無職転生ールーデウス来たら本気だすー   作:つーふー

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前回のあらすじ。

キシリカ「人探ししてやるかの」
エリナリーゼ「旅がもう終わりましたの」
リベラル「いつから本気だと錯覚していた」

制☆裁
因みに、次でこの章は終わりです。まさかの14話構成です。別に意識してないんですけどね……。


13話 『ターニングポイント・ニ』

 

 

 

 物事とは、唐突に起きることがある。

 悪いことは、予測も予防もできない時があるのだ。

 

 リベラルは予想していなかった。

 こんなことになるのならば、もっと早くに出会えている筈だと。

 少なくとも、この二百年の間に出会うことはなかった。

 

 

 それが起きたのは、タルハンドとエリナリーゼの二人と別れてからだ。

 シーローン王国に向かうための転移陣から消えたのを見送ったリベラルは、パウロに会うために別の転移陣へと向かった。そこまではいい。何も起きてないのだから。

 けれど、問題は転移遺跡に辿り着いてからであった。

 

「さてと……パウロ様に報告した後は、シーローン王国ですか」

 

 転移遺跡を隠す迷彩を解除し、中へと入ったリベラルは、ふと呟く。

 

 彼女の予定では、シーローン王国でリーリャとアイシャを助けた後に、ゼニスの救出に回るつもりだった。ルーデウスに関しては、中央大陸に辿り着けば、遅かれ早かれフィットア領捜索団とコンタクトすることになるだろう。

 仮に、キシリカと出会わず、大森林の聖獣を助け出してなかったとしても、特に問題でもなかった。聖獣なんてリベラルからすれば、いつでも、どこからでも、助けられる存在だからだ。そんなの召喚すればいい。

 結界魔術で囚われてるとしても、精々上級から聖級程度のものだろう。それくらいならば、召喚する際に外側から刺激を与えれば壊せる。

 内側からならともかく、外側であれば魔力でも対応出来るのだ。聖級程度ならば、容易である。

 

 とにかく、ルーデウスが捜索団と会うのは確実だ。

 伝言だけで伝えきれなかったことや、新たな情報を残しておけば、以後の行動も把握できる。

 

 ロキシーが転移事件前に、シーローン王国へと訪れてないので、未来のルーデウスに布石を置かせるのは難しい。王宮に二人が囚われてる訳でもない上、第七王子のパックスが、ルーデウスに絡む理由がないのだ。

 故に、ヒトガミはパウロに、シーローン王国での布石を置かせるのではないかと予想していた。アイシャとリーリャは、そのための餌だ。

 将来生まれる、魔神ラプラスの転生位置を固定させないために、パックスを殺そうとするだろう。その布石を、どこかで打つ筈なのだ。

 

「ヒトガミの使徒と分かっているパウロ様の側にいる方が、動きが分かりやすいですからね」

 

 絶えず思考を行ないながら、リベラルは転移陣へと足を踏み込み、別の大陸へと転移した。

 

 

「――――」

 

 

 転移先の遺跡内に、違和感を感じた。

 

 

 転移後に感じた、ハッとするような眠気の覚醒ではない。それは転移を行えば、毎回起きることなのだから。自身の体に変調はない。

 では、違和感は目の前なのかと思えば、それも違う。視界に映るのは、己の知る石造りの遺跡であり、魔法陣以外は何もない質素な空間だ。奥に上へと上がる階段が見える。

 

 ならば、違和感は何か。

 すぐに理解した。

 

 

 視界の端――部屋の隅に、体育座りをしていた黒髪の少女がいたのだ。

 

 

 唐突に転移して来たリベラルに驚いてるのか、白いのっぺりとした仮面を手に、その動きを静止させていた。驚き戸惑う表情を浮かべ、思考を停止させてるようにも見える。

 リベラルも同じ様な表情を浮かべ、思考を停止させていた。何度も修羅場を潜り抜けてきた筈の彼女が、その出来事に頭を動かせてなかった。

 

