で探そうかと考える度に、脳裏に過るのだ。誰も見付けることが出来ず、家族の嘆きに苛まれる悪夢が。それが現実になりそうで怖くて、一人で助けることが出来なかった。

 

「なぁ、どうすりゃいいんだよ? 俺ぁ、どうすりゃ家族を助けられるんだよ……!」

「…………」

 

 咽び泣き、己の無力にパウロは涙した。

 いい歳した大人のその情けない姿に、リベラルは様々な想いに深く駆られる。

 

「誰か、助けてくれよ……」

 

 パウロの消え入りそうな声に、

 リベラルは目を開く。

 

「大丈夫です。貴方の家族は見付かりますから」

「気休めで言うんじゃねえよ……」

「いえ、気休めなどではありません」

 

 いつの間にかパウロの手を握り締めていたリベラルは、安心させるかのように彼を抱擁し、力強く宣言する。

 

 

「――魔龍王の名にかけて、貴方の家族を見付けてみせます」

 

 

 今まで、消極的にしか動かなかったリベラル。

 その彼女が、名誉を口にしてまで動き出す。

 それが意味することを知る者は、この場にはいない。

 

 転移事件は、彼女にとって必要なイベントだ。様々な理由がある。絶対に引き起こさなくてはならない様々な理由があるのだ。

 それは父親と交わした使命のためである。かつて“友人と交わした約束”のためである。そして、転移事件によって“死ぬ筈であった己が死なないため”である。

 全部、利己的な理由だ。何とも最低な女だろう。きっと、真実を知れば誰もが彼女を罵るだろう。

 

 リベラルには目的がある。

 けれど、それは一つだけではない。

 

 目的とは、基本的に複数持つべきものではないだろう。抱えた願いが多ければ多いほど、叶える為に相反する状況が出てくるものだ。そのせいで今現在、彼女の行動は既に中途半端となってしまってる。

 故に、リベラルは大切な存在を作ろうとしない。作ってしまえば、それは枷となり、更に目的から遠退いてしまうからだ。全てを抱えられるほど、彼女は強くも凄くもなかった。

 だが、自分勝手に物事を進め、大切なものを作らなかったお陰で、リベラルは目的に近付けている。ヒトガミの打倒も、後手に回っているように見えて実際には既に目前だ。

 パウロを助けようが助けまいが、それは揺るぎない。必要なものは揃っている。これは寄り道でしかないのだ。

 

 けれど、それでも、心に嘘を吐くことは出来なかった。

 

「私のことは信頼しなくても構いません。パウロ様は自分の思うままに行動してください」

「お前……」

「なので、もしも私が家族を保護すれば、その時はちゃんとヒトガミと手を切ってくださいね」

 

 本来であれば、彼らの家族を探す必要なんてないのかも知れない。そんなことをしなくても、勝手に生き延びてフィットア領に帰還するかも知れないだろう。

 けれど、これはリベラルの蒔いた種。彼女の我儘で起こしてしまった、不始末の後片付けだ。

 

「どうやって探すんだよ……?」

「そんなの簡単です。探す力を持つ者に頼ればいいだけですから」

 

 その人物には、過去に何度か出会ったことがある。龍鳴山から降りて初めて出会った存在。それから、オルステッドを捜すために力を借りたりもした。

 とは言え、オルステッドは理から外れる力のせいか、彼女でも、リベラルの能力でも見付け出すことが出来なかった。

 けれど、パウロの家族はオルステッドとは違い、万里眼や千里眼で発見することが出来るだろう。呪子でも神子でもない普通の人間なのだから。

 

 そして、リベラルはその人物の名を口にする。

 

 

「魔界大帝キシリカ・キシリスの助力を得ます」

 

 

 ラプラスの魂が二分される原因となった戦争。

 人魔大戦を勃発させた人物の名前を。




Q.エリナリーゼの呼び方……。
A.ロステリーナと同一人物だからね、仕方ないね。

Q.リベラルって昔から今までコミュ障だったの?
A.コミュ障と言うより、自分本意です。他者と深く関わらず、表面的な付き合いが多かったので、他者の内心を察することが出来ませんでした。

Q.キシリカにオルステッド捜索頼んだりしたのか。
A.キシリカに限らずですが、千里眼や万里眼があればオルステッド見付けられんじゃね?と考えましたが、人神が社長の動向を知るためにその手段を使ってなかったとは思えません。それでも見えなかったことを考慮すれば……。
魔眼で直接見る分には見えるけど、千里眼や万里眼のように見えない場所から見る場合には、オルステッドの姿は見えなくなるのではないかな、と考えました。
つまり、視界内でなければ見えない。視界外では見えない。そういう感じとか?

Q.結局、リベラルはパウロに転移事件とかちゃんと事情説明してねぇぞ……。
A.家族を救うと告げることで、わざと有耶無耶にしてます。実は、時期が訪れるまで話す気がなかったり。
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