無職転生ールーデウス来たら本気だすー   作:つーふー

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前回のあらすじ。

ルイジェルド「ルーデウス、銀緑は胡散臭いから警戒しておけ」
パウロ「有り金全部置いてゼニス助けに行ってこい」
リベラル「おk。その代わりシーローン王国でやることやってね」

大変お待たせ致しました。活動報告に記載したように、リアルの事情により中々書き進めることが出来ませんでした。事情を知りたい方は活動報告を御覧ください。
そして、更には投稿までの期間が開きすぎたせいで、細かい伏線や展開を忘れてしまう始末。大まかな展開などは流石に忘れてませんが、それでもそこに持っていくまでが完全にあやふや。
矛盾が起きないよう気を付けねば……。


3話 『ベガリット単独攻略』

 

 

 

 ベガリット大陸。

 大陸の大部分が砂漠であるのだが、唐突に途切れて森や山がある土地。魔力溜りが多く、魔物も迷宮も多いので冒険者も多い。

 魔物の強さは魔大陸より弱いが、ほぼ同等の強さで魔大陸の次に危険な土地とされている。

 

 龍鳴山に住んでいたリベラルからすれば、それらは大した問題にはならない。魔物は当然、砂漠という慣れない環境も、体力の多さを考えれば余裕の範疇だろう。

 しかし、問題はあった。迷宮だ。長年生きてきた彼女は、幾つもの迷宮を踏破しているし、今回も攻略自体は容易であろう。だが、攻略には時間が掛かる。

 リベラルの向かう先は、この世界でも有名であり、高難易度として知られる『転移の迷宮』。最奥に到達するのに、幾つもの転移魔法陣に乗らねばならぬのだ。地図もなく進むのは、困難を極める。

 彼女の力量ならば、罠や魔物によって力尽きる可能性は少ない。故に、純粋な迷路として攻略に時間が掛かるのだった。

 

 とにかく、そのことはいいだろう。

 今は向かうことが先決である。

 

 

――――

 

 

 シーローン王国から最寄りの転移遺跡に移動し、ベガリット大陸へと辿り着く。ここから徒歩で迷宮都市ラパンへと向かうことになるので、約一ヶ月後に到着する予定だ。

 リベラルは辿り着いた遺跡の中を見渡しながら、どこかビクビクと警戒した様子を見せる。当たり前だが、そこには誰もいないし何もない。

 

「……まあ、同じことがそう何度もあって堪るかって話ですね」

 

 以前、オルステッドとナナホシの二人と遭遇したことが、完全にトラウマとなっていた。

 そもそも、長年生きてきた彼女にとっても、転移先か転移場所で誰かと出会うこと自体、初めての経験だった。この時代で転移遺跡を利用してる者は少なく、更に無数に存在する。

 なのに、偶然あの二人と遭遇したのだ。どんな確率なのだと嘆きたくなっていた。

 

 それはさておき、リベラルは遺跡の外へと向かい、照り付ける日差しの元に出た。

 

「ふぅ、やはり暑いですね……あまり油断せず行きましょうか」

 

 丁度昼頃であるためか、日差しは高い位置に昇っている。リベラルの種族柄、体力は多く、頑丈であるとは言え、消耗しないわけではない。

 素肌を晒さぬようにコートを纏い、砂漠の柔らかい砂の上へと足を踏み出す。

 

 魔物との戦闘は、極力回避したいものだ。僅かな手間とは言え時間は掛かるし、体力だって使う羽目になる。

 戦いをするメリットなんて、食料が手に入ることくらいだろう。出来ることならば、遭遇することすら回避したいところだ。

 もちろん、そんなものは願望に過ぎない。

 

「ん」

 

 近くの足下から気配を察知したリベラルは、内心で溜め息を吐きながらさっさと対応する。

 土の中に潜り込んでる魔物、サンドワームは土魔術のミキサーに掛け、終了。

 尻尾が二つあるデカイ蠍の姿をした双尾死蠍(ツイン・デス・スコルピオ)という魔物は、一瞬で間を詰め発勁にて内蔵が破壊され死亡。

 日中に現れる魔物は、大体この二種である。

 