 その少女は、リベラルの知る人物だった。

 

 忘れる筈もない。

 長い長い間、ずっと待ち続けて来た存在なのだから。

 そんな感動にも似た心境。転移前までの思考は完全に途切れ、目の前の存在だけに全てが集中される。

 

 ドクンと、心臓が高鳴った。

 

 頭の中には、全てが狂い、全てが終わってしまった光景が映し出される――――。

 

 

 

 

『だから、その……あなたでよかった――ありがとう』

 

 照れているのか、赤面しながらも笑ってくれた白髪の少女。

 

『……はい。必ず帰ります。幸せになってみせます――!』

 

 かつての荷物を手に、決意に満ちた表情を見せる、かけがえのない友人(パートナー)

 

『……私は、やっぱり、駄目、なのね。もう、分からない。分からない、のよ……帰りたいのに、帰れない……――』

 

 そして、別れの日に、全てを失敗した。

 全てに絶望し、諦めてしまった彼女は、自宅の家で、プラプラと宙を漕いで。 

 込み上げる腐敗臭、吐瀉物、汚物。

 

 思い出が絶望と変わった、あの日のことが。

 

『絶対に、助ける。助けると約束したんです……まだ、終わりじゃありませんから……終わらせませんから――!!』

 

 

 ――――自由(リベラル)となった、あの日のことを。

 

 

 

 

 過去の記憶が溶け込み、目の前以外の現実が曖昧な中、リベラルは言ってしまった。

 たった一つの過ちを、犯してしまった。

 

 

「――――静香?」

 

 

 未来に囚われていたリベラルは、過去に囚われた。

 目先を見捨ててきた彼女は、目の前の現実だけに目を向けてしまった。

 

「……え?」

 

 唐突に現れた、知らない筈の女性。

 そんな存在であるリベラルから、いきなり名前を呼ばれたことにより、ナナホシは頓狂な声を上げて目を丸くした。

 互いに口をパクパクと開き、言葉を発しようとする。けれど、言葉を見付けられず、見つめ合ったまま無為に時間だけが過ぎていく。

 

(何故、彼女がこんな場所に? 今は確か、アスラ王国でこの世界の言葉を勉強してる筈では? そもそも、部屋の隅に一人でいたのは何故? いや、それよりも魔力の無い彼女一人ではこの場に来ることは…………)

 

 混乱していたリベラルは、そこで思い出した。

 否、ナナホシに気を取られ、間抜けにも忘れていたのだ。

 

 この際、アスラ王国にいるであろうナナホシが、この場にいることはどうでもいい。問題は、彼女と共にいるであろう筈の男が、どこにいるのかだ。

 魔力が必要である遺跡の中に、魔力を持たぬナナホシがいる時点で、共にやって来たことは明白。ならば、どこにいるのか決まってるだろう。

 

 階段の先である。

 そこから、気配がした。

 

「――――ッ!」

 

 とてつもなく恐ろしい殺気が、リベラルの元へと届いた。唐突に発生したイレギュラーを排除せんとする強烈な殺意が、階段の先から漏れ出す。

 

 彼が気付いたのだ。

 転移陣から現れたリベラルのことを。

 ナナホシが一人でいる部屋に、現れてしまったことに。

 

 久々に感じた死の恐怖を前に、リベラルの背中に悪寒が走り、額から冷や汗が零れ落ちる。しかしと、冷静さを取り戻した。

 己が仕えるべき龍神と、敵対する訳にはいかない。こんな出会い頭の不幸で、ヒトガミを喜ばる訳にいかないと。

 転移事件の発生により、リベラルへと疑心は向けられていること。それくらいは理解している。だから、その疑惑を晴らすために、機先を制するのだ。

 龍族の最敬礼を持って迎えれば、いくらオルステッドと言えども、いきなり攻撃はしないだろう。先に誠意を見せるのだ。そう、考えた。

 

