リベラル「ゼニスの治療時間掛かるけど出来るで?」
ゼニス(さすりべ!)
パウロ「俺なんもしてねーじゃん鬱だ死のう」
長らくお待たせしました……といってももうすぐ資格試験なんですけど(殴
相変わらずの亀更新なのに未だに見てくださってる皆さま、ありがとうございます。時間掛けすぎて何を書こうとしてたのか分からなくなって更新作業が全く進まなくなってるけど、書ききるって言ったからにはやるんだよ!!
日も既に暮れ、星の輝きが見えるようになった夜。喧騒とする酒場に、一人の少年が足を運んだ。
灰色のローブを身に包んだ彼は、この場に似つかわしくない歳であることもあり、周りからチラチラと視線が向けられる。
だが、それらを気にすることなく奥へと進んでいく。
やがて、角にあったそれなりの人数が座れるテーブルにいた人物たちを見付けると、少年はそちらへと足を進めた。
「あらルーデウス、一人で来ましたのね」
近付いてくる彼に気付いた女性――エリナリーゼが、気安く声を掛ける。それに対し、ルーデウスもまた軽く会釈を返す。
「こんばんは皆さん。ルイジェルドさんが“家族の問題だから口出しをするつもりはない”と言ってましたので、二人は宿にいると思いますよ」
そう言いつつ、彼はこの場にいる人物たちに目を向ける。
席に座っているのは、エリナリーゼ、タルハンド、ギース、リーリャの四人だ。何の集まりなのかと言えば、パウロがとても酷く落ち込んでるのでどうにかしましょう、という集まりである。
というのも、彼の家族が全員救出されたのだが、ゼニスが廃人のような容態になってることでパウロの心が折れてしまったからだ。
この場にいる皆もそうだが、ルーデウスも既にパウロとゼニスに会ってきた。しかし、想像よりも酷い状態だったため、何も言えずにそのまま帰ってきてしまったのだ。
「リベラルさんはいないのですか?」
「今はゼニスの容態を見ておる」
「顔色が少し悪かったような気もしましたけど、健康状態の管理がどうこう言ってましたし問題ないと思いますわ」
どうやらリベラルはこの場にいないようで、治療のための準備をしているらしい。
それならば邪魔をする訳にもいかないので、この場にいないのも仕方ないだろう。
「しっかしすげえよな? 話に聞いたけど、神子になった人間を元に戻せるなんて聞いたことねえよ」
「……わたくしも、確かにそれは信じられませんでしたわ」
「俺はリベラルとはまだ会ってねえけど、どんな感じの人なんだ?」
ギースの素朴な質問に、リーリャが答える。
「どんな感じ、と言われますと答え辛いですが、少なくとも私たちには優しくして下さってるお方です」
「ふぅん……まぁ今はいいか。実際に会えば分かるわな」
話が脇道に逸れたので、一度仕切り直す。今はパウロをどうするのかという話だ。
「それより、父様のことです。皆さんが会った時はどんな様子だったんですか?」
ルーデウスは頭が回らず、ろくに話すことが出来なかったが、長らくパーティーを組んでいた彼らの方がパウロも話しやすいだろう。
しかし、その場にいるものたちは、誰もが首を横に振る。
「大したことは言っておらん。気にするなと言ったくらいじゃな」
「私も似たようなものですわ。フィットア領の時のように励ましましたけど、効果なし、ですわね」
「俺なんて何か言う前に追い出されちまったよ。ひでぇ奴だな」
お手上げと言わんばかりに両手を上げるギース。詳細を聞くと、どうやらタイミングが悪かったらしい。
タルハンド、エリナリーゼと連続で面会していたようで、それを知らなかったギースは「今は放っておいてくれ」と突っぱねられたようだ。
「ま、後で上手く落ち着かせてやるよ」
やれやれと言わんばかりの様子であり、どうやら拒否されたことは気にしていなさそうな感じであった。
ギースのコミュニケーション能力の高さを知っているルーデウスとしても、彼がパウロを励ましてくれるのはとてもありがたい話である。
「それでルーデウス、パウロとは会ったのじゃろ? そっちはどうじゃった?」
「わたくしたちがパウロと話したのは少しだけれど……あれは駄目ですわね。完全に心が折れてましたわ」
二人の所感では、パウロからは覇気というものが一切感じられなかった。
投げ掛けた言葉に対し、「あぁ」や「そうだな……」と無気力に頷くだけ。そして最終的に、励ましに対しては全て否定的となる。