 日が沈み始めると、大抵二足歩行のトカゲが二桁近い群れで現れる。そしてそれらを倒せば、血の臭いに釣られて別の魔物が多数引き寄せられ、魔物同士の乱闘が始まるのだ。

 それら全ての相手をする必要もないので、その場合は大体リベラルは逃走していた。戦うのは本当に時間の無駄なのだ。当然の判断と言えよう。

 

 その他に、この地で有名なサキュバスは、女一人で行動してるためか、未だに遭遇していない。ありがたい話だった。とは言え、あれは魔神ラプラスによって送り込まれた存在。少しは気にすべきなのだろうかと思ってしまう。

 だが、ファランクスアントと呼ばれる魔物と遭遇した時だけ、リベラルは苛立ちを感じていた。軍隊蟻が魔物化したようなその存在は、ひたすら数が多い。その上、好戦的なので姿を見せれば襲い掛かってくる。

 別に、赤竜の群れに比べれば簡単に対処出来る相手だ。大魔術でも使えばすぐに決着がつく。

 しかし、面倒だった。この砂漠に生息する魔物の数はとても多いので、多大な魔力を消費する大規模な魔術を出来れば使いたくないのが本音である。

 流石に、チマチマと一匹ずつ相手にしたいとは思わなかった。仮にそうしたとしたら、別の魔物が乱入する可能性もある。リベラルとしても、避けたい魔物だった。

 故に、おおよそ一時間ほどの足止めを食らってしまうのだ。

 

「…………」

 

 数日掛けて、次は岩棚地帯に辿り着く。この辺りでは魔物の生態系が変化しており、棲息している大半がグリフォンとなる。

 もっとも、それらはリベラルの敵となり得ない。飛び掛かってきたところに、カウンターの一撃を叩き込むだけで倒せる。

 砂漠の生態系に比べれば、岩棚はずっと楽であった。

 

 そして更に数日後、リベラルは人の手の入った街道へと辿り着くこととなった。

 

 

――――

 

 

 迷宮都市ラパンや、その他の地域の中継地点となるバザールで一度休憩を挟み、リベラルは先へと進む。

 一応、向かう途中で何かあったりしないか情報を収集したが、道中で盗賊がいる可能性が高いくらいだった。今まで盗賊相手に散々技の練習をさせてもらってる彼女からすれば、特に問題はなしだ。

 しかし、今回の盗賊たちは規模が大きいので、壊滅させるのは手間である。絡んでこなければ何も刺激せず、そのまま先を目指す方針となった。

 

「おっと、ここは通行止めだ!」

「女一人でこんなところをうろついてるのが悪いんだぜ……ヒヒ」

 

 まあ、盗賊たちの縄張りに入ってすぐに、絡まれてしまったが。

 

「胸は小せぇが、ツラはかなりのもんだ」

「金目の物も持ってそうだな」

「腕に自信があるのかも知れねぇが、この人数だ。大人しくしていれば、優しくしてやるぜ」

 

 街道を歩いていたところ、前から数十人ほどの男たちが、下卑た笑みを浮かべながら現れる。基本的に商人たちの積荷を狙う彼らだが、やはり女一人ならば絡むのだろう。

 お楽しみが来たぜ、とニヤニヤ笑う盗賊たちは、相手が銀緑じゃなければ、その表情が変わることもなかっただろう。

 

 リベラルが相手であったことが、最大の不幸である。

 

「……では、お望み通り逝かせてあげましょう。私の凄テクに10分間耐えられれば、何でもしてあげますよ?」

 

 そして数十秒後、この場にいた盗賊たちは誰一人として耐えきれず、胸に穴を開けて倒れ伏す。彼女の凄テク(戦闘術)からは誰も逃れられない。

 盗賊などいなかったのである。

 

 約二週間後、リベラルは迷宮都市ラパンへと辿り着いた。

 

 

――――

 

 