 故に、リベラルは服従のポーズを取ろうとした。魔龍王の娘として受け入れてもらうため、拳を組み、翼を畳むような仕草のポーズ。

 

 龍族の最敬礼をしようとした。

 敬礼しようとしたのだが――出来なかった。

 

 

「ちょっと、ねぇ、あなた。なんで、私のなまえを、しってるのよ!?」

 

 

 それは、たどたどしい人族語であった。

 

 ポーズをしようとしていたリベラルの腕が、横合いから掴まれる。誰が掴んだかなんて、言うまでもないだろう。

 己の名を言われたナナホシが、恐怖や驚きよりも好奇心を優先して、リベラルの腕を掴んだのだ。

 元の世界に戻るための方法を、目の前の存在が知っているのではないかと縋って。当然の状況だった。

 ナナホシの名前を呟いてしまった、彼女の大きな失敗だ。

 

 リベラルの意識が隣へと逸れる。

 その僅かな間が、命取りとなった。

 

 

「――貴様が銀緑か」

 

 

 気付けば、龍神が、オルステッドが階段から降りていた。目の前に佇んでいた。

 彼の目には、確かな殺意が宿っている。既に、動き出している。

 

 声を上げる間はなかった。

 リベラルの目には、オルステッドの行動が見えていた。

 

「死ね」

 

 彼は弾丸のように飛び出し、勢いのまま貫手を放ったのだ。

 

 

――――

 

 

「くっ……!」

 

 リベラルは咄嗟にナナホシを突き飛ばし、身構えた。いくらリベラルと言えども、攻撃に対して無防備になることは出来なかったのだ。

 オルステッドの貫手は、胸元へと向かっている。避けなければ、致命傷になるのは明らかなのだ。心臓を貫かれてしまう。

 

 槍のように迫る貫手を、横へと逸らす。

 が、オルステッドはその瞬間に受け流した彼女の手を掴んだ。

 

「……!」

「む……」

 

 しかし、リベラルはすかさず反応し、肘を払ってオルステッドの手を弾く。会話するために、そのまま距離を取ろうとするも、それを阻止するかのように足の甲が踏み付けられていた。

 下がろうとしていた彼女の体勢が、大きく崩れる。

 

 剣神流奥義『光の太刀』。

 

 防御不能の必殺が、オルステッドの手刀から放たれる。リベラルの首元へと、視認出来ぬ速度で迫る。

 そのまま振り抜かれれば、彼女の首は切断され、絶命は免れないだろう。体勢を崩しているのだから、避けることも叶わない。

 

 故に、リベラルは左腕を犠牲にすることにした。首元に迫る手刀に対し、無理やり割り込ませる。

 無論、そんな苦し紛れで『光の太刀』は防げない。だが、水神流の達人でもある彼女は、逸らすことなら出来る。

 

「っ」

 

 手刀はリベラルの左腕を斬り裂き、首元を僅かに抉った。しかし、命にまで届くことはなかった。

 攻撃した直後に存在する微かな硬直時間を見逃さず、彼女はオルステッドを蹴り飛ばす。

 

(勝利は許されず、敗北による死も許されない……保険が必要ですね。私の次の行動を、よく覚えておいて下さいよ、オルステッド様)

 

 そのまま体勢を立て直したリベラルは、クルクルと宙を舞う己の左腕を掴み、治癒魔術でくっつける。それと同時に、首元の傷も治っていく。

 あまりにも不毛な争いだ。この戦いには何の意味もない。するだけ無駄なものだ。

 それを理解しているリベラルは、降参の意を示そうとするも、オルステッドはホバー移動のような歩法で詰め寄り、再び攻撃を仕掛けていた。

 

 それを無抵抗で受け入れられれば、どれほど楽なのだろうかとリベラルは思う。しかし、今回は両者の高い力量が仇となった。

 ループによって、一万年以上もの経験を持つオルステッド。四千年以上研鑽を続けて来たリベラル。

 そんな膨大な時間を生きてきたからこそ、互いの技量は底知れなく高い。高過ぎるが故に、戦闘を終わらせられない。

 

(何で、こんな、的確に、急所しか、狙わないんですか!)