自らを卑下し、扱き下ろし、自分では何も出来ないと殻に閉じ籠ってしまっていた。
昔の彼からは全く持って想像も出来ない姿であった。痛々しいというよりも、哀れな姿。
今のパウロとなら、きっと彼らは喧嘩別れすることもなかったであろう。
ルーデウスもそれは同意見だったのだろう。肯定するように頷き、自分の率直な感想を告げる。
「僕もほとんど同じでした。何を話し掛けても空返事で、あまり言葉が届いてる様子じゃなかったです」
前世の記憶を持つルーデウスは、今のパウロの状態に近いことを体験したことがあるので、彼の気持ちは分かるのだ。
引きこもりとなってからしばらくして。ルーデウスは何度も思ったことがある。
“俺は本気を出していないだけだ。本気を出せば出来る”……と。
当然ながら、出来る訳がなかった。当たり前だ。大した学歴もなければ、何かの資格もない。ずっと家に引きこもってただけなのだから、知能も運動神経も何もかもが人並み以下だった。
それでも、出来る出来ると心の中で言い訳をしながら、結局何もしなかった。
何年、何十年とそんなバカなことを続けてきたが、流石に三十路辺りからいい加減に気付いた。今更頑張っても遅いと。頑張っても無駄だと。
代わりに、最低な言い訳を始めた。
――俺は悪くない。世界が悪いんだ。
自分の過去を棚に上げ、原因を周りのせいにした。
俺をボロカスにした不良が悪い。俺を助けなかった周りの奴らが悪い。俺を見下す家族が悪い。
あまりにも無意味な八つ当たり。けれど、分かっていても止められなかったのだ。
自分の弱さを直視出来なかったのだから。
きっとパウロも、似たような状態なのだろう。自分の弱さに苦しんでるのだ。
家族を誰一人として自分の力で助けることも出来ず、ゼニスすら治療に何十年と掛かる。
ルーデウスとは違うけれど、それでも近しい部分はあった。
(けど、パウロは違う。パウロは俺なんかよりもずっと凄い奴だ)
弱さを受け入れられなかったルーデウスと、弱さを嘆くパウロでは全く持って違う。
前世のルーデウスはずっと弱さから目を反らし、認めようとせず、結局変わることが出来なかった。それこそ――死ぬまで変わらなかった。
だが、パウロは違う。彼は自分の弱さを、情けなさを嘆き、そして“受け入れているから”苦しんでいるのだ。
正直、掛けるべき言葉は分からない。前世の自分は全ての言葉を無下にしていたのだから。
今でも、当時の自分に何を言えば変われたのかなんて分からない。むしろ、何を言っても変われなかったのではないか、とさえ思うのだ。
けれど、パウロは違う。
死ぬまで気付けなかったバカな己とは違うのだ。
彼は、父親だ。
守るべきものがあるのだ。
「もう一度、父様と話してみます」
ルーデウスは前世の知識――異世界の知識を有してるからこそ、上手く立ち回れている。それでも失敗だってしたし、思い通りにいかなかったことも多々ある。
もしも今の自分にそれらの知識がなければ、既にこの世に存在してなかったかも知れない。
「そう言ってくれるのはいいんだけどよ、行ったところで同じ問答の繰り返しにならねぇか?」
意気込むルーデウスに茶々を入れるかのように告げるギースだが、その疑問も最もだろう。
ルイジェルドがスペルド族であるため、渡航するのに莫大な資金が必要となったルーデウスたちは、この国で現在立ち往生となっていた。
幸か不幸か、ルーデウスとパウロはそれによって親子としての時間をそれなりに取ることが出来ていたのだ。
だが逆に言えば、パウロはルーデウスの現状を理解するのに十分過ぎる時間があったとも言える。
父親として何も出来てない無力感に苛まれてる彼に対し、優秀なルーデウスが励ましても逆効果ではないか、と。
「……正直に言うと、あまり何も考えてません」
「なら」
「でも、僕は父様の息子です」
ピシャリと言い切ったルーデウスに、ギースは閉口する。
「僕は皆さんより父様と過ごした時間が短いでしょう。何せ五歳の時にフィットア領に移って以来、手紙でのやり取りしかしてませんので」
ルーデウスは黒狼の牙が何年間活動していたのか知らないが、この中でパウロと一番関わってないのはきっと自分なのだろうと考えてる。パウロのことを一番知らないのはきっと自分なのだろう、と。
けれど、ふと頭を過ったのだ。
――俺はパウロに何か返すことが出来たか?