 迷宮都市ラパンに着いたリベラルは、まず情報収集から始める。先程も告げた通り、『転移の迷宮』を一から攻略するのは時間が掛かりすぎるのだ。

 故に、ある程度攻略を進めているパーティーなどを探し、マッピングされた地図を買い取ったりした。

 

 『転移の迷宮』は、全七層まである。攻略者が未だにいないのか、正確な階層は知られてないものの、リベラルは未来の知識により、そのことを知っている。

 そして、彼女が入手できた情報は、その内の四層までの地図だった。それなりの情報料が掛かったものの、半日ほどで入手出来たのは大きいだろう。

 そこから先の階層は手探りで進むことになるとは言え、リベラルからすれば十分すぎる成果だ。

 

「さて、行きますか」

 

 一度休憩を挟み、準備を整えたリベラルは、ラパンから転移の迷宮へと移動し、一人で中へと入っていく。洞窟の中は薄暗く、夜目が特別きく訳でもない彼女にとっては少しばかり見にくい環境だ。

 リベラルは懐から精霊のスクロールを取り出し、それを使用する。明るく光る精霊が飛び立ち、彼女の頭上を回った。

 光源を手にしたリベラルは周囲を見回し、地図との差異を確認しながら、奥へと足を進める。

 

 第一階層は、アリの巣のような洞窟だ。

 壁や天井には白い糸が大量に張り巡らされており、さらにその奥には、青白い転移魔法陣が光っている。足元を這い回る子蜘蛛もプチプチと踏み潰しながら、先へと進んで行く。

 魔術に関する知識が豊富なリベラルからすれば、この迷宮にある転移の罠は、一目見ればあらかた理解できる。罠に引っ掛り、魔物が大量にいる部屋に飛ばされる、なんて事態に陥ることはない。

 

 サクサクと進み続け、半日とちょっとほどで第四階層へと辿り着いた。前以て入手した地図が、思ったよりも正確だったお陰か、一度も道を間違えることなく辿り着く。

 

「ふぅ……高い金を払った価値がありましたね」

 

 しかし、ここから先は全て手探りとなるので、あっという間に攻略完了、となることは絶対にない。

 未来では、ルーデウスが『転移の迷宮探索記』という本を手にしていたため、六階層までトントン拍子で進むことが出来た。当然ながら、彼女はそんなものを持ち合わせていない。

 

 探索と戦闘とマッピング。しらみ潰しに先々へと進んでは元の場所へと戻り、食料が尽きれば迷宮から出たりもした。

 罠で死ぬこともなければ、魔物に殺されることもない。しかし、疲労は蓄積していくものだ。

 何度も何度も同じ作業を繰り返し、リベラルの迷宮攻略は日数を進めていった。

 

 

――――

 

 

 約一ヶ月後、リベラルは第六階層の最奥へと辿り着く。

 迷宮の守護者がいるひとつ前の部屋である。

 

 

――――

 

 

 石造りの広い部屋。正方形で、入り口に面していない壁の付近に、それぞれ一つずつ魔法陣がある。その魔法陣以外、ここには何も存在しなかった。

 部屋の中心へと歩き、リベラルはそこで腰を下ろして一息吐く。魔物に殺されないくらい強いとは言え、絶対と言うわけではないのだ。

 リベラルは純粋に、疲れていた。

 

「ようやく、辿り着きましたか」

 

 三つある内の一つの魔法陣の前に、石が置かれている。6という数字の刻まれた、綺麗に磨かれたこぶし大の石だ。

 それを眺めながら、彼女は思考に耽る。

 

 ここにある魔法陣は全てが罠であり、正解ルートなどない。これらに触れれば、恐らくイートデビルと呼ばれる魔物の巣に飛ばされることだろう。

 まあ、飛ばされてもリベラルなら死なないが、黒くヌメヌメとした魔物が無数に蠢く空間に行きたいとは思わない。

 立ち上がった彼女は、床にあった隠し階段をこじ開け先へと進む。階段を降りた先には、血のように真っ赤な色をした魔法陣がひとつ、ポツンと存在していた。

 

魔石多頭竜(マナタイトヒュドラ)……文献でしか見たことがないドラゴンですが……」

 