 

 オルステッドの攻撃に対し、リベラルは何度も防いでは避けてしまう。しかし、それも仕方ないだろう。オルステッドの放つものは全て、致命傷となりうるものだけだ。

 そしてリベラルは、彼の攻撃が全て致命傷となりうることを理解していた。だからこそ、防いでしまうし、避けてしまうのだ。

 

 死ぬことが分かっておりながら、無抵抗で受け入れろと言うのは、酷な話だろう。

 

「――――」

「――――」

 

 二人は無言のまま戦い、声を発することをしない。これもまた、互いの力量の高さがもたらした弊害だった。

 達人はあらゆる要素から、相手の動きを読み解く。雰囲気、仕草、目線、挙動、呼吸。

 それら以外にも多々あるが、こうした一つ一つの動きが、何十手もの先にある行動へと影響を及ぼす。それらを悟らせれば、やがて“詰み”へと追い込まれる。

 

 

 つまり――オルステッドを相手に、手加減する余裕がなかったのだ。

 

 

(初見の相手は、様子見するんじゃ、なかったんですか!)

 

 一片足りとも気を緩めることの出来ないリベラルは、内心で愚痴る。

 彼女が距離を取ろうと一歩後退すれば、オルステッドは同じ様に一歩前進する。言葉を発しようとすれば、その呼吸の間を読み速度が増す。攻勢の手を、一切緩めないのだ。

 その姿勢からは、ここで必ずリベラルを殺さんとする気概が見えた。ナナホシが二人に争いを止めるよう叫ぶも、その声が届くことはない。

 

 オルステッドからすれば、リベラルの存在はイレギュラーだ。

 今までにいなかった存在なだけならば、問題なかった。未来を変化させるだけなら、観察に留めた。しかし、過去が改変されるのは駄目だ。

 己のループ地点より前の歴史を変化させたリベラルの存在は、あまりにも危険すぎる。ヒトガミに勝利するまでループするオルステッドへと、届きうるのだ。

 最早、様子見などという悠長な選択など出来なかった。オルステッドの“次”が、失われるかも知れないのだから。

 

(平和的解決は、出来ませんね)

 

 リベラルからすれば、あまりにも理不尽な条件戦だった。

 

 まず、オルステッドに本気を出させてはならない。彼はループする代償に、魔力がほとんど回復しないから。魔力を使ってしまえば、ヒトガミに勝てなくなる。

 そして、オルステッドに殺されてはならない。言うまでもないが、死ねばそこまでだから。意識を失っても、そのまま殺されるだろう。

 更に、オルステッドに勝ってはならない。勝てるかどうかはさておき、互いに大きく消耗してしまうから。

 

 つまり、リベラルはオルステッドに本気を出させず、かつ殺されないよう負けなくてはならない。

 文面で見れば容易に見えるが、降参する間もない状況ではほぼ不可能だ。それに、あまりにも戦闘が長引けば、オルステッドは徐々にギアを上げ、魔力を使い始めるだろう。

 

「っぐ」

 

 リベラルは逃げるように、段々と遺跡の外へ後退していくが、無傷とはいかなかった。捌き損ねた攻撃が所々を抉り、その度に彼女は治癒魔術で傷を治していく。

 オルステッドの攻撃を全て防ぐのは厳禁だ。そんな状況になれば、本気を出されてしまう。かと言って、手抜き過ぎれば致命傷を受けかねない。

 じり貧だ。徐々にダメージが蓄積されていき、リベラルの動きは精彩を欠いていく。

 

(魔術は……駄目ですね)

 

