無職転生ールーデウス来たら本気だすー   作:つーふー

48 / 109
前回のあらすじ。

リベラル「転移の迷宮攻略するんやで」
多頭竜「なんか不死疵北神流の技で止め刺されたマナタイトヒュドラでーす」
ゼニス「魔結晶の中から救出されました」

暑すぎてからだが動きません。やらなきゃいけないこといっぱいあるのに…誰か助けてください()
今回はちょっと短くなりました。もうちょっと書こうかと思ったんですけど、そうすると文字数が余裕で万を超えそうだったので…。

※追記。むっちゃどうでもいいかも知れませんが、感想の返信に数ヶ月単位で遅れて返しても大丈夫かな?返信しても「いつのコメントに反応してんだ…」と思われそうで、ちょくちょく返信してないのがある……。


4話 『母親の在り方』

 

 

 

 転移事件が起きる前。まだリベラルがブエナ村にいた時の話だ。

 ゼニスはグレイラット家の中で、リベラルとの関わりが最も少ない人物だった。

 

 リベラルがグレイラット家に立ち寄っていたのは、主に食料のお裾分けとルーデウスの稽古をするためだ。お裾分けの際に対応していたのは基本的にリーリャであったし、稽古にしても外で行われることが多かった。

 ノルンとアイシャが生まれてからは関わる機会が増え始めたものの、その時もゼニスは診療所で働いていることが多かった。食事で同席した時も、やはり他の誰かと話すことが多かった。

 けれど、ゼニスはリベラルを信頼していたのだ。していなければ、リーリャと共にノルンとアイシャの世話なんてさせたりしないだろう。

 少なくとも、我が子を預けられる程度には信頼していた。

 

 コミュニケーションが少なかったからこそ、彼女のことを客観的に見ることが出来た。リベラルの自身に対する関わり方が、他の者と違うことに。

 別に避けられてる訳でもない。かといって会話がない訳でもない。

 

 ただ、ぎこちなかったのだ。

 どう接すれば良いのか分からぬ困惑が見て取れた。

 

「ねえリベラル。私気付いたのだけれど、貴女ってもしかして母親との接し方になれてない?」

 

 だから、何度か観察している内に気付けた。リベラルはきっと、自身の母親との繋がりが薄かったのだろう、と。

 故に、母親という立場である自分と、どのように関わればいいのか分からないのだ。

 

「…………そのように見えますか?」

 

 長い間を開けた後、リベラルはポツリとそう呟く。

 

「私にはそう見えるわね」

 

 ゼニスの言葉に彼女は顎に手を当て、やや上の方向を見た。その視線の先には特に何もないが、考える仕草であることは分かる。

 そのまましばらく経過するも、何かを言うわけでもなく、ずっと悩んでいたのでゼニスは口を開いた。

 

「そうねぇ……『ルディに対する私たちの態度』に対して求めてる態度で、差を感じたのよ」

「…………あぁ……なるほど。確かに、それを言われると弱りますね……」

 

 彼女の言葉に再度しばらくの間を空けた後、リベラルは納得する。

 リベラル自身、無意識だったのだろう。パウロとゼニスとの関わり方に差があったのは。

 

「パウロには『父親の偉大さをルーデウスだけでなく、私にも見せて下さいよ』なんて言ったみたいじゃない? 更には『我が子を導くのが、親ってものでしょう?』なんてことも言ったらしいわよね?」

「あー……はい、言いましたね……」

「もうっ! 私にはそんなこと言ってくれなかったのに! 私にもそんなカッコいいこと言って欲しかったわよ!」

「あ、はい。ごめんなさい」

 

 純粋に、ルーデウスに対してゼニスがどのように接することが良かったのかが分からなかった。だからこそ、リベラルは彼女に対し、ルーデウスのことをあまり話さなかったのだ。

 

 リベラルは父親(ラプラス)という理想像を知っていた。

 けれど、母親という理想像を知らない。

 

 故に、ルーデウスたちとの関わりを客観的に見たとき、そのことが浮き彫りとなったのだろう。

 

「そうですね……正直に言いますよ。私には母親が居ませんので、よく分からないんです」

 