 迷宮の守護者。その先に待つ存在を口にし、リベラルはもう一度考える。

 この先に、ゼニスは確実にいるだろう。そして、迷宮の守護者との戦闘を避けることは出来ない。

 

 魔石多頭竜(マナタイトヒュドラ)

 第二次人魔大戦にて、巨大陸の消滅と共に絶滅した筈の存在。赤竜の2倍ほどの巨体を持ち、ずんぐりした胴体から9本の首が生えている。

 叩きつけられれば軽く皮膚が削げ落ちる鮫肌のような鱗は、魔術を無効化する吸魔石と呼ばれるもので出来ている。ラプラスの一撃で絶滅に追い込まれているので、全ての魔術を無効化出来る訳ではないものの、帝級ですら無効化されるのは驚異だろう。

 極めつけは、その再生能力。頭を切り落としてもすぐに生えるのは、やはり厄介だろう。

 

「よくもまあ、こんな生物が絶滅寸前に陥りましたね」

 

 リベラルにとって、魔石多頭竜(マナタイトヒュドラ)は非常に相性の悪い相手であった。理由は単純なものだ。

 彼女の攻撃力は、この世界でも上位に位置するほどに高い。しかしそれは、魔術による超火力であり、近接による物理攻撃は極端に低かったりする。

 武器を持った状態で、全力の闘気を纏えない彼女は、基本的に素手で戦う。だが、闘気は纏えても龍聖闘気を纏えないので、防御力は常識の範囲内で収まっていた。

 強烈な鮫肌を持つ魔石多頭竜(マナタイトヒュドラ)を相手に、素手で全力の攻撃をすれば、自身もダメージを負ってしまうのだ。

 

 魔術が通用しない魔石多頭竜(マナタイトヒュドラ)は、リベラルを持ってしても苦戦を免れないだろう。

 

「とにかく、ゼニス様を救出しましょう」

 

 呟きと共に、彼女は魔法陣へと足を踏み入れた。

 

 魔法陣を抜けた先は、凄まじく広い空間だった。長方形にかたちどられた、野球場ぐらいの広さを持つ宮殿の広間。地面はタイルのようになっており、一つ一つに複雑な文様をしたレリーフが刻まれている。

 その宮殿の奥に、魔石多頭竜(マナタイトヒュドラ)はいた。侵入者であるリベラルに気付いているのか、その9本の首が彼女へと向けられる。

 

 そして魔石多頭竜(マナタイトヒュドラ)の奥。

 そこに、彼女はいた。

 大きな魔力結晶に閉じ込められ、眠るかのようにしてゼニスがいた。

 

「やはり、こうなってましたか……!」

 

 恐らく、魔力結晶に閉じ込められていると、考えていた。キシリカにこの場所を告げられたので、予想はしていた。

 結果を変えることが出来なかったと、後悔が生まれる。ゼニスの運命に、同情してしまう。リベラルの行動では、彼女の運命は変わらなかったのだ。

 

 そして、奥にいる魔石多頭竜(マナタイトヒュドラ)へと視線を向ける。ヒュドラはリベラルに驚異を感じたのか、既に臨戦態勢へと移っていた。

 

「泥沼」

 

 ヒュドラの足元に、巨大な泥沼が出現する。ヒュドラはそれに気付き、その場から離れようとするも、体は愚鈍なのか動き出すのが遅かった。

 

 ヒィィィン!

 

 ガラスを引っ掻いたかのような不快な音が鳴り響く。それと共に、ヒュドラの足元に広がる泥沼は収束していき、やがて消滅した。

 泥沼に少し沈んだのか、ヒュドラの足は地面にめり込んでいる。しかし、僅かに力を込められただけで抜け出され、大した拘束力を発揮することはなかった。

 

「地面は泥沼の影響を受けたままですか」

 

 魔石多頭竜(マナタイトヒュドラ)たる所以である鱗の吸魔石に触れた泥沼は、掻き消えてしまった。しかし、泥沼によって地形は変化したままだ。

 複雑な文様をしたレリーフのタイルは見る影もなくなり、グチャグチャな基盤となっている。

 