 リベラルの真価は、魔術だ。彼女は体術や剣術よりも、魔術を得意としている。

 しかし、リベラルが魔術を使えば、オルステッドも魔術で対処せざるをえない状況に陥るだろう。結局、治癒魔術以外にろくな魔術を使うことも出来なかった。

 乱魔に関しても、絶対の効力はない。だからこそ、オルステッドの魔術を無効化出来ないし、リベラルもまた治癒魔術を扱えている。

 

 捌き、抉られ、治す。

 避けて、貫かれ、治す。

 

 何度もそんなやり取りを繰り返しながら、リベラルは何とか遺跡の外へと出ることが出来た。最初は転移陣に逃げようとしていたが、オルステッドの誘導により階段側へ行くのが精一杯だったのだ。

 しかし、狭い遺跡内では行動が限られていたが、これで逃走などの選択に幅が増えた。そしてそれは、オルステッドも同様である。

 遺跡内という狭い空間では、ナナホシを巻き込む恐れがあった。だが、その制限のなくなった今、攻撃はより苛烈となるだろう。

 それを察知したリベラルは、魔術によって衝撃波を起こし、無理やり距離を取る。その瞬間、その場所は剣閃によって大きな穴が開く。

 

 砂煙が舞い、視界が遮られる。それを機と見たリベラルは、戦闘を止めるために大声を上げようとし、

 

「……仕方ないか」

 

 ポツリと、小さな声が聞こえた。

 刹那、空気が変わる。

 

 龍神が、その真価を発揮させ始めた。

 

 

――――

 

 

 砂煙が晴れる。

 しかし、それまでの間、リベラルは何も行動していなかった。

 

「ぅ……」

 

 距離が出来たにも関わらず、動くことが出来なかった。声を上げることも出来なかった。

 オルステッドの取った構えを前に、彼女は指先一つ動かすことが叶わなかったのだ。

 

 水神流奥義『剥奪剣界』。

 

 それは、ある体勢から前後左右上下。

 四方八方どこにいる相手でも、斬る事ができる。

 一歩でも動いたら、その動作に反応して、全てを切り捨てる事が出来る水神流の、幻の奥義。

 

 現水神レイダ・リィアの編み出したそれを、オルステッドは無手で使った。長年生きてきたリベラルにとっても、近年編み出されたその奥義は初見の技だ。

 水神流の奥義を組み合わせたものとは言え、正確な対処法を理解出来てない。更に言えば、それを使ってるのがオルステッドである。

 外であるというにも関わらず、間合いの広さが見えなかった。地の果てまで届くのではないかと思えるほどの間合いを前に、リベラルは硬直してしまう。

 

 動けないリベラルに、オルステッドは右手を向けた。

 

(オ、固有魔術(オリジナルマジック)!?)

 

 何をしようとしたのか、リベラルは察知する。それは、龍族特有の固有魔術だ。

 第二次人魔大戦にて、魔龍王ラプラスが闘神を倒すために使ったもの。巨大陸を破壊し、リングス海を創り出した龍族最強の魔術。

 

 瞬間、リベラルの視界が光で埋め尽くされた。

 

「あ、アアアァァァァ!」

 

 咄嗟に横へと飛び退き、光の奔流を回避する。

 オルステッドの手の向けた先は大きく陥没し、その威力を目の当たりにさせる破壊痕が残された。

 そして、『剥奪剣界』の中で動いたリベラルは、オルステッドによって腹部を斬り裂かれていた。すぐさま治癒魔術で傷を治すも、『剥奪剣界』の効果は収まらない。

 

 動くことの出来なくなったリベラルに対し、オルステッドは再び右手を向けた。

 

(冗談じゃない!)

 

 同じ様に回避し、同じ様に斬り裂かれる。剥奪剣界と固有魔術の組み合わせは、容赦なくリベラルを追い詰めていった。

 それに、オルステッドは遂に魔力を使い始めたのだ。このままでは駄目だと理解しているものの、強制的に動きを止められてしまう以上、ろくなことが出来ずにいた。

 

(逃げながら避ける? いえ、それでは別の魔術を使われるかも知れない……どうせ斬られるならば、前に!)