経済的なことは勿論、剣術はパウロから教わったし、わがままだってよく聞いてくれた。
恵まれた環境に、恵まれた生活。当たり前のように享受していた暮らしは、パウロがいたからこそ成り立っていた。
思い返せば、前世も含めて親孝行もしていない。
二度目の人生で思いは薄れていたが、パウロは父親でルーデウスの息子なのだ。
「でも、僕は……俺は、父様に感謝しています」
確かに短かったが、それでもブエナ村での暮らしは鮮明に思い返せる。
前世は恵まれた環境だった筈だったのに、自分の手で台無しにしてしまった。なのに、今生でも恵まれた生活を送れたのは、パウロがいたからだ。
やり直すチャンスを、彼は与えてくれた。
本が置いてあったから滞りなく魔術は扱えたし、魔力量も大きく増やせた。更にルーデウスのために
調子に乗る訳ではないが、今の自分の実力はこの世界でもそこそこ通用するだろう。けど、それもこの家族の一員となれたからこそだ。
ここまで旅をしてきたからこそハッキリと分かる。もしも自分が魔大陸のどこかで生まれていれば、死んでいた可能性もあっただろう。
だからこそ――苦しんでるパウロを支えたい。
「父様を助けたいんです」
息子としての想いをそこまで言われれば、誰も反論なんてするわけがなかった。
首をすくめたり、苦笑したりと反応は様々だが、誰もがルーデウスの気持ちを受け入れた。
「そこまで言うのでしたら、任せましたわ」
「倅にここまで言わせるパウロは幸せもんじゃな」
「ルーデウス様……私からもお願いします」
最後にギースはケラケラと笑い、
「失敗してもフォローは任せろよっ、と」
銀貨を1枚弾き渡した。
飛んできた硬貨をキャッチしたルーデウスがギースへと視線を向けると、彼は席から立ち上がり、いつの間にか出口へと背を向けている。
「何カッコつけてるんですの?」
演技懸かったキザったらしい仕草に、エリナリーゼが呆れた様子で呟く。
「へっ、ジンクスだよ」
笑いながら言った彼は、そのまま酒場から出て行った。
「相変わらずじゃの」
「全くですわ」
タルハンドとエリナリーゼのやれやれと言わんばかりの態度に、ルーデウスも苦笑を見せる。
共にこの地にまでやってきたからこそ、ある程度の人柄は理解してるので特に口には出さなかった。ふざけているように見えるが、ここまででかなりフォローされてきたのだ。
今回も見えないところで色々してくれるのではないかと期待していた。
「では、僕もそろそろ戻ります」
「なんじゃ、全然飲んどらんではないか」
「そうよルーデウス。ここには家族もいるのですのよ?」
エリナリーゼがチラリと視線を向ける先にはリーリャがいる。
確かに、ここではほとんど会話も交わしてなかったので、再び家族としての時間を過ごすのも悪くないだろう。
「分かりました。一度宿に戻って説明して来ますので、少し失礼しますね」
そうして、ルーデウスは退席した。
――――
酒場から立ち去ったギースは、夜道を一人で歩いていた。
ルーデウスに告げた通り、パウロを慰めて立ち直るように、何をしようか、と考えながら歩いていた。
酒場でも告げた通り、あそこまで沈みこんだパウロを見るのは初めてだった。冒険者としてそれなりの付き合いでもあり、仲間であったからこそ、本心からどうにかしたいと思っていた。
しかし、そこに近付く影があった。
「ギース様」
声を掛けられた彼は、立ち止まりそちらへと振り返る。
いつの間にかギースの側にいたリベラルは、銀緑の髪を仄かに反射させながら佇んでいた。
その瞳はエメラルドのような、銀緑色に輝いている。彼女は魔眼を開いていたのだ。
彼はその姿を見たとき、特に動揺も気負った様子も見せず、平然とした様子でそちらを見つめていた。
「初めまして、リベラルと申します。どうやらルーデウスがお世話になったようですので、挨拶に来ました」
「ん? おお、あんたがリベラルか!」
「こんな夜分に申し訳ございません」
「いいって、気にすんな!」
ギースもリベラルのことはある程度聞いていたのだろう。彼は歓迎した態度を見せる。
「そういえば、ゼニスの容態見てたからさっき酒場に来れなかったって聞いたけどよ、どうしたんだよ?」
「さっき終わったので酒場へ向かったのですが、その際に丁度ギース様が出てこられたので」
ある意味タイミングが良かったと言うべきか、酒場の中で唯一面識がないのがギースだ。実際に話し掛けるのは後日でも問題なかっただろう。
けれど、リベラルとしてはこの二人きりという状況は、とてもタイミングの良いことだった。
「ずいぶんと早く話終わったようですが、結局どうなったのですか?」
「落ち込んだパウロはルーデウスが励ますとよ」
「そうですか……それなら大丈夫かも知れませんね」
ふむ、と考える。別に元気になってくれるなら誰が関わってもいいのだが、やはりルーデウスとパウロは親子喧嘩をしないのだなと。
これからするのかも知れないが、それに関しては深く首を突っ込む必要もないだろう。
それよりも、今は目の前の男に関してだった。
今のところ、魔眼で確認していてもギースに不審な点は見受けられない。リベラルと出会って動揺してる様子もない。
彼女のことをどれだけ聞いているのか、はたまた何も聞いてないのかも判断出来ずにいた。
ならば、少し突っ込んだ質問をしてみようかと考える。
「話は逸れますが――ギース様はヒトガミ、という言葉を聞いたことがありますか?」
今のリベラルは、魔眼を開いている。流れを読み解く彼女の瞳は、偽りを許さない。
ギースがヒトガミと関わりのある使徒であるのならば、外面上では関係を誤魔化せても内面まで騙すのは不可能だ。必ず反応を見せる。
ヒトガミとの関係の裏付けさえ取れれば、このまま彼を始末しようと考えていた。都合のいいことに、この場所は人気も少な目だ。
誰にも気付かれず、証拠もなく実行するには最高のタイミングである。
じっと返事を待つ彼女であったが、ギースは何てことのないように口を開いた。
「いきなり何だ? ヒトガミ? なんだそりゃ?」
――反応がない……?