「ならば、これはどうなります?」

 

 リベラルの瞳の色が、煌めく金色から銀緑へと変化していく。魔眼が開かれたことにより、流れが読み解かれる。それと同時に魔術を構築し、濃霧を生み出した。

 ヒュドラは彼女の姿が見えなくなったことに反応し、ドシンドシンと音を立てて近付いてくる。そして、ヒュドラが濃霧に近付いた瞬間――濃霧は一気に晴れ渡った。

 その光景を、リベラルは魔眼にて確認する。

 

(触れた所から連鎖的に魔術が打ち消されましたか)

 

 長い年月の中で、魔石多頭竜(マナタイトヒュドラ)の吸魔石を持つ敵と、リベラルは戦ったことがある。その時は、全方位からの魔術によってアッサリと倒すことが出来た。

 しかし、全身を吸魔石の鱗で覆われているヒュドラには通用しない。同様に、空気中に魔術的要因を混ぜ合わせ、体内で発動させると言うことも出来ないだろう。

 発動出来ても、連鎖的に掻き消されてしまう。

 

「シャアアァァァァ!」

 

 濃霧が晴れた先には、ヒュドラがいる。そこは既に、ヒュドラの間合いだ。3本の首を動かし、リベラルへと蛇のようにしならせながらに迫る。

 迫る1本の首を、慌てることなく冷静に横へとステップして避けると同時に、リベラルの右手は白く発光し、眩しい光が周囲を照らした。

 

「甲龍手刀『一断』」

 

 己の右手に掻き集めた魔力を、全力で振るった。

 

 ヒィィィン!

 

 そんな音と共に、右手の魔力は光を失う。しかし、先程の泥沼や濃霧よりもずっと甲高く、何かが割れそうな音であった。

 

(全力で魔力を掻き集めれば、突破出来そうですね)

 

 魔術が通用することは、大昔に判明している。ラプラスが大陸ごと消し去っているのだ。だからこそ、どこまでの魔力に耐えられるか、その強度を知りたかったのだ。

 恐らく、ペルギウスが『前龍門』と『後龍門』を発動した後であれば、容易に破壊出来るだろう、と。

 

 迫る2本目の首を同じ様に横へと避けつつ、3本目の首に視線を向ける。これに関しては、切り落とそうと考えた。

 ヒュドラの首がリベラルへと迫り、その身を食らおうとした瞬間、彼女の姿はブレるかのように消える。

 

「ハッ!」

 

 すれ違うかのようにヒュドラの首を高速ですり抜けたリベラルは、相手の勢いと己の勢いを込めた手刀を既に放っていた。

 鮮血を振り撒き、慣性のままヒュドラの首は遠方へと吹き飛んでいく。リベラルの速さに追い付けなかったヒュドラは、何が起きたのか理解出来てなかった。無くなった首を元の位置に戻そうと、滑稽な姿を見せていた。

 

 しかし、リベラルも無傷とはいかなかった。

 

 切り裂いた際の衝撃が原因なのか、はたまな鮫肌のような鱗が原因なのか、彼女の右手は抉れて血塗れとなっている。

 己の右手を認識したリベラルは、ヒュドラへと追撃せず後ろへと下がった。慌てることなく治癒魔術で怪我を治すと同時に、ヒュドラの失われた首も再生していく。

 

(このような相手に手傷を負うのは、久々ですね)

 

 オルステッドのような名のある強者でもない、ただの魔獣にダメージを与えられたのは何百年もないことだった。

 普通の魔獣、と言うには些か語弊があるかも知れないが、第二次人魔大戦前には多く生息していた存在だ。七大列強のような強敵と言うわけでもない。

 そんな己の不甲斐なさに嘆きつつも、次なる手を打つ。

 

 掌を上に向け、両手を持ち上げる。

 そしてポツリと、口を開いた。

 

「……名も無き無力な龍は、信念もなく惰弱であった。

 故に運命に翻弄され、故に大切なものを失ってしまう。

 それでも龍は、前へと進んだ」

 

 祈るかのように言葉を噛み締め、胸元に手を置く。

 