 

 死中に活を。

 どのみち、動かなければ固有魔術によって狙い打ちにされる。結果は変わらない。ならばと、リベラルは剥奪剣界の中を動き出す。

 

 その瞬間、オルステッドの体がブレる。

 腕が定まらない。

 

 リベラルが駆け出し、距離を詰める度に黄金の剣閃が飛ぶ。剣閃が残像を残し、二人の間に黄金の糸が紡がれた。

 最初は何度か斬り裂かれていた。しかし、剣撃が飛ぶごとに、弾いては回避する数が増える。

 剥奪剣界の剣筋を、見切り始めていたのだ。

 

 二人の距離が縮まる。

 

「――――」

 

 これ以上は無意味だと、悟ったのだろう。オルステッドは剥奪剣界の構えを解き、両手を合わせようとしていた。

 彼女はそれが何を意味するか知っている。

 かつて、初代五龍将の狂龍王カオスが造り上げた、龍神の神刀。神の力に耐えうる、この世に現存する最強の武器。

 それが引き抜かれようとしているのだ。

 

 リベラルの目が見開かれる。

 それを抜かせてはならないと、頭の中に警鐘が鳴り響く。

 

「『泥沼』」

「『乱魔』」

 

 オルステッドは魔術を防ごうとするも、リベラルは無理やり術を行使する。龍神の周りが泥沼に変化していく。

 足元への対処をする僅かな間に、彼女は大きく跳躍した。とてつもない速度で迫り、オルステッドの眼前へと躍り出る。

 抜くだけで多大な魔力を消費する神刀を、抜かせまいと手を伸ばし――、

 

 

『待って! 二人とももう止めて!』

 

 

 リベラルにとっては懐かしい、日本語の叫びが聞こえた。

 

 オルステッドの背に、ナナホシの姿があった。危険を承知で近付き、必死に懇願していた。

 彼女のその姿を前に、リベラルの動きが硬直する。無意味な争いであることを理解してるが故に、止まってしまう。

 

 完全な静止。

 その大きすぎる隙を前に、オルステッドは心臓へと貫手を放っていた。

 

「がふっ……」

 

 回避は間に合わなかった。

 防御も間に合わなかった。

 

 超速で打ち出された貫手は、アッサリとリベラルの体を貫通した。寸分違わず心臓を打ち抜き、確実な致命傷を与える。

 戦いは終結だ。オルステッドは多少の魔力を消費し、リベラルは絶命するという、最も最悪な形で。

 

(不味い……意識が……早く、治さないと……)

 

 だが、まだ彼女の意識は途切れていない。意識がなくなるまでの僅かな間に、致命傷を何とか治癒しようとし、

 

「『乱魔』」

 

 アッサリと、可能性の芽が潰される。更に、追い討ちを掛けるかのように、オルステッドは掌底を放ち、リベラルを吹き飛ばした。

 体は宙を舞い、ドサリと音を立てながら、地面に落ちる。そして、彼女が起き上がることはなかった。

 

「――…………」

 

 その光景に慌てるのは、ナナホシだった。この世界に召喚された原因がようやく分かるかも知れなかったのに、潰れてしまったのだから。

 

『オルステッド! こいつの怪我を治して!』

「……駄目だ。この女は危険だ」

 

 必死な表情を浮かべる彼女を突き放すかのように、オルステッドは淡々と事実だけを告げる。

 

「……ふむ」

 

 リベラルが確実に絶命したことを確認したオルステッドは、ナナホシへと顔を向けた。

 

「ナナホシ。そのニホンゴとやらで話すな。何を言ってるのか分から――むっ!」

 

 しかし、唐突に言葉を途切らせたオルステッドは、弾かれたかのように再びリベラルへと向き直った。

 ナナホシもそちらへと視線を向ければ、地面に魔法陣が浮かび上がっていた。

 