 正確にいえば、リベラルとして転生する前にはいた。けれど、それももうずっと昔のことである。

 彼女が前世のことで覚えているのは、七星 静香のことと、そこであった出来事だけだ。

 それ以外の、静香が関わること以外の思い出は、最早ほとんど覚えていない。少なくとも、以前の家族との記憶は残ってなかった。

 

「もしも私に母親がいたとしたらどんな人だったのだろう、とか、どんな風にしてくれただろう、とか、あんまり考えたことはないですね」

 

 最も、それは考える余裕がなかったというのもある。小さい頃から毎日鍛練を要求されていたので、そのことで頭がいっぱいだった。

 もしも母親がいたとしたら、リベラルに優しくしてくれたかもしれないだろう。逆にラプラスと共に、厳しく接したかもしれない。

 今の自分自身を否定するつもりはないので、リベラルは別に母親が欲しかったと思うつもりはない。けれど、もう少し愛情を注いでくれる存在が欲しかったな、とは思わないでもなかった。

 

 しかし、所詮はたらればの話だ。今更そんなことを妄想したところで意味はない。

 

「んふふ」

「なんですか、急に変な笑い方をして……」

「ううん、ごめんなさいね。でも、リベラルちゃんのことが知れて良かったなーって思って」

 

 ニコニコと笑顔を見せるゼニスに、リベラルは小さくため息を溢す。

 

「別に、私に甘えてもいいのよ?」

「……私の年齢を考えて下さいよ。そんなことする訳ないじゃないですか」

 

 その発言に、呆れた表情を浮かべるリベラルだったが、不意にゼニスが動く。まるで寄り添うように自然と近寄った彼女は、そのままリベラルを抱擁した。

 突然のことに反応することも出来ず、リベラルは驚いた表情を浮かべる。

 

「ちょ、ちょっといきなり何ですか……?」

「んー? 何となく抱き締めて欲しそうにしてたからよ?」

「……あの、もうやめません?」

「もう恥ずかしがっちゃって! 可愛い反応するのね!」

「あぅ……」

 

 羞恥心から顔を赤くしたリベラルは、されるがままとなる。異性から劣情を抱かれたことはあれど、同性からこのような好意を抱かれたことはほとんどなかったのだ。つまり、慣れてなかった。

 どうすればいいのか分からずに固まった彼女だったが、結局解放されるまでの間、ずっと動くことなく受け入れることしか出来なかった。

 

「別に歳なんて関係ないわよ。誰だって人肌が恋しくなるときはあるのだもの」

「…………」

「ちょっと寂しくて甘えたくなっても、私は気にしないわよ?」

「…………ありがとうございます

 

 恥ずかしそうにポツリと呟いたリベラルに、ゼニスは微笑んだ。

 

「ふふっ、どういたしまして」

 

 だからこそ、なのだろう。

 パウロの要求を聞き入れ、ゼニスの救出に向かったのは。

 この長い年月の中で、リベラルは間違いなくルーデウスを含む周囲の人々に入れ込んでいた。

 

 その関わりはきっと、彼女に小さくない変化を与えていることだろう。

 

 

――――

 

 

「…………む」

 

 星空の明かりしかない真夜中、睡眠中だったリベラルは近くで気配がしたことにより、目をパチリと開ける。音のした方を見れば、ゼニスがふらふらと立ち上がっていた。

 別にどこかに行こうとしていた訳ではないが、それでも危ないと判断したリベラルは立ち上がり、彼女の側へと近付く。

 

「ゼニス様、魔物に襲われてもしもの可能性がありますので、この時間は中にいてもらえると助かります」

 

 リベラルが促した先にあるのは、アルマジロのような魔獣と、それが引く車だ。

 以前のノルンのように、成人であるゼニスを背負っていく訳にもいかず、かといってずっと歩いてもらうわけにもいかないので購入したもの。

 

 彼女の言葉に対してゼニスは特に反応を示さなかったが、そのまま車の中へと戻っていった。

 

「…………」

 

 そう、ゼニスは失っていた。知識を、記憶を、知恵を。救出の際にした予想通り、神子となっていたのだ。

 だからこそ、驚きはなかった。迷宮から帰還し、ゼニスが意識を取り戻す前から身体検査などを行い治療出来るか試みたものの、やはりそう簡単に治せるものではない。

 