「数々の誓いと約束を背負い、新たな道を切り開く力を持つ。

 立ち止まることは許されない。

 どれほどの困難があろうとも、重荷に押し潰されそうになろうとも、それは許されない!」

 

 リベラルを中心に、魔法陣が展開されていく。しかし、その様子を黙ってヒュドラが見ている訳でもない。

 近付くことは危険と判断したのか、体を直立させ、大きく息を吸い込む仕草を見せた。

 彼女はそれを確認しながらも無視し、詠唱を続ける。

 

「我が名はリベラル。

 魔龍王の後継者にして、その意思を受け継ぐ者。

 家族として、友として頼みましょう――」

 

 大きく息を吸い込み、溜め込んだ熱量をその身に溜め込んだヒュドラは、その圧倒的なエネルギーをリベラルへと放出した。

 

「顕現せよ『赤竜王(サレヤクト)』!」

 

 瞬間、リベラルの眼前から巨大な赤竜が這い出る。それと同時に、ヒュドラのブレスは召喚された赤竜へと迫り、直撃してしまう。

 凄まじい熱量を誇るヒュドラのブレスによって、室内の温度が上昇していく。しかしそれでも、リベラルは平然とその場に佇む。

 

 やがて、ヒュドラの吐き出した炎が収まると、そこには僅かに鱗を焦げ付かせただけの赤竜がいた。

 

「本当のブレスを見せてやりましょう、サレヤクト!」

「グオオォォォ!」

 

 リベラルの言葉に呼応するかのように、赤竜は大きく息を吸い込む。そして、その身に溜め込んだ熱量を、ヒュドラへとお返しした。

 先程のブレスが霞むほどに、圧倒的に高温で勢いのある炎がヒュドラを襲う。

 

「シャアアァァァ!」

 

 威嚇するかのように咆哮を上げたヒュドラは、炎に包まれた。断末魔のような苦しそうな悲鳴を上げ、その場から逃げ出そうとするも、ブレスの威力によって動くことすらままならない。

 7本の首をジタバタと動かし、必死に藻掻く様子を見せたヒュドラ。炎の勢いが収まると、ボロボロで弱った姿を晒した。自慢であろう吸魔石の鱗も、かなりの量が剥がれ落ちている。

 

「サレヤクト、ありがとうございました……またお会いしましょう」

「グオ」

 

 リベラルの言葉と同時に、サレヤクトの姿は消え去る。召喚に維持する魔力が、使い果たされたのだ。

 以前のオルステッドの時とは違い、真っ赤に輝くサレヤクトの宝石には、何百年もの魔力は貯蓄されていない。

 約一ヶ月に一度。それが再使用可能までの期間。召喚したサレヤクトは、一撃を放つのが限界だ。

 

「……さて」

 

 サレヤクトを見送ったリベラルは、ボロボロとなったヒュドラへと視線を向ける。傷が深いのか、小さく唸るだけで彼女へと攻撃する様子はない。

 

(召喚魔術で現れた存在からの攻撃は、吸魔石によって掻き消されませんか……大体分かったのでもういいでしょう)

 

 今後同じ様に吸魔石を用いる敵が現れたとしても、対応策はあらかた把握出来た。全ての魔術を破壊出来る訳でもない。

 格付けは済んだ。それが今の状況を表す的確な言葉だろう。

 

 リベラルの瞳は銀緑から金色へと変化していき、魔眼は閉じられた。もうこの力は必要ないと判断したのだ。

 

「終わらせましょうか」

 

  彼女の呟きにヒュドラは反応し、怯えるかのように後ろへと下がっていた。そんなことを気にせず前へと進み、重力を操作して大きく跳躍する。

 

 北神流『四足の型』。

 跳んだリベラルは、天井へと両手両足をピッタリとくっ付けると、全身の力を使い一気に地上へと加速していく。

 勢いのまま回転し、やがてヒュドラの顔が迫った瞬間、

 

「サレヤクトによって爛れたその鱗で、私の一撃など防げませんよ!」

 