不思議そうな表情を見せるギースだったが、その仕草が本当であることを魔眼ごしに理解出来た。
魔大陸でも、別地域からキシリカの魔力を探り当てることが出来るほどの精度を持った魔眼だ。対面した状態で見間違えるわけがない。
実際、剣の聖地でもパウロの動揺を一瞬で見抜くことが出来ていた。
即ち、ギースは本当にヒトガミという言葉を聞いたことがないのだ。
「……いえ、知らないのなら大丈夫です。いきなり申し訳ございません」
どうなっているのだと、リベラルは僅かに混乱する。
一応ながら、彼の故郷であるヌカ族の住み処は滅んでいることは確認している。流石にギースが最後の生き残りであるかの裏付けまでは取れてないが、それでもリベラルの知る限りヌカ族は彼しか知らない。
純粋にヒトガミが名乗ってないだけなのか、それとも本当にこの世界では関わりがないのか。
今はまだ断定出来ないだろう。しかし――。
「っ……」
一瞬、彼女はふらつく。
「おいおい、顔真っ青だけど大丈夫かよ?」
彼の言うように、リベラルは顔を青くしながら冷や汗もびっしょりとかいている。
誰がどう見ても平気そうな様子には見えなかった。
「ああ、すいません。少し魔眼を使いすぎたようです…」
リベラルの眼は、全ての流れを読み解く瞳だ。多大な情報量を取り込むため、延々と使える訳ではない。
しかし、ここ数ヶ月はゼニスのために高頻度で長時間使っている状態であった。そのため、最近の彼女は不調気味となっていた。
「少し休めば平気です」
「ならいいんだけどよ……」
ふーっ、と深呼吸をしたリベラルは魔眼を閉じ、そのまま壁にもたれる。
「引き留めてすいませんでした。もしヒトガミ、と名乗る存在が夢の中で現れても、話は聞かないようにしてください」
「お、おう。分かったよ」
「もし関わりがあるようでしたら、それは私の敵となります。くれぐれも、関わり合わないようにしてください」
まだ断定する訳にいかないだろうが、ギースがヒトガミと関わっていないのであれば、それは喜ばしい話なのだ。
リベラルとしても、態々エリナリーゼやパウロの仲間を殺したい訳でもない。むしろ、仲間であれば頼もしいとまで言える。
とりあえず、今は様子見でもいいだろう。
「本当に大丈夫かよ? 必要なら水でも持ってくるぜ?」
「……大丈夫です。少し休憩したら戻りますので」
「ならいいけどよ……」
未だ壁にもたれるリベラルを見かねてギースがそのように尋ねるも、彼女は静かに断った。
気を付けろよ、と口にして立ち去る彼の後ろ姿を眺めながら、これからのことをリベラルは考える。
ひとまず、パウロやゼニスのことを先に解決しても問題ないだろう。
パウロに関してはルーデウスがどうにかするようだが、リベラルも少し声を掛けるくらいはしておくべきだろう。
「ふぅ……問題は山積みですね」
しばらく休憩したリベラルは、その場を後にした。
Q.魔眼の副作用。
A.冷静に考えたら脳みそのキャパ超えてますよね。むしろ冷や汗とか顔色悪くなるだけなのはヤバい…。
Q.ルーデウスたち出航出来てないん?
A.ルイジェルドがガッシュと会えてない&港町ウェストポートでテレーズと会えてない状況だった。立ち往生していたが、リベラルがゼニスを救出した話を聞いて戻ってきた。
更新がんばるんば