 少なくとも、数十年単位は掛かるだろう。

 

「……パウロ様や、ご家族の方々に合わせる顔がありませんね」

 

 これから向かうのは、ミリス神聖国だ。そこでパウロやルーデウスたちと合流する手筈となっているが、当然ながらラトレイア家――ゼニスの実家にも寄る必要がある。

 変わり果てたゼニスの姿を見て、皆がどう思うかなんて言うまでもないだろう。ちゃんと報告しなければならない事実なだけに、気持ちが沈みゆく。

 ゼニスの母親であるクレアの説得もしなくてはならない。リベラル自身がミリス神聖国に腰を据える訳にもいかないので、そのことで揉める可能性も高いだろう。

 

 それに、ヒトガミの使徒に注意する必要もある。

 

 ここまで動いていれば、リベラルがグレイラット家に随分と肩入れしていることくらい分かるだろう。

 リベラルの生死に関係なく、ヒトガミから嫌がらせとして何かしらの妨害があっても不思議ではない。とはいえ、現れるであろう人物についての見当はついている。

 

「さて、どうするのが正解でしょうか……」

 

 ギース・ヌーカディア。

 オルステッドですら気付くことの出来なかった、最後の使徒。

 

 戦闘は不得意だが、それ以外のことは大抵出来るサル顔の男だ。パウロの仲間である元『黒狼の剣』のメンバー。彼が本気で逃走すれば、捕まえられる者などこの世に存在しないだろう。

 しかし、リベラルがその事実を知っていることを、この世界の誰も知らない。だからこそ、ギースを始末するのは容易だった。

 

(とはいえ、そのことを知られるのは避けたいです)

 

 流石に皆の前でギースを殺してしまえば、リベラルの信頼は地に墜ちるだろう。知られるのは不味い。

 特にルーデウスの信用を失うのは避けるべきことだ。事情を説明しても、納得してもらえるか分からなかった。

 

 しかし、ギースに関してひとつだけ引っ掛かることがあった。

 

(……ヒトガミを裏切ってくれれば解決なんですけどね)

 

 ヒトガミは、ルーデウスとロキシーが結ばれてしまうことを止めたかった。二人の子供が自身を殺しうる存在となるからだ。故に本来の歴史では、ゼニスの救援に行けば後悔するとルーデウスに告げた。

 ならば、何故その後にギースから救援の要請がきたのだろうか。彼が手紙を送らなければ、ルーデウスは家族の窮地を知る術がなかった。手紙がなければベガリット大陸へと向かうこともなかっただろう。

シルフィエットの出産も間近だったのだから。

 

 ならば何故手紙を送ったのか。

 考えられるとすれば、ギースが本当にゼニスを助けたかったから、だろう。

 

 思えば、彼はヒトガミの思惑とずれた行動を起こすことが多々あった。例えばルーデウスを聖獣と引き合わせたりと、純粋にルーデウスを喜ばせようとすることがあったりする。

 上手く説得すれば、ヒトガミから引き剥がせるのではないかという思いもあった。いくら恩があるにしても、自分のために働いた者を嘲笑うような奴の下になどいたくないだろう。

 だが、これはただの理想論に過ぎない。彼を放置した結果、窮地に陥ったりすれば笑えない話だ。基本的にギースが一人になる状況があれば、始末することとなるだろう。

 

(まあ、ミリス神聖国に現れなければどうしようもありませんけど……)

 

 そこでギースに関する思考を一度止め、リベラルは目を瞑る。先程まで睡眠中だったのだ。

 これ以上の考え事は、起きてからすることにした。

 

 

――――

 

 

 迷宮都市ラパンからミリス神聖国へと向かう旅路も、往路より時間が掛かった。ゼニスを運んでいるため、移動速度が大幅に遅くなったのだ。

 しかし、それは仕方のないことなので、時間に余裕のあるときにゼニスの容態を少しずつ診ていくことにしている。

 

「ゼニス様、気温が非常に高いですが大丈夫ですか? 冒険者だったとはいえ、それは昔の話ですから。無理は禁物ですよ?」

「…………」

 