 彼女の姿は不自然に揺らめき、その脚が振り抜かれる。

 食らい付こうとしていたヒュドラの動きが、ピタリと止まった。リベラルはその横をすり抜け、悠々と着地していく。

 

 

「その太刀にて負わされし疵、不治なり」

 

 

 リベラルはそのまま脇を通り抜けるが、ヒュドラは動く様子も見せず、停止したままだった。

 そんなヒュドラを背に、リベラルは奥にあるゼニスの魔力結晶へと歩みながら、ゆっくりと右手を持ち上げる。

 

 

「――不治瑕北神流『八双(ハッソウ)』」

 

 

 パチンと、指を鳴らす。

 ヒュドラの体が、真っ二つに裂けた。

 

 再生する様子はない。これは、そういう技なのだから。不死であろうと、免れぬ死を与える奥義。

 リベラルは初代北神から、不治瑕北神流を教わってなどいない。だが、彼の技は幾度となく目にする機会があった。

 初代北神カールマン・ライバックは、魔龍王ラプラスと似た技を使っていたのだ。ラプラスも不死魔族を相手取る時、その不死性を無効化する魔術を使っていた。

 

 八大魔王への対処法として生み出された、魔龍王ラプラスの消滅魔術『八双』。

 一撃で屠ることを目的に生み出された、カールマンの不可逆の剣術『不治瑕北神流』。

 

 リベラルだからこそ、模倣することが出来た。不完全でオリジナルの不治瑕北神流だが、紛れもなく同じ領域であった。

 

 

――――

 

 

 ヒュドラが息絶えると同時に、魔力結晶は砕け、ゼニスは解放された。既に歩み寄っていたリベラルは、倒れる前に彼女の体を受け止める。

 

「スゥ……スゥ……」

 

 微かな呼吸音が、ゼニスの命を証明する。時期が変わろうとも彼女は死なず、けれど、結末が変わることもなく未来と同じであった。

 倒した魔石多頭竜(マナタイトヒュドラ)へと顔を向けることなく、ゼニスを背負う。そのまま、拾えるだけの宝を拾ったリベラルは、大きな息をひとつ吐いた。

 

(ゼニス様を、必ず元の状態に戻しましょう。それが、私に出来る償いです……)

 

 まだ確定はしていない。しかし、ゼニスはきっと知識を、記憶を、知恵を失った神子となってしまってるだろう。

 だから、リベラルはそれを治す。時間は掛かるだろうけれど、己の知識を用いれば治せる筈だ。

 

 彼女は静かに帰路へと付いた。




Q.ヒュドラに苦戦…してる?
A.してないですけど、ちょっとした手傷を負う程度の差。

Q.サレヤクト…?
A.最終幻想の4.5.6の召喚獣をイメージすると分かりやすいと思います。1回行動したら消えちゃうアレです。

Q.甲龍手刀。
A.甲龍手刀は元々龍神流の技なのではないかと考察してます。五龍将の技術は一度失伝したが、ラプラスが再生させて今に至る、みたいな。だから、龍神流は全ての技の始りではないかなぁと。三大流派以外の。

Q.八双。
A.オリ技。そもそも北神流とラプラスの技に関連性はない。ただ互いに不死キラー持ちなだけ。
北神流が物理的に不死を殺す概念斬りみたいなものならば、ラプラスの使った魔術は不死性ごと破壊するゴリ押し。しかし、魔神がバーディガーディに使えなかった(使わなかった?)ことを考えると、もしかしたら龍族にしか扱えないのかも知れない。

Q.吸魔石。
A.作中の説明通り、限界値があると考察。しかし、ルディが全力で魔術を放っても無効化されたことを考えると、神級に近い魔力量及び威力が必要なのかも知れない。
また、召喚されたものには効果無しと考察。吸魔石をザリフの義手に取り付けて誤作動なく使用していたことを考えると、魔力の吸収にも条件がある(つけられる)と思う。
もしもアルマンフィとかが消滅するならば、ルディはペルギウスの精霊たちを容易に全滅出来ることになる。ランドルフも全滅させることが出来る。と言うか、空中要塞が落ちる。
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