「これは……召喚魔術か? 下がれ、ナナホシ」

 

 オルステッドの言葉と同時に、魔法陣は更に輝きを増す。目映い光が周囲を照らしゆく。

 

 そして、顕現する。

 

「グルオオォォォオオ!!」

 

 

 ――巨大な赤竜が、咆哮と共に地から這い現れた。

 

 

――――

 

 

 唐突に召喚された巨大な赤竜。だが、オルステッドは慌てることもなく、冷静に観察する。

 

「ふむ、術者の意識がないにも関わらず召喚されたということは……そうか、魔道具だな」

 

 倒れているリベラルを一瞥した彼は、赤竜へと視線を戻す。巨大であろうが、赤竜は赤竜だ。オルステッドの敵ではない。

 赤竜は歩み寄る彼に対し、小さく唸りながら威嚇する。攻めあぐねているような仕草を見せていたが、やがて、動き出した。

 己の体を回転させながら、尻尾で周囲を薙ぎ払う。巨大な体から繰り出されるそれは、草木を薙ぎ倒しながらオルステッドへと迫った。

 

 手刀両断。

 赤竜の尻尾は切断される。

 

「むっ」

 

 血吹雪を舞い散らし、尻尾は地に落ちた。だが、赤竜はそんなことお構い無しで突進し、オルステッドを前足で弾き飛ばす。

 彼は防御体勢を取っていたものの、体重さにより踏ん張ることも出来なかった。しかし、空中で体勢を整え、着地と同時に赤竜へと走り出す。

 

「グオォォ……」

 

 赤竜はオルステッドを無視した。地に倒れ伏すリベラルへと向き直ると、彼女を口で咥えて羽ばたく。

 そのまま飛翔して逃げ出すその背に、オルステッドは右手を向けて――何もしないまま掌を下ろした。

 

「…………」

「……追いかけないの?」

 

 沈黙したまま空を見上げるオルステッドに対し、横に並んだナナホシが不思議そうに声を掛ける。

 

「あの赤竜は、魔道具によって条件的に召喚されただけだ……あの女の魔力で召喚されていない」

「……つまり?」

「銀緑は既に死んでる。これ以上は魔力の無駄だ」

 

 溜め息を一つ溢したオルステッドは、服についた汚れを払いながら、遺跡の中へと向かって行く。

 取り残されたナナホシは、落胆した表情を浮かべ、豆粒のように小さくなった赤竜を眺める。

 

「……折角見付けた手掛かりだったのに」

 

 彼女も溜め息を溢し、やがて遺跡の中へと戻って行った。




Q.オルステッド様子見もせんと攻撃しとる!
A.龍神「次に影響及ぼすかもだし危険だ。死ね!」
銀緑「転移事件が原因で敵対するかもだけど、喋るくらいの余裕はあるっしょ!つーかこれからっしょ!」
二人の認識の差です。結局喋る余裕もなく殺されました。

Q.静香……?
A.七星 静香、えいえんのじゅうななさい!
そろそろリベラルの転生前も明かしていきます。尚、リベラルは完全オリ主なので原作に登場したキャラの誰かとかではありません。

Q.固有魔術。
A.古龍の昔話でラプラスが八大魔王に使ったアレ。大陸に巨大な穴を開けるなんてアレ以外に思えません。
それに指向性を持たせたのが、オルステッドの放った光の奔流なのでは?と思いました。龍神の固有魔術ではなく龍族の固有魔術。
龍神の固有魔術は黄金に輝き、光を越える速度で動く奴じゃないですかね。初代魔神VS初代龍神で使われたアレ。
固有魔術……龍気と呼ばれるものを解放して放ったもの、みたいな?

Q.リベラル死んだの?
A.ちがうよ、かのじょはほしになったんだよ。

Q.サレヤクト!?生きていたのか!
A.いいえ、死んでます。サレヤクトは私の作品では既に死んでる設定です。
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