 ときおり車からふらりと出ていき、リベラルと歩こうとする彼女へと気遣いながら、周囲の気温を弄って涼しくする。

 ゼニスは特に反応を示さなかったが、それでも言葉が届いていることを理解している。リベラルはゼニスへと極力話し掛けることにしていた。

 

 その過程で、リベラルはひとつ発見をしていた。

 

「……なるほど、大丈夫ですか。確かにまだ体力に余裕がありそうですもんね。ですが、私が辛そうだと判断すれば休んでもらいますからね?」

「…………」

 

 リベラルの言葉に対し、ゼニスは何も反応をしていない。けれど、それでもリベラルはゼニスの言いたいことが分かった。

 彼女は魔眼を開いていた。金色に煌めく瞳は銀緑となり、ゼニスを見据える。流れを読み解くその魔眼は、外見からは分からぬ内面のことまで見抜いていたのだ。

 だが、思考まで読めるわけではない。精々どういう反応を示したのかが分かる程度だ。

 しかし、コミュニケーションを取るという意味ではそれだけで十分である。

 

(自身の現状を正確に認識出来てないし、外界からの刺激に大した反応も見せられない。けれど、ゼニス様はしっかりと私の言葉を理解している。それに……)

 

 ゼニスの全身の魔力の流れを視れば、頭からの魔力の流れに明らかな異常が見て取れた。ここまで分かっていながら治せないなど、魔龍王の娘として許されない。

 人族の頭の中は繊細なので、治療は慎重に行う必要があるので時間は掛かるだろう。

 しかし――確実に治せるという確信が、リベラルにはあった。

 

「…………」

「ん? そうですか、やっぱり家族と会えるのは楽しみですか」

「…………」

 

 内面から見えるゼニスの感情を肯定したリベラルだったが、その表情は僅かに暗くなる。

 

「え? えーっと……まあ、私はちょっと皆様と会うのが怖いので」

「…………」

「何故って……言いにくいですし自分でも自覚出来てないでしょうが……今のゼニス様には魔結晶に閉じ込められた後遺症があります」

「…………」

「もう……自分では自覚出来てないって言ったじゃないですか。ですので、そのことを報告するのがちょっと辛くて……」

 

 特に、パウロに不安があった。

 ゼニスは魔結晶に閉じ込められていたので、誰が行こうと結末は変わらなかった。しかし、誰が行ったかで心境は変わるだろう。

 人間誰しも、やった後悔よりやらなかった後悔の方が大きくなる。そういうものだ。

 

「…………」

「ふふっ、ガツンと言ってくれるのですか? それは頼もしいですね。期待しちゃいますよ?」

 

 ゼニスに励まされ、リベラルは苦笑してしまう。後遺症を負ってしまった彼女の方が、よっぽど前向きである。

 例え気休めだとしても、ゼニスの反応はとてもありがたかったのだ。

 

「とにかく、ゼニス様の後遺症とやらは私が責任を持って治しますので、安心してください」

「…………」

 

 今のゼニスは、何もリアクションを見せてくれない。けれど、いつの日かまたブエナ村でのように、明るい彼女が見れるようになるだろう。

 

 

 そして数ヶ月後――リベラルはミリス神聖国に到着した。




Q.ギース。
A.何度か見返したのですが、やっぱりギースが救援求めたのはヒトガミの指示とちょっと違う気がするんですよね。もし私が間違ってるようであれば、他にも色々と善意で動いていた場面があったと思いますので、そちらで納得していただけると幸いです。

Q.ギース生存フラグ?
A.ギースがもしも寝返れば、ヒトガミは本格的にこの時代で出来ることがなくなりますね。というか、詰んでしまう気がする。まあ…原作見てたら寝返ってくれる気が全くしませんけど。

Q.ゼニス治るの?
A.リベラルは魔龍王の娘なので、呪いに関することはこの世界で頭抜けてます。時間は掛かるでしょうけど、きっと治るでしょう。

Q.ゼニスとコミュニケーション。
A.ララはゼニスとコミュニケーションを取れており、ミグルド族の念話だと通じるようです。また、ゼニスは人の思考を読む能力のお陰で、言葉にしなくても意図を汲み取ってくれます。なので、これを応用すれば……。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。